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黒より暗い人物(前編) ◆CMd1jz6iP2





「くそっ、ロムスカは一体どこへ行ったんだ?」
エアーマンは、ロックマンの残骸、支給品を回収した後にムスカとの合流を急いだ。
だが、どこにもその姿はない。とうとう山を降りきってしまった。
「まさか、殺されたのか。だとしても死体があるはずだが……ん?」
何か、叫び声のようなものが聞こえ、その方向に急ぐ。
川辺に、人影を見つける。ロムスカか、と思い近づくが当てが外れた。
「なんだ、この小娘は」
その声に気づいたのか、ずぶ濡れの少女はバッと立ち上がる。

「ぶ、武装錬金!」
「なに!?」
その掛け声に驚くエアーマン。少女……春香の姿がシルバースキンに覆われる。
「ほう、面白い。貴様もその力を持っているのか……」
今度驚くのは春香の方だった。貴様もその力を。それが意味することは一つ。
「まさか、エアーマン!?」
「何故俺のことを……そうか、ロムスカめ。あの小僧を始末し損ねたな。生きているにしろ死んでいるにしろ、案外使えん男だ」
「ロックマン君を、どうしたの……」
「ああ、ロックマンか」
ディパックに手を突っ込むエアーマン。

「ひ……きゃああああ!?」
取り出されたのは、潰れたロックマンの頭部。
「どうして……! スパイダーマさんも、ロックマン君も……みんなの為に頑張ったのに、なんでこんな目に!」
「……何を勘違いしているのかは知らないが」
エアーマンが、構える。
「後悔したまま死ね! エアーシューター!」
飛んでくる竜巻に、春香は迷わず突っ込んだ。

(シルバースキンなら、この竜巻でも……!)
だが、その予想は覆る。
まるで粘土細工のように、絶対の守りは砕け散った。

「ひ、ぎ、ぁ、ぁ……どうじ、て……?」
無いはずの心臓が、痛い。半分砕けたシルバースキンは春香の命そのもの。
シルバースキンの激しい損傷は、春香の命そのものを蝕む。
「武装錬金……どうやら満身創痍の体では扱えない代物らしいな」
これまでの疲労が、弱りきった精神が、武装錬金の本来の能力を発揮させなかった。
発動できても、その守りは鉄壁とは程遠い強度……春香の命の灯火は消える寸前だった。

「やだ、ごんなの嫌……私は英雄になるっで、みんなを、守ッで……一緒に、元の生活に……!」
ガクガクと震える体で、立ち上がった春香の姿は、あまりにも惨めなものだった。
ゆっくりと再生するシルバースキンから覗く顔からは、恐怖の感情しか伺い知れない。
「……武装錬金」
二体に増えたエアーマンは、再び同じ構えを取る。

「最期に教えてやろう、小娘」
二人の放った竜巻が合体し、巨大な竜巻へと変わる。
「死にだぐない……守っでよ……だえか、私を助け……ひ――ゃ――」
言葉も言い切ることができず、春香は竜巻に巻き込まれる。

「古来より、英雄の結末とは悲劇以外にありえない。幸せな日常に戻るつもりで、英雄になろうとした愚かさを呪え」

竜巻から、何か細かいチップ上の破片や、引き裂かれた服……赤黒い肉片までもが飛び散る。
竜巻が収まり……ザブンッ、と何かが川に落ちる。
白目を剥き、事切れた春香の死体が川を赤く染めながら流れていった。

「しまった……支給品が!」
春香の支給品の入ったディパックを回収しなければと、追いかける。
だが、死体は反対側の岸。いくら走っても届かない。

「ええい、傷ついた体では防水も完璧ではない……む?」
後ろから何者かの気配が迫る。敵かと振り返るエアーマン。

「貴様は……あの時の?」
TASを襲っていた生物だった。だが、何か様子が……いや、まるで別の生き物のように思える。
「まあいい、ちょうどいいところに来たな」
エアーマンは、頭に疑問符を浮かべるクリサリモンの触手を掴み、強引に川に投げた。
「~~~!?」
そのまま、エアーマンを分裂したエアーマンが投げる。

