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MG「ククク・・・お前等だけ幸せにしてたまるか。」
*THE END.60%(前編) ◆jVERyrq1dU (非登録タグ) [[パロロワ]] [[ニコニコ動画バトルロワイアル]] [[エピローグ]] ---- 「ええいHA☆NA☆SE!!俺は画面の向こうのみんなに愛と平和をプレゼンしないとだめなのだ!!」 「駄目だよKASくん!この時期に勉強しないと大変なんだから!!ね?私と勉強しよ!!」 「うわぁあああああああああAITIA自重AITIA自重!!MINTIA助けろバカ!!」 「助けを求めるのに『バカ』はないだろ……常識的に考えて」 AITIAという女の子に手を握られ、図書館へと無理やり引っ張られるKAS少年。 MINTIAはそんな二人を冷めた目で観察している。今日は気持ちいいくらいに晴天な日曜日。 KAS少年は待ってましたとばかりにマリオ64をプレイするつもりだったのだが、彼も一応受験生である。 彼を取り巻く人たちが、ゲームする事を許してはくれない。 「MINTIAくん手伝って!!KASくんはゲームしないで今から私と勉強するの!!」 AITIAに言われ、渋々手伝うMINTIA。 今日はKASに誘われ、久々にKAS動画の手伝いをするはずだったのだが、AITIAにこう言われては仕方ない。 2人でKASを引っ張り、近くの図書館へと向かう。KASがあんまり駄々をこねるのでAITIAとMINTIAは大きな声で叱った。 なんでもない、普段の光景。平和すぎる光景である。 友人と彼女がKASを引っ張る、そんな光景を物影からこっそりと観察する男が一人いた。 その男は常に笑顔で、配管工ルックに身を包んでいる。頭に着けているリボンが恐ろしいくらい似合っていない。 KASやMINTIAに比べると明らかに、不自然なほどにチビだ。 さて、その人物とは…… 「なん……だと……!?」 みんなご存じ、バトルロワイアルの打倒、そして邪神HAL打倒に成功し、殺し合いを生き延びた『KAS』である。 紫に元の世界に戻して貰って、まず最初に見た光景がこれである。 「俺は勉強なんてしたくないんだよぉおおおおおおお!!」 「大丈夫だって!!私が教えてあげるって!!」 KASは足りない脳みそで必死に考える。 あのバカっぽい男は何者だ。どうして俺の代わりにMINTIAやAITIAとよろしくやってんだあのやろぉおおぉおぉおぉお 折角無茶苦茶なクソゲークリアしてやっとKASの愉快な仲間達と再会できると思ったってのににに!! よくも俺に成りすましやがったていうな!! AITIAとMINTIAはまるで本物のKASを相手にしているように、普段と変わらない様子であの男に接している。 KASに比べて冷静だが馬鹿なMINTIA、何かとKASの世話を焼きたがるAITIA。普段と変わらない二人だ。 それをあの男に奪われた。訳の分からないあの男が、いつの間にかKASの座を奪っていたのである。 KASは大いに怒り、意を決して、3人の前に躍り出た。あのよくわからんバカっぽい男を追い払わなければならない。 自分の存在に関わる。 「やいこのバカス野郎!!俺がいない間にAITIAとバカを騙しやがったな!!おまえ何者だっていう!!」 「「「…………………」」」 3人はポカーンとした顔で怒っているニコニコ男を凝視した。 誰も口を開こうとはしない。当然である。ゲームの中のキャラが突然自分達の前に現れたのだから。 「あ……あれ?」 折角カッコよく叫んだKAS自身も、3人の反応を見て、戸惑いを隠せない。 KASはなんとなく恥ずかしくなり、カッコよく決めていたポーズを崩し、3人の前で所在なさげにもじもじした。 なんなんだこの沈黙は……俺は全然おかしな事言ってないのサ。 「おい……こいつ……VIPマリオのブーン……じゃね?」 