「第一次ニコロワ大戦 君の幸せを願ってる」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
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*第一次ニコロワ大戦 君の幸せを願ってる ◆jVERyrq1dU
(非登録タグ) [[パロロワ]] [[ニコニコ動画バトルロワイアル]] [[第215話]] [[ジアースVS対主催決戦]]
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ジアースの傍に一人の女が倒れていた。静かに目を開ける。
「か、神……? ど、どこへ行ったの?どうして神人は消えたの?」
どうも記憶が不鮮明だ。私は、今まで何をしていたのだろうか……
ぼんやりとして頭を叩き、懸命に記憶を探る。
永琳の周りには今誰もいない。ハルヒも遊戯も、そして古泉も、永琳の傍にはいなかった。
いや、一つだけ私の傍に……何かがある。大きすぎてわかりにくい。これは……何?
永琳は傍で横たわる巨大な何かを判別しようと、観察する。
すぐに分かった。これは巨大ロボットだ。あれがぼろぼろになって倒れている。
この瞬間、永琳に電流走る────
そうか。思い出した。私達4人はロボットを倒しに行ったんだわ。
ハルヒがどうしても殺したいと言い張るものだから……止められずに……
巨大ロボットと神人が戦ってる間、私はハルヒを護衛するつもりだったんだけど……
「護衛は……失敗……したようね」
永琳は呟く。おそらく神人と巨大ロボットのあまりに激しい戦いに、私と古泉と小さい遊戯は吹き飛ばされてしまったのだろう。
そして少なくとも私は今まで気絶していた。こんなところ……かしら。
順々に記憶を追って、今自分がどんな状況なのかあらかた理解できた。
だけど、一つだけどうしても気になる事がある。ハルヒの安否だ。
巨大ロボットがこうして横たわっているという事は、ハルヒが勝利したのかしら……
しかし、それならどうして神人まで消滅しているのか……いや、ハルヒは神人を元の小さな状態に戻しているだけなのかもしれない。
きっとそうだわ。ハルヒが死ぬなんてありえない。絶対に、絶対に────
とにかくハルヒの元へ急がなければ……
永琳はぼんやりとする頭に喝を入れ、懸命に歩きだす。
古泉もいない、遊戯もいない。おそらく私と同じようにどこかへ飛ばされたのだろう。
なんとしても私が神を守らなければならない……
確か、神人が暴れていたのは向こうの方……
永琳はハルヒがいる場所について適当に見当をつける。
ジアースの周りを迂回しながら、目的地へと歩く。
近くで見ると、ジアースには幾筋もの亀裂が入っていた。
相当痛めつけられたのだろう。神人にやられたのか?
しばらく歩き、ジアースの頭部の部分にまで来た。そこで何者かが倒れていた。見覚えのある姿。あれはまさに────
「神ィッ!」
ハルヒだと認識すると、永琳の歩きは走りへと転じる。
急いでハルヒの元へ駆け寄り、彼女の顔を覗き込む。ぱんぱんとハルヒの頬を叩いてみる。
永琳の動悸は急激に加速。ぬるぬるとして気持ちの悪い汗が全身から吹き出す。
これでもかというほど大きく目を見開き、ハルヒの肩を揺さぶる。もはや声も出ない。
「神……神……」
ぶつぶつと呪文のように唱え、ハルヒの体を揺さぶる。
ハルヒの頭は支えを失ったかのようにだらりとそっぽを向いた。
神はもう、すでにこと切れていた。
「っっあぁあぁああああぁぁあぁあぁぁあ!!」
永琳は訳の分らぬ言葉で天に向かって吠える。ハルヒから手を離し、叫び続ける。
