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 今日は僕の待ちに待ったソロイベントの日。 学校ではつい眠ってしまい、先生たちに朝から注意を受ける始末。 歌の練習を夜中まで張り切り過ぎたかな、と反省する僕だったけど、イベントのおかげで暗くならずに済んだ。 唄うのが好きな僕がソロで唄える、数少ない日だし大事にしたい。 贅沢をいえば、これで誕生日と重なっていたら、僕には一生残る記念日にはなったと思う。 電車でイベント会場まで移動する途中、携帯する音楽プレーヤーで何度も復習もした。 不安が全くないわけじゃないけど、出来ることはやったんだし、もう悩んでもいられない。 もう今は会場の中なんだし。 「岡井ちゃん、今日は楽しみにしてるで。頑張りぃや」  コンサートではよくお世話になるまことさんが、励ましの言葉を送ってもらい、僕は笑顔で返す。 僕が笑顔になると皆も笑顔になってくれる。 それはまことさんも例外ではなくて、笑顔に笑顔で返してくれた。 まずは一回目の公演の時間が近づいてきた。 イベントのある部屋にはお客さんが集まり、皆がざわざわと落ち着きなく会話しているのが聞こえる。 いやでも緊張は高まってきて、僕は落ち着けと深呼吸をする。 会場の中から、まことさんが僕を呼び出す声がかけられ、お客さんが「ちっさー」と呼んでくれる。 落ち着け、楽しんでくるんだ。 そう言い聞かせ、僕は一回目の公演に臨んだ。  一回目の公演は、緊張しっぱなしでお客さん一人ひとりの顔もちゃんとみられなかった。 歌とトークもとにかく無我夢中だったから、自分でも皆が喜んでくれたかわからない。 ただ、ここに来てくれた人たちの顔を唄いながら、見回すと笑顔だったからきっと楽しんでくれたはずだ。 夢中でやった一回目は終わると、まことさんが「ここで聖歌隊を呼びましょう」、とカウンターに向かって呼びかけた。 カウンターからひょっこりと顔を出した三人に、頭が混乱してうまく言葉が出てこない。 僕に向けて、合同コンサートの時にみせた妖しい視線をまた送ってくるえりかちゃん。 今にも「キュフフ」と笑い出して、あの可愛らしい声で話し出しそうななっきぃ。 この間はごめんね、と控えめな笑顔で上目遣いに僕を見てくる栞菜。 栞菜なんて、この間は僕が先に祝ってもらった事に腹を立てていたし、来てくれただけで嬉しい。  これには相当驚かされた僕も、そういえば愛理が言っていたのはこれだな、と思い出す。 イントロが鳴り出し、三人が「ハッピーバースデー♪」と唄いだした。 三人は誕生日を明日に迫った僕に、『ハッピーバースデー』を唄ってくれる為にわざわざ来てくれたんだ。 それがわかると、胸の奥からこみ上げるものがあって、嬉し泣きをしてしまいそうでぐっと堪えた。 三人が唄いだすと、一回目に参加してくれたお客さんたちまで「ハッピーバースデー」と唄いだした。 堪えたはずの涙が流せばいいじゃないか、とどんどん溢れてくる。 ダメだ、二回目があるんだから、目を真っ赤に腫らして出たりしたら余計な心配をさせてしまう。 一回目のお客さん、本当にありがとうございます。 この恩は歌で返せるよう、コンサートを期待していて下さいね。 握手をする手にこの思いを込めて、力強く握り、一緒にとびっきりの笑顔で見送った。  終わった後、舞美ちゃんや舞ちゃん、愛理が聖歌隊にいなかった事が悲しくもあった。 学校で来られなかったのかな、他のお仕事で来られなかったのかな、と想像してちょっと落ち込んだ。 今日の朝にメールで頑張ってね、なんて応援してくれた事だけでも感謝しないとかな。 さすがに舞美ちゃんや舞ちゃんも忙しい、と諦めるしかないみたいだ。 この二人に限って言えば、メールもくれなかったぐらいだし仕方ないのかもしれない。 舞美ちゃん、僕に好きだってあの時、言ってくれたのに・・・ 三人が来てくれて元気はもらえたし、二回目もお客さんを笑顔にできるよう頑張ろう。  