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青の炎Ⅲ ~フタエノバトルアッー!(後編)~ ◆jVERyrq1dU




(……KASの首輪を外してやったのは俺だ……もののついでだ。最後の最後までKAS……お前の面倒を見てやる…)


「待って………頼む……」
踏み続けるハルヒに手を伸ばし、必死に訴える。
しかし無視される。伸ばした腕はハルヒに折られ、俺は絶叫する。

「頼む………何でも言う事聞きますから……」

あまりにリスクの高い一言を俺が述べると、ハルヒはぴたりと攻撃を止めた。

その隙に俺は、血反吐を吐きつつ体を持ち上げ、にまにまするハルヒを上目使いに見つめて……土下座した。
屈辱は勿論感じる。俺の仲間達を殺した奴にどうして土下座なんてしなければならないのだろうか。
だが、だがしかしKASが助かるのならば……

俺は、ハルヒに対して静かに口を開く。形振りなんて構っていられない。

「お願いしますハルヒ様……お願いしますからKASだけは殺さないであげて下さい……」
そうだ。俺は正しい事をしている。誰も助けに来られないのなら、俺が助けるしかないじゃないか……
ハルヒはしばらく黙っていたが、突然弾けるように笑い始めた。

「ヒャハハハハハハハハハハハハ!!」
「お願いしますお願いしますハルヒ様」
「けひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!」

「お願いします……何でもします……だからKASだけは見逃してあげて下さい……」
「ひゃはは」
ハルヒは息を整える。

「分かった。分かったから頭を上げなさい」
KASを見逃してくれるのか?俺はゆっくりと頭を上げハルヒを見上げた。
ハルヒは口角を吊り上げ、KASの頭を思い切り踏みつけた。鈍い音が部屋に響く。

「何をやってるんだ涼宮ハルヒィィィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!」
「おおっとそういう態度に出るの!?まだ死んでない、まだKASは死んでないわよぉ!?こいつゴキブリ並みだもの!
 この防護服は想像以上に固いのよぉッ!?まだまだまだまだ死なない!まだ遊べるわこの玩具は!けひゃ!」

このクソ神野郎……調子に乗りやがってえぇ……
俺は思わず振り上げてしまった拳を瞬時に下げる。怒りで頭がどうにかなってしまいそうだがここは何とか耐えなければならない。
ならないが、ハルヒの馬鹿は……ますます調子に乗っていく。

「KASを助けたいなら絶対に私に逆らわない事ね!じゃあまずは自分で自分の首を絞めなさいッ!」
ハルヒは手を差し出す。俺は渋々自らの両手で首を掴もうとする。
「このバカッ!私の手を使って絞めろ!」
そう言われ、俺はハルヒの手を掴み、自分の首に持って行く。
「私の手に触れるなッ!自分から首を絞められに来なさいッ!」
もはや何も言うまい……。俺はハルヒの手に首を近づけて行く。

「かっ……!」
ハルヒの圧倒的握力が俺の首を絞め上げる。苦しい……本当に苦しい。
目から涙が流れ、鼻水、よだれ……俺の顔は苦しみに比例してどんどん汚くなっていく。
でもKASが助かるなら……別にそれでも……

「醜いわね。なんて汚らわしい生き物……! 少しは私の美しさを見習いなさい」

まさかこの怪物がハルヒなんてな……KASから聞いた時は本当にびっくりした。
俺は今までノヴァやメインコンピュータの守護でニコロワをほとんど見ていない。
ハルヒがこうなってしまう過程を知らないからこんなに驚いたのかもしれない。
一体、ハルヒに何があってこんな鬼畜に変貌してしまったのだろう。
今は一刻も早く、誰かがこの怪物(もはやハルヒではない)を始末してくれることを願う。

ああ……それにしてもなんて外道……だがせめてKASだけは……


「キャオラッ!」


俺の意識が暗転しかけた瞬間、何者かの蹴りがハルヒの顔面に当たり、俺は首絞めから解放された。
誰が助けてくれたんだ?意識がぼんやりとして、よく分からない。視界がぼやけて何者なのか判別できない。
ただどんな格好をしているのかはなんとなく分かった。間違いない、あれは道化の格好だ。

いや、待てよ……あの格好……まさか、まさかこの土壇場に来てあいつが乱入したというのか……!
地上最強、どう贔屓目に見ても狂っていそうな最悪の道化……!

