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私は人間じゃないから(前編) ◆wC9C3Zbq2k




 いびつな太陽が真上に昇り会場を照らす中、ほんの二日前まで割と普通の高校生活を送っていたはずの少女は沈黙を終えて満足げにつぶやく。
「首輪が消えたですって? ……ふーん、やるじゃない」
 少女の名は、涼宮ハルヒ。

「何を言ってるんですか神。絶対優位を失ったのだから感心している場合じゃないでしょう。どうするつもりなんですか?」
 にやついた笑みを浮かべる彼女に緊迫した表情で永琳が問いかける。作戦立案なら永琳や古泉のほうが当然適正は高いが、涼宮ハルヒの性格を見抜きつつある永琳も元から知っている古泉も、
ハルヒが彼女自身の思いつきでのみ動くまさしく荒ぶる神であり諫言など機嫌を損ねるだけのものでしかないと既に諦めにも似た境地で理解しつつある。今できるのは何かをするよう誘導を試みることくらいのものだ。

「あの閣下とかいう馬鹿女はこちらの進行方向を塞ぐように立ちはだかってきてたのよ。だとしたら城を守るような位置で立つのがセオリーだし彼女は確かにそうしてた。でも、あたしには彼女の動きはフェイクにしか見えなかったわ。その理由がわかってほっとしてるの」
「と、いいますと」
 古泉が問うと、
「彼女は実際にフェイクを使っていた。でもってあたしはそれを見破っていた。完璧じゃない!」
 とハルヒは答えた。

 古泉はハルヒに見えないよう後ろを向いてこめかみを押さえる。
 こいつやっぱり馬鹿だ! 首輪解除を成功されておいて見破ったも何もあったものじゃない。なんで絶対的ともいえる神の力がこんなスイーツ(笑)に渡ったのか超能力者として目覚めてからずっと疑問だった。そして今その疑問はより深まった。駄目すぎる。
 こちらの優位は優勝するどころか脱出手段を探す必要もない「世界を創る力」と、デーモン・神人・八意永琳といった人間を超越したかのような戦力。首輪をつけたままでいれば即爆破されても文句は言えない主催泣かせの逸品だ。
 だからゆめにっきの中で首輪を解除し、全員が力を取り戻せたのは奇跡的な僥倖だった。それを成したハルヒには悔しいが感謝せざるを得ない。

 しかしだ。こんな性格ではお世辞にも天地創造に向いているとはいえない。
「遊戯が城で工作を成功させている頃合です。お疲れでないなら向かいませんか? 仲間が増えたほうがなにかと心強いでしょうから」
「疲れてるけどいくってば……だけど目的が違うわ永琳。首輪がない以上城にいる連中はマルクと戦う意思はあっても私たちと戦う理由がない。だから逃げようとするはずよ。それを遊戯が連れてきた神のしもべ以外、殲滅するの。デーモンとこの子で」

 足元の小さくなった神人を指しながら酷薄な笑みを浮かべるハルヒ。
 狂気が滲み出ているが、思考自体は古泉たちが心配していたほど悪くない。閉鎖空間が現実に成り代わる場合と違って今回は現実そのものをハルヒの望む新世界へと変えなければいけないため、空間内に彼女の望まない人物がいては成功は望めないだろうからだ。
 こちらと対決姿勢を見せている主催を野犬とすれば神人の圧倒的な巨大さに逃げ惑うほかない対主催はネズミあたりであろうか。強いのは犬でも滅ぼしにくいのはネズミに違いない。皆殺しにする必要があるのなら先に仕留めるべきは確かに城にいるであろう人間だ。

「あんたたちは傷だらけだししょせん人間なんだから見てるだけでいいわよ。神の慈悲深さに感謝することね!」
「はあ……ありがとうございます。我らが神」
 永琳が少し不満げにそう答える。古泉が月の民としての自負がただの人間扱いされて悔しかったのだろうと思い慰めようとすると、彼女は古泉にだけひっそり告げた。

