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タミフルバトル ◆jVERyrq1dU




スタンガンの電流によって半覚醒状態だった私の体も、富竹に運ばれているうちに少しずつ回復していった。
周りは360度草原だった。南の少し離れた所に町が見える。空は茜色に染まっていた。
今はきっと5時頃ね。たぶんもうすぐ放送だ。
私は今、富竹に背負われているみたいだ。富竹の背中は汗だくで気持ち悪い。私を背負ってずっと動き回っていたのかもしれない。
どうして休まないのかしら。やっぱり雛見沢症候群のせいで狂っているから?
自分のしている事は絶対に正しいと思い込んでいるから疲れなんて気にならないとか?
私は少し体を動かしたけど富竹は気づいていない。声をかけてみようか。でも冗談抜きで言葉を選ばないと危なそうね。

「富竹……。もう平気だから降ろして。自分で歩くわ」
「やあ、ハルヒちゃん。良かった気がついたみたいだね」
 あんたのスタンガンのせいでしょ、と怒鳴りたくなったがその言葉は堪えるまでもなく私の口からは吐き出されなかった。
彼の様子に驚いたせいだ。私の方を見ようとして向けた横顔はひどく青ざめて、汗で濡れていた。
酷いのは首だ。自分の爪でひっきりなしに掻いているのだろう。首は血だらけだった。
私は富竹の異常な姿に恐怖を覚えるのと同時にある事を確信する。雛見沢症候群はどんどん進行している。
富竹はゆっくりと私を降ろしてくれた。中々気遣いがある。まだ私の事を信頼してくれているみたいだ。少し安心した。
しかし、油断してはいけない。一つ言葉を間違えれば、手に持っている拳銃できっと私を撃ち殺す。
そうなる前に彼から薬を奪って注射しないと……。恐怖と緊張が原因で出た手汗で私の両手はじとりと濡れた。

「ハルヒちゃん、ごめんよ。君を背負ってたせいで余り移動できてないんだ。
 でもやっと起きてくれたしこれからは素早く移動できるよ」
「ええ……そうね。でも富竹、もうそろそろ放送なんじゃない?あんたも疲れてるだろうからしばらく休まない?」
「大丈夫さ!とにかく少しでも急いで城に行かないと僕達は全員殺されてしまうよ」
 そう言いながら富竹は首筋を掻いた。彼の両手は血で赤い。そして彼はまた歩き出そうとした。
「あ、あの……富竹」
「なんだい?」
 私は思わず呼び止めた。呼び止めたのは本当に休みたかったのと、なぜか彼に一つの質問をしてみたくなったからだ。
この質問をする事は危ないように思える。けれど聞いてみたいという好奇心と
あまりに痛々しい傷を放っておきたくないという思いから私は質問してみた。

「その首の傷痛くないの?手当てした方がいいわよ……」
 富竹は私の言葉を聞いて自分の首を触り手に付いた血を眺めた。傷に触る時も全く痛そうな表情を見せてはいない。
見た目から言うと明らかに異常者だ。
「平気だよハルヒちゃん。相変わらず首が痒いんだ。さっきも言ったはずだけど僕が気絶している間に
 遊戯やロールに何かされたんだと思う」
 二人を心底憎んでいるというような醜悪な表情を見せる。雛見沢症候群とは断じて考えていないらしい。
たぶん鷹野さんとか言う人の予防薬を心底信じきっているんだ。

「大丈夫!こんなの全然痛くない」
「でも、治療しないと。血だらけだわ」
「くどいな……。痛くないって言っているのがわからないのか!」
 富竹の大声が辺りに響き渡った。手に握り締めた拳銃を振り回して叫び続ける。
「きっとまた君は雛見沢症候群だって言いたいんだろう!言っとくけど絶対に違う!
 鷹野さんの薬は絶対なんだ!鷹野さんの薬は絶対なんだ!鷹野さんの薬は絶対なんだ!」
 拳銃を振り回しながら何度も何度も同じ言葉を繰り返す。あの黒光りする拳銃が怖い。私はロックの様なロボットじゃない……。
あの銃の中に詰った弾丸が私を貫けばそれだけで私は死んでしまう。
私は身震いし、しまったと思った。命にかかわる失敗をしたと直感した。

