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13 ‐ La Mort ◆jU59Fli6bM













ⅩⅢ 死神 

 正位置:別離、終末、死










童実野町は、いつもどおりの朝を迎えていた。

僕達2人は、光の中にいた。




殺し合いで3日、幻想郷で3日くらい過ぎて、僕達は6日ぶりに自分の部屋に戻った。
でもちょっと、帰ってからが面倒だった。皆僕に言い寄ってくるんだもの。
そりゃあ、じいちゃんやママには会えて嬉しいけど。
捜索を進めていた警察に『決闘王狙いの誘拐事件』をでっちあげて話したりして、あっという間にもう一日。
明日には、また学校に行けるようになる。また皆と会える。

一週間前が、もう、遠い昔のようだった。


そして日も傾きかけてきた頃。
何て言っていいんだろう、とにかく驚いた。僕達にとってまるで予想だにしなかった出来事が起こった。



海馬君と

モクバ君が

家に来た


みたいな



「遊戯、貴様に話がある」


腕を組み、試すような目でこちらを睨む白コートの男。
その脇で、大きなジェラルミンケースを持って立っている男の子。
いつもどおりの風貌、いつもどおりの海馬兄弟が目の前にいた。
僕達はというと、しばらく目を丸くして2人をまじまじと眺めていた。

「お前、どこぞの馬の骨に拉致されていたそうだな」
「……うん」
「お前が消えた日に、我が海馬コーポレーションの社員である磯野が、何者かに殺された」
「他の社員も変な奴を見たって言うんだ。遊戯、何か知ってるか?」

海馬君の後に続いて、モクバ君が言葉を継ぐ。
磯野が死んでいた? 僕らが連れて行かれたのと同じ日に?
……どうやら2人とも、あの殺し合いを踏まえて話をしていない。知らないみたいだった。

「ごめん、僕は知らない」
「……知らないか、まあいい。では、もう一ついいか――
神のカードは無事なのだろうな。奴らに負けたとは言わせんぞ」

思わず、ちらと隣を見る。もう一人の僕と目が合った。

「……負けてないよ。もう一人の僕は」
「本当か?」
「本当だよ」

「……ふぅん。なら、話は以上だ。邪魔したな」

そう言うと、海馬君はもう用はないとばかりに踵を返した。モクバ君もその後に続く。
僕はまだ夢を見ているかのような錯覚を感じながら、2人を見送った。

「遊戯、またな!」
「う、うん……」

そして、2人が部屋を出ていく。後には扉が閉まる無機質な音が、バタン、と辺りに響いた。
しばらく僕らは外に出た二人の後ろ姿を追うように、その扉を凝視する。
そして無音となった部屋で、もう一人の僕が話しかけてきた。

『……相棒。何故、海馬がいるんだ? 生き返った……というわけでは無さそうだが……』

そんなことはまずあり得ないだろう。
主催だって死んだ。幻想郷にも霊夢の死んだ知り合いはいなかったんだから。
これが夢オチっていうなら別だろうけど、残念ながらそうでもないみたいだし。

「もう一人の僕。生き返ったんじゃないなら、他に考えられるのは……何だと思う?」
『……別の世界の海馬ってことか?』
「うん、それもあり得る……。でも、僕は……今より未来の海馬君じゃないかな、と思ってる」

もう一人の僕がはっとしたように顔を上げる。

『……俺達が連れていかれるのと、磯野が殺された日は同じなんだよな。
それは……主催が海馬のところにもやってきた、ということなのか?』

僕は頷く。その日は失敗している、という仮定が必要になるけれど、そうとしか考えられない。
ピエモンあたりがドジやったと思えば納得できるかもしれない。

「まあ、憶測でしかないけど……。海馬コーポレーションは大きな会社だからね。
主催がKCの社員に見つかるなりして、海馬君達の誘拐に失敗したとする。そうなれば、別の機会を狙うんじゃないかな。
それが平行世界なのか、未来の世界なのかは分からないけど」

でも、近い未来だろうなと思った。あの会場で見た二人は今と全然変わっていなかったから。
もう一人の僕は先ほどから思案顔だ。僕の言いたいことに気付いたのだろうか。

「だから、海馬君は来月消えるかもしれないし、来年消えるかもしれない。もしかしたら消えないかもしれない」
『なら、相棒。そこまで推測しているなら、海馬に磯野について聞かれた時、話すべきじゃなかったのか?
近い未来にいなくなるというなら、今……』
「それは駄目」
『え?』