「首輪が外れてもほとんど傷が塞がらないの。レナのメモ通りまだどこかで能力制限をかけられてる。なんでハルヒだけあれだけの力を行使できるの?」
「……まあ、神ですから。彼女はあれで本来の1割の力も出してないんじゃないですか?」
「ぞっとするわね」

 無意味に威勢のいいハルヒの掛け声とともに神人がまた巨大化し、二人を肩に乗せようと手を差し伸べてくる。既にハルヒは遥か頭上だ。
「複雑な気分ですね。今まで僕はこれが出るたびに倒す側の立場の超能力者だったわけですから」
「へぇ……これと戦ってきたの。一般人とは思えないほど度胸があったのもわかるわ」
「いえいえ、一人で頑張ってきたわけじゃありませんよ。僕よりはるかにすごい超能力者が束になってかかってようやく倒せる。そういう相手ですよこの神人というのは」

 謙遜する古泉に上からハルヒが突っかかる。
「そもそも超能力者ならサイコパワーくらい普段でも使えるようにしておくべきだわ。謎の転校生のくせにSOS団では何も面白い事件を起こしてくれなかったじゃない」
「申し訳ありません涼宮さん。気付かれるまでバラさないのが組織のルールでしたから、こちらから仄めかすようなことをすれば転校させられてました。一緒にいたかったんですよ」
 しぶしぶ納得するハルヒを見て永琳は笑みをこぼしそうになる。彼は間違いなく最期に発音することなく口を「キョンくんと」と動かしていた。清々しいほどの仲の悪さ。

 ハルヒに聞こえないようそっと古泉に問いかける。
「よくそれだけ嫌悪しながら仲間として付き合えてきたものね」
「任務としてだけならそのうち投げ出していたかもしれませんね。けれど僕はそのおかげでキョンくんと知り合うことができた。その運命的な出会いに僕は感謝してるんです。
一般論で喩えるなら、猛犬を連れた美少女に犬嫌いの少年が恋をした場合を想像してみて下さい。苦手な犬でも好きになれるよう努力するのは自然なことでしょう?」
 永琳はキョンの人となりを知らないが古泉がここまで惚れ込む男なら見てみたいと思った。生きて新世界の創造を見届けようと心に誓う。

「さあ行くわよっ! みんな殺してとっとと私のための世界を作るんだからね」
 三人は神人の肩に、デーモンはその少し前方を飛び、神の軍団は進撃を開始する。
 位置で言えばD-2エリア。城から見ればまだほんの小さな人型。だが、その巨体は見た目より遥かに大きな威圧感を放っていた。

 変な力場でも働いているのかたいして揺れもない神人の肩上で三人は話し合う。 
「まだ本調子ではないのでゆっくりしたいところですが、常に僕たちは命懸けです。やれるだけのことをやっておきましょう」
 ディパックから永琳のクロスミラージュを除く新規入手品をピクニックでもしているかのようにほいほい取り出していく古泉。ハルヒがその中から一見では用途がわかりにくそうなそれ―――ミニ八卦炉をつまみあげた。

「これなに。蚊取り線香?」
「それは暖房器具ですよ神。そのサイズで冬でもあったか、洗濯物もすぐ乾きます」
 それが何なのかを知る永琳が嘘をつく。どれだけ小さかろうとそれはヒヒイロカネ製の超火力砲台。ド素人の神に武器だなどと真実を告げたら戯れで大惨事を招きかねない。威力を絞ってみせてストーブとでも思わせておくのが一番安全だ。

「ふーん、ちょうどいいわね! 永琳もそんなダサイ服じゃよくないわ。あたしの制服があるから乾かしてそれを着なさい!」
「え゛」
「不服なワケ? サイズも合いそうだし肌年齢から判断してみくるちゃんと同い年くらいでしょ。もしほんとは高校を卒業しちゃって・て・も、似合うから全然オッケーよ!」
「あ、あの……本気ですか?」
「冗談で言ってるように見えるなら信仰が足りないわね」
「しくしく……では次の休憩時に着替えますね。神」

