第一次ニコロワ大戦 六色アルティメットバースト ◆jVERyrq1dU




つかさ、カービィ、レナが敗れ、残り三人。対するジアースは左腕を失い、隻腕である。
これを有利と見るか不利と見るか、それは人それぞれ、自由である。
しかし少なくともジアースの対面に構える三人の士気は、先ほどに比べ圧倒的に削がれていた。
どう考えても不利、厳しい。そんな弱い考えが頭の中で芽吹く。

それとは対照的に、コイヅカの心理は何も変わらない。左腕を落とされた時は少し動揺したが、彼の精神の根っこの部分は全く揺らがない。
即ち連中を全滅させる。この決意はどんな時であろうと決して揺るがない。

「く、来るぞ……!」
ジアースが動き始めたのを見て日吉は唸る。自軍の最大戦力であるNice boatを破壊され、これからどう戦えば……
日吉には分からない。見当もつかない。

「ちぃ……やはり来たか……」
ジアースが動きを止め、体の向きを変える。
その方向を見つめると、ジアースに負けず劣らずの巨大な龍がいた。それも二体。

「な、何だありゃあ……」
「あれは……海馬の持っていたカード……」
地面に降りた霊夢が言う。そう、青眼の白龍が二体、ジアースを睨みつけていた。
ブルーアイズの傍らには、蛾に乗った少年がふわふわと空中に静止していた。
決意を持った瞳でジアースを睨む。

中々の強敵が現れ、コイヅカは頭を働かせる。ブルーアイズともなれば、まともに戦うわけにはいくまい。
それにしても遊戯か……てっきり海馬かと思ったが……もしや奴はもう死んだか?
まあ、アルティメットにさえならなければどうにでも対処出来るはずだ。
万が一アルティメットになったところで、すでにもう対策は済んでいる!

ジアースの砲口に光が収束する。博之、遊戯以外の三人はその時点で気付いた。
レーザーだ。

遊戯は博之の上で立ち上がり、ジアースに向けて指を指す。

「行け!ブルーアイズ!! 滅びのバーストストリィィィィィムッ!!」

遊戯の叫びと共に、二体のブルーアイズが光線を吐き出す。
二本の光線は螺旋を描き、一つに収束する。恐ろしい勢いでジアースに向けて疾走していく。
ジアースもまたそれとほぼ同時に、パゥっとレーザーを発射した。

空中で、ジアースのレーザーとブルーアイズの聖なる光が衝突する。
二種類のレーザーが交わり、巨大な球となり力と力のぶつかり合いが開始される。

「きゃああ」
「うおッッ!」
余りの衝撃波に霊夢と日吉は吹き飛ばされる。球は時間と共に加速的に巨大化し、今にも張り裂けそうだ。

「や、やばいんとちゃうんか!? 遊戯ッ!?」
「関係ないッ! ここで引いては絶対に勝てないよッ!」

僅かにだが、ジアースのレーザーが押し始めた。巨大なエネルギーの球がブルーアイズへと迫る。

だ、駄目だ……勝てない!
日吉は巨大な球を見上げ、喉をごくりと鳴らす。ゆっくりだが確実に、ジアースのレーザーはブルーアイズのそれを押していく。
アリスも日吉と似たような心境だ。ヘルパーでジアースを撃ち続けてみるが、何の援護にもならない。
スターシップ一つでは傷もろくに与えられない。

「日吉! レナを探すわよ! きっと最後のブルーアイズを持ってるはず!」
霊夢は傍らで委縮している日吉に声をかける。レナが生きているかどうかはわからない。
例え死んでいたとしても、私達の戦力になるブルーアイズや他の武器だけは命を賭して守ったはず、そんな気がした。

「探すってどこをだよ!?」
日吉がぶっきらぼうに叫びかえす。当然の疑問である。
「船よ!船が落ちた場所を探す!それしかないわ!」

なるほど、確かに探すとしたらそこだ。というより、そこ以外にない。
日吉は納得し、霊夢と共に駆けだす。


「ブルーアイズ! 頑張ってくれ!」
遊戯は蛾の上で叫ぶ。もう目の前にまで球が迫ってきている。冗談じゃない。
本当に冗談じゃないぞこんな事。せめて、あと一体ブルーアイズがいれば……

