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蝕 ◆wC9C3Zbq2k




 どんな想定外のことがあろうと、目的は完遂するし私にはそれをするだけの力がある。
それを過信と言わせないだけの能力が私長門有希には備わっていた。
だがこの有様はどうだ。狙撃に失敗した結果得体の知れない裸の男に襲われている。
しかも……押されている。空間障壁と岩から生成した巨槍の二段構えがまた崩された。
いくら自分が力を大幅に制限されていようと人間風情にこんなことができるはずがない。
なのにこいつは首輪をしている。参加者なのだ。

「なぜ殺たし」

 あまり流暢ではない日本語で質問する男。激昂ゆえか言語に支障が生じているようだ。
質問ではなく責めているだけなのだろう。こちらに返答する暇など与えてもくれない。
ほとんどの遠隔攻撃があっさり素手で振り払われ足止め程度にしかならない。
逃げながら接近されないよう情報改変でまばらに弾幕を振りまく。それが今の精一杯だ。

(バケモノめっ! 人の恋路を邪魔するデブは地獄へ落ちろッ!)

 反撃の手は一応ある。あるが外せばこちらの存在もそこで潰える。
こんなところで相手の力量もわからないままそんな最後の手段を使うわけにはいかない。
上半身を消し飛ばしても殺せないような生物なら仕掛け損になってしまうのだから。
ああ、またこちらの跳躍に合わせて空を飛んだ。引力を無視するとは忌々しいデブめ。
ここで殺されては愛する彼の蘇生という目的を叶えられない。逃げの一手あるのみだ。
憤怒の形相を湛えた裸体の男を振り切るため、焼き切れそうに痛い脳を私は酷使した。
せめて痛覚を遮断できればここまで辛くはないのに、この枷は非情だ。
大量の槍が奴に降り注ぐ様を確認しつつ、私は逃げる。


(ただのGEDOUではないな。外見は子童だが内面はYASYAとみた)
 悪を討つべく山道まで一気に跳んだYOKODUNAは感心していた。
向かった先に存在したのは銃撃を避けたとわかるやいきなり妖術を放ってきた小柄な少女。
その術全てに鍛え抜かれた身体とて振り払わずを得ないほどのSAKKIを感じた。
無辜の歌い手を銃で撃った卑怯な雑兵と思っていたが、間違いない。
 見た目は一切関係ない。この者は強者だ。おそらくは人外の。

「同じDOHYOUへ上がれとは言わん。死合え!」

 逃がしてなるものか。女人と戦うことは恥かもしれないが今の自分には関係ない。
強い相手と戦い、国技SUMOUの……ひいては自身の強さに納得するまでは!
 同じ座まで上り詰めたハワイ出身の先輩、MAKEBONOは教えてくれた。
彼はKAKKAIを捨てレスラーとして世界の名だたる格闘家と試合を組ませてもらった。
だが、テレビ局が用意した相手に誰一人彼が本気の半分も出したくなる者はいなかった。
勝負する価値もないから毎回1Rで勝ちだけ譲ってホテルに寝に帰ったと。
そう述懐する彼の姿はとても小さく、哀しげに見えた。

 それだけ本物の強者と今の世で合い見える機会は少ないのだ。
気配だけはよく遥か遠方から感じていた。まだ世界には実力者が溢れていると憧れられた。
多くの者は修練に明け暮れるうち世に出ることを忘れ、孤高のうちに生を終えるのであろう。
どんな悪鬼でも化生でもかまわない。このYOKODUNAと拮抗しうる実力者でさえあれば。
体が戦いを求めていた。全勝のかかったSENSYURAKUよりも体が熱かった。

 HARITEで幾本もの槍を薙ぎ、TSUPPARIが数度目の不可視の盾を砕く。
何度でも諦めず迫るこちらを見てついに戦う覚悟を決めたのか、少女は逃走の足を止めた。 


 私が逃げないとわかった途端、このデブは左右にぐらついて地響きを起こした。
この挙動、そしてこの外見。……相撲取りというスポーツ選手に酷似している。
だが決してそんな常識的なものではない。私が制御した空間情報を砕くとかありえない。
あのツンデレ女が好みそうな「普通じゃない人間」だ。いや既に人間かどうかも怪しい。
くそっ。これも全てあの涼宮ハルヒが無意識に望んだ事だったなら絶対に殺してやる。
違ってもとりあえずあの女は殺す。参加者な上に彼を惑わす毒婦なのだから。