 さらにハルヒは古泉に問う。
「出さなかったクロスなんとかっていうのは、そんなに危険なものなわけ?」
「人格を持った魔法のカードです。所持者には逆らえないというのが『参加者には逆らえない』という意味だったとしたら正義感に燃える彼女……彼だったかな? は首輪を外した僕たちに反逆できる可能性があります。取り出すつもりはありません」
「なるほどね。まあどっちにしろあたしはもう武器なんて持つつもりはないけど」
「!?」
 永琳が険しい表情で振り返った。

「だってあたし、創造神だもの。破壊するのはデーモンとこの神人の役目じゃない。破壊まであたしがやってどうするのよ。個人の嗜虐性向として持つことはあるかもしれないけど」
「なるほど。さすが涼宮さん」
「そ、そうですよね神……」
 まさしく永琳の完敗であった。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 一方その頃。城の正門前では。

「YO! 帰ってきたぜ陰陽師のおっさん」
「KASではないか。首輪解除を喜びたいのはわかるが閣下までも喪ったというのにその口調は浮かれすぎではない……何を連れてきたのだ一体」
「おいおいねーよ。うさんくさすぎるだろーこいつ。信用できるんか?」
「博之に決まってるだろーよ。遊戯は見つけられなかったけどこれでほぼ全員だな。それ以外の奴は説得の余地ナシ!」
「武藤遊戯なら僕です。なんなんですかあなた達は」

 閣下の埋葬を終えた戦士2人と、交渉の場に出向こうとする勇士3人が鉢合わせしていた。が、何故かおっさん二人は一触即発。最年長の彦麿が亜美や遊戯を庇って
一歩前に踏み出し質問する。

「永井博之どのとお見受けするが……いや、どこの魔物だ貴様」
「俺は元人間の今は魔人やが、魔物なんかじゃねーから。この身体もマイエンジェル水銀燈が命を投げ打って俺にくれたものやけん、悪う言う奴は許さんぞこの不審者」
 眼光鋭く陰陽師を睨み付ける博之。いかつい服装な上に背中から青白い闘気も滲み出ており、充分すぎるほど剣呑な雰囲気。危険を察した遊戯が亜美を促して彦麿の背に隠れる。だが十秒もたたぬうちにその気配は取り払われた。

「ふむ……確かに気配は魔のものではあるが闇に侵されてはおらぬようだ。非礼を詫びよう」
 彦麿が深く頭を垂れる。
「オーケー、俺も信用しよ」
「陰陽師のおっさんは確かにうさんくささが爆発してるからなwww一目見てすぐ信用するやつがどうかしてるっていう」
 KASのとどめともいえる一言に彦麿は深く傷ついた。普段から清潔にしているつもりだし着ているものも正装だというのに何故頻繁に不審者扱いされるのか。真面目な彼には見当もつかないことだった。

「フォローありがとさん。すまんかったな見た目で疑ったりして。それをいうなら俺の外見のほうが怪しいっていうのもわかってはおったんやけども。あ、レナはまだ戻ってきとらんよな。つかさって子はおるか?」
 博之がそう言うと一番奥でこちらの様子を窺っていた亜美の視線が揺れた。

「お前がつかさか?」
 亜美は返事もできず黙ったまま首を横に振り、驚愕の表情を浮かべながらゆっくりと地平の先を指差した。

「何や?」
 全員の視線がそちらを向く。

 東の方角の遥か向こう、陽炎の先に、巨大な人型をした青白い何か―――神人の上半身がゆっくりと揺れていた。間違いなくこちらへ向かっている。

「あれ……なに?」
「どうせ味方ではないのだろうな。邪神・禍津神の類か」

 KASがぽりぽりと頭をかく。
「もう来ちまったかハルヒのメローイエロー。魔人のおっさんいけるか?」
「ゆっくりしていけないみたいやの。おまえこそ平気か?」
「ハルヒだって!? どういうことなのさ二人とも!」
 遊戯の質問を無視して二人は顔を見合わせる。城には怪我人がいて、疲れ果てた非力な弱者も眠っている。博之はそう聞いている。なら、二人がやるべきことは決まったようなものだ。

((あのデカブツが城に来たら壊滅必至。惨劇の回避にはあれの進路を阻む誰かが要る!!))