やはり、こんなもの。アルティメットにさえならなければ、どうという事はない。
コイヅカはコックピットで口角を吊り上げる。遊戯を蔑んだ瞳で見つめ、せせら笑った。

さっきからずっとアリスがジアースのコックピットに向けて撃ち続けている。
無駄な事をするものだ。出撃する前はジアースの完成度について若干の不安があったが、杞憂だったようだ。
さすがはピエモン。ジアースは紛れもなく最強だ。敵などいない。

「ゆ、遊戯逃げるぞ!?」
「駄目だ!ここで引いちゃったら負けだよ!」
蛾形態の博之が叫んだ。遊戯の許可を得なければ自由に行動できない。
その制約は博之の不安を助長させる。このままでは勝てない……それは紛れもない圧倒的真理。

エネルギーの巨大な球が遊戯の鼻先にまで迫る。
よし、ブルーアイズ……そして遊戯王シリーズのAIBOと永井動画の博之を撃破だ。

「甘いわね……ガラ空きよ」
「……!?」

コイヅカの背中に冷たい汗が流れる。完全に油断していた。
まさかここで来るとは思っていなかった。

すぐさまジアースのカメラを足元に向ける。そこでは、ある女がけたたましく笑っていた。
彼女の足元から何かが生える。次第に巨大化していく。どこまで大きくなるんだ?
まさか奴は、以前よりパワーアップしたとでも!?


「けひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!! 私を退け者にして何最強気取ってんのよ!?」
依然としてレーザーを放ち続けるジアースの隣に、ジアースに匹敵するほど巨大な神人が突如現れた。
神人の肩には涼宮ハルヒが大口を開けて下品な笑い声を吐いていた。隣には永琳がハルヒを心配そうに見守っている。
恐らく護衛なのだろう。古泉はどこへ行った?どこかで待機しているのか?
ジアースの方が神人よりも少し大きいのに関わらず、コイヅカは何故か見下されたような気分になった。

「ええ!?このクソジジイ! けひひ、そのパクリロボットを解体してやるわッ!」

ジアースに大きな衝撃が走る。右側面から神人に思い切り殴られたのだ。
大きく揺らめき、バランスを崩すジアース。レーザーの狙いは狂い町へと、そしてそのまま塔へと走り、跡形もなく破壊する。

「神(笑)め!」
「ヒャハハハハハハハハハハハハハ!!」
ジアースが一本だけ残った腕で神人を殴りにかかる。ハルヒもまた拳を繰り出す。

お互いの急所を狙った拳の交錯。ほぼ同時に両者の拳は相手にぶち当たる。
ジアースの鉄拳は神人の顔面へと、神人の拳はジアースの腹へと、鈍い轟音を叩き出し、衝突する。

重量感のある低音が衝撃波となり拡散していく。
遊戯は吹き飛ばされないように必死に博之に掴まったが、博之自身が軽々と吹き飛ばされれば意味がない。
二人は仲良く戦線を離脱していく。

「きゃああああああああああああああああああああ」
アリスも彼らと同じく激しい衝撃波に耐えきれず、機体を回転させながらどこかへ吹っ飛んで行った。


「興味深い!興味深いわ! この神に匹敵するほどのパワー!威圧!巨体!
所詮人が作ったモノなんだけど!この高揚感は何!? けひゃ! 面白ォイ!!」
「私はニコニコ動画を病気から治すのだ!貴様なんぞには負けん!」

片腕しかないジアースはやはり不利。ハルヒの速攻を防ぎきれない。
ジアースに次々と拳の弾幕が突き刺さる。ハルヒは今、圧倒的有利。彼女のテンションも鰻登りだ。

「ああ!? ニコニコ動画!? そんな変なサイト私がぶっ壊してやるわよ!」

しかしコイヅカの表情は依然として変わらない。決意に満ちたものだ。
負の感情を窺う事は到底出来ない。眼光を一層輝かせ、静かに反撃の時を待つ。

ジアースの砲口に光が収束していく。ハルヒはそれに気づかない。
聞く者を鬱にさせるような高笑いをしながら、ゴツンゴツンとジアースを殴る。
神人はやはり強靭だった。殴るたびにジアースの装甲が歪み、凹んでいく。
このまま押し切る事が出来れば、神人は勝利するだろう。

