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青い炎vs月の頭脳(後編) ◆0RbUzIT0To





「っ! ハルにゃん!!」

妹が声をかけるが、ハルヒは振り向かずただ走り去る。
慌て、キョンの妹はデイパックを担ぎ直して立ち上がりハルヒが向かったと思われる先へと走り出した。
続いて、キバもキョンの妹の後ろからハルヒを追おうと駆け出す。

「おっ、おい、どないしたんど?」

唯一、目が見えない為に何が起こっているのかわからない博之は狼狽したように問いかけるが誰も答えない。
レナはただ冷たい視線をハルヒの去った方向に向けている。
水銀燈はレナの言葉とハルヒが起こした行動とをじっくり照らし合わせ真実を知ろうとするように思案をしている様子だ。
誰も追おうとしない。
ピッピは自分は追うべきか否か決めあぐねている様子でまごまごし――その手をこなたに掴まれた。

「ピッ!?」
「行こう、ピッピ……早くハルヒ達追わなきゃ離れ離れになっちゃう!」

言うが早く、珍しく顔を強張らせ真剣な面持ちをしていたこなたはピッピを連れて走り出そうとしたが――。
すぐに立ち止まり振り向いた。

「……レナちゃんの事だから、多分考えがあってああいう事を言ったっていう事はわかる。
 でもやっぱり……もう少し、言い方ってものがあると思う」
「……こなちゃん」

悲しそうに呟くこなたに、レナもその顔を悲壮の色に染める。
こなたはレナを信頼している……レナの考えが、自分達常人の理解の範疇を超えている事も知っている。
そして、それが的確である事も信頼に値するものである事も知っている。
だが、それでも……こなたの中にある感情がそれを否定した。
レナの言葉を……ハルヒの言う事を信じないという冷たい言葉を否定した。

「レナちゃんは頭がいいから追う事が正しくないと思ってるんだと思う。
 でも、私はただのオタクだから、馬鹿だからきっとそれがわかんない……」

今のこなたにとっては、レナの言葉よりもハルヒの涙の方が重要だった。
人の感情が、抑えきれない保護欲がレナの言葉に勝っていた。
だからレナの言葉が正しいと思っていても体が言う事を利かない。
助けを求めている人がいるのなら、救いを求めている人がいるのならその人の力になりたいと思うから。

「ハルヒの言葉の中に何があったのか知らない……でも、私はハルヒが嘘をついてるなんて思わない。
 ハルヒは萃香に襲われて萃香の話になると混乱してたみたいだけど、それは仕方ない事だもん。
 だから私はハルヒを否定しない……今のレナちゃんの言葉じゃ、否定出来ない。
 ……ちゃんと追ってきてね、こんな所で離れ離れなんて嫌だから」

それだけの言葉を残すと、こなたとピッピもキバ達を追って闇の中へと消えていった。
後に残ったのは、その後ろ姿を見つめるレナと、博之を起き上がらせようと手を取っている水銀燈。
まだ博之は何が起こったのか説明しろと喚いているが、水銀燈はそれをとりあえず黙らせて立たせ、少しずつ歩き出す。

「追うわよレナ、あいつらだけを放っておく訳にはいかないわぁ。
 いつ殺し合いに乗った奴が襲ってくるのかわからないんだからねぇ」
「……わかってるよ」
「どうでもいいけど、あんたも馬鹿よぉ。
 ここにいるのは馬鹿ばっかりなんだから、事実だけ突きつけても否定されるに決まってるじゃなぁい」
「……銀ちゃんは信じてくれるの?」
「信じるも信じないも話を聞かない事には、ねぇ? それと、銀ちゃんはやめなさい」

歩き出した水銀燈の横に並び、レナは口を開く。

「そうだね……もう、話していいかな。
 それじゃあ……私がどうしてハルヒちゃんを疑うような事をあの場で言ったか……話すよ」

歩きながら、レナは語りだす。

「まず……私はハルヒちゃんを最初から完全に疑ってた訳じゃない。
 彼女の言葉には嘘も矛盾も無かったと思うし、そういう素振りは全く見えなかった。
 だから、言ってた言葉は本当なんだよ……でも、そこには足りないものがあったんだ」
「足りないもの?」
「うん……彼女の言葉の中には、『かつての仲間』に対する配慮が全く欠けてたんだ」