「あんた……! よくもやってくれたわね……!」
ハルヒが牙をむき出しにして獰猛に威嚇する。

「お前の叫びが聞こえてきたよ。待たせたな」

あの道化は、間違いない。
ド ナ ル ド だ!!!

 ▼ ▼ ▼

「くそ……マルクめ……思い切りやりおって……!」
マルクに吹っ飛ばされ、ホールから飛び出したピエモンは、服についている埃をぱんぱんと叩き落とし、ゆっくりと立ち上がった。
頭から血が流れている。早く止血しないと死んでしまうかもしれない。
ふと、自分が飛んで来た方向を見ると、瓦礫で穴がふさがっていた。
ホールからここまで貫通して来たのだから、その穴を通れば簡単にホールに戻れると考えていたのだが、どうやらそうはいかないらしい。

「ピ、ピエモン様?」
「ん?」
何者かの声に反応し、ピエモンは振り向く。そこにはレッドベジーモンをはじめとした大量のゆとりがピエモンを眺めていた。

「お前らまだこれだけ残っていたのか」
反応を返すと、デジモン達は突然がやがやと騒ぎ始める。

「やっぱりピエモン様じゃん!うっわ可愛いなあ」
「……かあいい」
「ピエモン……たん」
「なんなんだ貴様らは……」
萌えもんぱっちをつけたピエモンを見た途端これである。
本当に節操のない連中だ。ピエモンが呆れていると突然後ろからゆとりに抱きかかえられた。

「や、やわらかい……はぁはぁ……」
「こ、こらっやめろ!」
「ツンデレなのも……可愛い……ふぅーーっ……ふぅーーっ……」
やばい、きもい。ピエモンは初めて感じるタイプの嫌悪感を抱いた。

「だいたい、お前らはどうしてここにいるんだ!下っ端のデジモン達はほとんど死んだんじゃなかったのか?
 今までの人員不足は何だったんだ!」
「参加者が減ってきたら監視なんてぶっちゃけ暇になってくるんですよw
 だから頑張る奴に後を任せて、自分達は禁止エリアとかに隠れてサボってましたwさーせんwww」
「んで、結界とかが壊れたらしくて、そろそろニコロワも終わりかなと思って戻ってきましたw」
「終わりましたか?ww」

ピエモンは唖然として言葉も出ない。本当に駄目だこいつら……早くなんとかしないと……

「バカ! お前らがサボるからニコロワはこんな事になったんだぞ!バカバカバカバカ!!」
どれだけ怒っても後ろから抱きあげられたままではジタバタして喚くことしか出来ない。
戦えば勿論ピエモンの方が強いが、今は連中に手足が届かないので殴る事すら出来ない。
デジモン達は恍惚とした表情でピエモンを見つめている。

「決めた!俺マルクたん親衛隊をやめてピエたん親衛隊に入る!」
「俺も入る!」
「俺も俺も!」

「だ、黙れ貴様らァァーーーーーーーッッ!!
 今はそれどころじゃry「誰か助けてくれェェーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!」」
突然誰かの叫びが聞こえてきた。ピエモンは声の聞こえて来た方向に目を移す。

「なんだ今のは!?いったい誰だ!」
「誰なんでしょうかピエたん」
「ええいいい加減に下ろせ!!」
ゆとり達本気で叱り、床に降ろしてもらうピエモン。
声が聞こえて来た方向は、メインコンピュータ室のある部屋だった。
という事は、叫び声の主はこいつらとは格が違うエリートデジモンのものだろう。