彼女の両目からはとめどなく涙が溢れていく。もはや人の目を気にしないといった様子で永琳は意味のない言葉を叫び続けた。
初めは主催者に願いを叶えて貰おうと思っていた。だけど主催者の力が信じられなくなった。
悩みに悩みぬいた後、永琳の前に神が現れた。全てを解決してくれる都合のいい力を持った神が。
しかし、その神は汚い姿ですでに死んでいた。
永琳のたった一つの、命を賭してでも守るべき希望。それがついに途絶えた。
項垂れる永琳。彼女はこれからどう動くべきなのだろうか。
彼女の傍らで、ジアースの瞳が赤く瞬いた。
▼ ▼ ▼
「ふぅ……ふぅ……」
後、一撃。これで、これで決まるはず……
お願いだからもう何も起こらないで、お願いだからこのまま死んで。
日吉が手を振り、合図する。それを見て霊夢は魔力を貯める。ディバインバスターである。
この技で一気に押しつぶす。霊夢と同じように、それぞれ大技を繰り出す準備を進める。
その時、ジアースの目が赤く瞬いた。
「えっ?」
チュンっと細い光が走り、霊夢の体をいとも容易く貫通する。
「あっ!」
霊夢が気づいた頃にはもう全てが終わっていた。
腹の辺りを貫通した光は、そのまま肩へと移動し、霊夢の体を切り裂いた。
「ああ!」
日吉と遊戯が悲鳴を上げる中、霊夢は耐えきれず落下する。
落ちていく霊夢をジアースが放つ極細のレーザーが執拗に追跡する。
日吉、遊戯、博之、アリスは予想外の事態に身を硬直させていた。ただ、落下していく霊夢を強張った表情で見守るだけ。
「ディバインバスター……」
霊夢の持つレイジングハートが火を噴く。破壊の光線はレーザーをかき消し、ジアースへと直撃する。
遊戯は一瞬、これで全てのけりがついたと思った。魔力不足のディバインバスターとはいえ凄まじい威力。
あのでかぶつを完全に解体できたと、そう錯覚してしまった。
それでも……ジアースはそれでも動き続ける。活動を止めようとはしない。
横たわったまま、残った右腕を振るう。
ジアースの苦し紛れの攻撃。その対象は空中で気を失いかけている霊夢だった。
右腕が霊夢に衝突した瞬間、霊夢の体は初めから存在していなかったかのように、霧散した。
粉々にされたか、それともどこかへ消えて行ったか。それは分からない。
一つだけ分かった事、それは今のジアースの一撃で霊夢が決して帰って来れない所へ行ってしまったという事だ。
つまり、死である。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
コイヅカが思いきり吠える。右腕で体を支えながらジアースは立ち上がる。
見れば見るほどボロボロ。何故壊れないのか不思議なくらいだ。
「ちくしょお……」
ジアースのほぼ正面の位置に立つ日吉の声は、これまでのように強気なものではなかった。
この化け物はどうやったら死ぬんだ。皆目見当がつかない。日吉は目の前のモンスターの威圧にやられ、身を震わせる。
アリスがジアースに攻撃を仕掛ける。
さながら米軍に突撃する日本軍の如き心境、といってもアリスには米軍やら日本軍なんかはわからないのだが。
ジアースが先ほど霊夢を貫いた極細のレーザーでアリスに反撃する。レーザーはスターシップに命中し、機体の一部を破壊する。
主砲はもう壊れたのだろう。今までのような極太レーザーを撃たれていたらアリスは即死だった。
アリスは機体の中で身を震わせる。彼女とて怖いものは怖い。今のレーザーで死んでいたかと思うと……
レナも死んだ。カービィも死んだ。霊夢も死んだ。
こんなの、こんなのありえないよ。ひどすぎるよ……
つかさは未だに仁王立ちするジアースを見て、呆然としていた。あまりにも化け物。あまりにも反則。