「ご、ごめん!私は雛見沢症候群なんて思っていない。ただあんたの傷を心配しただけよ!」
 必死になって謝る。殺されたくない、殺されたくないという恐怖が私の心に充満していた。
「本当にそれだけなのか?たしかハルヒちゃんは森でも僕が雛見沢症候群を発症していると疑っていたじゃないか」
「私が間違ってた!本当に!だから銃を振り回すのはやめて」
「わかった……土下座しろ! それで森の件も含めて許す」
「ど、土下座ッ!?」
「早くしろ」
 もちろん抵抗はあった。でも富竹が銃を振り回すので私は仕方なく土下座した。
普段の私は土下座しろと言われてするような女じゃない。絶対にしたくない。
でもここにはロックも遊戯もいない。戦えそうな人は誰もいない。私はあの拳銃で撃たれれば簡単に死ぬ。
死ぬのが嫌だから土下座した。プライドとか、今はそんなものはどうでもよくなっていた。

「う~」
 富竹は唸りながら土下座している私の周りを歩き回り、念入りに観察している。
手には相変わらず拳銃が硬く握り締められ、いつでも撃てる状態だ。
「…………」
なんだか涙が出てきた。涙がとめどなく流れる。きっと今の私の顔は涙と鼻水で酷いかもしれない。怖い、つらい、悲しい。
このゲームは酷すぎる。有希に朝倉さん、そしてキョンまで死んだ。
富竹とはこの殺し合いが始まってすぐに出会った。あのころにはワドルドゥもいたっけ。
ワドルドゥもどうして死ななきゃならないんだろう。その後、富竹と一緒にワドルドゥを殺したムスカを懲らしめたんだ。
盗撮という最低な行為をしたけれどそこまで悪い人でもなかった富竹も今ではこの様だ。きっとみんな死ぬんだ。

涙が私の制服まで濡らし始めた頃、富竹は言った。
「よし、もういいハルヒちゃん。今回の事は許すよ。さあ早く城へ急ごう。ニートやロール達を殺す仲間を集めないといけない
 あいつらは主催者側の人間だ。皆の恨みを果たすために絶対に殺さないと」
 許してくれたの……? 私は中々立ち上がれなかった。制服の裾で涙と鼻水を拭ってふらつきながらもゆっくりと立ち上がる。
富竹の姿を正面から見るのは怖い。でも変なそぶりを見せたら、今度こそ殺される。
私は富竹を見た。富竹は首が血で真っ赤な事と拳銃を握り締めている事以外は普段と変わらない様子で微笑んでいた。
そのあまりに『普通』の姿が私の恐怖心を刺激する。もう嫌、こんな奴……あの鬼の女がいてもいい。
早くロール達の所に帰りたい。逃げ出したい。

私は立ち上がった時ふと、気づく。彼のそばにデイパックが落ちている。私のかと思ったけど違った。自分のは背負っている。
おそらく私の意識が朦朧としている間に富竹が背負わせたのだろう。あの落ちているデイパックはおそらく富竹のもの。
そうか、富竹は私を背負ってたからデイパックを手に持っていたんだ。そして私が余計な事を言ったから地面においていた……。

富竹は何も言わず回れ右して城へ向けて歩き出す……違った。歩き出そうとしたのではなく落ちているデイパックを拾おうとしている。
あのデイパックの中にはきっと雛見沢症候群の薬が入っている。富竹が持っていないからスタンガンも入っているかもしれない。
富竹がデイパックを拾おうと足を曲げかがもうとしている。今の富竹からは私は見えない。私は富竹の後方にいる。

私は直感した。最後のチャンスだ、ここで行動しないといずれ殺される。私は咄嗟に富竹に向けて走り出した。
そして即座に後悔した。銃を持っている相手からデイパックを奪うなんて無茶だ。
いくらは運動が得意といっても、相手は妙な組織の一員だ。こんなの成功するわけないじゃない。
それでも私は足を止めなかった。理性がやめろやめろと脳内で警告し続ける。それでも足を止めることが出来ない。
いけるかもという希望と殺されるという恐怖で私の精神はパニック状態に陥っていた。それでも走る。
これが戦いの幕開けだった。

富竹が私に気づいた。相手は訓練を積んだ体格のいい男。例え銃を持っていなくても絶対に勝てない相手だ。
私の体に銃口を向ける。銃口の指す方向と私の視線がぶつかり合った時、私は神に祈った。
憤怒の顔をした富竹が引き金を引き、銃口から鉛弾が発射された。
銃弾が線を描いてこちらに飛んでくるのが見えたような気がした。
しかし私の体を確実に貫くはずだった弾丸は私の髪の毛と髪の毛の間を通過し、そのまま後方に外れていった。
信じられない幸運だった。間一髪だった。血を流しすぎてうまく狙えないのかしら。
それとも富竹は冷静じゃないの?いずれにしてもチャンスだ。

