ベルンカステルの07(後編) ◆cpYAzLvx8.




○×礼奈、それが私に与えられた新しい名前。
竜宮レナと言う名前は、私から奪われた。
それが、私への罪。
私は、私の名前を取り戻すために戦う。



興宮の学校は楽しくなかった。
転校時には暗にぼかしたとはいえ、私が雛見沢出身である事が第一の理由だろう。
ここ興宮でさえ、雛見沢という名前は狂人の代名詞になっている。
それだけ大災害で現れた雛見沢出身者の凶行が有名だと言う事でもあるのだ。
故に私は常にそのレッテルを貼られ、生きなければならない。

でも、それよりもっともっと大事な理由があった。
もう、私の罪を許してくれた大切な仲間達、部活メンバーは誰一人居ない。
転校して始めて興宮に居ながら大災害、滅菌作戦に巻き込まれた詩ぃちゃんの死を知り、更に私は悲しんだ。
でも、悲しんでばかりはいられない、なんとしても皆の仇を、汚名を晴らさなければいけない。


私の学校生活は当たり障り無く進んだ。
私からクラスメイトに関わろうとも知らなかったし、関わってこようともしなかった。
あの軍人達に見つかる訳にも行かないため、体育などでは極力手を抜いて目立たないようにした。
まるで個性の無い中の中である生徒を演出したその生活は、まるで学校というよりも演劇の舞台のようだった。

大石さんの家に居候して一ヶ月程が経過し、私の身辺に変わった事はほぼ何も無かった。
ただ、確実に監視されているという視線だけは感じ取る事は出来た。
疑ってはいるものの、決め手となる証拠が無いからだろうか。


やがて夏休みが訪れ、私は大石さんと一緒に東京へと向かった。
入江先生の手記に書かれていた謎の組織「東京」
それは日本の首都、東京と何か関わりがあるのだろうか。
赤坂さんと言う人は、それを知っているのだろうか。


「大石さん!」
「ああ、赤坂さぁん。お久しぶりですねぇ、んっふっふ」
「大石さんもお変わり無いようで」
「赤坂さんは随分と立派になられましたなぁ、興宮のほうに来た頃のひよっこっぷりが懐かしいですよ」
「あれからもう6年ですか、……雛見沢の事は聞きました」
「赤坂さん、私は赤坂さんに雛見沢の事で伝えたい事があってここまで来ました」
「大石さん、そこのかわいらしいお嬢さんは?」
「ああ、ちょっと訳ありで今は○×礼奈さんと名乗ってるんですが、元々は竜宮レナって名前があったんですよ」
「……随分と込み入った事情になりそうですね」

赤坂さんとのコンタクトは問題なく取れた。
私からの意向もあり、指定どおりの誰にも監視、盗聴されない個室で話をすることにした。
赤坂さんに雛見沢のことをどうやって伝えればいいか迷っていたが、意外なことに赤坂さんの方から話を切り出してくれた。
赤坂さんはかつて雛見沢で一人の少女、梨花ちゃんに会い、雛見沢連続怪死事件について予言をされたということだ。
私にとってそれはとても意外だった、何故梨花ちゃんがそのことを知っているのか、死を悟っていたのか。
梨花ちゃんには、オヤシロ様に通じる予言の力が備わっていたのだろうか、こればかりはまるで分からない。

「梨花ちゃんにはとてもお世話になりましてね。私の妻を救ってくれたのも梨花ちゃんなんですよ。
 あの大災害までついぞ雛見沢のことなんて思い出せなくて、大災害に巻き込まれて死ぬと言うことを知っていた梨花ちゃんを救えなかったんだ……」
「いいえ、梨花ちゃんは大災害で死んだわけじゃないです、殺されたんです」
「なんだって!」

赤坂さんの声が粗ぐ。
そこで私は全てを伝えるべきだと判断し、梨花ちゃんがどうして殺されたのかを資料と推察を含めて説明する。
梨花ちゃんが誰に、どうして殺されたのかは分からない。でも滅菌作戦を発動するためだけに入江診療所、東京の誰かに殺された。
それだけは、私はこの証拠から確信を持って言えると信じていた。

「くそっ……私はッ……! 救えなかったのかッ……!!!」
「そうです、赤坂さんは梨花ちゃんを救えなかった、そして私も」
「……」
「でも赤坂さんには私達には無い、梨花ちゃんの無念を晴らす力がある。
 だからお願いします、私達の仲間の敵を一緒に討って下さい!」
「……わかりました、私は間に合わなかったけど、レナさんが命賭けで掴んだこの巨悪の証拠は、絶対に無駄にはしませんよ、ええ」
「赤坂さん、ありがとうございます」
「赤坂さぁん、私もこの事件に関しては色々思いがありましてね、私からもお願いします、おやっさんの、皆の無念を晴らしてやってください」
「当然ですよ、レナさん、大石さん!」