ジアースのあまりの規格外っぷりにつかさは怯える。自分達にはもうアルティメットバーストのような連携技は出来ない。
と、なれば後はジアースによる殺戮だけか? つかさの頭の中で、弱い考えが鎌首を持ち上げる。
「つかさどの……」
背後から唐突に彦麿の声が聞こえ、つかさは振り返る。ジアースを眺め、心配そうな顔つきで彦麿が立っていた。
私達には……どうする事も出来ない。日吉さん達がジアースに勝利するのを願うしか……
ああ、もっと私に力があれば……
「つかさどの……一つ、頼みたい事がある……」
彦麿が何やら思わせぶりな顔で、口を開く。
ジアースが立ち上がり、ぶるんと右腕を横薙ぎする。狙いは博之と遊戯。
「いかんッ!」
博之は回避運動に移る。右腕が迫る。
アリスがジアースを攻撃し、遊戯達を逃がそうと計る。そのおかげもあり、遊戯と博之はぎりぎりのところで攻撃を回避する事が出来た。
しかしジアースは止まらない。再び右腕を振るう。今度はそれと同時に極細レーザーを放つ。
やはり主砲は完全に破壊出来たらしい。どちらにしろ結果は同じかもしれないが……
「うそ……また!?」
レーザーはまたもアリスのスターシップを正確に射抜き、損害を与える。
かなりスターシップがガタついてきた。いい加減そろそろやばい。
「博之さん! 避けて!」
遊戯が叫び、博之に命じる。なんとか凌いで反撃のチャンスを窺わなければ……
遊戯の命令に反し、博之はなかなか動こうとはしない。そんな博之を見て、遊戯は焦る。
「どうしたんだよッ!? 早くしないと避けられないよ!」
「ああ……わかっとる……」
博之が漸く動き出す。しかし驚くほどに遅い。このままでは間違いなく避けられない。
直撃必死だ。何をしているんだ博之さん……
一瞬、博之を責めたい気持ちになった遊戯は漸くここで気付いた。
「そうか、もう体が……」
「ああ……だいぶ消耗してもうた……ちょっと暴れすぎたな。体が言う事聞かんわ…」
ははは、と乾いた声で笑う博之。遊戯としては全然笑えない。
ジアースの鉄鎚が唸りを上げて迫る。のろのろと空中を飛行し逃げる博之と遊戯。
誰が見ても結果は明らかだった。遊戯はこの時、ブルーアイズのあまりに短い使用時間を呪った。
「あっっ!!」
日吉は思わず声を上げる。遠めなので正確には分からないが、ジアースの右腕が遊戯と博之に直撃した。
ふらふらとこちらに何かが落ちてくる。蛾……という事は博之というおっさんだ。
二三秒空中を舞ったかと思うと、博之は耳を塞ぎたくなるような音を立てて地面に激突した。
博之は一言二言何やら呟いた後、何も喋らなくなった。
日吉はそんな博之を見ても、ただただ沈黙するばかりだ。
これで残りは俺、アリス、つかさの三人。いや、つかさは戦えないから実質アリスと俺の二人のみ。
日吉の体は無我の境地の酷使によりすでに悲鳴を上げている。もう限界と言っても決して言いすぎではない。
ごくりと喉を鳴らす。ジアースがギシギシと耳障りな金属音を発しながらこちらに近づいてくる。
どう見てもボロボロなのに、どう見ても壊れかけなのに、まだ死んではくれない。
日吉は痛む体を圧し、ジアースに正面から向かい合う。
空中ではアリスが空しい攻撃を続けていた。いや、無意味ではないかもしれない。
アリスが今まで撃って来たコックピット部分。そこがかなり傷んでいる。このまま撃ち続ければパイロットを引きずり出せるかもしれない。
しかし──はたしてそこまでする時間が残されているかどうか……
「どっちにしろ、次に死ぬとしたら俺か」
日吉は服の袖を捲りあげ、気合を入れる。勝機があるとは思えない。死ぬのは怖い。
けれども……日吉は逃げるわけにはいかないのだ。
