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それぞれの誓い~天海突破~ ◆CMd1jz6iP2




「わぁ、やっと見つけた!」
これでやっと活躍できる。私の胸は高鳴っていた。
男の人と、その後ろに掴まった私と同い年くらいの女の子。
いけない、この距離だと逃げられるかもしれない。
「疲れるけど…行っくぞー!」
目の前の二人がどんな武器を持ってるかわからない。
殺さないと…このアイスソードなら一発のはず!

「つかさちゃん!逃げるんだ!」
あの少女を説得しよう。危険な相手でもあの剣を振るうには距離がある。
そう思い、足を止めた…それが間違いだった。
女の子は、大剣を天高く掲げている。
まだ十分に距離はある。いくらなんでも届くはずはない。
だが…俺の直感が告げている。死ぬぞ、早く逃げろ、と。
だから俺は、俺の服を掴んでいる少女を

「えっ…きゃ!?」
突き放した。俺の近くにいるのは危険だ。
無事に…逃げてくれよ。

俺はジグザグに走り、相手の攻撃の的を絞らせない。
振り下ろされた剣から、何かが俺に向かって飛んでくる。
筋肉を全力で使い、真横に飛ぶ。無様にこけるが気にしてる場合じゃない。
「ッ…おいおい…何の冗談だい、こりゃあ」
俺のさっきまで居た場所が、完全に凍りついている。
もし、直撃…いや、カスっても確実にオダブツだ。
「くそ…待て!俺たちは…」
説得を試みようにも、すでに少女は第二射の構えだ。
避けないといけない…だが、立ち上がろうとした俺の足に激痛が走る。
「挫いたか!?くぅ…!!」
岩陰…ここに隠れれば…!
少女が放った吹雪が飛んでくる。

「だ、ダメか…」
俺をすっぽり隠せるほどの大岩が凍りついていく。そして
岩は砕け、氷の散弾となって俺を襲った。
「つか…さ、ちゃ…」
無事に、逃げてくれ…そう思ったのを最後に、俺の意識は途絶えた。

彼は倒れたまま動かない。これで倒したことになるのだろうか?
気がつくと、もう一人の女の子は見当たらなかった。
逃げられた…せっかく二人も一気に倒せるところだったのに。
「こうなったら、この男の人だけでもトドメを刺さなくっちゃ」
スタッフの人が出てこないのだから、また生きてることになってるはず。
あの吹雪は疲れる。直接にしよう。
そう思って、倒れた男に近づく。
うう…やっぱりお芝居でも、人を殺すなんて怖いな。
でも、私はトップアイドルになるんだから…やらなきゃ!
あんなに歌ってPR出来たんだがら、後はいいよね。
次は…私が目立つんだから!

ギターの音が風に乗って聞こえた…空耳?
ヒュッと風を切る音がした。
バシッと音がして、顔に痛みが走る。
「あう!?な、何?」
地面に転がっているのはテニスボール。誰、さっきの女の子?
飛んできた方向に、目を向ける。
そこに居たのは、赤い衣装に身を包んだ、蜘蛛みたいな人だった。
特撮の人に違いない。やっぱり、こういう時もヒーローを演じないといけないんだろうけど…
「だ、誰、です?」
本当に知らなかった。私と同じ、マイナー路線の人なのかも知らない。
すると、男はポーズも構えようとして…それを中断し、走りながら叫んだ。
「英雄の代理人、スパイダーマッ!」

ポーズを決めている場合ではない!あの男を、もう一人の英雄を助けなければ!
だが、俺の歩みは止められた。英雄の首に当てられた、氷の剣によって。
「そ、それ以上近づくと…こ、この人、殺しちゃいますよ!」
くそ…これ以上近づけば彼の命が…
スパイダーブレスレットがあれば、あの剣を奪うことが出来るというのに…
現実は非常だ。俺の武器は英雄の魂が篭ったギター、そしてテニスボールに人形…
更に、あの少女の武器。どうやら氷を操るらしい。
俺のスーツは高熱も銃弾も受け付けない。
だが、冷気だけは防げない。蜘蛛だからだ。
スパイダーエキスを注入された、俺の最大の弱点…まさに状況は最悪といってもいい。
ここまで来たというのに…何も出来ないのか
俺の挙動に全霊を注いでいる少女が動いた。
剣を振り上げ、冷気が剣を包み込む。これを回避し、彼を助ける!
だが、少女は…突然、剣を重さに任せて真横に振る。…なぜだ?
「ッ…し、しまった!」
俺はその理由に気付いた。
なぜ、俺は護るべき者が一人いないことにすぐ注意を向けなかった…
その後悔は、氷の大剣を振るう少女の後ろ。飛び掛ろうとしている、彼女に向けられ―――

