さらなる結束へ(前編) ◆jVERyrq1dU





永井博之、竜宮レナ、友人、妹、ピッピ、泉こなた、水銀燈。
所謂、塔組は7人もの大所帯に加え、そのほとんどが負傷者である。
多数いる負傷者の中でも、永井博之は特に酷かった。全身に負った大怪我に加え、失明までしている。
休みなしで城に行く事はほとんど不可能に近い。

「もうすぐ放送だからここらへんで休もうよ」
ちょうど橋の手前で、竜宮レナは休憩の提案をする。正確に言うと放送まではまだそれなりに時間があるのだが、
反対する者は一人もいなかった。皆が皆、自分達の疲労を自覚している。
「そうねぇ。だったら一度辺りの安全を確かめておいた方がいいわぁ」
「見張りも交代でした方がいいよね」

「俺……悪いけどどっちも出来へんぞ……」
博之は申し訳なさそうに言った。ここまでは、キバに肩を貸してもらって歩いてきた。
失明しているため、一人では歩けないのだ。見張りなども、当然出来るはずがない。
俺はもしかして足手纏いなだけなんとちゃうんか……。
時間が経過していくごとに博之はどんどん憂鬱になっていく。

「馬鹿ねぇ。そんなに悲観しなくてもいいわよ」
「……! そんな事言うたって俺、迷惑かけてばっかりやわ……
ティアナも、俺が失明してなかったら何とかなったんかと思うと……」
「ティアナさんの事は……多分、結果は変わらないよ。あれは富竹のせい。富竹のせいでああなったんだよ。
博之さんが気にするのはおかしい」
冷静な態度で妹は言った。あの時、ティアナが庇ってくれなければ死んでいたのは自分だった。
決死の思いで守ってくれたティアナの事で、誰かが悩むのを見るのは妹にとってつらい事だった。

「そうよぉ。いつかあの富竹って奴に仕返ししてやればいいだけだわ。
そんなに悩まないでいいわ。貴方には私がついているわよ」
「…………」
博之は沈黙する。
「水銀燈ちゃんだけじゃないよ。私だってついてる。博之さんは何も迷惑なんてかけてない。
仲間が困っている時に助け合うのは当たり前だよ」
「そうそう。レナちゃんの言う通り。皆助け合って生きていくものなのさ」
レナの言葉にこなたが同意する。

「まっ怪我してるのは博之さんだけじゃないしな。皆が皆に迷惑をかけてる。
たまたま博之さんが一番怪我が酷いってだけで」
キバがそう言った。受容的でどMなキバにしては珍しくいい事を言ったなと、妹はニヤニヤしながらキバを見た。


あぁ僕も何か言いたいなあ。でもほんやくコンニャクは残り少ないし……。
仕方ない。皆には意味不明だけど、とにかく言おう。

「ピry「すまんのぅ。皆……」」
被った……欝だ。
「ん? ピッピ何か言ったか?」
うう、何で今更聞くんだよぉッ!仕方ないので僕は首を振って、
『何も言っていない』と伝えておいた。


「さて、休憩する場所はここでいいよね。じゃあ誰が見回りに行く?」
レナが声を上げて聞いた。
「博之さんと水銀燈は無理だろ。俺行くよ」
「キバ、ちょっと待ちなさい。博之が無理なのは分かるけどどうして私も無理なのよ」
「え?だってそりゃ……フヒヒ」
キバはにやけて、博之と水銀燈を交互に見た。気持ち悪い笑みを見せる。
「確かにキバ君の言う通り水銀燈に行かせるわけにはいかないねえ。あたしも行くよ」
こなたも名乗り出た。
「キバ君が行くなら私も行く」
妹が元気な声を上げてキバに駆け寄った。妹はピッピを固く抱きしめている。

「ちょっと多すぎないかな、かな」
レナが少し困惑しつつ言った。六人と一匹中、三人と一匹が見回りに行くなんて多すぎないだろうか。
「多い分すぐに終わるよ。周りの安全を確かめたらすぐに戻ってくる」

「だからどうして私は駄目なのよ!」


水銀燈ちゃんが半ば叫ぶようにして言っている。
うーん、私も空気を読んで、博之さんと水銀燈ちゃんを二人きりにしたいところだけど、
さすがにそうなれば人数が偏りすぎだよね。二人きりにしたいけど仕方ないなあ。

「水銀燈!ちょっと静かにせえっ!」
「あ、あんたも充分うるさいわよぉ。ちょ、ちょっとキバ!待ちなさい!どういう意味よそれ!」
それにしても、この水銀燈ちゃん……
「はうぅ~、水銀燈ちゃん可愛いよぅ~。 おっ持ち帰りぃー!」
「ちょ、ま、また!?待ちなさッ!」

うわあああああああああああああああ!!


