第6話『仮面男の正体!?』


唯人は闇の中にいた。
右も左も、何も見えない完全な闇。
やがて遠くから足音が聞こえてきた。
音が近づくにつれて徐々にその音の主の姿が晴れてくる。
「お前は……一体何なんだ。」
唯人は彼――仮面の男に問いかけた。
もちろん期待した答えが返ってくるとは思えなかった。だが、男が口にしたのはそれ以上に唯人の想像を超えた一言。
「愛してる。」
何を言っているんだ。自分は男で……雅のこともあるし……。
しかし訳の分からない感情が沸き起こってくるのを唯人は抑えることができない。
「心配しなくていい。君はすぐに完全な女の子になれる。」
「なっ……!?」
思わず漏れた自分の声は女のものだった。そんな、いつの間に変身してたんだ?
男の顔が近づいてくる。唯人は金縛りにあったように動けない。
ついに男の左手が唯人の肩に触れる。そして男は仮面に右手を掛け――そこで唯人は目を覚ました。

「椎名君、大丈夫?」
「うん……。」
ある日の放課後。このごろ雅ともよく話すようになってきたというのに、唯人の心は沈んでいく一方だ。
これ以下は無いだろうと思っていても、次から次へと憂鬱の原因が増えていく。例えば今朝の夢のように。
「今日一緒に帰らない?」
そんな気分ではないのだが、雅の心配そうな顔を見ると断るに断れなかった。

早足で歩く唯人。ついていくのがやっとな雅に気付かないふりをする。
「……ねえ。」
「ん?」
「……ううん、なんでもない。」
なんとか唯人に話しかけようとする雅だが、雰囲気に負けてしまう。
そんなことが何度かあって、そのうち二人は人通りの無い小道へ差し掛かった。
その中ごろで、ついに二人の足が止まった。
「痛っ。」
「えっ、何?」
唯人は道の途中の何も無いところで何かにぶつかったのだ。
壁のパントマイム。反対側から見るとそう見えただろう。しかし本当に目に見えない壁がそこにあることが手探りで分かった。
「こっちはダメだ。」
「え?」
急いで引き返そうとするが遅かった。唯人の顔はまたもや見えない壁に叩きつけられた。
「閉じ込められた!」
いつの間にか壁は左右にも存在していた。手を上に伸ばすとそこにもまた同じ感触。
どうしたものかと考えていると、上空から白いUFOのような生き物が現れた。
敵の魔物に違いない。しかし今変身するのは……いや、そうも言ってられないか。
「海瀬、俺がいいって言うまで目つぶっててくれないか。」
「え……う、うん。」
雅が手で顔を覆ったのを確認すると、唯人はステッキを取り出し祈りをささげた。
変身後、いろいろ試してみたが、どうやらこの壁は魔法も通さないようだ。
それでは逆に向こうも攻撃できないのではと思ったのだがどうやらそうではないらしい。
魔物はビームを撃ってきた。それは壁を貫通して唯人たちのいる空間に入ってくる。
慌てて避けるとビームは壁を反射して路面を焦がした。要するに入ることはできても出ることはできないようだ。
だがそれと同時に唯人には突破口が見えた。
下だ。地面にはバリアが張られていない。
地面にパワーをこめると壁の向こうのアスファルトが噴火して魔物を襲った。
バリアが消えたのを感じる。しかしまだだ。止めを刺しに魔物の元へ駆け寄る。
きっと弱点はビームを出すときに現れる核だ。
唯人が構えを取る。すると魔物は……消えた。
後ろを振り返ると、今にも雅が襲われようとしているところだった。魔物は瞬間移動の能力も持っていたようだ。
「海瀬っ!」
思わず叫んでダッシュ。すんでのところで雅を抱きかかえビームを避けた。
「大丈夫か?」
雅は口を開こうか止めようか迷っているようだった。
とりあえず今は魔物のことだ。魔物はビームを出す体勢に入っている。
唯人は狙いをつけて水弾を核に撃ち込んだ。もう慣れたものだ。予想通り魔物は弱点を突かれて消滅した。
「終わったよ。」
雅はまだ不審がっているようだったが、すぐに不安げに声を出した。
「ユイ……さん?」
その言葉を聞いて初めて唯人は雅が何を考えているのかに気付いた。
バレたかもしれない。そう思うと一気に恐怖が襲ってきた。
「ごめん!」
唯人はただそこから逃げ出すことしかできなかった。