いさじさんが倒れている。
とっさに隠れた私が見たのは、動かなくなったいさじさん。
倒れた、いさじさんに剣を持って近づく少女。
殺されちゃう。殺されちゃうよ。私を護ってくれたあの人が、殺されちゃう!
それでも私は動けない。怖くて、恐ろしくて、一歩も…
そこに、ギターの音がした…福山さん!?
何か飛んできた。それが、大剣を持つ少女に当たった。
飛んできた方向を見て、私は目の前が真っ暗になった。
(スパイ…ダーマッ…さん…)
どうしてここにいるのか。怪我をした福山さんを放り出して?
その手に持ったギターは誰の物?まさか…福山さんを※して、奪ったの?
「だ、誰、です?」
少女は問う。その答えは、最悪の可能性を否定した。
「英雄の代理人、スパイダーマッ!」
………英雄の、代理人。
福山さんの代わりに、私たちを助けに来てくれた。
福山さんはどうしたのだろう…怪我が酷くて一緒には来れない?
そう思いたい…でも、きっと違うのだろう。
その意味を受け止めることは、あまりに重過ぎる。
でも、彼は間に合った。きっと、福山さんの意思を守った。
無駄にしたくない。恐怖なんて引っ込んじゃえ。
福山さんと、いさじさんと、私…その歌に乗せた想いは、無駄なんかじゃなかった。
なのに、彼女はその想いを継いだ人を、そしていさじさんを殺そうとしている。

私が止めなきゃ。

私がこうして生きてるのは、いさじさんが守ってくれたから。
だから…私も守らなきゃ…いさじさんのことを。
あの少女はスパイダーマッさんに注意を向けている。
私はこっそりと後ろに回りこむ。
彼女の後ろ、向こうからは見えない場所に身を隠す…よし、気付いてない。
ちょっと熱っぽい体が重い。殴られた体が無理をするなと、痛みで抗議する。
でも…少しくらい、私も頑張らなきゃ。
走る。走って、あの剣を奪って…
そう、思って…私は少女が、標的を変えたことに気がついた。
時間が、ゆっくりに感じる。
目の前の少女は、剣を大きく真横に振ろうとしている。
そう、私を狙って。
走った私は、足をもう止められない。
怖いよ、あの緑の髪の子と同じだ。
やっぱり怖いよ、お姉ちゃん。
恐怖の震えは一瞬で全身に回り、熱と相まって私の足をもつれさせる。
あっ、と思ってももう遅い。
倒れないように何かを掴んだけど、それはほとんど倒れた後だった。
私は、いさじさんを助けるどころか、転んで人質を増やすだけに…

「きゃあ!?」
え?なんで、この子が悲鳴を?

アイスソードが空を切る。
視界にいたはずの少女の姿がない。足元?
足首を、そのまま掴まれ…私も豪快に転んでしまった。
「いたた…」
ああ、早く立たないと。アイスソードを掴もうとするが、手には何もない。
「あれ?」
空が見える。太陽の光に何かが反射して、虹を描く。
綺麗だな、と思った。それが、何かもわからずに。
虹の発生源は回転して、落下してくる。
1秒なかった。地面に落ちるまでの時間は。
ザクっと、おとをのこして あ い す そ ー ど は
「え?」
私 の 、 て く び につき さ さ った
「いたい」
目が覚めるような…などという、そんな生易しいものではなかった。
「い たいです」
悲鳴が激痛が脳を駆け巡るのに、声に出ない。
「やだ、いたい、いたい、いたい」
血が吹き出ない。だって、凍ってるから。
ドンドン、手首から腕に向かって凍ってきてるから。
空に綺麗な虹を創った吹雪の欠片が、わたしのうでを、た しのうで