 ▼ ▼ ▼

「もう薬草も残り僅かねぇ。博之大丈夫?」
「痛みが引いてきた感はあるな」
私は古い薬草を捨て、博之の体に新しい薬草を押し付け、布で固定した。

ゲーム当初から薬草に慣れ親しんできた私達は必要以上に薬草について熟知し、
そして誰よりも薬草を愛しているといっても過言ではないだろう。
薬草はただ、食べるだけではない。押し付けたり、すり潰して軟膏にしたり、
水に混ぜて飲み薬にしたりすればかなりの効能が期待できる。
もし、この殺し合いを脱出できれば、薬草炒めや薬草カレーなんかの薬草料理にも挑戦してみようかしらぁ。

そんな薬草も残り三つとなってしまった。寂しいわねぇ……。

「博之、薬草残り三つだわ」
「……! もうそんだけか。寂しいのぅ。ならもう使うわけにはいかんなぁ」
「生きて帰れたら、薬草を大量に買い込んで、薬草炒めや薬草カレーなんかにも挑戦してみたいわねぇ」
「うまそうやなぁそれ。俺ら薬草に関しては間違いなく世界一やろうな」
博之の言葉に私は吹き出した。私につられて博之も笑う。殺し合いの最中だなんて嘘みたいだわぁ。
「当たり前よ。私達の右に出る奴なんているわけないわよぉ」


二人は知らない。どこかの世界のニート勇者一行は彼らよりも遥かに薬草を愛し、熟知している事を。

やっぱり、仲いいなぁ。あの二人は殺し合いが始まってすぐに出会ったんだっけ。
一人離れた場所に座り、辺りを警戒しているレナは思った。


「さて、軟膏も塗ったし、固定も出来たわぁ。また落ち込んだりしたら許さないわよ。
あんたが元気にならないと私が困るんだから」
「おお……ありがとな水銀燈」

私は残りの薬草を博之のデイパックにしまった。辺りを見回す。
レナは少し離れたところにいた。実は、さっきから博之に聞いてみたい事がある。
出来れば皆に聞いてみたいけれど、とりあえずまずは博之に聞いてみる事にしよう。

「博之……一応聞くけど、貴方あの萃香とかいう鬼の事、どう思っているのかしら?」
博之はしばらく沈黙していた。返答に迷っているようだ。
「正直に言うぞ……」
「どうぞぉ」
「……正直……胡散臭いな。俺はあいつを信用できん」

「…………」
博之はそう思っていたのか。まあ、レナを襲い、殺人者である阿部の仲間なんだから普通は信用しないわよねぇ。
「……萃香を信用して平気なんか?」

「さあねぇ。確かにゲームに乗っていた人間を信用しすぎるのはどうかと思うわねぇ。
でも信じないでどうするつもりかしら?殺すつもり?結局は信じてあげないと終わらないんじゃなぁい?」
「それはそうやけど……。疑う事も必要やと思うわ。城で合流した時、
あいつが裏切ったらどうする?萃香はかなり怪しいと思う」
そうよねぇ。疑う事も必要だわ。萃香は奇襲を狙っているのかもしれない。
でも、それならば……私だって……。

「それを言うなら私と博之だってかなり怪しい部類だわぁ。私達は園崎詩音を殺したのよぉ」
「俺らは殺し合いに乗っとりはせんやろが、あいつはまだ実は乗っとるかもしれん」
「いや、そうだけどねぇ……初めて会う人からすれば私もあの鬼の子も一緒だっていいたいのよ」
「ティアナが死ぬ時にかけた言葉も演技とちゃうかって思ってしまう。
……あいつが、ゲームに乗ってない事を証明してくれたらそれで安心なんやが」
「あんた、そうやって疑う辺り、やっぱり『人間』ねぇ。証明なんて絶対に難しいわよ」
「…………」

結局、乗っていない事を証明するなんて不可能なのだ。
どこかで折り合いをつけなければならない。しかし、その判断を誤れば大変な事になる。

「萃香ちゃんは乗ってないよ。私には分かる」
驚いた。いつの間にかレナが後ろに立っていた。なんかこの子身体能力が向上してない?

