H・G・ウェルズ
(Herbert George Wells)
(1866~1946)

略歴

 フランスのジュール・ベルヌと共に、「SFの父」と呼ばれる作家。イギリスのケント州ブロムリーに生まれる。科学師範学校に奨学金で進み、トマス・ヘンリー・ハクスリー(孫のオルダス・ハクスリーは作家)に生物学を学ぶ。そこの学生誌に寄稿したものが後期の作品の原点となった。教職を経てジャーナリストになり、作家となる。後プラトンの『国家』を読んで社会主義に傾倒するとフェビアン協会に参加する。世界平和や人権問題、糖尿病患者協会の設立など社会問題に積極的に関わった。

作品

 SFの元祖として現在でも広く読まれ、親しまれているが、その一方で文学として扱われることは少ない。しかしながらウェルズの作品は荒唐無稽な読物ではなく、現在の世界、及び未来世界への深い憂慮が込められている。
 初期の作品はいわゆるSF小説である。『タイム・マシン(The Time Machine,1896)では過去や未来へと自由に行き来できる機械を登場させることで未来の姿を暗示して見せた。『モロー博士の島(The Island of Dr. Moreau,1896)では動物実験によって動物から人を作り出すモロー博士を登場させ、人間の中に潜む獣性を垣間見せた。『透明人間(The Invisible Man,1897)では道徳的意志の欠如による悲劇を描いた。『宇宙戦争(The War of the Worlds,1898)は最も有名な作品の一つであるが、他民族に対して破壊と殺戮を繰り返してきた欧州人に対する文明批判が込められている。『月世界最初の人間(The First Men in the Moon,1901)は月世界旅行を扱ったSF小説であり、ディストピア文学の側面も持っている。『神々の糧(The Food of the Gods,1904)は合成食品による生物の巨大化を描く。
 中期以降はより文学的傾向の強い作品を送り出した。少年時代の彼自身を思わせる主人公が登場する『キップス(Kipps,1905)は短いながらも評価が高い。上流階級の俗物性と虚飾を描いた社会小説である。『現代のユートピア(A Modern Utopia,1905)は彼独自の社会改造案を小説の形で発表したものである。自伝的傾向の強い『トーノ・バンゲイ(Tono-Bungay,1909)はインチキ強精剤「トーノ・バンゲイ」によって成り上がる男の姿を描いて、資本主義社会の矛盾を暴露した『解放された世界(The World Set Free,1914)では世界戦争の驚異と、核兵器による世界の崩壊、そして再生を予見した。『ブリントリング氏の洞察(Mr. Britling Sees it Through,1916)は絶望した社会思想家がそこから一歩進んで楽天的未来観を得るようになる家庭を描いた。『ウィリアム・クリッソールドの世界(The World of William Clissold,1926)は全三巻に及ぶ長大なもので、人間の社会、経済、歴史、性、宗教などの考察がこの世界にどのような影響を与えるのかという問題を扱った。そして『未来の姿(The Shape of Things to Come,1932)によって、第一次大戦から第二次大戦、そして戦後の世界国家の再組織、2016年には進んだ科学による合理的な施設によって人類全てが幸福になるという未来の社会像を空想した。






最終更新:2009年05月12日 15:47