ぼくんちのニコロワ(前編) ◆CMd1jz6iP2





「イイイエッヒイイiiiiii!!!!ツメツメ!ゆめまりおをクリアした俺がおばけにビビルと思ってか!!!」
KASの絶叫響く中、その後を追いかける霊夢とヨッシー
爪のお化けを追いかけ、かなりの時間が経つが、距離は変わっていなかった。
「そりゃ、追いついた分自分でロスしてればね」
KAS走る→追いつきそう→無駄な動き→離される→最初に戻る。
この繰り返しなのである。
しかし、あのお化けもKASも、かなりの速さだった。
普通に走っているヨッシーが付いていくのがやっと。
「ほら、ヨッシー。急ぎなさい」
「れ、霊夢さんが降りてくれたら……」
『貴方の鞍は飾りですか?気合を入れてください』
「鬼だあああああ!」

「……ねえ、レイジングハート。変じゃない?」
『ええ、あの男の行動は常軌を逸しています』
「そうじゃなくて、あのお化けよ……増えてない?」
そんなはずは……とレイジングハートが爪のお化けを見た。
確か、数体を撃破したはずだった。
『7……8……確かに、増えているようです』
「いつ合流したのかしら……ううん、そんな様子は無かったわ」
KASの奇抜な動きが気になって気がつかなかった。
両者は、爪のお化けをじっくりと見て……
分裂する瞬間を、目撃した。
「増えた!?」
『+2、これで10体となりました』
すると、なにやら爪のお化けは寄り添うように密集しだした。
「集まったところで無駄無駄無駄ァ!キングツメツメにでも合体できない限りKASには勝てない!」
それは、あまりにも的を得ていた。

爪のお化けが光り輝き、収束していく。

「あ、アンタが余計なこと言うからアァーー!!」
「ノコノコじゃなくてブルだっかか!!」
「あー、食べてみたかったのに!!」
それぞれの意見はともかく、爪のお化けはその姿を変えた。

そこに居たのは1匹のみ。
頭から生える触角、大きな瞳、人を馬鹿にしたような笑み、人のような腕。
そしてクラゲのように何本もある細い触手状の足。
その名は、ケラモン。
「真の姿を現したなツメツメ!このKASgウワアアアア!!!」
追いかけてるKASの会話を中断させたのは、ケラモンの口からの光弾。
ケラモンは後ろを向き、光弾を吐きながら変わらぬ速度で逃げる。
「うわわわわ!危ない危ないですってー!」
「く……ディバインシューター!」
KASが避け、こちらに飛んできた光弾を打ち落とす。

「あいつ、後ろ向きで速さが同じってことは……本当はもっと?」
『速度はもちろん、全体的に強化されていると思われます』
厄介なことになった、と霊夢は思った。
アレは時間をやればやるほど強くなるタイプ。
弱いうちにどうにかしないと、手に負えなくなる可能性が高い。
「良くもやったなツメツメ改めケラケラ!お前は怒らせてはならない相手を怒らせてシマウマ!頭のアホ毛を引っこ抜いてやる!」
KASは、攻撃にひるむことなく走る。
それを見て、ここは撒いた方がいいと、クラゲのお化けは前を向いて全速を出した。

「待てええええ!!俺より速いなんてことは許されない!!」
KASの速度が上がる。というか、無駄なジャンプをやめただけだが。

「も、もう駄目です……」
ヨッシーの体力も、いい加減限界らしい。
「仕方ないわね、行くわよレイジングハート!」
『わかりました!』
霊夢の体が宙に浮く。
レイジングハートの力を借りて、少しだが飛行が可能になった。
靴から光の羽が生え、高速でKASを追う。
「って、初めからそっちで行ってくださいよー!!」
ヨッシーの文句も、すぐに聞こえなくなった。