「日吉……」
「? なんだ、いたのか……危ないぜ」
懐かしい声が聞こえたと思い後ろを振り返ってみると、彦麿がいた。
彦麿は脇に倒れている博之をちらりと見る。まだかすかに生きているようだ。
「一つ聞きたい……ハルヒは死んだのか?」
「ハルヒ? 何の事だ?」
そうか……こいつはずっと寝てたから何も知らないのか……
「あのロボットにも匹敵するような魑魅魍魎を操っていた女だ。死んだのか?」
知らない、と日吉はぶっきらぼうに言った。そして手をかざし、ある方向を指差す。
「いるとしたら、あそこ辺りだな」
「そうか……有難う」
日吉は彦麿の言動を不審に思い、質問する事にした。
「何をする気だ?」
彦麿はしばらく黙った後、静かに口を開いた。
「勝つためだ、勝つための策……非人道的だが、私達は負けるわけにはいかないのだ……」
勝つためと豪語しておきながら、彦麿の声は何故か暗い。日吉はますます不審に思う。
「聞かないでくれ……聞いたらお前達はきっと、私を責める。もし責められたら……決意が鈍る……」
そんな事を言われては逆効果だ。聞かずにはいられない。
「なんだよ…何をする気だ?」
「何とか時間を稼いで、あのロボットに少しでもダメージを与えてくれ……頼んだ」
彦麿はそう言うと、ジアースの方向に向けて全速力で走りだした。いや、わずかだがジアースの方向とは少しずれている。
正確に言うとさっき日吉が指差した、ハルヒがいるであろう方向だ。
「ちっ……」
折角覚悟を決めたのに……なんだか乱されちまったな……
「日吉さん……」
つかさがおずおずと日吉に口を開く。日吉はつかさに首だけ向けて、何だと答える。
「……頑張って……ください」
そう言うとつかさはある方向へ向けて駆けだした。ジアースに向けてではない。
これも彦麿の言う策の一環か?まあ何でもいい。勝つために色々とやっているのなら文句はない。
つかさの影がどんどん小さくなっていく。全く……力があるってのはつらいな。
カッコ悪くて逃げる事も出来ない。俺がつかさみたいな弱者なら迷わず逃げていただろう。
まあ仕方ない。力があるからこそ、俺はこうやって下剋上を目指せるんだ。頂点を狙えるんだ。
確か彦麿の奴、時間稼ぎをしてくれと言ってたな……どうも俺は死ななければならないらしい。
命を捨てなければあれの足止めなんて無理だろう。
まあいいか、何でも……さて……いくか……
日吉はジアースの正面に再び仁王立ちする。
両手を天に掲げ、GENKI-DAMAの準備にかかる。みしみしと体が軋み、悲鳴を上げる。
あと少し、あと少しだけ頑張ってくれ、俺の体。
日吉の両手の先に、小さな小さなDAMAが出来上がった。あとはこれにKIを貯めて育てていくだけ……
ジアースの胸の辺りが光った。例の極細レーザーが地面に突き刺さり、日吉の元へと走って来る。
このままではアレに貫かれて、GENKI-DAMAどころではない。
「嘘だろ、おい……」
光が恐るべきスピードで日吉に迫る。霊夢の体を容易く切り裂いた光、あれを喰らえば間違いなく生きてはいられない。
しかし、対抗手段もない。アレが来る前にGENKI-DAMAを完成させればいいのだが、そんな事出来るわけがない。
時間が足りないのだ。圧倒的に時間が……
「グァッ!」
光が日吉を貫く。バランスを崩し片膝をついたが、日吉は鬼気迫る表情でGENKI-DAMAをコントロールする。
言うなればGENKI-DAMAは唯一つの希望。それを失うわけにはいかないのだ。なんとしても……
日吉のGENKI-DAMAに最後の望みを賭けるのはアリスも同じだった。
なんとかアレを守らなければならない。しかし、どうやって……?