 それより今考えるべきことは目の前のデブにどう対処するかということ。
いくら情報統合思念体のTFEI端末でもこの姿は有機体ベース。ほぼ生身の身体だ。
愛しの彼を悦ばせるにはこのほうが都合がいいのかもしれないがそれには胸が足りない。
じゃなかった。生身の身体であるがゆえに容易に死の概念がそこには訪れる。
首を切られた程度なら元の世界であればどうにか不都合なく再生できる。だが今はやばい。

 ここで一旦致死傷を受ければ、二度と再生は叶わない。

 確証はあった。統合思念体とのコンタクトができない今、端末である自分は能力不足。
なんらかの要素を加味できない限り指先の再構成すらできない。これは思い知らされた。
この殺し合いの宴で一人だけ簡単に勝たせはしないという意味なのだろう。
だが、私にこれだけの制限をかけることのできる主催者だからこそ彼は必ず蘇る。
今しなければいけないことは邪魔な奴を全部殺して優勝することだけだ。
 だから、相手の力量がどれだけ自分より上であろうと、殺す。
考えてみれば殺し合いなのだ。死なない生き物が混じっているはずがない。
相手の体内に真空を生成してやる。能力制限下でも接触すればそれくらいできるはずだ。
中からズタズタにされて口から臓物ぶちまけろやこのデブがッ!


 清めのSIOがないのを物足りなくも感じたが、そんなものはいらない。
ここは神聖なDOHYOUではなく数分後にはどちらかの死体が転がる死合いの場。
すべきことは全力で向かってくる相手を、物言わぬ骸へと変えること。
そう思うと気が楽になった。むしろ最初の対象がGEDOUで有難かった。

「名は」
「長門。彼はそうとしか呼んでくれなかった」
「そうか。その名しかと刻んだ」

 敵意しか見えない暗く澱んだ眼光。外見と纏う雰囲気のちぐはぐさがそら恐ろしい。
ここに連れてこられるまでにどのような生き方をしていればこのような眼ができるのか。
こんな鳥肌の立つ強者と一戦交えることができたことだけは主催者に感謝しよう。
ナガトは必ず何か奥の手を持っている。そうでなければここで立ち止まる理由がない。
 ならば、その奥義―――真っ向から打ち破ってSUMOUの強さを確かめてくれよう。

 後の先など取る気はない。咆哮をあげBUCHIKAMASHIた。
多重に張られていた不可視の壁をまとめて砕く。さあ、この先の反撃に何がある!

 反撃は何もなかった。
「……あっけない戦いだった。だというのになんという充実感だろうか」
 ナガトは何かを試みようとし、そして失敗したのだろう。
眼下には口元に歪んだ笑みを残したまま腹部を潰され息絶えた少女の姿があった。
きっと彼女は知らなかったのだろう。この太き腕に掌を当てようとして気付くまでは。
“RIKISHIはTORIKUMIの際、全身にKIを纏う”ことを。
薄氷の勝利だったのだと思いたい。そうでなければ認めなくてはならなくなる。

 人を殺めることになったこの結果が、自分をこれほど熱く滾らせていることに。


 意識だけはまだあった。しかしもう心臓は動いていないから私は死体なのだろう。
情報統合思念体から課せられた本来の職務を果たせなかったことはもはやどうでもいい。
ただひとえに、愛しの彼を生き返らせることができなくなった事が悔しかった。

(まだデートしかしていない! あの腐れ女はキスまでしたというのに!)