「あーうー。疲れましたー」
高槻やよいが飛び始めてから、かなりの時間が経過した。
しかし、人の影は見えなかった。
もしかして、この辺りには誰もいないんじゃないか。
それとも、この辺りに恐ろしい殺人鬼がいて、皆逃げたのではないか。
「ううー、そうだったら休んでられないですけど……腕が痛いですー」
やよいの両腕は、パンパンに腫れあがっていた。

日吉さんは、自分のワガママで動けなくなっているようなもの。
だから、無理して頑張ったやよいの腕は、限界を超えていた。
なんとか橋を越え、水辺まで来たところで休むことにした。
腕を川の水で冷やすが、腕の痛みは治まらない。
「どうしよう、これじゃあ飛べない……」
筋肉痛ならレッスンで何度もなったことがある。
しかし、アイドルはそこまで体を鍛えるわけじゃない。
一番鍛えてる真ちゃんでも、これ以上体に無理はさせないだろう。
でも、やよいは痛みを我慢して、日吉さんを助けるために空へと―――

「ふうん、余計なお世話かもしれんが、無理をしてもろくなことはないぞ」
舞い上がる寸前で、止められた。

「痛っ!!」
やよいは、カイバーマンと名乗った男に、腕を診てもらっていた。
「折れてはいない。肉離れもしていない……捻っただけのようだな」
「うう……捻挫ですかぁ?」
海馬は、やよいが空から降りてくるのを見ていた。
初めはハーピィレディの類かと思ったが、そうではないことはすぐに理解した。
近づき様子を見ると、腕を痛めているのだと理解した。
緑髪の女のように、見た目と違って凶暴な可能性は考えた。
だが、正義の味方として無視するのもどうだろうと思い、仕方なく声をかけてみたのだ。

「このまま飛べば、墜落!激突!大粉砕!間違いなく死んでいたな」
「で、でも……私は、六芒星の呪縛を解かないと……」
「なんだと、貴様、今何と言った!?」
思いがけぬ単語が出てきたと、海馬は驚いた。
やよいも、解き方を知っているのかと事情を話した。
海馬は、会話の通じない変な男のこと、襲ってきた番長のこと。
自分を守って死んだ永井けいこのこと、そして今、城で六芒星の呪縛で動けない日吉のことを知った。

「なるほど……破かなかったのは正解だ。そのカードは、間違いなく今後役に立つはずだからな」
海馬は、やよいのその場で流されない判断力に感心した。
甘いだけの人間ならば、その場でカードを破り捨てていただろう。
しかし、やよいは数少ない支給品を破壊するという愚かな行為には走らなかった。
まだ幼い少女ながら見事な精神。
本当は貧乏強度が1000万パワーを超えているだけなのだが。

(しかし、永井けいこ……母親か)
永井姓の人間は、他に二人。聞けば息子だという。
母親が殺された事実を知れば、弱い精神の持ち主なら、このゲームに乗りかねない。
再び、海馬はこのゲームに対する怒りを燃え上がらせた。

「そ、それで……解けるんですか?」
「難しいところだな。不可能ではないが、除去するカードがあるとは限らない」
そんなぁ、と肩を落とすやよい。
「しかし、これはデュエルモンスターズではない。他にも手段はあるかもしれん」
「えーと、デュエル……って、なんです?」
「デュエルモンスターズを知らんだと!?」
海馬はショックを受けた。
全世界で流行しているゲーム、デュエルモンスターズ。
女性がアメリカチャンプになるなど、女性の間でも人気はあった。
やったことはなくとも、知らないというのは、とても信じられなかった。
海馬はやよいにデュエルモンスターズについて教えた。

「あー、このカードゲームですかー。いつか給料で、弟達に買ってあげたいですー」
「給料だと?貴様……その年で仕事についているのか?」
「一応アイドルやってまーす!そんなに売れてないですけど、給料で弟の給食費が払えましたー」
一瞬、その明るさと年齢からモクバと重なったが、幻覚を振り払う。
海馬は、やよいの服装を見る。
敵に襲われた時に汚れたであろう部分もたしかにある。
しかし、それとは別に、長年着てきたというのが一目でわかる、くたびれた服。
この娘は貧乏。しかし、それを感じさせない明るさがある。

