トバイアス・スモレット
(Tobias George Smollet)
(1721~1771)

略歴

 スコットランドの判事の家に生まれる。グラスゴー大学で医学を学ぶが、文学的野心からロンドンに出るも、なかなか文壇に入り込めなかった。軍船に従軍医として乗り込み、西インド諸島でスペイン軍と戦ったり、ジャマイカでは現地の女性を妻に娶ったりと、波乱に満ちた生涯を送った。けして主流とはなり得なかったものの、この頃には彼の書くような、面白い読み物を求める需要が増えつつあり、後にディケンズサッカレーなどにも影響を与えた。また作家としてだけでなく、編集者・批評家としても活躍し、コロンブス、バスコ・ダ・ガマ、ドレークなどの探検記や旅行記をまとめた『世界の旅行記(A Compendium of Authentic and Entertaining Voyages)が知られている。

作品

 その小説は自らの体験を生かした、旅や冒険を題材としたもので、その主人公は排除され冷遇されながらも、要領よく渡り歩いて周囲に一泡吹かせるという、悪いヤツなのだがどことなく憎めない小悪党で、ピカレスク小説の伝統に近いものであった。彼の代表作である『ロデリック・ランダムの冒険(The Adventures of Roderick Random,1748)は、ル・サージュの『ジル・ブラス』(Gil Blas,1715-1735)から着想を得て書かれたものだ。主人公はひどく要領のよい英国海軍の軍医助手。冒険と恋の物語は、スモレット自らの経験を基に書かれた。
 しかし彼の代表作はやはり『ハンフリー・クリンカー(The Expedition of Humphry Clinker,1771)だろう。この物語はピカレスク小説の枠を越えている。物語は1家族を中心とした5人の男女の旅が、それぞれの書簡によって綴られるというもので、一種の書簡体小説ではあるがリチャードソンのそれとは全く趣を異にし、その内容には深刻な事柄についての考察や反省などといったものは一切ない。独特のユーモアで読者を楽しませた。







最終更新:2008年03月03日 00:16