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D-2ブリッヂの死々闘(後編) ◆0RbUzIT0To





「ッ!?」

瞬時に、TASはその手を振り解こうとキバを逆の足で蹴る。
しかし、キバはその手を決して解こうとはしない。
歯を食いしばりながら、ただTASの足首を強く握り締める。

「ッ……貴様、ゾンビか!?」

そうでなければ説明がつかない、とばかりにTASは声を荒立てて問いかける。
あの高高度から仕掛けたスピンジャンプを頭に受けて生きていられるはずがない。
例え生きていたとしても、ろくに動けないはずだ。
だというのに、足元の男は自身の足首を強く握り締めて離さない。
TASが全力でそれを振りほどこうとしても、決して離さない。

「何がゾンビなもんか……俺はどこにでもいる、平々凡々とした一般人さ」

TASの問いに、キバは震えもせず恐れもせず、静かに返す。
視線の先には泣きじゃくる妹の姿――その無事の姿を見て、キバは血に染まった顔に安堵の表情を浮かべた。
妹の叫びは届いた、キバはその瞳を再び開けて……立ち上がりこそしなかったものの、息を吹き返した。
しかし、その姿はどう見ても無事なようには見えない。
目はカッと見開かれ、いつもの優しそうな表情は欠片も見当たらない。
頭から流れた血はキバの顔を赤く染めており、すぐに手当てをしなければ致命傷になるだろう事が素人の目から見てもわかった。
だが、TASはそんな事はお構いなしとでも言うようにキバを蹴り続ける。
それでもキバは決してその足を掴んだまま離さない。
離してしまえば、自分の大切なものが傷つけられるとわかっているからだ。

「離せッ、死に損ない!!」
「離したら、お前は、妹ちゃんを、殺す……だろ?
 なら、離せない……絶対に離せない!」

舌打ちをし、TASはこのままではキバは腕を離さないと判断して攻め手を変える事にした。
キバはTASの足を掴んでいる、ならばその手に持っていた鋸はどこへやったのか?
デイパックに戻す暇などなかった……故に、それはキバの倒れていた場所の近くに転がっている。
――離さないのならば、その腕を切断すればいい。
TASが腕を精一杯伸ばし、その鋸を掴もうとしたところで――横から、強い衝撃が襲ってきた。

「ぐっ!?」

咄嗟に体勢を整えようとするが、足が掴まれている為に上手くいかない。
仕方なく受身を取って地面に倒れこみ、衝撃の正体を見ようと目線を上に向ける。

――妹が、涙を流しながらその場に立ち、落ちていた鋸を拾ってTAS目掛けて振り下ろそうとしていた。

「うわああああああああああああああああっ!!」
「ッ!」

キバの危機に、妹の体は自然と動いていた。
絶対に勝てないであろう男の体にその身一つで体当たりをし、即座に鋸を拾い上げて斬りかかったのだ。
しかし、それでもTASは雄叫びと共に振り下ろされた鋸を間一髪、体を仰け反らせて避ける。
そして、それと同時に妹の胸へと拳を叩き込んで突き飛ばした。
いつの間にか、TASは肩で息をしていた。簡単に殺せたと思っていた男が、まだ幼い小さき少女が予想外の抵抗を見せていたからだ。
このままではいけない、とTASはまだ掴んでいたキバの腕目掛けて思い切り拳を叩き込んだ。
キバが悲鳴を上げる――が、それでもなお手を離さない。
二度、三度、四度、五度、叩き込む。キバは決して離さない。

「ぐっ……貴様、いい加減に――!!」

六度目の拳を振りかぶったその時、黒い羽がTASの視界を一瞬にして染め。

「いい加減にするのは、あんたの方よ」

冷たさの中に怒気を含んだ特徴的なその声が静かに響いた。

声がTASの耳に届くと同時に羽と暴風がTASを襲い、キバはようやくその腕を離した。
TASはその羽に大きく吹き飛ばされ、地面へとへたり込む。
キバは倒れていた……倒れたまま、その声がした方へと目を向ける。

