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「つんくとか来て楽しかった」
オーディションに合格を果たした時、小さかった私は感想を求められてこう答えた。
小学生になったばかりの私に相手を敬って、『さん』付けをしろ、なんて要求をする人はそうそういないと思う。
良くも悪くもこの言葉はかなり印象的だったようで、撮影に参加していたスタッフから笑い声が漏れた。
私には何故笑っているのかわからず、聞かれたことに対して答えただけだった。
大人たちが笑っている理由がわからないまま、スタジオで待つモーニング娘。の元に呼ばれた。
横にずらっと十四人が並び、誰が合格するか不安な中、つんく♂さんの発表を待つ。
そして、つんく♂さんから言われたのは「全員、合格です」の言葉だった。
この言葉を聞き、現年長メンバーは驚きつつも喜び、騒いでいたことを記憶している。
でも、私はそれがどんなに大変なことなのかもわからなかったので、いまいち喜べなかった。
その後も映画の撮影をします、と言われ、映画監督の前で台詞を読んだり、と気づけば活動を開始していた。
皆が皆、仕事をしていく中でデビューをするんだ、という明確な目標を持った。
でも、彼だけは違った。
岡井千聖はモーニング娘。に憧れて入ったから、初めからデビューしたくてキッズにいたのだろう。
本来、ハロプロには男の子は入れない決まりがあるのだけど、彼は”女の子”と偽ってキッズになった。
私は彼がキッズに合格した頃から、随分と男の子みたいな子が入ったなと気にしてはいた。
これといって確信を持っていたわけじゃない。
何となく、彼の存在が気になって仕方なく、いつも彼の事を目で追っていた。
年が一つ違いだったこともあり、私たちは一緒にいる時間も多く、一気に打ち解けた。
私は千聖を好きになっていた。
彼を見た瞬間から恋をしていたのかもしれないが、好きだと自覚するようになったのは何年か経った後だ。
自覚をしたあたりからだろう、彼に自分の気持ちをぶつけていったのは。
夜空に星が輝く中、私たちがステージを後にした国立競技場から花火が上がるのが見えた。
前座の形で出させてもらった今夜の花火大会は、自分たちも見られたらいいな、と密かに願っていた。
それがこうして叶うと、言葉に出来ないくらいに嬉しいものだ。
しかも、隣には手を繋いだ千聖がいる。
千聖は、花火を見上げるばかりで隣の私をちっとも見ようとはしてくれない。
私も花火を見ようとするものの、千聖が気になってそれどころではなくなっている。
だけど、花火が元は見たかったわけだからどうにかしてみたいな、と思う私はいい案を思いついた。
大好きな千聖の瞳に映った花火をみていれば、同時に見たい二つのものが見られる。
案の定、「舞ちゃん、花火が綺麗だよ」と囁きつつも、花火に集中する千聖の瞳には綺麗な花弁が咲いている。
心の中でそっと、「千聖の花火が一番綺麗じゃん」といおうと思ったのだが、やめておいた。
そうしたら、恥ずかしがって千聖がきっと花火から目を逸らしてしまい、私も見てくれない可能性もある。
どっちも見られなくなるのは悲しいし、今はこれが一番いい状態なんだろう。
「舞ちゃん、今年の花火はたぶん僕が生きてきた中で最高に綺麗だよ」
「どうして?」
「だってさ、今年は舞ちゃんがいるし、℃-uteのメンバーも一緒にいる。これって最高じゃない?」
「そうだね。今年の花火は特別かもね」
「でしょ~舞ちゃんもしっかり見ておきなよ」
千聖が花火から目を逸らし、からかうような目で私ににっこりと微笑んだ。
その笑顔が純粋そのもので、彼の瞳を通してみたらどんなものでも綺麗に映ってしまいそうだ。
しっかり見ておくといっても、私は千聖ばかりしっかり見ているけれど、それでもいいなら見ている。
千聖と見るから特別なのであって、私には彼がいなかったら去年と変わらないただの花火になっていた。
それを変えてくれたのは、千聖だ。