ピエモンは考える。メインコンピュータ室に駆けつけるべきか否かを。
ホールに戻ってマルクの相手をしたいのだが、こちらの方が重要な気がする。
叫びの内容は「助けてくれ」だった。つまり叫んだデジモンは何者かに襲われているという事だ。
今や敵はマルクしか残っていない。マルクですら自分の部下であるデジモンは襲わないだろう。
いったい誰がデジモンに悲鳴を上げさせるというんだ。

マルクとは別の『悪』がまだいるというのか。なんて面倒臭いんだ。

「ピエたん。どうするつもりですか?」

ピエモンはしばらく沈黙し、考え込んだ後、こう答えた。

「助けに行くぞ。下手人を始末する」

マルク以外の悪人はさっさと殺しておかないと、全ては水の泡になるかもしれない。
そう考えての判断である。

 ▼ ▼ ▼

「はあ……はあ……」
マルクが息を荒くして翼を広げ、客席から飛び上がる。
対主催達は迎撃態勢を整える。

倒したと思っていたが、マルクはまた復活してしまった。ピエモンが時間稼ぎをした所為だろう。
ここまでではピエモンはレナ達を裏切ったという事になるが、しかしその後、ピエモンはマルクに見事にぶっ飛ばされた。
ホールの壁を突き破り、どこかへ追いやってしまうほどのパワーで、である。
結局、ピエモンがマルクに寝返ったのかどうかは定かではない。はたしてピエモンはどちら側なのだろうか。

「くそッ! またかよ!面倒臭い相手だな!」
日吉が愚痴をこぼす。霊夢もうんざりとした表情をしている。

「みんな、油断しないで! 落ち着いてみんなで協力して対処すれば十分勝てる相手だよ!!」
「レナの言うとおりだ!油断さえしなければ勝てる!」
レナの言葉に遊戯も同意する。そのとおりである。対主催は今までにマルクにしてやられた事など一度もない。
何度かピンチはあったものの、全てチームワークと機転で乗り越えている。
結束した6人の対主催達にとってマルクは、油断さえしなければ負ける相手ではないのである。


ずいぶんとこけにしてくれるのサ……

ボクは翼を広げ高く高く舞い上がる。フランちゃんの翼、ボクの翼、2つ合わせば最強だと思ってたけど、連中の思いの強さにはかなわないのサ。
ボクが連中を殺さないように気を付けているからってのも勿論あるだろうけど、それ以上に対主催達は強い。
今思えば当然の事かも知れない。コイヅカが立案したバトルロワイアル、それは言ってしまえばこれ以上ないほどの『試練』だ。
それを乗り越えたレナ達はきっと何よりも強い。なにせジアースすら力を合わせて倒したのだから……。

だけどボクは負けないのサ。ラスボスの役目を務めるのサ。あのバカの分まで

「ピエモンの分まで……ね……」

ボクはこっそりと呟き、レナ達の元に急降下する。レナ達は迎撃の構えを既に整えている。

「ボクは悪人だからお前らを殺し合いに巻き込んだ事なんて屁とも思ってないもんねー!
 しっかりボクを恨んで、とどめを刺してみろなのサ!!!」
地上で待ち構える6人に挑発を飛ばす。日吉や遊戯が挑発に乗り「覚悟しろ!」などと叫んでいる。
そうとも、もっとボクを恨め、憎め、殺してみろ!

ボクは地上に向かって複合弾幕を発射した。レナではなく日吉が指示を飛ばして、例によって対主催達は皆残らず避けきる。
弾幕の軌道を覚えられたのだろうか。よりによってお世辞にもそれほど頭が良さそうではない日吉に?
だとしたらもうこの技は使えない。なんだかこれからも着々と使える技がなくなっていく気がする。

駄目だ。弱気になるな。あの客席でピエモンと話した事を思いだせ。ラスボスになれマルク。


ピエモンにジャイアントスイングで投げられ客席に突っ込んだ後、ピエモンが追いかけてきた。
その時ピエモンはなんて言ったと思う? ボクはびっくりしたのサ。驚いたのサ。
初めてピエモンの存在に感謝したのサ。あんまり素直になれなかったけどね……。