「よくやった方じゃなぁい? 少なくとも、あんたにしてはね」
「……それで、褒めてる、つもりかよ」

キバは苦笑しながらも、待ち焦がれていた助けが来た事に安堵しながら立ち上がろうと努めていた。
急いで走り寄ってきた妹がそのキバの体を支え、僅か先で浮遊をしているその人形を見つめる。

彼女は、怒っていた。
いや、彼女も勿論怒る事はある――というよりも、怒るスタイルがデフォルトと言っても過言ではないほど短気だ。
とある言葉に関しては特にその傾向が顕著である。
しかし、この時彼女が怒っていた理由は彼女にしては珍しいものだった。

己の仲間が傷つけられた、己が仲間の危機に間に合わなかった――。
それらの事実が、心中を渦巻き煮え繰り返らせ、彼女を激怒させていた。
それは珍しいどころか初めて経験する怒りの理由だったかもしれない。

「レナ達は? まさか、あなた達だけを置いて逃げた訳でもないでしょう?」
「多分、ピッピちゃんの技で……ここから消えちゃったの」
「ふぅ、ん……消えたとはいえ、このフィールドからは出てないんでしょう?
 なら、合流しようと思えば合流できるわねぇ」
「それより、水銀燈……博之さんは?」
「置いてきたわ。 だって戦いの音が橋の手前から聞こえていたんだもの、連れて来る訳にはいかないわぁ。
 あんた達も早く行きなさい、しばらく時間を稼いで戻るから……そうしたら例のカードを使って逃げればいいわぁ」

そう言い、水銀燈は剣を作り出す。
言われた二人も、自分達がただの足手まといにしかならないだろうと判断し、橋の東側へと足を進めていった。
その姿を見やりながら、水銀燈はその腕一本に剣を持ち構えを取った。
すると、その瞬間へたり込んでいた男が起き上がりこちらを睨む。背格好を見れば、恐らくは博之と同じ程度の身長。
中肉中背……特に特筆すべき点は無いが、放つ気配が尋常ではない。内心厄介な相手だと毒を吐きながら、相対する。

「また奴らの仲間か……うじゃうじゃと、雑魚ばかりが徒党を組んでもこのTASは倒せん」
「あらぁ? その雑魚に吹き飛ばされたのは誰かしらぁ?」
「流石の俺も移動が不可能では回避は出来ん……だが、それももう終わり。
 あのキバという男もあれだけの傷ではもう助からん。
 そして、腕が一本だけのそのような不恰好な構えしか見せれん貴様程度では俺の足止めすら出来ん。
 後は逃げたあの女を追えばいいだけ……それで終わりだ」

肩を揺らしながら近づいてくるTASに睨みを効かせながら、水銀燈は歯噛みをした。
確かに、男の言う通りキバの傷は軽視出来るようなものではない。
妹の持っているカード――ホーリーエルフの祝福を使ったところでもはや回復出来る域を超えているだろう。
いや、そもそもまだホーリーエルフの祝福が使えるかどうかさえわからない。
――それはさておき、と水銀燈はその剣を構えた片腕を突き伸ばす。

「生憎ねぇ、腕が一本だけの不完全な人形だろうと――」

すると、その剣先から薔薇の花弁が咲き乱れ。

「――あんたを足止めするには十分すぎる体よ!」

それらが一斉にTASへと襲い掛かった。
回避しようにも薔薇の花弁は拡散しておりその合間を抜ける事は出来ない。
やむを得ず全身を腕で包み込み、防御の体勢を取る。
しかし、その隙にも水銀燈は接近しており追撃とばかりに背中の黒い翼を巨大化させてTASを殴りつける。
衝撃によりTASは吹き飛ぶが、即座に立て直すと空中に飛び上がり必殺の蹴りを水銀燈目掛けて見舞う。
それを剣で受け流しながら、水銀燈は落ちてゆくTASに向け更に黒い羽根を撃ち飛ばす。