「ぐぇぇ」
ジアースの膝蹴りが一発神人の腹に入った。ハルヒは神人の肩の上でふらりとし、必死に意識を縫い止める。
異様な双眸でコイヅカを睨みつける。少しすると、ふっと険しい表情を緩め、醜悪な笑みを浮かべる。
「神! もう止めて下さい……!!」
悲鳴を上げる永琳を振り払い、ハルヒは再び戦闘態勢をとる。

「ヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッ」
気味の悪い奇声を上げながら、だらだらと唾液を垂らしながらハルヒは神人を動かし、ますます激しくジアースを殴り出す。
さっきのは偶然だ、ジアースなんか私の足元にも及ばない、と言うかのように、
ハルヒの激情を体現するかのように神人は暴れまくる。


明らかに次元の違う戦いを尻目に、霊夢と日吉は駆けていた。

全力疾走で川沿いを走る霊夢と日吉。まさかハルヒが来るとは思ってもみなかった。
レナにより、ハルヒがゲームに乗っているとすでに知っていた霊夢。しかし、あそこまで狂っているとは誰が想像しようか。
ハルヒはまさに完璧な狂人。人は一日かそこらであそこまで変わるのだ。

唐突に、前を走っていた日吉が足を止める。

「おい……あそこに誰かいるぞ」
日吉は霊夢にそっと声をかける。
今、川に何かがいた。弱々しい声が聞こえたような気がした。
川の流れがおかしい。乱れている。誰かが流されているのか?

日吉と霊夢は警戒したまま、何者かにゆっくりと接近する。
自分達の仲間はほぼ全員この場所に集い、戦っている。とすると、川の辺りにいるのは……

危険人物であろうと、ジアース撃破のために何とか利用したいところだ。
そう言えばハルヒはどうしてジアースに喧嘩を売ったのだろうか。自分より目立っているのが腹立たしいから?
いくらなんでもそれだけではないだろう。

先に様子を窺った日吉がふっと緊張を緩める。それを見て霊夢も覗き込む。

「つかさ……」
川原に憔悴しきったつかさが打ち上げられていた。日吉はすぐにつかさの元へ駆け寄り、川から引き上げる。

「おい、おまえ、大丈夫か?」
ぺちぺちと頬を叩く。つかさは苦しそうに喘いだ後、静かに目を開く。
「あ……日吉さん……」
「カービィが……助けてくれたのね」

だいたい予想できる。ジアースに粉砕される直前、カービィはつかさをスターシップから振い落したのだ。
あの状況でつかさを助けるには地上で流れている川にわざとつかさを落とすしかなかった。
つかさを助けなければ、カービィは助かっていたかもしれない。
そう思うと、カービィの執念を垣間見たような気がして、霊夢はなんとも言えない気持ちになった。。
ともかく、カービィは自分の命を犠牲にし、つかさの命を救ったのだ。

「気分悪いだろうが聞かせてもらうぜ? レナは……どうなった?死んだのか?」
日吉が単刀直入に質問する。つかさは息も絶え絶え、口を開く。
「死んだかどうかは……分からない…でも、レナちゃん……最後にこんなのくれた……」
つかさはポケットから何かを取り出し、日吉に手渡す。
「つかさちゃんは……これで戦って、って言ってた」

最後の青眼の白龍だった。
レナの機転、戦力を少しでも増やそうと、つかさにも闘って貰おうとしてこのカードを渡したのだろう。
全く、抜け目のない奴だ。日吉はにやりと笑んだ。


────パゥッ


その時、ジアースが火を噴いた。日吉と霊夢はまたも衝撃波に煽られる。
二匹のモンスターの戦いに何らかの転機が訪れたらしい。
三人は神人とジアースを見上げた。

神人の胸に大きな大きな穴が開いていた。致命傷だ。誰が見てもそう思う。
その直後、神人は大きくバランスを崩し、大地に倒れる。しかしジアースはそれを許さなかった。
倒れかけた神人の頭を残った右腕で掴み上げ、無理やり引き起こす。日吉はジアースが激しく傷ついている事に気づいた。
おそらく神人にしこたまぶん殴られたのだろう。レーザーさえなければ神人が勝っていたかもしれない。

神人を強引に立たせ、ジアースは思い切りぶん殴った。何発も何発も殴る。ラッシュの仕返しである。
神人は耐えきれず、ついに大地に仰向けに倒れた。ジアースはなおも容赦せず、今度は足を持ち上げ神人を踏みまくる。