衝撃波を放つ。今度は放つ前から対主催達は回避運動を始めていた。
指示を飛ばしたのはまたもや日吉だ。あそこまで頭が切れる奴だったっけ?
まあいいや、考えるのは後、次はブラックホールで対主催を苦しめてやる。



「読めるぜレナ。何故かは知らないが、先が読める……マルクの次の攻撃が分かる!!ブラックホールだ!」
日吉が叫ぶ。またなにか新しい能力に日吉は目覚めたのだろうか。
レナは日吉の言葉を信じ、仲間達に日吉の言葉を伝える。

日吉の脳が活性化する。恐ろしいくらい思考がクリアだ。
先が読める。未来が分かる。マルクの動きが全て分かる。

この能力は無我の境地の奥にある扉の一つ、才気煥発の極み、日吉は百錬自得の極みに続いて、またもや究極の扉を開いたらしい。
マルクの動きは全て読める。日吉がこの能力に目覚めていなかった時ですら、マルクはレナ達にほとんど傷を負わせられなかったのだから、
もはやマルクが勝利する確率は塵に等しい。

「今だッ!!」

ブラックホールを発動しようとした絶妙のタイミングを突き、レナ達6人は総攻撃を仕掛けた。
一瞬の隙を突かれたマルクは、防御すら出来ない。レナ、日吉、霊夢、遊戯、つかさ、カービィ、6人全ての攻撃がクリーンヒットする。

「やったか!?」
ぼろぼろになったマルクが落ちていく。それを凝視しながら、遊戯は確かめるように叫んだ。


(まだ……なのサ……ピエモンの……ピエモンの事を思いだせぇぇ……マルク……!!)

マルクは三度地面に墜落した。動かない。全く動かない。
対主催達はついに主催者を倒したのだ。

 ▼ ▼ ▼

ピエモンはただノリノリでハルヒに突っ込んだわけではない。
彼なりに戦略を組み立て、ハルヒに蹴りをかましたのだ。
ハルヒの気を引く事が出来なければ、まず失敗する作戦なのだが……


「ドナルド……何故ここに……?」
「ん? 何を言っているんだお前は。大丈夫か?」

ぼんやりとしていた俺の視界が次第に鮮明になっていく。そこに立っていたのはドナルドではなく、幼女だった。
その後すぐに気付く。この人は萌えもんぱっちをつけたピエモン様に違いない。
ゆとり達の間でBと呼ばれている可哀想な人だ。

「なんだ……ドナルドじゃなくてピエモン様か……」
「なんだとはなんだ」

ピエモン様は向こうでボロボロになって倒れているKASを見つけ、顔を歪めた。
もしかしてKASの事を心配しているのか?

「ピピピ、ピエモン様、あのグロい化け物はいったい何なんですか……!」
「ふん、ゆとりめ!早速ビビってるんじゃないッ!まあ私も、今度こそ奴は死んだと思っていたから驚いたがな」
ピエモン様は物怖じせず、ハルヒを真っ直ぐに見つめる。

「可愛い可愛いピエモンちゃんがこんな所に何の用?何度私を殺しても死なないわよ?」
ハルヒがのそりと体を起こし、醜悪な笑みを見せつける。
「貴様に大暴れされてはニコロワ進行に支障が出るのでな……何度でも殺してやるさ」

ピエモン様がそう言うと、ハルヒは顎が外れたかと思うくらい口を大きく開き、笑いだす。
「ひゃはははは 頭悪い事言ってんじゃないわよ。ニコロワなんてとうの昔に進行不可能になってるじゃない。
 私やそこのボロ雑巾を含めた生き残り達をよく見てみなさい。誰も首輪すら着けていないじゃない。寝ぼけた事言ってんじゃないわよ。
 残念だったわねぇ。ニコロワを動画にしてランク一位をとるつもりだったんでしょ?」