海馬は、両親を失った頃を思い出す。
俺とモクバは親戚から遺産を取り上げられ、施設に入れられた。
そして、海馬剛三郎の養子となり、今のロードを歩き始めたのだ。
だが、それは幼き両親との、過去との決別でもあった。
過去を振り返ることは無駄なことだ。
だが、モクバは、両親と暮していた頃が、もっとも幸せだったのだろうとは思っていた。
現に、目の前のやよいは、貧乏でも幸せを手にしていたのだろう。

このくだらないゲームに呼ばれるまでは。

「高槻やよいと言ったな。貴様、海馬ランドには?」
「えーと……そんな遊園地、ありましたっけ?」
ここで初めて、海馬は何かおかしいと思った。
確かに、海馬コーポレーションが世界屈指の大企業でも、知らない人もいるだろう。
だが、海馬ランドはアメリカにも進出した世界最大のアミューズメントパーク。
子供の入場料は無料。やよいのような生活の苦しい家庭の子供にも楽しんでもらうためだ。
各メディアで常に宣伝している。
テレビがなかろうが、新聞を取ってなかろうが、名前くらいは誰でも知っている。

事務所の名前、所属するアイドルの名前を聞く。
765プロ。やはり聞いたことも無い。
更に死亡者として呼ばれた如月千早は、トップアイドルに最も近いとされるふつくしい歌声の持ち主で、デビュー以来ヒット曲を連発しているという。
「私はともかく、千早さんを知らないなんて嘘ですよね?」
「もしかすると、記憶操作の類かも知れんな」
「記憶操作、ですか?」

本当は、海馬もやよいも、お互いに知っているのだが、奴らに記憶を消されたのではないかということ。
「殺し合いをする上で、遠慮なく相手を殺すため、記憶を消されているのでは……」
「でもでも、それなら友達や知り合いの記憶が残ってるのは変ですよ?」
「確かにそうだ……どういうことだ?」
海馬は考え込む。やよいの言葉が嘘だとは思わない。
嘘をつくメリットが大きすぎる。この状況で、下手に相手を不安がらせることは、自分自身を危険に晒すからだ。
「うーん、わからないです」
「まぁいい。話を戻すが、結界を壊せるような特殊能力を持った武器、人なら可能性はあるだろう」
デュエルモンスターズの効果を再現するほどだ。それならば、他にも同等の何かが存在する可能性は十分ある。

「そ、そうですよね。カイバーマンさん、ありがとうございました!今度は南の橋の方を探してみます!」
やよいは、海馬に頭を下げる。
……その際、腕を思い切り上下させたため、かなり痛そうにしていた。
そのまま走って行ってしまった。

(行ったか……俺に協力を求めなかった。他人を巻き込む気はないということか)
海馬は、日吉などという男を助ける気も、やよいに協力する気もない。
だが、やよいがあっさり去ったのは、自分を巻き込まないためではないかと思った。
ゲームに乗った人間がどこにいるとも知れない以上、できるだけ他人を巻き込みたくないということだろう。
海馬は、せめて見えなくなるまで見送ろうと思い

やよいが何かに体当たりされ、羽を舞い散らせ吹き飛ぶ、その一部始終を目撃してしまった。
「やよい!」
海馬は、吹き飛ばされたやよいの元へと走った。
その進路を妨害するように、光弾が海馬を襲う。

「なんだ、あのモンスターは!」
やよいを吹っ飛ばしたモンスター……デュエルモンスターではない。
その不愉快な気分になる顔から吐き出す光弾を巧みに避ける海馬。
(手持ちの武器はない。ならば、どうする!)
やよいの元まで駆け抜け、そのままディパックを拾い走る。
俺を狙っている今、やよいの近くにいては巻き込まれるのは確実。
ディパックのみを拾い、やよいから離れたのだ。
(やよい、貴様の手札を使わせてもらうぞ!)
光弾が海馬めがけて飛んでくる。
「トラップカード発動!マジック・シリンダー!」
しかし、もちろん何も起きない!