「いいいいい言われてみればそうだな。なんというハイパーミラクル未知との遭遇宇宙の奇跡」 「お前焦り過ぎだろ……常識的に考えて」 漸くMINTIAが口を開き、人間のKASが焦りながらもそれに答える。 KASを見ながら、ひそひそと二人は話す。明らかに不審そうな態度が、KASの癪に障る。 AITIAはというと、マスコットのように小さく、いつでもニコニコしているゲームKASを…… 「なにこの子可愛いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!」 思い切り抱きしめた。人間KASの顔が青くなり、ショックを受けている。 漸く沈黙が掻き消え、念願のAITIAに抱擁してもらったKASは、ほっと一息吐く。 そしてなんだか日常に戻ったよな気がしてきたKASは、これを切欠に増長し、叫んだ。 「うぉおおおおおおおおおおおおおおAITIA会いたかったってヴぁあああああああああ!!1」 KASはどんどん調子に乗り、AITIAを…… 「てめえ何やってんだぁあッッ!!KASKASパンチ!!」 「パンチじゃなくてキックだろ」 MINTIAの言うとおり、人間KASはパンチではなくキックをゲームKASに向けて放ち、寸前のところでセクハラ妨害に成功する。 ふごっとか言いながら苦しむゲームKAS。セクハラされそうになったAITIAは苦しむゲームKASを見て慌てふためく。 「ちょっとこのバKAS!!こんなちっさい子に蹴りいれることないでしょ!?」 「黙れこのAITIA野郎!お前なんか変な事されそうになったてヴぁああああああ!!」 「私は野郎じゃないわよ!!」 「論点はそこじゃねーだろ!!」 MINTIAがツッコミを入れ、今にも喧嘩に発展しそうなAITIAと人間KASの間に入る。 「初対面で痴漢してくるような奴なんているわけないでしょ!いたとしてもあんたぐらいよバKAS!!」 「思いっきりなんかしようとしてたじゃねえかあのブーン!!なんで気づかないっていう!!それに俺はそんな失礼な事しませんッ!!」 「はいはいはいはい分かったから……」 睨みあう二人。真中に居るMINTIAが実に邪魔である。 「MINTIAのバカや私がいないとあんた何しでかすか分からないじゃない!!」 「そんな事ねえッ!!MINTIAのバカなんか全く必要ないぜ!!むしろMINTIAの方が俺を必要としてるみたいな?  こいつ俺なしじゃ何も出来ないっていうwwww」 「MINTIAのバカは元々、あんたがいても私がいても何も出来ないわよ!!このバKAS!!」 「お前ら……標的変わってるだろ……常識的に考えて……」 2人の仲裁に入っただけなのに、迸るイライラの吐きどころにされたMINTIA。 冷静な彼もさすがに少しがっかりする。 「とにもかくにもお前は誰なんだぁああああああああああああああああああああ!!!」 苦しみから復活したゲームKASが人間KASをびしりと指差し吠える。 「知るかぁぁああああああああああああああ!!!お前こそ誰だぁぁああああああああああああああ!!!」 「俺はKASだぁああああああああああああああああああ!!!」 「KASは俺じゃぁぁああああああああああああああああああああああ!!!お前ブーンだろぉおおおおおおおおおおおお!!!」 「ブーンって誰じゃぁああああああああああああああああああああああああ!!!」 2人のKASは詰め寄り、至近距離で睨みあう。 身長に大きな開きがあるので、ゲームKASは見上げ、人間KASは見下し、睨みあい叫びあう。 明らかに近所迷惑である。それを見たAITIAの瞳は鋭く光り、睨みあう二人の後方に立ち、 「うるさいッッ!!静かにしなさい!!」 「ぶごっ!!」 人間KASの頭を殴り付け、ひとまず騒動に区切りをつけた。 バカを一瞬にして、簡単に黙らせたAITIAを見て、MINTIAは冷や汗を流した。 