ハルヒは知っていたのか。ニコロワが開かれた目的を。
ピエモン様は「知っていたのか」と呟き、ハルヒを馬鹿にするようにふぅと溜息を吐いた。

「だが、少しお前は勘違いしているらしいな。ニコロワはまだまだ進行可能、いや、むしろこの事態は予定通りなのだよ」
ハルヒはこの意味深な一言に表情を一変させる。
俺もハルヒと同じく、ニコロワはもう完遂不可能と思っていたから、ピエモン様のこの一言は大いに驚いた。
しかし、ピエモン様は何を狙っているのだろう……。助けを呼んだのは自分だが、いくらピエモン様でも、このハルヒに勝てない事は明白だ。
そんな心配をよそに、ピエモン様は訝しげにしているハルヒに向かって語り始める。

「仕方ない……そこまで気になるなら教えてやる」

「お前は今までの私と同じ種類の勘違いをしているようだな。考えてみろ一人しか生き残れないなんていうグロ動画を誰が好んでみるんだ。
 一部の変態という名の紳士にしかうけないぞ。だいたい自重なし、カオスが好まれるニコニコでどうやってニコロワがランクインするって言うんだ。
 いいか?私も含め、お前ら参加者も含め、デジモン達も含めて、全員、最初からあの策士二人に嵌められていたんだよ」
何かとてつもない事をピエモン様を言おうとしている。さすがのハルヒもやはり気になるのだろう。
嫌らしい笑みは消え、ピエモン様の話に耳を傾けている。

「コイヅカ氏とマルク……この嫌らしいまでに頭がいい二人の策士にな……」
「その二人が私達を騙していたと?最初から?」
そんな話なんて一切聞いた事がない。ハルヒは興味深そうにしている。

「一人しか生き残れないバトロワなんて、初めからするつもりはなかったのさ。
 最高のエンターテインメントを作り上げる。それがニコロワの真の目的だ。貴様のような────」
ピエモン様が睨みをきかせてハルヒを指差す。どこまでが本当でどこまでが嘘なのか。俺にもよく分からなくなってきた。
「都合のいい悪役を作りあげ、レナ達のような正義に殺させる事でな……どう思う?」
ピエモン様が血塗れの床を踏みしめ、ハルヒに一歩近づく。

「この私が都合のいい悪役ですって……!!」
ハルヒの眉間にしわが幾筋も走る。恐ろしい表情で怒っている。
ゆとり達の怖がる囁き声が聞こえてきた。

「史上最悪の大悪党、お前のような、がいたとする。そいつとは対照的に、誰からも好かれる、レナ達のような、正義の味方がいるとしよう。
 その正義の味方が史上最悪の大悪党をやっつけたら、とてもとても盛り上がるとは思わないか?」
「…………思わないわよ……!」
きっぱりと言うが、ピエモン様はハルヒの否定を無視し、話を続ける。
身振り手振りを交えながら丁寧に。ハルヒからしてみれば、ピエモン様の丁寧さはひどく癪に障る事だろう。

「だが実際は、現実にはそんな大悪党も正義の味方もめったにいない。だからコイヅカとマルクはまず、
 そんな対照的な二人の役者を、都合よく一度に作り出す方法からまず考えた。その方法がバトルロワイアルだ」
ピエモン様の妄想、とは言い切れない。コイヅカ様はよく分からなかったが、マルク様は確かにエンターテイナー的な所がある。

「実際に体験したお前にはよく分かるだろう?バトロワとは恐るべき災害だ。ある者はそこで勇気に目覚め、力を合わせて戦い抜こうとするだろう。
 またある者は恐怖や憎しみに染まり、狂人と化すだろう。そして前者はバトロワという恐ろしい災害にも屈しない鋼の心を持った究極の正義になれる。
 後者はバトロワという恐ろしい災害で生まれた狂気、憎しみ、全ての負の感情を背負った究極の悪人になるだろう」
ピエモン様がまたハルヒに一歩近づく。