「アイ! キャン! フラァァァァァイ!!」

エアーマンはクリサリモンの上まで放り投げられ、その頭の上を降りる。
そのまま踏み台にして、エアーマンは無事に川を渡ったのだった。
クリサリモンは流されていくがエアーマンには関係が無い話だ。

「よし、追いつかね、ば……!?」
走り、追跡を再開しようとしたエアーマンの体が、突然地に伏す。
対岸の分裂したエアーマンも消滅している。
「ぐっ……各部が異常な熱を……サテライト30の使用は無理があったか」
ロックマンとの激戦を終えたエアーマンもまた、ダメージを蓄積していた。
その状態での武装錬金の使用は、ロボットのエアーマンにとっても無理のあるものだったのだ。

「ちっ、流れてしまったか」
勿体無いことをしたと後悔するが、もはや諦める他ない。
「それより、渡ってしまった以上どうするか」
北には沼地……入りたくない。南下することにした。


【天海春香@THE IDOLM@STER 死亡……】

その頃、橋の下で休んでいるTASは唸っていた。

「性欲をもてあます……!」

ハイポーション。ゲロラの化身でこそあるが、その成分は色々元気になるものだ。
体調を崩すほど濃厚な効果が、落ち着いてきたことで発揮してきてしまったのだ。
「くそっ、体が熱い。この悶々とした気持ち、何かで発散せねばこれからの行動にも支障が……」
そこでTASは、自分に向けられた視線に気が付く。
見ると、見張っているはずのケラモンが一匹こっちを見つめてではないか。

「なんだ、何か見つかったのか?」
返事が無い。なにか、様子がおかしい……異常に息が荒いような……
(待て……こいつ、たしか何か浴びなかったか?)
記憶を脳内で再生する。あれがなんだったか。ビンだ。それに書かれていた文字は……

マ カ ビ ン ビ ン

「オレのそばに近寄るなあああ―――ッ!!!」

TASは走った。いくらもてあましているからとはいえケラモンとは勘弁したい。
だが、信じがたいことにケラモンはTASの進行方向に回り込む。
「馬鹿な!」
この俺より速い!? と驚く間もなく襲いかかるケラモン。
なんとかかわすが、後ろは川。完全に追い詰められた。
ケラモンの目は血走っている。「バグ」持ちのケラモンのように赤い瞳は、まさにケダモノといった感じだ。

「フッ、この緊迫感……悪くない。この程度の危機を乗り越えられずして、何がTASだ!」
そして、一瞬の間へ経て……二人は同時に動いた。


注:ここからの攻防はイメージです。

カバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディ
カバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディ
カバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディ

ふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふん
ふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふん
ふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふん

ホイホイ☆チャーハンホイホイ☆チャーハンホイホイ☆チャーハンホイホイ☆チャーハン
ホイホイ☆チャーハンホイホイ☆チャーハンホイホイ☆チャーハンホイホイ☆チャーハン
ホイホイ☆チャーハンホイホイ☆チャーハンホイホイ☆チャーハンホイホイ☆チャーハン

           キ ワ ミ !
フッタエフタエノキッワミ! あぁん♪あぁん♪あぁん♪あぁん♪
フッタエフタエノキッワミ! あぁん♪あぁん♪あぁん♪あぁん♪
            アーッ!