楽屋に戻った僕を、さっそくさっき祝ってくれた聖歌隊のメンバーが出迎えてくれた。 三人ともさっき祝ったばかりなのに、ここでも拍手をして「おめでとう」とまた祝ってくれる。 「ちさと、おめでとう。一日早いけど、気にするなよ」 「ちっさー、おめでとう。これで私と年が同じだね。しばらくは同じ歳だから、同級生気分が楽しめていいかも」 「ちっさー、おめでとう。えぇと、この間はごめんなさい。本当にごめんなさい」  三人があの場では伝え切れなかった想いを、言葉にしてくれるのがとても嬉しい。 三人の顔を見渡し、僕はここでようやく「ありがとう」と感謝を口に出来た。 何度言っても言い足りないくらい、三人が祝ってくれた事が嬉しかったんだ。 「ちさと、それにしてもあんた歌上手くなったね。お世辞じゃなくてさ、お姉さん感動したよ」 「うん、私も同じく。ちっさー、最後の曲は熱入っていたね。もう上手すぎ。キュフフ」 「私もデュエットしてて思ったけど、ちっさーは上手いね。負けないように頑張るから!!」  照れ笑いを浮かべ、僕はえへへと誤魔化すように頭の後ろを掻いた。 褒められるのは純粋に嬉しいし、何より誕生日を祝ってくれたのもあって、気分は最高潮だ。 これなら、緊張も解れてきた僕が二回目でより良いパフォーマンスが出来そうな気がしてきた。 すぐに二回目が始まる事もあって、三人はお祝いの言葉を伝えると「頑張れ」と言って、楽屋を後にした。 三人がいなくなった後の楽屋は寂しかったけど、僕にはたくさんの勇気を残してくれた。 時間を確認して休憩を終わりにすると、二回目の公演へ向かった。 「こんばんは~℃-uteの岡井千聖です。よろしくお願いしま~す」  『僕らの輝き』を入場曲に選んだ僕に、まことさんとお客さんが温かい声で迎えてくれる。 「私たちが初めてレコーディングした『がんばっちゃえ!』を歌いたいと思います」と、開始を宣言した。 一曲目、『がんばっちゃえ!』のイントロが始まり、イベントが本格的に始まった瞬間だった。 初めてレコーディングした思い出深い曲ということもあって、初めからテンションは上げ上げだ。 懐かしいレコーディング風景が頭に浮かび、記憶はどんどん遡り、映画の撮影をした時にまで戻った。 胸を躍らせながら唄う僕に、お客さんの視線が一斉に浴びせられる。 いつもは独り占めできないスポットライトを独占した気分で、気持ちよく唄える。 最高だ、ソロイベント。 気分は最高潮の中、一曲目は気づくと唄い終わっていた。  そして、二曲目に入る前に『成長したかの調査コーナー』があって、四年前の質問の答えと今を比べてみる。 自分でも忘れていたことが多く、比べてみるとこんな僕でも成長したんだなと嬉しくなってきた。 お客さんも僕の成長を見てきてくれた分、このコーナーにも集中して聞いてくれる。 とくに『短所は?』には皆が笑いながらも、納得だと頷いていた。 自分でも『テンションがあがりすぎるとうるさすぎる』には、ちょっぴり反省の意味も込めている。 それが四年も前から変わっていないのには残念な気持ちでいっぱいだったけれど。 お客さんたちも笑いあう中、コーナーは終わり、僕が自信をもって聞かせられる曲になった。 さぁ、頑張ろう。 本家の藤本さんに負けないよう、僕の精一杯の歌声を響かせるんだ。 自分でも意識しているとはいえ、藤本さんの歌い方そっくりだなとつくづく思う。 やっぱり、この曲も藤本さんも大好きだ。  次は質問コーナーになり、お客さんからたくさんの質問に答えた。 中でも、娘さんを僕みたいな女の子に育てるにはどうしたらいいですか、という質問は感激してしまった。 男の子だから元気ってわけじゃないけど、娘さんを僕みたいにしたいって言われたら、照れ臭い。 僕には女の子でも元気よく外で遊んでほしいとしか言えない。 