レナは萃香を完全に信用しているようだ。理由は戦いあったから。
そんな理由じゃ、近くで見ていたこなたならまだしも私達は……。

「お前がそんな風に確信する理由が俺らにはわからん」
ほらねぇ。こうなるのは分かっていたわ。
「なんとなく、じゃ駄目かな?かな?」
「……それはちょっと駄目なんじゃないのぉ」
「やっぱり……そうだよね」
レナは顔を俯けてしゅんとした。でも、仕方ないわよ。信用に足る理由が無いわ。

「でも、萃香ちゃんがまだゲームに乗っているって確信する理由もないよね」
「そりゃあそうやけど……」
「だったら信じてみようよ。駅で言ったように私達は疑心暗鬼に捉われてはいけない。
それこそがこの殺し合いの狙いなんだもん。だから……私を信じるように……萃香ちゃんを信じてあげて」
あらあら、正直言ってまた無茶な理論ねぇ。でも……ある意味、これで終わらせるのもいいかもしれない。
レナの言う通り、私達は疑心暗鬼に捕らわれるわけにはいかない。
それは最も避けなければならない事だ。

博之はしばらく悩み、返答した。
「…………うーん……頑張ってみるわ」
「ありがとう……!」
レナはさっきまでのしゅんとした表情が消え、たちまち笑顔になった。

「あ……皆戻って来たみたいだよ!おーい!キバくーん」
レナの指す方向を見る。三人と三匹がこちらに歩いてきていた。レナがキバ達に駆け寄る。
どうやら周りは安全みたいねぇ。

「博之、本当に信じる気ぃ?」
私はレナが向こうに行くのを見計らい、博之に聞いてみた。
「レナは仲間やからな。あいつがあそこまで信じてるならなんか平気な気がしてきた。あくまで『気がしてきた』ってだけなんやけど」
「あらあら。さっきまでの慎重な態度はどこへいったのかしらぁ?」
「水銀燈、お前どっちなんぞ……萃香を信じとるのか信じてないんかどうもはっきりせんな」
私か。私は、正直言って半信半疑だ。疑心暗鬼に陥るのは危険だというレナの意見ももちろん分かるし、
自分達の安全のために疑うべきだという博之の意見も分かる。
信用、疑惑。どちらかに偏りすぎるのは危険だということかしらぁ。

「……ま、半分信じ、半分疑いってところかしらねぇ。どちらかに偏るのは危険だと思うわぁ」

キバ達がこちらに駆け寄る。こなたとポケモン三匹はこちらに来ない。またどこかへ行ってしまった。
彼女達が見張り役を引き受けたようだ。七人もの大所帯グループ。もう誰一人として失いたくない。
だからこそ、萃香に対しては慎重にいきたい。

「皆、話がある。萃香についてだ。見回りしていた時、こなたや妹は大丈夫だって言ってたけど、
俺は正直信用しきれない。塔にいる萃香の仲間である、ニートやKAS、ロールも含めてな」

キバが言った。どうやらキバはかなりの慎重派らしい。
まあ、ある意味当然かもね。キバは友人に『孔明』とか言うので何度も何度も騙されてきたんだから……。
相当警戒心が強いらしい。ただでさえ怪しい萃香を疑うのは当たり前の事か……。
さてどうなるのかしらねぇ。

五人の話し合いが始まった。議題は『萃香は信用できるのか』。

キバはさっきの博之のように萃香に対する疑心を語った。
そしてレナもさっきと同じような事をいい。博之と同様にキバを半ば無理やり説得させた。
キバはこれ以上話し込んでも話は平行線のままだ、と悟ったのだろう。大人しく引き下がった。

そして私達は当初の予定通りに思い思いに休息を取り始めた。
キバが妹と談笑している。まだ、そこまで疑っているわけではないのだろうか。
いいえ、きっと疑っているはずだわぁ。常に最悪の事態を考えて行動しないと駄目だ。

これが私達の崩壊の前触れだったりしたら……絶対にイヤだ。



博之とキバは萃香を信用し切れていない。むしろ疑っている。
この事実は少なからずレナを驚かせ、そして傷つけた。

私は萃香ちゃんと戦ったから分かるけど、博之さん達は戦っていないもんね。
そりゃ確かに信用出来ないよ。気持ちは分かるよ。

レナは急に何かを感じ取り、辺りを見渡した。

実はレナにはさっきから萃香の事とは無関係で、気になる事があった。
何者かの気配がするのだ。どこに潜んでいるのかは見当もつかない。
しかし、何かがいる事だけは何故か確信できる。