※しばらくお待ちください。


激しい死闘だった。
電池に封じ込めねば、俺の命も危うかったかもしれない。

というか、なぜか容量が30%も溜まった。非科学的だが、赤いからだろう。
汗をかいたからだろう、もてあましていた性欲も収まってきた。
頭も冷えたところで、ようやくTASは異変に気がついた。

「あれは……あのサナギ?」
バグを持ったサナギではない。正常なサナギ、おそらく別れたケラモンが進化したものが川から流れてくる。
拾い上げると、気を失っているだけだった。
「おい、しっかりしろ。見張りは何を――」
周囲を確認に走る。
「あいつら、どこへ!」
橋の見張りをしていたはずのケラモン2匹の姿が無い。
ケダモノになった奴はともかく、他のは正常のはずだというのに……TASは頭を抱える。

「ふっ……その様子では、苦労しているようだな」
聞き覚えのある声に、TASは顔を上げる。
「お前は、エアーマン?」
南下してきたエアーマン。山の次は川で。再び、二人は出会った。

#####################################

何もない、漆黒の空間。そこで、春香は目を覚ました。
「……ここ、は?」
「やっと起きたのね、春香」
「やっと起きたんですね、春香さん」
この感覚には覚えがある。また死に掛けてるのだと理解できた。

だから、また千早たちが立っているのだと思い、目を開けて―――
「――嘘」
鏡を見るたびに出会う、「自分自身」が二人も目の前に立っている光景が信じられなかった。

「どういう、ことなの?」
「わかってるでしょ、春香。私は死んだの。あのエアーマンに殺されてね」
「ここは言わば死の淵。現実では死体同然の私が川に浮かんでます」
「それはわかってる。そうじゃなくて……あなたたち、いったい誰なの!」
クスクスと、黒い服との白い服を着た春香が笑う。

「「私たちは、天海春香自身。天海春香の側面そのものよ」」
「側、面?」

「そう。私は黒春香と名乗りましょうか。天海春香の心の邪悪な部分」
「私は白春香。天海春香の心の清らかな部分」
わかりやすいなと思いつつ、春香は状況が飲み込めない。

「それで、私と私が私に……ややこしいな、何の様?」
「選択の余地を与えにきたのよ。私がどっちの道を歩むのか」
「道って……まだ、道があるの?」
黒春香は、いやらしい笑顔を見せる。

「ヴィクター化。その道があるわ。」
「ゔぃくたー?」
「そうね、簡単にいえば……人間以上の存在になるのよ。人間なんて脆弱なエサに過ぎない。そんな素敵な力が手に入るのよ」
エサ? 人間が、エサ?

「なに、それ……私は、私は英雄に」
「そんなの、無理に決まってるでしょ。天海春香、なによりも自分が大好きな私が、他人のために戦うなんて。
トップアイドルになる夢と、英雄になりたいなんて願いを両方叶えようなんて無理。
この世界に来たときの事を思い出しなさい。天海春香は、トップアイドルになるために何でもやろうとしたじゃない」
「あれは……現実だって理解してなかったから! 白石さんを、本気で殺す気なんて!」
はるちゃんは人殺しじゃない。その言葉が再び重くのしかかる。

「私、天海春香は「持たざる者」なのよ。歌も、踊りも、容姿も何一つ秀でたものが無い……わかっているくせに」
「だから……だから、私は努力して……」
「努力すれば、トップアイドルになれる? なれないわ。英雄になれなかったように、ね?」
春香自身、わかっていた。なにせ、今目の前にいる黒春香は自分自身の本音なのだから。

「心臓の代用品である核鉄……あれの本当の力は超人への変貌。全ての生命を喰らう存在への進化。
参加者の塵(ミナゴロシ)なんて簡単。トップアイドルへの道は、優勝しかないの!」
「殺……す。つかさちゃんみたいに……自分の意志で、みんなを?」
「それがつかさちゃんのためでもあるの。 これ以上罪を重ねる前に殺して……生き返らせればいいの」
あのまま放置すれば、人をたくさん殺す。山にいる仲間達だって、危ない。
「そう、か。殺してしまえば……お姉さんと一緒に生き返らせてあげれば、全て解決する?」

優勝のご褒美で、トップアイドルになる。皆を生き返らせる。
最高の、ハッピーエンドではないだろうか。

「それは、間違っているわ」
その声は、白春香……もう一人の自分のもの。
「人を殺すのが良いわけがない。優勝して、あいつらが約束を守る保証なんて無いじゃない」
「そ、そうだよね。わ、私はスパイダーマさんみたいな」