人間KASは頭を痛そうに擦りながら、AITIAに向かって汚い口調で悪態を吐く。 AITIAはそれを華麗に無視している。 「えーっと……小さい方のKASくん?ちょっと、色々聞かせてくれないかな?」 AITIAは、悔しそうにしている人間KASを嘲笑うゲームKASに、にこりと笑顔を投げかける。 ゲームKASは頷く。こちらとしても色々話したい気分だ。自分がどんな騒動に巻き込まれていたのか二人に伝えたい。 KASは全てを話し始める。 殺し合いの事、仲間達の事、デジモン達の事、そしてみんなで力を合わせて倒した邪神の事──── 色んな事を話すつもりだ。 「こ、殺し合い!?」 「めちゃくちゃな話だな……」 MINTIAとAITIAは驚いている。無理もない。 KASはぽつぽつと、順を追って話していく。日本語のおかしさゆえに、二人は度々混乱したが、 なんとか噛み砕いて理解していく。TASの事を話し始めた時、人間KASの瞳の色が変わった。 「TASに会ったのか……」 人間KASは驚きを隠せない。ゲームKASの話が真実なら、【KAS】の宿敵はもうこの世にいないという事になる。 越えるべきライバルがいない。人間KASはほんの少しだけ、さみしいな、と思った。 「TASよりも俺はレナやつかさ、遊戯達アニメキャラに会ったってのに驚いたぜ」 MINTIAが割り込むように口を開く。 「それで、KAS1号くんはみんなで力を合わせて殺し合いを破壊したんだね」 「そうっていう」 MINTIAとAITIA、そして人間KASはゲームKASの話を咀嚼し、それぞれ考える。 あまりに突飛な話だが、何よりも突飛な存在が目の前に居るのだから、もしかするとこの話は本当に真実なのかもしれない。 ふと、人間KASは何かに気づいた。なんともげんなりとした表情でAITIAに問う。 「こいつが1号って事は……俺は2号なわけ……?」 「うん。そう。別にいいじゃない。KAS2号くんは明らかに1号くんよりも大人なんだから構わないでしょ?」 「いや……こいつ体が小さいだけで別に俺より子供ってわけじゃ……」 ぶつくさ言う人間KASに対して、AITIAが睨みを利かす。 鋭く冷たい視線が人間KASを怯えさせる。 「おk。私はKAS2号。了解しました」 「分かればよし」 「しかし……」 MINTIAが顎に手をあて、思索を巡らせながら口を開く。 「信じられないな……本当なのか?アニメキャラとかがこの世にいるわけないだろ常識的に考えて」 ゲームKASはそれを聞いてあー、と声を出し落胆する。 「これだからMINTIAはバカっていう。このリボン見ろ」 KASの頭に着けられたリボン。霊夢の存在を示す証拠である。 続いてKASは、武装連金を発動させる。銀色の防護服が構築されていくのを見て、3人は腰が抜けるほど驚いた。 「すげえ!!これシルバースキンって言うんだぜAITIA」 シルバースキンを見て、大はしゃぎする人間KAS。 「へー……凄い。カッコいいねーKAS1号くん」 「それほどでもないっさ!!信じたかMINTIAこのやろー」 MINTIAは驚愕しながら、うんうんと頷き、納得した事を示す。 「で、どうしてKASくんが二人になっちゃったんだろ」 「それだよな。1番の疑問はそれだ」 疑問であるし、そして何よりも、KASが二人に増えては困る。色んな意味で本当に困る。 ほぼ同じ人物が二人もいれば、様々な場面で困るだろう。本人達が一番困るはずだ。 口にこそ出さないが、この時、MINTIAとAITIAは奇しくも全く同じ事を考えていた。 「俺はこんな奴がKASなんて信じないっていう!」 「俺だって認めねーよ!!」 またまた喧嘩しそうになるKAS2人をMINTIAが抑える。 「でも私達から見たら、KAS1号くんとKAS2号くんは外見以外ほとんど同一人物だよね」 「ああそうだな。