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**笑顔のゲンキ ◆0RbUzIT0To (登録タグ) [[パロロワ]] [[ニコニコ動画バトルロワイアル]] [[第165話]] ---- TAS一行を辛くも退けた亜美達は、どうにか再び城へと帰還を果たせた。 しかし、それはあくまでもどうにかというレベルであって無事安全にとは言い難い。 亜美は足と左腕に大きな火傷を作ってしまい、日吉も生きているのが不思議とも言える程の怪我を負ってしまった。 だが、それでも命があっただけマシという他無い。 むしろあのイチローを屠ったTASを相手にし、生き延びる事が出来ただけでも奇跡と言っていいだろう。 「ふぅん……とはいえ、今この状況で敵に襲われてはひとたまりもないがな」 主戦力である日吉に、身体能力の上がっている亜美が負傷してしまったのだ。 自分達四人の戦力は大幅に減退したと見ていい。 無論、海馬自身もゴッドカイバーマンとなる事で戦う事は出来るし、やよいにもことのはやオクタンなどというポケモンがいる。 そう易々とはやられなどしないつもりだが、それでもこの被害は大きい。 「早々に霊夢達に帰ってきてもらわねばならんな。  ……この際、あのカスでも構わんが」 「そういえばKASさんは今頃どこにいるんでしょうね? ……怪我とかしてないでしょうか?」 脳裏にふと過ぎるのは、バグを探すなどと豪語していたカス。 やよいも彼を思い出し、その安否を気遣う。 「そのカスってのは……あのTASと相打ちしたって例の馬鹿の事か?」 「拳を交えて痛み分けとなった……少なくとも、あのTASと同程度の力を有していると見ていいだろう」 「ひょえ~、凄いんだねそのKASって兄(c)」 海馬の言葉に、手当てを受けていた日吉と亜美は絶句する。 それも当然といえば当然、二人はあのTASと戦って相手の実力を知っているのである。 そのTASと同程度の力を持つものが存在するというのならば驚くのも無理からぬ事だ。 だが……海馬だけは少しばかり眉間に皺を寄せて考え込む。 「同程度の力を有しているからこそ、問題だ。  奴もそこまで馬鹿とは思いたくはないが、仮に敵に上手く騙されて俺達に矛を向けてみろ。  ……一気に形成は不利となる」 「でもでも、KASさんも私達と一緒に戦おうって約束したじゃないですか。  私達に攻撃してくるなんてあり得ないですよ!」 「ふぅん……だが、奴は絵に描いたような単純な男だ。 万一という可能性は否定出来ん。  故に、早々に俺達と合流して行動を共にしたいのだがな……」 「もー、兄(c)ったら難しく考えすぎなんだよ!  強い人で、味方で、しかもバグ……えっと、色々探してくれてる人なんでしょ?  だったら凄く心強い味方、でいいじゃん」 「そう短絡的に物事を考えていては為せる大事も為せはしない。  常に最悪のケースを想定しておかねばな……よし、手当ては出来たぞ」 足に巻いていたシーツを蝶々結びにして仕上げると、海馬は亜美に告げる。 亜美は海馬の吐いた台詞に少しばかり不満の色を募らせていたものの、素直に礼の言葉を述べた。 海馬に勧められ、試しに立ってみる……やはり足の感覚は不安だが、立てない事はない。 歩くのも、少し不自然にはなるが可能だ。 恐らく、無理をすれば走る事だって出来るだろう。 「でも無理しちゃ駄目だよ亜美。 あくまで応急処置なんだから、病院に行くまで走り回ったりしない事!」 「ほーい、了解。 でも兄(c)ってば凄いね、もう歩くのも辛いって思ってたのに全然平気だよ!」 「ふぅん、当然だ」 亜美の言葉に海馬も笑みを浮かべて自身の処置の腕を自画自賛する。 だが、二人は恐らく気付いていないのだろう。 その傷の治りが早かったのは、ただ海馬の処置が完璧であっただけにしては早すぎる事に。 僅かながら、その腕にしているホーリーリングが傷の治癒に一役買っているという事に。 「そんじゃーやよいっち、ピヨくんの手当ては亜美が引き継ぐよん」 完全復活、元気全開、ファイト一発。 火傷の応急処置が完了して調子を戻した亜美はやよいの横に座り込み、日吉の手当てをしようと勝手に取り掛かる。 やよいもはじめは亜美にしばらくじっとしているように言ったのだが、亜美は決して引かない。 