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そして誰もいなくなるか? ◆jVERyrq1dU





「馬鹿……! 馬鹿……!」
彦麿の叫びはアリスに届いていた。それ故に、アリスは泣く。走りながら泣く。

「もうええぞ……アリス、って言ったな……確か」
博之がそっと言う。アリスの持っていたハルヒの腕を完食し、博之はぬらりと立ち上がった。


初めのうちはただ気持ち悪かった。途中から体に力が漲ってきた。
最後まで食べ終わると体は完全に、とは言わないがかなりのところまで回復していた。

食人、俺は生き残ったとしても、食人をしたという罪を永遠に背負っていかなければならないだろう……
それでも構わない。俺はそれでも生きたい……!


「ど、どうする気? 私は何をすればいいの?」
アリスが心配そうに言う。博之はそんなアリスをちらりと見て、下がってろと言った。

「お願いだから……倒してね……」
「ああ、任しとけ……」
アリスは博之に懇願する。この戦いで彼女の親しい知り合いは沢山死んでしまった。さぞ辛い事だろう。

博之は蛾の形態に戻り、口に炎を貯める。例のカオス光線だ。

これで終わり……あのロボットは……

アリスが両手を握りしめ、祈る。勝利を祈る。
彼女にはもはやただ祈ることしか出来ない。スターシップも壊れ、魔力も枯れてしまった。
もう彼女に出来る事は何もない。

主催者め……喰らえ……!
これが俺達の最後の攻撃……!!


ジアースが何かしらの危機を感じ取ったのだろう。蹴りを繰り出してきた。
それとほぼ同時に、博之は火を噴いた。ブルーアイズをも超える光線は真っ直ぐにジアースへと直行する。

何故かスローモーションで世界が進行しているのに博之は気づいた。
人は死に際になったらアドレナリンが過剰に分泌され、時間がゆっくり進むように見えるようになるらしい。

────これがそれか…………………………………


「やった…………………」
アリスのか細い声が博之に届いた。やった、という事は、やったという事なのか?
あの巨大ロボットはどうなった…………

「良かった……やったわ…………博之……」

ちょう待て、やったってどういう事なんぞ……あの巨大ロボットは壊れたっていう事なんか?
あれ? おかしいぞこれは……なんでなんも見えんのぞ……おかしいぞ、俺やってロボットがどうなったんか見たいのに……
なんで目の前が真っ白になっとるんぞ……これって……これってまるで…………死んどるみたいやないか…


博之の意識が暗転する。博之はどうやら帰って来れぬ場所へ旅立ってしまうようだ。
原因は何かわからない。カオス光線によって体が壊れたのかもしれないし、ハルヒの死体が何か悪い方向に働いたのかもしれない。

博之が懸命に目を凝らすと、何かが見えてきた。
どんどん明瞭になっていく。どうして、これが見えるんだろう。そういえばさっきも幻で見た。
どうして同じ幻を二回も見なければならないんだ?

博之が見た最後の光景────それは、にんまりと笑ったハルヒの顔だった。
ハルヒと目が合った。笑顔の裏に、何か醜悪なものが潜んでいる。間違いなく。
それが博之の見た最後の光景だった────



「博之……」

アリスは動かなくなった博之を見つめる。この人も、死んでしまった……
残ったのは私だけ……数々の犠牲を払った。皆皆死んでいった。命を賭けて戦って、そして散って行った。

アリスから少し離れた場所に、壊れたジアースの上半身が横たわっていた。
博之のカオス光線はジアースの腹の部分に命中し、ジアースの体を真っ二つに叩き割ったのだ。
遠く離れた所にジアースの下半身が落ちていた。もはやどうでもいい事だが……

倒した……とにかく倒した……いっぱい死んだけど、残りは私一人だけど……勝利した。
アリスは博之の体に手を当て、涙を流した。悲しみの涙というよりは、安堵の涙。

生き残った。私はなんとしても幻想郷に帰って、彦麿の言うとおり幸せな生活を楽しむとしよう。絶対にだ。

「もういいでしょ………? もう帰しなさいよ……もう殺し合いはごめんなのよ……」

誰に言うでもなく、アリスは呟く。もうそろそろ解放されてもいいだろう。
ここまで頑張ったんだから……もうお終いにしてよ……


しばらくぶつぶつと言い続けた後、アリスはふらりと博之から離れる。
あの城に行ってみよう。あそこには必ず何かがあるはず……どうにかしてこの空間を脱出してやる。

ふらふらと歩き始める。アリスの周りは全てこれまでの戦闘によって焼け野原と化していた。
生き残るという強い思いがもぎ取った価値ある勝利。私はこれから死んでいった皆の命を背負って生きていかなければならない。

「…………」

アリスは疲れ切った、悲しい表情のまま、戦場を後にする。
もう何もかもが嫌になってしまった。









────ガシャ────









アリスは物音がした方向に瞬時に視線を向ける。物音の音源を探る。

なんだ……ロボットの破片か……

見ると、ロボットのパーツの一部が転がっていた。かなり大きいパーツだ。そりゃああんな音がするだろう。
アリスは踵を返し、再び歩き始める。


何かがアリスの頭に引っ掛かる。何かを見過ごしているような気がしてならない。
この妙な感覚……これは……?

