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明日の勇気 受け継ぐ者(前編) ◆jVERyrq1dU




霊夢がチームから抜けた事により、俺の悩みは一層強く、強くなったってヴぁ。
何せここで暴れたら、多分チームの主導権を得られるってヴぁ。厄介なのは日吉とレナくらい。
二人ならなんとかなるかもしれなぶるぁ。

実の所、俺は相当迷っていた。このままピエモン様に従い、対主催連中に協力していいものか、決めかねていた。
俺は対主催なんて心底どうでもいい。俺が興味あるのは、ピエモン様とマルク様、二人の主君をどう満足させるかについてだけだ。
勿論、ピエモン様の方が付き合いが長いので、どちらかというと、ピエモン様に従うべきなのだが。
今回ばかりは……

ピエモン様は、マルク様がけしかけたジアースに踏まれたと言っていたが、それは本当なのだろうか。
マルク様はいい人だ。それに裏切る素振りなんて今まで一切見ていない。
こう言ってはなんだが、ピエモン様の話を聞いても全く納得できないのだ。
ピエモン様の話は、明らかに論理的に破綻している。マルク様が犯人だと頭から決め付けているような気配すら窺える。

だからこそ、俺はおそらく一番弱いであろう遊戯を人質にとって、チームの主導権を握ろうと考えた。
そして、ピエモン様にじっくりと話を聞き、事の真偽を、『納得できるまで』聞く。
もしかしたら、ピエモン様は勘違いしているのでは……このままでは、この類の疑念が絶え間なく生じ続けてしまう。
マルク様は殺さなければならない敵、と言われても納得できるか!

俺が、決心しかけたその直前、とんでもない事が起こった。
俺は忘れていたってヴぁ。レナと遊戯。二人は色んな意味でハイスペックなのだぶるぁああああ
先を越されたぁああああああああああああああああ!!!

▼ ▼ ▼

暗闇の中を疾走するオンボロ車が一台。
今までずっと運転手を務めていた水色の男はついさっき、唐突に掻き消え、今はアイスデビモンがハンドルを握っている。
助手席は遊戯が陣取り、彼の膝の上にちょこんと座るピエモンの首筋には、
アイスデビモンの裏切りを防ぐため、包丁が押し当てられている。
ピエモンは冷や汗を流しながら包丁を覗き見る。アイスデビモンも気が気ではない。

「当然だろ」

遊戯が唐突に口を開いた。そう、これは当然の処置。
いくら仲間になったとはいえ、ピエモンとレナ達は決定的に対立している。
そもそも最終的な目的が違う。レナ達の目的はこの殺し合いの場から生きて脱出する事なのだが、
ピエモンはそうではない。この残虐なゲームを開いた大本の目的。マルクを殺した後、
おそらくピエモンはその目的を実現させるため、レナ達に反旗を翻す。
加えて言うと、霊夢がチームから抜けた今、アイスデビモンに暴れられては非常に厄介である。
充分な強さを誇るアイスデビモンの行動によっては、ピエモンに主導権を握られかねない。ピエモンにとって、レナ達は本当にどうでもいい存在。
彼が主導権を握れば、レナ達をマルク打倒のための捨て駒として扱う事だって充分考えられる。

上記の思惑から、霊夢が消えた直後、レナはピエモンを常に脅し続ける事を、彼らにばれないように遊戯と日吉に密かに提案した。
日吉は微妙に乗り気ではなかったが、遊戯は即座に同意を示し、ピエモンの『脅し役』を務める事を申し出た。
このような過程を経て、現在に至る。


「つかさはいないってヴぁ。もう何時間も探したのに」
「……もういい加減諦めたらどうだ? どうせあんな小娘、戦力にならんだろう?」

ピエモンとアイスデビモンが苦言を呈する。今まではこんな扱いを受けていなかったので、イライラしているのだろう。
遊戯はほんの少しだけ包丁を持つ手に力を込めた。

「いいよ遊戯君。一々攻撃的な態度に出てたら、いつまで経っても協力し合えない」
「協力し合いたいならこのもみじ頭をなんとかしろ」
レナは、反論に出たピエモンをバックミラー越しに強く睨む。

「これは私達に出来る最大の譲歩だよ、ピーちゃん。私達は貴方を絶対に許しはしないし、貴方だって私達の事なんか何とも思っていない。
 ただ都合がいいからお互いがお互いを利用しているだけ。そうだよね……?」
レナは静かに言葉を紡ぎ始める。ピエモンは、負けじとレナを睨み返す。