富竹が再び私に狙いを定め引き金を引こうとした。私はラグビーの名選手のように富竹の膝目掛けてタックルする。
意識的にとった行動じゃない。たぶん私の本能が勝手に体を動かしたんだと思う。
再び拳銃の乾いた音が響いた。しかし今度の弾は飛び込んだ私にはかすりもせず後方へ消えた。
私は富竹の足にしがみ付き、全体重をかけて富竹を倒そうとする。富竹はバランスを崩した。しかし転ぶには至らない。
「クソッ! やっぱりおまえもニート達の仲間だな。はじめて会った時から怪しいと思ってたんだッ!殺してやるッ!」
 まずいわ。私は今、富竹の足にしがみついているから、背中を狙い撃ちにされる。そうなると即死だ。死にたくない死にたくない。

半ば発狂に近い精神状態の中、私は最後の力を振り絞り富竹の足にしがみつき全体重かけ、彼のバランスを崩そうとした。
その甲斐あって富竹は再びバランスを崩した。しかし、またもや転ぶには至らない。
パワーが根本から違う。まるで機関車のようだ。視界の端で彼が私の背中に向けて拳銃を構えたのが見えた。もう駄目。
「うわああああああ!」
 自分自身でも何を言っているのかよく分からない奇声をあげ、私は富竹の足にしがみついたまま地面を蹴った。
「何ッ!」
 富竹の体が完全にバランスを失い、大地から離れ、背中から倒れる。私も足にしがみついていたから富竹に重なる形で倒れた。

倒れた私はすぐに頭を持ち上げ、状況を確認する。富竹は倒れている。拳銃は離れたところに落ちていた。
倒れる時、富竹が放り投げてしまったらしい。そして私のすぐ横にデイパックがあった。こんな時なのについ口角が上がる。
この中に雛見沢症候群の薬が……。私は急いでデイパックに手を伸ばし、中をまさぐる。
隣で富竹が起き上がるのを感じるのと同時にデイパックの中から雛見沢症候群治療セットなどを取り出し注射器に注射針を取り付けた。
これを、注射すれば――――

私は富竹に薬を注射しようと素早く彼の方を向いた。瞬間、何かが私の顔に伸びていた。赤い何か高速で顔面に向かって伸びてくる。
それは富竹自身の血で赤く染まった彼の拳だった。私のほっぺたに衝撃が走る。私は持っていたデイパックを落とし、
血を吐きぶち倒された。もう駄目よ。絶対に殺される。注射器は手に入れたけど注射出来ないならどうしようもないわ。
死への恐怖からまた涙が溢れてくる。ぼんやりとした意識の中、富竹を見た。どうやら私は1メートルくらい吹っ飛ばされたようだ。
富竹は地面に膝をつけこちらにずりずりと近寄ってくる。恐ろしい表情で私を睨んでいる。
……? 彼の様子がおかしい。ふらふらしている。どうしてこっちに向かって真っ直ぐ来ないの?

この時、富竹は意識が飛びそうになるのを必死にこらえていた。彼はハルヒにタックルされ背中から倒された。
この背中から倒れた事がハルヒにとっての幸運、富竹にとっての不運だった。
富竹は倒れた時、後頭部を地面に打ちつけ、軽い脳震盪を引き起こしたのだ。おかげで意識は薄ぼんやりとしており、
焦点も微妙に定まらない。先ほど、ハルヒを殴れたのはある意味幸運だった。

あいつがどうしてふらついているのかはこの際どうでもいいわ。今のうちに注射してやる。
私は富竹と同じように地面に膝をつけ、彼のところへ慎重に向かおうとした。もう涙は流さない。
あいつの懐に入り込み注射して富竹を救う。スケベで最低な富竹に戻してやる。その時、私は自身の異常に気づいた。
吐き気、めまい。ふらっとし、倒れそうになる。私は瞬時に富竹の症状と同じだという事に気づいた。
わかった、脳震盪ね。さっきあいつに殴られたから、頭を打ったりした時よくあるもんね。
奇しくも私達二人の症状は同じだった。しかし私はそれでも彼の元に向かった。富竹も同じだ。
どうやら相手がふらついているうちにけりをつけたいと考えているのはあいつも同じらしい。
絶対にこの馬鹿の病気を治してロール達の所に連れて帰ってやる。恐怖心は変わらない。でも私の心に再び勇気が湧いてきた。