そう、それがさっきついた嘘の一つ。
僕は殺し合いのことを誰にも話していない。この後巻き込まれるであろう海馬君も例外ではなかった。

そして、それが最善だと思ってる。

「まあ、死神の遊戯を実証したいなら、またとない機会かもしれないけどね。
僕らが進んであの世界のことを話しても、きっと信じてもらえないよ?
時空を越える主催の力も結局よく分からなかったし、防ぐにも説明しようがない」

もう一人の僕も、そのことは分かっているのだろう。
……それでも、諦めきれないのだろう。釈然としない表情で僕の言葉を聞いていた。
その気持ちは、僕にも分かるのだけれど。

『……だが、だからといって俺達は何もしないのか? 海馬達が死ぬと分かっているのに』
「うん、僕は何もしない。君もそうして欲しい」
『相棒……』
「もし僕達が警告することで、海馬君が話を信じて、運良く主催を諦めさせたとしても……駄目なんだ。
そうすると、今度は僕達が消えるかもしれない。僕らだけじゃない、生き残った皆もだ。
……それほどのことを海馬君はやりとげた」


今の僕達は、"あの会場にいた海馬君"から見て過去の人物だ。
でも、そうでありながら、"未来の海馬君の運命"を知っている人物でもある。
そして、気付いた。主催でもない僕達が、自分の意思で殺し合いの結果を変えられるのでは、と。
と言っても、悪い方向へだ。
「変えられる」、というより「変えてしまう」。それに気をつけないといけなかった。
海馬君にあのことを伝えて、仮に信じなくても、僕達は預言者となる。それを海馬君がどう思うだろうか?
伝えた言葉がどのように影響するか分からない以上、僕達は何もできない。


最後まで会えなかった海馬君のことは、レナや霊夢から教えてもらった。
つかさ以外の4人は、一時、海馬君と行動を共にしていた。だから、皆色々と話してくれた。
一見不審者で、ロリコンで、ハイテンションで、常に皆の先頭に立っていたと。
そして、持ち前の技術力を駆使し、主催側を混乱させ、首輪を外し、……打開への希望をくれた、と。
霊夢や日吉は褒めているのかけなしているのか分からなかったけれど、皆に信頼されていたようだった。
もし海馬君がいなくなれば、呼ばれなかったら、『打開』は途端に難解になる。
そんな中の奇跡を信じて、海馬君を助けるくらいなら。
……何もしないほうがいい。

僕は、皆を失いたくない。



『……分かった』



理由を説明する。すると、もう一人の僕も納得してくれた。
そして、再び訪れる沈黙。僕達の心の中では、何かやりきれない思いが渦巻いていた。

「……なるね」
「ん? 何か言ったか?」
「いや、ああいう騒がしい人らがいなくなったらさ――」

――寂しくなるね。

「……そうだな」

なんかさ、他人事だよね。君もいつかはそっち側になるのに。




その夜、テレビで海馬コーポレーションの特集を見た。
KCグランプリで海外での評価を取り戻した海馬コーポレーションは、世界海馬ランド計画を進める為に、
アメリカでの「海馬ランド」建設の企画を始めるらしい。
磯野のことについては触れなかったけど、やっぱり昼間の出来事は現実だったんだなあ、となんとなく思った。
テレビの中の海馬君が高笑いし、プ○ジェクトXの司会達がドン引きしている。
もう一人の僕でさえ呆れたようにテレビを見ていた。
何だか今日見た海馬君が、違う世界にいるかのような感覚に襲われた。

部屋へ戻ると、じーちゃんがやってきて話しかけられた。
神のカードを見せて欲しい、と。
僕らが決闘王になってから毎日恒例の頼みだったけれど、とても懐かしい感覚だった。

3枚の神をなめまわすように見て、Gちゃんは満足して帰っていく。
ここまでは何も問題はなかった。少なくともじーちゃんにとっては。
会場から持ち帰ったカードの束、僕らはその中から神のカードを取る際に、色々な非常識に気づいたのだった。
まあ、帰ってきてから持ち物のこと気にする暇無かったからなあ。