「霊夢ちゃんがいなくなった今、アイスデビモンの戦闘力は私達にとっても脅威なの……
 油断していると、いつ後ろから襲い掛かられるか分からない。アイスデビモンの裏切りによって、ピーちゃんがもしチームの主導権を握れば、
 きっと私達は奴隷のように扱われる。ただマルクを殺すためだけの道具として……こんな殺し合いを開いた主催者だもん。
 そうなる事は目に見えてる」

レナは姿勢を直し、強く言い放つ。

「私達の目的は、生きてここから脱出する事。正直に言えば、ピーちゃんなんていらない。
 情報だけ聞き出して、殺しても良かった。というより……」
「……殺したい……!」
レナの言葉を遮り、日吉が語気を強めて言う。レナはその言葉を聞き、深く頷いた。

「殺したい……私も、日吉君も、遊戯君も……この殺し合いに参加させられた全ての人間は貴方を殺したい……!」

レナの目の色が変わっていく。冷静そのものだった瞳に、殺意の色が浮かび上がっていく。
レナは咄嗟に俯き、何度か深く呼吸すると、再び顔を持ち上げた。その顔からは、すでに殺意は掻き消えていた。
今までと変わらぬ、『打開』を目指す決意ある瞳。

「だけど殺すわけにはいかない。そんな事したら主催者達と同じだよ。
 それにピーちゃんは情報だけじゃなく、色々と役に立つ。
 例えば、そこにいるアイスデビモンだって、ピーちゃんを生かしてなかったら協力してくれなかった……」
「俺は……!」
アイスデビモンが不意に声を上げる。レナ達は彼に視線を向けたが、アイスデビモンの次の言葉はいつまで経っても発せられなかった。
「何でもないぶるぁ」

レナの両目が細く細く、鋭く鋭く、変わり、アイスデビモンの背中を数秒間凝視した。
日吉はそんなレナの様子を不審に思ったが、声は出さなかった。

「だから、これは私達に出来る最大の譲歩だよ。安心して。マルクは倒すよ。
 私達に素直に協力すればピーちゃんは死なないし、全てが終わったら開放してあげる」
「こんな脅しながら協力しろだと!貴様ら私に向かってそんな態度をとるようなら────」
「────殺すぞ。これは当たり前だ。今まで優しくしてたのは、
 こちらの戦力があんた達に比べて圧倒的だったからだよ。でも、状況は変わった。」
遊戯が突然口を開いた。包丁をピエモンの首に押し当てる。ピエモンは短く悲鳴を上げた。

「やっぱり……ビーちゃんは勘違いしてる。ボク達があんたに協力するんじゃない。あんたが僕達に協力するんだ
 その報酬として、マルクを殺す手伝いをしてやる」
「それにしても包丁で脅すのはやり過ぎってヴぁ!お前らには血も涙もないのかってヴぁぁぁぁぁ!!」

その言葉を聞いたとたん、レナは座席から立ち上がり、アイスデビモンの頭を掴んだ。

「あなたが、そんなこと言うのかな……誰よりも、一番血も涙もない事をしたのは誰なのかな……かな
 私達の友達を、仲間を……! 死に追いやったのは誰ッ!? 脅迫は当たり前だよ!立場はすでに逆転している!」

血相を変えてレナが叫ぶ。日吉も遊戯も、レナの暴走を止めようとはしない。ピエモンとアイスデビモンを睨みつけていた。

勝つために、出来る限りの事をしなければならない。

ピエモンにはマルクを殺した後、ノヴァを利用し、世界征服をするという悲願がある。
ノヴァはもう使えない事は分かっているが、ノヴァの持つオーバーテクノロジーの数々は大いに役に立つ。
ノヴァの超技術を利用して、ジアースを作り上げたのは紛れもなくピエモンなのだ。
ピエモンの野心という炎は、追い込まれきった今でも、ぎりぎり、掻き消えてはいない。

レナの怒りが静まり、大人しく座席に座った後、ピエモンは心の中で自問自答する。
マルクを殺した後、自分はどうするか? 勿論世界征服のため、暗躍する。世界征服は私の人生の悲願だ。
全てが終わった後、レナ達はどうする? もはや単なる邪魔者だ。出来るだけ消しておきたい。
もし今この場で、主導権をもてたらどうする? 勿論さっさとクッパ城へ向かう。そしてレナ達をマルクにぶつける。
つかさは役に立たないだろうから無視する。

(抜かったか…………!)