「積もる話も果たすべき約束も、帰ってからだな。じゃ」
「ちょっと倒しに行ってくるっていう!!」
「その前にお前はこれ持っとけ。もう飛べんのじゃろ。俺より似合う気がするしな」
「ちょwwゴキブリカードかよww帰ってきたら殴るぞww」

 そして二人は駆け出す。実力の差はすでに如何ともしがたいレベルだとその身で思い知らされている。それどころか既に自分たちも怪我人扱いされて安静にしていろと言われて当然の状態だ。
 けれど、あれと渡り合って即死しないのは自分たちくらいだという確信はあったし、そうせずにはいられなかった。

「うおぉおおおおおお! 俺はTASよりも最速の男! 誰にも負けない!」
 全力ダッシュで魔人ピロをぶっちぎって置き去り同然にし、風と一体化する。誰も俺を止められない!
「亜美だって負けないよん♪」
 声に驚いて横を見ると、ちびルイージが自分に追いつこうとしているところだった。

「この俺がスロウリィ? いきなりルイージに負け天丼!」
 正面からの風圧を受けながらの絶叫はうまく声にならず彼の咽を灼く。痛みで気を取り直したKASがちゃんと横を向いてから併走する亜美に質問を投げかけた。

「ちょwwお前そんなに速いとかおかしい。ルイージといえば永遠の二番手だろ!?」
「んっふっふー。小学生をなめちゃーいけないなKASくん。小さければ『空気抵抗』ってやつが減って速くなるんだよ? 千早お姉ちゃんで習ったもん」
 「に」ではなく「で」なあたりは気になったが、それ以前に戦いに女子小学生を巻き込むつもりはない。ボブ術の無駄のない足運びを全力疾走に活用してついてくる亜美がKASに問う。

「ハルヒって人が攻めてきたんでしょ? あんなの話し合いできるわけないじゃん! どうすればいいの?」
「じっとしていられない気持ちは俺にもわかる! ルイージはあっちに回ってあのでかいのの背ろを向いてるときに大きな音でも立ててハルヒの注意を引くんだ。そっちに向かって来たら大成功だから一目散にスタコラサッサー! ドゥーユーアンダーソン?」
「アラホラサッサー!」

 これでいいはずだ。そうKASは思った。帰れといって素直に聞く相手でないことはわかっている。似ているのだ。TASに挑戦しようと思い立ってすぐの向こう見ずな自分に。
 だから危険度の低い任務を振る。それが彼女よりほんの数年とはいえ長く生きてきた自分ができる精一杯の配慮だろう。

「俺はマントがなくとも大空さえ支配する男! でっていうの敵討ちでGO!」

 遠回り気味に神人の側面まで駆け抜け、召喚したコカローチナイトに飛び乗る。
 そのまま一気に上昇。神人の後方から肩上のハルヒを眼下に見据える。まだ彼女達は気付いていない。それどころかアイテムをディパックから出してくつろいでいるように見える。そして、その広げられた中にはついさっきの戦いで世話になった自分の鍵も含まれていた。

「秘密の鍵発見! 奪還作業に入るダッカン!」
 虫特有の動きで神人の肩めがけて降下する。ハルヒたちが今から気付いても反応しきれるはずがない。そう風圧に耐えながら思っていると―――

 デーモンと、目が合った。

 いまさら引き返せない。気付かれているなら被弾覚悟で突っ込むのが本来のKASの流儀でもある。激突の幕は開けた。

デーモンが巨大な魔力弾を撃ち出す。この加速中では回避不能。ならば、胸に手を添え叫ぶ!