あんな細いレーザーをどう止めればいいの?無理に決まってるじゃない……
アリスが自問自答するうちに、ジアースから二本目の極細レーザーが射出される。
再び地面に線を描きながら日吉目がけて疾走するレーザー。
あのレーザーを止める方法────
「そうか……一つだけあるわ……」
アリスはスターシップのハンドルを強く強く握りしめ、ある方向へ疾走する。
「完成だ……GENKI-DAMA…だが……」
だがもう光線が目の前にまで来ている。折角完成させたというのに……これで終いか。
次の瞬間、日吉のすぐ目の前の地面にアリスの乗ったスターシップが突っ込んで来た。
地響きを上げスターシップは墜落し、辺りに土煙を舞いあげる。眼を凝らして見ると、アリスが中で頭から血を流している。
「涼子……お願い」
「ハイナー」
レーザーが日吉の代わりにスターシップを貫く。恐らく中にいるアリスも同様に貫かれているのだろう。
いや……違った。
「よくやったわ……涼子」
アサクーラを使いシールドを展開、レーザーを防ぐ。しかし弾くには至らない。
ちりちりと拮抗するシールドとレーザー。アリスの魔力は残り少ない。このままではアリスのジリ貧である。
「日吉……! はやくぅ……!!」
アリスが精一杯の声を上げる。
「分かってる……よぉッ!」
最後の力を振り絞り、日吉はGENKI-DAMAを放った。
次の瞬間、アサクーラのシールドは崩壊しレーザーはアサクーラ、そしてアリスを貫く。
アリスはふらりと地面に倒れる。そして日吉もまた、疲弊しきった体を支える事が出来ず、同じように倒れた。
二人とも地面に横たわったまま、ジアースに向って真っ直ぐ飛んでいくGENKI-DAMAの様子を眺める。
あれがまともに当たればジアースは崩壊……するはずだ。
GENKI-DAMAの放つ光と拡散する衝撃波によって、二人の目にはもう何も見えなくなった。
ただただ眩しい。視界が開けた時、ジアースがバラバラになっているのをただ願う。
ジアースとGENKI-DAMAがぶつかりあっているのだろう。耳を塞ぎたくなるような轟音が響き渡る。
様子を窺いたいが眩しくて見えないし、なにより音が聞こえてくる方へ視線を向けるのが億劫だ。
二人はただ祈った。神とか、誰に祈ったのかどうかは分からない。ただただ祈る。勝利を懇願する──
鈍い音が日吉の耳に届いた。少しずつ視界が晴れていく。必死に目を凝らし様子を窺う。
「くそう……!! まだかよ……!!」
日吉が悪態を吐く。地面を乱打し、怒りと無力感を無意味に発散させる。
こんな事をしても何の意味もない。ただのやつ当たりだ。しかしやらざるを得ない。
ジアースは依然として立っていた。しかし右腕はGENKI-DAMAによって肩から落とされている。
良く見ると地面に巨大な右腕が落ちていた。これでジアースの腕は二本とも消失したという事になる。
未だに動くのであれば、右腕を落とした事に大した意味はないのだろう。
何故なら、小さな日吉達を殺すにはいくらでも方法があるのだ。例えば────
「やっぱり……そうするわよね……」
ジアースが右足を大きく後方へ引く。何をしようとしているのか、大体想像がつく。
私達にはあのロボットを止める手立てはない。ただ黙って見ているだけだ。
「時間稼ぎ…………して……くる…」
日吉が何度も倒れそうになりながら、悲壮な様子で立ち上がる。
アリスは驚いた眼で彼を見つめた。
「あんた……どこまで……」
「希望を………捨てるな……あの胡散臭い……彦麿って奴…………あいつに何か…策があるらしい……」
「彦麿……? 彦麿がいるの……?」
日吉は黙ったまま頷く。そして近くに横たわっている博之の体を指差した。
「どんな…策かは……聞いてない……唯俺が思うに………この蛾がキーマンだ………彦麿が意味深に見てた……」
アリスは博之を見つめる。ボロボロである。生きているのか死んでいるのかはっきりしない。
