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愛媛のジャンク/凡人打開配信(前編) ◆0RbUzIT0To




「ようやるわ、あんなん」
「確かに、労力の無駄遣いだとは思うけどねぇ」

石階段に座り、視線の先の光景を見てそう呟く一人の怠け者と一体の人形。
あらかたの情報交換を部屋で終えた後、一行はひとまず塔の外へ出る事にした。
浩二とティアナを襲った襲撃者がいる可能性もあったが、
最速クリアをすると豪語していた彼の性格を考えるにその可能性は低いものだろうという結論に至った。
探し人がいる以上、一ヶ所に留まる訳にはいかないし死んでいた少女も埋葬がしたい。
前者に関しては全員の意見が一致したものの、後者に関しては二名が異論を唱えた。

無論、この石階段に座っている二人である。

「私は単に意味の無い事をしたくないだけなんだけれど、あなたはどうしてなのかしらぁ?
 人間はこういう時、哀悼の意を表したりするもんじゃなかったの?」
「いや、疲れるやろ」
「……そりゃそうだけれどねぇ」

思わず脱力をする。
浩二の言っている事は至極真っ当……といえるかどうかはさておき、このような殺し合いの場においては正常な思考のように思える。
モラルの問題はさておき、埋葬をする為に穴を掘る作業などというのは体力を無駄に消費するだけだ。
現に、水銀燈が博之から得ている力も微々たる量だが減ってきている。
だが、問題は浩二が決してそういう考えを持って作業をしないと言っている訳ではないという事だ。
単に怠けたい、死体に触るのが嫌だからという理由で作業を断っている。

「……あなたって本当に根っからの駄目人間ねぇ」
「っさいのぉ」

博之からある程度聞いていたとはいえ、流石の水銀燈もまさかこれ程とは思わなかった。
精々真紅の媒介である眼鏡の少年程度だと思っていたが、あの少年など足元には及ばない。
あんな少年でも真紅の腕を直したりする事が出来た以上、浩二と同格と扱うのは失礼というものだろう。

それにしても永井先生、言われたい放題である。

「そんなん言うんやったら、飴やらんぞ」
「別にぃ、いらないわよそんなもの」

乳酸菌が入ってるならともかく、と言って水銀燈は顔を顰める。
浩二が取り出したのはスーパーなどで販売されている何の変哲もないただの飴だ。
甘くてクリーミーなものらしく博之と二人で分け合っていたが、到底役立つものではない。
浩二に支給されたものは、この飴と博之が拾った臭い鍵、そして三枚組みのカード。
その内一枚は使用してしまったものの、まだ二枚は未使用……なのだが。
言ってしまえば武器はそれだけしかない。

「まぁそう深く考えんなて、なんとかなろうが」

飴を口の中で転がしながら、楽天的に言い放つ浩二。
その言葉を聞いて水銀燈は深く深く、ため息を吐いた。

ティアナは十分役に立ちそうだが、この男ばかりはどう考えても役に立たない。
むしろ足手まといになる可能性が高いのではないか。
一瞬博之との契約を破棄して他の者と手を組もうかと考えたが、それはそれで危険だろうと思いとどまる。

「全く、冗談じゃないわぁ」

ローゼンメイデンシリーズの第一ドール、
つまりは長女的な役割を持つ水銀燈からしてみれば浩二のような駄目兄貴というのは考えられない。
恐らく、博之も苦労をしたのだろうなと考えながら、水銀燈は再び深いため息を吐いた。
……乳酸菌が欲しい(苛々を鎮める的な意味で)

一方、こちらは穴を掘っている博之とティアナ。
兄に比べて普通の感性を持っている博之と同じく一般常識は持ち合わせているティアナ。
二人は黙々と文句も言わずにただひたすらに穴を掘る。
二人にとって、今埋葬しようとしている少女は全く関係の無い赤の他人。
わざわざその女性の亡骸を背負って塔の内部からスコップを持ってきたりする義理は無い。
そんな事、ただ無駄に体力を浪費するだけだ。
だが、それを見過ごして放っておける程二人は冷たい人間ではなかった。

「ああ、そういや」
「え?」
「すまんかったの、色々と世話になったみたいで」

突然の発言に目を丸くするティアナ。
数秒考えた後、ようやく何を指して言っているのかわかった。

「いえ、一般人を保護するのは義務ですし、当然から……」

管理局の人間として、機動六課の人間として、そして人として。
このような状況で力の無い者を保護するのは当然。
そう考えているからこそ、最初に出会ったあの殺戮者から浩二を守り通したのだ。