1メートル程あった距離は少しずつ縮まっていく。私と富竹の間にはさっき私が落としたデイパックがあった。
私は注射器を、富竹は真っ赤な拳をそれぞれ握り締めた。80センチ70センチ……。
「死ねえ!」
 リーチの長い富竹が先に拳を振るった。私は進行スピードを上げた。私には避ける術はない。
ただこの攻撃が外れてくれる事を祈るだけだ。だから、次の攻撃に備えて距離を詰めるしかない。当たり所が悪ければ死ぬ。
絶対に死にたくないけどこれしか方法が無い。元々、不利な戦いだった。

意識が朦朧としている富竹の拳は私の顔には当たらず左肩に命中し衝撃が走った。
脳震盪もあり、私は余りの痛さと衝撃で倒れそうになった。
でもここで倒れるわけにはいかない。私は奥歯をかみ締めて耐え、富竹を睨んだ。この馬鹿に注射しないと……。
私は右手に持った注射器を硬く握り締め、富竹に向けて突いた。富竹の恐怖におののいた表情が目に焼きついた。
きっとこいつは今でも、この注射器をロール達が仕掛けた毒物とでも思っているのだろう。
その醜い恐怖に歪んだ顔を見れば分かる。まあ、恐怖でおかしくなっているのはあたしかもしれないけど……。
富竹の右胸に注射器の針が突き刺さる。やった!後はピストンを押すだけ……。私が注射器のピストンを押そうとした時、
視界の端で富竹の左手が私の左側から飛んでくるのを捉えた。
私は肩の痛みに耐え左手で頭を防御する。しかし、奴の拳の軌道は脳震盪のせいかまたも、狂った。

「うあ……!」
富竹の拳は今度は私の左脇腹に命中した。脇腹は人体急所の一つらしい。さっきまでとは比べ物にならない程、痛い。
今度こそ意識が飛びそうになる。しかし私の右手は諦めてなかった。注射器のピストンを押す、あと少し――――

私の首に何かがぶつかった。見えてはいた。
しかし、脳震盪で不安定になっていた私の感覚はこの土壇場で、富竹の右手を完璧に捕捉することが出来なかったようだ。
私は背中から倒れた。首に拳が命中したためだろう。息をするのがひどく苦しい。
目の前には首から血を流しながら怒り狂う富竹の姿があった。
下から見ているのもあって彼の身体はとても巨大に見えた。戦いの途中から勝てるかもしれないとほんの少しだけ思っていた。
でも違う。もう終わり。諦めかけた私のすぐ横には富竹のデイパックがあった。
「クソッ! 主催者の手先め!ここまで抵抗しやがってッ!」
 富竹が悪態を吐きながら胸に刺さった注射器を引き抜き、地面に叩きつけて割った。ああ――
もうどうやっても富竹は止められない。止める事が出来るのは死と言う事実だけだろう。
はじめて出会った頃の富竹はもう二度と帰って来ない。私は小刻みに呼吸していた。首を殴られ息がし難い。
酸素をうまく補給できない。喉がつぶれているのかもしれない。

脳震盪から回復したのだろうか。少し時間が経った後、富竹は立ち上がり私の体を蹴った。腹に衝撃が走る。痛い。死にたくない。
私の目からまた涙が流れた。鼻水も出た。何回自分の顔を醜くすれば気が済むのかしら……。
「ははは! 全く酷い顔だなハルヒちゃん。何回泣けば気が済むんだい?」
 ほら、この馬鹿もこう言ってるわ。何か言い返してやりたいけど喉が痛くて声が出ない。
でも、言い返せなくていい。私はある事に気づいた。こいつの雛見沢症候群はもう止める事が出来ない。
だったらこいつを殺してもいいんじゃない?たぶん殺せないかもしれないけど、一つだけ手段がある。
あれはとても痛かった。死ぬほど痛かったから富竹が死ぬような気がして余り使いたくなかった。
でも富竹を殺すしかないなら、あれを使って気絶させ、その後も何度も何度も『あれ』を富竹が死ぬまで使い続けてやるわ。
相変わらず喉が痛くて息がしずらいし、今までに負った傷で気絶しそうだ。だから、たぶん成功するとは思えない。
だからこそ私は泣いているんだろう。だけどあいつを殺したいという殺意だけはある。
富竹は今まで私に酷い事をしたんだから、どんな手を使ってでも殺してやる。
注射出来なかったのは私の責任なんだから、こいつを殺して止めるのも私の義務だ。

ここまで考えつくと、私の心にどす黒い炎が燃え始めた事に気づいた。
こいつさえいなければ今頃ロール達と一緒にあの鬼の女から逃げていたのかしら。そっちの方が断然いい。
こいつのせいで私は身も心も傷つけられた。富竹が憎いという黒い感情が燃え上がる。
かつての私からは考えられないほどの醜い感情の奔流が心の中を駆け巡った。殺してやるわ富竹。
この戦いの中で初めて明確な殺意が生まれる。手段さえ選ばなければ、少しだけいけるような気がしてきた。