私はその言葉を聞いて、全ては終わったと感じた。
これで全て終わり、私は真実を手にする……。




ところが、何ヶ月たっても吉報は決して訪れなかった。


やがて冬になり、私は赤坂さんと再びコンタクトを取った。
赤坂さんによると、私が手に入れた資料を公表するのは余りに危険すぎる、消したほうがいいと指示された事だ。
何者かが、恐らく東京が関わっているために、公表する事はできない。
日本という国を揺るがすのは、今は絶対にできないと言うかららしい。
結局、私の執念は、梨花ちゃんを殺した政治闘争に翻弄され、消え行くのだろうか。


興宮の学校を卒業した私はそのまま働いて自立をしようと思ったのだが、大石さんの善意で高校にも通わせてもらうことになった。
余り勉強は得意ではないし、雛見沢出身者への謂れの無い差別はますます酷くなった。
今や精神病、狂人、犯罪者と言えば雛見沢。この世の罪を全て飲み込む、悲しい悲しい私の故郷。

高校を卒業し、大石さんのツテを頼って興宮署で働き始め、西ドイツと東ドイツが一つになり、平成と言う新しい時代がやってきても、昭和58年の遺恨は晴れない。
かつては園崎家に期待もした。園崎家の権力ならば国家権力に対しても一定の影響を誇示できるのではないかと。
だが党首と次期党首を失い、園崎組が活動停止になり、身内同士で内紛に明け暮れる園崎家に、かつての力は無かった。
雛見沢の名家でさえも、力を失う時は一瞬だ。
葛西さんに会うことはできなかったし、園崎家をまとめていて、魅ぃちゃんの母親である茜さんという人もすっかり疲れきり、気力を失っていた。
茜さんには必ず魅ぃちゃん、詩ぃちゃんの仇は討つと、茜さんの前で誓った。

赤坂さんからは定期的に連絡が入ってくる。
そのたびにこの事件の真相が少しずつ明らかになっていた。
それだけが今の私を支えていた。

雛見沢症候群は元々核兵器に変わる戦略兵器開発プロジェクトの一環として研究が始まったらしい。
その代表者は入江先生と、鷹野さんらしい事も知った。
雛見沢大災害を偽造したのは間違いなく「東京」で、雛見沢関係者だということがわかった。
「東京」の大派閥である小泉派が仕掛けた、一大スキャンダルらしい。
私には派閥抗争なんてどうでもよかったけど、そんなくだらない事で私達の雛見沢が消されたかと思うと、悲しかった。

梨花ちゃんを殺した犯人は想像がついた。
十中八九、鷹野三四だ。
でもその鷹野三四の行方は、今だ知れず。
昭和58年を境に、鷹野三四が「東京」に現れる事はなくなったと言う事は知った。
何故、どうして鷹野さんがこのような凶行に至ったか。
それは予想こそついているものの、確証は無い。
真実は、今だ闇の中に横たわっていた。

私が東京に再び訪れ、赤坂さんの信頼できる上司という人と話を直接行った。
でも結局暖簾に腕押しと言った様子で、資料は公表なんて出来ないの一点張り。
何よりその上司の人が言っていたのは、たとえ公表しても政府によって揉み消され、反例を捏造されて終わりだということ。
そうなれば、この資料が本当だろうと、嘘として決着が付き、何もかもは闇に消える。
だからその資料が大切なら、機会を待てと言っていた。
近いうちに政権交代や政界再編が起こり、その時こそ手持ちの資料を公表できる団体が付くかもしれないということらしい。
何度やっても、私の願いは政治の道具に利用されるばかり。
利用されていてもそれでよかった、みんなの無念が晴れるなら。

辛抱強く待つと誓ったその帰り道、まさか私達が襲われるとは思わなかった。

「……すまない、レナさん」
「いいんです、慣れてますから」
「本当に、やってられないな」
「でも、いつか必ずチャンスが訪れるなら、私はいつまでも待ちます」
「チャンスが来れば、ね。
 まぁ疲れているだろうし、折角だから雪絵と美雪に顔を見せて……」
「危ないッ!?」