「嫌ああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアあああ!!!」

咽が裂けるような悲鳴しか出ない。私の痛みも恐怖も、10分の1も表現できない。
「ゆめ!ゆめだよ!じゃないとへんだから!これはおしばいなんだから!!」
凍りつく速度は止まらない。肘の手前まで凍り付いていく。
もう片方の手で押さえる。手のひらが、すぐ凍ってボロボロになっただけだった。
「ほんとのことじゃない!ころしあいも!ぜんぶうそなんだから!てくびがきれるなんておかしいよ!!」
答えを口にしながら、私は理解を拒否した。
なんでわからなかったんだろう。目の前の人は動かなくなってるのに。
お芝居なら、あそこまで必死に、私の攻撃から逃げたりしないから。
「うそ、はやく、だれでもいいからたすけて!ちはやちゃん!ちはやちゃん!」
死んだ、はずがない。あんなに真面目で優しい、誇れる仲間が殺されたなんて。
「まみちゃん、どこにいるの!?こわい、こわいから!もうみんなでてきてよぉおお!」
もう泣き喚くだけになった私の、肩まで凍り付き始めて。
そこに、両手が置かれた。
「止まって、止まって…!」
何が起こっているのかわからない。その手は私の足を掴んでいた手。
紫色の髪の少女が、必死に凍りつく場所を押さえている。
「なに…なんで…」
少女の手の体温など瞬時に奪われる。皮膚は凍りつきずたずたになる。
それなのに、目の前の少女は、凍りつくのを止めようとしている。
全身スーツの男が手首を貫いたアイスソードを抜き捨てる。
それでも、凍りつく速度は止まらない。手首の末端から、氷が砕ける。
もう止めるには、凍った部分を取り除くしかない。

「なにか…なにかで止めないと!」
彼女は必死だ。それを見ているだけで、自分の愚かさを見ているようだった。
私のディパックから、何かを取り出す。
ああ、そんなものより木刀が入っているのに。彼女は気付かないのだろうか。
取り出した六角形の大きな石
それで氷を叩く。叩くたびに、彼女の手から血が流れていく。
痛くはない。砕けた場所の神経など、とっくに凍りついている。
凍った部分を砕こうとしているのだろうが、もう、肩すら凍りついている。
もう砕ける段階を超えていた。
全身スーツの人は、倒れた男性の容態を確かめている。
後悔を含んだ、悲痛な声で…彼女はもう無理だと少女に言う。
これはただの末路なのに、なぜ目の前の彼女が泣きじゃくるのだろう。
無事かなぁ、あの人。無事だと…いいんだけど…
氷が、胸にまで到達する。あ、心臓がツメタ…
「これ以上…誰かが死ぬのは…嫌だよおぉぉぉ!!」
目の前の少女はただ一生懸命なだけだ。それだけに悲しい。
ダメダヨ…今振リ下ロシタラ、ダメ。
私ナンカノ心臓ヲ、砕イテ悲シンダラ、カワイソ

ガシャン

この殺し合いから抜け出したいなんて言わない。
せめて、あの時。白石さんを突き落とす、その前に戻れたら…
なんとか力を合わせて生き残ろうとして…そのうちおかしいことに気がついて…
そして、あっさりと殺される。それでも、きっと今よりは幸せだった。
人なんて殺さずに済んだのに。誰も傷つけなくてよかったのに。
プロデューサー。そういえば、やっとわかりました。
私がアイドルとして成功しなかった理由。
私は信じて歩いてきた…私を導いてくれた、あの人を。
自分のことも信じられない、そんな私が信じたあの人は…言ってくれたのに。

「俺も、見習いプロデューサーだから自信は無いよ」
初めての…オーディションの日の記憶だ。
「そ、そうですよね…今日のオーディションは練習のつもりで…」
「でも…それは駄目だ」
「ど、どうしてですか?だって、私なんて、まだ歌も踊りも…」
「この業界は勝たなきゃいけない。それだけが生き残る道だ」
「でも、私…自分に自信なんて、持てません!」
「だったら、俺を信じてくれ」
「…プロデューサーさん、を?」

「俺は君を信じた。歌うことが好きな、君の可能性を。だから…春香は、俺が信じた君を信じてくれ!」

本当に馬鹿だなぁ、私は。私が成功しなかった理由。そんなの…
あの人が信じた私を、私が信じなくなったからじゃないか。

「また、一からやり直しなんて…私、もう引退した方がいいんじゃないでしょうか?」
引退ライブの失敗。私は最後の最後まで、自分を卑下してきた。
そんな私のことを、プロデューサーさんは、言ってくれた。
「俺との思い出を忘れるな」って。
あの時、私の前に…たしかに光は再び射したのに…馬鹿な私は、それも忘れてしまった。
それから、成功を続けるアイドル仲間達を見て。自分の不甲斐無さを嘆いて。
…私の心は徐々に腐っていった。
そして、その腐った心は…他人の命まで奪った。

プロデューサーさん。私、どうすればよかったんでしょう。
私、あなたがいないと何も出来ない。現実を受け止めも出来ない
千早ちゃんの歌がもう聞けないのに。真美ちゃんの笑顔がもう見られないのに。
白石さんを殺したのに。私のために、泣いてくれる人がいるのに…
私を助けてください。私に答えを教えてください。私を、わたしヲ、ワタシ、…、!