「いやぁ、義務やいうてもしんどかったやろ……あいつの相手は」
「……まぁ」

保護は義務であり、その対象がいかなる人物であろうともしなければならない事だ。
それは正論で、確かにその通りなのだが……。
対象があれでは、保護のし甲斐というかそういうものが稀薄になる。
勿論、保護する見返りを得たいという訳ではないのだが……。

ただ、そんな彼でも一応役に立ったというかそこまで駄目人間である訳ではない、とティアナは思いはじめている。
この女性を殺した犯人……認めたくは無いが、恐らくはあの鋏を持っていた少女だろう。
博之と水銀燈もその少女と会い、声をかけられた所を見たのだからほぼ確定だ。
あの時、ティアナは少しだけ冷静さを失っていたのだろう。
浩二との会話による苛立ちや、この状況に対する不安感が心のどこかにあったのかもしれない。

だが、浩二は違った。
あの少女が犯人であると見破り、後を追おうとした私を引き止めた。
結果的に、私は少女を追う事なく危険な目に遭う事は無かった。
……単に浩二が一人になるのを恐れていたという可能性もあるのだが、それは置いておこう。

「それにしても魔法使いなぁ……正直、普通やったら信じられんけど。
 俺もここで色んなもん見たから本当にありそうや思うわ」

先の情報交換において、積極的に話し合いをしていたのはこの二人と水銀燈である。
残る一人の怠け者は適当な場所で寝転がって仮眠を取っていた。
その情報交換の際、話題に上がったのがティアナの世界――ミッドチルダに関する話。
永井兄弟や水銀燈がいた世界とは、文字通り別世界の話だったが博之と水銀燈はそれをあっさりと受け入れた。
本来なら信じられないようなその情報も、こんな状況では信じるより他ない。

「で、そのなのはさんって人はめちゃめちゃ強いんか」
「はい、私なんかよりもずっと、比べ物にならないくらい」

博之の問いにティアナは間髪入れずに答える。
才能、経験、その他全てにおいて高町なのはは完璧である。
空戦S+ランク、空戦部隊のエースオブエースの二つ名は伊達ではない。

「一対一では絶対に負けない人です、誰にも」
「……なんかおっかなそうやの」

少し顔を引きつらせながら笑う博之を見てティアナは苦笑した。
確かにおっかないかもしれないが、一緒に行動出来ればこれ以上心強い人はいない。
なのはに勝てる人間なんて、いるはずがない。
もしいるとしたら……。
それは、恐らくティアナがどう足掻いても勝てないような人物なんだろう。


……それにしても、とティアナは思う。
ここまで話して博之が非常にまともで常識のある一般人である事はわかった。
だが、それならどうして……。

「あんなのがいるのかしら……」

振り返り、自分が今まで保護してきたチンパンジーを見る。
彼は今、一心不乱に穴を掘っている博之の実の兄らしいが、兄貴らしさというものは全くといっていいほど感じない。
ティアナにとって兄弟――兄とは、弟や妹の手本であり目標だと思っている。
自身にしてもそうだし、スバルの姉・ギンガを見てもそれは正しいものだと思うのだが、
浩二を見ている限りあれはどうやっても手本にも目標にもなりそうにない。
実際、博之に尊敬しているかと聞いてみたところ、「全くしていない」という答えが返ってきた。
当然だろう。

「……反面教師かしらね」

悪い手本というものがある。
きっと、あのチンパンジーは博之にとって反面教師的存在なのだろう。

浩二くん、言われよるな(YC的な意味で)

その後根気強く作業をした結果、ようやく人一人が入れるような穴を掘る事が出来た。
女性の亡骸をその中に入れ、再び土をかぶせる。

「ジーコ!」
「言われんでもわかっとるが……」

博之の声に、浩二と水銀燈もその場に近づく。
そして、浩二と博之は手を合わせ瞳を閉じ、奇妙な呪文を唱え始めた。
一瞬、ティアナは一体何をしているのかと不思議に思ったが、
二人に聞いてみるとこの奇妙な呪文のようなものは二人の世界での死者を弔う言葉らしい。
名前すら知らない人物だが、髪の色といい目の色といい恐らく日系、恐らく永井兄弟と同じく仏教を信仰する人物なのだろう。
一応、ティアナと水銀燈も形だけではあるが手を合わせ瞳を閉じ、土の下に眠る人を追悼した。