「究極の正義、それがレナ達。究極の悪人、それがお前だよ」
「……違うわ。コイヅカはね。ニコ動の神を長年求めていたのよ!」
怒り狂うハルヒが反論に移る。冷静に話すため、必死に怒気を抑えようとしているようだが、抑えきれていない。
言葉の節々から狂気が滲み出ている。

「コイヅカはニコニコ動画に絶望したの!だからバトロワを開いて私を神として目覚めさせようと考えていたの!
 ニコニコ動画を取り締まる神にさせようとしたのよ!私は神だからッ!言ってしまえば初めから私の優勝は決まっていたのッ!
 ニコロワの開催理由は最高のエンタメなんかじゃないッ!! ランク一位を取る事も真の目的の副産物ッ!!
 本当の目的はニコニコ動画に私という神を呼ぶ事なのよッ!!」

荒々しく語るハルヒを見て、ピエモン様は苦笑する。
確かにピエモン様に比べると、全くもって馬鹿げた論だ。
ハルヒは息を荒くしている。本気で怒っているようだ。ピエモン様が手を振り、ハルヒをなだめる。
ハルヒに比べてピエモン様は冷静そのものだ。まさかこれほどピエモン様が頼りになるとは思ってもみなかった。

「バカにするな……!あんたの言う事が正しいならッ!どうしてマルクとコイヅカはゲーム説明の際に「これはエンタメ」って言わなかったのよ!
 そうすれば────」
「あほかお前は。そんな事を言えば視聴者が白けるし、何より貴様ら参加者が本気にならないではないか。
 究極の正義も究極の悪も生まれない。それに私も、初めからマルクとコイヅカがそんな事を言っていたら、運営の仕事を放棄していただろう」
ハルヒがピエモン様を睨む。確かにそうだ。マルク様が初めからそんな事を言っていたら、ピエモン様は投げ出すに決まっている。

「どうしてよッ!さっさと教えなさいッ!!」
「私は貴様とは違う、生まれついての悪人だからだ!最終的に全員が死ぬイベントなんて誘われたら乗るしかないじゃないか!!
 私は心底、人が絶望して死んでいくのを見るのが大好きなのだよ!だからマルクとコイヅカは私を誘う時、あえて嘘を吐いた!!」
ピエモン様はまた一歩ハルヒに近づいた。もうかなりの距離まで接近している。
ハルヒは歯をぎりぎり鳴らしながらピエモン様を睨みつける。

「私は自分の力で神に目覚めたのよッ!!あんた達なんか関係ない!!それに私は悪じゃなくて正義だ!!
 寝ぼけるのもいい加減にしろ!!」
「違う!お前は作られたんだ!あのド外道、マルクとコイヅカによってな!!!」
「まだ言うか!!!」

ピエモン様がまた一歩近づく。ハルヒが怒り狂っているというのに、ピエモンは一切物怖じせず、着々と距離を詰めている。
もう止めて下さいピエモン様……それ以上ハルヒを挑発しては……大変な事になる……。
ハルヒの目の前にまで迫ったピエモンはふっと表情を緩める。
恐ろしい表情のハルヒを正面から見据え、また語り始める。

「ハルヒ。怒っているのはお前だけじゃない。私だって怒ってる。私を騙したマルクとコイヅカに対してな。
 コイヅカは死んだ。だからもういい。だがまだ生きているマルクだけは、絶対に許さない。殺しても殺し足りない。
 気持はお前と同じさ」
俺の心に衝撃が走る。ピエモン様はマルクを裏切るつもりなのか!?