「……もう一人の僕、ラーが一枚増えているんだけど……。なぁにこれぇ」
『あ、それはマリクのデッキが勝手に……』
「それだけじゃない、知らないおかしなカードもあるよ」
『カードは皆からまとめてもらったからな、まだ確認していないのも多いかもしれない』
「……へぇ、だから僕のカードの中に、こんなものが混じってるんだ……。オレイカルコスの結界」
『……え!?』

オレイカルコスを見るなり顔色が変わるもう一人の僕。
僕はそれを無視しながら、その薄汚いカードを墓地に送った。
まだ確認していないのもある、か。
皆の持ち物も全ては把握してなかったし、特にデイパックの物は紫やゆとりが適当に配ってたから尚更かも。
それにハルヒのデイパックのものも混じっていた気がする。
でも、適当に配ったと言っても、適して当たりな物をくれたのが意外だった。
おかげでカードの他にも色々手に入れた。

中でも一番ありがた迷惑なのが……もう一人の僕の"本当の名前"。
時々KASがもう一人の僕をAMTと呼ぶのが気になって、聞いてみたのが事の始まりだった。
直後、その場にいた自重しないゆとり達がKASを押し退け、一斉に語りだしたのは忘れもしない。

「何言ってんだよww王様の名前に決まってんだろwwそれにAMTじゃなくてATM!」
「ばっか、このAIBOはそこまで行ってないんだよ! 遊戯王厨の俺が詳しく言うとアニメ200話AGO作画の前あたりだ」
「ATM!ATM!我が名はATM!」
「……い、言っておくが俺は隠すつもりだったからな! ゆとりの近くで聞いたのが尽きの運だっていぐふっ!?」

「ネタバレ死ねよ!!」
『こんのぉ~!』


……今思えば、ニコ厨というものをもっとよく知っておくべきだったんだろう。
あそこで黙らせなければ結末までネタバレされていたかと思うとぞっとした。
あいつらの言うとおりに事が運んでいくなんて気分のいいものじゃない。というかきもい。
僕はそのままアテムと呼ぶのは癪なので、あえて聞かなかったことにした。
もう一人の僕はそれから某自動現金預け払い機に反応するから困る。

「……そういえば、君は本当の名前を知って何か思いあたることは無いの?」
『いや、記憶が戻るということはないが……あいつらの言うことは信じてみることにした。
俺の記憶をあいつらが知っているのは奇妙だが』
「今度また幻想郷に行くんだし、ゆとりに変なこと吹き込まれないようにね」
『宴会か?迎えがいつ来るか知っているのか?』

宴会。おそらくこれが皆と会える最後の機会になる。
でも、皆それがいつなのかは知らない。霊夢の頼みで紫が動くことになっていたから。
あの神出鬼没な妖怪のことだ。細かい日時は紫の気分次第だろうなと思ったので、
僕はあらかじめ日を選べるように相談しておいた。

「もう一人の僕、美術館へ行くのは3日後。それで良かったんだよね?」
『ああ、帰ってきて5日、だったな。あまり遅いとエジプト展が終わってしまう』
「紫に言ってあるんだ。出来れば僕らの、……君の物語の続きが始まる前に、って。
だから、近いうち――それこそ明日か明後日あたり――に来ると思う」

自分で言ってなんだけど、これ帰る意味あったかな? あの時はとにかくこっちの世界が気になってたからなあ。

『ああ、記憶を探している途中で宴会の迎えに来られても困るからな』

……君がいなくなった後で宴会の迎えが来たら、君だけ皆と会えないしね。
そんなことを口に出そうとする自分に気づいて、僕は顔をしかめた。

『相棒?』

咄嗟にその言葉を頭の隅に追いやり、先ほどの話を繋ぐ。

「別れた皆も、それぞれの物語があるんだろうな。皆一段落して来るだろうし――」

一段落。僕らの物語に当てはめると、その言葉は適切であり不適切でもあった。

『……ということは、皆ばらばらの歳になってたりするのか?』
「あり得るね。全く時間の経っていない僕らの横で、おばさんたちが話していたりするわけだ」
『ああ、俺も楽しみだぜ、更に成長した皆の姿を見るのが!』