「俺じゃあ、力にはなれないよ」
あれ?なんだろ、この記憶。
「だって、俺を信じろって…私は、あなたの信じたことを信じますから!」
「本当にゴメン。だけど、俺に頼っても…俺は君を助けられない」
ははは、私…きっと壊れちゃったんですね。だから、こんな…
「幻なら…何か、私を励ましてくれてもいいじゃないですか!」
「……春香、君は今もまだ歌が好きかい?」
「え…はい。好き…だと思います」
「そんなはずはないよ」
あは…そうですよね。人気、なんかのために人を殺した、私は…

「君は、歌が大好きだ」
「え…?」
「俺は知っている。『だと思う』、なんかじゃあない」
夢なのに、壊れた私の妄想なのに…光が…差し込んで来る。
「俺の『最愛のアイドル』は、歌を歌うことが本当に大好きなんだって」
は…はい!プロデューサーさん!!
「ほら…歌が大好きな自分…信じられただろう?」
はは…本当ですね。私は歌が大好き…これは絶対です!!
「それと同じさ…信じろ、春香。自分自身の力を」
「…プロデューサーさん、さっきは力になれないって言ったくせに」
「何もしてない。ちょっと話しただけで…君を守れない」
大丈夫です。子供じゃないんだから、自分のことくらい自分で何とかします!
……信じてくれますか?
「俺は信じるよ。これが夢か幻か…なんでもいい。とにかく信じるよ」
私も信じます。これが夢でも、本当でも、私は始めて信じます。
「私は私を信じます。私は…プロデューサーさんが思う私だって、越えてみせます!」

あれ、ここはどこだろう。さっきまで、プロデューサーさんと…

「ダメじゃない、春香。ここに来るのは少し早すぎるわ」
「ってえー!?千早ちゃん!それに真美ちゃん!?あ、あれ、あれ?」
プププ、プロデューサーさんは!?ていうか二人とも何で天使コスチューム!?
「どうしてすぐ来るかなぁ、春香もー!1000年生きてよ、はるかっかー!」
「む、無理ー!あ、あの、ちょ、よく状況が…ねえ、プロデューサーさんは!?」
「さあ…お互い夢を見てたのか、幻か…もう朝だから、向こうが起きただけかもね」
なら、ここは夢?それとも…現実?
「夢でもいいじゃん!妄想でも本当でも、答えが見つかりそうなんだよね?」
「春香が信じた道…応援してるから」
千早ちゃん…真美ちゃん…あれ?
「思い出した…もう、無理です」
ここに来るのは当然だ。だって、もう私は死んだのだ。
「それなら、帰れなんて言わないよー?」
「いや、でも心臓がこう、ガッシャーンって…」
「いえいえ、閣下のフォースの力が心臓など必要としないまでに高まって…」
ゴツンと千早ちゃんに真美ちゃんが殴られた。
それなりに、楽しそうにしてて良かった。
良くわからないけど、生きられるなら生きてみたいけど…

「ダイジョーブ俺が保障します、この白
「それと…トップアイドルにも、なれると良いわね」
「そっちはもう…片手のないアイドルなんて、聞いたことも無いよ」
「すぐ諦めないー!それとも、こっちに住むの?その手も治るけど?」
うう…なんか怖いこと言われた。
「う、ううん。もう、行くね、千早ちゃん。…もっと、話したかったな」
「お互いに…少し避けてたものね」
アイドルとして成功する仲間達に、話しかけるのが辛かった。
私が避けるから…みんなも、少しずつ距離が離れていった。
永遠に別れることになるなんて、知っていれば私は…
「もし、ここにまた来たら…前みたいに…歌、聞かせてくれる?」
「…新曲でも作って待ってるわ。でも、早く戻ってきても、聞かせないわよ?」
「ここに来るのはゆっくりでいいからねー。応援してるよ、白石兄ちゃんとね☆」
白石さんか…うん、そうだよね。
「あ、あの、白石でーs
「約束はできないけど、頑張る…私のできることを!何か…きっと!」
ゴメン。ゆっくり、なんて無理かもしれない。
だって私はこれから全力で。昔の自分を飛び越えないといけないんだから。
ここに戻ってくる時も、全力で転んで滑り込むかもしれない。
それでも…また戻ってきたら、教えてね。
私は、みんなの知ってる天海春香を越えられたのかを。