1号の方が若干テンション高くて日本語おかしい気がするが……」 「1号くんの方が可愛いしね」 妙に納得している2人を恨めしそうに見て、KAS1号は問うた。 三人と出会ってから一番気になっている事である。 「一つ聞かせてくれなのサ。俺は今まで三日間殺し合いの中で戦いまくってたけど、  AITIAやMINTIAや、そこの俺もどきは、三日間普通に生活してたのか?」 1号の問いかけに、3人は顔を合わせて考え会い、1号に向かって揃って頷いた。 殺し合いなど一切関係なく、普通に三日間を過ごしていたようである。 やっぱり、そうだったのか……。半ば予想していた事ではあったが、この時、1号の方のKASはたまらない虚無感を覚えた。 日常に戻るために、殺し合いの中奮闘してきた。レナ達と共に神を打開し、クソゲーをぶっ壊し、漸く日常に戻る事が出来ると思っていた。 そのためだけに、日常を取り戻すためだけに命を賭けて戦ってきたのだ。 それなのに、帰った世界では別のKASがいて、普通に生活を送っていて。 KASの席はどこにも開いていなかったのだ。 「じゃあ……という事は、AITIAとMINTIAにとってのKASは俺じゃなく……そこにいる奴なのかっていう?」 AITIAとMINTIAは顔を突き合わせ、お互い苦い顔をした。 『三日間普通に生活していたのか?』という問いに対して、簡単に頷いてしまったのは明らかに失敗だった。 KASの問いにどうしても答える事が出来ず、沈黙しか出来なかった。 確かに、確かにAITIAとMINTIAにとっての本物の『KAS』は、1号ではなく2号、つまり今までずっと友達だった人間のKASの方である。 だがしかし、KAS1号は殺し合いを強いられ、何とかしてこの世界に戻るために奮闘してきた。 そんなKAS1号に対して、本音を言えるわけがない。故に、沈黙を貫くしか出来なかった。 言葉を発せずとも、伝わる気持ちも勿論ある。AITIAとMINTIAの沈黙は、下手の言葉よりも遥かに彼らの『本音』をKASに伝えた。 2人から滲み出る本音は、KASの心を何よりも抉り取った。 AITIAとMINTIAにとっての『KAS』は、俺ではなくそこのバカっぽい人間…… KAS1号は沈黙から二人の本音を読み取り、そしてこれ以上ないほど傷ついた。 『KAS』はもういる。本物のKASは三日間普通に日常を謳歌していた。 偽物のKASには入りこむ隙などかけらもないような日常がそこには存在していた。 ゲームKASは人間KASを睨みつける。 今、KASは二人いるが、AITIAとMINTIA、弓道部の友人達、そして家族はそれぞれ一人ずつしかいない。 『KAS』の椅子は、すでに目の前の男がキープしている。ゲームKASには元々、戻るべき日常など用意されていなかったようだ。 KASは不自然に、爽やかな声を出す。AITIAとMINTIAに自らの悲しみを悟られないように。 「なるほど。俺には帰る日常なんて元々なかったというわけか!!」 「KASくん……」 自分は偽KAS。そう認識すると、KASの頭は今までにないほどクリアになり、謎だった事に気付き始める。 そうか……そう言う事だったのか……!! 「そりゃそうだ!!」 KASは大きな声で叫んだ。両目には涙が溜まっている。 「ニコニコで人気なのはKAS本人じゃなくKASが動かしていたキャラ、つまり俺の方ってことか!!  ノヴァとかマルクとかピエモンとかが、KAS動画からキャラクターを無理やり召喚したんだってヴぁ!!  KAS本人じゃなくキャラクターを!!!だから俺はこんなに運動神経いいし!!ニコ動知識もたっぷりある!!」 「おい……KAS……」 様子がおかしいKAS1号を、AITIAとMINTIAが心配そうに見つめる。 人間KASはというと、よく分からない複雑な表情をしている。 「折角頑張ったのに俺の帰る場所はない!!居場所はどこにもない!!わはははははははははははははは!!!  