もう一人の僕は実に生真面目に言葉を返してくる。
いつもの調子だ。そのはずなのに、なんだかこの話題を続けるのが嫌になった。
僕は机の椅子にもたれ掛かって天井を見上げる。
張り替えたばかりだという窓から見える星空が、前よりも透き通って見えた。

そういえば、僕らがいない間に泥棒が入ったらしい。犯人はいつかのダイナソー竜崎。
神のカードが狙いだったようだけれど、当然それは僕ら同様消えていたわけだから探すうちにそのまま御用だったとか。
だから目立った被害は部屋荒らしとガラスを割られたことくらい。
そういえば、何であいつ一人だったんだろう?
こう言うのもアレだけど、羽蛾君がいた方が悪知恵が効いてもっとマシな結果になったと思うんだけれど。

『相棒……、羽蛾はあの殺し合いに呼ばれていただろう』

あれ、そうだっけ。
じゃあ、ちょっと、変わっていたんだね。
とはいえ、ちょっととは言っても、これだけこの世界で変化の積み重ねがあるって不味くないかな。
ゆとりたちの知ってるあらすじと少しずれそうな気がする。
……僕の嫌な予感だから、当たらないことを祈ろう。





そして、それからはデッキの再構築に時間を費やした。
明日持っていって、久々に城之内君とデュエルをするためだ。
持ち帰ったカードの束を全て確認して、レッドアイズのカードが僕の手にあることを思い出した。
確かこれは最初に琴姫さんからもらって、ずっと持ち歩いていたんだっけ。
2回くらい使った気がするけど、どこでどんな風に使ったかははっきりと覚えていない。
事実、あの殺し合いの記憶は、少し日が過ぎただけだというのに薄れ始めている。
例えば、初めて会った時のハルヒを思い出せと言われても、どんな姿だったか、あの時何を話したか。
その記憶は曖昧だ。
生き残った皆と、もう一人の僕と会えなくなっても、一緒に過ごした時間を昨日のことのように思い出せるだろうか。
――なんて、機械じゃないしそれは無理だろうな。

でも、薄れることはあっても忘れるということは絶対にない。
僕はそう確認するように呟いた。

「もう一人の僕……、宴会までの時間はすぐ終わるけどさ、僕はあの3日間を忘れないよ」
『ああ、俺もだ。あの殺し合いのことは絶対に忘れない。皆のことも、主催達、その部下達のことも」
「乗ってた変な人達のこともね」
『ま、まあな』

もう一人の僕は自然に話題にのってくれる。二人で思い出を語り合うなんて珍しいかなと思ったけど、
たまにはこれくらいいいよね。

レッドアイズのカードをデッキと一緒にカードホルダーへ入れる。
そうだ、確か初めて使った時は、一日目の夜だった。
あの時、僕は負けたんだ。何でかあまり覚えてないけど……、僕は絆を信じきれなかった。
皆に見捨てられる幻覚さえ見た気がする。何であんなものを見たんだろう。
薬のせいだったのかもしれない。全部まわりのせいにして楽になりたかったのかもしれない。
もう限界だった僕は、それ以上絆を信じ続けることができなかった。
そして、近くにあった他の「可能性」に頼った。

「その後は全然覚えてないんだけど……必死だったのかな。どうなったんだっけ?」

それを聞いてもう一人の僕は飛び上がった。顔に動揺の色がありありと出ている。

『お、覚えてない!? それは……だな……。……相棒は大分グロッキーというか……、いや、どうってことないぜ!』

うーん、そこまでヤバかったのかなぁ。もう一人の僕が隠すくらいのグロッキーだったんだろうな。
次に気付いたときには暴走つかさに襲われてたっけ。
熱が下がったら、ようやく感情が戻った気がしたけど、僕自身はそのまま元に戻る気はなかった。
いつの間にか、僕はだんだんと冷笑的な目で見るようになっていた。
力で威圧する奴らを馬鹿馬鹿しいとしか思わなくなる程度に。
そのときはムスカ、ハルヒ、古泉に永琳と敵ばかりに遭遇していたし、変な感情にまとわりつかれない方が楽だったし。