ハルヒは萃香に襲われ、仲間と散り散りになった。
恐らく事実なのだろうが、だとしたらそこに矛盾が生じる。
それは、彼女が全くニートやロールちゃんの安否を気遣わず……また、助けようと呼びかける声が無かった事だ。
一日、或いは半日とはいえ苦境を共にした仲間……。
放送でその名を呼ばれなかった以上、彼らの無事を願う声が一つくらい入っていてもいいはずだ。
むしろ自分達に呼びかけてニートやロールちゃんを助けようとしてもいいくらいだ。
なのに、彼女の言葉の中にはそれらが抜けていた。
いや、それは抜けていたというよりも意図的に抜いていたようにすら感じられた。

「萃香ちゃんの力を恐れていたとしても、助けるよう提案だけでもしていいはずだよ。
 でも、ハルヒちゃんはそれをしなかった……彼らには全く触れず、ただ萃香ちゃんの脅威だけを話していた。
 どう考えても、これは不自然だと……私は思う」
「……確かに不自然だわぁ、でも、それだけじゃあまだ確証が持てない」
「うん、確証が持てない……だから、私は試した」
「試す?」

水銀燈の疑問に、レナは頷きながら続ける。
そう、まだこの程度の不自然さだけではハルヒの言う事を信じないと言い張る事は出来ない。
あくまでも不自然さは不自然さであって、それ以上のものではない。
ニートやロールちゃんの話が出なかった事だって言い訳をしようとすれば幾らでも言い訳が出来るのだ。
故に……レナはあえて、その不自然さを指摘せず、ただ単刀直入に事実だけを述べた。

「私は『ハルヒちゃんの言う事を信じない』……そう言った。
 彼女がもし、私たちに危険な目に合ってほしくないと……ただそれだけを願うのなら、もっとヒステリックに怒鳴り私に問い詰めるはずだよ。
 萃香ちゃんの危険性を知り、そのせいで狂気的になってるんだとしたらそうするに決まってるのに」

しかし、彼女はそうしなかった。
途中までヒステリックになりレナに詰め寄ったものの……すぐにそれを止めたのだ。
まるでスイッチのオン/オフのように、切り替えよくヒステリックなものを止めてただレナを見つめていた。
それは、冷静になり萃香の危険性をもう一度理論詰めして説く為?
いや、それではおかしい。

「それなら最初から冷静に話をしていなきゃ矛盾が生じる。
 ヒステリーよりは理知的に話す方が信憑性はあるもの。
 最初から後者に徹する事が出来るのなら最初に狂気的になってた理由が不明瞭になる。
 そもそも、理知的に話せるのなら最初のヒステリックな話し方の方がおかしいんだよ」
「……耳が痛いわねぇ」

かつては何かと狂気的になり色々とおイタをしていた水銀燈は顔を渋らせる。
だが、レナの言う言葉は道理にかなっているものと思えた。
言われてみれば確かにあのハルヒの態度はおかしいものがある。
狂っている人間は、そう簡単に冷静になる事が出来ないという事は身をもって知っているのだ。

「それで、そこから何がわかるのかしらぁ?」
「つまりハルヒちゃんは狂気に満ちている訳じゃない、まだ理性が残っている。
 そしてその狂気の向いている先は萃香ちゃんじゃないって事。
 ……後は、萃香ちゃんと今塔にいる人たちを私たちと合流させたくないって事くらいかな」

萃香の話をしている時に冷静になる事が出来たという事は、即ちその矛先が萃香へと向いていないという事だ。
つまり、ハルヒは萃香を危険視はしていてもそこに脅威は感じていない。
ならば何故萃香の事になればあれほどヒステリックになり、加入に否定的になったのか?
もし仮に萃香が仲間になるとすればニートとロールちゃんも仲間になる。
そうすれば、ハルヒは萃香の事を恨みつつではあるかもしれないがかつての仲間と合流出来るというのに。