もしかして俺の行動は全部全部無駄だったってことなのか!!みんなで頑張った打開したのも無駄だったてか!!」 「おい……そんな事言うなよ」 MINTIAがKAS1号に手を伸ばす。 「触るなっていう!!」 KASはMINTIAの手を振り払い、泣くように叫ぶ。 「他人の人間関係を無理やり乱すほどこのKASは野暮じゃないのサ!!  俺は、俺はAITIAとMINTIAと本物KASの前から潔く消えるってヴぁああああああああああああああああああああ!!!」 MINTIA、そしてAITIAの制止を振り払い、KASは無理やり笑いながら、物凄い勢いでどこかへ駆けて行った。 「追いかけよう!!KASくん!MINTIAくん」 「おう、わかってる!」 「…………」 AITIAが一番に駆け出し、続いてMINTIA、最後に未だ微妙な表情の人間KASがゲームKASを追いかけ始める。 しかし、追いつけはしない。バトルロワイアルを乗り越えたKAS1号は、紛れもない『最速の男』へと変貌していた。 だがしかし2人は諦めない。何が何でもゲームKASを捕まえなければならない。 捕まえて何をするかはまだ分からないが、今はとにかく、悲しんでいるKASを捕まえて、話を聞いてやらなければならないのだ。 ここでゲームKASを逃せば、きっと彼は駄目になる。 「無理だ!だってあいつブーンだぜ!?AITIAは知らないかもだけどあいつゲームの中で凄い動きするんだぜ!?」 「やかましいバKAS!!それでもあの子をほっとけるわけないでしょ!!」 早くも諦めかけている人間KASをAITIAは一喝する。 そう言ってる間にも、どんどんどんどんゲームKASとの差は開いていく。 完全に見失い、3人はぜいぜい言いながら足を止める。 「どうする……!?見失ったぞ……!あいつ早すぎるだろ常識的に考えて……!」 息を整えながらMINTIAが二人に向かって尋ねる。 「先回りするしか……ないよ……!あの子はほとんどKASくんだから……!  KASくんがこういう時に行きそうな場所を考えれば……!」 「KASどこだ!?あのブーンはどこ行くんだよ!」 ぜいぜい喘ぎながらも、KAS1号捕獲作戦を組み立てていくAITIAとMINTIA。 しかし人間KASだけはいまいち乗り気ではない。喘ぎながら、暗い顔をしている。 さっさと言えよ、と迫るMINTIAに対していつまでも口を開こうとはしない。 「お前らなあ……」 漸く口を開き、発した声はどこか悲しげな色を帯びていた。 ゲームKASにとって、人間KASの存在は鬱陶しくて仕方がないだろう。 KASは二人いるが、AITIAやMINTIAはたった一人しかいないのだ。『KAS』の椅子は一つしかない。 だからこそ、人間KASには分かる。ゲームKASを追いかけ、捕まえたところで、何も解決しない事を。 ゲームKASは人間KASに気を使っているのだ。だからこそ、AITIAとMINTIAを振り払いどこかへ逃げて行った。 自分が自分に気を使っている。自分のためを思い、自分は自重している。 文にしてみれば変な感じだが、実際このような事が起こっている。 「KASは俺だぞ……あいつはKASじゃないんだ……あいつをどうするつもりなんだよ  KASは……KASは俺だ……これは紛れもない事実。あいつは俺がいる限り『KAS』じゃない!!捕まえてどうする気なんだよ!!」 KASの主張に、AITIAとMINTIAは猛然と食ってかかる。 「そういう問題じゃないでしょうがバKAS!!」 「あいつは今まで殺し合いに参加させられてたんだぞ!?相変わらず馬鹿だなお前!!」 KASは本当に悔しそうに2人を睨みつけ、ある方向を指差した。 「向こうだよ!!向こうのスーパーの辺りを探せばいると思うって!!」 「分かった!じゃあ行くぞ!」 「俺は探さないからな!」 はっきりと、KASはそう言った。 KASの言葉にAITIAは呆れ果てる。 