 あの監視対象のツンデレ女が恨めしかった。
この身が少しでも動くなら今から這ってでも道連れにしに行きたいくらい憎かった。
だがそれはもう適わない。このデブは埋めるつもりか脇道の浅い穴に私を投げ入れた。
ああ、ならばせめて、「あの世」という場所で彼に会えますように。
そしてツンデレやガチホモといった邪魔な奴等なしで二人きりで過ごせますように。
 感覚も意識も薄れていく。デブは私を埋めることなく遠くへ去っていったようだ。
さらばゴミ共。私は彼のいる場所だと思えば何も怖くない。

 ……不意に、感覚が戻った。
「誰にやられたの? 貴女がいると思って来てみたら虫の息だなんて」
 強引に私を呼び覚ましたのは、朝倉涼子。何かひっかかるが気にしない。
死体に情報制御をかけることで一時的に神経伝達を再開させるとはなんとも悪趣味だ。
私のバックアップとして引き継ぎを明確に行うまでは死ぬ自由すら与えないつもりか。
予備の分際で私の大切な人と同じクラスになったというだけでも万死に値するというのに。
私が別のクラスで愚衆に辟易しながら読書していた時に、この女は彼と談笑していたのだ。
許せない。メイン端末のはずの私よりスタイルがいいなんて殊更許せない。
そうだ。彼女は私が不慮の事態に陥ったときのための予備端末だ。
 予備として使ってやろう。思う存分。


 RIKISHI以外の強者と立ち会うことで何が変わったか、私は自問していた。
お互いが命を賭けて戦うことで生じる瞬時の見切りと読み合いは得難い経験だ。
だが、あの高揚感はそれだけで説明のつけられるものではない。未だに動悸が収まらない。
まるで前YOKODUNAと初めてTORIKUMIをした、遠い昔のように。

「これが、SHURAの境地。いやその入り口か……」

 人としての情けを捨て、神に遇うては神を斬り仏に遇うては仏を斬る。
彼らは戦うことに歓喜しひたすら強さを追い求め、そこに迷いは一切ないという。
語源となった戦神・ASURAはその純粋さゆえに仏法守護に選ばれ今も崇められている。
たとえ行き着く先が屍山血河であろうと揺らぎなき思いさえあれば己を立てられる証拠だ。
そう、世界最強の国技を継承した者として、何を躊躇うことがあっただろう。

「ならば往くまで!」

 覚悟は決まった。これから先は相手の強さを問わず戦いを挑み続ける。
強き者ならそれでよし、非力な者は知恵と配られた武器で少しでもその差を埋めるがいい。
その結果こちらが敗れれば命を落とすだろう。だがそれがこの地では今やそれが自然。
どうせ死ぬのならば昔漫画で読んだ世紀末覇者のような悔いの残らぬ最期を遂げたい。
それすらできずに悩むよりは血塗られた道を歩むことを選ぼうではないか。


 間違いなくさっき出会った男たちは反対するだろう。だが止められるはずがない。
戻ればいたぶり殺しに行くようなものだ。このまま別れてどこかへ向かおうと決める。
名簿の中から強そうな名前を探し、お覇王という名を見つけた。
所在はわからないが王ならば城かもしれない。そう判断しまず城へ至る橋へ向かう。

 光の軌跡を描きながら、YOKODUNAは翔ぶ。
全力でもたいした飛距離にならない跳躍しかできないはがゆさをこらえながら。
SUMOUこそが最強だと確認するために。そして己が闘争本能を満たすために。 

【D-3 橋近く/一日目・午前】
【YOKODUNA@世界最強の国技SUMOU】
[状態]:軽い興奮と空腹
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、ドリルアーム、他不明支給品1
[思考・状況]
1.SHURAとして出会った者全てに戦いを挑む。逃げるようなら無理に追わない
2.お覇王なる人物とTORIKUMIがしたい。勘でしかないが城に行ってみる
3.最後まで残ったら主催者とも勝負を望みたい

※全員がランダム支給品で相応の武器を受け取っていると勘違いしています
※いさじたちに会わないようにするあたり、完全には吹っ切れていない?


 私、長門有希は朝倉涼子と末期の会話を楽しんでいた。
「この事象を引き起こしている広域帯宇宙存在に関する重大な情報を得ている」
「そう。そうじゃないとおかしいわよね。それで?」
「あなただけでは解決不可能。全リソースを割り振って私を蘇生させてほしい」
「……嫌よ。そんなことしたら元の世界に戻ったとき私は予備のままだもの」
 本音が出やがったこの女。生殺与奪権を握って余裕のつもり?