「だから、もうこのまま眠ろう?」
「え……眠る、って……」
白春香は、春香に優しく微笑む。
「もう、死ぬしかないの。生き返れば、バケモノになる。迷惑をかけず、このまま死ぬのが一番よ」
黒春香のようなバケモノになる道しかないのなら、残りは死ぬだけ。

「天海春香は十分に頑張った。後は、千早ちゃんたちと一緒に皆を見守りましょう?」
疲れ果てていた。自分の努力の、想いの何もかもが意味をなさなかった。
トップアイドルになりたいから死にたくない。頑張るのが辛いから死にたい。どちらも本音だった。

「さあ、選んで。殺戮の道を歩みましょう」
「さあ、選んで。永遠に休みましょう」

罪深い自分には、アカルイミライなんて存在しないと思い知らされた。
死をもって償うか、つかさちゃんのように罪を重ねていくしか道はないのだ。
染まっていく。元々黒い自分に、つかさちゃんが白を混ぜてくれたのに。
今度はつかさちゃんに濃厚な黒を混ぜられ、私は……

「なんだ、元に戻っただけじゃない」
始めから、自分は真っ黒だった。始めから、英雄になどなれるはずが無かった。

春香の瞳が、光は無くし、細く虚ろなものへと変わっていた。

「ようやく、わかってくれたのね」
黒春香が、手を差し出す。
「ええ、良くわかったわ」
春香は、勢い良く手を伸ばす。

そして、そのまま黒春香の顔面を思い切り殴り飛ばした。

白春香がニコニコ笑いながら近づく。
「そう、それが正しいの。さぁ、私とぶぅふー!?」
無用心に近づいてきた白春香の顔面も殴り飛ばす。
「なっ、いきなり何を――」

「黙りなさい、この面汚し共」
冷たく言い放つ春香に、白黒春香は身を縮ませる。
「そこに並んで、正座する。早くしなさい」
顔を赤く腫らした二人の春香は、黙って春香の前に正座する。

「自分の本音を聞いて、本当に良くわかったわ。天海春香という人間が、それほど矮小なのかを。
ゲームに乗るか、死ぬか? そんな二択しか用意できない馬鹿さに、もううんざりよ」
「そ、そんな……だって、それ以外に」
「白春香、アンタは論外よ。そんな萎びた白さ、雪歩の掘った穴にでも埋めてしまいなさい」
ぷしゅう、と蒸発するかのように白春香が消えてしまう。
「うわあああ、白春香――!? 視線だけで消滅しないでよーー!!」
その視線が、今度は自分に向けられていることに黒春香は狼狽する。

「わ、私は間違ってない! 二つの願いを叶えようなんて、優勝するくらいしか方法は……」
「そうね、私は間違っていた。二つの目的を同時に叶えることなんて出来ない。

――だから、目的を一つに纏めてしまえばいいのよ」

その声の質があまりにも恐ろしく、黒春香は戦慄を隠せない。

「私は頂点に立つ。この世界の頂点に。そうすれば愚かな争いも無くなり、私もトップに立てるもの」
「えっ、えっ? ア、アイドルの頂点じゃなくて!?」
「少しハードルは高くなったかもしれないわね。でも、世界の頂点とは全ての頂点。それってアイドルの頂点ともいえない?」
「いえないよ! 詭弁! それ詭弁!」
虚ろな瞳のまま、クスクスと笑う春香。
ありえない。黒春香はガクガク震える。私たちは春香の心そのものなのに、と。
黒さの化身である私より黒いなんて……この一瞬で自分自身を凌駕するなんて――

「そうね、詭弁ね。でも、やっぱり世の中を落ち着かせないと、大好きな歌も歌えないもの。
福山さんやいさじさんみたいな人が、熱く歌を響かせられる世界を作る。そのために、世界を制する。
ルールを作るのは私……あなた程度の黒さは、高木社長の黒さに紛れて消えてしまえばいいわ」
ぷしゅうと、黒春香も消滅する。