「あんたねえ……あの子は殺し合いに参加させられて、やっと日常に戻って来たのよ?  なんであの子をそんなに毛嫌いするのよ。あの子とあんたは同一人物でしょ!?」 「お前らは全然分かってない。同一人物だからこそ、捕まえても無駄っていうのが分かるんだよバカAITIA!!」 睨みあうKASとAITIA。 「もうそいつに何言っても同じだよ。バカだから」 MINTIAが乾いた声で言い放ち、AITIAに早く追いかけようと詰め寄る。 AITIAは、バKAS、と一言だけ言い捨て、MINTIAと共に再び駆け出す。 必死になって自分の分身を救おうとする二人を乾いた眼で眺め、人間KASはどこかへ歩いて行った。 ▼ ▼ ▼ 3人を振りきったゲームKASはあまり整備されていないあぜ道をとぼとぼと歩いていた。 人間KASの存在は本当に予想外だった。日常に戻るために奮闘したはずなのに、まさかその日常が元々存在していなかったとは…… 自分はノヴァか何かによって生み出された『KAS』であり、本物の『KAS』ではない。 MINTIAやAITIAと遊んだ記憶も、今まで生まれてきてから経験した全ての記憶も、全部作りモノなのだ。 死にたくなるくらいひどい事実である。 これからどうしようか…… ここには自分の居場所はない。となると、新たな居場所を見つけるしかないだろう。 いったいどうやって……。今思えばこんな配管工スタイルではただの浮いた奴じゃないか。 AITIAやMINTIAはもはや他人だ。偽物ではなく本物のKASがいるのだから。 KASの椅子は残念ながら一つしかない。二人に頼る事は出来ない。 頼りたいけど……またMINTIAとゲームしたり、AITIAと遊んだりしたいけれど、それも出来ない…… 自分には資格がない。自分には2人と仲良くしていい資格がない。 本物のKASは自分ではなく、あの男なのだ。『KAS』の日常を、KASが奪っていいはずがない。 バトルロワイアルに参加して、日常の大切さを何よりも理解したKASには、人間KASの生活を脅かす事など出来ない。 したくもない。 「うう……ううう…………くぅ」 KASは溢れそうになった涙を袖で拭き取る。 けれど涙は次から次へと噴き出してくる。 散々泣いた後、ある人がKASに声をかけてくる。 「あんた……どうかした?」 泣いているニコニコ少年が気になったのか、前から自転車で迫って来た中年女が、 KASの傍で立ち止まり、声をかける。KASは袖で涙を拭きながら、俯いたまま「何でもないっていう」と答えた。 どうみても何でもなくはない少年を、中年女は困ったように見つめる。 中年女は仕方なく自転車を道の脇に止め、KASの頭を撫でてあげる。 何故ここまでこの少年が気になるのか、中年女には分からない。 理由は不明だが、何故か放っておけないものがこの少年からは感じられる。 「げっ……」 「あ、KAS」 MINTIAとAITIAを騙し、一人だけ先周りに成功した人間KASは、中年女がゲームKASの頭を撫でているのを見て苦悶の声を上げる。 「母親に向かってげっ、とはなによ」 「あ……いや……。それよりそいつ、もしかして」 「あ、知ってるの?この変な子」 人間KASは中年女を引っぺがし、ゲームKASを凝視する。 ゲームKASは相変わらず俯いたままだ。 「おい、顔上げろよ」 人間KASは半ば無理やり、ゲームKASの頭を上げさせ、中年女を彼に見せる。 涙と鼻水でぐしゃぐしゃになったゲームKASは、人間KASと同じように「げっ」と言い、中年女を凝視する。 「こ、こんなところでママンかよ……」 「は? ママン?」 中年女は困惑している。 「ちょ、ちょっと母さんごめん」 人間KASはゲームKASを抱き抱え、母親から離れる。 「なんだよ。なんのようだっていう」 1号は2号の腕の中で問いかける。 「あー……えっとなあ…………俺だって鬼畜じゃねえんだ……」 KAS2号はしばらく言い難そうにしていたが、やがてぽつぽつと言葉を紡ぎ始める。 