「お前はこいつを……守れ…俺が時間稼ぎをする………」
日吉の言葉の直後、アリスと日吉に巨石が降り注ぐ。ジアースが地面を思い切り蹴り、土砂をぶつけてきたのだ。
頭を両手で守り、人間を相手にした虫のように耐える二人。幸いな事に石は一つも当たらなかった。
悲壮な決意を胸に秘め、日吉はポタポタと血を垂らしながら、ジアースへと歩く。
そんな状態でどうやって時間稼ぎが出来るのよ、と思ったが、そんな日吉の気持ちを無視したセリフ、さすがに言えるわけがない。
アリスは何度もふらつきながら、しばらく時間をかけ漸く立ち上がる。そして博之の元へ歩み寄る。
日吉から彦麿の名前を聞いた時、奇妙な安堵感がアリスの胸を満たした。
そのよく分からない感情の正体。それはいったい何なのであろうか……
アリスはジアースを前にしながら、ふとそんな事を考えた。
明らかに場違いな思索だが、アリスは彦麿について考える事を止めなかった。
なけなしのKIを振り絞る。さて、何をどうすれば瀕死の俺が時間稼ぎを出来るのだろう……
ちょっとした策が必要なのではないか? ジアースへと視線を転じる。
日吉は策の無意味さを知った。ジアースがもう次の攻撃に移っている。
またもや蹴りだ。日吉を直接蹴ろうとしている。策など考える時間はもうない。
どうやらこれが俺の最期のようだ。
最後の最後、日吉の体に残るKIを無我夢中で絞り出す。
なんとか、なんとかジアースにダメージを与えられれば……
「日吉ィッ!」
何者かの叫びに、日吉は視線を転じる。彦麿だった。何故か背中にハルヒを背負っている。
何をする気なのかは知らないが、これが俺のなけなしの足止めだ。彦麿……この時間を有効に使ってくれ……
「じゃあな、後は頼んだ────」
結局、下剋上出来なかった。あのピエロどもに一発喰らわせてやりたかったが、それも叶わない。
ああ──それにしてもあのヒゲ。どうして、どうしてあの時俺を起こしてくれなかったのだろう────
俺は一応、お前の師匠だったんだから……
ジアースの渾身の蹴りが日吉に直撃する。霊夢やカービィと同じように、日吉はどこかへ霧散するように消失した。
ばらばらになったのか、それとも超スピードでどこかへ吹っ飛ばされたのか、事実は相変わらず誰にも分からない。
日吉が消え去る傍ら、すでに死体だったハルヒを背負い彦麿は駆ける。
眼には涙をいっぱいに貯め、走る走る。博之の元へ────
最後のスターシップが撃ち落とされ、日吉も死んだ今、もはや彦麿達には何の戦力も残されていない。
それでも彦麿は希望を捨てようとはしない。ハルヒの死体という希望を────
ジアースがさっきの要領で瓦礫を飛ばしてきた。これはもう運しかない。彦麿は祈りつつ逃げる。
拳大の石が何発か当たり、彦麿は血を吐いた。しかし走る事を止めようとはしない。
あれは……誰かいる……
どこかで見たことのある人物だった。近づくにつれ輪郭がはっきりし、正体がおぼろげながら見えてくる。
彦麿の視界に懐かしい人物の姿が映る。いや、懐かしいと言ってもほんの六時間前に別れたばかりなのだが……
とにかく物凄く懐かしく感じた。
「アリスッ!!」
「彦麿ッ!!」
唐突な再開に、思わず抱きつき合う二人。アリスは負傷のためバランスを崩し、彦麿と共に地面に倒れる。
「す、すまんアリス!」
彦麿はアリスの様子を窺う。アリスは何故か笑っていた。
二人で地面に横たわったまま、見つめ合うアリスと彦麿。ジアースが迫る。
なかなか当たらない瓦礫に嫌気がさしたのだろう。直接踏み潰すつもりらしい。
もはや距離を開ける必要もないのだ。アリスと彦麿にはもう何の戦力も残されていないのだから。
「また会えてちょっと嬉しいわ……こんな状況であっても……」
「私もだ……」
しばらく沈黙していた二人だったが、さすがに状況が状況。彦麿がアリスに肩を貸し、引き起こす。
アリスを見つけ、思わず捨ててしまっていたハルヒの死体を担ぎあげる。
「それって……」