曰く、亜美は医者の娘なのだから応急処置はやよいよりも慣れているだとか。 曰く、ピヨくんの怪我を治すのは亜美だと帰ってくる時に約束をしていただとか。 曰く、さっきもピヨくんを治したのは亜美なのだから今度も亜美が治すのが道理だとか。 理由は様々だったが――とどのつまり、亜美はじっとしているのがその性分に合わないのだった。 ただじっとして傷の療養に専念するよりも、何かをしている方が数段楽。 何かと口が達者な亜美に口論で勝てるはずもなく、やよいはすごすごと引き下がる。 「うぅ~、お仕事取られちゃいました……」 触る度に悲鳴を上げる日吉を面白おかしそうに笑いながらも、的確な処置を施していく亜美。 やよいより上手に手当てをするその姿を見ては、文句も言えはしない。 ……とはいえ、戦えない自分が折角少しでも役に立てそうな場面だったのに、とやよいはしょげる。 「……ならばやよい、ことのはの様子を見てきてくれんか?」 「え? ことのはさんですか?」 「流石にしばらくTASの襲撃は無いと思うが、他の者が城に向かってくるかもしれん。  一応ことのはが見張ってはいるが、奴は歩くのも遅く言葉も片言しか話せないからして、発見してから我々に教えるまでに少々時間がかかりすぎるのが難点だ。  故に、お前にも見張りを任せたいのだが……出来るか?」 「うっうー! はい、それくらいなら私にも出来そうですぅ!」 「そうか! ならば行け、やよい!!」 「はい! 行ってきます、お兄ちゃん! 任せてください!!」 そう言い、海馬が指差した方向へ向けてやよい笑顔で駆けてゆく。 生来、やよいは働き者である。 アイドルとしてデビューする以前は事務所の掃除を一生懸命していたし、デビューしてからも決して驕る事なく舞台に立ち続けた。 それは家に帰ってからも同じで、何かと忙しい両親の代わりに進んで兄弟の世話も見ている。 13歳といえば遊びたい盛りだというのに、仕事に家庭にととにかく自分から進んで働いていたのである。 要領がいいとは言い難いが、それでもやよいは一生懸命に働いていた。 だからこそ、誰かの役に立ちたい――誰かの為に働きたいという思いも人一倍強いものであった。 それが兄や友達の為ともなれば、尚のこと。 「あっ、ことのはさん!」 先ほどまでいた部屋から走ってほんの数十秒、ことのはが窓から外を見下ろしているのが視界に入った。 ことのははやよいの声が聞こえると振り返ったが、ものの数秒でまた瞳を外へと向ける。 やよいはその隣に立って、ことのはへと顔を向ける。 「お手伝いしに来ました、一緒に見張り頑張りましょう!」 その言葉に今度はことのはも首を縦に動かし、同意の意思を伝える。 それを見てやよいは再び笑みを浮かべ、ことのはと同じく外へと視線を動かした。 「…………」 「…………」 日はとっくの昔に暮れており、月の灯りだけが頼りだった。 外は無音で、殺風景で、見ているだけで異様に不安を駆り立てられる。 そんな外を見ていた時間は……十分だったろうか、二十分だったろうか。 はじめは見張りを頑張る!と意気込んでいたやよいだったが、妙に瞼が重く眠くなってきた。 この代わり映えのしない風景を見ていれば、仕方の無い事かもしれない。 ……端的に言えば、やよいは少しばかり見張りという仕事に飽き始めていた。 「うぅ~……でも、私に出来るのってこれくらいだし……頑張らないと!」 頬を抓り、眠気を吹き飛ばそうと必死に歯を食いしばる。だが、やはり瞼は重い。 考えてみれば、もうすぐ丸一日が経過しようというのに殆ど睡眠を取っていない。 おまけに何かと走ったり動いたりで心身ともに疲れている。 瞼が重たいのも当然といえるだろう。 「うぅ~……でもでも……ちゃんとお仕事しないと……」 せめて、身体を動かしていれば眠気は吹き飛ぶかもしれない。 そう思い、やよいは早速軽くダンスのステップを踏み始めた。 軽くとはいっても、そのダンスのステップは見る人が見れば素人のそれではないとわかるだろう。 腐ってもアイドル――まだ幼いとはいえど、その動きは紛れも無くアイドルのそれだ。 しかし、身体を動かせば当然それだけの体力を消費する。 そのステップを踏む事数分後、今度は眠気とはまた違う欲求がやよいを襲ってきた。 くきゅるぅ~。 