「来年もここでライブやって、花火が見られるといいね。舞ちゃんの浴衣姿が見てみたいよ」
「えぇぇ~やだなぁ~撮影で見慣れてるじゃん。変わんないよ」
「そんなことないって。舞ちゃんは成長しているし、来年はぐっと大人っぽい浴衣姿になりそうだよ」
「ぐ~んと伸びて、千聖のつむじを見下ろす高さにいたりしてね」と、笑いながら返してみた。
すると、彼は少し寂しそうな顔になり、溜息をついて「そうかもしれない」、と呟いた。
そうだった、彼は今は伸び悩んでいる時期でまだ身長が思うように伸びていないのだ。
去年までは彼が大きかったのに、今年に入ってからはどんどん伸びる私が追い抜いてしまった。
隣に並ぶと、千聖が幼い顔つきのせいもあって弟みたいになっている。
彼は身長が抜かれた事を実はどんな事よりも気にしていたみたいなのだ。
四月のよみうりランドではネタにしてコントをしたが、あれだって進んで話していたわけでは決してない。
スタッフの書いた台本通りの台詞を話していたに過ぎない。
とうとうグループ一の小柄になった彼は、これからの成長次第では伸びると期待しているようだ。
後から私を抜いて、今とは逆に私が再び見上げられるようになったら、どんなにいいか。
そうなってくれたら、千聖も身長のことで卑屈な思いをせずにすむのに。
「千聖、男なんだからこれから伸びるって。平気平気」
「だといいな。だって、小さいと舞ちゃんだって嫌でしょ」
「嫌じゃないよ。千聖は千聖じゃん。違う?」
「違くないよ。でも、僕はもっと大きくなってかっこよくなりたいなって」
「何だよ、暗い顔するなって。千聖~ほら、花火綺麗だよ」
私は気を逸らそうと、花火を指差してみたのに、千聖は花火を見てもまだ身長が気になっているらしい。
失言してしまったことに今更ながら気づいたが、もう時既に遅し。
どうして一言多いかな、私って人間は。
そこへ「よっ、お二人さん。何、花火見てイチャついてるのかな~」、と舞美ちゃんが現れた。
千聖の隣に座ると、舞美ちゃんはさっそく千聖をからかってふざけ始めた。
こういうところ、何だか中学にいる男の子みたいだ。
好きな子を見ると、ついからかいたくなるなんてちょっと女の子っぽくないよ。
でも、千聖はそういう舞美ちゃんも好きなんだ。
「イチャついてなんているもんか。いつも通りさ。花火見てただけ」
「千聖~花火見るなら誘いなよ。マネージャーさんにここにいるって教えてもらうまで知らなかったんだから」
「ごめんごめん。舞美ちゃんたちはマネージャーさんと話しあいがあるみたいだったしさ」
「そんなの気にしなくていいのに。今日は花火観て帰らないと損だよ。あっ、すっごい綺麗」
「うん、綺麗だ」
ちぇっ、まただ。
せっかく二人きりでいたのに、舞美ちゃんが来てすっかり台無し。
こうなったら、とことんいじり倒してやるまでだから、覚悟してよね。
舞美ちゃんのお邪魔虫という思いと同時に、私にはある事が思い出されていた。
インディーズ時代、それ以前から千聖はやたらとお姉さんたちに可愛がられやすい事を―――
舞波ちゃん、めぐ、二人とも千聖をよく可愛がっていたし、千聖自身懐いていた。
舞美ちゃんに軽くつっこみを入れようとする直前、意識は過去にフェードアウトを起こした。
インディーズ時代、デパートなどを回ってイベントをこなす日々を送っていた時に。
半ば、彼を脅すようにキスを迫ったり、抱きしめてとおませな事を要求した。
千聖は男の子だとバレてしまえば、活動を続けられなくなるのはわかっていたから、こう言えば嫌でも要求を呑むのは当然だ。
頬っぺたにキスをするのも照れる彼を、私は叱ったりした事もある。
もっとちゃんとして、と。
千聖はその後も照れ屋で、なかなかキスもしてくれたことはなかったけど、私は側にいられるだけでよかった。
そのお願いを神さまが聞いてくれたのか、私たちは同じグループになることが出来た。
それが私と千聖の物語の始まりとなった。