太陽の下を走り回って、走っていれば、僕よりも元気な女の子になれる、とアドバイスを送る。 この時、一番下の妹の事が浮かび、あの子も元気な女の子になってくれるようにお祈りした。  こうして、選ばれた質問に次々と答えていき、質問コーナーは終わり、ついに最後の曲『砂を噛むように…NAMIDA』のお披露目になる。 この曲は松浦さん並みの歌声で唄えて、初めてお客さんの心に届く曲になる。 それを僕は歌に溢れ出す感情を込めて、皆に届けと唄いだした。 もう無我夢中になっていたから、唄い終わった後にまことさんが感心しきりだったのには驚かされた。 後から聞かされた話によると、カウンターの下で聞いていた愛理はライバル心に火がついたと言っていた。 おっとりそうに見えて、負けず嫌いな愛理らしい受け取り方だな、とも思う僕も、ライバルとして見てくれた事が嬉しくもあった。  三曲全てが歌い終わり、僕には満足感と達成感、次回のソロイベントへの期待が湧いていた。 皆が拍手と声援をかけてくれ、ステージから部屋の端から端までをゆっくりお客さんの顔を眺めていく。 よかった、皆が笑顔でとっても満足そうに頷いてくれる。 僕もにっこり笑い返し、今日のイベントが大成功に終わりそうなので安心した。 と、そこへ再びまことさんから「岡井さん、二回目にも実は聖歌隊を呼んでるんです」、とカウンターに向かって呼びかける。 あれ、おかしいな、えりかちゃんたちならさっき来てくれたのにまた出るんだろうか?と不思議がった。 だけど、カウンターから顔を出したのはえりかちゃんたちではなく、まさかの舞美ちゃん、舞ちゃん、愛理だった。 嘘だろ、てっきり三人は忙しいから来てくれないと勝手に思い込んでいたから、僕は面食らった。 「おめでとう」と言いながら、爽やか笑顔でお祝いしてくれる舞美ちゃん。 お祝いの言葉を言いながらも、ちょっぴり怒ってるようにも見える舞ちゃん。 目を細める独特な笑顔で、口だけを動かして「おめでとう」と呟く愛理。 そして、愛理だけ「おめでとう」の後に「後で話しがあるから楽屋でね」と続けた。 何だ、どんな話があるって言うんだろうな。 愛理の言葉に色々と考え込む僕に、一時間くらい前に聞いた『ハッピーバースデー』が流れ出してきた。  一回目の時と同じように、お客さんを巻き込んでの大合唱になる。 皆が岡井千聖に喜んでもらおうとしてくれるのが伝わり、歌って唄うだけじゃなく聞くだけでもいいもんだ、そう思えるようになった。 上手い下手じゃなく、歌は誰かの為に唄うのは素晴らしいものだな。 こんな聖歌隊なら毎年お祝いしてほしいよ。 舞美ちゃん、ありがとう。 舞ちゃん、ありがとう。 愛理、ありがとう。 そして、大事な僕のファンの皆さん、本当にありがとうございます。 辛いとき、悲しいとき、支えてくれたのはメンバーや家族、スタッフの人、ファンの皆さんがいてくれたおかげです。 歌の後にあった握手会は、皆さんと会話が少しでも出来るよう返事をしっかりしたつもりだ。 何度でも繰り返すけど、ファンの皆さん、本当にありがとうございました。  握手会も終えた僕は、愛理が待つ楽屋に戻った。 ドアを開けて中を見れば、後で話しがあるからと言っていた事もあって一人だけだ。 僕に一体どんな話があるって言うんだろうな、愛理は。 全く想像がつかない僕に、「突っ立ってないで座ったら?」と既にくつろいでいる愛理が勧めてくる。 うぅ~ん、今日だけは僕の楽屋なんだけど、愛理は自分のもの気分でお茶まで飲んでいる。 この落ち着き方は以前感じた不気味な雰囲気に近いものがある。 怖いなぁ、また脅しみたいな事をされる不安を感じる僕から読み取ったのか、「そう怖がらないで」と呟く。 ちょっと無理な相談だな、君は前科があるんだから、警戒するなって方が間違いだ。 僕は向かいの席にゆっくりと腰掛け、さっそく話は何か、本題を切り出した。