『だが、非道な行いをする奴らを許さない気持ちは本当だっただろう?』
「非道?外道とは言われた時あるけど」
『いや、相棒のことじゃなくて……』

だから、しばらく気付かなかった。ずっと綱渡りの状況で気を張ってたせいかもしれないけど……
僕は再び、少しずつ絆を信じるようになっていた。
レナ、つかさ、日吉、そしてもう一人の僕。少数派の皆と一緒に行動するようになってから。

「僕、皆が大好きだよ。力を合わせて障害を乗り越えていくうちに、僕に思い出させてくれたんだ」

いつの間に忘れていたんだろう、あんなに大切なことを。もう一人の僕がたどり着いた答えを。
言葉を継ぐ。自分でも声に力が入ったことに気が付いた。

「『結束』の力――。絆を信じれば、必ず光は見えてくるって」

絆は、出合った人達と記憶を共有して生まれる。
人の都合も考えず、あちこちくっついて自分や他人をふりまわすこともあるけれど。
皆と共有する思いの大きさ、それが『結束』の力になる。
それを、理解するだけじゃない……。この殺し合いの中で、身をもって知った。

あと、それは憎みあった他人とも出来てしまうものだってこともね。
永琳やハルヒや主催たちも、死んだからといって許す気はない。今でも嫌いだ。
でも、少数派の仲間たち同様、いつまでも忘れないでいたいと思った。
そう思うのは、悪いこと?

『何だかんだ言って、あいつらにも助けられた時があったからな』

まあ、それもあるけどさ……。

「やっぱり、相棒は強いな」

もう一人の僕が満足げに頷いたかと思うと、僕を見てぽつりと言った。
なんかこういうこと、前にも言われた気がする。またヘタレをアピールでもするんだろうか。

「当然だよ、――って言いたいところだけど、僕はまだまだ弱いよ。あの殺し合いでたくさん学ぶことがあったしね」
『だが、俺がいなくても平気だったじゃあないか。俺はあの会場で、相棒は既に俺を越えていると確信したんだぜ』

俺がいなくても――。
なぜかその言葉で、僕の体に電流にも似た衝撃が走るのが分かった。

「……どういう意味?」
『あの3日間、俺は相棒に助けられてばかりだった。人質にまでなって、足を引っ張ってばかりですまないと
思っている』

違う。二人で足りないところを補いあったから、僕らはあの3日を乗りきれたんだ。
今だからそう言える。
どちらかが欠けていては生き残れなかっただろう。
そして別々に行動していた時の僕は、仕方ないとはいえ、許されない事をしている。
それを強いと誉められているのかと思うと、何だかショックだった。

「……どうしてそんなこと言うの?」
『相棒?』
「そうさ、平気だった。僕は一人でいたあの時、君を見捨てたんだ。でも、それは強いって言うの?」

気づくと、僕は爪が食い込むほど強く手を握りしめていた。
だんだんと記憶が蘇る。そう、確かに他の皆の事を考えると、他の選択は選べなかった。
でも。

『あの時は、仕方なかったんだろう? 結局俺も無事だったし、お前を恨んではいない。気にすることはないぜ』

もう一人の僕もそれを理解して、許してくれている。
まあ前科があったから責める気は元々無かったと思うけどね、それはお互い様だ。
それは分かっているんだ。
けれど、僕が気にしているのはそれとは違う。

僕はあの時。
人質として再開したもう一人の僕を見て、見捨てようと決断した時――

……何も思わなかった。

あの後すぐ殺されてもいい状況だった。なのに罪悪感はなく、後悔する気も欠片も無かった。
ハルヒ達ゴミ蟲野郎共を倒すことの方が大事で、ぶっちゃけもう一人の僕は邪魔だった。
あいつらの驚愕した顔、今でも覚えてる。そんなことを僕は平気でやった。

今でも時々、ヘタレな王様にいらっと来ることがある。
あの時とはもう違うと、そうは言ったけど。

僕は焦点の定まらない目を元に戻し、もう一人の僕を真っ直ぐに見つめる。
不安そうにこっちを見ていた目とぶつかった。僕は慎重に息を吸い、口を開く。

「もう一人の僕、明日の学校さ……、家で留守番してもらっていいかな?」
『どうした? いきなり……』

不安だった。
もう一人の僕が還っても、僕はあの時のように何も感じないのだろうか。
思い出しても、「ああ、そんな奴もいたな」と笑い種にするのだろうか。
そんなわけがない。そう言い切れないのが恐かった。