レナの類まれなる洞察力と先見性、そいつにやられた!
今まで慌しかったから、私は自分のこれからの身の振り方について全く考えてはいなかった。
そうなのだ。レナの言う通りなのだ。今は必要だが、最終的にはレナ達は私の敵となる。
レナの判断はすこぶる正しい! 私があと少し、これからの事について考えるのが早かったら、
アイスデビモンと協力してチームの主導権を得られていた!そうすればもっと私の都合のいいようにチームを動かせていたはずだ!
レナに先を越されてしまった。脅されていては、私は何も出来ない!

ただ、いい事もある。というより、このいい事、メリットに惹かれて、レナ達と同盟を結んだのだ。
マルクを楽に消せる。私がこのまま何も抵抗せずに、奴らの思うままに協力してやれば、遅かれ早かれマルクは死んでくれる。
今思い返すと、やはりアイスデビモンと協力してチームの主導権を握るのがベストだった。しかし、今の状況でも悪くないかもしれない。
他でもないレナが、素直に言う事を聞けば後で開放してやる、と言ったのだ。素直に言う事を聞いていればマルクは死ぬし私も助かる。
レナは頭がいいから、私が主導権を握らない方が、むしろいいのかもしれない……
私が彼らに素直に従えば、今までどおり、表面上は好意的に接してくれるだろう。

ピエモンは再び包丁を覗き見る。

そんな風に……納得するしかないか……。

確かに、理屈で考えると、今の状況は私にとって案外好ましい。
しかし、しかしだ。世界征服する者がこんな辱めを受けていいのか!?
私は、私は出来れば、チームのリーダーとなり、奴らをこき使いたい!命令して私の好きなように動かしたい!
いつか……なんとかして……主導権を奪い返せないものか……なんとかして……なんとかして!

ああ、それを防ぐための『包丁』か……おのれレナに遊戯め……図ってくれたな。


「どうするんだってヴぁ。塔に着いちまったぶるぁ」
レナ達は塔を目指しながら、つかさを探していた。しかし、見つける前に先に塔についてしまった。
アイスデビモンが情けない声を上げる。主君が隣で、包丁を押し当てられているのだ。慌てるのも無理はない。

「レナ。暗視ゴーグル着けて窓から外をずっと睨んでた。だが人っ子一人見当たらねえ……!」
「ボクも見てた。暗いから分かりにくいけど……だけど誰も見つけられなかった」
遊戯と日吉がレナに告げる。レナは二人に、私も見つけられなかったと告げ、顎に手を当て思索に耽る。

「何を考える必要がある。つかさはいなかったんだ、仕方ない。だからさっさと電車に乗って城へ」
「黙ってろよビーちゃん。偉そうな口調は、自分の首を絞めることになるよ?」

三度包丁を突きつける。しかしピエモンはさっきまでとは打って変わり、涼しい顔をしている。
私の持つ情報は奴らにとって必要不可欠だ。めったな事では殺すわけがない。
そう考えての判断だ。いずれ世界を支配する者として、惨めに見えるかもしれないが虚勢を張りたい。
自身のプライドを保つため、どうすればいいか考えた結論がそれである。勿論、出来るなら主導権を握りたいが……

「慌てるな遊戯。一つの意見として発言したまでだ。貴様らにとって都合が悪いなら聞き流してくれて構わんさ
 こういった意見でも、あって損する事はないだろう?」
ピエモンは遊戯の膝の上でふんぞり返る。幼女の姿なので一見可愛く見えるところが、一層鬱陶しさを引き立てている。

「お前らはつかさに固執してるけど、現実問題そんな時間なんてないぶるぁ。見ろ!」
アイスデビモンがかつて塔であった残骸を指差す。
「この瓦礫の山の中から、駅に続く道を掘り当てるなんて……めちゃくちゃ時間かかるってヴぁ!
 マルクは一杯兵器を擁してるから、城のシステムが復旧したら一巻の終わりだぶるぁああああああ!!」
「やかましい!」

日吉とアイスデビモンの言い争いを尻目に、レナは思考する。

つかさはどこにいるのだろう。日吉の話では、つかさは例の巨大ロボットから離れてどこかへ駆けて行ったと言う。
日吉の推測だが、おそらく彦麿がつかさに何事かを命じたらしい。