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「つんくとか来て楽しかった」
オーディションに合格を果たした時、小さかった私は感想を求められてこう答えた。
小学生になったばかりの私に相手を敬って、『さん』付けをしろ、なんて要求をする人はそうそういないと思う。
良くも悪くもこの言葉はかなり印象的だったようで、撮影に参加していたスタッフから笑い声が漏れた。
私には何故笑っているのかわからず、聞かれたことに対して答えただけだった。
大人たちが笑っている理由がわからないまま、スタジオで待つモーニング娘。の元に呼ばれた。
横にずらっと十四人が並び、誰が合格するか不安な中、つんく♂さんの発表を待つ。
そして、つんく♂さんから言われたのは「全員、合格です」の言葉だった。
この言葉を聞き、現年長メンバーは驚きつつも喜び、騒いでいたことを記憶している。
でも、私はそれがどんなに大変なことなのかもわからなかったので、いまいち喜べなかった。
その後も映画の撮影をします、と言われ、映画監督の前で台詞を読んだり、と気づけば活動を開始していた。
皆が皆、仕事をしていく中でデビューをするんだ、という明確な目標を持った。
でも、彼だけは違った。
岡井千聖はモーニング娘。に憧れて入ったから、初めからデビューしたくてキッズにいたのだろう。
本来、ハロプロには男の子は入れない決まりがあるのだけど、彼は”女の子”と偽ってキッズになった。
私は彼がキッズに合格した頃から、随分と男の子みたいな子が入ったなと気にしてはいた。
これといって確信を持っていたわけじゃない。
何となく、彼の存在が気になって仕方なく、いつも彼の事を目で追っていた。
年が一つ違いだったこともあり、私たちは一緒にいる時間も多く、一気に打ち解けた。
私は千聖を好きになっていた。
彼を見た瞬間から恋をしていたのかもしれないが、好きだと自覚するようになったのは何年か経った後だ。
自覚をしたあたりからだろう、彼に自分の気持ちをぶつけていったのは。
夜空に星が輝く中、私たちがステージを後にした国立競技場から花火が上がるのが見えた。
前座の形で出させてもらった今夜の花火大会は、自分たちも見られたらいいな、と密かに願っていた。
それがこうして叶うと、言葉に出来ないくらいに嬉しいものだ。
しかも、隣には手を繋いだ千聖がいる。
千聖は、花火を見上げるばかりで隣の私をちっとも見ようとはしてくれない。
私も花火を見ようとするものの、千聖が気になってそれどころではなくなっている。
だけど、花火が元は見たかったわけだからどうにかしてみたいな、と思う私はいい案を思いついた。
大好きな千聖の瞳に映った花火をみていれば、同時に見たい二つのものが見られる。
案の定、「舞ちゃん、花火が綺麗だよ」と囁きつつも、花火に集中する千聖の瞳には綺麗な花弁が咲いている。
心の中でそっと、「千聖の花火が一番綺麗じゃん」といおうと思ったのだが、やめておいた。
そうしたら、恥ずかしがって千聖がきっと花火から目を逸らしてしまい、私も見てくれない可能性もある。
どっちも見られなくなるのは悲しいし、今はこれが一番いい状態なんだろう。
「舞ちゃん、今年の花火はたぶん僕が生きてきた中で最高に綺麗だよ」
「どうして?」
「だってさ、今年は舞ちゃんがいるし、℃-uteのメンバーも一緒にいる。これって最高じゃない?」
「そうだね。今年の花火は特別かもね」
「でしょ~舞ちゃんもしっかり見ておきなよ」
千聖が花火から目を逸らし、からかうような目で私ににっこりと微笑んだ。
その笑顔が純粋そのもので、彼の瞳を通してみたらどんなものでも綺麗に映ってしまいそうだ。
しっかり見ておくといっても、私は千聖ばかりしっかり見ているけれど、それでもいいなら見ている。
千聖と見るから特別なのであって、私には彼がいなかったら去年と変わらないただの花火になっていた。
それを変えてくれたのは、千聖だ。
「来年もここでライブやって、花火が見られるといいね。舞ちゃんの浴衣姿が見てみたいよ」