ただ、悲しいかな眠れる人物はカトリック系の学校に通う女学生。
般若心経で無事成仏出来たかどうかは定かではない。


ほんの心ばかりの葬儀を終えた後、四人は食事を取りながら今後どちらへ進むかについて話し合いをした。
勿論というべきか、浩二は聞くだけで積極的に会話には参加しない。
ただ、いちゃもんだけはつける。
そっちの方は遠いだとか、寒そうだとか、怖そうだとか。
だから発言する度に博之に叱られ、ティアナに詰られ、水銀燈に罵倒されたのは仕方のない事と言えよう。

以後、不貞腐れてごろりと横になる浩二を置いて三人だけでの会議が滞りなく進む。
そしてその結果、とりあえず城方面へと向かう事が決定された。
北の大樹や北西の雪原地帯なども気になったが、ひとまずは比較的近い場所に向かう事にしたのだ。

「おい、行くぞジーコ」
「うっさい、お前らだけで勝手に行け……」

立ち上がり、すぐにここを出立しようとする博之達を尻目に未だ横になっている浩二。
不貞腐れている、最早ただの子供である。
……30手前なんだぜ、これで。

「いいじゃない博之、そんなの放っておけばぁ?」
「不貞腐れるのはいいけど、ちゃんとついてこないと本当に置いてくわよ?」

そして、勿論そんな彼に同情の手を差し伸べる者など一人もいない。
当然だ。どんな聖人君子だって彼に同情なんてしないだろう。
だが、その当然な事が矢張りこのチンパンジーにとっては不満なようで……。

「ふん、ええわそうやって博之にばっか肩入れして。
 博之なんか俺がおらんかったらなんもでけへんねんぞ!」

そう言ったかと思うと、おもむろに立ち上がり三人が向かおうとしていた方向とは別方向に歩き出す。

「ちょっと、どこ行くつもり?」
「知らん!」

まさかこんな些細な口喧嘩が原因で本当に別れるつもりなのだろうか、とティアナと水銀燈は目を疑うが、
博之だけはこんな状況にも慣れているのか冷静に対処をする。
流石に本気ではないだろうがこいつならやりかねん、と去っていく浩二に近づき、
なんとか引きとめようと肩に手をかけ、戻るように促した時。


視線の先に、腕に装着した銃のようなものをこちらに向けている少年を見た。

「下がりなさい、博之!」

瞬間、水銀燈が前に躍り出て翼の盾を広げる。
ああ、また力吸われよる……と段々慣れてきた脱力感を感じながら博之は浩二を強引に抱きとめてその盾の中へと身を潜めた。
そして、それとほぼ同時に少年が向ける銃口から光の弾が発射され、盾に阻まれて消滅する。

「あ、ありがとう水銀燈!」
「あんたに死なれちゃ困るのよ、それよりわかってるわね?」
「おう、任せとけ! 薬草食いまくっとくわ!」

盾を解いた水銀燈と博之との間で短い会話が為される。
襲撃者は正体不明の銃のようなものを持っている為、到底博之の敵うような相手ではない。
ならば博之に出来る事はなるべく邪魔にならないように後ろに下がってとにかく薬草を食うのみ。
水銀燈に更なる力を与える為にも、自分が前線に立って戦うのは得策ではない。

「あんたも博之さんと一緒に後ろに下がってなさい! 面倒見れる自信無いからね」
「め、面倒ってなんぞ!?」
「いいから! ほら、早く行って!」

倒れこみ、おどおどとしていた浩二の尻を蹴って逃げるよう促す。
戦った事のないようなただの一般人など、戦場では足手まといにしかならない。
博之と浩二を後ろの塔の物陰へと避難させ、ティアナと水銀燈は目の前の少年に対する。

「正気かしらぁ? 二人を相手にそんなちゃちい玩具で仕掛けてくるなんて」
「水銀燈、挑発しないで」

既に攻撃する気になっていた水銀燈を静め、ティアナは少年に向き直る。
年齢は10歳くらいだろうか……どこかどす黒いオーラのようなものが滲み出ているが、普通の男の子だ。
とても殺し合いなんて出来るような風貌には見えない。