「武装錬金!!」

 叫びを聞いた神人上の三人が見たのは白煙の中からハルヒのもとへ降り立つ純白のコートを着た戦士。コカローチナイトは爆散したがシルバースキンには傷一つない。

「嘘でしょ……殺したのに。あれだけしっかりとぶち殺してやったのに。何で生きてるのよこの女ァ!!!」
 恐慌状態に陥ってよろける神に永琳と古泉が駆け寄る。その隙に大好物の秘密の鍵だけはしっかり回収し、KASは名乗りをあげた。

「T∀Sが神ならプリンアラドーモになる男、KASテンブラボー見参!」
「……男?」
 ハルヒの駄々をこねるような動きが止まる。

「KASですね。死んだものと思ってたけど……」
「間違いなく涼宮さんが殺しました。生き返ってこうピンピンしているとなるととてつもない力を手に入れた可能性が高いかと。重症の僕たちでは分が悪いですね」
 古泉がしれっと言う。
 永琳は全身ボロボロな上に腕を落とされ神経がつながりきっていないためまっとうな戦力にはならず、彼とて五体満足に見えるものの心身ともにもはやズタボロで意識がはっきりしているのが奇跡といった状態。DMカードこそ何枚かあれ、ここで一戦などとてもできそうにない。

「だったら邪魔よ。デーモンとあたしの神人で派手に潰すから邪魔にならないよう飛び降りなさい。永琳ならそれでも死なずにすむでしょ?」
「涼宮さん、何を!?」
「巻き込まれて無駄死にしたくなかったら、ここから二人で飛べって言ってるの」

 この高さから重傷者にタミフルダイブをしろというのか。彼女の暴言に全員が戦慄した。

「……わかりました神。足手まといは潔く戦いが終わるまで隠れておきますね」
「八意さんッ!!」
「それしかないのよ。今すぐに全快するなんてできないのだから、神の戦いの妨げとなって巻き添えで殺されるかここから命懸けで飛び降りるかを選ばないといけない。だから選ぶの」

 憔悴した表情でそう言いながら古泉の肩に永琳は片手を回す。
「よくわかってるじゃない。神の意思に背く愚を犯さないなんてさすが永琳だわ」
「絶対に離さないでね。今の調子だと飛ぶというより……墜落の衝撃をどこまで和らげれるかわからないけど」
 その一言を最後に、二人は神人の上から姿を消した。
 残ったのはKASとハルヒ、そしてその直線上で彼女への直接攻撃を食い止めるべく空中で翼をはためかせるデーモン。神人の一撃を期待しているのかデーモンが直接攻撃してくる気配はない。KASはゆっくりと呟く。

「お前……それでも人間かよ」
「は?」

「てめぇそれでも人間かって聞いてんだよこの外道が!」
「愚問ね。あたしはもう人間なんかじゃないわ、『神』よ!」

 高らかに宣言した彼女がデーモンにしがみつくと同時に、神人の両腕がKASをはたき落とそうとその肩を平手で急襲する。一撃がそのまま致命傷になるその巨腕は反射神経に定評のある彼であっても強運込みでなければ回避できるものではなかったろう。
 回避し終えたその腕を足場に二段スピンジャンプで神人の頭部まで辿り着く。そんなことで状況は変わらないが、そこで彼は叫んだ。

「てめーが神なもんか! 本物の女神に会って生き返らせてもらった俺にそんな嘘は通じない!」
 黒い翼が空を舞い彼に同調する。
「その通り! 神ってのはもっとこう神々しくてやな。赤が似合うて純情で妙に黒くて……とにかくお前は違う!」
「やっと来たか博之!」
 春香さんは女神。閣下に心酔したものたちだけが主張できる心の叫び。その魂の抗いにハルヒの心は揺れた。

「生き返った……ですって? あたしだってまだキョンを生き返らせてあげてないのに? それに何よその目つきは。とっとと諦めなさいよ!」
 神人の動きが目に見えて鈍ってきたのを見計らって博之はKASを拾う。空を飛べもしないのに敵の体の上で戦うなど自殺行為も甚だしい。よく生きていたものだ。

「KAS、お前無茶しすぎ。こっちの心情もわかれ」
「ハラハラさせるのも性分なんでねっ! 沸いてくれるギャラリーがいないのが寂しいけど俺はいつだってやる男! だおだお!」