クロスミラージュから不意に念波が伝えられた。
私達が囲まれて、追い詰められていると。
たまたま一通りの少ない路地を通っていた所、何者かが襲撃してきたのだ。

「クロスミラージュ、バリアジャケットをお願い!」
『ほいきた!』

まずバリアジャケットを展開し、防御を固める。
エリアサーチを行ったところ20人程度に囲まれているらしい。
その謎の襲撃者達は深夜とはいえ銃火器でフル武装し、人二人を始末するには明らかに過剰な装備で現れた。
一撃で倒せないと判断した襲撃者達は、即座に発砲を行う。

『Protection』

シールドを展開して銃撃の被害を最小限に抑える。
7年間の訓練でかなりシールドの防御力を向上させたとはいえ、一斉射撃を受けてシールドは崩れ去った。
しかし初撃が防げればそれで十分だった、私の拳が正面に居た襲撃者達の急所を捉え、一撃でその場に崩し落とす。

「赤坂さん、後ろは任せました」
「レナさん、ここは逃げるべきです!」
「私のことは気にしないで! それよりはまずこの襲撃の謎を掴む方が重要です!」

逃げると言う選択肢は不思議と無かった。
ここで逃げるのはたやすい。シールドを展開しながら少し走り、明るい路地で大声を上げればそれで終わりだ。
でもそれはしない、この襲撃者達は何かを知っている。雛見沢の秘密に連なる何かを。
だから、捕獲して尋問して、全てを探る。

二撃目もプロテクションで防ぎ、右翼を取り囲む襲撃者達を叩き潰す。
赤坂さんは防戦一方といった感じだが、それでもうまく敵をひきつけて、強烈なカウンターパンチをかましていた。
三撃目は無かった。私達を制圧しきれないと悟るや否や、気絶した仲間を連れてすぐさま近くの車に撤退してしまった。
そのまま黙って逃がすほどお人よしではない私は、気絶していた一人を事前に逃げられないようにきっちりと確保していた。
こいつらから話を聞けば、何が一体分かるのだろうか。

「……それにしても何故?」
「私の持ってる秘密、雛見沢の事だと思います。
 たとえそうでないとしても、何があるかはこの男に吐かせます」

尋問を明るい場所でやるわけには行かないため、より暗い路地裏で男の目覚めを待った。
だが男は目覚めた瞬間、その場で舌を噛み切って死んだ。
私が止めようとしたときには、全てがもう遅かった。
殺人の罪で起訴されては仕方が無いため、警察に通報して処理を任せる事にした。
恐れていた私への罪のでっち上げは無かったが、その代わり男の素性も決して明らかにならなかった。
結局その死はヤクザの派閥抗争と名を変えて処理された。



それからしばらく私は更なる暗殺者の登場を警戒したが、以後襲撃者が現れる事は無かった。
襲撃事件からさらに1年が経過し、ソビエト連邦が崩壊してもまだ資料は公表できなかった。
もはや半分諦めていた私達の元に、野村と名乗る謎の女が接触してきたのは、平成4年の事だ。

「礼奈さん、こちらが野村さんです」
「始めまして竜宮礼奈、いやレナさん。私は野村と言う、しがない連絡員ですわ」
「……」

何で知っているのか、と言う事はあえて問わなかった。
それでも、得体の知れない何かを、その野村と言う人物から感じた。

「今日貴方に会えて嬉しいわぁ。
 話と言うのはね、ちょっとした取引を行いたいの」
「……続けてください」
「あなたに雛見沢大災害の真実を教えてあげる。それだけじゃなくて特別サービスでその資料の公開についても保証してあげるわ。
 その代わりレナさんに、私達のクライアントの意向を聞いて欲しいの」
「随分と私に都合のいい取引ですね」
「あなたの持つ資料が使えるようになったのよ。私のクライアントは中国の方にあるんだけどね。
 何せソ連は崩壊、中国も民主化圧力がかかったり、色々して大変なのよ。
 だから日本の政権を交代させて、以前より中国に忠実な政権を打ち立てて当面を凌ぎたいって訳。
 そこで貴方を利用して与党に大スキャンダルをばら撒く、これなら政権交代確実ってわけ」

それでも都合のいい話だった。
この野村と言う人物は私の知らない全てを隅から隅まで知っている。
なら、最初から自分達でスキャンダルをばら撒けばいいのにと思う。
野村のクライアントとやらは、私に何をさせたいのだろうか。