「あなたが何を思ってこんな事をしてきたのかはわからないけれど、その銃は下ろしなさい。
 私達はこんな殺し合いになんて乗ってないんだから……」

出来る事なら殺し合いになんて乗りたくは無いティアナとしては、少しだけ期待を込めて少年にそう言った。
なんといっても相手は子供だ、本当ならこんな殺し合いになんて乗りたくなはず……。
だが、その考えは甘く……。

「うるせぇ!」
「えっ!?」

少年は銃を構えてティアナに向けて連射をしてきた。
咄嗟に水銀燈が翼で防御するも、ティアナは呆然として一瞬何が起こったかを理解出来ない。

「学ばないわね、あなたも!」

子供=か弱い存在、守るべき存在、保護すべき存在という認識の為にどうしてもティアナの警戒心は薄れる。
だが、この殺し合いの舞台ではそんな常識は全て捨てなければならない。
塔で出会ったあの少女、そしてこの少年は殺し合いに乗ってしまっているのだ。
浩二に、そして水銀燈に助けられようやくティアナもその事に気付く。

「役に立たないんならあなたも後ろに下がっておけばどうかしらぁ?」
「お生憎様、今ので目が覚めたわ。 ありがとう、水銀燈」
「礼を言うくらいなら態度で示して欲しいわぁ」
「わかってるわよ……もう容赦しないわ」

子供だからといって、加減はしない。
自分達に攻撃をしてくるというのなら、最悪殺してでも自衛してみせる。
自分達はこんな所で死ぬ訳にはいかないのだから。

「ほらほら、お喋りしてる暇はねぇぜ!」

再び連射をしてくる少年。
しかし、それと同時に水銀燈は上空へと飛び上がり、ティアナは横へと飛んで回避する。
相手は一人、二手に別れれば相手は対処が出来ない。
その狙いは成功し、少年はティアナに照準を定めて狙っているが、
上空から飛来する水銀燈に対しては全く対応をしていない。

「もらったわ!」

黒の羽から剣を作り出し、少年目掛けて振りかぶる。
背後ががら空き、隙だらけだ。
少年は全く水銀燈に気付いていないらしく、焦る様子も微塵に見せない。
勝利を確信し、薄い笑みを顔に浮かべた瞬間だった。

少年と水銀燈の間に、イタチのような生物が割って入ってきたのは。

拳に電気を宿らせ、叩きつけるように水銀燈の腹部を狙うイタチ。
回避をしようと体を止めようとするも、遅い。
少年目掛けて一直線に飛んでいた為にスピードがかかりすぎて、急には止まれない。

少年は嫌らしい笑みを浮かべて命令を下す。

「ヲタチ! かみなりパンチ!!」

その瞬間、電気を纏った拳が水銀燈の鳩尾に入り水銀燈は派手に吹き飛ぶ。

「水銀燈!?」
「おいおい、余所見してる場合かよ?」

吹き飛ばされた水銀燈に近づこうとしたティアナに向け、少年は再び銃を連射する。
咄嗟に近くにあった木箱の影に隠れ、難なく回避したがこれでは迂闊に近づけない。
このままでは厄介だ、とティアナは歯噛みする。
少年が持っているのは飛び道具、それに引き換えこちらは接近専用の鉈が一つ。
これでは水銀燈に近づく前に撃たれてしまうのがオチだ。
集中して魔力を構成し、少年に向けて魔力の弾を放ってみても……。

「おっと……」

簡単に避けられてしまう。
そもそもデバイスも無く制限がかけられている為に魔力自体が練りにくく、単発でしか撃てない。
これでは乱射して撹乱する事も出来ず、当てる事すらままならない。
どうしたものか……打開策を練り始めた時、今まで倒れていた水銀燈がようやく顔を上げた。

「……心配は無用よ、ちょっと油断をしただけ」

そう言って、剣を杖代わりに立ち上がるものの強がりにしか見えない。
殴られた時にダメージを受けすぎたのか、体が小刻みに痙攣してとても戦えそうにはない。

「不意打ちを食らったけれど、次は無いわ……。
 一人が二人に増えたところで、私には……」
「誰が二人だけだと言いました?」

その声が聞こえた瞬間、何者かが現れ刀を振るう。そして、水銀燈の剣が吹き飛んだ。
……いや、違う……吹き飛んだのは剣だけではない。

吹き飛んだのは――。

「水銀燈おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

思わず塔の物陰から身を出し、駆け出す博之。
銃を構えた少年が撃ってくるものの、怯まずに水銀燈の下に駆け寄る。
肩口に、太ももに、わき腹を掠めても止まらない。

「ちっ……古泉!」
「お任せを……」

どれだけ撃っても決して止まらない博之に苛立ち、後を古泉に任せてサトシはティアナに照準を合わせる。
水銀燈は既にダウン、茫然自失としていて到底戦えそうにない。
ならば警戒しなければならないのは出てきた博之と木箱の陰にティアナだけだ。
未だ塔の影に隠れている浩二に関しては特に気に掛ける必要もないだろう。