 かみ合わない会話も友情の証。これだけ挑発できれば無視して城へ直行されることはないと判断した二人ゆっくり南へ飛んでいく。

「博之遅いよ! 何やってんの?」
「贅沢言うなや。これでもめっちゃ痛いのをこらえて頑張っとるんやから」
 神人の動きは確かに鈍っていたが、デーモンまでが手加減をする理由はどこにもない。当然KASを抱え今や格好の的となったといってもいい博之には情報改変の産物である巨大な石礫が雨あられと浴びせられる。

「ぐおっ」
「博之!」
「テトラカーンさえ使えればとは思うけど、ないものねだりはいかんよな」
 回避しきれずに何度も被弾する。美しい漆黒の翼が舞い散り、次第に暗い朱に汚されていくのが抱えられているKASにもわかった。どんどん高度も下がってゆく。

「あいつは俺が叩っKILL!」
 それ以上言葉に出さなくとも何をすればいいのかは伝わった。歯を食いしばりながら急上昇する博之。そしてデーモンに向かって投げつけられる、

 KAS本人!!

「専門は弓だけどな。閣下ロットから預かった以上、木刀も俺の魂の一部!!」
 本来はつかさという少女に渡さなければいけなかった木刀。しかし城へ入る前に神人が現れたせいで彼女とは会わぬままになってしまった。
 だから、これを持って戻らねばならない。気力の有無どころか生死すらも考える必要はない。閣下の命令に背くわけにはいかない。理由はそれだけでよかった。

 落下の威力を加算した木刀での突きはデーモンのバリアを藁半紙でも破くかのように易々と突き破り、その首元を抉った。

 そのまま一人と一体は地面へと落ちる。
 斬撃を選択しなかったのは砕けた拳できちんと握って振り下ろせる自信がなかったため。その点突きであれば軸さえぶらさなければある程度勢いに任せられる。それがまさに会心の一撃となった。

 期せずして草むらに組み敷いた形になり、そのままKASはデーモンに殴りかかる。
「ゲハッ、こんなことで勝ったと思わないことですよ」
「勝ったとは思っちゃいないさ! ただしこれから勝つ! それが閣下ロットとの約束だからな!」
 マウントポジションから一撃、二撃。
「ユニーク。いや、もはや滑稽」
「滑稽で結構! エンターティナーこそ俺のスタンガス!」
 右拳の痛みに構わず全力で殴り続ける。しばらくされるがままのデーモンだったが、突然正面を向き、笑った。
「……さあ、頭冷やそうか」

 気付いたときには背後に大量の魔力弾が発生していた。KASに寒気が走る。
 シルバースキンがいくら最高の防具でも自ずと限界があることには閣下の最期を見ずとも気付いていた。いくら身体能力を底上げしてくれようと、身に纏うシルバースキンそのものが並の力では砕けることはなかろうと、衝撃は装備者本人がそのまま受けるのだ。
 空元気をひねり出して疲れをごまかしている自分が今あれを全弾くらえば、間違いなくもたない。

「くたばりなっ!」
「大ピンチ!」

 もはやこれまでかと思ったKASは目を瞑ったが、直後にデーモンごと真横へ弾き飛ばされた。大量のアクセルシューターが標的を外れ、追尾し直せるだけの隙間もなかったためそのまま炸裂音とともに地面に穴を開け続ける。

「何故。あの魔人は神人と交戦中のはず」
「残念、亜美でしたっ! その真っ白な服ってはるるんだったよね!? やっぱり生きてたん「ルイージ、お前なんでここにいるっ!!」」

 喜びに満ちた少女の声は、純白のトレンチコートから聞こえる青年の叫びによって遮られた。

「その声……KASくんなの?」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 神人の動きも止まったわけではない。動きが鈍ったといってもあくまで相対的なものであり、その重い拳は今でも一発でも当たれば特急列車に撥ねられたのと同等かそれ以上の威力があることだろう。生身の人間なら肉片コース。
 いくら人外でも疲弊した新米魔人など一発当たれば即ティウンであることは想像に難くない。
 だが、博之は退こうとはしなかった。回避しようと思えばできないわけではなかったし、ハルヒの動揺で神人の動きが鈍るということは武力では勝ち目のない相手だとしてもそれ以外の方法でなら戦えるかもしれないということ。
 すなわち、ここからはは信念のぶつかり合い。