「俺、今日は弓道部の友達の家に泊まろうかなあ……だから別に今日くらいなら……  誰かが俺の家でAITIA達と仲良くしても、誰も困らないなあー……俺も困らないなー  適当な友達の家行って、俺は俺で遊ぶからな……」 「…………? そ、それはどういうことなのサ!」 「誰もお前の邪魔をしないって事。お前はなんにも自重しなくていいって事……  俺の心配もしなくていい……本物とか偽物とか、今日だけは考えなくていいって事……だよ」 人間KASはゲームKASを下ろし、母親にゲームKASを家に泊めるよう交渉を始める。 驚き、困惑する母親を、人間KASは根気強く説き伏せていく。 「あんた何にも知らないような子を泊められるわけないでしょうが」 「頼む!しばらくゲームもパソコンも触らないからお願い!あ、あとAITIAとMINTIAも泊めさせてやってくれ!  俺は今日友達の家に泊まるからよろしく」 母親はげんなりした様子でKASに向かって口を開く。 「あんた言ってること無茶苦茶でしょ……」 「だからお願いだって」 「お願いしますぅうううううううううう!!ママン!!!」 ゲームKASは土下座し、訴える。それを見た母親はうろたえる。 「お願いだって母さん。あいつは母親いない可哀想な奴だぜ!母さんの事を実の母親と間違えてるぜ!?  どーする!?どーすんの母さん!?!?!?」 「分かった分かった!!やかましい!!」 これくらいですぐ折れるのはどうかと思うが、やはりそこはKASの母親、彼女も細かい事をとやかく言う方ではないようだ。 それに人間KASが友達の家に泊まるというのは、母親にとってなかなか嬉しい事である。 人間KASがいると、家の中が煩くて煩くて仕方がないからだ。 「MINTIAとAITIAちゃんはこの子知ってるの?」 「当たり前だのクラッシャー!知り過ぎてるくらいだぜ」 それを聞いて母親は安心する。MINTIAとAITIAなら安心できる。 二人に任せておけば何の問題もない。たったこれだけの事でKASが今晩いなくなるのはなかなかの好条件である。 「そう。なら、まあいいわ」 「ありがとぉおおおおおおおおおおおカーチャン!!」 ゲームKASは母親に飛びつく。ぐはっ、とか言って母親はバランスを崩し、地面にぶっ倒れた。 「バカッ!いきなり飛びついて来るんじゃないよッ!!」 ゲームKASをほどほどに叱り、埃を落としながらカーチャンは立ち上がる。 「俺はバトロワから復帰したんだぜカーチャン!!見事大活躍した俺の雄姿を教えてやりたいぜカーチャン!!」 「分かったわよやかましい!!何なの、KAS並みに騒々しい子だねぇ!!」 カーチャンの口調は荒っぽいが、どことなく漂う優しさが言葉の毒を抜いている。 「KAS並みじゃねえ!!俺はKASだ!!」 「はあ?」 カーチャンは困惑する。それを見て人間KASが口を開く。 「そいつの名前はKASだ。あだ名じゃなく本名がだぜ。  ま、今日は俺は友達の家で泊まるから、そいつをKASとして扱ってやってくれ」 「…………なんで?」 ちっ、物分かりの悪いババアだ。人間KASは心の中で毒を吐く。 「何でもいいから!そいつは色々とカワイソーな目に会ってるからな!  KASとして扱えって言ったらKASとして扱えってんだ!!」 「母親に向かって偉そうな口きくんじゃないよ!!何だか知らないけど、  この子供は外見以外あんたに瓜二つだから嫌がおうでもKAS扱いしちゃうんじゃないの?」 「さすがだババア!!すげえいい加減なババアだぜ!!」 「ババアとはなんだ!!!二度と帰って来るな!!!」 怒り狂う母親から人間KASは全速力で逃げ出した。 母親はやれやれといった風に溜息を吐き、ゲームKASの方に向き直る。 「あんた名前は?MINTIAとAITIAちゃんの事知ってるの?」 「さっきも言ったが俺はKASだ!!MINTIAとAITIAは知りすぎて困るくらいだぜ!!  