耳を塞ぎたくなるような怪音がロワ会場に響き渡る。

「見るなッ!あっちはあっち、こっちはこっちだ」
日吉が語調を強めて言い放つ。つかさに肩を貸し、立ち上がらせる。
「平気か?」
「う、うん…なんとか……」
つかさが普通に立ち上がったのを見て日吉は安堵する。

「いいか?お前はこれからこのブルーアイズってのを使って闘って貰う。お前にしか出来ない、俺達は普通に戦えるからな」
「う、うん……でも私なんかが……」
何故かつかさが渋る。何か理由があるのか?お前にも闘って貰わないと困るんだぞ。
日吉は困惑する。

「私、なんかが……死神なんだよ…カービィも死んじゃった…私……そんな私が…」

日吉の何かが切れる音がした。拳を強く握りしめ、顔を怒りに染めて、つかさを真正面から睨みつけた。
その表情はかつての敵、YOKODUNAを睨む時の顔と全く同じ。つかさは恐怖で息を飲む。

「じゃあ、じゃあ何か? お前は呑気に突っ立ってるだけで……何もしたくないと?
自分を卑下してまで……戦いたくないと?」
「た、戦いたいよ!でも、私が頑張ったらみんな死んで……私が関わった人は死んでいって……」

私が私が私が私が私が私がわたしがわたしが────

「自分の事だけか……お前はよおッッ!!」
つかさに掴みかかる。霊夢はそんな日吉を必死に抑えつける。
「関わったら死ぬ?頑張ったら死ぬだと!? 馬鹿かお前は!関われるだけで、頑張れるだけで充分じゃねぇか!!
誰がお前を憎んでいる!?誰がお前を攻めてるんだ!?結局お前は自分だけ!!自分で自分を攻めているだけ!」
「日吉、もうやめなさい!」
霊夢が冷静に言い放つ。

「仲間と一緒に頑張れる、頑張る事が出来たんだお前は!!それで何が不満なんだ!
仲間が死んだからってどうして自分を責める必要がある!?

死んでいった奴らと共に、同じ空間を共有出来た!互いに頑張れることが出来た!
結果なんか関係ねぇよ!死んだ奴らの意思を継ぎ、次はもっと頑張るだけ!」

────それだけだろうが馬鹿野郎!!!

どうして……お前はそう思えないんだ……
日吉の力が急速に抜け、ぐったりと項垂れる。
霊夢が何事かと声をかける。

「もういい、離せ……」
力なく日吉は言った。霊夢は日吉の言われたとおりにした。

そして日吉はそのままジアースに向かって走り出す。最後のブルーアイズを見つけた。
使う奴もいる。もう自分はただ暴れるだけでいい。それだけだ。

「じゃあ……頼むわよ……あのもみじ頭と協力して、戦いなさい」
霊夢はつかさの肩をぽんと叩き、日吉を追い始める。


しばらくつかさは呆然としていた。日吉の自分に向けた怒り。恐ろしい形相で睨みつけられ、とても怖かった。
つかさはふと、視線を落とした。右手にはしっかりとブルーアイズのカードが握りしめられていた。


「あんた……どうしてあんなに怒ったの?」
走りながら日吉に聞いてみる。つかさはただの女子高生。あそこまで怒る事はないのでは……
日吉は遠くを見つめながらそっと口を開く。

「俺は……関われなかった……結局。奴が死ぬかもしれないって時に、俺はただ寝ていたんだ。
せめて、せめて奴と一緒に戦いたかった。今頃、死体になってるかと思うととても怖い……
あのつかさって奴みたいに、仲間の生死に関わりたかった……俺はそれすら叶わない。
今、あいつがどうなっているか……もし死んでいるのかと思うと……俺は……」

日吉の言葉は支離滅裂で要領を得ない。

「仲間って……誰の事?」
「俺の弟子だ……くそ、俺が寝てる間に勝手な事しやがって……どうして無理やり起こしてくれなかったんだよ」

霊夢は日吉の目から涙が流れ出るのを見たような気がした。


「ザマーミロ神(笑)。天罰だよ」
博之に乗った遊戯がぴしゃりと言い放った。博之は遊戯の言葉にうんうんと頷く。
神人は胸に大きな穴を開け、ぐしゃぐしゃに踏みつぶされて大地に横たわっていた。