萃香にそこまで脅威を感じていない以上、危険だと思いながらでも合流してもおかしくない。
合流しなくても、そこまで否定的にならなくてもいいはずだ。
だというのに半狂乱的になってまで萃香の加入に反対したという事は、そこに何かの理由があるはずだ。
萃香と絶対に合流したくはない……正確に言えば『レナ達』を萃香と合流させたくない理由が。

「そうでなければ、あそこまで反対した理由がわからないよ」
「ちょ、ちょい待てやレナ! 合流させたない理由て……どういう事ぞ!?」
「少しは自分の頭を使いなさいよ博之ぃ、ここまでヒントがあればわかるでしょぉ?」
「水銀燈はわかるんか!? なんかさっきから難しい話ばっかで、俺もう訳がわからんがぁ……」

頭を抑えて項垂れるようにしながら博之の手を引きながら、水銀燈は僅かに笑みを浮かべて博之に告げる。

「答えは単純、あの女は殺し合いに乗っていない人間を一つに集めたくないのよぉ」
「……? どういう事ど」
「お馬鹿さぁん。 殺し合いに乗っていない人間を一つに集めたくない理由なんて決まってるでしょぉ?
 つまりあの女は、殺し合いに乗ってしまってるのよ」
「……なァッ!?」

突然告げられた事実に、博之は盛大に狼狽して思わずこけた。
水銀燈はその様子を見ながらくすくすと笑い、倒れた博之を再び起こす。

「んなっ、なんでど!? だ、だってあいつ、あれやろが!?
 妹の兄貴の友達なんやろ? ええ奴なんと違うんか……!?」
「人が良すぎねぇ博之。 その妹の兄の友達である古泉一樹だって殺し合いには乗ってるのよぉ?
 いまさらそんな理屈は通用しないわよぉ」
「やっ……やけど!」
「落ち着いてください博之さん……これはあくまで、推察でしかありません」

まだ混乱している様子の博之にレナは優しく告げる。
そう、これはまだただの推理……推察に過ぎない。

「でもその可能性は高い……でしょう?
 あの女が逃げたのだって、私達を離散させる為でしょうしねぇ」
「うん……多分、ハルヒちゃんは自分を追って妹ちゃん達が来る事を予想してたんだと思う。
 だから逃げて私に説明する機会を与えなかった……」
「……って、ちょい待て! それやったらキバらぁが危ないん違うんか!?
 あいつが乗っとるいうんなら襲われるかもしれんが! はよ追わんと!!」
「そんな事言ってもあんたは走れないでしょうが……それに、その心配は無いわぁ」
「私達は七人……ハルヒちゃんは一人。
 誰か一人にでも刃を向ければ、それだけでハルヒちゃんは袋叩きにされちゃうからね。
 だから、キバさん達が襲われている可能性は低い」
「……なるほどのぅ」

レナと水銀燈の間で交わされる言葉に博之は息を深く吐いて感心する。
二人の言葉は頭を使うのが今ひとつ苦手な博之にとって難しい事ばかりだが……。
博之の心中にあった不安を取り除かせる分には十分な効果があったらしい。

「でも、ハルヒはいいとしても他の奴らが襲ってくるかもしれないわぁ。
 レナ……博之はこの通り走れないし、私もこいつの面倒見なきゃいけないから後から行くわ。
 あんたは先にキバ達の所に行ってなさぁい?」
「……そうだね、それがいいかもしれない。
 銀ちゃんも博之さんも、今ここで話した事はハルヒちゃんの前では絶対に言わないでね?」
「お、おう。 わかっとるが」
「それじゃあ……二人とも、気をつけてね」

それだけを言い残すと、レナもこなた達から大幅に遅れて走り出した。
辺りは闇に包まれており、しばらく走ると水銀燈達も見えなくなる。

そして、一人になった事により頭が静かになり――また、何事かを考え込みはじめた。

ハルヒは逃げ出した――それは当然、レナの説明をキョンの妹達に聞かせない為だ。
だが……ただ逃げ出しただけというのなら、しばらく捜索すればそれで終わりだ。
ここは平原……特に隠れられるような場所も無いし、あるとしても少ない。

