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 よくインタビューで「アイドルと学生の二足のわらじは大変でしょう?」と、聞かれることがある。
そんな時は「大変だけど、自分で選んだ道だから頑張ります」と、無難な答えを返すことに決めている。
インタビュアーの人も、「愛理ちゃんは本当に唄うことが好きなんだね」と感心してくれるから、そこからはシミュレートした通りに返すだけでいい。
内心では、『三足のわらじって言葉があるなら、私は三足履いてますよ』なんて呟いているのだけどね。
では、一足めと二足めはともかく、三足めは何か?と聞かれたら、説明するのは少々難しい。
何故って、三足めのわらじは特殊な趣味だから、人にはあんまり理解されないの。
それだけに理解してくれる人が一人でもいてくれると救われた気持ちになる。
ほら、噂をすれば、私の趣味仲間がこちらにやってきた。
私の特殊な趣味を理解してくれ、一緒になって楽しんでくれている数少ない友達だ。

「愛理、この間貸してくれたノートありがとう。すごく面白かったよ。千聖君が舞君にやられちゃいそうになるとこなんて、すっごいドキドキしちゃった」

 ノートを返す友達の頬は赤く染まっていて、あの場面を想像して恥ずかしがっているなとわかる。
こういう反応をみちゃうと、ついからかいたくなってしまうのが、私の性なのだろう。

「ふふっ、そんなにドキドキしちゃった? よかった、夢オチって一番読者をがっかりさせちゃうかと思ってたから」
「うん。本当にやられちゃうんだって思うと、自分のことみたいに慌ててページをめくちゃった」

 ノートを受け取った私は、友達の反応の良さに嬉しくてノートをぎゅっと抱きしめてしまった。
一見すると、下の方にローマ字で『Suzuki Airi』と名前が書いてある普通のノートだ。
ただし、中を知らない人にはそう見えるだけの話で、表紙をめくるとそっちの気がない人には理解できないお話が書かれてある。
通称”BL系”と呼ばれるジャンルで、”BL系”とはBOYS LOVEの略で、その名の通り男の子同士での恋愛のお話である。
私はその”BL系”小説の作家を三足めのわらじにしており、彼女は私の作品の読者の一人というわけだ。

「ありがとう。そんなに喜んでもらえると、次を書く楽しみが出来ちゃった」
「こちらこそありがとう。千聖君と舞君大好きだから、もっと濃い展開でもよかったくらい」
「じゃあ、次は本当に結ばれちゃったりしてね。そうなるとつまらないから、今度の作品で新キャラ出すつもりなの」
「へぇ~新キャラか。どんな男の子なのかな」
「それはお楽しみだぞ」、と笑いかけ、ノートをカバンにしまった。

 それと同時に休み時間終了のチャイムが鳴り、友達は急いで自分の席についた。
次の授業は担任の先生の授業で比較的楽だから、ノートを取りつつも次回作のお話でも考えよう。
昨日、ちっさーから聞いた話は今まで聞いたどんな体験談よりもそそられる。
だって、あの石村舞波ちゃんが石村舞波君だったなんて、もう素敵としか言いようがない。
私の書く小説に、舞波ちゃんも使いたくてうずうずしてきちゃう。
舞君の嫉妬する顔が目に浮かび、私は幸せな気持ちでいっぱいでまたもや黒板の文字なんて記憶に残りもしなかった。

「ちさとぉ~、ちょっと来て」
「いて、いててて。舞ちゃん、痛いって。耳が引きちぎられる」
「自分の胸にきいてごらん。何をして、舞を怒らせたかよぉく考えて」

 僕が何をしたって言うんだろうか、舞ちゃんは有無を言わせずに無理やりスタジオの隅まで連れてきた。
それも耳を引きちぎる力でぐいぐい引っ張ってだ。

「ごめんよ。もう許してよ」
「何で怒ってるか理由もわからないのによく謝れるね、あんたは。全然わからないの?」
「わからないよ」
「わからないじゃない。真剣に考えてみて」

 もう何が何だかさっぱりだ。
僕らは公演がもうすぐに迫ったゲキハロのせいで、メンバーを含めた出演者はみんなピリピリしている。
とくに僕や舞ちゃんは演出家の人にも注意され、機嫌は超斜めなところに僕がどうやら何かしでかしたらしい。
些細なことでも怒る舞ちゃんだから、今僕に怒っているのも大した理由でもないはずだ。
それでも、僕は真剣に考えてみるのだけど、さっぱりわからない。

「やっぱりわからないよ」
「へぇ~そうですか。では、聞きますが、愛理がちさとを見て笑ってるのは何でなんでしょうね」
「ん?」

 舞ちゃんに言われるがまま、僕はゆっくりと振り返り、愛理の顔をみつめてみた。
愛理は僕がみつめると、それに気づいたのかにっこりと笑って、軽く手を振ってきた。
あれ、何であんなに愛理が笑っているんだろう。

「愛理が笑ってるね」
「笑ってるね? あのね、ちさとが絶対に何かしたんだからね。浮気者」
「あたっ、足を蹴らないでよ。痛いなぁ」

 理由もわからずに蹴られるよりも、理由もわからずにこっりと微笑まれる方が不気味だ。
あの笑顔に見覚えがある僕は、次に愛理と二人っきりになるのが少し怖くなった。

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