「さ、始めよか」
「あんたは何がしたいわけ? あたしはマルクをぶちのめしてあたし自身の力でここに理想郷を作るわ。この神人でね」
 なるほど。そういうことか。
「俺は元の世界に戻りたいんで・す! お前がけったいな化け物に作らせるニセモノの楽園なんぞ御免被るわ!」

 ブゥン
 会話中にも降りかかる神人のパンチに対し、回転中のリールを読むかのように先読みで回避行動を取り続ける。
 できればもう少し安全な距離を取りたいが、声が届かなくなっては意味がない。薄氷を踏む思いで神人の一挙一動に注視しながら論戦を続ける。

「元の世界なんてどこがいいのよ。あんたそんなに満足できる人生を歩んできたわけ? あたしはそうじゃないわ。だから神の力で新しい世界を作るの。キョンを生き返らせて、また一緒に……」
「そうやな、元の世界に帰ってももうオカンもジーコもおらん。オトウと上の兄貴だけや。その上この年でフリーターってな」
「ぷっ。だったら素直に死になさい!」 

 横薙ぎの大振りを急上昇で、踏み込んでの張り手を風圧にこらえながら旋回してかわす。空が飛べて軌道さえ読めれば神人の攻撃速度は速さこそあるが決してかわせないものではない。
 ただし攻撃の手段がない。突進は無謀極まりなく、羽毛も傷ついた今では無駄撃ちのできる状況ではないからだ。だからひたすらに叫ぶ。

「それでも、元の世界やないと嫌なんじゃ! 悲しいけど死んだ人間は生き返らん! お前葬式に出たこともないんか。人の生き死には遊び道具にしていいもんちゃうぞ小娘がッ!!」
 怒れる魔人の咆哮が、ハルヒに鳥肌を立たせた。

「だったら……だったらあんた達はどうなのよっ! KASは一度完全に死んでたじゃない! 博之、あんただって昨日あたしと会ったときは人間だったわよね!?」
「ああ、俺は死んだわけやないがもう人間はやめたつもりでおる。魔人の姿で翼まで生えて、いまさら人間ですよなんて言う気おこらんわ」
 紫の肌に黒い帯状の紋様。そして魔力の資質と受け継いだ漆黒の翼。全て誇り高き銀の髪をした人形から受け継いだ大切な贈り物だ。

「だからな、わかるやろ! 俺やKASがそれでも元の世界に戻りたいっていうのがどういうことか!」
「!!」

 人間でなくなったものが、元いた人間の世界に受け入れられるわけがない。
 心臓は既に停止し、症状が進行すれば閣下のように他者の生命を吸い上げ草を枯らす忌むべき存在になるであろうKAS。
 皮膚すら人類にありえない色に変色し、翼が収納できるとしてもその姿はまさに妖怪変化。人間社会に復帰などしようとすれば拉致され実験動物として管理されることは想像に難くない博之。
 そんな彼らが、家族すら失い希望など残っていないはずの彼らが、生き残った友のためだけではなく、本人たちも元の世界に戻りたいと心から願っているというのか。

「ありえないわ! 何のためにっ!」
「じゃけんお前はお子様なんじゃ。自分しか見えとらんっ!」

 ハルヒが体を震わせ、それに伴って神人もゆっくりとその動きを停止する。ハルヒは困惑しているのだろう。今飛び込めば気絶させて無力化は可能なはずだ。博之は距離を詰めた。

「わからないわ……全然わからない」
 地上20メートルはゆうにあろうかという神人の首元で俯いて頭を抱えるハルヒに博之は詰め寄る。本人の身体能力は決して化け物クラスではない。神人の動いていない今なら新米魔人でも気絶させることは容易。そのはずだった。

「人間の尺度の考えなんて。神にはね」

 騙されたと感じる猶予すらなかった。高速で振り払われた神人の腕が博之の意識を跳ね飛ばし、ハルヒの高笑いとともにその矮小な魔人の身体を地表へと叩きつけた。



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