「防戦一方みたいねぇ!」

落下しながら黒い羽根に悪戦苦闘しているTASに、更に剣を振りかぶって襲い掛かる。
辛うじてTASはその剣の腹を足で蹴り、矛先を自分の方へ向く事を避け地上へと着地した。

水銀燈の言う通り、TASは防戦一方だった。
それもそのはず、TASは水銀燈に比べて攻撃手段が圧倒的に少ない。
水銀燈が遠距離・中距離・更に近距離戦までと幅広く戦えるのに対し、TASは武器も何も持たずに肉弾戦しか挑めないのだ。

しかし……と、水銀燈は決して油断はしない。
キバは確かに一般人ではあるが、それでも弱い人物とは思わない。
聞いた話では蛙のような植物のようなよくわからない生物を撃退したらしいし、それなりに戦える男のはずだ。
だというのに、キバはこの男に完膚なきまでにやられた。
ならば、そう簡単に倒せるはずはないと一層身体に込める力を強める。

TASは距離を取り、水銀燈の様子を伺う。
水銀燈も、TASの様子を伺っていた――動く気配はない。
ただ無駄に時間が過ぎてゆく。

「どうしたのかしらぁ? 敵わないと思って動けなぁい?
 まぁ、私としてはキバ達の逃げる時間が稼げていいんだけどねぇ?」

水銀燈の挑発にもTASは応じない、ただ水銀燈を睨みつけるだけだ。
だが……その瞳には焦りの色が全く滲んでなどいない。
それを見て、水銀燈は不安を少しだけ覚えた。

TASは決して動かない――こうしている間にも、キバ達はどんどんと橋を渡っている。
もうしばらくすれば渡りきり、博之と合流する事が出来るだろう。
そうして、例のカード――強制脱出装置を使えばこの苦境からは逃げ出せる。
そう、もう少しすれば自分達は無事にとは言い難いもののこの男の目の前からは脱せるのだ。
安心してしかるべき……なのに、不安ばかりが募る。

「時間を稼ぐ……なるほどな」

不意に、TASがその口を開いた。

「貴様の言う通り、あの男達はそろそろ橋を通過してしまうだろう。
 このままでは俺は奴らを殺せん……確かにその通りだ」
「あらぁ……中々物分りがいいみたいね」

TASの言葉に水銀燈は返答するものの、やはり不安は消せない。
むしろ、それは大きくなる一方だ。
TASは事実だけを淡々と述べるだけで、どこか余裕の表情も見える。
何故、目の前の男はこんなにも飄々としているのだろうか。
本当にもう諦めてしまったというのか?いや、それならば今こうして自分と戦わずに逃げてもいいはずだ。

「……何を企んでいるの?」
「……お前は、時間を稼いでいると言ったな?」

焦燥に駆られ思わず問いかけた水銀燈に、TASは嫌らしい笑みを浮かべながら問い返す。
水銀燈はその言葉を訝しがりながら考える。
そうだ、自分は時間を稼いでいる……キバ達が橋を渡りきるだけの時間を。
TASをここで足止めし、どうにかしてこの窮地を脱する為に……。

「その認識が間違いだ、お前は時間を稼いでいるんじゃない……稼がれているのだ。
 俺は確かに奴らを殺せんだろう……俺は今、ここでお前と戦っているからな――『俺は』」

その声が聞こえた時、水銀燈は何かに気付いたように振り返った。
TASの言う通り、TASがここにいる以上彼は橋の向こう側へと渡れないだろう。
しかし、それはあくまでTASがという話だ。

――もし彼に、共闘する『仲間』がいたなら?
仲間がいたなら――その者は、何故ここにいない?

自身の不安の答えがわかった瞬間、水銀燈は既にその場から飛び去っていた。
その速さは尋常ではないほどに速く――しかし、TASはそれを見ながら少しだけ哀れむようにぽつりと呟き、その後を追う。

「その速度では、間に合わん……」



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