「待ってろ。今、拳銃を取ってくるから」
 富竹は私に勝利の笑みを見せつけながら体の向きを変えた。行け!お願いだからそのままこっちを振り返らずに歩いていけ!
そのまま銃の所へ歩いていけ!そのまま絶対に振り返るな!
「嬉しかったかい?」
 富竹は再び私の方に向きかえり、にやりと醜悪な笑顔を見せた。そして私の横に落ちているデイパックを拾った。私は血の気が引いた。
「このデイパックの中にはスタンガンが入れてある。君が何か狙っている事には気づいていたよ。
 後ろからスタンガンで攻撃するつもりだったんだろ?
 ははは! どうしたんだいその顔?まるで希望が絶たれたかのような顔をしているな。
 しかしまあどっちみち悪である君達に勝利なんてありえないんだよ」
富竹は私を嘲り笑いながらデイパックの中に片手を突っ込みまさぐっていた。
「君はスタンガンで殺してやるよ。電流では殺せないかもしれないけど、その場合はスタンガンで君を殴って
 残酷な事ばかり考えるその頭をかち割ってやる」

「わ……た…し………は」
 喉が痛くてうまく声が出ない。悔しい。こいつはもうどっちみち助からないから私の手で絶対に殺す。
まだ注射器があった頃は戦いながらもこいつを救う事を考えていた。でももう薬は無い。だから私が絶対に殺す。
私にここまでしてくれた富竹が憎い。こいつを殺す事は私の義務だ……。
「なんだって?何か言ったかい?」
 まだデイパックをまさぐっている。よっぽど嬉しいのね。中にスタンガンが無い事にまだ気づいていないらしい。
本当に馬鹿でスケベでどうしようもないわね。私は咳払いをし、寝ている体を持ち上げ地面に座った。
もう躊躇いなんて無い。あんたを救おうとなんて考えてない。ここまで私の体を傷つけた奴だ。
どす黒い憎しみがどんどん湧いてくる。殺してやるわ、富竹。これで決めてやる。
体の痛みをあと少しだけ我慢すればいい。これが私の最後の攻撃。覚悟しなさい、富竹……。

「デイパッ……クの……中にま…だ…スタンガ……ンがあるとお……もってるの?……私がとっ…てないとでも……思った?」
 肩膝を立てながら言ってやった。富竹から今までの余裕の表情が消え、代わりに驚愕の表情がその顔面に張り付いた。
私は立ち上がるのと同時に隠し持っていたスタンガンを取り出し彼に向かって足を踏み出した。
上半身も同じように富竹に向けて一直線に運動する。私の命を懸けた一撃だ。
私のプライド、憎しみなどの思いを込めたスタンガンを右手に握り締め、富竹に向けて突き出す。
富竹が「いつの間に」と叫んだ。やっぱり馬鹿ね。あんたのデイパックから注射器をとる時についでに取ったのに決まってるじゃない。
私の思いがこもったスタンガンはゆっくりと富竹へと伸びていく。当たるという確信があった。勝てると信じきった。
しかし、丸腰だったため無様に逃げるしかないだろうと予測していた富竹は、私の全く予期していなかった行動に出た。
私のスタンガンに対して富竹は持っているデイパックを振るおうとしている。私の頭を狙っている。
……違う、スタンガンを狙っている。叩き落すきね。上等だわ。

衝突するスタンガンとデイパック。私の予想はいい方向に外れていた。富竹にはスタンガンを叩き落す余裕などなかった。
奴はスタンガンから身を守るため、咄嗟に持っていたデイパックを盾にしたのだ。
スタンガンは富竹が両手で持つデイパックによって止められた。しかし殺すと決心した私は慌てない。
冷静に、落ち着いた手つきでスタンガンのスイッチを押し、流れる電流を最大にした。バリバリと派手な音がする。
デイパックは電気を全く通さない絶縁体なのかしら。それなら私は負ける。しかし運は私に味方する。
富竹が悲鳴を上げ、明らかに痛そうな表情を見せた。気絶はしないが、
どうやらデイパックはそれなりに電気を通してくれているらしい。私よりも圧倒的に力が強いはずの富竹が私に押され始めた。
さあ、富竹死んでもらうわ。あなたは私を土下座させた。私を撃った。私を殴った。私を蹴った。私を嘲り笑った。
ここで醜く死ね……! 死ね!死ね――! 殺意が私の心を塗りつぶしていく。