古泉は突撃してきた博之に対し逆刃刀を構える。
剣術の心得は無いが、これだけ逆上している相手だ冷静に対処すれば問題は無い。
それにしても、と古泉は思う。
速度は十分につけたし、重量もかなりある……だが、所詮この刀は逆刃。
そう簡単に物は斬れないはずなのだが……。

「どけえええええええぇぇぇぇっ!!」

突撃してきた博之が金属バットで古泉を狙うも、それを軽く受け流す。
悪い癖だ、と自嘲する。
考え事は後回し……ひとまずこの場は目の前にいる博之の処理を考えなくては。

「水銀燈、大丈夫か水銀燈! 痛ぉないか!?」
「…………」

水銀燈を抱き起こし、問いかけるものの言葉は返ってこない。
ただ全身を抱くように身を丸めてうわ言のように何かを言うだけだ。
どうしたのか……やはり、まだ体が痛むのだろうか。
心配する博之の背後に古泉が詰め寄る。

「っ! 邪魔……すんなやぁッ!」
「む……!?」

博之を狙っていた逆刃刀を金属バットで防ぎ、そう叫ぶ。
片腕は水銀燈を支えている為に、片手での防御だったがそれで十分。
古泉は押し負けて後退する。
しかし、ほっとするのも束の間……。
古泉を押しやり、再び水銀燈の方へと視線を向けた博之が見たものは、

炎を拳に纏わせたイタチの姿。

「ヲタチ! ほのおのパンチ!」

ヲタチは炎の拳を博之と水銀燈に再び叩き込み、吹き飛ばす。
博之は一瞬、これはもう詰みかなと思った。
腹がやたら痛むし、あばらとかいってるかもしれん。
そんな事を考えながら、ふと腕の中にいる水銀燈を見ると……。

水銀燈の服が燃えていた。

「!! 水銀燈、脱げ! 服はよう脱がんと、火傷する!!」

自身の体の痛みを忘れて、必死にそう訴えるものの水銀燈は動こうとしない。
仕方なく自身の手で、服で、炎を叩き消火しようとするものの一向に消えない。
そうこうしている内に炎はどんどん燃え上がり服は焼け、失われた服の間から皮膚が見えてきた。
いや、皮膚の代わりであるものが。

「……なるほど、そういう事でしたか」

その様子を見て古泉は一人納得する。
人間の間接にあたる部分にあるあの球状のものを見る限り、水銀燈は人間ではない。
どういう原理かはわからないが、ひとりでに動く事の出来る人形。
案外簡単に斬れたもの、人間でいう骨がなく斬りやすかった為であろう。

「壊れてしまった人形ですか、哀れですね」
「っ!」

その古泉の独り言に、一瞬、水銀燈が反応をした。
顔を上げ、古泉を睨みつける。

「……じゃない」
「水銀燈?」

「私はジャンクじゃない!!」

水銀燈の叫びに博之は驚いていた。
まだ出会ってからそう時間は経っていないが、それでも水銀燈がここまで激昂するような性格ではないと思っていなかったからである。
腕の中で叫ぶ水銀燈。
瞳に涙まで浮かべて叫び続ける水銀燈が、博之には父親に捨てられてしまった幼い少女のように目に映った。

「私は……私は、ジャンクなんかじゃない!」
「ジャンクですよ、ほら」

そう言って、古泉が踏みつけたのは……水銀燈が失ってしまった、右腕。
古泉が初太刀で斬り捨てた、水銀燈の一部。

「壊れた人形はただのジャンクです、利用価値などない、捨てられるだけの運命です」
「う……うぅ……」
「一度鏡をご覧になった方がいい……今の貴方は薄汚れた、ゴミ捨て場にあるような人形ですよ」

腕を失い、煌びやかな服は無惨に焼け爛れ、泣きはらした顔。
確かにその姿は醜く、誰も見向きもしないだろう。

「う……うああああああああああああああああ!!」

残った左腕だけで剣を持ち、逆上したように声を上げて突進する水銀燈。
古泉は、その顔に浮かべた微笑を崩す事なくそれを受け流し、足払いをかける。
そして、無様に転倒する水銀燈。