だからもう一度、離れてみたくなった。


それが僕のわがままだと分かっていても、確かめたい。どうしてもその気持ちを抑えられなかった。

「紫が来るかもしれないんだ。学校まで追ってきて神隠しされちゃ困るでしょ」
『…………』

我ながら不自然な理由付けだ。
もう一人の僕にはいらない日なんてない。明日だって残された貴重な時間だ。
不審に思うか、拒否するのが自然だろうなと思った。

でも、その答えを聞いて驚いたのは僕だった。

『分かった。いいぜ』

もう一人の僕は、いつもの調子で軽く言った。

「え?」
『そのほうが相棒にとっていいのなら、明日は相棒に譲る。あまり気に病むなよ』

適当に答えたのではない。僕が裏で何か隠しているのに気付いているんだろうと思った。
……参ったな。そうだよね、もう一人の僕に隠し事は無駄だよね。
僕はそっと目を逸らした。


「ごめん、……ありがとう」



幻想郷にいる時だったか。
相棒の心の部屋を覗いたことがあった。
心の整理をするとは、文字通りああいうことなのだろう。
目につくような乱れがなく、薄暗く感じる部屋に置かれたデッキが目立って見えた。
俺達の心は、闇と隣合わせだった。




「というわけで」
「え?」

出した声が甲高く響き、思わず口を手で覆う。
目の前、いや、頭上に相棒の顔があった。それだけで今の状況を把握するには十分だった。
萌えもんパッチ。まさか持ち帰っていたなんて。
……そういえば幻想郷で、帰ったら2人でデュエルしたいと言っていたような……。

「帰ってくるまで、留守番よろしくね」
「いや、これは見つかったらやばいって!」
「何で? 昨日はいいって言ったじゃん」
「ここまで考えてなかったんだ……」
「大丈夫、今みたいに騒がなきゃ来ないって」

今みたいに……?
俺は咄嗟に下の物音に耳を傾ける。すると、相棒が俺を見て愉快そうに笑った。

「冗談、冗談」

昨日のすれ違いが嘘のような笑顔だった。でも、千年パズルを置いていく約束は嘘ではない。
首に何も提げていない相棒の姿が、昨夜の出来事を鮮明に思い出させる。
そして、俺は目をベッドの脇のデイパックへと向けた。

「それじゃ、またね。イテキマー――」
「相棒」

相棒が動きを止め、こちらに振り返る。
俺はその怪訝な表情の前に、デイパックから取り出した物を突きつけた。

「これ……いいの?」
「持っていったほうが、皆怪しまないだろう」

偽の千年パズル。
元はマルクが相棒を引き込む為の餌として作り出した物だった。
これを持たされ城で待ちぼうけしていたゆとりが生き残っていたので、幻想郷にいた時に渡されていたのだ。
ただ、相棒はマルクの誘いを一蹴するのと一緒に、パズルのことを諦める覚悟も決めた。
今まで取り出さなかったのは、俺のことを気にしていたからなのかもしれない。

「――俺からも一ついいか」

一つ、というのはパズルだけのことではない。
それに気付いた相棒は、偽パズルに注いでいた視線を、俺の目の位置までもってくる。

「明日一日は、いつも通りに皆と過ごそう。これであいこだ」

相棒は正面から俺の言葉を受け止める。そして、頷く代わりに偽のパズルを首に掛けた。
再び前を向いた相棒の顔には、影の無い笑顔が浮かんでいた。



「勿論だよ……相棒!」






俺が皆といられるのは、あとどのくらいなのだろう。
相棒が出て行って少しの間、そんなことを考えていた。

この生活が名残惜しくないと言えば嘘だ。だが、俺は自分自身を見つけ、あるべき場所へ還らなくてはいけない。
でも、それを皆は受け入れてくれるだろうか。

もちろん答えはすぐに出るわけではない。こんなことを考えていても仕方が無いと思い、しばらくして一人で考える
のも止めた。
朝の光で満たされた部屋。その中にいる俺の心は、何か物足りなかった。
デイパックを覗いた時に感じた違和感。あれは何だったんだろうか――。
何か、嫌な予感がした。