誰もいなくなった闇の中、何もない空間を見つめる春香。
「それで……こんな茶番を用意した人に登場願いたいのだけど?」

――ふふふ、気づいていたとは。さすがは我が主だ――

春香より高い位置に、その男は立っていた。
妙なグラサンをかけた、長いあごひげの男性が微笑んでいる。
『良くぞ試練に打ち勝った。「ふたりはハルキュア」を退けるとは、さすがは我が主だ』
「二回言わないで。アンタ、誰よ」
『我が名は、洞爺湖。お前の持つ木刀の具象化した存在だ。お前の心を具象化してやったのもこの私だ』
「木刀が偉そうに飛んでると折るわよ。あと、『』とかじゃなくて普通に喋りなさい」
風が吹く。洞爺湖と名乗るおっさんが同じ目線まで降りてくる。

「ふ、ふふ。見込んだとおり、我が主に相応しい。これからの困難に挑む主に、新たな力を授けよう!」
「必要ないわ。ヴィクターとやらで十分よ」
「……い、いや待て。ヴィクター化は確かに強力だが、全てを喰らう諸刃の刃。私の力もだな」
「わかった。教えなさい。さっさと、5秒で」

やる気の無いその言葉に、いらだつ洞爺湖。

「5秒だぁ!? 必殺技がそんな簡単に覚えられるか! 俺の必殺技、ももパーンッ! はだなあぁ……」

「ももパーンッ!」
「うごぶぇえええ!! お、お許しを閣下ーー!」
「あら、意外と使えるわね……閣下?」
「はっ! あなたこそ私が仕えるべき真の主。敬愛を込めて閣下と呼ばせていただきます!」
「いいわね。アイドル、天海春香を捨てるにはちょうどいい呼び名よ」
閣下、閣下かぁ、と虚ろな瞳のまま頬を赤く染める。
何だか恐ろしいものを目覚めさせてしまったのではと引く洞爺湖。

「ところでヴィクター、だったかしら。ちょっと詳しく聞きたいのだけど」
「いや、俺も単行本読んだだけなんで詳しくは……」
「なにそれ。どれよ、単行本。ああ、もうエロ本ばっかりじゃない」
「何勝手に漁って……勘弁してくださいよ、閣下ーー!」
洞爺湖に用意させた単行本「武装錬金」を流し読む。
主人公、武藤カズキ……なぜか、会ったこともない福山さんとイメージが重なる。
私の力、シルバースキン。正義のために自分を犠牲にする、私なんか及ばない実にブラボーな人。
そして、ヴィクター化……世界の命を食らい尽くす、異形の存在。

「白い核鉄、なんてものはないだろうし。困ったわね」
「そのままってことはないでしょ。制限もあるだろうし、シルバースキンで封じられるし」
「そうね。シルバースキン・リバースでエネルギードレインも抑えられるのは助かるけど……変よねこれ」
流し読んだ知識ではあるが、この漫画と自分は明らかな矛盾がある。

「どうして、シルバースキンが黒い核鉄なのかしら。そんなこと、どこにも描いてないわ」
漫画によると、ヴィクター化が起こる特殊な核鉄は主人公の持つ物ともう一つだけしかない。
このシルバースキンは、通常の核鉄で……そもそも心臓の代用にもなりえない。
「……ありえない存在ということならば、俺もまたそうだ」
「どういうこと?」
ちょっと口調を戻した洞爺湖は、意を決したように話す。

「俺……夢オチなんです」

「……なにそれ」
「俺は本当に存在していたわけではない。前の持ち主とその仲間の夢に出てきた存在にすぎん」
「……これって私の夢?」
なんとなく、そんな気はしてた。じゃあ、今漫画を読んで得た、自分の知らない知識もデタラメなのか。