死んでいる可能性も……信じたくないがある。ジアースから離れていったので、ジアースに殺されたとは考えにくいのだが。
死んでいるとすれば、行方が分からない古泉が殺した可能性が濃厚か……
永琳はジアース戦の後、ずっと遊戯といたのだからつかさを殺す事は出来ない。

しかし、古泉はただの人間。勿論つかさもただの人間だが、彼女には強力すぎる仲間がついていた。
ことのはさんだ。古泉もそう簡単には殺せないはず。つかさだって、もし殺されそうになったら逃げるだろう。
ことのはさんが持つ技なら簡単に────

この瞬間、レナに電流走る────

言い争う日吉とアイスデビモンを無視して、レナは車から外へ出る。
そして天を仰いだ。事情の知らない遊戯が不思議そうにレナを見つめる。

「アイスデビモン! 車のライト、点けて!」
「馬鹿な事言うなってヴぁ!そんなもん点けたら古泉やマルクにこっちの居場所が分かるってヴぁあああああ!」
「だからやかましい!お前の声でばれるだろうが」

レナは短く、大丈夫と言い、車の座席から布を引き千切る。それを使い、車のライトを覆い隠した。
次にレナは遊戯から王者の剣を受け取り、アイスデビモンにライトを点けるようにもう一度言った。

「覆い隠したら意味ないだろぶるぁ」
そう言いながらも、アイスデビモンはライトを点ける。

レナは布の内側で、王者の剣に光を当てる。剣は光を反射し、輝き始める。
布の上端をそっと開き、真っ暗闇の天に向かって剣に反射した光を放つ。

キラッ☆ キラッ☆

何度も何度も、時間をかけて根気強く光を放ち続ける。
日吉が納得したような晴れやかな表情を見せ、空を仰ぎ見る。

ことのはさんと関わったレナ、もしくは日吉にしか分からない事。そう、つかさはたった今──空にいる。
ことのはの技を応用すれば、効率よく移動できる。無論、荒業な事は否めないが、一刻を争う今ならそんな行為に走ってもおかしくはない。
レナが空に向かって光を放ったのは、空にいると思われるつかさとことのはに合図するためだ。
何も見えない暗闇、明かりなしに空から何かを見つける事なんて至難の業だ。
故に、レナは合図した。つかさが空にいるという確証はない。ともすれば、古泉やマルクにこちらの居場所を知らせかねない暴挙。
所謂賭け。結果、レナはその賭けに勝利する事となる。


「きゃああああああああああああああああああ────」

余りに唐突な出来事に、ピエモンがあっと驚く。遊戯やアイスデビモンも似たような反応を示す。
なんとつかさが空から降ってきた。ことのはさんに抱えられたまま────

「うおわっ!!」
絶対に死んだだろ、というような耳障りな音が響き、ことのはとつかさが着地する。
あたりには砂埃が立ちこめ、しばらくすると、つかさが嬉しそうな表情で駆け寄ってきた。
あまりにぴんぴんしているので逆に不気味だ。その後ろに不気味の象徴、ことのはが亡霊のように着いて来ている。

「つかさちゃん!」
「つかさ!」
レナと日吉が笑顔で迎える。遊戯はピエモンの件で動けない。
つかさはまた涙目になり、つかさ、レナ、日吉、遊戯の四人は再会を喜び合った。

「レナちゃん! 良かった……無事で……!」
「大丈夫だよ……大丈夫……」

船で別れて、それっきりだったお互いの生存を確認でき、とても嬉しい。
つかさはレナを強く強く抱きしめる。レナもまた、強く強く抱きしめる。

再開の喜びも醒めないまま、つかさはある違和感に気づいた。
嬉しそうな表情が一変し、恐怖の色に染まる。

「どうして……?」
つかさはピエモン、そしてアイスデビモンに視線を向けて静かに呟く。
遊戯はばつが悪そうに包丁を構えなおした。

「利用出来るものは何でも利用しないとね。こいつらが持つ情報や、主催者としての権限は、僕たちにとって物凄く魅力的だ。
 運良くこいつらを脅迫出来る機会があったから、こうして協力してもらってるのさ。一方的にね」
「…………」
つかさは無言でピエモンを睨みつける。そして、持っているロールバスターに視線を移す。
あいつの所為で、お姉ちゃんは……