「わ、わわー!目が、目が覚めたよー!」
いさじさんの様子を見ていたスパイダーマさんが駆け寄ってくる。
「本当に…生きている、のか?」
スパイダーマッ!さんは、かなり驚いてる。それは私も同じだ。

私の目の前で、ううん…私が彼女の心臓を砕いた。
殺しちゃった。そんなつもり、なかったのに…
絶望って、こういうことを言うんだって、本当にそう思って…
手に持っていた石が、心臓があった場所に吸い込まれていくのにも、気付かなかった。
「どうなっているんだ…?」
スパイダーマッ!さんが、その異変に気がついた。
心臓があった場所の傷が、ない。
それどころか、肩口くらいまで、凄い速度で体の再生が始まっていた。
腕は戻らなかったけど、血色が良くなって…今、目を開いた。

「どうして生きてるんでしょう…私」
何とか立ち上がって…胸の痛みが響く。
「あ、あの…良くわからなくて…」
目の前の少女があたふたと、半ば混乱している。
その手は、ボロボロで。良く見れば、全身に打撲の後が無数にあった。
「…手、ごめん、なさい…」
「え…あ、その…ううん、私のことはいいの。それより…」
眠ったように動かない、男性を少女は見ている。
まさか…だが予想通り、その顔色は悪い。
「危険な状態だ。意識もはっきりしてはいない」
全身スーツの人が、悔しそうに言う。
「ごめんなさい…私、私…」
「……悪いのは、夢みたいなこの殺し合いだよ!」
少女が泣きそうな声で叫ぶ。
「言ってたよね、これはお芝居なんだって。そう…思っちゃったんだよね?」
「…もう、遅いです。私、人を…殺しちゃった!」
「だが、君はもう気付いた…そうだろう?」
全身スーツの人は、私を射抜くように見つめている。
「君の目を見ればわかる。あの英雄と、同じ目だ。何かを、決めた者の目だ」
あの英雄…それは、あの歌を歌っていた人のことだろうか。
思えば、あの声…ここにいる人とは違う、最も大きく響いた声の持ち主が…いない。
「ここにいる。…英雄は、俺達の胸の中に」
「…会いたかったです。もっと…早くに」
彼らを見るだけでわかる。きっと…偉大な人だったんだって。
「俺たちは、この殺し合いを止めたい。君も、力を貸してくれないか?」
「私なんかで…いいんですか?」
勘違いとはいえ、ゲームに乗った私なんかが…そう言いかけた時。

「あたり、まえ…だろう?」
もう一人の英雄が言葉を発した。

「いさじさん!」
「つかさちゃん、無事、だったんだな。よかった…」
弱弱しく…だがそれでも、どこか安心させる声だ。
「スパイダーマ…さん。福山さんは…俺たちに全てを託したんだな?」
「ああ…俺は彼にはなれないが…できることをしようと思う」
「…人は、誰かの代わりにはなれない…か」
私は、千早ちゃんにはなれない。でも、千早ちゃんだって私にはなれない。
「ゲームが始まる前に…首輪を爆破された女の子、それに…さっき呼ばれた千早ちゃんは、私の大切な仲間でした」
そんな…と誰もが顔を暗くする。
「彼女たちは、凄いアイドルで…私は劣等感の塊で…現実を見れず、殺し合いに乗りました」
自分の愚かさ。それを変えるため、ここに戻ってこれた。そう思ってる。
「私は、今の自分を越えたい。強くなりたい…心も、何もかも」
でも、そのために進むべき道が見えない。ゲームに乗った人を倒す?人を助けること?
「どうすれば、いいのか…まだ私は道を決められないんです」
「……ちょっと、いいかな。俺の言うとおりにしてくれないか?」
いさじさんは、静かに何かを語ろうとしている。
「君は…生きたいね?」
「もちろんです」
千早ちゃん達の代わりに、なんて言わない。ただ、何かをするために、私はまだ生きる。
「生きたいなら、戦う必要がある。それが殺すためでも守るためでも」
…君に、その覚悟はあるかい?と、問いかけた。
「……あります。私は…今までの自分を越えるために、ここにいます!」
「なら…その思いを、その心臓に向けて篭めろ!失ったはずの心臓に、その戦う意志をぶつけるんだ!」
どういうことか、なんてわからない。ただ、私は残った右手で胸を掴む。
「叫べ!答えは、その先にある!その叫ぶ言葉は――」