「あら、そんなに思いつめているようなら幻想郷はいかが? 黄泉路はすぐそこにありますわ」



そこまで考えた時、突如、余裕を含むゆったりとした声が部屋の空間に混じった。

「それとも私が勝手に境界を弄くっておきましょうか?」
「心配いらない。これは俺の問題だ」
「あら、それは残念」
「……お前、いつからここに?」

くすっ、と吹き出す声が後ろから聞こえた。
振り返って見えたのは、薄暗い部屋の奥に佇む、和と洋を混ぜ合わせたようなあの妖怪の姿。

「もう、お前とは失礼ね。せっかくお迎えに来てあげたのに」
「……宴会か?悪いが、相棒がいないんだ。今は行くことはできない」
「それは知ってるわ。……まあ、少しばかり遅れて出て来たのは事実だけれどね。あなたが留守番じゃなかったら
朝イチで神隠しの予定だったのに」

そう言って、紫はつまらなそうに目を伏せて窓の向こうを眺める。
俺の頭に、家を出る前に宴会するはめになって紫に不平をぶつける相棒の姿が浮かんだ。
……ん?それがしたかったのか?

「嫌ね、霊夢の頼みが面倒だから少しくらい遊ぼうだなんて思っていませんわ」

目を合わせると、心を読んでいるかのように答えを返される。

「でもまあ、丁度いいわ。話してほしいことがあるから、神隠しされるかスキマ送りにされるか選びなさい」

いきなり何なんだ。しかもどっちも言っていることが同じだ。

「拒否権は無いのか?」
「言い方が悪かったわね。殺し合いに呼ばれていた八意永琳について教えてほしいの」
「意味☆不明……って、え、永琳?」

そういえば話には聞いていた。俺たちが会った永琳は違う世界の永琳だったらしい、ということ。
幻想郷の永琳は、普通に暮らしていたということも。

「別の世界の永琳をよく知ってて、今暇そうなのは貴方くらいなのよ。永琳も詳細を知りたがっていたけれど、
私も貴方たちが脱出してくるまで知らなかったことだし。調べるのも骨が折れるから貴方に任せたいの」

俺が幻想郷に送られて代わりに答えるってことなのか?
思わず頭を横に振った。ふと、永琳の死に顔が俺の脳裏に浮かぶ。
俺の知っている永琳は死んでいる。だから、出来ることなら会いたくないと思った。

「任せたいって言われてもな。幻想郷に行かなければいけないのか?」
「ここに連れてきてもいいわよ?ほら、出てきました」
「な!?」
「嘘、嘘」

紫がスキマから出した看護帽を手でもてあそびながら笑う。心臓に悪い。

「まあ無理にとは言わないわ、そんな重大なことでも無いようなら。ただ、どこの世界から来ていたのか気になってね」
「……古代の中国、だったと思うが……。多分、幻想郷に影響は無い。永琳が殺し合いに乗っていたのは
その世界の主君の為だったからだ」

それを聞いて少しの間思案顔になる紫。一瞬俺を見る目が鋭くなったような気がした。
紫はスキマを出現させ、看護帽を放ってから再び口を開く。

「真面目ね。そこは素直にかくかくしかじかでいいのよ」
「かくかくしかじかで伝わるのか?」
「そう、伝えておくわ。じゃあ話はここまでにしておきましょう」

一方的に話は終わり、紫は出てきたスキマに乗ってふよふよと浮かぶ。

「来客よ」

流れるような視線は再び窓の外へと注がれ、紫はふっと微笑む口元を手で覆った。
俺もつられるように朝日の差す窓へと顔を動かす。すると。
それと同時に聞こえてきたのは、間違えるはずはない……久しぶりに聞く友の声だった。

――皆来てくれたのか!
そう思うが早いか、俺は窓へと駆けた。
……はずだった。

「あらあら、せっかちねぇ」

のんびりとした声が聞こえたかと思うと、俺の体は宙にあった。

「え?」

手のようなものに掴まれ、放り出される。瞼を開くと、窓の下に置かれている机の卓上が目の前にあった。
状況が掴めず、辺りを見渡そうとしてマントにつまづき、机に頭から倒れこむ。