「おっと、やめろよ……? 殺したいのは誰だって同じだ。だが、我慢しなけりゃ駄目な時だってある。
 少し前までのお前にはそれが分からなかったが……今のお前なら分かるだろ?」
ピエモンへと一歩踏み出したつかさの前に、日吉が仁王立ちする。

つかさは一瞬、視線を下へ向け、そしてすぐに前を向きなおした。

「そう、だよね……分かってます。勿論……我慢できます」
決意を持った表情できっぱりと言い放つ。それを見て、日吉ら三人はふっと表情を緩めた。
ピエモンのみ、表情は固いままだ。このままじゃいつ殺されるか分かったものではない。

決意、したからだろうか。つかさは、例の事をレナに伝える勇気を持てたような気がする。
ロボットとの死闘の間は、とてもじゃないが、こんな事を伝える余裕などなかった。
一刻も早く伝えたかったのに、なかなか伝えられなかったのは本当に申し訳ない。

「レナちゃん……」

恐る恐るレナに声をかける。レナは何かと思い、つかさを見つめる。
つかさはすでに涙目だった。レナにはその理由は分からない。つかさを心配し、あたふたする。

「ど、どうしたのかな……かな」

つかさは決意し、言葉を紡ぐ。多分謝って許される事ではない。
しかし、謝る以外に何をすればいいというのか……


「魅音ちゃんは……私が殺したの……」


薄々ながら予想していた事とはいえ、レナは頭を思い切りハンマーで殴られたかのような衝撃に襲われた。

「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……」

頭を下げ、大粒の涙をぽたぽた落としながら、つかさが謝罪する。
ただひたすら、レナに謝罪する。無論、謝って済まされることではない。
つかさは、ここでレナに殺されても仕方がない、そんな心境だった。ただただ、自身の過ちを悔い、レナに謝罪したかった。

レナはひたすら無言だった。つかさ以外、誰も口を開こうとはしない。
ただつかさの謝罪が聞こえてくるのみだ。

魅音を殺された。この女に……だけど……
レナは未だ謝り続けるつかさを一瞥し、彼女の手をとる。
レナもまた、いつの間にか大粒の涙を流していた。レナは決意する。

「私も……つかさちゃんと同じ。何の罪もない人を殺してしまったの……圭一君と外山さん……」
ううっ、とつかさの手を握ったまま、レナは泣き崩れる。
悔いても悔いても、未だ襲い来る罪悪感という魔物。雛見沢症候群を克服したレナとて、例外ではない。

「だけど私は決意した……! 命を懸けて罪滅ぼしするって……!
 圭一君に外山さん……みんなの意志を受け継いで私は強くなった……!」
「私も強くなりたいよ……!私も……!魅音ちゃんやいさじさん、おじいちゃん……それにゴマちゃん……!
私も……罪滅ぼししたいよ……!」
つかさの顔はもはや涙でぐしょぐしょだった。レナと同じように泣き崩れる。

死んでいった人達、殺してしまった人達を唯一救う方法、それは彼らの意志を受け継ぐしかないのではないか?
そうすれば、彼らの肉体は死んでも、魂は遺志を受け継いだ人間の中でいつまでも生き続ける。
強靭な意志で正義を貫く人間は不死だ。肉体的な意味ではなく、精神的な意味で。

「俺だって……あいつを見殺しにしたようなもんなんだぜ?」
日吉が唐突に言う。場の雰囲気のせいによるものかどうかは定かではないが、彼もまた薄っすら涙を湛えていた。
「僕だってさ……僕が関わった人間はみんな死んでいくんだ……僕の所為じゃないと分かってるけど、
たまに……僕の所為でみんな死んでいるのではないかと……思う時が……」


「魅ぃちゃんの事……絶対に忘れないで……!
忘れなければ貴方は強くなれる……!死んだ人を、殺した人を忘れさえしなければ……あなたはもう一人じゃない……!
私達の仲間だよ……!」


つかさの手を固く固く握り締める。つかさは涙を流しながら何度も何度も首を縦に振った。
少数派による運命の打開……この言葉を目標として誓い合ったレナの仲間達は全員死んでしまったが、
彼らの意志は、確かにここにいる四人の戦士に受け継がれている。
塔組だけではない。海馬や閣下、萃香、そして亜美、アリスに彦麿……まだまだ、まだまだ、死んでいった仲間達は大勢いる。