「「武装錬金!!」」

「え、え…何が起きたの?」
「これは…俺のスーツのようなもの…なのか?」
心臓が輝いたように見えた次の瞬間には、春香の体は、その全身を白いコートで覆われていた。
「はは、本当に…これは、福山さんの贈り物、なの…か?」
「こ、これ…一体、なんですか?」
春香はこれを、武器とも何とも思っておらず、放置していた。
それが、自分の命まで救い、こんな変化までもたらすなど思いもしていなかった。
「核鉄…心臓の代用にもなり…怪我の治癒力まで上げる、代物だ…」
いさじの顔色が良くない。それでも彼は喋り続ける。
「それはシルバー…スキン…それは、ガスも、高熱も、極寒も物ともしない、守る力…」
守る…力?春香の顔はコートで隠れているが、その瞳には輝きが灯っていた。
「それの持ち主の言葉だが…聞いてくれ」
いさじは息を限界まで吸い込み、言葉を紡ぐ。
「善でも!悪でも! 最後まで貫き通せた信念に偽りなどは何一つない!!
 もし君が信念を見出せたなら…それを貫き通せ!
 その武装錬金、シルバースキンは、全てを守り抜く信念の象徴…きっと、今の君を乗り越える、力、に…」
いさじの全身から力が抜ける
「いさじさん!!」
つかさの悲鳴…こうなるのではないか、その悪夢が的中する。
「い、さじ…いさじ!!」
その姿を、スパイダーマンはつい先ほど見たばかりだ。まさか…
「俺は…また目の前で英雄を失うのか!」
「そんなこと、させません!」
春香は自分のディパックから何かを探している。
「私達の支給品は、きっと大当たりなんだと思います」
その手に握られている大きな六角形は…先ほど見たばかりの…
「核鉄か!」
春香は、いさじの胸に核鉄を当てる。
光を放つ核鉄…本当に効果はあるのか…?
だが、10分が立ったころから…顔色と呼吸が徐々に落ち着いてきて
「…ブラボーだ」
いさじの寝言を聞き、やっと危機を脱したと安堵した。

「いさじとつかさ…二人とも町で本格的に治療をしたいところだな」
俺の意見に、つかさに核鉄を持たせていた春香も賛成のようだ。
「そうですね…つかさちゃんの傷の回復…打撲の方は治ってきてるみたいですけど」
核鉄の治癒力は、怪我を完治させるほどのものではないようだ。
つかさの手の傷の出血は止まったが、核鉄の治癒力はそれ以上治しきれてはいない。
「実は、俺には細胞復元能力というものがあるんだが…明らかに弱まっている」
それでも、元々核鉄並みの回復能力があるだけ、他の参加者よりマシだろう。
「やっぱり…簡単に死人が出るように、細工でもされているんでしょうか?」
「あいつらだけ強いまま、こちらの力だけ奪われている…辛いな」
奴らの元にたどり着いても、俺達の力を合わせても全滅…それは避けたい。
「でも、この武装錬金は凄いですよね」
二つの核鉄の説明書が、ディパックの奥底から見つかった。
もう一つの武装錬金…「サテライト30」という名前らしい。
効果は…30人までの増殖。冗談のようだが…その効果は既に自分で試した。
春香のように、武装錬金と叫ぶと、古代中国の武器にある月牙へと姿を変えた。
ただ、柄が付いていないので、握ってナックルのように使うようだ。
そして、肝心の能力…ためしに、もう一人、増えるように念じてみる。
俺が、目の前にいた。もう一人の俺も驚いている。
どうやら意識は共通…ただ、動くとなると二人分思考する必要があるようだ。
まだ二人ならうまく連携も出来そうだが、これ以上増えても扱いが難しそうだ。
それに、増殖の際に明らかな疲労感を感じた。かなり体力も使うらしい。
分身体も俺も本物。片方がやられても、死なない…ここをうまく使うことにしよう。
「だが、いいのか?二人の治療に使うべきだと思うが…」
「もう、そんなに痛くないです。おじいちゃんとお相撲さんを助けてあげてください」
いさじさんの意見もきっと同じだと、自らの回復に使っていた核鉄を差し出す。
「わかった…この思いを無駄にはしない」

「私たちは、この先の洞窟に身を潜めておきます」
春香は、危険そうな人物をそこでやり過ごしたという。
「私が二人を守ってみせます。スパイダーマッ!さんは、YOKODUNAさんって人のところへ」
「ああ、春香。君のシルバースキンの能力なら、俺が戦っている間も二人を守れる」
今も着ている春香のコートは、最高の防具だった。
かなりの威力でなければ、貫くことも出来ず、すぐに直る優れもの。
裏返して敵に着せれば、拘束できるらしいが、それを試したところ、春香は胸に痛みを感じたらしい。
どうやら、全てを身から離しすぎると心臓の代用の効果も薄れるようだ。
この力は、よほどのことがなければ使わないほうがいい。