 今日は僕の待ちに待ったソロイベントの日。 学校ではつい眠ってしまい、先生たちに朝から注意を受ける始末。 歌の練習を夜中まで張り切り過ぎたかな、と反省する僕だったけど、イベントのおかげで暗くならずに済んだ。 唄うのが好きな僕がソロで唄える、数少ない日だし大事にしたい。 贅沢をいえば、これで誕生日と重なっていたら、僕には一生残る記念日にはなったと思う。 電車でイベント会場まで移動する途中、携帯する音楽プレーヤーで何度も復習もした。 不安が全くないわけじゃないけど、出来ることはやったんだし、もう悩んでもいられない。 もう今は会場の中なんだし。 「岡井ちゃん、今日は楽しみにしてるで。頑張りぃや」  コンサートではよくお世話になるまことさんが、励ましの言葉を送ってもらい、僕は笑顔で返す。 僕が笑顔になると皆も笑顔になってくれる。 それはまことさんも例外ではなくて、笑顔に笑顔で返してくれた。 まずは一回目の公演の時間が近づいてきた。 イベントのある部屋にはお客さんが集まり、皆がざわざわと落ち着きなく会話しているのが聞こえる。 いやでも緊張は高まってきて、僕は落ち着けと深呼吸をする。 会場の中から、まことさんが僕を呼び出す声がかけられ、お客さんが「ちっさー」と呼んでくれる。 落ち着け、楽しんでくるんだ。 そう言い聞かせ、僕は一回目の公演に臨んだ。  一回目の公演は、緊張しっぱなしでお客さん一人ひとりの顔もちゃんとみられなかった。 歌とトークもとにかく無我夢中だったから、自分でも皆が喜んでくれたかわからない。 ただ、ここに来てくれた人たちの顔を唄いながら、見回すと笑顔だったからきっと楽しんでくれたはずだ。 夢中でやった一回目は終わると、まことさんが「ここで聖歌隊を呼びましょう」、とカウンターに向かって呼びかけた。 カウンターからひょっこりと顔を出した三人に、頭が混乱してうまく言葉が出てこない。 僕に向けて、合同コンサートの時にみせた妖しい視線をまた送ってくるえりかちゃん。 今にも「キュフフ」と笑い出して、あの可愛らしい声で話し出しそうななっきぃ。 この間はごめんね、と控えめな笑顔で上目遣いに僕を見てくる栞菜。 栞菜なんて、この間は僕が先に祝ってもらった事に腹を立てていたし、来てくれただけで嬉しい。  これには相当驚かされた僕も、そういえば愛理が言っていたのはこれだな、と思い出す。 イントロが鳴り出し、三人が「ハッピーバースデー♪」と唄いだした。 三人は誕生日を明日に迫った僕に、『ハッピーバースデー』を唄ってくれる為にわざわざ来てくれたんだ。 それがわかると、胸の奥からこみ上げるものがあって、嬉し泣きをしてしまいそうでぐっと堪えた。 三人が唄いだすと、一回目に参加してくれたお客さんたちまで「ハッピーバースデー」と唄いだした。 堪えたはずの涙が流せばいいじゃないか、とどんどん溢れてくる。 ダメだ、二回目があるんだから、目を真っ赤に腫らして出たりしたら余計な心配をさせてしまう。 一回目のお客さん、本当にありがとうございます。 この恩は歌で返せるよう、コンサートを期待していて下さいね。 握手をする手にこの思いを込めて、力強く握り、一緒にとびっきりの笑顔で見送った。  終わった後、舞美ちゃんや舞ちゃん、愛理が聖歌隊にいなかった事が悲しくもあった。 学校で来られなかったのかな、他のお仕事で来られなかったのかな、と想像してちょっと落ち込んだ。 今日の朝にメールで頑張ってね、なんて応援してくれた事だけでも感謝しないとかな。 さすがに舞美ちゃんや舞ちゃんも忙しい、と諦めるしかないみたいだ。 この二人に限って言えば、メールもくれなかったぐらいだし仕方ないのかもしれない。 舞美ちゃん、僕に好きだってあの時、言ってくれたのに・・・ 三人が来てくれて元気はもらえたし、二回目もお客さんを笑顔にできるよう頑張ろう。  楽屋に戻った僕を、さっそくさっき祝ってくれた聖歌隊のメンバーが出迎えてくれた。 