俺を見くびるなクソババア!!!」 「クソババアとはなんだ!!!」 母親はつい脊髄反射で、ゲームKASの頭をぶん殴った。 KASは痛くて痛くて死にそうだったが、漸く日常に戻れたことを実感した。 母親は、じゃあ行こうか、と言い、KASはそれに元気よく頷く。 母親の乗る自転車の荷台にKASはちょこんと座り、二人乗りで我が家へと帰る。 邪魔者は、人間KASはもういない。ゲームKASはとうとう日常に戻れた。 「あのバカ!今日は友達の家でずっと遊ぶんだってあのバカ!!1号くんほったらかしで!!  身勝手すぎるわあのバカ!!最低すぎるわあのバカ!!」 「バカバカ言い過ぎだろ……常識的に考えて」 AITIAは人間KASから送られてきたメールを読み、怒り狂う。 結局、スーパーの近くにはゲームKASはいなかった。 ゲームKASがもしかしたら家に戻っているかもしれないと思い、MINTIAとAITIAはKAS家に引き返したのだ。 しかし、ゲームKASはいない。人間の方も勿論いない。 「あ、またバKASからメール来た」 AITIAは携帯を開き、確認する。 『お前ら今日は俺んちで泊まっていけ。これは命令っていう。MINTIAは俺のAITIAに指一本触れないようにくれぐれも注意しとけ  お前らの他に、特別ゲストが泊まると思うから、くれぐれも『いつものように』対応する事。あとは頼んだ』 「どういうことだこれ?」 MINTIAが疑問符を浮かべる。 「……勝手な奴ね。MINTIAくん。しばらくの間、最低な方のKASは忘れようか」 「え? は?」 「おーいMINTIA、AITIAーーーーーーッッ!!わははははははははは!!」 小さい方のKASと、その母親が自転車二人乗りでMINTIAとAITIAの方へ向かってくる。 KASは馬鹿笑いしながら手をぶんぶん振っていた。 力いっぱい手を振る。どっちみち、いつかはみんなの前から消えなければならない。 KASの椅子は一つしかない。突然現れたゲームKASが人間KASの立場を奪ってはならない。 ゲームKAS自身、そんなのは嫌だ。 だから、今日、今日だけは精一杯日常を満喫する。 真のKASがくれた一瞬の日常。真のKASがくれた気配り。無駄にしてはならない。 たった1日しかないゲームKASの日常。ゲームKASは、明日にはどこかへ消えるつもりだ。 そうしなければ今度は人間KASの日常を自分が奪ってしまう事になる。 KASは、この時間を大切に使おうと思った。2度と手に入らない、かけがえのない時間だから…… 霊夢、レナ、日吉、つかさ、遊戯、カービィと共に死に物狂いで勝ち取った、一瞬の日常を──KASは大事にしようと思った。 「KASくーーん!!」 AITIAがKASに答えてぶんぶん手を振り返す。 それを見てMINTIAも手を千切れんばかりに振る。 KASは自転車から飛び降り、二人の元へ超特急で突っ走った。 「フライングボディアタック!!」 「ゲバっ!!」 KASはMINTIAにタックルをかまし、それから馬鹿笑いした。 この日、KASは幸せだった。KASの体、そしてKASの記憶はノヴァに作られたものなのだが、それは些細な事に過ぎない。 とにかく、KASにとって最後の日常であるこの1日は、人生最高の1日となった。 例え一瞬で終わろうとも、そしてKASが『作られたKAS』であっても、楽しい事に変わりはなかった。 |ep-1:[[ベルンカステルの07(後編)]]|[[投下順>201~250]]|ep-2:[[THE END.60%(後編)]]| |sm233:[[第三次ニコロワ大戦Ⅴ ――Happily ever after]]|KAS|ep-2:[[THE END.60%(後編)]]| ----

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