届かざる歌


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『届かざる歌<わかれのくちづけ>』






「嗚呼、嬉しい、やっと会えた……
ねえお願い、もう、どこにも行かないで……」



冷たい夜が明けたあの朝
貴方は私の元を去った
嘆きに沈む日々 憂いに濡れる日々
忘れる事など出来ない 貴方を失った私に 何の価値も無いのだから



(幾度と無く繰り返される朝と夜。永く苦しい時が過ぎ、彼女は前を向く)



嗚呼 貴方のいない夜
嗚呼 貴方のいない朝
嗚呼 辛く苦しい時の波
けれど私は 顔を上げた



「もう悲しむのは止めにしよう。いずれ帰ってくる、あの人の為にも」



畑を耕す朝 心を励ます夜
目に焼き付く紅 胸に染み入る蒼
Alcott(過去)を捨て 新たに刻んだArkwright(名)の元に いつでも貴方が帰れる様に
幾度目かの夜明け 新しい地平を見た



「嗚呼、帰ってきたのねRandolph! 嬉しい……もう絶対に離れないわ」



広がる蒼 煌く銀 待ち望んだ空
広がる緑 息吹く緑 憧れた大地
眠る貴方 見つめる私 夢に見た夜
二人が一つでいられる夜 私は彼の為に耕した



「ねぇRandolph、想像できる? 今耕しているこの畑一面に実る野菜を、果実を……ふふっ、私、とても幸せよ」



(閑かな世界、土を掻く音。
冷たい空気、火照った頬。
笑う女、眠る恋人。
二人の世界、相反する色。
嗚呼、もうすぐ夜が明ける。女は、振るう鍬を握る手に、より強い力を込めた……)



「ねえ、Randolph」
「私、ずっと貴方と一緒にいたいわ」
「良いでしょう?」
「Randolphのいない世界は、とても辛かったわ」
「でも今、貴方はここにこうして存在し(生き)ている」
「嬉しい。本当に、嬉しいわRandolph」
「さあ、もうじき夜が明けるわ」



(希望を孕みし絶望の福音が鳴り響く朝。紅の明星。
女は、昇り来る朝日に背を向けて立っていた。
柔らかい土に膝を付き、横たわる恋人に口付けをした。
薄れ行く蒼い満月に見守られる中での、永い口付け。
やがて二つの地平が入れ替わる。女は、そっと男の眠る寝台に、土をかけた――)