アリスが怪訝な表情で呟く。そんな物をどうしようというの……
不安げな様子で見つめるアリスに対して、彦麿は決意を持って策について語る。
「怒らないでくれアリス……私も陰陽道に勤しむ身分。本来なら絶対にこんな事はしたくない」
こんなものただのいい訳だ……しかし、言わざるを得ない……
ジアースが近付く。足音が次第に大きくなってくる。
「言い訳はいいわよ……それで、何? この蛾が関係あるんでしょ? 大丈夫、まだ生きてる」
アリスの言葉にほっと安堵する彦麿。ハルヒの死体を博之の隣に置く。アリスにはまだ何なのか分からない。
「何をする気よ……」
「覚えているか、アリス。城で皆が集まった時、情報交換をしただろう……
その時聞かなかったか? 怪物……デーモンの食人について……」
アリスは頭を捻る。
「確かに……そんな話あったわ。 KASや霊夢が言っていた……ま…」
まさかと言い終わる前に、アリスは言葉を失う。蒼白な顔になり彦麿をただ見つめる。
顔から血の気が引き、アリスはただただ立ち尽くした。
ジアースがさらに迫る────
「情報交換で分かった事だが、デーモンは死体を食べる事によって傷を回復させたり、パワーアップしたりしていた……」
「で、でも!!」
賭場を必死に取り返し、アリスが懸命に訴える。
「この博之って人はデーモンじゃないわ!」
アリスの叫びを深刻な表情で聞き、彦麿は残酷な一言をぴしゃりと言い放った。
「アリスよ……博之どのはデーモンと融合し、こんな姿になったのだ。
言ってしまえば……博之どのはデーモンの分身。恐らく……デーモンの性質もまた、受け継いでいるはず……」
「でも……博之は人間なのよ……」
力の籠った瞳でアリスを凝視する。
「我々は……何としても生き残らなければならないのだ……死んでいった皆のためにも────」
数秒間、アリスはぼんやりしていた。もう何が何やら分からない。
「博之を……起こしましょ……早くしないと…」
けれど……いくら非人道的な行為であったとしても……生き残るためにはするしかないのでは……
そういう意味では……彦麿はやはり正しいのだろう。前を見ている。なんとしても生き残るため、彦麿は前向きだった。
アリスはとりあえず無理やり自分を納得させ、博之を覗く。
いつの間にか博之は眼を開いていた。アリス達を見てがくがくと震えている。
「食わんぞ俺は……」
博之が吐いたセリフはある意味予想通りの言葉だった。
「いくらハルヒが憎かったって……そんな事したら…人間失格やないか……」
博之の悲痛な言葉が二人の胸に突き刺さる。アリスと彦麿は否応なしに、沈黙する事になった。
淀んでいる、三人の間の空気が……
生と死の狭間に揺れ……三人の精神は………
ジアースが迫る。もう限界だ。
博之は隣に横たわるハルヒの死体をちらりと見やり、吐き気を催した。
こいつが最低のクズ野郎だった事は知っている。それでも、それでもハルヒは人間なのだ。
同族である人間を食ってしまえば……もうお終いだ。人として、生物として……
「博之どの……無理にとは言わない……だが」
彦麿がぶつぶつと話し始める。
「思い返してみてくれ……今まで出会い、そして死んでいった仲間や敵の事を……彼らは決して死にたくて死んだわけではない。
生きたくて生きたくて……それでも駄目だったから死んだのだ……我らの仲間も、進んで人を殺す敵も全員生きたかったのだ……
そして────」
彦麿はいったん言葉を区切る。首の角度を変え、ジアースを眺めた。
「私も生きたい……アリスもそうだ……そして、博之どのもきっと生きたいはずだ……」
「だったら何なんぞ……お前が生きたいから俺に人間食えって言うんか!」
博之は叫ぶ。それっきり、彦麿は何も話さなくなった。
確かに、確かに俺やって生きたい……愛媛に帰りたい……もうおかんもジーコもおらんけど……
それでも生きて帰りたい……そんなん、当たり前やないか…生きたいん決まっとるやないか!