あの野菜の宇宙人よりも遥かに嫌な感じ、もっと強力な何かがどこかに潜んでいるような、そんな感じがする。
勿論、証拠などない。そのため、レナは皆をこれ以上混乱させないためにも、証拠が見つかるまで黙っていようと思った。

 ▼ ▼ ▼

私は滑り台の上を滑り、地下の得体の知れない空間にたどり着いた。
そこは狭く、暗かった。辺りを照らす光がないのでかなり行動を制限される事になる。
主催側はどういう意図があってこんな空間を用意したのかしら。ここは隠れ家になる。
殺し合いを進めたい主催側としてはデメリットにしかならないのではないだろうか。

「ちょ!八意さん危ない!」
「え?あ、きゃあ!」
滑り降りて来た古泉が後ろから私に衝突する。私は前方に倒れてしまった。痛い……。
さっさとどかなかった私の責任ねえ。反省……。
「大丈夫ですか?」
「つつ……ええ、平気。それより話すことがあるわ」
「ぬがあ!」
「え?また!?」
涼宮ハルヒが古泉に衝突する。古泉が私の方に倒れて来た。
私は必死に逃げようとしたけど間に合わなかった。そして一瞬後、私は古泉の下敷きになっていた。
痛いし……なんか恥ずかしい。馬鹿みたい……。まるで寸劇ね。

「こ、古泉君!ごめん!」
ハルヒが謝ってる。私には謝らないのかしら?もう、古泉もさっさとどいてよ。
「い、いえいえいえ、構いません構いません。これ位の事……ならねえ」
古泉がいつものようににこやかな表情をし、穏やかに言った。
でも、気のせいかしら。口調や表情とは裏腹に、ひどく怒っているようにも見えた。まるで涼宮ハルヒを心底憎んでいるかのような怒り。
なんとなく、そんな印象を受けた。
「ごめん」
ハルヒは古泉に手を差し伸べた。その手を古泉が握り立ち上がる。

うーん。並んでみるとやっぱり美男美女ねえ。で……私はこのまま放置なのかしら。
「このまま放っておくつもりかしら?」
私がそう言うとさすがのハルヒも気づき、先ほどと同じように私に手を差し伸べた。
私はそれを掴み立ち上がる。ハルヒと見つめあった。彼女は私を値踏みするような眼で見た。
「古泉君、この人は仲間なのよね?」
ほう、この女は私を疑っているようだ。少し気分は悪いけど、中々優秀ね。
「仲間じゃなきゃわざわざ助けませんよ」
古泉が冷たく言い放った。やっぱりハルヒの事が嫌いなのかしら

「古泉、この子はどうしてここにいるのかしら?」
「薬局に潜んでいたんですよ。八意さんが出て行ったすぐ後に見つけました。気づいてなかったんですか?」
「まあ、ね。あの時は富竹への対応を考えるのに精いっぱいだったから」
「富竹!?」
ハルヒがいきなり大声を上げた。確か、あの狂った富竹はハルヒを追って町に来たと言っていた。
だから、ハルヒは富竹に怯えている……ってところかしら。

「どうかした、涼宮さん?」
「……どうして私の名前を?」
またか。私が名前を知っている訳を知らないという事は、ハルヒも古泉やレナと同じくあの中国大陸から来たわけではないって事だ。
ひょっとして中国から来たのは本当に私とニートの二人だけなのかしら……。私はため息を吐きつつ言った。
「理由を知りたいなら後で教えてあげる。けれど長くなるわよ。それより富竹がどうかした?」
「…………私は、あいつを殺したい……」
私はハルヒのこの発言によって気づいた。可憐な外見の割には、この子も富竹と同類、殺しの『火種』だという事。
ハルヒは富竹との間に何があったのかを全て、包み隠さず話してくれた。
『私も富竹と同じようにおかしくなっているのかもしれない』話の最後はこの言葉で締めくくられた。

なるほど自覚はあるのね。だったら富竹よりもずっとずっとマシだわ。
「ハルヒ、本当におかしくなった人は自分が変だなんて一切考えないものだわ。事実、富竹はそうだった。
自分の事が『正しいー!』ってね。心底思っていたわ。対応に困ったっていうのも本当。富竹よりもあなたの方がはるかにマシだわ」
ハルヒが曖昧な表情を見せた。ここは素直に喜んでおきなさい。
「私がおかしくなっていないのだとしたら、それはそれで嬉しいわ。でも富竹は絶対に殺したい。
この気持ちは狂ってるとか狂ってないだとか関係ないわよ。私の純粋な気持ち」
「別にいいわよ、殺しても。私達の目的はまさに」
私は古泉の目を見た。彼は平然としている。そして、ゆっくり頷いた。言っても平気だということだろう。
「殺す事……そして、優勝する事なんだから」