「黙れ!妙な戯言をほざいた貴様だけは、念入りに殺してやるから覚悟しろ!」
激昂するハルヒから視線を外し、ピエモン様はゆっくりとハルヒの周りを歩き始めた。
「ハルヒ、冷静になってよく考えてみろ。怒りの矛先が間違っていないか?マルクではなく私に怒りを向けるなんて完全にお門違いだ。
 念入りに殺すべきなのは無論マルクではないか?」
「黙れって言ってんのよ!!あんたの話なんて嘘八百だわ!!!どっちにしろマルクは殺す!
 あんたも殺す!そこのボロ雑巾もレナ達もみんなみんな殺す!!!」

ハルヒが喚き始める。俺はハルヒの威圧感だけで恐怖で身が竦みそうになるのだが、ピエモン様は未だに冷静そのものだ。
マルク様を殺すと言っていたのは本当なのだろうか……。
その言動は無視出来ないが、今の状況でピエモン様がこれほど頼りになるとは思ってもみなかった。

「ハルヒ、聞け……私と手を組もう。さっきあえてお前を殺さなかったのは後々お前と接触して手を組むためだったのだ。
 私と共に世界を牛耳ろう。お前の気持ちはよく分かる。本当は悲しいんだろう?辛いんだろう?
 ずっとずっと一人で、古泉、えーりん、デーモンに利用され、仲間なんて一人もいなかった……私ならお前を分かってやれる。
 私はお前の気持ちを癒してやれる」
ピエモン様は本気で言っているのか!? 横から血塗れのハルヒにそっと抱きつくピエモン様。
次々に言葉を紡いでいく。

「お前のその残虐な振る舞いは全て、今までお前が経験してきた悲しみの裏返しだ。思えばお前はレナ達よりも遥かに立派だぞ!
 レナ達は慰め合ってここまで生き残ってきたが、お前は、お前だけは常にたった一人で戦い抜いてきたじゃないかッ!
 お前の全てを理解している私はお前の全てを癒してやれる。だから、手を組もう。友達に、戦友になろう!!」
「Bとか言う奴!!!」
突然KASが重傷の体で立ち上がり、叫び声を上げた。
ピエモン様は驚いたのだろう。びくりと体を震わせて、KASを見やる。

「レナ達より立派なわけないだろっていう!!!そいつは正真正銘の鬼畜野郎だッ!!」
「……そう言ってハルヒを罵り続けるがいい!相手の事を真に理解してやらねば、本当の解決なんてありえない!!
 いいかKAS!相手の立場に立ってモノを考える事が出来れば、争いなんて起きないのだ!!!」
KASが涙目になっている。悔しさだろうか、怒りだろうか……。
「違う……違う!! そいつは閣下と博之を殺した!ヒゲも殺した!」
「ハルヒにとって、殺さざるを得なかっただけだ!」

「黙れ!!」

ハルヒの一喝がびりびりと部屋に響き渡る。KASもゆとり達もぴたりと沈黙する。
ピエモン様なんてあまりの衝撃で後方に転んだくらいである。

「ハルヒ……私の言葉を、理解したのか?」
ピエモン様は恐る恐るもう一度ハルヒに近づき、抱きつこうとする。
ハルヒは静かに口を開いた。

「あんたの話、本当なの? 本気で言っているの? そんな事」

俺の位置からでは、ハルヒの表情までは窺えなかった。
ただ、ハルヒの声は今まで聞いた事のないような声質だった。
何なんだ……全く持って信じられない。まさかあの鬼畜は、ピエモン様の言葉に心癒されたとでもいうのか?
ピエモン様はふっと表情を緩め、改めてハルヒにぴとっと抱きつく。

そして、とんでもない事を口走った────






「勿論嘘だバカめ」





え? 今何と……??


「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

いつの間にかハルヒの胸に千年リングが取り付けられている。
千年リングの楔はハルヒの胸に突き刺さり、恐るべき勢いでハルヒの力を吸い取っていく。
KASもゆとりも、おそらくはハルヒすらも何が何だかさっぱり分からないだろう。

ピエモン様は賭けに出たのだ。適当な、ハルヒの食いつきそうな話を語りながら、ハルヒとの距離を縮め、千年リングをこっそりと盗み、装備させる。
何故わざわざ抱きついたのかと思ってみれば、千年リングを盗むためだったとは。なるほど、そう言う事だったのか!!

