無色の領域

~無色の領域~



<その扉は特殊。入る事は容易、出る事は不可能。>



<自らを含まぬ世界への憧憬、其処に入り込んだ愉悦。
そんな物は泡沫の幻想、直ぐに現実を見ざるを得ない。>




二人は望んだ、元のセカイを。
されど時は戻らない。
それは、絶対の真理。



そう、其の場所を除けば。



<其処は単なる、境界のセカイ。 そもそも人間に内在するセカイ。
セカイで在ってセカイに在らざる分類不能の領域(Region).
同時に、紅と蒼が共存する唯一の領域(Region).
そう、其処は、極彩の領域(Region)>



故に、二人は望んだ、其の場所を。



(ノイズボイス)
―――オルレアン大量殺人事件の被疑者、Chloe=de=Morteclat(シュロー=ド=モーエクラ)、スラムの路地裏にて確保。
―――オルレアン放火殺人事件の被疑者、Hugo=Crusombre(ユーゴ=クリュソンブル)、郊外の宿にて確保。
―――事件から三年経過した今になっても、両被疑者は目を醒ましていない。



<二人を失えど、そのセカイは在り続ける。
つまりその場所は意識の配下ではなく、実質的な領域。
二色より成るその場所は、有限にして明瞭、無限にして暗澹。
総てに包摂され、そこは廻り続ける。>



<紅と蒼の境界上、二人の名は「境界の住人(Residents d'un reve)」>



極彩のセカイの中、[少女(fille)/少年(garcon)]は歩く。
ただ闇雲に[紅(matin)/蒼(nuit)]を求め、巡りゆく。
<如何に廻るセカイとは謂え、その軸は決して動かない。
故に境界は静止(Tranquillite)、其処で動くのは、唯、自我という幻想>
[「嗚呼、私のセカイは何処なの?」/「嗚呼、俺のセカイは何処だ?」]
求め巡るとは言え、そこは狭い境界(セカイ)
自らの識るRegionしか在り得なく、辿る場所などすぐに尽き果てた。
そして、遂に[fille/garcon]は歩みを止め、術無きを悟って膝を着いた。
<如何に清廉なセカイと謂え、動かぬモノは必ず廃れる。
故に境界は腐敗(Decomposition)、其処に在るのは、唯、無慈悲な現実>
[「嗚呼、蒼なんて望んではいけなかったんだ。」/「嗚呼、紅などに近づくべきではなかった。」]
極彩のセカイに呑まれてゆく意識。
意識と共に消えてゆく夢(Reve.)
極彩は色を失い、その場所は変貌した。
<現実で見る幻想を夢(Reve)と謂うならば、夢(Reve)で見る幻想を何と謂うことが出来るだろうか。
現実と答えるは愚考、別の夢(Reve)と答えるも、また愚考。
恐らく其処は無色の領域(Region)>



「恐ろしい!(Affreux!)」
少女は震え、嘆き、疲れ果てて眠りに就いた。
「詰らない!(Fatigant!)」
少年は勇み、嘆き、耐え切れず刃を立てた。



(ノイズボイス)
―――オルレアン大量変死事件の両被疑者、Hugo=Crusombre及びChloe=de=Morteclat、収容先の病院にて死亡。
――― 死因は不明、外傷はなく薬物反応も無し。検死の結果、突発的な心停止に依ると判断。



―――事件から丁度六年、被疑者二名の死亡により、事件の真相は永遠に消滅した。



<主を失えど、そのRegionは在り続ける。
つまりそこは意識の配下ではなく、本来的な領域。
色なきその場所は、永久にして過激、短絡にして安寧。
総てを包摂し、そこは停まり続ける。>



<最奥の領域、彼等の名は「無色の住人(Residents d'un Rien)」>



「「「嗚呼、此処こそが、理想郷(Shangri-La)」」」」(老若男女の声を被せて)

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最終更新:2007年08月27日 23:27