「……お腹すいちゃいましたね」 いつの間にか、自分と同じように可愛らしいステップを踏んでいたことのはに問いかける。 そういえば、ここ数時間何も口にしていないような気がする。 朝にはけいこが作ってくれたししとう尽くしの料理があったし、その合間にもちょこちょこパンは食べていた。 だが、それだけでは到底育ち盛りのやよいには足りない。 それは恐らくやよいだけではなく、海馬や亜美達にしてもそうだろう。 「あっ、そうだ!」 突然、やよいは何かを思い立ったかのように手の平をぽんと叩くと、 すぐさまことのはに見張りを頼んで自身はどこかへと走っていってしまった。 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ それから数十分後の事、ようやく治療を終えた海馬達がことのはのいる大広間へと移動していた。 無論、あれほどまでに打ちのめされていた日吉も一緒である。 肩を借りながらとはいえ歩く事が出来るその驚異的な頑丈さに海馬も亜美も舌を巻いていたが、 日吉の話によるとプロの世界ではこの程度の怪我など日常茶飯事らしい。 「ふぅん、どうやらテニスというスポーツに対する認識を改めねばならないようだな……」 「いや、っていうか普通に考えてプロの世界だってピヨくんみたいに酷い怪我なんてしないでしょ!?  っていうか、テニスなんてそんな怪我ばっかりするスポーツじゃないってば!」 「何言ってやがる、俺達中学レベルでだって観客席までボールの衝撃で吹き飛ばす奴くらいいるんだぜ?」 「えぇー!? それ、もはやテニスじゃないよ!?」 などと、珍しくも亜美が突っ込み役をするなどという構図を取りながら海馬達は大広間のソファーに座した。 当面の行動の指針や情報の整理などをする為である。 その際、海馬はことのはと共に見張りをしているはずのやよいを探したのだが……姿が見えない。 手洗いかと最初は思っていたのだが、どれだけ待っても戻ってこないのである。 「ことのは、やよいはどうした?」 海馬がことのはに問いかけると、ことのはは矢張り無言のままただその手に持っていた妖精の剣を台所へと続く道に向け指した。 その瞬間である、当のやよいが何か鍋のようなものを抱えながら台所から出てきた。 「あ、もう手当ては終わったんですか?」 「やよい……ふぅん、どこへ行っていたのだ?」 「えへへ、実はこれ作ってたんです。  私もお腹ぺこぺこだったし、皆もそうじゃないかなって思って……」 そう言い、鍋を机に置き蓋を開く。 すると食欲を掻き立てるいい匂いが辺りに充満し、湯気が吹き出た。 中身を見てみると艶やかな白米の中に溶いて閉じたと思われる卵や刻んだネギがあるのが見て取れる。 「皆、お腹空いてますよね? あんまり上手に出来てないかもしれませんけど……」 「いや、あのパンに比べてこれは遥かに食欲がそそられる……卵粥か? ……ふぅん、よく食材があったな」 手際よく椀に盛り付けていくやよいを見ながら、海馬は感慨深く呟く。 海馬にしてみればこの場に連れてこられてから初めてのまともな料理だ。 思わず口の中から唾液が溢れ出しそうになるのも無理からぬ事である。 「うぅ~、実はそれが凄く大変だったんですよ~」 「ふぅん? 一体何があった?」 やよいの話によると食料庫への扉にやたらとお札が張ってあり、触ると静電気のようなものが流れたという。 それでもなんとか我慢をして無理やり開けたのだが、それにしても不可解な話だ。 一体何故食料庫にそのような措置が施されていたのだろうか。 「朝はあんな事無かったんですけど……」 「それなら、霊夢がやったんじゃないか? あいつもお前と同じように料理をしていたからな。  大方、あのドカ食い恐竜に食われないように結界だか何だかをしたんだろうよ」 「結界か……非ィ科学的だな。 とはいえ、城に敵が侵入して食料を封じたとも考え難い。  とするならば、恐らくその観測が正しいだろう」 一応、その結界を破ったというやよいの手のひらを見てみたが見た限りでは異常はないように見えた。 それもそのはず、霊夢が張った結界は誰でも破れるような微弱な結界。 目的はあくまでもヨッシーのつまみ食いを阻止する事と、誰かが進入した事実を把握する為なのだから。 ……ひとまず、その札の正体もわかったところで四人は少し遅めの晩餐を取る事にした。 ただ塩のみで味付けられいるだけのものだったが、それでもその暖かさとほのかな味わいは四人の身も心も満足させる。 貴重な卵を巡り合って日吉と亜美が小競り合いをしたり、或いは海馬が一口食べた途端に『うーまーいーぞー!!!』と絶叫をしてみたり。 いたずらを思いついた亜美が日吉に俗に言う『あ~ん』をして、大いに日吉を狼狽させたり。 それを真似たやよいが海馬に『あ~ん』をして、二人ともが照れてみたり。 見張りを頑張っていることのはと、ボールの中に入っていたオクタンにもお裾分けをしてみたり。 そんなこんなでどんどん食べるものだから、鍋の中身はすぐに空になってしまった。 「ご馳走様でしたっ! あ~、美味しかった」 「ふぅん、久方ぶりに人間らしい食事を取った気がするな……美味かったぞ、やよい」 「ご馳走さん、霊夢の鍋もよかったがこの卵粥も悪くなかったぜ」 「いえいえ、お粗末様でした~」 それぞれが賛辞を述べるので、やよいも照れくさくなって頬を染めながら鍋や食器をそそくさと台所へ運ぶ。 それを見て、亜美も立ち上がり食器を運ぶのを手伝い洗い物を手伝う。 後に残ったのは、日吉と海馬。 「それで……これから、どうするんだ?」 「ふぅん……ひとまずは、現状維持をするより他ないだろう」 日吉の問いに、海馬はため息をつきながらも答える。 今は動くべき時ではないし、そもそも動けない。 治療を施したとはいえ、日吉と亜美はまだ安静にしておかなければならない。 首輪の解体にしても、まだ情報が少ない為に上手く事が運んでいない――待ちの一手を打つしかないのである。 或いは霊夢とヨッシーが帰ってきてくれれば、霊夢の持つ知識とレイジングハートの知識、 それに海馬の知識を加えて首輪に対する何らかのヒントを得る事が出来るかもしれない。 ヨッシーがいれば日吉と亜美を乗せて動く事くらい軽い事だろう。 だが、今は二人ともいない。故に動けない。 「しばらくは待ちだ――この城で待機をするより選択肢は無い。  とはいえ、あまりに霊夢達が遅いようだとそうも言ってはおれんがな」 「……あんま考えたくねぇが、もしあいつらがYOKODUNAにやられているとしたら?」 「それならば、次の放送で名が呼ばれるだろう……そうなれば、もう一度策を練り直さねばならんがな」 霊夢達が死ぬとは考えたくは無いが、そういう最悪のケースも考えておかなければならない。 腕を組みながら考え込む海馬の横で、日吉は歯噛みをする。 「俺が怪我さえしてなけりゃあ……あいつにも、加勢が出来たってのにな」 「それは確かにそうだ……だが、貴様が残ったからこそ俺達はTASを退ける事が出来た。  仮に貴様が霊夢に加勢をしていたならば、俺ややよい、亜美は間違いなく危険に晒されていただろう」 「……そりゃそうだが」 「ふぅん、ともかく今は無駄な事は考えずに身体を休めておけ。  所詮、貴様のような凡骨が幾ら思案をしたところでよい策など出てきはしない」 「ちっ、ならてめぇなら出てくるってのか?」 「無論だ」 日吉は釈然としない様子だったが、海馬のその断言するような口調には何も言えず口を噤んだ。 そうこうしている内に、洗い物を終えたらしいやよいと亜美が手を拭きながら帰ってきた。 何がおかしいのか、二人はくすくすと含み笑いをしながらソファーに座り込む。 「どうした、二人とも?」 「ん~、実はね~さっきやよいっちから聞いたんだけど、食料庫に鶏がいるんだってさ」 「鶏? ふぅん、それはいるだろう……卵があるくらいだからな」 鶏くらい、別にいたって不思議ではない。 食料庫と言うからには当然食料を置いてあるからして、鶏がいるのも当然といえば当然だろう。 何をそんなにおかしがるんだろうかと海馬が首を捻っていると、それを察したかのように亜美が畳み掛ける。 「それがさ~、名前がおかしいんだよ。  『とさいぬ』でしょ? 『ハト』でしょ? 『ビルゲイツ』でしょ?  えーっと、あとは確か……」 「『モヘンジョ』だよ」 ――そこは『モヘンジョだろ』と言って欲しかった。 なんて声がどこかから聞こえてきそうだったが、そんなのは無視して亜美とやよいはくすくす笑っている。 箸が転がっても笑う年頃……海馬は少々呆れながらも、二人の笑顔をそのまま見ていた。 