「あなたには伝えられていないのか。今後の任務はあなた主導で行われる」
 これは嘘。もちろん重大な情報なんてものも最初から持っていない。
さらに言うならこの制限下では彼女が全力を出しても私の再生はまず不可能。
だが彼女が騙されて私の再生を試みさえすれば、賭けは私の勝ちだ。

 彼女は話に乗った。解決不可能と言い切ったのがよかったのだろう。
破壊された臓器が少しづつ形を取り戻し、もう少しで心臓も動き出す。
単独ではできないことも端末二基あれば案外できるものだと私は感心する。
 けれど、もうすぐ一基に戻る。彼女は知りもしないだろうが。
全能力を私の回復に向けていることを確認した私は、―――情報攻撃を開始した。

「な、何なの貴女!?」
「かかったなアホがッ!」
「有希はそんな事言わ……平面次元の別存在ね貴女!」

 内部の攻性防御プログラム完全無力化。脳および他記憶領域へのクラッキング。
複製した大量のゴミ情報を強制転送。飽和状態の隙に彼女の自我をひたすら蝕む。
相手が本当に全リソースをこちらに使用していると確信できたからできたことだ。
 もうこの長門有希の瀕死かつ貧相な身体はいらない。朝倉涼子を乗っ取る!


 胡散臭い男と生意気な少女は色々知られると面倒だから一旦撒いた。
長門有希に会って話をする時間さえあれば十分だったからすぐそばまでは来てるかな。
重武装した兵士も遠くに見えたから出会って撃たれてたり……してないよね、きっと。

 ここで目標が既に死んでいるのを見つけたときは、最大のチャンスが来たと思った。
キョン君の死亡によって情報爆発は間違いなく迫っていたしね。
メインである長門さんまでいなくなってくれれば、私の判断でもっと積極的に動ける。
だからこそ、この異常事態から抜け出すために彼女から情報を引き出そうとした。
 そこまでは間違っていなかったはずよ? そこまでは。

「死ねッ! そのカラダは私が彼のために余すところなく使ってやるッ!」

 どこをどう間違ってこんな絶体絶命のピンチを招いちゃったのかしら。
今すぐにでも気絶してしまいたいほどの頭痛に耐えながら、前を見つめる。
この長門さんはすでに狂っている。おそらく最初から。
私達の魂に相当する自我の部分を消し飛ばして、そこに記憶全てを転送するつもりだ。
けど、私だってそう簡単に敗れるようなつまらない女のつもりはない。
蘇生途中の死に損ないなんて、きっちり殺してしまえばそれで片がつくよね。

 私の意図に気がついたのか、長門さんはこちらを睨みつけてきた。
彼女は完全に死んでしまう前に急いで私の自我を消し飛ばそうとする。5秒はかかるわね。
私は彼女の瀕死の体を意識が残っているうちに完全に殺す。これも所要時間5秒。
これってつまり……相討ちの形になるわね。

「あーあ、残念」
 次の瞬間、浅い墓穴に二人目の少女の身体が折り重なっていった。 


【C-3 山道脇/一日目・朝】

【暗黒長門@愛しの彼が振り向かない 今度こそ死亡】
【朝倉涼子@涼宮ハルヒの憂鬱 死亡】
【残り51人】

※ストーム1やアリスの目指している「戦闘していた場所」とそれほど離れていません
※長門のトカレフ(残弾6/8)等は山道に、朝倉の支給品は朝倉のすぐそばに落ちています



sm76:勇気を受け継ぐ子供達へ 時系列順 sm80:私が弾幕を始めた理由
sm76:勇気を受け継ぐ子供達へ 投下順 sm78:しかし何も起こらなかった
sm66:十一色の誓い YOKODUNA sm85:解呪/Disenchant
sm66:十一色の誓い 暗黒長門 死亡
sm66:十一色の誓い 朝倉涼子 死亡



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