「さて、壊れた人形に用はありません……ご退場願いましょうか」
「させるかぁっ!」
「……またあなたですか!」

呆れ気味に刀を構えて振り向く。
だがそこに博之の姿は無く、そこにあったのは古泉目掛けて飛んでくる赤い甲羅。

「!?」

咄嗟に身を屈めて回避をする古泉。
ちっ、と博之は舌打ちをしながらも古泉の横を通って水銀燈を抱え、走り出す。

「逃げるつもりですか……! そんな重たいものを持って逃げ切れるおつもりで?」
「人間に比べりゃ軽いわこんなもん!」

そうは言うものの、やはり一人で逃げるのと水銀燈を抱えて逃げるのとでは速度は違う。

「ここはお任せします」
「ふん、ちゃんと始末はつけろよ!?」

やはり、相手は追ってくるらしい、当然だろう。
弱っている参加者が二人いて、しかもこちらには武器が殆ど無い状態だ。
せめて水銀燈が動いてくれればとは思うが、文句は言ってられない。
水銀燈は既に戦う気力すら無くしてしまったらしく、動こうとしない。
ならば、博之自身が運んで、どうにか逃げ切らなければならない。

水銀燈を抱えて、博之は走る。
町の中を縦横無尽に走り、どこを走っているのかわからないほどに走る。
だが、古泉はそれでも追う。
そして、博之と古泉との距離は明らかに短くなってきている。
このままでは時間の問題だ。

その時。

「どわっ!?」

博之が、派手に転んだ。

奇しくも、そこは兄である浩二がTASに襲われた時に転んだ場所と同じ場所。
その時は運良くティアナが助けてくれたものの……今回ばかりは、そんな期待は出来そうにない。

「くそっ……」
「そこまでですよ」

立ち上がろうとした矢先、目の前に刃の切っ先が見えた。
見上げると、少し息を切らせてはいるもののまだ微笑を浮かべている古泉と目が合う。

「よく頑張りましたと言いたいところですが、ここまでです。
 大人しく殺されてください」
「……嫌や言うてもやりおるんやろが」

荒々しい息をしながら、怒気を含んだ声で聞き返す博之。
無言で頷き、肯定する。

「……最後に、名前聞かせぇ」
「名前? なるほど、自分達を殺した人物の名くらいは知っておきたいでしょうからね。
 別にそれくらい、構いません。 僕の名前は古泉一樹ですよ」

そう言って、古泉は逆刃刀を思い切り振りかぶる。
これで二人が脱落。
ようやく愛しの彼に貢献する事が出来ると、心の中で歓喜しながら、振りかぶる。
だから、その瞬間、博之が密かに口元に笑みを浮かべていた事にも気付かなかったし……。

自分の体が、宙に浮いてどこかに向かっていた事にも、まるで気付かなかった。

「なっ!?」

古泉は飛んでいた。
比喩などではなく、文字通り飛んでいたのである。
目の前にいたはずの博之達は既に見えず、ここがどこかはわからない。
そもそも何故飛んでいるのかがわからない。
何かの魔法の類か、それとも今までの事全てが夢だったのだろうか。
色々と思考を巡らせるが、答えは出ず、思考は中断させられる。
何か、堅いものが頭に当たったのだ。
いや、当たったなどという生易しいものではなく、それは激突した。

赤甲羅。
雑魚的ならば一撃で撃退し、スーパーな状態になっていたとしても一瞬でその形態を解かれてしまうその甲羅に激突した。

「何故……」

甲羅を投げる直前に吹きかけた自動ぶんなぐりガスの効果で、
名前を告げた瞬間に投げられた甲羅目掛けて一直線に進んでいるものとは古泉にもわからず。
何故自分が飛んでいたのか、何故甲羅に当たらなければならなかったのか、考えても考えても答えは出なかったので。
古泉はそのうち、考えるのをやめた。


【E-4 町/一日目・午前】
【古泉一樹@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:気絶 頭部強打
[装備]:逆刃刀@フタエノキワミ アッー!(るろうに剣心 英語版)
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
1.キョン君(´Д`;)ハァハァ
2.優勝して、いとしの彼を生き返らせる。
3.殺し合いにのっていない参加者を優先的に始末。相手が強い場合は撤退や交渉も考える。
4.サトシと一時的に協力。利用価値がなくなりしだい始末する。
5.優勝して「合法的に愛しの彼とニャンニャンできる世界」を願う(ただし、生き返らせることを優先)
※古泉のすぐ近くに赤甲羅があります