少なくとも、この少女達はまだ未来には決して絶望などしていない。 ほんの些細な事でも楽しみを見つけて笑っている。 それを見ていると、何故だか不思議と自身の身体の活力が漲ってくるような気がした。 「おいおい、名前だなんてどうしてわかったんだよ?」 「胸に名札が貼ってあったんですよ、最初見た時はびっくりしました!」 日吉も恐らくは海馬と同じ心境なのだろう。 少し呆れた顔ながらも、決して二人を馬鹿にしているような笑みは浮かべてはいなかった。 楽しそうに喋る亜美を見て、生きる活力――真っ直ぐに生きてやるという力を、授けてもらっているように見える。 「でもさぁ~、とさいぬは無いよね。 とさいぬは」 「ふぅん……二人とも、お喋りはその辺りにしておいて今日のところはもう寝てはどうだ?」 「ほえ?」 なおもお喋りをやめそうになかった二人に、海馬はただ告げる。 既に夜の帳は落ちており子供が起きているような時間ではない。 それだけではなく、体力を回復するという意味でも疲労を取るという意味でも睡眠は不可欠だ。 動く必要が無いからこそ、今の内に睡眠を取っておいた方がいいだろうというのが海馬の弁だった。 「お兄ちゃんはどうするんですか?」 「俺はしばらく起きて見張りをしていよう……放送も聞いておくから、日吉も今の内に眠っておけ。  一人が起きていれば事足りる」 「でもでも、それじゃあお兄ちゃんが眠れないです!」 海馬の提案に、やよいが意を唱える。 やよいもこう見えて中々の意地っ張りであり、その意地の張りようは主に節約関係に出てくる事が多い。 家族の事になると少し甘くなるものの、それでも今回の海馬の提案には乗れなかった。 家族であるからこそ、海馬の健康を思うとやよいも意地を張る他ないのである。 「お兄ちゃんも眠らなくちゃ駄目です! じゃないと、私も眠りません!」 「やよい、俺はこう見えても徹夜などは何度もこなしている。  怪我も特にしていないし、眠らずとも……」 「でもでも……やっぱり駄目ですよ」 「ふぅん……」 強靭!無敵!最強!である海馬もやよいの言葉には少しばかり弱い。 自身の言葉も理には適ってはいるが、やよいの言葉もわからないでもなかった。 確かに、数時間だけでも睡眠を取る取らないとでは頭の回転も違う。 眠れるものであれば寝たいものだが、やよいだけを起こしておいて自分が眠るというのも流石に気が引けてならない。 「もー、二人ともそんな事で喧嘩しないでよ。  そんなら、交代して寝ればいいじゃん」 「交代か……ふぅん、確かにそれならばいいだろう。 やよいも、それでいいな?」 「……はい! それならいいです!」 「決まりだな。 ……では、俺が最初に起きておく。  ……そうだな、放送が鳴れば起こすから、やよいもそれから二時間後に俺を起こしてくれ」 「うっうー! わっかりましたぁ!」 亜美の言葉に、割とあっさりと妥協案が通る。 こんな簡単な妥協案も思い浮かばなかったとは、と海馬は少しばかり自嘲した。 「俺達は起きてなくていいのか?」 「ふぅん、碌に動けん奴に見張りを頼んでも役割を為せるとは思えんからな。  貴様は傷の療養に専念するがいい」 「……へいへい、それじゃお言葉に甘えて眠らせてもらうとするかね」 日吉に肩を貸し、寝室へと向かう。 扉を開けると特大のダブルベッドが一行を迎えてくれた。 まずはそこに日吉を寝かせ、布団を被せる。 やよいは海馬となるべく近い場所にいたいという話だったし、起こす時に誰かが近くで寝ていてはその人まで起こしかねない。 そういう事で、ここで寝るもう一人は亜美という事になるはずだったのだが……。 「ちょっと待て! 流石にそれはまずいだろ!」 「え? どうしてですか?」 「いや、どうしてってそりゃ……ほら、俺は男でこいつは女でだなぁ。  男女七つにして席を同じゅうせずって言葉もあるように……」 「男女男男女男女?」 「違う!」 純粋に何がいけないのだろう、と首を捻るやよいに対して日吉は言葉を濁しながらも言うも全く通じない。 亜美はまだ小学生ではあるものの、その容姿はアイドルをやっているだけあって抜群である。 口を閉じていればその手のアブナイお兄さんのみならず、一般人だって虜にするに違いない。 