「死ね……!死ね……!死ね……!死ね……!死ね……!」
 いつの間にか私は富竹のデイパックに力いっぱいスタンガンを押し付けながら呟いていた。
体中が痛くてすぐにでも倒れそうだけどひどく気分がいい。
私も富竹と同じようにどこかおかしくなったのかしら。でもいい。今は憎たらしいこいつを殺したい。

「死んでたまるか……!死んでたまるか……! おまえのような悪に負けるか!」
 富竹はこう叫ぶと精一杯の力を込めてデイパックを押し返してきた。私は思わずバランスを崩したが、
すぐに立て直しスタンガンを持つ手に力を込めた。富竹はまたあがき始めたようだ。
もう私の勝ちは決まってんのよ。さっさと気絶しなさい!
デイパックを押し返す。しかし正面に富竹はいなかった。いや正確に言うと富竹は私との『押し合い』を放棄し、
踵を返してある方向へ駆けて行った。持つ者が消えたデイパックは重力に従い地面に落ちた。
私の首に冷や汗が流れる。あの方向には富竹が落とした拳銃がある。あれを拾われるわけにはいかない。

落ちたデイパックを拾い私は富竹を追いかけた。お互い今までの戦いで疲労し、走るスピードは遅い。
それでも富竹が先に拳銃の元にたどり着くのは誰が見ても明らかだった。私はあいつに追いつけない。
あいつは私より怪我が少なく、走るスピードも私と比較すれば速い。なによりあいつの方が私よりスタートが速かったのだ。
「は……ははは! 残念だったねハルヒちゃん。僕の勝ちだ!君のスタンガンでは銃には勝てないだろ?」
 富竹は走りながらまた私を嘲笑した。五月蝿い! 私はどんな手を使ってでもあんたを殺すって決めたのよ!私の責任なのよ!
私は拾ったデイパックを富竹に向けて投げた。デイパックは放物線を描いて富竹の頭に当たった。
そのおかげで富竹はバランスを崩し転んだ。私は心の中でガッツポーズをとった。私の勝ちだ。頭に銃弾をぶち込んでやるわ。
富竹は必死の形相ですぐに立ち上がり再び走り始めた。しかしその間に私はかなりの距離を詰めた。
おまけに私は今、スピードに乗っている。加速しきっている。あいつは『今』からスタート。絶対に追いつき追い越す事が出来る。

そして私はついに富竹に追いついた。富竹は相変わらず首から血を流し、憤怒の表情で私を睨んでいた。
私に手出し出来ないようにスタンガンで威嚇する。スタンガンで殺してもいいが、おそらく拳銃を拾って撃つほうが速い。
私はついに富竹を追い越した。拳銃ももう目の前だ。拳銃に向けて手を伸ばす。しかしその瞬間、私の頭に激痛が走った。
富竹が私の髪の毛をつかんでいる。これじゃあ走れない。もうこれ以上前に進めない。スタンガンで富竹に攻撃する事も出来ない。
そんな事したら富竹が拳銃に飛びついてしまう。
富竹が髪の毛を引っ張る。激痛とともに髪の毛が何本か抜ける。あ……! そうよ。力いっぱい引っ張れば髪の毛は抜けるんじゃない。
だったら髪の毛掴まれてても『前に進める』わ。

足に精一杯力を入れて前に踏み出す。髪の毛がぶちぶちと音を立てて抜けた。大切な髪の毛だけど一切の未練は無い。
私の心の中の大切で、決定的な何かが切れたような気がする。でも全然かまわないわ……。
だってほら、髪の毛が抜けるごとにどんどん拳銃に近づける。この馬鹿を殺せる。今はとにかくこいつを殺したかった。
キョン達SOS団メンバーの顔が走馬灯のように脳裏に浮かぶ。私おかしくなったのかな? まあ『普通』であるよりはましよね。

拳銃に手がとどきそうになった時、富竹の赤い手が私の頭を掴んだ。本当にあと少しだった。あと少しで手が拳銃にとどいていた。
しかし拳銃を掴む事は出来なかった。富竹の忌まわしい手はまず私の頭を掴み、首を掴み、そして私は恐ろしい力で投げ飛ばされた。
視界から銃が消えていく――

私が地面に激突し必死に立ち上がった頃には富竹は私に銃口を向けていた。
「じゃあね、ハルヒちゃん」
 それだけ言うと富竹は引き金を引いた。次の瞬間、私は左肩に今までとは比べ物にならないほどの激痛を感じた。
大量の血が噴出した。私はよろめきしゃがまざるを得なかった。それでも私の黒い炎は燃え尽きない。
肩を押さえながら考える。残った武器はスタンガン唯一つ。
これでどうやって拳銃と戦えばいい? ……いえ、諦めない。私はSOS団の団長よ。
ロール達に笑われないためにも絶対に諦めない。