紙一重で回避し、顔面に飛んできたケラモンの光弾を頬を掠めるだけで済ませる。
(なぜだ!ブルーアイズはともかく、こんなトラップカードも使えないとは)
だが、事実を嘆く時間はない。
「次の引きこそが、俺のロードを切り開く!」
ディパックから次のアイテムを取り出そうとする海馬に、ケラモンの光弾は休む間もなく飛んでくる。
しかし、それを海馬が不敵な笑みで返す。

「装備アイテム!ゴッドクラッシュをカイバーマンに装備!」
引き当てたのは棘付き鉄球が先に付いたフレイル。
海馬は光弾を叩き落し、ケラモンへと迫る。

「これを装備したことによって!カイバーマンはゴッドカイバーマンとなる!」

そんなことはないのだが、結局はテンションの問題。
テンションMAXの海馬のダイレクトアタックが決まる。
鉄球をモロに食らったケラモンは、体液を撒き散らしながら吹き飛んだ。
「ふぅん、どうした?この程度で終わりか!」
このモンスターに、首輪らしきものは見当たらない。
主催者の放ったモンスターだと推測する。
ならば容赦する必要もないだろう、海馬はトドメを刺すために近づく。
だが
「なに!?」
深い傷を負ったケラモンから、無傷のケラモンが分かれるように現れる。
「自動増殖するモンスターか!」
二体同時の光弾が海馬を襲う。

「ふん!!!」
ディパックより更なるアイテムを取り出す。
「装備カード!盗賊の棺桶を発動!」
出てきたのは、ディパックの容量を上回る巨大な棺。
それを弾避けとして光弾を防ぐ。
どの様な素材で出来ているのか、棺桶は光弾を受けても焦げるどころか傷一つ付かない。

(やはり、このディパックも超科学の産物。四次元空間にでもなっているというのか)
思えば、カイバーマンのコスチュームも、明らかにディパックに入りきらないような代物。
こんなごく普通のものにまで、信じられない技術が使われている。
科学者として一瞬考えてしまったが、状況を思い出し、打破する方法を考える。
その考えがまとまる前に
「追いついたぞケラケラAAAHHOOOOOO!!!」
ケラモンとは違う意味で不快になる顔の男が飛んできた。

「目の前で銭湯発見!!いい湯だなっと!!」
KASは飛び跳ね、ケラモンの上空に舞い上がる。
またスピンジャンプ!そう思いケラモンは左右に展開しようとする。
「そうは問屋がオロナイン!!」
右手のブレスレットから飛び出す蜘蛛の糸が、弱ったケラモンを捕らえる。
なぜさっき使わなかったのか、もちろん忘れていたに決まっています。
動けなくなったケラモンは口から光弾を吐こうとするが、それをKASは許さない。
「俺の尻は岩男も砕く!!ティウンティウン!!」
ヒップドロップが、ケラモンを叩き潰した。
海馬は、乱入してきた男の行動を見て、敵ではないようだと認識した。
「どこのカスだ」
しかし、海馬の第一印象は悪かった。おそらく未来永劫変わることはないだろう。

残った一体のケラモンにも、痛い洗礼が待っていた。
「ディバインシューター!!」

橋の向こうから飛んできた光球が命中し、ケラモンが悲鳴をあげる。
その飛んできた先から来たのは、もちろん霊夢。
「巫女だと?ふうん、今の攻撃からして、ただのコスプレではないようだな」
鏡を見ろといいたくなる発言。