レナは、走りながら思考を深めてゆく。

……自分達をニート達と合流させたくない、それがハルヒの目的に違いない。
だが、だとすると一つ矛盾が生じる。
それは、何故自分達と萃香とが『知り合い』なのだと知っていたのか――そこに謎が残る。
知り合いなのだと知らなければ、態々仲違いさせるような事はしないはずだ。
元々合流するつもりなのだと知らなければ、ハルヒが接触するはずがない。
もしかしたら……とレナは先ごろに感知した違和感を思い出した。
ハルヒと出会う直前に誰かに監視されていると感じたあの感覚……。
あれがもしハルヒによるものなのだとしたら……。

いや、とレナは首を振る。
あれはハルヒなどよりもっと強大な力を持っている者の視線に違いない。
証拠は無いが……レナは自分の直感を信じる。
だとするならば、あの時覗いていた者がハルヒに教えた?
……それなら在り得る線だ、自分でも納得が出来る。
そうすると、その者はハルヒを使って自分達を内部から撹乱しようとしているのだろう。
実際に、今現在自分達は散り散りになっているのだから相手の策は功をなしたと言っていい。

「でも……そう簡単に、策に乗ってあげるもんか」

レナがあえてキョンの妹達を追わなかったのは、その策に陥ってしまったと相手に思い込ませる為だ。
冷たくハルヒにあたったのも、あえてそう見えるようにしたからだ。

きっとハルヒはこう思っているだろう。
これで、レナはキョンの妹達からの信用を失った……情に疎い人間だと思われたと。
それでいい、思わせるだけ思わせておけばいいのだ。

今、ハルヒは逃げ去っている……しばらくは隠れているはずだ。
その隙に妹、キバ、こなた、ピッピにどうにか真実を伝える。
その前にハルヒが見つかってしまっても……何の事はない、二人きりになった時に手短に伝えればいいのだ。
ハルヒだって七人全員を監視出来ている訳ではない、隙なら幾らでもある。

「だから利用する、私達を離間させようとしたその策を……逆に利用して欺いてやる」

あえて仲違いをしているように見せかけ、ハルヒに計は為ったと錯覚させる。

「本当ならハルヒちゃんに言う前に、ハルヒちゃんが殺し合いに乗ってる可能性が高いと判断出来れば良かったんだけど……。
 でも、今更言っても仕方ない……かな」

それならば、単に全員が萃香を否定すると同調したように見せかければいいだけなのだから苦労はしない。
しかし、それが今更言っても仕方ない事なのは重々承知だ。
むしろ今から出来る事を探して挽回しなければならない。
……今から離間の計を逆用するなら、勿論それは皆の反感がレナに向けられている事を利用するより他ない。
つまりは、レナを中心として仲間の心がバラバラになったと――そう思い込ませる。
ハルヒに自分達の存在を教えた者――仲間がいるというのならばハルヒは何れそれを仲間に伝えるだろう。
或いは、その前にハルヒの仲間が接触を図り、ハルヒと同じように内部から分裂工作をしてくるかもしれない。
自分達を見て即効で襲ってこないという事は、相手も慎重派である事に違いない。
だから、少なくとも中途半端な時期に自分達をいきなり襲ってくる事は無い、必ずこちらの内部の情報を手に入れてから動く――レナはそう予想する。

「なら、その人にも私達は仲違いされていると伝えられるはず……。
 相手の心には油断が生まれ、慢心が生まれ、隙が生まれる……そこを突く」

大丈夫、必ず上手くいくとレナは自分に言い聞かせる。
本来作戦立案などは自分の役目ではなく魅音の役目だ……だから、自分の計が敵の知恵者相手にどこまで通用するのかわからない。
だが、それでも自分は自分に出来るだけの事はしたと思う。
その為に、キバ達を危険に晒してまでわざとすぐに追いかけず冷血な人間だと思わせるようにしたのだから。

「大丈夫……私は竜宮レナ。 どんな敵だって必ず打ち倒して、このゲームをスクラップ&スクラップしてみせる……」

ふと、レナは夜空を見上げる。
そこにはたった一つ、仄かな明かりをくれている満月が存在するだけだった。



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sm170:青い炎vs月の頭脳(前編) 永井博之 sm170:D-2ブリッヂの死々闘(前編)



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