思い返してみる。

ロボットの大きなパーツが転がり、ガシャ、という音がした。
私はその音に驚き、視線を転じた。何も、おかしな事なんてないじゃない……


い、いや……待って。あ、あの大きなパーツ……人間よりも大きそうな部品……
────あれは誰が動かしたの……?


アリスの視界の端で、ジアースの肘までしか残っていない左腕がふいに持ち上がる。

「あ、あああ…………!!」
ジアースが頭を振るい、アリスの方へと視線を向ける。

「ああ……あああああああああ……!!」
もはや声も出ない。足も動かない。
ジアースが肘までの左腕を高く掲げ、天地を揺るがすような唸り声を上げる。

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

アリスへとビリビリと声が届く。アリスはこれ以上ないくらいの恐怖に襲われた。

「ああ……!! 逃げなきゃ!! あああああ!!!」
アリスはふらふらとよろめきながら、負傷しきった身体を必死に動かし、ジアースから逃げる。

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
アリスのすぐ背後で、ジアースが唸りを上げて追いかけてくる。

ジアースの左腕が上がり、地面に振り下ろされる。
それを地面につけたまま後方へと動かし、ジアースはほふく前進の要領でアリスを追いかける。
短い左腕で地面を漕ぎ、ジアースがずりずりと迫って来る。

「ひぃっ! ひぃっ……!」

ああああ! どうすればいいのよ……!! どうしたらいいのよ彦麿!
どうしたらどうしたらどうしたらどうしたらどうしたらどうしたら────

「ああ!」
ジアースが巻き上げた石が、アリスの片足にぶち当たった。その衝撃に耐えきれず、アリスは顔から地面に倒れる。
しかし倒れている暇などない。アリスは鼻血を流しつつすぐに立ち上がり、逃走を再開する。
片足を負傷したせいで上手く走れない。足を引きずりながらアリスは逃げる────


「殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる」
ジアースから声が聞こえてきた。わざわざマイクを使ってまで言いたいのか……そんな事を……

「うう……ううう…」
コイヅカの呪文のような呟きに、アリスの恐怖心は限界を超えた。
涙を流し、失禁する。それでも足は止めない。
すぐ後ろからは、ガッシャンガッシャンとジアースが迫る音が聞こえてくる。

アリスは逃げ続ける。前の方に何かが見えてきた。
あれは何なんだろう……そもそもここはどこなのか……

「ああああ! 助けて!!」
アリスに選択肢はない。無我夢中で前方に見えた何かに向かって足を動かす。

すぐ後ろで地面が破裂する。ジアースの左腕が振り下ろされたのだ。
もうすぐ後ろ、次の瞬間にはジアースに止めを刺されているのだろう。


前方に見えた何かはNice boatの残骸だった。アリスは迷わずNice boatの中に逃げ込む。
Nice boatは燃えていた。中は凄まじく熱い。しかしアリスは熱さなどすでに意識の埒外。
Nice boatの中でそっと息を潜め、窓からジアースの様子を窺う。

「ギャアアアアア!!!」
ジアースの左腕がNice boatに振り下ろされる。アリスのいる空間の天井がその一撃で拉げる。
天井に隙間が開き、ジアースの顔が見えた。

「うう………」
アリスは恐怖で体を小さく折りたたみ、必死に耐える。

そのため、なかなか気付けなかった。ジアースの頭部にあるコックピット部分────
アリスがスターシップに乗って、執拗に撃ち続けた箇所だ。ジアースはぼろぼろだが、コックピット部分は格別ひどい。
恐らく日吉のGENKI-DAMA、そして博之のカオス光線によってさらに傷ついたのだろう。


ふと、アリスはNice boatの床に落ちているRPG-7を見つけた。恐らくレナがつかさに授けようとしたものだろう。
確かあれは……引き金を引けばミサイルみたいなものを打てる武器だ。城での情報交換のときに確かに聞いた。
アリスは涙を拭う。相変わらず怖い。さっさと逃げ出したい。

でも────


アリスの脳裏に仲間達の姿が映し出される。カービィ、日吉、つかさ、レナ、霊夢、博之、遊戯、そして彦麿……
ここで怖いと言って逃げるなんて……皆が許してくれるわけない。


「ううう…………」
アリスは再び流れていた涙を拭い、RPG-7を天井に空いた隙間に向けて構える。
ジアースがこちらを覗いた時がチャンスだ。

怖い……怖すぎる……だけど……

悲鳴を圧し殺し、アリスは待つ。チャンスは一度────


永遠とも思えるような時間が流れ、ジアースの頭部がついに────

                         ────アリスの視界に映る。


「ああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


無我夢中でアリスは引き金を引いた。小気味いい発射音が響き、弾はジアースへと……命中する。

何かが砕けるような音がした。しかし、ジアースは倒れない。

突き詰めて言えば、ただなんとなく、それほど微かな予感だった。
アリスはRPG-7を担いだまま床を転がり、Nice boatの外へ躍り出る。
その直後、ジアースの左腕がNice boatを完全に潰した。