三人ともさっき祝ったばかりなのに、ここでも拍手をして「おめでとう」とまた祝ってくれる。 「ちさと、おめでとう。一日早いけど、気にするなよ」 「ちっさー、おめでとう。これで私と年が同じだね。しばらくは同じ歳だから、同級生気分が楽しめていいかも」 「ちっさー、おめでとう。えぇと、この間はごめんなさい。本当にごめんなさい」  三人があの場では伝え切れなかった想いを、言葉にしてくれるのがとても嬉しい。 三人の顔を見渡し、僕はここでようやく「ありがとう」と感謝を口に出来た。 何度言っても言い足りないくらい、三人が祝ってくれた事が嬉しかったんだ。 「ちさと、それにしてもあんた歌上手くなったね。お世辞じゃなくてさ、お姉さん感動したよ」 「うん、私も同じく。ちっさー、最後の曲は熱入っていたね。もう上手すぎ。キュフフ」 「私もデュエットしてて思ったけど、ちっさーは上手いね。負けないように頑張るから!!」  照れ笑いを浮かべ、僕はえへへと誤魔化すように頭の後ろを掻いた。 褒められるのは純粋に嬉しいし、何より誕生日を祝ってくれたのもあって、気分は最高潮だ。 これなら、緊張も解れてきた僕が二回目でより良いパフォーマンスが出来そうな気がしてきた。 すぐに二回目が始まる事もあって、三人はお祝いの言葉を伝えると「頑張れ」と言って、楽屋を後にした。 三人がいなくなった後の楽屋は寂しかったけど、僕にはたくさんの勇気を残してくれた。 時間を確認して休憩を終わりにすると、二回目の公演へ向かった。 「こんばんは~℃-uteの岡井千聖です。よろしくお願いしま~す」  『僕らの輝き』を入場曲に選んだ僕に、まことさんとお客さんが温かい声で迎えてくれる。 「私たちが初めてレコーディングした『がんばっちゃえ!』を歌いたいと思います」と、開始を宣言した。 一曲目、『がんばっちゃえ!』のイントロが始まり、イベントが本格的に始まった瞬間だった。 初めてレコーディングした思い出深い曲ということもあって、初めからテンションは上げ上げだ。 懐かしいレコーディング風景が頭に浮かび、記憶はどんどん遡り、映画の撮影をした時にまで戻った。 胸を躍らせながら唄う僕に、お客さんの視線が一斉に浴びせられる。 いつもは独り占めできないスポットライトを独占した気分で、気持ちよく唄える。 最高だ、ソロイベント。 気分は最高潮の中、一曲目は気づくと唄い終わっていた。  そして、二曲目に入る前に『成長したかの調査コーナー』があって、四年前の質問の答えと今を比べてみる。 自分でも忘れていたことが多く、比べてみるとこんな僕でも成長したんだなと嬉しくなってきた。 お客さんも僕の成長を見てきてくれた分、このコーナーにも集中して聞いてくれる。 とくに『短所は?』には皆が笑いながらも、納得だと頷いていた。 自分でも『テンションがあがりすぎるとうるさすぎる』には、ちょっぴり反省の意味も込めている。 それが四年も前から変わっていないのには残念な気持ちでいっぱいだったけれど。 お客さんたちも笑いあう中、コーナーは終わり、僕が自信をもって聞かせられる曲になった。 さぁ、頑張ろう。 本家の藤本さんに負けないよう、僕の精一杯の歌声を響かせるんだ。 自分でも意識しているとはいえ、藤本さんの歌い方そっくりだなとつくづく思う。 やっぱり、この曲も藤本さんも大好きだ。  次は質問コーナーになり、お客さんからたくさんの質問に答えた。 中でも、娘さんを僕みたいな女の子に育てるにはどうしたらいいですか、という質問は感激してしまった。 男の子だから元気ってわけじゃないけど、娘さんを僕みたいにしたいって言われたら、照れ臭い。 僕には女の子でも元気よく外で遊んでほしいとしか言えない。 太陽の下を走り回って、走っていれば、僕よりも元気な女の子になれる、とアドバイスを送る。 この時、一番下の妹の事が浮かび、あの子も元気な女の子になってくれるようにお祈りした。  