ジアースもかなり傷んでいる。神人を甚振るのを止め、こちらへ向き直る。
ジアースは明らかに消耗している。もう少し、きっともう少しだ。

「いくよブルーアイズ……」
遊戯は傍らに佇む二体のブルーアイズに声をかける。
今ならきっと勝てる。まさかハルヒが乱入してくるとは思わなかった。
彦麿さんはうまくやったらしい。

ジアースの砲口に、またもや光が収束していく。それしかないのかお前は
遊戯はびしっとジアースを指差し、叫ぶ。

これで最後だ。これで決めてやる……

「滅びのバーストストリィィィィィィィィィム!!!」

二体のブルーアイズが一斉に火を噴く。それとほぼ同時にジアースのレーザーが発射される。
二種類のレーザーは二度目の衝突をし、例の如く衝撃波が拡散される。
遊戯は博之に掴まり、力の限り叫んだ。

「いけ!いけ!ブルーアイズぅぅぅぅ!」

遊戯と博之はジアースがかなり消耗しているため、今度は押し切れると思っていた。
ブルーアイズがジアースを破壊するものだと信じ込んでいた。

「う、嘘やろ……」
博之が驚嘆する。もはや呆れに近い。ジアースのレーザーがブルーアイズの光線を押し返す。
いくらなんでも、これはひどい。ジアースはさっきまで神人に散々殴られていたではないか。
確実に消耗しているはずなのに、これはいったいどういう事なんだ。

「そんな……」
遊戯もまた博之と同じ心境。まさかジアースがここまで強いとは思ってもみなかった。

ふと、遊戯が博之を見ると、何やら口にエネルギーが溜まっていた。

「このまま黙って見とれるか……!」
博之が光線を吐き出す。デーモンのフレイムインフェルノに、ドクケイル成分や魔力が合成されたわけわからん光線である。
しかしいくらカオスでも、かつて最強を誇っていたデーモンの必殺技に様々なものがブレンドされた光線、弱いわけがない。
むしろブルーアイズの光線をも超える勢いで、ジアースへと向かっていく。

ブルーアイズのバーストストリームに博之の光線が融合される。少しだけ遊戯博之側が押し返す。
しかし────

「駄目だ……まだ足りないよ……博之さん」
遊戯が途方に暮れた顔で言った。もうこちらには新たな戦力などない。
ジアースのレーザーが少しずつこちらに近づいてくる。

勝てんのか……!また勝てんのか俺は……!閣下の時も役に立たんかったし、俺は……
こんだけブレンドされても……まだ何の役にも立てんって言うんか!!

博之が心中で叫ぶ。しかし、博之の思いも空しく、ジアースのレーザーはゆっくりとしかし確実にこちらへ迫る。


やれやれ……やっぱり主催者の切り札なだけはある……思ったとおり規格外だ。
日吉はブルーアイズの劣勢を見て、思った。

日吉は空に両腕を掲げ、精神を集中させる。

無我の境地は恐ろしいほどの勢いで俺の体力を削っていく。言わば諸刃の剣。
使い方を誤ればすぐにお陀仏だ。だがな、ここで使わないといつ使うんだよ。

両手にエネルギーが溜まっていくのが実感として分かる。KIだ。
YOKODUNAの最強の技、GENKI-DAMAである。日吉はこの技もまた見事に会得していた。

「俺は……生き残ってあいつにボブ術を叩きこまなけりゃいけないんだ……
はは、チビ助が生きていたらの話だがな……」

日吉は両足で大地を掴み、ジアースに向かって思い切りGENKI-DAMAを放った。
GENKI-DAMAは吸い込まれていくかのようにブルーアイズとジアースの光線が拮抗する箇所へ飛んでいく。
その直後、日吉は血を吐き、地面にぶち倒れた。


「これは……」
コックピットに座ったコイヅカは異変に気づく。ブルーアイズだけではない。
わけのわからない蛾の光線、そして日吉のGENKI-DAMAがバーストストリームに加勢してきた。
しかしコイヅカは一片たりとも表情を崩さなかった。霊夢がディバインバスターを放ってきたが、どうせ結果は同じ事。

「これだけやって……まだなの?」
ジアースに向けてディバインバスターを放つ。
光線が拮抗している箇所に放ち、バーストストリームに加勢しようとしたが、どうやら大した効果はなかったらしい。
霊夢の頬に冷や汗が流れる。ジアース……手がつけられない程、規格外……