「……それで、あなたのクライアントの意向と言うのは」
「単刀直入に言えば、レナさんの戦闘力が欲しいのよね。
 2年前の番犬部隊壊滅はクライアントやアメリカのほうでも話題になってね、あなたは余りにも人間離れしすぎているの。
 あなたのその戦闘力の秘密を知りたいのよ。レナさん、あなたは本当に人間なんですかね?」
「……その秘密を話せば、取引は成立することができるんですか?
 秘密だけ知って、裏切ったりはしないですか?」
「裏切ったりはしないわよぉ、貴方を敵に回したら怖いもの。
 レナさん、貴方はクライアントだけじゃなくて、世界の要人から恐れられているのよ。
 日本の特殊部隊を圧倒的劣勢下にも関わらず瞬殺、そしてそこで観測された魔法のような事象。
 貴方がその気になれば、世界中の誰でさえ暗殺する事ができてしまう、それが恐ろしくてたまらないのよ。
 だから貴方を怒らせてその気にさせてしまったら、私もどんな目にあうか……」
「秘密はいくらでも教えてあげます。信じられないでしょうけどね。
 でも、私は貴方達みたいな悪には絶対協力しません」
「別にそれでいいわ。貴方が私達のクライアント、まぁ中国なんだけど、中国に絶対に敵対しない。
 そう誓えるなら、契約成立よ」

私はすべてを洗いざらい話した。
バトルロワイヤルに参加し、そこで雛見沢症候群末期発祥をした事。
雛見沢症候群を克服し、以前よりも格段に優れた身体能力を手に入れた事。
クロスミラージュというデバイスを手に入れ、魔法の力を手にした事も。

「なるほど、信じられないって言うのも納得の話ね。
 でもいいわ、それだけ聞ければ満足よ」
「でも、本当に、本当に雛見沢大災害の真実を報道できるんですか? 揉み消されたりしないんですか?」
「大丈夫よ、マスコミなんて私達の靴を舐めろと言ったら喜んで靴を舐める卑しい連中の集まりよ。
 日本の政府が何を言おうと、遺憾の意を示せばマスコミは公表を差し控えなくてもいい、好きなように報道していい。
 私達の勢力と言うのは、そういうことには慣れているのです。安心してください」
「……分かりました」
「ああ、最後に一つ。これからクライアントの意向で貴方の元をたびたび訪れることになりますが、その時はよろしくお願いしますね」

言いたい事だけ言い終わった野村と言う女性は、あっという間に消えてしまった。
そこに、雛見沢の真実と言うレポートを残して。

そして次の日、マスコミ各社はいっせいに雛見沢大災害の真実と言う特集を組み始めたらしいのだ。
その出演者として私や赤坂さんにも声が掛かり、私は始めてテレビに出演した。
そこですべての資料を洗いざらいぶちまけ、野村さんから頂いた資料も含めて全て白昼の元に晒した。
テレビの中でしか見たことの無いキャスター達や、コメンテーター、芸能人たちが驚いていた。
しかし野村さんの作成した資料は非常によく出来ていて、資料も完全に揃っていた。
だから私の事をペテン師だと疑う人間は極少数で、大多数の人間は雛見沢に起きた悲劇を信じた。

それから一ヶ月もしないうちに、政府はその事実を認めた。
内閣と衆議院はその場で即解散となり、野村さんの予定通りかつての野党が政権を握った。
その野党の党首はすっかり有名人となった私に謝罪し、雛見沢について出来る限りの保障をすると誓ってくれた。
雛見沢の封鎖はすぐにでも解除される事になったため、私の意向で平成五年の6月にしてもらうことにした。
あまりにもトントン拍子に進みすぎて、まるで信じられなかった。
それは野村さんから告げられたミッシングリンクの補完でさえ、風化するほどの衝撃だった。
10年頑張ってどうしてもかなわなかった願いは、突如やってきた悪魔が一ヶ月で叶えてしまったのだ。



◆   ◆   ◆



10年ぶりに再開した梨花ちゃんの死体に、生前の面影はもう無かった。
私達はスコップで古手神社の高台に穴を掘り、骨だけになって風化しかかっている梨花ちゃんを埋めてあげた。

「さようなら、梨花ちゃん……」
「ふぅ……これで全部終わりですか、信じられませんねぇ」
「ええ、本当に」
「看護婦の鷹野さんが全ての黒幕だとは、本当に信じられませんねぇ」
「正確には、あの野村って女ですけどね」