「ハァッ! ハァッ!」

もはや策などない。アリスの思考は停止し、ジアースの正面に走り出る。

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
ジアースは咆哮を上げる。まるで怒っているようだ。

「ああっ!」
アリスは再びRPG-7の引き金を引く。次の瞬間、ジアースの頭部に弾がぶち当たり、大爆発を起こした。

ジアースが左腕で横薙ぎする。アリスは咄嗟の判断で地面に伏せる。
すぐ上をジアースの腕が風を切り、猛烈なスピードで通過して行った。

しかしジアースの攻撃は終わらない。返してきた腕で今度こそアリスの命を狙う。

アリスは地面に伏せたまま、三発目を放つ。今度も上手く当たった。
お願いお願いだからもう死んで……!!

それでもジアースは止まらない。

結果から言うとアリスは幸運だった。
地面に伏せている得物を狙うにはジアースは巨大すぎる。上手く当たるわけがない。
おまけにジアースの攻撃は横薙ぎ。その攻撃はアリスには命中せず、地面を抉るのに終わった。

だが、アリスへの攻撃としてはそれで充分と言えば充分。
地面を抉った際に生まれた石礫が立ち上がり、逃げるアリスを襲う。アリスに数個の石が被弾し、倒れる。
倒れる際にRPG-7から手を放してしまった……

ジアースが左腕を振り上げる。今度は横薙ぎではない。アリスの脳天に腕を振り下ろし、潰すつもりのようだ。

もはやアリスは本能だけで戦っていた。必死にRPG-7へと腕を伸ばす。ジアースの攻撃が迫る。
アリスは最後の力を振り絞り、RPG-7へと飛びついた。そのまま砲口をジアースのコックピットへ向ける。
しかし、すでにもう遅かった。アリスの目の前にまでジアースの左腕は迫っていた。


「うう……成仏、、しろよ」


どうしてこんな台詞が出てきたのかはアリス自身もよく分からない。ただ、ふいに出てきた。
ジアースの攻撃が目の前に迫っているというのに、何故か驚くほどクリアな声が出た。
理由はよく分からない。とにかく、アリスは四度目の引き金を引く。

弾がジアースの腕をすり抜け、頭部へと疾走する。眼の前に腕が迫る。
コックピットに弾が命中し、大爆発が起こる。腕が突き刺さる。

一瞬の出来事が何時間にも感じられる。これが現実の事だとは思えなかった。

ジアースはついにボディ全体が弾け、凄まじい大爆発を起こす。キノコ雲が発生し、アリスの顔にぱらぱらと塵が当たる。
巻き上げた埃の量は物凄い。主催者の本気、切り札。それがついに砕け散ったのだ。
しかし、アリスにはいまいちその実感がわかなかった。


アリスは唇をわなわなと震わせながら、自分の隣を見る。ジアースの左腕が地面に突き刺さっていた。
あと数センチずれていれば……アリスは身を震わせる。
体を引き起こし、地面に座る。もう立てない……立ちたくない。

「………………………」
見ればわかる。ジアースは完全に機能を停止させていた。
今までのような感じではない。正真正銘、ジアースを倒した。

「うう………」
アリスの目から再び涙が流れ落ちる。安心し、気を抜いたためだろう。

「生きて帰れる……生きて帰れる……」


……終わったんだ……

しばらくアリスは呆けていた。ジアースを倒したという達成感、そんな物はあまりない。ただ安心した。それだけだ。
辺りを見渡す。どこをどう見ても、360度全て焼け野原。まるで怪獣映画のようだ。
アリスはパンパンと服を叩き、埃を落とす。

生きている……私は……それが何よりも嬉しかった。
彦麿の最後の言葉を思い出す。一緒に過ごしていた時間は長いとはいえ、好きなわけではない。
そうだ、そのはずだ。だけど、それでも、彦麿の死は恐ろしいほどに辛かったし、最後にかけてくれた言葉はアリスを素直に励ましてくれた。

そうだ、彦麿の言う通りよ……幸せに……生きないと……




パンッ!



「あ……………………………………………………………………………………………………………………………」

何が起きたのかよく分からない。これが現実の事なのかも判別つかない。もしかした悪い夢なのかもしれない。
ジアースはもう動かなくなったはずなのに。アリスは何とはなしに胸に手を当てる。赤い液体がとめどなく流れ出ていた。

嘘よね? だってジアースは破壊したじゃない……

「…………嘘よ…」
そう言い残し、アリスはべしゃりと地面に横たわる。赤い液体がアリスから溢れ、地面を染めていく。
その液体が流れ出ていけばいくほど、アリスの意識は次第次第に薄らいでいく。

アリスは、未だにこれが現実に起きた事だと信じられなかった。



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