「なんだかめんどくさい事になってるわね」
ケラモンが起こしたであろう惨状に、ため息をつく霊夢。
ケラモンはダメージを負いながらも距離を取る……だが、場所は最悪だった。
KAS、海馬、霊夢の三人の中央。完全に逃げ場がない。
「ようやく追い詰めたぞケラケラ!!俺のヒップでぺしゃんこにしてやる!」
KASが動こうとする。
「待て!こいつを仕留めるのは俺だ!」
海馬はこいつのトドメを自分の手で刺してやらねば気がすまなかった。
「別にどっちでもいいけど、増える前に倒すわよ」
ほんの一瞬時間をロスしたが、すぐにケラモンに止めを刺すべく行動に移る。
―――そのロスが、致命的だった。

「動くな……この娘の命が惜しければな」




「――――――ぅ――――――ぁ?」
なんだ?俺は……俺は寝たいんだ。
疲れた、何も考えたくないほどに。
なのに、なぜ体は起きようとする?
体はなぜ……危険だという信号を送ってくる?

「――――――  ッッ!!!」
TASは、目覚めた。
体が鉛のようで、頭はガンガン痛む。
あれから時間は……そう経っていない。
それでもTASが起きたのは、体が感じたため。
近くで展開される戦闘に巻き込まれる危険から、体が無理やり覚醒させたのだ。
TASは、近くに落ちていたフライパンを持ち、花畑を静かに進む。
そして、戦闘地点へと近づいて……覗いていたのだ。
「なんだ、あの生物は?」
そこにいたのは、倒れている小娘と鉄球を振り回す妙な格好の男。
そして、今目の前で二体に増えた生物の姿。
「あの生物……首輪が付いていない?」

先ほどの集団を思い出す。
黄色いネズミと、ピンクの小動物には、形は違えど首輪が付いていた。
しかし、糸を吐きかけてきた芋虫のような生き物には、付いていなかった。
それが意味するところ、それはつまり、参加者とは別に存在するイレギュラーの存在。
もしかしたら、支給品なのかもしれないし、原生動物なのかもしれない。
どちらにせよ、首輪に縛られていない生物。つまり……殺す必要のない存在。
あの男の言った、仲間という言葉を思い出す。
「一人だから負けた……仲間が必要だというのならば」
これ以上、相応しい存在はいない。

TASは、傷ついた体に鞭打ち、チャンスに動けるよう体制を整える。
すぐに、なにやら俺と似た姿をしている奴が走ってくる。
どこかで見た様な気がするが、大したことではない。
更に巫女服の女まで現れ、1体だけとなったクラゲのような生物が追い詰められた。
最速は、最速をもって証明する。
自分が消されず、あの生物も消されない、最速ポイント。
そこで、TASは飛び出し、やよいを無理やり立たせ、その首を絞めた。

「やよい!?貴様、何者だ!!」
海馬の怒声にも、まるで怯まないTAS。
「またややこし「TAS!!!!!!!!」え?」
今までにないほど、響いたKASの声。
あの( ^ω^)という顔が( @益@)と凄い顔になっていた。
「お前ともあろう奴が女の子人質とは見損なうにもほどがアルマジロ!」
TASはKASの発言に構わず、ケラモンを見つめる。
「クラゲの化物!言葉が通じるならば俺と組め!!!」

「「「な、なんだってーーー!!」」」
意外!それはケラモンの説得!!
「俺の目的はこのゲームの最速クリア!!貴様がそれに乗るならば俺と共に来い!!」
「最速クリア……ゲームに乗ってる?」
霊夢は、TASのことを聞いたとき、まともに話せるのではと思ったことを後悔した。
まだKASの方がマシだ。この状況を最悪の捉え方をしているようだ。
「絶望した!!ボスに戦いを挑まないTASに絶望した!!」
「馬鹿か貴様は。最速でクリアして次のステージのボスを最速で沈める……当然のことだろう」
自分と似た姿をして、何を言っているのかとTASはため息をつく。
「バーロー!!このKASにそんな既存のルールは通用しない!バグを見つけてありえぬ速度でクリアするのが俺の栄光へのロード!!」