明らかな私の殺意表明にハルヒの体が一瞬硬直したのが分かった。しかし、その硬直はすぐ弛む。
ゲームに乗っている事を知らせる事にあまり不安は感じなかった。ハルヒが古泉にのこのこ着いてきた時点で、いや、
頭の回る古泉がわざわざ彼女を連れて来た時点で、ハルヒはもう『その気』に近いという事、もしくは、労せずに殺せる相手だという事。

「そんなに富竹を殺したいのなら譲ってあげてもいいわ。ただし、私達に協力しなさい」
私は王者の剣を構えた。ハルヒが断るのなら、この剣は彼女の首を飛ばすことになる。
ハルヒは、自分の首に剣が据えられているにも関わらず、冷静な態度のままだった。
「……永琳さん。私はあなたと古泉君に協力するために着いて来たのよ。私は最後まで生き残って私の、
よく分らないけど『力』を使って全てを元通りにする。協力するわ。あなた達の仲間にして欲しい」
へえ。予想の範疇だけど、これはいい展開になってきた。それにしても力か……何かしらの能力を持っているのかしら。
「ふふ。なるほどね。ま、大方そんなところだとは思っていたわ。ね、古泉」
「はい。僕が用も無い人を連れてくるわけがないですよ」
私は王者の剣を下ろした。
「ところでハルヒ、力って何のこと?」
「ああ、それは僕から説明します」

古泉はハルヒの持つ力について説明した。その力は自分の思った通りに世界を変える事が出来るという、
実に、荒唐無稽で反則級の能力だった。……信じられない。いえ、こんな話をすぐに信じて鵜呑みにする奴なんているはずがない。
しかし、ハルヒは信じているようだ。何か、思い当たる節でもあるのかしら。
まあ……優勝へ向けて協力してくれるのなら別にいい。私も無暗に否定せずに、話を合わせよう。
優勝すれば全てを元通りに出来るという彼女の希望を砕くのは悪手だ。最悪の場合、ハルヒが心変わりするかもしれない。

「正直、反応に困るけど……その話がもし本当なら、確かに『元通り』にする事が出来るわね」
「そうなんですよ。彼女を優勝させればいいんです」
古泉が相変わらずの冷たい声で言った。それは本心からの言葉なのか?
もちろん私はとてもそんな気にはなれない。元に戻る確証なんて何処にもないからだ。
正直、そんなにうまくいくとは思えない。首輪や会場を用意した主催者が、
参加者の能力を完全に把握していないなんてありえるのだろうか。
古泉はおそらハルヒを乗せるために言っているのだと思う。私はそう判断する。

「私達の思い通りに事が運んでくれたらいいんだけどね」

自分を犠牲にしてまでハルヒを優勝させようとは、やはり思わない。
そんなある意味、努力を否定するバカバカしい能力に全てを託す気にはなれない。
だから、私はこれまで通りにいこうと思う。古泉と協力して参加者を減らし、優勝する。
そして主催者と取引、または主催者を脅し、皆を生き返らせてもらう。可能性は低いだろうけどこれでいく。
さて……能力の事は置いといて、ハルヒの決意はどれ程のものなのかしら。

「『力』については分かったわ。素晴らしい能力。……さてハルヒ、一応、確認させてもらうわ」
「…………」
「あなたは私と古泉に協力して、他の参加者を躊躇いなく殺せるのかしら?例え親しい人が相手でも……」
ハルヒはしばらく無言だった。当然ね。いくら凄い能力を持っていようと彼女はあくまで普通の女子高生。
こんな質問は悩んで当たり前。だけど、もう答えは決まっているんでしょ?ハルヒ?
「……愚問よ。殺して殺して、優勝すれば皆元通りになるのよ。……答えはYESよ」
「GOOD!」