「ったく、いつまでもこそこそこそこそ……うざってぇ!」

苛立った様子で木箱に向けて乱射するサトシ。
古泉が水銀燈と博之を追ってからというもの、塔での死闘はサトシ側に圧倒的優位な情勢で事が進んでいく。
狙いは正確ではないものの、乱射はティアナを精神的に追い詰めていく。
サトシは弾数制限が無い上に連射可能、ティアナはそろそろ魔力が切れそうな上に単発のみ。
なのはなら、恐らくこういう時でも一発で黙らせる事の出来るような魔法が使えるのだろう。
だが、ティアナにはそんな事は出来ない。
こそこそ逃げ回る事しか……。

「ヲタチ! でんこうせっか!」

いい加減痺れを切らせたサトシが、ヲタチを使って木箱を叩き割る。
ティアナの姿が、晒された。

「ヲタチ! れいとうパンチ!!」

間髪入れずに命令。
木箱の陰に座って様子を見ていたティアナは即座に立ち上がれず、
回避をしようとするものの、その冷気の篭った拳を足に受けてしまう。

「くそっ……!?」

倒れこみながらも、反撃しようと立ち上がろうとするが……立てない。
いや、足が動かない。
怪我をしたのか……そう思って、足を見てみる。

足が、氷漬けになっていた。

「ひゃははは! もう動く事は出来ねぇよなぁ?」
「くっ……」

腹を抱えて笑うサトシ目掛け、再び魔力の弾を放つ。
回避。
笑いを堪えて再びティアナに向き合うと、サトシは銃を構える。

「まったく、こそこそ逃げ回ったと思えば氷漬け。
 おまけに攻撃はさっきみてぇなへなちょこ鉄砲だけとはな……弱すぎて話にならねぇぜ」

弱い……ああ、確かにそうだろうなとティアナは思う。
才能もレアスキルも持ち合わせていない上に、経験も何も無い。
機動六課の中では一番必要が無い人材だろう。
なのはに叱られ、励まされ、一度は持ち直したが……。
こんな状況になると、自分に力が無い事を改めて実感する。

「あの水銀燈って奴の方がまだ歯応えありそうだったぜ。
 さっさとお前を殺して、あっちを追わせて貰うか……」

構えた銃から光弾が発射される。
ティアナは目を瞑り、死を覚悟した。
その瞬間。

ティアナを庇うようにして、青い眼を持つ白き龍が現れた。
そして、その傍らにはカードを持つ浩二の姿。
サトシが放った光弾はブルーアイズに当たるものの、ダメージは与えられない。

「ちっ……邪魔しやがって!」

更に連射、全て当たるがほぼ無傷。
最強の龍族は、そう簡単に倒れてはくれない。

「やっぱ出てきて正解やの、あのままやったらやられとったぞ!」
「あんた……馬鹿! 前に出てきたら駄目って言ったじゃ……」
「言うとる場合か! 行くぞ、ティアナ!」

塔の影から、ようやく重い腰を上げて立ち上がった浩二。
ブルーアイズの影になっているティアナに手を貸し、立ち上がらせようとするも……。

「だから、足が凍ってるから立てないのよ……」
「ああ、そうやったの」

ここまできて、このボケっぷりか……とティアナはため息を吐く。
助けてくれたのはわかるし、ありがたいとも思う。
だが、自分の事を考えてくれている訳でもなければ敵を撃退しようとしている訳ではない。その行動には、些か疑問を挟みたい。

「なら……これでええやろ」
「えっ、ちょっ!?」

そんな思考をしていた折、急にティアナは持ち上げられた。
あまりに急な事で思考が停止し、何をされたのかを理解するのに時間がかかったが、理解をした瞬間体が沸騰するように熱くなり顔が真っ赤になる。
持ち上げられ、抱きかかえられる。俗に言う、お姫様抱っこ。

「な、何してんの!?」
「何しよんて持ち上げよんよ、歩けんのやったらこうするしかないやろ」

あっけらかんと言い放つ浩二。
因みに表面上はそうなんでもないような顔をしているが、その実下半身は半勃起している。

「おら、そしたら行くぞ」
「行くって……どこへよ?」
「知らん!」

そう言い浩二は走り出す、ティアナが止める声を無視しながら塔の中へと。

それからしばらく……。
塔の外で、巨体が堕ち、轟音が響いた。
青い眼を持つ白き龍が、敗れたのだ。
倒れ伏し消滅してゆく白龍を蔑む目で見ながら、サトシは己の右手に持っていたカードをデイパックにしまう。