「福山さん…埋めてあげないとね」
「ああ、落ち着いたら…福山の埋葬を一緒にしよう」
やっと聞けた英雄の名前。だが今は、彼を埋める時間を、お互いに生きること、守ることに使おう。
だが、あれからかなりの時間がたった。今から急いでも8時を過ぎる。
2時間もあれば、戦いは終わっているかもしれない。
だが、新たな戦いが待っていると考えた方が良い。
YOKODUNAが修羅になることを選んでいれば、俺は全力で挑もう。
もし、襲撃者に敗れているならば…その襲撃者を止めねばなるまい。
出来れば、命まで奪いたくはないが…いさじの言葉を思い出す。
善でも悪でも信念に偽りなどはない…憎き鉄十字団もそうなのだろうか。
相手が、もし信念を持っているなら。
俺は、命を奪う以外に、その信念を折れる術があるのだろうか?
「夕方までに仲間と塔で落ち合うことになっている」
念のため、つかさにテニスボールを渡しておく。
「次の放送…もしくは昼過ぎまでに俺が戻らなかったら…町の塔に向かってくれ」
俺の名前が呼ばれれば、少なくとも危険が迫っていることを確認して行動できるだろう。
最悪の場合、福山の埋葬も諦めねばならない。自分のために危険を犯すことを、福山も望まないだろう。
「うう…怪我してもいいから…おじいちゃん達と一緒に、戻ってきてください」
もちろんそのつもりだ。だが、もしもはありうる。
そういえば、夕方までに雪原地帯を回ることができるだろうか…
いさじの件もある。まず仲間を塔まで送る方が大事かもしれない。

「それじゃあ、行きましょう。あっ、スパイダーマッ!さん、アイスソード使います?」
アイスソード…あの吹雪を放つ剣か。
「武装錬金で十分だ。それに、それは君が使うといい」
「あー…いえ、素手でもこの姿ならいけそうです」
ためしに岩を割ってみせる。攻守ともに強い力となるようだ。
この春香という少女。運動神経はそこそこある。
だが、一般人よりマシという程度。武器は必要だと思うのだが…
「一応、木刀もありますから」
「なぜだ…使いたくない気持ちはわかるが、あの武器は強力だぞ」
俺も冷気に弱いので避けたいが…
「これを持ってると…パーって頭が明るくなって…難しいこと、考えられなくなるんです」
「ええ!そ、それって危ないよ!」
腕が飛ぶまで、殺し合いをお芝居と信じたのも…少しはこれが原因らしい。
「呪われているのか…というか、そんな物を俺に使えというのか?」
目線が泳いでいる…はっとして、やっと気が付いたらしい。
「ああっ、そ、そうですね。うう、私ったら…」
どうやら、少し抜けたところがあるようだ。悪気は無いようだが、恐ろしい。
「もしもの時は使うかもしれません。でも今は…シルバースキンがあります。守る力があります」
「それが…今の自分を越える答えか?」
「…わかりません。ただ、私は進むべき道を…もう、間違えません」
英雄、福山。お前の歌は、様々な人々を集めた。それは、お前の命を奪ったが…
「だが、お前の信念は…今、また一人の少女を救ったよ」


【C-3 北西部・山道/一日目・朝】
【スパイダーマン@東映版スパイダーマン】
[状態]:健康。鉄十字団を倒し終えていない状態。英雄の代理人。
[装備]:サテライト30@真赤な誓い
[道具]:支給品一式、DIGIZO HYPER PSR(残り二十分程度)@現実、上海人形、花粉防止用マスク、テニスボール3
[思考・状況]
1.英雄の遺志を継ぎ、可能な限り誰も死なせない。
2.YOKODUNA達の戦闘に介入。誰も死なない形で、尚且つあらゆる方法で、戦闘を終了させる。
3.その後、昼過ぎまでにいさじ達を迎えに行く。
4.福山の埋葬後、夕方までに仲間を塔に向かわせたい。
5.氷雪地帯全域を探索に向かう。夕方に塔で待ち合わせ。
6.場合によっては、探索を諦め仲間の保護を優先。

【いさじ@現実】
[状態]:全身に裂傷や打撲、睡眠
[装備]:拡声器@現実、炎道イフリナのフィギュア@ふぃぎゅ@メイト
[道具]:支給品一式(水一本消費)
[思考・状況]
基本行動方針:ゲームの脱出(?)
第一行動方針:ブラボー…おお…ブラボー…zzz
第二行動方針:なぜ核鉄が…福山さん…zzz
※武装錬金について、漫画上の知識はあります。
※なぜ本当に存在するのかは理解していません。