私はハルヒとハイタッチを交わした。パァンという乾いた小気味よい音が暗い空間に響いた。
これで私達は三人となった。三人という人手があれば様々な事が出来るはずだ。
綿密な作戦さえ立てればどんな相手でも切り崩すことが出来るはず。その事は中国大陸で学んだ。
「さて……まずはこの妙な空間から出ないとね」
私達は歩き始めた。暗いので、壁づたいに歩くしかない。そのため、歩行スピードはかなり遅かった。
歩いてみて分かったことがある。ここは空間というよりは通路だ。道が細い。

やれやれ……どこまで続いてるのかしら。ちゃんと出れるのかしらねえ。

歩くに連れ、徐々に徐々に明るくなって来る事に気づいたのはその少し後だった。しばらく歩くと私の願い通り、明かりがあった。
「これってトンネルとかによくある奴と同じよね」
「このライトは消費電力が少ないんですよ」
ハルヒが質問し、古泉が答えた。そんな感じで仲良くして欲しいけれど、やっぱり古泉はハルヒを嫌っているようだ。
視線が相変わらず冷たい気がする。うーん。何か二人の間であったのかしら。

この明かり、トンネルによくある電気は通路の壁の片側に等間隔に取り付けられ、奥まで続いている。
主催者達は何を考えてこんな空間を用意したのだろうか。ますます気になってくる。
しかし、その疑問を解くにはまだ材料が足りない。

ある程度明るくなったので格段に歩きやすくなった。何気ない雑談をしながら進む。
私はハルヒにこれまでの行動、会った人について細かく聞いてみた。
ハルヒは素直に答えてくれた。驚いた事に彼女はニートと行動を共にしていたらしい。
なるほど。だからニートは生き残っているのか。
たくさんの仲間に頼り切って……なんかあいつの行動って中国大陸の時とあんまり変わってないわね。
こちらの事も話そうとした時、古泉が私を見て顔をしかめた。

古泉はハルヒを信用し切れてないのだろうか。まあ……いい。
彼は頼れる。ここは古泉を信じ、ハルヒに情報を渡さない事にしよう。

私はこちらの情報を話さず、代わりに、なぜ私がハルヒの名前を知っていたかについて、
つまり中国大陸での事について話してあげた。ハルヒは興味深そうに聞き入っていた。
今は、これでいい。やはりまだハルヒを信用しきるわけにはいかない。
適当な話で誤魔化そう。与える情報を選んでおくに越した事は無い。

薄暗い通路を歩き続ける。

「八意さん道が分かれているみたいですよ」
古泉の言葉を聞き、私は前方を見た。彼の言う通り確かに道が分かれている。
そのまま道なりに進む道、斜め右に進む道、そして左へ進む道。どの道を選び、進むべきか
「三叉路ですね」
「……そうね。さあどの道を選べばいいのかしら」

私達は三叉路のすぐ手前まで歩いた。三人で話し合った結果、とりあえず全ての道を調べてみようという事になった。
まずは左へ進む道から調べる……。

「何なんでしょうかね、ここは」
古泉が独り言のように呟いた。全くその通りだ。ここはいったいどこで、いつ出られるのだろうか。
もしかしたらいつまで経っても出られない、なんて悪い考えも出てくる。
「こんな気色悪い所さっさと出たいわよ」
「全くね……。でも案外、ここが一番安全なのかも……」
両足を交互に運動させ、歩く。

「……?」
私達三人の脳裏にほとんど同時に疑問符が現れた。
目の前に鋼鉄製のドアがあったからだ。通路はそこで途切れていた。
ドアを開ければ進めるだろうが、固く閉じられており、開かない。
「鍵がかかっているわ」
私はドアノブを何度も回しながら言った。鋼鉄製のドアはひどく冷たかった。
「鉄ですからね。破壊するのも難しそうです」

「ここに入る時に鍵の代わりだった剣があったわよね。古泉が持っている奴。
それをどこかの穴に差し込めば開くんじゃない?」
「でも、差し込むような穴なんてないわ。ドアノブには鍵穴がついているけど……」
「鍵だとか剣だとか穴だとか、差し込むなんて……アッー」
古泉が気色悪かったので、とりあえず王者の剣で峰打ちしておいた。

「これ以上進めないのなら引き返すしかないわよ」
ハルヒが言った。確かにその通りだ。引き返すしかない。
しかし、ますますこの空間に対する疑念が深まる。いったいあの道化達は何の考えがあってこの空間を用意したのだろうか。
考えるだけ無駄な事なのだろうか。
「……そうね。引き返しましょう」

三叉路に戻り、次は、斜め右へ向かう道を選んでみた。
出られないかもしれないという恐怖が知らず知らずのうちに大きくなっていく。
私はいつの間にか早歩きになっていた。古泉とハルヒも同じだ。