それを聞いたTASは……笑った。
「ハハハハハ!!バグだと?バグでクリア?寝言は寝てから言うんだな、KASとやら!!」
その大笑いの隙に、ケラモンが三者の包囲網を突破する。
「しまっ……」
「動くな!」
TASの腕の力が増す。もう少しで、やよいの首は……確実に折れる。
「やめろTAS!そんな卑怯は、俺たちヒゲリストの誇りに傷をつける事になるぜ!」
ヒゲリストってどこのセクシーコマンドー部?
「KAS。教えてやろう……速さの為なら、他の全ては無意味。バグを突くのが手段の一つであることは認めよう。だが……このゲームの最速の手段はバグではない!」
スーパーマリオ64のようなすり抜けがどこで出来る?
あるかもしれない可能性など模索していては最速クリアなど不可能。
「参加者を最速で排除することが、このゲームの最速なのだ!」
ケラモンが、TASの横で止まる。

その顔を見て、TASは悟った。この怪物は、こんな状況でもまだ楽しんでいる。
確かに怯えてはいる。だが、それは死への恐怖というより、楽しめなくなるという恐怖。
最速の為に他の要素は無駄、と言ったTASだが、一つ除外すべきことがある。
それは魅せること。最速を維持しつつ、同時に華麗な動きも披露すること。
こいつには、元来の速さと楽しむ精神を持ち合わせている。
TASの相棒として、相応しい存在だと感じ取った。

それは、ケラモンも同じ。遊びたいというのに、まったく相手の強さも行動も読めずに、不完全燃焼となっている。
こいつは、自分よりも楽しく遊ぶ術を知っていると直感した。
このヒゲと一緒なら、この遊び場で、楽しく動けると思ったのだ。

「このまま動くな。動いたらこの女の首を折る」
「どうせ、逃げ切ったら同じことでしょ?だったら、ここで貴方達を倒すわ!」

霊夢は躊躇なく構える。
霊夢の考えは正しい。
非情な選択とも思えるが、霊夢もまた、それを割り切れる人間。
自分の力では、あの少女を助けること、あの二人を倒すことは不可能だと理解している。
ならば、結果が同じなら、ここで障害を排除することが正解なのだ。

海馬も同様の結論に達していた。
だが、海馬はやよいのディパックのアイテムで窮地を乗り切った。
借りを返す前に死なれては、海馬のプライドが許さない。
(だが、手札はもう……黙って見過ごすしかないというのか!)

KASはKASで動けない。
良く見れば、さっき城にいたはずのうっうーではないか。
けいこはいないが、もしやケラケラに既に倒されてしまったのだろうか?
そんな考えもしたが、それよりも、TASのことだ。
俺のラバイルの勘必中イエエッヒイイイ!と喜んだのもつかの間ねこ。
TASがバグを否定しやがったああああああ!!!
お前も使いまくってたくせになんという奴!
確かにこのゲームに対する知識は俺もない。
TASは、だからこそ最速の為にバグ探しより正攻法を選んだっぽい。
俺はそんなつまらない事はしないしない。
カギや土管でワープとか、壁をすり抜けないでクリアした最速なんて、最速じゃない!
TASが神なら俺はガス○―10になる男!用法用法を正しくおつかい楽しいな!
でも目の前で首コキャはやだ。「TASさま、だ。亀が!」なんて見たくない。

『待ってください!バインドであの男を拘束すれば……』
「あの子の首が折れるほうが速いわ。どっちにしろ、もう助からない」
レイジングハートの制止を振り切り、魔力を収束させる。