「君が死んだら徹底的に体を調べさせてもらうよ。どこかに主催者の手がかりがあるかもしれない」
「勝手に……言ってな……さい。この……狂人!」
「ははは! 何を言ってるのか聞き取りづらいねえ!もっとはっきり喋ってくれよ!」
 私はおおきく振りかぶり思い切りスタンガンを投げた。投げた次の瞬間、富竹が引き金を引いた。
スタンガンが当たるかどうかは分からない。体中が痛いせいでうまく狙えるわけがない。
ただ力いっぱい投げた。当たれと祈った。飛んでくる弾丸が外れろと祈った。

数秒後――
私の眼前には顔面を抑えて痛がる富竹がいた。私のほっぺたにはさっきの弾丸が掠めていった傷跡が残っている。
富竹は私の顔を狙ったらしい。顔よりも的が大きい心臓辺りを狙ってれば良かったのにね。
スタンガンはどうやら奴の顔に当たったらしい。私は最後の賭けに勝ったんだ。ほっと一息つきそうになったがまだ終わっていない。
あとはあいつに止めを刺すだけだ。私は肩を手で押さえ、足を引きずりながら歩き、近くに石が落ちていないか探した。
落ちていない。仕方が無いので背負っていた自分のデイパックの中から水の入ったペットボトルを取り出した。
これで殴り続ければいつか死ぬはずだ。私が一歩踏み出した瞬間、地面の土が轟音と共に跳ねた。
私は驚かなかった。富竹が撃ったことに気づいていたからだ。

「当たると……おも……ってんの?」
 あいつは顔面を負傷して視力が落ちているはずだ。いくらあいつが訓練を受けていたとしても狙いは絶対に正確でない。
慎重に近づいていけば何とかなるはずだ。石でもあればもっとうまく攻撃できるが、あいにくここは草原で石は無い。
「畜生ッ!殺してやる殺してやる!」
 富竹は足元に落ちていたスタンガンを拾って私を威嚇した。そうか、スタンガンを投げちゃったから……あいつに渡してしまった。
そうなると不味いかもしれない。こんなペットボトルなんかで太刀打ちできる気がしない。
石があれば投げてとどめを刺せるのに……。富竹がまた引き金を引いた。
今度は外れず、私の右腕を抉っていった。私は痛みで肩膝をついた。さっきより狙いが正確になっている。
近づけばスタンガンの餌食、かといってこのままでは拳銃で撃ち殺される。私は負傷しきっている。
私の武器はいまやペットボトルとデイパックだけ。あいつを殺す武器が圧倒的に足らない。
あと少しなのに……! 富竹が私に銃口を向ける。銃口と目が合ったのはこれで何度目だったっけ。
負ける気はさらさら無かったけど、勝機が潰えたことはなんとなく理解した。

「畜生! どこへ行く!逃げるな!」
 私は踵を返し町の方向へ走っていった。町で武器を仕入れるためにここはいったん引く。
逃げるんじゃないわ。戦略的撤退ってやつよ。さっきまで私がいた空間に弾丸が通過した。
あのままつっ立っていたらやられていた。私は気絶しそうなほどの痛みを我慢しながら
町の方向へ足を引きずるようにして駆けた。富竹は私より圧倒的に怪我が少ない。
だから富竹が顔を痛がり動けない間に出来るだけ距離を開けておかなければ追いつかれて殺されてしまう。
「逃げるのか! この負け犬め!」
 富竹が獣のような声で吠えた。逃げるんじゃない。あんたを殺すための武器を取りに行ってるのよ。
私はあんたに雛見沢症候群の薬を注射するのに失敗した。もう富竹を止めるには殺すしかない。
私にはあんたを殺す責任があるのよ。どんな手を使ってでも――

「あんたが……そこでい…たがってる…間に…町にいる……参加…者を……殺し……てやるわ!」
 もちろんそんなつもりはない。これはただの挑発だ。富竹に追いかけて来てもらえば殺す時に探す手間が省ける。
もっとも今追いかけられたら町に着く前に追いつかれるだろう。だから今のうちに距離を開けないと。

富竹はその後、よく分からない奇声を上げ何回か発砲した。しかしそれは私に命中する事は無かった。
空は相変わらず茜色に染まっていた。富竹はもちろん、私もどこかおかしくなっているようだ。