野村さんの資料は、私の推察を完璧に補完するものだった。
雛見沢症候群の研究が打ち切られ、自暴自棄になっていた鷹野三四を野村さんが捕まえ、あらぬ事を吹き込む。
そして滅菌作戦の偽造が始まり、雛見沢は滅ぼされた。
雛見沢を滅ぼしたのは、ただ祖父である高野一二三を神の座に押し上げるためだけ。
それが済んだ後の鷹野三四は、都合が悪いので東京傘下の山狗部隊によって消されたらしい。
鷹野は不思議とそのことを悟っていたそうで、無抵抗で死んだらしい。
最後の言葉は、"ジロウさん"だったらしい。

私には神も、寄生虫も、人類史への偉業もどうでもいい。
でも一つだけ納得がいかなかったのは、どうして愛する富竹さんを殺してまで、自分の死を知っていてさえ凶行に及んだのか。
鷹野三四は高野一二三に大変な恩があり、それ以前は悲惨な生活を送っていた事も聞いた。
でも高野一二三さんは、大切な孫娘に、こんなことをして欲しいとは思わなかったと思う。
やりきれない気分は、全ての真実が明らかになって一年がたっても、未だ覚める事はない。

梨花ちゃんの埋葬を終え、古手神社の本殿に戻ってきた時、私は少女を見た。
今ならそれが何なのか、何を言っているのかも良く分かる。
それは、オヤシロ様だ。あの時私を訪れた、オヤシロ様だ。

「オヤシロ様……」
「レナさん、オヤシロ様ですって?」
「でもその方向には、誰も居ませんね」

大石さんと赤坂さんには見えない、でも私には見える。
たとえそれが妄想だとしても、その角の生えた鬼の少女はオヤシロ様だ。
それが私には、分かる。

「レナ、ありがとうなのです。
 みんなの無念を、梨花の無念を、ボクの無念を晴らしてくれて」
「ごめんなさい、梨花ちゃんや皆を救えなくて」
「いいえ、いいのですよ。レナは最善を尽くしました。
 だから自信を持ってください、そして次に梨花やボクと会うときは、必ず助けになってあげてください。
 そして、あなたが学んだ悔しさを、真実を決して忘れないで、もう一度やり直してください……」
「……オヤシロ様」
「レナ、あなたを許してくれた圭一やみんなとはきっとまた会えます。必ずです。
 ここでは無い雛見沢で、もう一度会えます。
 だからその時は、ボク達のことを助けてあげてください」
「はい……」
「ありがとうなのです……あぅ…あぅ…………」

それで、オヤシロ様は消えた。

「レナさん、一体何が見えたんです?」
「オヤシロ様は言ってました、皆を助けてくれてありがとうって」
「……オヤシロ様ですか、もうそれぐらいじゃ驚きませんねぇ。
 ところで一体何て言ってたんです」
「私達はきっとまた会える、そして罪を滅ぼす機会を与えられる。
 ここではない雛見沢で、もう一度皆に会えるって」
「……生まれ変わりか何かかい?」
「赤坂さん、大石さん、聞いてください」
「……」
「……」
「梨花ちゃんを救えなかった悔しさを、おやっさんを救えなかった悔しさを、絶対に忘れないでください。
 あなた達にはまたどこかで必ず助ける機会が訪れます、だから絶対に忘れないで、次は間違えないでください」
「……もし次が本当にあるって言うなら、次は絶対梨花ちゃんを救ってみせる、絶対にッ!」
「当然ですよ、死んで生まれ変わっても怪死事件の真実は絶対に忘れませんよ、ええ、絶対にッ!」

私達は未来を誓い合った。
次は間違えない、絶対この悔しさを忘れないと。



そして、もしもう一度圭一君と会えるなら。




普通に笑いあって、普通に遊んで、普通に恋をしよう。

それまで私は、この世界で一生を費やして、罪を滅ぼそう。


◆   ◆   ◆


……これでレナの物語はおしまい。
え、これじゃ物足りないから続きが知りたいって?
じゃあサービスで教えてあげるわ。
レナは羽入でも桜花でもない新しいオヤシロ様の血族として、新しい雛見沢の母として新しい神として祭られることになるの。
これでこのお話はおしまいよ。


え、そっちじゃないって?
あらあら、貴方は随分と物知りなのね、じゃあ教えてあげるわ。






梨花は決定していた死の運命を覆し、一度だけ早く最高の未来を手にするのよ。
もちろんその奇跡を起こしたのはサイコロの7、青い炎のお陰よ。

これで満足かしら? 閉じた世界の物語は、これで本当の本当におしまい。



sm233:ベルンカステルの07(前編) 投下順 ep-2:THE END.60%(前編)
sm233:ベルンカステルの07(前編) 竜宮レナ ep-8:春です。



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最終更新:2010年03月18日 12:24