おまけに、発育だって小学生にしてはいい方だ。 バストのサイズなど年の近いやよいや、B-72に定評のある千早に勝っている。 その手の趣味がない日吉にしても、狼狽するのは無理からぬ事だった。 しかしながら、その様子を再び面白がった亜美が強引に布団にあっさりと入った為に事はここに決着した。 日吉はやたらと顔を赤らめて体を硬くしているし、亜美はその様子を見て笑っている。 「ふぅん、遊ぶのも結構だがしっかりと寝ておけよ」 「あいあいさー。 亜美も流石に眠いし、ちゃんと眠っておくよん」 「お、おう……熟睡出来るかどうかは不安だがな」 「それじゃあ、おやすみなさい」 「あいよー、やよいっち、兄(c)おやすみー!」 横になりながら手を振っている亜美を見、海馬とやよいは静かに扉を閉じる。 それから数分後……二人とも疲れていたのだろう。 決してR-18タグがつけられるような事象には至らず部屋の中から二種類の寝息が聞こえ始めた。 再び大広間に戻ると、やよいはソファーに横になり寝室から持ってきた毛布を被った。 少々体勢的に寝苦しいが、他に寝室などはない以上仕方がない。 「それじゃあ、ちゃんと起こして下さいね?」 「わかっている……起こすまで、しっかり寝ておくんだぞ?」 「わかってます! それじゃ……お兄ちゃん、お休みなさい」 「ふぅん……ああ、お休み」 そうして就寝の挨拶を済ませると、やよいは瞳を閉じて眠る姿勢を取る。 しばらくして寝息が聞こえ出すと海馬はやよいの近くから離れ、未だ監視を続けていたことのはにボールに戻るよう告げた。 ことのはも快くそれを了承し、素直にボールに戻る。 今の状況ではことのはも貴重な戦力だ、例え参加者でないといえど休める時には休ませておきたい。 ことのはが立っていた場所と同じ地点に立ち、外を見回す。 敵と思しき影は一つも見えない……。 「うぅ、ん……」 ふと、背後から寝言が聞こえてきた。 近寄ってみてみるとやはりソファーなどでは寝難いのだろう、表情も苦しそうだ。 思い起こせば、海馬とやよいはまだ出会って半日程度しか経過していない。 だというのに、海馬自身はやよいを――やよいは海馬を異常なまでに必要としている。 海馬はモクバの影を……兄弟の影をやよいに被せているのだろうか――否、それは無いと信じたい。 やよいはけいこの影を……家族の影を海馬に被せているのだろうか――否、それも無いはずだ。 互いが互いを必要としているのは、単純に新たに生まれた兄妹という絆の為に他ならない。 海馬の知恵がやよいを助け、やよいの元気が海馬を励ます。 兄が妹を必要とし助け、妹が兄を必要とし励ますのは道理だ。 「けい……こ……さん……」 「ふぅ、ん?」 やよいの呟きに気付きそちらを見てみると、頬を涙が伝っていた。 寝言といい、恐らく悲しい別れの夢を見ているのだろう。 「ちは……さん……真美……まこと、さん……ど、して……」 「…………」 気丈に振舞っていたとはいえ、やよいもまだ13歳の少女だ。 海馬ですらモクバの死をはじめは受け入れられず。 悩み、傷心し、後悔をしていたというのだから、やよいが耐えられようはずもない。 親しい者達との別れを悲しんで当然だ。 むしろ、悲しみながらも立ち、気丈に振舞っていたその心の強さを認めるべきだろう。 海馬は起こさぬようにそっと、やよいの瞳に溜まっていた涙を拭い去った。 今は何も出来ないが、こんな事をして何の解決にもならないが、せめてその程度の事はしておきたかった。 そうして、そのまま後ろに下がると再び窓の近くへと寄り、外へと視線を向ける。 ……その時、再び背後から音が聞こえてきた。 「む?」 やよいが寝返りをした音かとも思ったが、どうも違うようだ。 先ほど聞こえた音は何かが走り抜けるかのような音であった故に、寝返りの音とは似ても似つかない。 辺りを見回しては見たものの、何者かがいる様子も無いようだが……。 「ふぅん……さては、やよい達の言っていた鶏か何かか?」 この大広間と台所とは比較的近い。 恐らくは閉め忘れたのだろう扉から、鶏か或いは他の生の生物が激しく動いている音が聞こえてきたのだろう。 案の定、台所まで行って確認をしてみると予想通り食料庫の扉は開き中から物音が聞こえてくる。 