「……出きれば使いたくはなかったんだがな」

そう言うサトシの横に立つのは、今先ほど倒れたものと全く同じ姿を持つ白龍。
その白龍は文字通りサトシの切り札であり、出来る事なら温存しておきたかったものである。
だが、目の前にもう一体の白龍が出てきてしまった。
悔しい事だがこの龍の強さを……そう簡単に倒せるような相手ではないという事をサトシは知っていた。
だからこそ、切り札であるブルーアイズのカードを自分も使ったのだが……。

「勿体ねぇ事をしちまったぜ」

ブルーアイズを呼び出した浩二は、ブルーアイズに対して指示を出さなかった。
故にブルーアイズは自発的な行動は何一つせず、そこに立ち尽くしたのみ。
サトシとヲタチ、そしてサトシが使途するブルーアイズには攻撃は一切しない。
攻撃をしてこないのなら、ずっと攻撃をし続ければ堕ちる。
つけ加えて言うならば、サトシとヲタチにはブルーアイズに対して特攻の意味を持つ最大の武器を持っていた。

「ドラゴンとひこうには、氷がよく効くってな」

冷気を帯びた拳を持つ相棒を見ながらサトシは呟く。
龍族、そして翼を持つブルーアイズを相手にもしかしたらと思ったのだが、案の定成功した。
ドラゴンと飛行は氷が弱点、二つともがそうなのだから四倍の効果だ。

「まぁ……過ぎた事を言っても仕方ねぇか。
 それよりも、とっととあいつらを追わねぇといけねぇ」

役目を果たした自分のブルーアイズが消滅していくのを見ながら、サトシは考える。
塔の入り口を見てみると、扉が開いている。
最初は開いていなかった事から考えて、中にいると推理するのは容易い。
サトシはヲタチに塔の入り口に残り、見張りをするように伝えると中に侵入した。
相手は手負いの女と馬鹿そうな男だけ。
なら、一人だけで十分だ。

それにしても上手くいったものだ、最初は一人だと思わせ、油断させておいて三人で叩く。
案外自分達は相性がいいのかもしれねぇな、などと考え、
にやりと嫌らしい笑みを浮かべながら、サトシは塔の中を進む。

【サトシ@ポケットモンスター】
[状態]:闇サトシ
[装備]:千年リング@遊☆戯☆王デュエルモンスターズ、暗視ゴーグル@現実、ロールバスター@ロックマンシリーズ
[道具]:ヲタチ(残りHP50%)@ポケットモンスター、支給品一式*3(水一本消費)、アイテム2号のチップ@ロックマン2、携帯電話@現実、
DMカード(青眼の白龍、他不明)@遊☆戯☆王デュエルモンスターズ(青眼の白龍は次の午前まで使用不可)
[思考・状況]
1.古泉と一時的に協力。隙あらば始末する。
2.塔の内部にいるティアナと永井浩二をぶち殺す。
3.手当たり次第にぶち殺してやるぜ。
※ヲタチは塔の出入り口を見張ってます。近寄ってきた者には攻撃をします。
※塔の出入り口付近には、水銀燈の右腕が落ちています。



sm92:才能の無駄遣い 時系列順 sm94:愛媛のジャンク/凡人打開配信(後編)
sm93:VS.動かない大森林(EASY) 投下順 sm94:愛媛のジャンク/凡人打開配信(後編)
sm79:ミナミヘミナミヘ 古泉一樹 sm94:愛媛のジャンク/凡人打開配信(後編)
sm79:ミナミヘミナミヘ サトシ sm94:愛媛のジャンク/凡人打開配信(後編)
sm87:メタル・ギア・ティアナ 永井博之 sm94:愛媛のジャンク/凡人打開配信(後編)
sm87:メタル・ギア・ティアナ 水銀燈 sm94:愛媛のジャンク/凡人打開配信(後編)
sm87:メタル・ギア・ティアナ 永井浩二 sm94:愛媛のジャンク/凡人打開配信(後編)
sm87:メタル・ギア・ティアナ ティアナ=ランスター sm94:愛媛のジャンク/凡人打開配信(後編)



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