「そうじゃない。俺も詳しくは分からないのだが……何かの力が働いて「在り得ないもの」が当然のように存在してるようなのだ」
「ちょっと判りづらいわね。たとえ話で説明できない?」

「そうだな……ある優しくも厳しくもある教官が、すっげー怒って恐ろしい怖さを見せたとする。
それだけが前面に押し出されたような人間が、現実に存在してしまい破壊の権化となってしまう。
もしくは、ある食べ物の中に異物が混入してると信じきってるとする。それだけで、本当は何もないはずなのに、本当に異物が混ざっていたり……」

「ずばり言うと……誰かの「夢や妄想」が、現実に存在してしまう時があるってこと?」
洞爺湖がうなづく。
「ずばり、それが俺という存在や、閣下のシルバースキンにも影響したのではないか、と」
「……わからないわ。何か証拠か……主催者を問い詰めるしかないわね」
そうとなれば、こんな夢の中に用はない。早く生き返らないと本当に死ぬかもしれない。

「ところで、復帰されてからの方針は何かあるので?」
「……武装錬金を読んで思ったの。英雄は、全てを守るために戦うけど……彼らを守ってくれる人はいない」
全ての英雄が抱えているであろう苦悩。エアーマンが言うとおり日常を守るため、彼らは一人で戦い死んでいく。
「彼らの力を大いに借りる代わりに、この力で彼らの背中を守り抜く。全部が終わった後、彼らも笑える世界のために」
「ふふふ、王というより騎士だぞ、それでは。世界を制するのではなかったのか?」
「ひとまずは、みんなを纏められるブラボーな司令塔になれればいいと思ってるわ。優秀な人材同士の争いを収められるくらいのね」
どういう人材が必要かと考える。

「まずはこのゲームを破壊できる頭脳の持ち主と、鬼神の如き力を持つ配下が欲しいところね」
「ずいぶん高望みというか、無理では?」

「本物の鬼でも欲しいくらい。私だけじゃ世界を治めるなんて出来ないもの。
ゲームの根底を壊す……ピエロを倒す……やることは変わらないけど、私はそれを目指す人たちを一つに纏めたいの」
そのためにも、まず自分が信頼を勝ち得なければいけない。
人殺し、生命力を吸う化物、見るからに怪しいとマイナス点が大きく占める自分には難しい話だ。
「だったら、閣下には何があるんです?』
「そうね。このバケモノの体と、魂「だけ」は込められた歌声と……」
考えれば考えるほど、本当に持たざる者といわざるを得ない。

「そういえば……」
アイドルとして鳴かず飛ばずの状態になっても、意外と生活には困らなかった。
どんな仕事でもと全国を転々として、なのにどこにでも絶対にいるファンが何人かいた。
ストーカーかとも思ったが、こんな自分を追い回すなんて愚かな……じゃない、嬉しいなと思ったものだ。
おかげで地味ながらも完全なアイドル終了とまではならずに生き残れたのだ。
普通のファンとも違う、盲信的な信者を獲得していた。それが自分の持つ何かだというのなら。
「あるかもわからないけれど……カリスマかしら?」
「なんだ、わかっているじゃないか」
ニヤッと笑う洞爺湖の姿が消え……春香は再び地獄に舞い戻った。



sm165:笑顔のゲンキ 時系列順 sm166:黒より暗い人物(後編)
sm165:笑顔のゲンキ 投下順 sm166:黒より暗い人物(後編)
sm159:FloweringNight BR~月まで届け、最速の俺~ TASさん sm166:黒より暗い人物(後編)
sm159:FloweringNight BR~月まで届け、最速の俺~ クラモンB sm166:黒より暗い人物(後編)
sm160:硫黄島からの手紙 クラモンC sm166:黒より暗い人物(後編)
sm157:エアーマンが倒せない? エアーマン sm166:黒より暗い人物(後編)
sm161:Crystal Break~英雄の条件~ 天海春香 sm166:黒より暗い人物(後編)



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