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 ちっさーがいつもなら簡単に口を割るのに、今日だけは様子が違う。
口を尖らせて渋っている様子なのだ。
舞波ちゃんとのことはどんな些細なことでも、私には大事な情報になりえるから、オーディションで唄った曲が一緒だったとか教えてほしい。
全く、あんまり手間をかけさせないでほしいのに、困った人。

「ちっさー、どんなことでもいいから教えてほしいわけ。私は舞波ちゃんとはほとんど交流がないわけだし」
「さっきはオーディションで唄った曲が一緒なのを知ってたって言ったじゃないか。それにもう全部話したって」
「ほぉら、すねないの。ちっちゃな話でも、素直に言ってくれるだけで私は大助かりなんだから。ね、ね」

 頑固にもなかなか話さえしてくれないちっさーに、私は拝み倒すしかないと手をあわせてお願いする。
薄っすらと開けた目でちっさーの様子を窺ってみると、かなり悩んでいるようだ。
下手にひっかけるよりも、このまま拝み倒してしまう作戦でいこう。

「ちっさー、お願い。人助けだと思ってさ。君は道端で死にそうに困ってる人がいても、見捨てる残酷な人ではないでしょ」
「ちょっと、ちょっと。話が大きくなりすぎだよ。そうなったら確実に助けるしかないじゃん」
「でしょう。なら、私が道端で死にそうな人だと思って、手を差し伸べて」
「ん~」

 もう本当に今日に限って、頑固すぎるくらいだ。
仕方ない、そう判断した私はもらうばかりでは悪いから、こちらも情報を提供することにした。
舞美ちゃんの情報ならば、取引する材料としても文句はあるまい。

「じゃあ、私から君が知っておきたい情報をあげちゃおうかな~ふふぅ~どうしようかな~」
「えぇと、どんな?」
「内緒。君が教えてくれたら、知りたいこと何でも教えてあげる」
「そんなのズルイじゃん。いっつも愛理ばっかり僕から話しを聞いてきてさ。そっちから教えてよ」
「それもそうだねぇ~。誰に関する情報かをまずは教えてあげましょう。オホン」

 わざと大げさに芝居がかった演技で、咳ばらいを一つして、焦らしを入れてみる。
この何とも言えない間が、ちっさーの全神経を私に一心に集めさせるよう、うまく働いてくれている。
ちっさーが目を見開いて唾をごくりと飲み込んだのをみて、私は話を再開させた。

「舞美ちゃんのことです。たぶん、君はまだ知らないような情報だと思うな。ふふっ、それならどうかな」
「ま、舞美ちゃんのことなの? そ、それは・・・えぇと・・・どんな?」
「それを聞きたいなら、そっちから教えてくれることが条件だよ。どう?」

 ちっさーは前に乗り出し、私に「舞美ちゃんのことを教えて」と無言でせがんできている。
レッスンのときさえ見せないような真剣な表情で、私にぐいっと迫ってくるちっさーといったら、どこか迫力が感じられた。
勝った、確実に彼の興味を引くことに成功した。
酷いたとえをすれば、後はもう赤子の手を捻るも同然だ、ケッケッケ。

「わ、わかったよ。言うよ、どんなことでも」

 こうして、私は彼から小説のネタになりそうな小話をどっさりと手に入れた。
代わりに私からも情報を提供することが条件だったので、舞美ちゃんのことを教えてあげることにした。
それがどんなことであろうとも。

「私たちが六月にファンクラブ限定イベントをパシフィコでやったでしょう。あそこでね」
「うん」
「ちっさーには送ってないのに、えりかちゃんには応援メッセージつきのメモをあげてるんだよ。手渡しで」
「え!?」

 さっきまでの期待に満ちたちっさーの輝いた目が一気に光を失っていく。
舞美ちゃんの情報とは言ったけど、”いい”情報だとは一言も言っていないのだから恨みっこなしだよ。
これを聞いたときは、私もちっさーには舞ちゃんがお似合いなのかな、と誰にも話しはしなかった。
それを今話したのは、桃がちっさーに舞美ちゃんも好きなことをうっかり漏らしてしまったから、チャラにする意味でもある。
舞美ちゃんは好きとは言っても、ちっさーを一番に考えているほどではないんだから。

「君にはなぁんにもくれてないでしょ? 舞美ちゃんね、えりかちゃんの方が大事なのかもね。頼りがいあるし」
「・・・ぅ、う、うん」
「残念だけど、現実はこんなもの。希望だけは捨てちゃダメだけどね。だって、舞美ちゃんは好きは好きみたいだからさ」
「そうなんだ」

 悪いことをしたとは思いつつ、私は「これで」と言ってちっさーとは別れた。
一瞬だけ後ろを振り返ったとき、とても寂しそうな雰囲気を纏っている気がした。
私も忙しい身だから、ちっさーばかりに構っていられないので、後は彼自身にまかせよう。
それよりも、私にはちっさーの話をどう料理するか、それだけが今一番の興味だった。

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