「やれやれ、後でやよいによく言っておかねばならんな……」 やたらと煩いその食料庫の中には目もくれず、海馬は静かにその扉を閉じ――再び監視の任に就く。 その背後で、毛布を被っていたやよいはその瞳にもはや涙は浮かべず。 ただ薄らと笑みを浮かべ、兄となってくれたその人とただ一緒に過ごしているという――とても幸せな夢を見ていた。 【D-1 城・大広間/一日目・真夜中】 【海馬瀬人@遊☆戯☆王デュエルモンスターズ】 [状態]:断固たる対主催の決意、監視をする男カイバーマン [装備]:正義の味方カイバーマンのコスプレ@遊戯王DM ゴッドクラッシュ@ゴッドマン 盗賊の棺桶@勇者の代わりにバラモス倒しに行くことになった DMカード(青眼の白龍、魔法の筒)@遊戯王DM(現在使用不可) 、首輪 [道具]:支給品一式×2(食料1消費)、十得ナイフ@現実 毒針@ドラゴンクエストシリーズ、ナイフとフォーク×2、包丁 [思考・状況] 1:放送が流される時刻まで監視作業。霊夢の帰りを待つ 2:首輪の解析を進める 3:自分と同じ境遇、そうなりそうな人を救いたい(ただし仲間の安全が優先) 4:船に積んであったコンピュータを利用したい。船内の探索もできればしたかった 5:エアーマンなど高度なロボットを解体して、自分の技術力が通用するか知りたい 6:殺しあいには絶対に乗らない ※ブルーアイズが使えないのは、自分が主として認められていないためだと思っています ※ロックマンを岩を飛ばすロボットと予想。エアーマンの仲間と思っています ※キーボードは船の艦橋にあるコンピュータに刺さったままです 【高槻やよい@THE IDOLM@STER】 [状態]:体力全快、右手骨折(治療済み)、睡眠 [装備]:包帯、ことのは@ヤンデレブラック、オクタン@ポケットモンスター [道具]:支給品一式×2(水と食料1消費)、MASTER ARTIST01~10@THE IDOLM@STER     DMカード(六芒星の呪縛、攻撃誘導アーマー)@遊戯王DM(現在使用不可) 世界樹の葉@ドラゴンクエストシリーズ、壊れたオセロ@現実 [思考・状況] 1.放送後、お兄ちゃんと交代して監視する。霊夢の帰りを待つ 2.「ことのは」さんとも、もっと仲良くなりたいなぁ 3.魔理沙さん達のことは悲しいけど、お兄ちゃん達とがんばります! 4.緑色の服の少年を後で埋葬してあげたい 5.人は絶対に殺しません ※ことのはの所持品は「妖精の剣」です。 【D-1 城・寝室/一日目・真夜中】 【双海亜美@THE IDOLM@STER】 [状態]:右足に大きな火傷・肩と左足に火傷(共に治療済み、徐々に回復中)、ルイージ(HI☆GE)、睡眠 [装備]:ホーリーリング@デジモンアドベンチャー、ルイージの帽子@スーパーマリオワールド、弾幕の作り方@東方project 、 [道具]:支給品一式(食料1消費)、道下のディパック【支給品(1~2)、ハイポーション×2@ハイポーション作ってみた】 [思考・状況] 1:霊夢が帰ってくるまでお休み 2:殺し合いには乗らない。みんなで脱出する方法を探したい 3:ヒゲドルとして生きていきまーす、んっふっふー 4:無事に帰れたら、オメガモン感謝祭を開く。 【日吉若@ミュージカル・テニスの王子様】 [状態]:疲労大、肋骨損傷・左の腕と肩にごっすんくぎ(共に治療済み)、少しドキドキ、睡眠 [装備]:カワサキのフライパン@星のカービィ [道具]:支給品一式 食料2人分、水2人分 ヒラリマント@ドラえもん 、マカビンビン@うたわれるものらじお、ことのはの鋸 [思考・状況] 1.霊夢が帰ってくるまでお休み 2.手段を問わず、主催に下克上する。 3.亜美にボブ術の基本を教える。 4.ことのは、亜美と交代しながら人が近づいてこないか監視する。 5.下克上の障害は駆除する 霊夢、ヨッシー、海馬、日吉、やよい、亜美の共通認識 ※なのはの世界についての知識を得ました。霊夢と海馬以外、不思議な力としか認識していません。 ※全員、知っている情報を交換しました。少し大雑把で、認識の違いはあります。 ※名簿が、世界の住人ごとに載っていることに気がつきました。 ※各地に監視装置があり、首輪にも盗聴機能があることを認識しました。 ※YOKODUNAに関する情報を入手しました。 ※生首が真だという考えは、霊夢とヨッシー以外は揺らいでいます。 ※やよいが海馬を兄と呼ぶのは、海馬の趣味か何かだと思っています。 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ――その頃、食料庫ではまだ騒ぎが収まっていなかった。 海馬の予想通り、鶏が暴れまわっているのだろうか――いや、違う。 「ケラケラケラケラケラ」 ケラモンだ。 ケラモンが、逃げ回る鶏を追い回し、引き裂き、肉を食らっている。 辺りには夥しい数の血溜まりが出来、逃げ回る鶏から抜け落ちた羽が散乱し、衝撃で倒れた食料がその原型を留めていなかった。 最後の一匹……モヘンジョをようやく捕まえ、ケラモンは大きな口を開けてそれを一気に食す。 すると、ようやく分裂を果たせた。 これで先の分裂を含めて三体……だが、まだ少し心許ない。 「ケラケラケラケラ」 ケラモン達は更に食料を食らった。 目に映るものは肉、野菜、穀物……何もかも食らった。 ケラモン達は、この城に着いて早々暴れまわるつもりだった。 しかし、それが出来ない理由があった。 怪我をしているとはいえ、ボブ術の使い手である日吉がいたから? いいや、違う。 ルイージと同等の力を持つ亜美がいたから? それも、違う。 問題はただ一つ――外を監視していた、ことのはの存在だった。 野生の世界では、気配……第六勘というものが物を言う。 海馬ややよい、日吉や亜美を出し抜く事はケラモン達にとって簡単だったが、自分達と同じような存在であることのはの目だけは盗める自信が無かった。 デイパックから出ようとしても、出るタイミングが無かったのだ。 だが、幸運な事にことのはは自ずからボールに戻った。 そうなれば、後は気配を殺してデイパックから出て機運を待つのみである。 すぐさま監視をしている海馬の目を盗み、台所へと向かった。 そして、この惨状である。 ケラモンはただ食す。 あらゆるものを食いつくさんとばかりに、食す。 これは好機だ……デイパックの中で聞いていた限りでは、放送が始まった後に見張りは交代するらしい。 その交代役は、あのいかにも弱そうな少女。 あの少女ならばそれほど時間をかけずに殺せる。 時間をかけずに殺せば、それだけ寝ている相手に気付かれる可能性を減らせる。 「ケラケラケラケラ」 それまで……ケラモンは、力を蓄える事にした。 一撃であの少女を殺せるほどの力を。 「ケラケラケラケラ」 放送がはじまるまで……あと数刻。 【D-1 城・食料庫/一日目・真夜中】 【クラモン(ケラモン)D】 [状態]:健康 現在3体 鶏の血塗れ [装備]:なし [道具]:なし [思考・状況] 1:放送終了後、女の子にいたずら 2:TAS、どこ行った? 3:向こうのクラモン、何があったんだ? |sm164:[[今日の私は陰陽師すら凌駕する存在よ!!]]|[[時系列順>第四回放送までの本編SS]]|sm166:[[黒より暗い人物(前編)>黒より暗い人物]]| |sm164:[[今日の私は陰陽師すら凌駕する存在よ!!]]|[[投下順>150~200]]|sm166:[[黒より暗い人物(前編)>黒より暗い人物]]| |sm159:[[FloweringNight BR~月まで届け、最速の俺~]]|海馬瀬人|sm173:[[バラモスの代わりに臓物喰らい尽くすことになった]]| |sm159:[[FloweringNight BR~月まで届け、最速の俺~]]|高槻やよい|sm173:[[バラモスの代わりに臓物喰らい尽くすことになった]]| |sm159:[[FloweringNight BR~月まで届け、最速の俺~]]|双海亜美|sm173:[[バラモスの代わりに臓物喰らい尽くすことになった]]| |sm159:[[FloweringNight BR~月まで届け、最速の俺~]]|日吉若|sm173:[[バラモスの代わりに臓物喰らい尽くすことになった]]| |sm159:[[FloweringNight BR~月まで届け、最速の俺~]]|クラモンD|sm173:[[バラモスの代わりに臓物喰らい尽くすことになった]]| ----

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