「嘘か!嘘なのかピエモン!!」
ハルヒは、おそらく苦痛のせいだろう、涙を流しながらのた打ち回る。
「殺してやる!絶対にまた復活してお前を!ううぅ……お前をををををを!!!」
涙ながらに睨みつけるハルヒを、ピエモン様はサッカーボールのように蹴り飛ばした。

「まっ!全部ではなく途中から嘘なんだがな!疑心暗鬼の解けた私なら、貴様を騙す事ぐらい簡単すぎて欠伸が出るわ!
 それにしても同じ方法でまたやられるとは情けないなハルヒ」
のた打ち回るハルヒに向かってピエモン様は言ったが、ハルヒはもはや聞いていなかった。



「ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


「え?? は???」
KASは未だに混乱しているようである。ピエモン様は口を開く。
「KAS、私は一時的に対主催になっているんだ!ニコロワが終了するまでは貴様の味方だ!」
「????」
「み・か・た!!とりあえず今は私への怒りを抑えていてくれ」
その後何度か説明したが、KASはなかなか納得できないらしい。しかしやがて

「……なんだか知らんがとにかくよし!!」
とりあえず納得したようだ。それでいいのか……KAS

「さて、ゴミ野郎の後始末だKAS!こいつは千年リングを装備させたくらいでは死なないようだからな!」
「おk とりあえず把握」
「お前達も手伝え!こいつに大量の同僚が殺されているんだ。お前達も仇を討ちたいだろう?」
「勿論です!ピエたん!!」


「あんな真顔でハルヒを騙してたなんて、どんだけかっこいいんだ俺のピエたん!」
ゆとりが一匹ピエモン様を抱きしめる。抱きしめた直後、ゆとりの表情が変わった。
ピエモン様の表情もまた変わる。なにか恥ずかしいのだろうか。ピエモン様の顔は耳まで真っ赤に染まっている。

「なんか冷たい……ピエたん……漏らしてる……」
ゆとりはそう言うと場は一気に沈黙した。ピエモン様はしばらくの間もじもじして、やがて口を開く。
「……だって……死ぬかもしれないのは……誰だって恐ろしいものだろう……ましてや相手はあのハルもがっ」
ゆとりはドン引きするかと思いきや、ますます強く強く抱きしめた。
ピエモン様が失禁した事によって好感度がまたアップしたようである。

「よっしゃピエたんがお漏らししたんだ!ますますやる気出るぜ!!みんな行くぞ!」
「変態という名の紳士乙!」
良かった……KASは常識人だ。俺は何故か少し安心した。

そしてゴミ駆除が始まる。沢山の仲間達がこいつにやられ死んでいった。それを思えば感無量である。
俺も攻撃に加わりたかったが、ピエモン様にどうしても聞きたい事があった。
KASも同じような事を考えているのだろうか。ハルヒのとどめに参加せず、ピエモン様の方を向いている。
俺は満足そうにハルヒを眺めているピエモン様にそっと話しかける。ハルヒに首を絞められたので話しにくいが、我慢する。

「ピエモン様……貴方の話は、どこが嘘で……どこが真実なんですか。
 いえ、単刀直入に聞きます。貴方は本当に、マルク様を殺そうと思っているのですか?」
「俺も気になるっていう。ニコロワは本当にエンターブレインのために開催されたのか?」
エンターブレインじゃなくてエンターテインメントだ。俺は心の中でKASにつっこみを入れる。
ピエモン様は複雑な面持ちでこう答えた。

「どちらの質問も、答えはイエスでありノーでもある……」
「詳しく聞かせるんだビエモン」

ピエモン様は溜息を吐き、語り始める。向こうではハルヒがゆとり達に踏まれ、蹴られ、殴られ、フルボッコにされていた。
ピエモン様が言うには、千年リングだけでもハルヒは死にかけたらしいから、あそこまでされたら死以外にあり得ないだろう。
あれで死ななかったらもはやチートだ。

「詳しく言うには、私の誤解がどのような過程を経て解けたかについて語らなければならない。
 まずはアイスデビモンの事から話そうか……だが、あんまり言いふらすんじゃないぞ?特にKAS」



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