彼らの意志を受け継いでいる限り、竜宮レナは一人ではない。柊つかさは一人ではない。
日吉若は一人ではない。武藤遊戯は一人ではない。

彼らは四人ではない。数え切れない仲間達の、魂が彼らの中に宿っている。
受け継いだ彼らは、今まで死んでいった仲間達の誰よりも強い。


これで、ロワ会場に残る仲間達は全員この場に揃った事になる。
レナ、遊戯、日吉、つかさ。残りは城にいる霊夢、KASの二人。
合わせて六人。ニコロワ史上最強の六人。

レナは涙を拭き、ここまで生き残った四人を見回し、ピエモンに向けて言葉を投げかける。

「みんな揃ったよピーちゃん……そろそろ、色々、話を聞かせてもらうね……
 クッパ城の構造、擁している兵器や兵士、私達は向こうに行ってからどう行動すれば最も効率がいいのか。
 そして……この空間から、生きて脱出する方法を……!」
レナがピエモンの両目を凝視する。ピエモンはその眼力に臆しそうになったが、堪えて、頷いた。

「もちろんだ。マルクを殺してくれるなら約束は果たす」

きっぱりと言い放つ。ピエモンは、脇からアイスデビモンが悲しそうに見つめている事に気づきはしなかった。


「そうだ……レナちゃん、結界を破壊する方法だけどry」
「結界を破壊する必要は無いぞ」
「!?」
涙を拭きつつ語りだすつかさをピエモンがぴしゃりと遮る。つかさは呆然としている。

「『外』から行く場合は結界を破壊しなければならないがな。我々の場合、運良く電車が使える。
 考えてみろ、城と会場を繋ぐ唯一のライン。電車は一々結界を解除しないと城と会場を行き来できない不便なものだと思うか?
 そんな不便なものだと、至極扱いにくい。部下から引っ切り無しに苦情が出てしまう」
「電車に乗って城へ向かえば、結界を無視出来るって事なのかな?」
「そういう事だ」
ピエモンが得意げに言う。という事は、ますます駅へと続く道を迅速に見つけ出さなければならない。
結界の事について考える必要は無くなったのだから。

「そんな……私は何のために……orz」
つかさが項垂れている。面倒なので全員それを無視した。
気持ちは充分察せられるが……

「それよりもだ。今思い出したのだが、Nice boat.、あれは重要なキーだぞ。おそらくあれはマルクが仕掛けたもの。
 未だ何がしたいのか真意が見えないマルクの内情を探れるかもしれない。それにアレは多分ノヴァの技術を応用して作られたもの。
 色んな意味であった方がいい」

ピエモンの言葉の後、しばらく沈黙が場を支配した。

「今更言うなよ……」
しばらく経った後、遊戯が呆れて言った。
「壊されちまったしな。どっちみち回収しようがないだろ」
「そんな事ないよ」

日吉の諦めにも似た言葉に反論し、レナがデイパックの口を開く。
ピエモンは感心してレナを見つめ、その他の者は驚愕して凝視する。

「一応……残ってた物を回収しておいた」
レナがデイパックの口を広げ、全員が中を覗けるように口の向きを変える。
中には、よく分からない巨大な機械が入っていた。何だこれ?ピエモン以外の者が口々に疑問の声を上げる。

「ほう。一番重要なところが生き残っていたんだな。そいつはNice boat.のメインコンピュータだ」
用意周到な女だ、ピエモンは感心しつつ言う。
「よくそんなでかい物がデイパックに入ったな……」
「別に不思議じゃないよ……棺桶だってデイパックには入ったんだよ?」

「まあ、何でもかんでも入るわけじゃないがな。我々が禁止したものは入らない。例えば城とか塔とか人間とか……」
「確かに何でもかんでも入ったら殺し合いどころじゃないね」
遊戯が納得したように呟く。

「マルクがこれを禁止してないのは興味深いな。やはりこいつは重要だ。大切にとっておけ」
「うん。分かったよピーちゃん」
「相変わらず偉そうだねビーちゃん」
遊戯が包丁を持つ手に力を込めた事は言うまでもない。


「おいお前ら、あれ見ろよ。話し合いなら電車に乗りながらでも出来るだろ?さっさと駅へ続く道ってのを見つけようぜ」
日吉が唐突に提案する。指差した先には、一人黙々と駅への隠し通路を探すアイスデビモンの姿があった。
「そう、だよね。あの人だけ可哀そうかも」
「でも探すのは面倒だな。僕達は駅なんて全く知らないし。レナ、なんか手がかりないの?」
遊戯の問いかけにレナは頷いて答える。