「あれ、ここから先、ライトがないわ」
ハルヒが言った。斜め右の道を少し進んだ辺りで何の前触れも無く、等間隔に壁に設置されていたライトが消えた。
ここから先はなぜか取り付けられていない。前方には闇が広がっている。
「また真っ暗だわ……」
「きっと何かがあるのよ。行きましょ」
私と古泉は闇に怯まず、再び壁に手を当てながら進んだ。唯一ハルヒだけは少しだけ怖がっているようだ。
彼女は私達二人の後ろに付き、歩いた。

しっかりと塗り固められた壁に手を当て私は進む。壁は冷たかった。いったいこの先に何があるのだろうか。

「……光だわ。光が漏れてる」
ハルヒが呟いた。進行方向の天井から光が漏れている。外に通じているのだとしたら、あれは月光だろうか。
私達はゆっくりと光の真下に向かって進む。足に何かが当たった。
私は古泉とハルヒを止め、足に当たった『何か』を両手で触って調べてみる。この形は……。
「階段があるわ。それもあそこの光に向かって伸びている。ここから出られるかもしれない」
私はほっと胸を撫で下ろす。もし本当に出られなかったらどうなっていた事か。

「行きましょう。さっさと出ッ」
いきなり古泉が後ろから私の口を塞いだ。声が出せない。
私は頭を切り替える。何か異変があったのだろうか。
古泉は人差し指を唇に当ててハルヒの方を向いた。ハルヒはそれを見て、状況を理解し、押し黙った。

(大丈夫、大丈夫よ古泉。これからは出来る限り小さい声で話す。何があったか教えて)
私は古泉の手を握り、自分の口から離して言った。
(耳を澄まして下さい。涼宮さんもです)
耳……耳を澄ませ……何が聞こえると言うの。


「…………」
「………萃……を信…平……か」


天井から声が聞こえてきた。あの隙間から話し声が聞こえる。
上に誰かいる。それは誰だ。決まっている。ゲームの参加者だ。
一人ではない。複数いる。天井の上はやはり地上……?
何人いるの。奴らは自分達と同じゲームに乗った参加者?それとも殺さなければならない抵抗者達?

(耳を澄ませて下さい。慌てないで集中すればかなり聞こえます)

私は古泉の助言を素直に聞き、耳に意識を集中させた。
確かによく聞こえる。女と男の声が聞こえてきた。


「さあねぇ。確かにゲームに乗っていた人間を信用しすぎるのはどうかと思うわねぇ。
でも信じないでどうするつもりかしら?殺すつもり?結局は信じてあげないと終わらないんじゃなぁい?」
「それはそうやけど……。疑う事も必要やと思うわ。城で合流した時、
あいつが裏切ったらどうする?萃香はかなり怪しいと思う」
「それを言うなら私と博之だってかなり怪しい部類だわぁ。私達は園崎詩音を殺したのよぉ」
「俺らは殺し合いに乗っとりはせんやろが、あいつは乗っとるかもしれん」
「いや、そうだけどねぇ……初めて会う人からすれば私もあの鬼の子も一緒だっていいたいのよ」
「ティアナが死ぬ時にかけた言葉も演技とちゃうかって思ってしまう。
……あいつが、ゲームに乗ってない事を証明してくれたらそれで安心なんやが」
「あんた、そうやって疑う辺り、やっぱり『人間』ねぇ。証明なんて絶対に難しいわよ」
「…………」

話は続く。話の内容は自分の知り合いでもある、小さな百鬼夜行、萃香についてだ。
彼女が何かしたのかしら。

「萃香ちゃんは乗ってないよ。私には分かる」

聞いたことのある声だ。これは多分レナの声。とすると、上にいるのは塔の方にいた、いわゆる塔組の連中かしら。
私が送り込んだ富竹はもう彼らを襲撃したのだろうか、ティアナって奴が誰かに殺されたらしいけどそれは富竹か?
上には何人いる?塔組は何人だ?数々の疑問が私の心に浮かんだ。