『幸せな……本当に幸せな、あなたのお人形』
何故か唐突に、博之の脳内で、水銀燈の最後の姿がフラッシュバックされた。
水銀燈……お前もほんまはもっと生きたかったんやろ……それでも、それでも自分の命を捨ててまで俺を助けてくれた…
ああ、生きたかったんやろうなあ……水銀燈……水銀燈……
横にいるハルヒに視線を転じる。今度はさっきのような吐き気に襲われる事はなかった。
博之は少女形態に変化し、ゆっくりとハルヒの腕を掴む。アリスと彦麿が目の色を変える。
「え、ええか?俺は狂って人を食うんとちゃう……生きたいから、生き残るために仕方なく人を食うんやわ……
ご、誤解すんなよ……俺は狂ってないわ、絶対、絶対、絶対にィィ!!」
博之が勢いよくハルヒの二の腕に噛みついた。顎に力を込めて思いきり、食いちぎる。
吐きそうになったが無理やり口を塞いで耐える、耐える。大粒の涙をポタポタ落としつつ、博之は思い切り飲み込んだ。
汗と泥でべたべたなハルヒの二の腕を細かく食いちぎり、喉に通す。
ジアースがもう目の前に来ているから早くしなければならない。
人間とはこういう味だったのか……なんという……
博之はふとそんな事を思った。食人なんて漫画や小説の中だけだと思っていた。
まさか自分がこんな事をしなけれならないとは思ってもみなかった。
ああ、次はハルヒの顔だ……
一瞬、にんまりと笑ったハルヒと目が合った気がした。博之は頭を振りはらう。
今のはきっと幻だ。俺の恐怖心が生んだ幻。
ハルヒの頭蓋骨を地面に叩きつけ、割る─────これで脳みそが啜りやすくなった。
割れた穴に口をつけてチューチューと吸う。髪の毛は邪魔だったので全て抜くことにした。
ぷつぷつと簡単に抜けた。肉が一緒についてきたので、毛から肉を剥がし口に放り込む。
ハルヒの足を裂き、齧ってみる。肉は案外柔らかかった。
俺は、生きたい……
何が何でも生きたい……生きるためならどんな事でもやってやる……
生き残って……愛媛に帰って……水銀燈を再生してやりたい……
博之が何気なしに上を見上げると、ジアースの足が落ちて来ていた。踏みつけである。
「ぐぅぅ……!!」
アリスが例のシールドを展開し、彦麿が陰陽道を駆使して結界を作り、シールドを構成する。
アリスと彦麿は力を合わせて、ジアースの踏みつけから博之を守る。
アリスと彦麿はお互いに大量に出血しており、もはや限界。
当然二人のシールドは脆く、弱い。簡単にヒビが入る。
「アリス……」
彦麿が冷静に呟く。
「何よ!? こんな時に!」
こんな緊急事態によく喋れるものだ。
彦麿は隣で奮闘するアリスを横目で見る。一時、別れたものの、今までずっと彼女と一緒だった。
辛い事、悲しい事がこの殺し合いでは何度もあったが、それと同じくらい楽しい事もあった。
アリス……お前だけは生きていてくれ……よくわからないが、これは私の本心だ。
「博之どのとハルヒを連れて……逃げろ……」
一瞬、彦麿が何を言っているのか分からなかった。だって、私が逃げたら、貴方死んじゃうじゃない……
いつからだろうアリスの心には、よく分からないもやもやした何かが蔓延っていた。
その靄は彦麿の事を考えると急速に濃くなるのだ。意味が……わからない……
「貴方が死んじゃうじゃない……博之に言ったでしょ? 何が何でも生きなきゃ駄目だって……」
声を振り絞って言う。
「私はお前に生きていて欲しいのだ!私の命を捨てる事が、お前の命を助ける事に繋がるのなら……私は喜んで死を選ぼう!」
「勝手よ! 博之に言ってた事は何だったのよ……」
アリスの瞳から涙が筋となって流れ落ちる。
アサクーラが唐突に倒れる。アリスの魔力が尽きたのだ。
それと同時にアリスが展開していたシールドが消え、ジアースの踏みつけの負荷が一気に彦麿へとかかる。
「ぐぅ……!!」
「彦麿!!」
アリスは悲鳴を上げる。彦麿は全身から汗を噴出させ、きっとアリスを睨んだ。
「行け……私のために逃げてくれ……アリス…」
彦麿の言葉には異様な迫力が備わっていた。もはやアリスはそれを拒否する事が出来なかった。
ぼうっとした様子の博之を引っ張り、足一本になったハルヒを持ち、一目散に逃げ出した。
残ったのは彦麿一人。しかし彦麿は全く寂しくなんてなかった。
にやりと笑い、ジアースを真下から睨む。
ふふふ……私はここで、死ぬんだろうな……だが…
「はっはっはっはっはっ!! アリス! 元の世界に帰ったら、精一杯楽しんで暮せ!
今まで思っていた人の代わりと言ってはなんだが、とにかくいい人を見つけろ!
お前の世界の事はよく知らんが、結婚して!幸せに暮らすがいい!
私は────お前の幸せを願っているぞ!」
いい出会いだった! 私はアリスに出会えた事を、あの世の住人に自慢する事にしよう!
最後まで笑みを崩さず、彦麿はジアースに踏み潰された。
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