「うん。私に任せて」

思い出してみる。駅の入り口には、恐ろしい『花』が咲いていた。
かつて、レナの仲間達が健在だった頃、銀のPスイッチで黒い花をコインに変え、掻き集めた。
しかし、全てをきっちり回収したわけではない。道が開けば良かったのだから、誰も隅っこにあるコインを回収しようとはしなかった。
何気ない事だが、それが役に立つ時が来るとは。

「ほら、あそこ」

レナが皆を引き連れ、ある地点へと先導する。そこは特に瓦礫もなく、妙にがらんとしている。
周りに比べて明らかに浮いている。それもそのはず、そこにはブラックパックンがほんの少しだけ、群生していた。
レナは、見てて、と言い、岩をブラックパックンに向かって放り投げた。
ガリっという乾いた音が響き、岩がブラックパックンによって食い千切られる。
巨大な岩は一瞬にして消失し、ブラックパックンの胃?の中に収まった。相変わらず恐ろしい花だ。

「駅へ続く道には、この花が沢山群生していたの。だからこの辺りを探せば、きっと『道』は見つかるはずだよ」
「そういやそうだったってヴぁ」
今までずっと遠くで探していたアイスデビモンが、肩で息をしながら言う。

皆はレナの言葉に従い、ブラックパックンに触れないよう気を付けつつ、道の発掘に取り掛かる。
と言っても、遊戯はピエモンのお守り、つかさは大きな瓦礫を除けるだけの力なんてない、ので
実質発掘作業を実行するのは、レナ、日吉、アイスデビモン、そしてことのはの四人だけだ。
黙々と作業を続け、漸く道を掘り当てた。

「いよいよだね……だね」
「ああ……。電車に乗ったらすぐに、クッパ城か……」
比較的戦力を有し、かつ信頼できる、レナと日吉がチームの先頭に立ち、暗い地下道を突き進む。


この時、アイスデビモンの脳内は相変わらず荒れに荒れていた。
実は、先ほどアイスデビモンが離れた所で道を捜索していたのは、他にするべき事があったからだ。
いくら連中が透明とはいえ、神がかった直感を持つレナがいる。ばれてはピエモン様に危害が及ぶ。

アイスデビモンは未だに決心しきれない。
もしかしたら、彼は主君を裏切る事になるかもしれないのだ。直感では、そうではない事は分かっている。
しかし、どうしても、考えれば考えるほど、疑心暗鬼という風が彼の脳内に荒波を巻き起こす。

アイスデビモンはどうしても信じられない。あのマルクが、大らかで遊び心のある、あのマルクが、
自身にも、そしてその部下にもよくしてくれたマルクがピエモン様を裏切ったなどと……!

「信じられるわけないってヴぁ……悪い冗談」

さらに、『連中』はこう言っていた。『マルク様から許可を貰い、ピエモン様を救出しに来た』、と……!
ピエモン様とマルク様は……確かにたまに口喧嘩したりしていた。だけど、普段は気のいい仲間通しだったではないか……!
マルク様がピエモン様をからかったり、ピエモン様がマルク様の凡ミスを指摘してあげたり……
参加者どもが死んでいく様を見て楽しそうに語り合ったり、好きな動画を教えあったり、嫌いな動画の事で喧嘩になったり────

決定的な根拠はないが、俺は自信を持って言えるってヴぁ。
ピエモン様とマルク様。二人は友達だ。

ピエモン様は何かに騙されている。もしくは勘違いしている。
マルク様は何も怪しい行動など取ってはいないではないか!
このまま意味不明のまま主君である二人がいがみ合うなんて、俺には────


「なんか言ったか? お前」
日吉がアイスデビモンの呟きに反応し、質問する。
アイスデビモンの顔は茹蛸のように真っ赤だった。


「耐えられるかぶるぁあああああああああああああああああああああああああああああああああ」



sm228:それが俺のジャスティス 時系列順 sm227:明日の勇気 受け継ぐ者(後編)
sm226:星神飛行 HALッ☆ 投下順 sm227:明日の勇気 受け継ぐ者(後編)
sm226:星神飛行 HALッ☆ 日吉若 sm227:明日の勇気 受け継ぐ者(後編)
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sm226:星神飛行 HALッ☆ アイスデビモン sm227:明日の勇気 受け継ぐ者(後編)



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