「えぇぇ~やだなぁ~撮影で見慣れてるじゃん。変わんないよ」
「そんなことないって。舞ちゃんは成長しているし、来年はぐっと大人っぽい浴衣姿になりそうだよ」
「ぐ~んと伸びて、千聖のつむじを見下ろす高さにいたりしてね」と、笑いながら返してみた。
すると、彼は少し寂しそうな顔になり、溜息をついて「そうかもしれない」、と呟いた。
そうだった、彼は今は伸び悩んでいる時期でまだ身長が思うように伸びていないのだ。
去年までは彼が大きかったのに、今年に入ってからはどんどん伸びる私が追い抜いてしまった。
隣に並ぶと、千聖が幼い顔つきのせいもあって弟みたいになっている。
彼は身長が抜かれた事を実はどんな事よりも気にしていたみたいなのだ。
四月のよみうりランドではネタにしてコントをしたが、あれだって進んで話していたわけでは決してない。
スタッフの書いた台本通りの台詞を話していたに過ぎない。
とうとうグループ一の小柄になった彼は、これからの成長次第では伸びると期待しているようだ。
後から私を抜いて、今とは逆に私が再び見上げられるようになったら、どんなにいいか。
そうなってくれたら、千聖も身長のことで卑屈な思いをせずにすむのに。
「千聖、男なんだからこれから伸びるって。平気平気」
「だといいな。だって、小さいと舞ちゃんだって嫌でしょ」
「嫌じゃないよ。千聖は千聖じゃん。違う?」
「違くないよ。でも、僕はもっと大きくなってかっこよくなりたいなって」
「何だよ、暗い顔するなって。千聖~ほら、花火綺麗だよ」
私は気を逸らそうと、花火を指差してみたのに、千聖は花火を見てもまだ身長が気になっているらしい。
失言してしまったことに今更ながら気づいたが、もう時既に遅し。
どうして一言多いかな、私って人間は。
そこへ「よっ、お二人さん。何、花火見てイチャついてるのかな~」、と舞美ちゃんが現れた。
千聖の隣に座ると、舞美ちゃんはさっそく千聖をからかってふざけ始めた。
こういうところ、何だか中学にいる男の子みたいだ。
好きな子を見ると、ついからかいたくなるなんてちょっと女の子っぽくないよ。
でも、千聖はそういう舞美ちゃんも好きなんだ。
「イチャついてなんているもんか。いつも通りさ。花火見てただけ」
「千聖~花火見るなら誘いなよ。マネージャーさんにここにいるって教えてもらうまで知らなかったんだから」
「ごめんごめん。舞美ちゃんたちはマネージャーさんと話しあいがあるみたいだったしさ」
「そんなの気にしなくていいのに。今日は花火観て帰らないと損だよ。あっ、すっごい綺麗」
「うん、綺麗だ」
ちぇっ、まただ。
せっかく二人きりでいたのに、舞美ちゃんが来てすっかり台無し。
こうなったら、とことんいじり倒してやるまでだから、覚悟してよね。
舞美ちゃんのお邪魔虫という思いと同時に、私にはある事が思い出されていた。
インディーズ時代、それ以前から千聖はやたらとお姉さんたちに可愛がられやすい事を―――
舞波ちゃん、めぐ、二人とも千聖をよく可愛がっていたし、千聖自身懐いていた。
舞美ちゃんに軽くつっこみを入れようとする直前、意識は過去にフェードアウトを起こした。
インディーズ時代、デパートなどを回ってイベントをこなす日々を送っていた時に。
半ば、彼を脅すようにキスを迫ったり、抱きしめてとおませな事を要求した。
千聖は男の子だとバレてしまえば、活動を続けられなくなるのはわかっていたから、こう言えば嫌でも要求を呑むのは当然だ。
頬っぺたにキスをするのも照れる彼を、私は叱ったりした事もある。
もっとちゃんとして、と。
千聖はその後も照れ屋で、なかなかキスもしてくれたことはなかったけど、私は側にいられるだけでよかった。
そのお願いを神さまが聞いてくれたのか、私たちは同じグループになることが出来た。
それが私と千聖の物語の始まりとなった。
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