「お前がそんな風に確信する理由が俺らにはわからん」
「なんとなく、じゃ駄目かな?かな?」
「……それはちょっと駄目なんじゃないのぉ」
「やっぱり……そうだよね」

三人は少しの間沈黙した。

「でも、萃香ちゃんがまだゲームに乗っているって確信する理由もないよね」
「そりゃあそうやけど……」
「だったら信じてみようよ。駅で言ったように」
駅?そんな施設、地図に載っていたかしら。確か、無かった。どういう事……?
「私達は疑心暗鬼に捉われてはいけない。それこそがこの殺し合いの狙いなんだもん。
だから……私を信じるように……萃香ちゃんを信じてあげて」
「…………うーん……頑張ってみるわ」
「ありがとう……!」
レナのいかにもほっとしたというような声が私達に届いた。
「あ……皆戻って来たみたいだよ!おーい!キバくーん」
レナがどこかへ走って行く音がした。まだ仲間がいるのか。それにしてもキバというのは誰のことだろう。
名簿にはそんな名前は記されていなかったような気がする。あだ名だろうか……。
まあ、それは置いといて、どうやら塔にいた連中は私の知らないうちに大規模なチームに変化していたらしい。

「博之、本当に信じる気ぃ?」
「レナは仲間やからな。あいつがあそこまで信じてるならなんか平気な気がしてきた。あくまで『気がしてきた』ってだけなんやけど」
「あらあら。さっきまでの慎重な態度はどこへいったのかしらぁ?」
「水銀燈、お前どっちなんぞ……萃香を信じとるのか信じてないんかどうもはっきりせんな」
「……ま、半分信じ、半分疑いってところかしらねぇ。どちらかに偏るのは危険だと思うわぁ」

「…………」

会話は終わったのかしら。女は水銀燈という名前らしい。
戦場で何度も相対した敵だ。少なくとも、私の記憶では……。
古泉から聞いた話では、水銀燈は彼を気絶させた人物の一人らしい。という事は、彼女と話している男は『博之』かしら。
土を踏む音が聞こえる。何人かがこちらに歩いて来たようだ。
いったい上には何人の人間がいるのかしら。気になる。
余りに大人数ならば、私達にとって、というよりゲームに乗っている参加者全員にとって大変な脅威だ。
気になる……凄く気になる。上の連中に対してどう行動するかに私達の命運が懸かっている気がする。

(八意さん!何しているんですか、戻ってください!)

小声ながらも語尾を強めて呼びかける古泉を無視し、私は慎重に、出来るだけ物音を立てないように階段を上った。
(気づかれますよ!)
なおも古泉は言う。私は古泉の方を向いて、先ほどの彼と同じように人差し指を唇に当てた。
古泉は黙ってくれた。ごめんね古泉。忠告してくれるのは嬉しいけど、どうしても確認しておきたいのよ。
階段を上りきった。天井を触り、調べてみる。取っ手のような物がある。
これを引けば天井が開き、外に出られるのだろう。

私は月光が入り込んで来ている天井の隙間に顔を近づけた。
この『蓋』はおそらく草で覆われているのだろう。ひどく見難いが、仕方がない。

あれは、ゲームが始まった当初に出会った男。まだ生きていたのか……!
隙間からは一人の男と、二人の少女、そして三匹の小動物が見えた。
小動物三匹の内の一匹は首輪を着けていた。馬鹿げているがあの動物も参加者らしい。
さっきまで話していた、水銀燈、多分『博之』、レナの姿は見えない。この角度からは見えないようだ。
ここから見える三人はそれなりの武器で武装していた。
デイパックもいかにも中に何かが入っているという感じである。。
あの二匹の小動物も支給品なのだとすると、このチームはかなりの戦闘能力を持っているのではないだろうか。

もういいだろう。いつばれるか分からない。
私は慎重に階段を下りた。古泉とハルヒが心配そうな顔をしてこちらを見ている。
せめて二人に何か言ってから行くべきだったかしら。まあ、済んだ事は仕方が無い。

私は階段を降り、二人の元に着いた。
(しばらくここで上の連中の話を盗み聞きしましょう)
(何か見えたの?)
ハルヒが質問してきた。私は後で話すと言い、ゆっくりと地面に座った。
私に習って、古泉とハルヒも座る。
(最後の道を調べるのは後にしますか)
(そうね。そんな事よりこっちの方が遥かに大事だわ。一言も聞き漏らさないようにしましょう)
私は再び、耳に意識を集中させる。

ゲーム開始当初に出会った男の声が聞こえてくる。
「皆、話がある。萃香についてだ。見回りしている時、こなたや妹は大丈夫だって言ってたけど、
俺は正直信用しきれない。塔にいる萃香の仲間である、ニートやKAS、ロールも含めてな」



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最終更新:2010年03月18日 11:53