霊夢は、悪を憎まない。しかし、正義を笑いもしない。
霊夢にとって、最強最悪の殺人鬼だろうと、世界最高の聖人君子だろうと、同じ。
手を組めるなら、それに越したことはない。
目の前に立ちふさがるなら、それに対し絶対の鉄槌を下すのみ。
最悪の事態を防ぐために、何かの犠牲が絶対に必要なら、躊躇わず犠牲にする。
それが、たとえ幻想郷の知り合いでも……魔理沙ですら例外ではない。
それが、日常に戻って、永遠に後悔することだと理解していても。
TASとは組めない。脱出の意志がない以上、組んでも事件を解決できない。

レイジングハートは、霊夢がなのはとは、若干違う考えの持ち主だとわかった。
なのはは、相手の説得を諦めない。どんな悪でも何か理由があるのだろうと話し合う。
……結局最後はSLBとなるのだが、それでも犠牲を最小に抑える戦いをする。
それは、この場では甘いことだと理解している。
霊夢は、自分の行いが非情だと理解した上で実行しようとしている。

レイジングハートも、これ以上の異論は持ち合わせていなかった。
魔力収束の補助を全開で行おうとして……違和感を感じ取った。
コスプレの男性から、何か妙な波動を感じる。
それだけではない。何かが近づいてくる……何が、どこから?

TASは、もはやこの娘が人質にならないことを理解した。
先ほどの仲間を大切にする奴らとは違い、冷静な判断を下せるようだ。
人質がいても、助ける手段がないなら、せめて敵ごと殺す。
その判断を下せる人間が、殺しに回らない側なのは残念だ。
本来、ここで始末せねばならない。
強大な障害となるが、この体では無理だ。

まだ他の二人は迷っている様子。
うめき声をあげているこの娘を、殺すことなど造作もない。
だが、この女を殺すタイミングを間違えば、こちらが危ない。
あの女の攻撃は、この娘ごと俺を殺せるものなのだろう。

ならば、発射直前に五寸釘を投げ、僅かでも砲撃をそらし、回避する。
直後、娘の首を折り、鉄球を持った男へと投げる。
あのような重量のある武器を持っていれば避けきれないだろう。
そして、むやみに襲ってくるだろうKASとかいう二番煎じを殺す。
そして、状況に応じて撃破か撤退か……クラゲの援護があれば容易いだろう。

完璧 パーッフェクト

何故か頭の中にゾンビと戦う屁が臭いデブの自宅警備員の声が響いた。
雑念を消し、その瞬間を逃すまいと集中する。
だが、TASの集中は一瞬で乱されることとなる。

(あんだ、あの男のオーラは?)
妙な服装の男の背後に、ぼんやりと何かが見える。
陽炎のようにはっきりしないそれは……白い龍だった。
その威圧感に、ほんの一瞬隙が生まれ……次の隙へと繋がってしまった。
視界に入っていた巫女服の少女が消えたのだ。
「なっ!?」
そうではない、TASの視界が遮られたのだ。

虚ろな瞳の小さな小さな少女が

逆 さ ま に 降 っ て き た た め に



sm93:VS.動かない大森林(EASY) 時系列順 sm95:ぼくんちのニコロワ(後編)
sm94:愛媛のジャンク/凡人打開配信(後編) 投下順 sm95:ぼくんちのニコロワ(後編)
sm92:才能の無駄遣い 博麗霊夢 sm95:ぼくんちのニコロワ(後編)
sm92:才能の無駄遣い ヨッシー sm95:ぼくんちのニコロワ(後編)
sm78:しかし何も起こらなかった 海馬瀬人 sm95:ぼくんちのニコロワ(後編)
sm72:蒼い鳥 高槻やよい sm95:ぼくんちのニコロワ(後編)
sm92:才能の無駄遣い KAS sm95:ぼくんちのニコロワ(後編)
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sm92:才能の無駄遣い クラモンB sm95:ぼくんちのニコロワ(後編)



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最終更新:2010年03月18日 11:23