バーストストリーム2本、博之のカオスレーザー、ディバインバスター、そして日吉のGENKI-DAMA。
これだけの力を結集しても、ジアースのレーザーを押し返す事は敵わない。
やはり、最後のブルーアイズの力が────


つかさはジアースを目の前に、すっくと立ち上がる。
死んでいく人達に関わる事が出来る幸せ、意思を受け継ぐことが出来る幸せ。
もっとそれを自覚しろ。日吉はそんな事を言っていた。確かに、思い返してみると────

狂った私の身を案じてくれたいさじさん、最後までごめんなさいと謝り続けたゴマモン、私を説得しようとしたおじいちゃん
結局謝る事が出来ないまま死んじゃった春ちゃん……

私は多くの人の死を目の当たりにしてきた。多くの人の死に関与してきた。
今更謝っても仕方がない。悔やんでも仕方がない。自分を責めても仕方がない。
私に出来る事はただ、意志を受け継ぐこと……

私の中で何かが弾けたような気がした。気づきは確信へと変わり、自信へと変化する。
わかった……理解した。あれはそういう事だったんだ。

城でアリスちゃんに言われた事が、今────言葉ではなく心で理解できた!!!

「うわああああああああああああああああああああああああああ!!!」
とにかく叫びたい気持ちだった。自分の心の中にずっと巣くっていたもやもやしたもの。
それが漸くどこかへ霧散したような、そんな心地のいい開放感。
縛られるのではなく受け継げ。そして罪滅ぼしをしろ。

「分かった!分かったよ!アリスちゃん、日吉さん!今、私は心で理解した!!!
 ────青眼の白龍召喚ッッ!!」

「滅びのバーストストリィィーーーーーーーーーーーーーーーィムッ!!!」
大口を開けて叫ぶ。今までにこれ以上大きな声を出したことがない、というぐらいまで。


最後のブルーアイズから光線が発射され、仲間達へと加勢する。
力と力の拮抗を示すエネルギーの球はさらに巨大化する。


「見たか主催者!」
遊戯が叫ぶ。
「貴様はたった一本!」
地上で日吉が唸りを上げる。
「私達は5本!」
霊夢が息を切らしながら大声を上げる。
(これが結束の力!)
口から怪光線を放ち、喋る事が出来ない博之は代わりに心中で叫んだ。


「これが私達5人のッ!」
「いや、6人のッ!」

つかさが叫ぶ。いつの間にかアリスも攻撃に参加していた。スターシップで撃ちまくる。
今までは衝撃波に煽られたため、目を回していたのだ。
少しずつ、少しずつ6人のレーザーがジアースのレーザーを押し始める。
エネルギーの球がゆっくりと、しかし確実にジアースへと迫る。

6人は一斉に叫ぶ。究極のドラゴンはここにはいないが、この名前こそが、6本のレーザーに最も相応しい名前だと思った。





「「「「「「アルティメットバァァーーーーーーーーーーーーーーーーァストッ!!!」」」」」」




「ば、馬鹿な!」
この時、コイヅカは初めて狼狽する。エネルギーの球が目の前にまで迫ってきている。
対抗する手段は……ない────

アルティメットバーストがジアースに炸裂した。余りの衝撃に後方へ吹き飛ぶジアース。

「そんな馬鹿なッ!」
コイヅカが再び叫ぶ。ジアースのレーザーは最強だと思い込んでいた。
それが、たった6人の手によって覆されるとは……

コイヅカの意識は暗転し、ピンク色の何かが見えたような気がした。それが何かは分からない。
ジアースのカメラが捉えた何かかもしれないし、コイヅカが見た幻かもしれない。

ジアースが仰向けに倒れ、アルティメットバーストが大爆発を引き起こす。
ジアースは、最初から完璧とは到底言えない完成度であったため、めきめきと亀裂が走る。

遊戯達6人は緊張しながら、大爆発の様子を見守る。

今までで最も大きいキノコ雲が生まれ、ジアースの周りは全て焼け野原と化した。
ジアースはしゅうしゅうと煙を発し、起き上がる気配がない。
当然だ。仲間達の力を結集させたアルティメットバースト。こいつを喰らって立ち上がれるわけがない。