「富竹……絶対に殺して…やるわ。それがわ……たしの…使命な……のよ」


【D-4 町の手前/一日目・夕方】
【涼宮ハルヒ@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:富竹への憎しみ、精神錯乱、左肩に銃創、左脇腹と顔面と首に殴られた傷、腕から出血
    脇腹に弾丸がかすった傷、軽い脳震盪(ほぼ完治)
[装備]:陵桜学園の制服@らき☆すた
[道具]:支給品一式*2、びしょ濡れの北高の制服@涼宮ハルヒの憂鬱、テニスボール、アニマルマスク・サラブレット@現実、ゾンビマスク@現実(ゾンビーズ)
[思考・状況]
1.南に逃げて町で武器を手に入れる
2.どんな手段を使ってでも絶対に富竹を殺す
3.脱出の協力者を探す
4.SOS団のメンバーを探す
5.ゲームから脱出
※自分の服装が、かがみを勘違いさせたことを知りました
※自分が狂い掛けている事に薄々気づいています
※首を殴られたせいでうまくしゃべる事が出来ません。
※ハルヒの走るスピードは負傷のため遅いです。


あの狂人め……。たかが女子高生にここまでされるとは思わなかった。さすがは主催者側の人間というわけだろう。
あの女が逃げていく。逃がしてたくないけど足が思うように動かない。
奴が投げたスタンガンのせいだ。顔面の、顎とかの人体急所に当たったのかもしれない。
しかし、それも少しずつ回復してきた。許さない。僕達に殺し合いをさせて喜ぶような奴を野放しには出来ない。
僕は立ち上がり、落ちていたデイパックを拾い上げ、奴を追いかける。
ハルヒちゃんはもう豆のように小さくなり、町の方へ行っていた。
大丈夫。僕なら絶対に追いつける。こういう緊急事態に備えて体を鍛えてきたんだ。
右手に拳銃を持ち、左手でスタンガンを握り締める。
首がひどく痒いが、両手がふさがっていて掻けないので必死に我慢した。
ニート共め、よくも僕に毒物を打ち込んでくれたな。
あの女を殺して仲間を集めた後は絶対におまえらもバラバラにしてやる。

走る富竹の足元には壊れた注射器が落ちていた。しかし富竹はそれに何の関心も示さなかった。
ゲームが始まってすぐにハルヒ、富竹、ワドルドゥの三人は出会った。
その後、ワドルドゥは悪人に殺され、残った二人は力を合わせて悪人を成敗した。
二人で大樹に向かうと、ニートやロール達に出会う事が出来た。あの頃の絆はもう消えてしまった。


【富竹ジロウ@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:雛見沢症候群発症、鳩尾に痣、左肩、左腕に中程度の怪我、首から出血、首に痒み、軽い脳震盪(ほぼ完治)、顔面に打撲傷
[装備]:富竹のカメラ@ひぐらしのなく頃に、ベレッタM92F(3/15)@現実、スタンガン@ひぐらしのなく頃に
[道具]:支給品一式*2、ピッキング用針金、マネキン(腕が一本取れています)@デッドライジング フィルム
[思考・状況]
1ハルヒを追いかけて殺す
2.城に行って、仲間になってくれる人を探す。
3.主催者の手先(ハルヒ、遊戯、ニート、ロックマン、ロール、エアーマン、ムスカ、スパイダーマン、永琳、ゴマモン、海馬、萃香、阿部)を殺す。
4.水銀燈、博麗霊夢、アリス・マーガトロイド、霧雨魔理沙が敵かどうか調べる。
5.圭一、レナ、魅音の保護
6.善良かつ人智を超えた人間に脱出のヒントを貰う
7.自分に打たれた薬の解毒剤を探したい。
8.ゲームから脱出し、主催者「紫」を倒す。
[備考]
※雛見沢症候群が発症しました。
※富竹は、首が痒かったりするのは、ロールやニートに何か薬を打たれたためだと思い込んでいます。
※首が痒いです。
※主催者を、紫という人物だと思っています。



sm135:東方無職志~お手伝いロボットの憂鬱~ 時系列順 sm137:芽を出せば再び廻る罪
sm135:東方無職志~お手伝いロボットの憂鬱~ 投下順 sm137:芽を出せば再び廻る罪
sm124:人として軸がぶれすぎて、もはやぶれてない(後編) 涼宮ハルヒ sm148:Encount "Modern or Ancient"
sm124:人として軸がぶれすぎて、もはやぶれてない(後編) 富竹ジロウ sm148:Encount "Modern or Ancient"



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