それから数日。
「唯人、今日も学校行かないつもり?」
「ん……。」
唯人は逃げ続けていた。このままじゃいけないとは思っていても、ちゃんと向き合うことができない。
やる気の無いベッドの上の唯人に、つかさは服を投げつけた。
「外に出て、気分転換でもしなさい。」
「でも……。」
「提案じゃなくて、命令よ。」
唯人は返事もせず、溜息を吐いて着替えを始めた。

久しぶりの朝日がまぶしい。唯人は当ても無く歩き始めた。
「しかしこんな朝っぱらから追い出されても行く所無いよなぁ。」
「あぅーん。」
「ああ、そういやお前がいるからどっちみち建物は入れないか。」
「はふはふ。」
尻尾を振って存在を主張する同行者。唯人は続ける。
「姉ちゃん昼に帰ってくるって言ってたけど、それまで鍵無いから帰れないしな。」
そこで初めてジュニアのほうを向いて問いかける。
「なあ、お前どこに行きたい?」
「わんっ!」

なるべく学校とは逆方向を目指していたら、川原に辿り着いた。
はしゃぐジュニア。川岸に寄り添って水を飲み始めた。
しばらくその様子を見ていた唯人だが、川の中に不思議な光を目撃する。
そして直後、そこから唯人めがけて水が飛んできたのだ。
新手の魔物だろうか。唯人は変身を済ませると、ジュニアを置いて光を追って上流に走り出した。

どれだけ上ってきたのか。だが光は一向に本性を現さない。
もうちょっと、と思っていると光はふっと消えてしまった。唯人の勘違いだったのだろうか。
その時、後ろから声がした。
「我々の仲間にならないか。」
もはや見慣れた仮面姿がそこにあった。
「……お前の目的はなんなんだ?」
「ボスは、この辺り一帯を魔物に明け渡せば、不老不死の魔族となれる契約を交わした。」
どうやら男には上司がいたらしい。
だが唯人はそれよりも、そんなことに加担している男を許せない。あれだけ唯人を悩ませていた情は、きれいさっぱり吹き飛んだ。
「君が仲間になってくれればもう怖いものは無い。さあ、どうだ。」
「断るに、決まってんだろうがっ!」
唯人が叫んだ瞬間、男の後ろから植物のつるが飛んできて男を叩き付け、男から何かを弾き飛ばした。
「くっ、卑怯な!」
「悪者相手に手を選んでやる必要なんて無いね。」
唯人は男に近づいてさらに攻撃を重ねようとして……手を止めた。
「お前は……!」
先ほど男から弾き飛んだのは仮面であった。唯人はその中身を見てしまったのだ。
隣のクラスの神野。それが奴の正体だった。
唯人が呆然としているうちに神野は仮面を拾い、逃げてしまった。
彼は優等生で通っている。その彼がなぜ? 唯人はしばらくその場で立ち尽くしていた。

午後になって、唯人の元に訪問者があった。
つかさに連れられて部屋まで来たその訪問者は、唯人を見るなり掴みかかってきた。
「おい、お前雅に何したんだよ!」
何も言わない唯人に訪問者、順平の怒りは膨れ上がっているようだ。それを見てすかさずつかさが順平をなだめる。
「……雅から伝言だ。自分は何も気にしてないから学校来い、ってさ。」
唯人はやっぱり何も言わずに、しかししっかりと首を縦に振った。

元レス
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1220262396/239-242
最終レス投稿日時
2009/01/30 01:27:32

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最終更新:2009年02月19日 17:57