それでも遊戯達はあらゆる可能性を考慮に入れ、警戒に警戒を重ねつつ、たっぷり5分間ジアースの様子を見る。

「……やった……んか……?」
唐突にひろゆきを声を出す。遊戯はそれを無視し、依然としてジアースを凝視している。

日吉の背中にぬるりと汗が流れた。果たして……本当にジアースを倒せたのか?
「完全に解体しないと安心できないわ……」
霊夢が日吉に言った。日吉は頷き、上空で静止する遊戯、博之、アリスに声をかける。

ブルーアイズはもう三体とも消失していた。時間が切れたのである。
そのためもうアルティメットバーストを放つ事は出来ない。しかし、ぼろぼろのジアースを解体するだけなら簡単に出来るはず。


ジアースが倒れ、辺りは不気味なほどに静まり返っている。
戦力を持つ、つかさ以外の五人は慎重にジアースへと近づく。

「……いい? 一斉に行きましょう」
霊夢が小さな声で言った。隣の日吉は額に汗をにじませつつ、頷く。
遊戯と博之、そしてアリスも霊夢の意図を読み取り、静かにジアースへと迫る。

霊夢はふわりと浮き、空中からジアースへと迫る。ジアースはしゅうしゅうと音を立てて不気味に横たわっていた。
今のところ、動く気配はない。霊夢は自身の心臓の鼓動が急速に高鳴っていくことに気づく。
霊夢だけではない。この場に居合わす6人全員、心臓が張り裂けそうなほどのプレッシャーを感じていた。

日吉は地上から、他の4人は空中から、次第次第に距離を詰めていく────

 ▼ ▼ ▼
つつ、ここは……どこだ……?

場面は変わり、ここはD-2の川、幼女となった遊戯が倒れた体を起こし辺りを見渡す。
確か、俺と古泉はハルヒの護衛を永琳に任せて、待機していたんだ……脅されて仕方なく。
しかし周りには遊戯以外誰もいない。遊戯はしばらく考え仮説を立てる。

おそらくあの巨大ロボットに、俺は吹き飛ばされたのだろう。そうに違いない。
偶然川に落ちて何とか事なきを得たってところか……
古泉やハルヒの安否はどうでもいいが、正直言って永琳は少し気になる。
俺達の事を気にかけていた。敵とはいえ、もしかしたら悪い人間ではないのかもしれない……

遊戯はポケットの中に手を突っ込み、カードを二枚引き抜く。
魔導戦士ブレイカーとバーサーカーソウル。いいカードだ。
ブレイカーの方は永琳が遊戯の事を気遣い、古泉とハルヒに内緒でこっそりと渡してくれたのだ。
バーサーカーソウルは、ハルヒが気まぐれなのか知らないが、普通に渡してくれた。
恐らく魔法カード1枚渡してもどうと言う事はない、との判断だろう。裏に妙な落書きがあるのが少し気になる。

遊戯は立ち上がり、ふと気付く。何もないかと思っていたが、何か妙なものがある。
ピンク色をした機械。半壊状態だ。あれは……車か?

遊戯は警戒しつつ車らしき物体に近づく。中に誰かいる。

「ああん?最近だらしねぇな?」

何故か外国人の片言が聞こえてきた。どうでもいい事だがなかなか日本語がうまい。
その筋骨隆々の男が、ピエロのようなものを担ぎ車から出てきた。ピエロはぼろぼろだった。
死んでいるのかもしれない。

遊戯はしばらくそのピエロを観察し、気づいた。あれはピエモンだ!
遊戯は、怒りよりも先に違和感を感じる。
何故殺し合いの主催者がこんな所で瀕死になっているんだ?

遊戯自身はもちろん知らない事だが、コイヅカがアルティメットバーストを喰らい倒れる瞬間に見たピンク色の物、それはピエモンの乗る痛車だった。
つまりピエモンはジアースに押しつぶされたのである。
驚くべきは痛車、ジアースに潰されたにもかかわらず半壊に留めている。
もしかしたらまだ走るかも……

遊戯の頭の中にはしばらく疑問符が浮かんでいたが、やがて怒りを感じてくる。

「そいつをこっちに渡せ!」
遊戯はパンツ一丁の男に向かって叫んだ。男は軽く微笑み、首を振った。
「ああん?なんで?」
「頼む……!お前が誰かは知らないが、そのピエロは俺達がひたすら探し続けていた宿敵だ。頼む!」
「仕方ないね」
男は納得し、ピエモンを地面に下ろした。それにしてもなんて凄まじい筋肉だ。
兄貴と言うあだ名が似あいそうだな……遊戯は何故かそんな事を考えた。