「あぶっ!」
「うふふ、ほら、落ち着きなさいな」

これで慌てない方が無理だ、と思った。ゴールドな装飾が額に食い込んでズキズキする頭を上げる。
紫のほうを向くと、黒い隙間のようなものに腰掛けながら笑っていた。

「あまり一人で盛り上がって見つかっちゃ駄目よ。誰かさんみたいな扱いになったら色々面倒なの」

誰かさんが誰かは分からないが、どうやら今のは忠告の為にやったらしい。
確かにこの姿で堂々と出かねなかったが……。言い返せない俺に誰か迷惑と親切の境界を教えて欲しい。

「では、今日の夕方、改めてお迎えに上がりますわ。あの子にも伝えておいて」
「……ああ」


――そして、早く気付きなさい。そのために、私からも今日一日時間をあげる。



「……紫?」

手をひらひらと振ったかと思うと、もう紫の姿はそこにはなかった。
そして静まりかえった部屋。そこには外から僅かに入る話し声だけが響いていた。
その声で今何をしていたのか思い出し、俺はうつ伏せとなっていた体を慌て起こす。

「ええ、遊戯の奴もう出て行ったのか!?せっかく皆で揃って迎えに来てやったのによー!」
「もう!大体、城之内が遅れて来たのが悪いんでしょ!」

窓を通して不鮮明となった声が耳に届く。
下を覗こうとしたが、屋根が斜めになっているために真下が見れなかった。

「ほっほ、すまんのう。遊戯も今日は張りきってたみたいだからのー」

境界を作る窓の存在を歯痒く思った。聞こえる声が俺を急き立てる。ついに耐えきれずに、開けた。
城之内君、杏子、本田君、獏良君、御伽君。
いつも通りの皆がそこにいた。

「仕方ねーだろ、久しぶりに遊戯とデュエルするためにデッキ調整してたんだからよ!」
「ああもういいから、 早く学校行くぜ! 走るぞ!」
「え、じゃあ失礼しました!」
「ホホ、行ってらっしゃい」
「ま、待ってよ~!」

「明日……、楽しみだな」

皆の後姿を見ながら、誰に話す訳でもなく俺は呟いた。
殺し合いで途切れていた俺の物語も、再び動き出すまで、あと2日。
俺はあるべき場所へと還る時、俺の物語が終わる。
だが、その終わりは始まりでもある。相棒は相棒自身の物語へと進むんだ。

俺達は美術館へ行き、言われたとおり神のカードを使って記憶を見つける。
そして、千年アイテムを……全て揃え――
揃え、て……?



――一瞬、俺の脳裏に、紅く染まったHALの姿が映った。



顔から血の気が引いていくのが分かった。しばらく呼吸することも忘れていた。
気付くと、俺はその名前を呼んでいた。

「……紫、紫っ!」




「そうだ、遊戯! 俺のレッドアイズ知らないか? 前々からどこにもねぇんだ!」
「あ、それなら僕持ってるよ。なぜか僕の手元にあってさー。変だよね?」
「もしかして、レッドアイズも遊戯を守ってくれてたのかもね!」
「ねぇ、それより僕の千年リング、ずっと身に付けてたのに無いんだ。また黙って隠してない?」
「いや、あれはヤバいから探さなくていい。というか身につけるな!」
「うう~……角のバカ!」



「……え?」








ⅩⅢ 死神

  逆位置:再出発








その後、凄くなぁにこれぇな記憶戦争を繰り広げたり、本当は見れない予定だった忠実の記憶を見たり、
どこぞの墓守達が困り果てたり、私が睡眠不足になったりするのはまた別の話。
そして、一人のファラオの物語の結末は――うふふ、ご想像にお任せしますわ。
どの道を選ぶかはあの人達次第。
どのような結果になっても……、それがこの世界での遊戯の物語となる。
ここからはもう、ニコ厨なあなたの知っている物語ではないわ、これからじっくり楽しみなさいな。
いずれは、光の中で終わるのだから。

さあ、今は……晩餐を共にしましょう。



ep-4:SAMURAI DEEPER WAGASHI 投下順 ep-6:木菟咆哮
sm233:第三次ニコロワ大戦Ⅴ ――Happily ever after 武藤遊戯 ep-8:春です。



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