【柊つかさ@らき☆すた】
[状態]:全身に軽い打撲、手のひらを怪我。体が熱い、おなかが膨らんでいる?
[装備]:
[道具]:テニスボール
[思考・状況]
基本行動方針:知り合いの捜索
第一行動方針:スパイダーマッ!さんを洞窟で待つ。
第二行動方針:その後スパイダーマッ!さんを放送まで待って塔に行く。
第三行動方針:福山さんを埋葬してあげたい。
第四行動方針:いさじさんをちゃんと治療してあげたい。
※いさじの声を聞いてからの身体の異変に気がついたようです(?)
※いさじ、つかさは福山の死を知りました。

【天海春香@THE IDOLM@STER】
[状態]:左腕欠損(傷口はほぼ完治)。中度の疲労。
[装備]:シルバースキン@真赤な誓い、洞爺湖の木刀@銀魂
[道具]:支給品一式、アイスソード@ロマンシング・サガ、飛行石のペンダント@天空の城ラピュタ、Fooさんの笛@ニコニコ動画(γ)
[思考・状況]
基本行動方針:昔の、今の、自分を越える。
1.みんなを守って見せる。
2.洞窟で待つ。つかさちゃんといさじさんを守る。
3.スパイダーマッ!さんを放送まで待って塔に行く。
3.同じ事務所のアイドル(やよい、真、亜美)を探したい。
4.殺し合いには乗らない。仲間を守るためには戦う。
5.アイスソードは出来るだけ使いたくない。
※春香はこの殺し合いが現実だと理解しました。
※ダブル武装錬金については知りません。
※アイスソードを呪われた魔剣だと認識しています。

※三人は、いさじがなぜ核鉄を知っているのかわかっていません。

※核鉄
使用時以外は持ち主の治癒力を向上させる。
ある程度の制限がかかっているが、2個、3個と使用すれば、回復力は上昇する。
春香の核鉄は心臓を担っているため、核鉄状態では取り出せない。

※シルバースキン
テンガロンハット風の帽子・長手袋・コート・スラックス・ブーツと、全身をくまなく覆う武装錬金。直接兵器のみならずABC兵器等にも効力を発揮する無敵の防護服。
全身を覆っている為、これを身に着けての格闘は敵への致命傷になりうる。
裏返して相手に着せると、無敵の拘束服「シルバースキン・リバース」となる。着せた相手の外部へのあらゆる攻撃を遮断する。この間、使用者は無防備。
元は六角形の微細な構造体の集合であり、他人に着せる為に射出する時や、防御力(リバース時は拘束力)を上回る攻撃を加えた時はチップ状に分解される(但し瞬時に再生する為、攻撃を貫通させるのは非常に困難)。
春香の心臓を担っているため、シルバースキンの完全破壊は春香の死に繋がる。
しかし、シルバースキンが粉々になる頃には中身も粉々だと思われる。
また、相手に着せる為の射出は身体から離れすぎると同様に死亡しかねない。
他の核鉄を使うことでダブル武装錬金、シルバースキンアナザータイプを発動可能。
もう一着のシルバースキン(海賊の船長のようなタイプ)を遠隔操作で操り、シルバースキン・リバースの発動を、元の一着で自分を防御しながら出来る。
また、二着とも仲間に着せることも可能。用途は様々である。

※サテライト30
特性は月齢(0~29)に合わせての2~30の人数への増殖。増殖した身体は全て本物。
1体でも残っていればそこから再び増殖できる。ただし、増殖には体力の消費を伴う。
制限のためか、この体力消費が本来の倍以上になっている。
ホムンクルス級の体力の持ち主でも大量増殖からの再増殖は出来ない。
また増殖しても意識は1つであり、増殖すればする程複雑な連携は難しくなる。
武装錬金本体である月牙は握って武器として使用可能。



sm74:イチローのレーザービームでバトロワ会場滅亡] 時系列順 sm78:しかし何も起こらなかった
sm74:イチローのレーザービームでバトロワ会場滅亡] 投下順 sm76:勇気を受け継ぐ子供達へ
sm71:それぞれの誓い~英雄の条件~ スパイダーマン sm97:Traumatize
sm66:十一色の誓い いさじ sm86:アイドルとして音程がぶれている
sm66:十一色の誓い 柊つかさ sm86:アイドルとして音程がぶれている
sm66:十一色の誓い 天海春香 sm86:アイドルとして音程がぶれている



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