「もう終わりだぁ」
兄貴はピエモンの悲惨な状態を見て頭を抱えた。
そういえばこの男は何なんだろう、主催者の仲間だろうか、そうではないような気がする。

遊戯はピエモンを念入りに調べ、まだ微かに息がある事を確認した。
全く……しぶとい奴だ。さっさと止めを刺しても良かったが、遊戯はある事が気になり、殺さない事にした。

続いて痛車を調べる。中にはアシストフィギュアという名前のカプセルが二つあった。附属されている説明書を読む。
……なるほど、ニコニコオールスターというのはよく分からないが、
とにかくこれを使えば脳裏に描いた人物像に近いキャラクターが助けに来てくれるらしい。
恐らくピエモンはこのカプセルを使い、兄貴を呼んだのだろう。
ピエモンが絶体絶命のピンチの時に思い描いたキャラがこの男か……

「ナウい息子」
遊戯は兄貴のガチムチっぷりを見て複雑な気持ちになった。ピエモンは何を考えていたのだろう……

待てよ……!いい事を思いついたぞ!城之内君を呼べば……!
遊戯はカプセルを投げ、叩き割る。一瞬辺りが瞬き、何かがカプセルから飛び出た。

「Wii……ああ……Wii……売れすぎ……(PS3)売れろ……」

何故か飛び出て来たのは、城之内ではなく凄まじい形相をした闇人格のマリクだった。
どうやら狙い通りの人物が出てくるわけではないらしい。遊戯は落胆した。

「ああ……!! ここはどこだ?どうなってやがる王?様よぉ!」
「ひびるわぁ!」
兄貴は突然出現した顔芸に大いに驚いている様子。着々と変人が増えていき、遊戯はもう嫌になってきた。

まあ……いい。マリクでも不可能な事ではない。

「貴様ぁ! どこなんだここは、ほら何とか言ってくれよ王……?様」
マリクが執拗に尋ねてくる。まあいきなり呼ばれたら誰だって動揺するだろう。
「マリク、お前マジ意味☆不明」
ここで簡単に答えたら負けだ。さらなる混乱へマリクを叩き落とす。どうせ時間が過ぎたらマリクや兄貴は元の世界に戻るのだ。
別に騙したって構わないだろう。こっちは命がかかっている。

マリクがちっと舌を鳴らす。まあ当然だろうな。それにしてもいつになったら俺が女になっている事について突っ込むんだ?

「マリク!貴様のデュエルディスクをこっちに渡せ!」
「?????????」
「どうゆう事なの……」

マリクはおろか、兄貴までポカーンとしている。しかし俺達が助かるためだ。俺は容赦しない。
遊戯は、マリクが出現した時からずっと兄貴の様子がおかしい事に気づいていた。
挑戦的な瞳でマリクを見つめ(何故かケツの辺りを重点的に)時たまにやりと口角を吊り上げるのだ。
兄貴は恐らくマリクの事が気に入らないのだ。何故かは知らないが、まああの悪人顔を見てマリクの事を気にいる人間など皆無だろう。

「兄貴! マリクからデュエルディスクを奪ってくれ!」
「何ぃッ!」

遊戯の言葉と共に、兄貴が猛然とマリクに飛びかかる。マリクは持っていた千年ロッドで兄貴を殴りにかかる。
しかし、兄貴はそれを簡単に受け止める。

「何気に強いですね」
「遊戯ィ! どういう事だこれは!?」
「黙れ! 貴様がした悪行、俺は忘れてはいないぜ!」

「アッーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」


マリクはデュエルディスクを残して消えた。元の世界に帰ったらしい。
満足そうな兄貴を尻目に遊戯はマリクのデュエルディスクを拾う。
マリクのデッキから魔法カードとトラップカードを全て抜き、捨てる。
そしてモンスターカードだけになったデッキをデュエルディスクに戻し、一番上に魔導戦士ブレイカーとバーサーカーソウルを置く。
俗に言う積み込みである。

「マリクの……カードを奪ったところで……使えんぞ……この会場用の設定をしないと…モンスターは実体化しない……」
息も絶え絶えピエモンが目を覚ました。
「それでも、捨てる事は出来るはずだ……そうだろう?」
ピエモンは遊戯を睨み、押し黙った。肯定の意味らしい。



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最終更新:2010年03月18日 12:15