こうして、選ばれた質問に次々と答えていき、質問コーナーは終わり、ついに最後の曲『砂を噛むように…NAMIDA』のお披露目になる。 この曲は松浦さん並みの歌声で唄えて、初めてお客さんの心に届く曲になる。 それを僕は歌に溢れ出す感情を込めて、皆に届けと唄いだした。 もう無我夢中になっていたから、唄い終わった後にまことさんが感心しきりだったのには驚かされた。 後から聞かされた話によると、カウンターの下で聞いていた愛理はライバル心に火がついたと言っていた。 おっとりそうに見えて、負けず嫌いな愛理らしい受け取り方だな、とも思う僕も、ライバルとして見てくれた事が嬉しくもあった。  三曲全てが歌い終わり、僕には満足感と達成感、次回のソロイベントへの期待が湧いていた。 皆が拍手と声援をかけてくれ、ステージから部屋の端から端までをゆっくりお客さんの顔を眺めていく。 よかった、皆が笑顔でとっても満足そうに頷いてくれる。 僕もにっこり笑い返し、今日のイベントが大成功に終わりそうなので安心した。 と、そこへ再びまことさんから「岡井さん、二回目にも実は聖歌隊を呼んでるんです」、とカウンターに向かって呼びかける。 あれ、おかしいな、えりかちゃんたちならさっき来てくれたのにまた出るんだろうか?と不思議がった。 だけど、カウンターから顔を出したのはえりかちゃんたちではなく、まさかの舞美ちゃん、舞ちゃん、愛理だった。 嘘だろ、てっきり三人は忙しいから来てくれないと勝手に思い込んでいたから、僕は面食らった。 「おめでとう」と言いながら、爽やか笑顔でお祝いしてくれる舞美ちゃん。 お祝いの言葉を言いながらも、ちょっぴり怒ってるようにも見える舞ちゃん。 目を細める独特な笑顔で、口だけを動かして「おめでとう」と呟く愛理。 そして、愛理だけ「おめでとう」の後に「後で話しがあるから楽屋でね」と続けた。 何だ、どんな話があるって言うんだろうな。 愛理の言葉に色々と考え込む僕に、一時間くらい前に聞いた『ハッピーバースデー』が流れ出してきた。  一回目の時と同じように、お客さんを巻き込んでの大合唱になる。 皆が岡井千聖に喜んでもらおうとしてくれるのが伝わり、歌って唄うだけじゃなく聞くだけでもいいもんだ、そう思えるようになった。 上手い下手じゃなく、歌は誰かの為に唄うのは素晴らしいものだな。 こんな聖歌隊なら毎年お祝いしてほしいよ。 舞美ちゃん、ありがとう。 舞ちゃん、ありがとう。 愛理、ありがとう。 そして、大事な僕のファンの皆さん、本当にありがとうございます。 辛いとき、悲しいとき、支えてくれたのはメンバーや家族、スタッフの人、ファンの皆さんがいてくれたおかげです。 歌の後にあった握手会は、皆さんと会話が少しでも出来るよう返事をしっかりしたつもりだ。 何度でも繰り返すけど、ファンの皆さん、本当にありがとうございました。  握手会も終えた僕は、愛理が待つ楽屋に戻った。 ドアを開けて中を見れば、後で話しがあるからと言っていた事もあって一人だけだ。 僕に一体どんな話があるって言うんだろうな、愛理は。 全く想像がつかない僕に、「突っ立ってないで座ったら?」と既にくつろいでいる愛理が勧めてくる。 うぅ~ん、今日だけは僕の楽屋なんだけど、愛理は自分のもの気分でお茶まで飲んでいる。 この落ち着き方は以前感じた不気味な雰囲気に近いものがある。 怖いなぁ、また脅しみたいな事をされる不安を感じる僕から読み取ったのか、「そう怖がらないで」と呟く。 ちょっと無理な相談だな、君は前科があるんだから、警戒するなって方が間違いだ。 僕は向かいの席にゆっくりと腰掛け、さっそく話は何か、本題を切り出した。 [[←前のページ>45]]   [[次のページ→>47]]

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