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「「動かないの。じっとしてなさい」
「ごめんなさい。でも、茉麻ちゃんに髪をとかしてもらうの大好きだよ」
「なら、余計にじっとしてること。いい?」
「は~い」

 返事だけは相変わらず一人前にできるんだよね、この子。
それ以外のこととなると、中学生にもなったのにまだまだ子供じみた部分が強く残っている。
元気があっていいのだけど、女の子なんだしもうちょっと落ち着いてきてもいいと思う。
元気がありすぎるから、ファンの人たちの間で『岡井少年』なんてあだ名で呼ばれることになるんだって気づいているのかな。
でも、ここ最近の千聖は仕草に女の子らしさがにじみ出るようになってきて、もう『少年』は卒業が近いかもしれない。
残念でもあるし、喜ばしいことでもある。
私の本音をチラッと明かせば、千聖が本当に男の子だったらいいなぁ、と思う。
女装した少年が女の子たちの園に一人だけ紛れ込んでアイドルをしている、なんてことがあったらどんなに素敵だろうな。
千聖が悪戯をしてしまい、それを叱る私の前で泣きべそをかいて「ごめんなさい、お姉ちゃん」と言ったらいいのに。

「ねぇ、さっきからニヤニヤしてどうしたの? ちょっとおかしいって」
「誰がおかしいですって。あんたこそ、おかしいんじゃないの?」
「おかしくなんかあるもんか。ちさとはいたって普通です」
「普通かなぁ~本当は男の子のくせに℃-uteに紛れこんでいるとかなんじゃないの?」

 本当に気まぐれに言ってみただけだ。
千聖が男の子だろうが、女の子だろうが、私には目の前の子が岡井千聖であることに変わりない。
だから、からかうつもりで言ったのだ。
それがどうしたっていうのか、千聖は一瞬呆けた顔になって驚いている。

「どうしたっていうの? 私ってば、不味いこと言っちゃったかな?」
「う、ううん。全然平気だから気にしないでよ。やだなぁ~おかしな冗談言ってさ」
「だよね、あんたが男なわけないもんねぇ。冗談だって。冗談」

 自分で言った冗談を自分で「冗談」、ってフォローしなければならないのは如何なものなんだろう。
そうでも言わなければ、たぶん目の前の千聖はずっとあのままだった気がしたのだ。
私のつまらない願望くらいであんなに動揺しないでほしいな。
あんな反応されたら、まるで私の願望を神様が瞬時に聞き入ってくれたみたいじゃない。
それはそれで感動だけど、何もすぐに男の子にすることないのにってがっかりもしてしまう。
ま、冗談で済んだからいいですけど。

「はい、とかすのはこれでおしまい。すっごく可愛くなったじゃん」
「ありがとう。えへへ、ちょっとは女の子にみえるかな?」
「ばぁか。あんたは最初から女の子じゃない。そう見えるに決まってます」
「よかった。安心した。また髪をとかす時はよろしくね」
「はいはい。これくらいで感謝してもらえるなら何度でもしてあげるって」

 千聖は「遊んでくる」と言って立ち上がった後、そそくさとどこかへ行ってしまった。
この時はまた落着きがない子だな、と呆れ気味に見送った私だったが、後でことの真相を知った。
すぐに立ちあがったのは、自分の正体が私たちBerryz工房のメンバーにバレていないかどうかを確認しにいったのだと。
トイレに行った帰り、偶然にあの話を聞くまではにわかに信じ難かった。
千聖が冗談抜きで、本当に男の子だったなんて。

「桃ちゃん、大変だよ。茉麻ちゃんに僕が男の子だってバレたかもしれない」

 やけに焦った声で話す千聖の声が耳に入り、私は驚き立ち止まった。
声だけで判断しても、相当切羽詰まった状態でいるのだとわかる。

「ちょっと、それは一大事じゃん。で、いつそれがわかったの?」

 今度は桃の声がしてきて、こちらも千聖同様に相当焦っているのがわかる。
どうやら千聖が焦って桃に相談しているようだ。
しかも、千聖が男の子かどうか私にバレたとかバレてないとかの話をしている。

「今日だよ、今日。ついさっき、鏡の前で髪をとかしてもらっていたら、急に男の子じゃないの?って話しかけてきた」
「いきなりだね。あんたさ、ヘマしたんじゃないの?」
「するわけないだろう。あ、でも、はっきりヘマしてないかって言われると厳しいな」
「うぅ~ん、難しいね。ここにきて、いきなり茉麻にバレたか。どうしようね」

 もう何が何やらさっぱりなのに、耳だけはしっかりと二人の話し声を拾ってくれる。
頭は二人以上に混乱して、これって一体どういう展開なの?と整理が追いついてくれないのに、話は一方的に進む。

「でも、バレたってわけでもないと思う。冗談だよって最後に言ってたし」
「うぅ~ん、ますます訳わかんないな。茉麻は何のつもりで千聖が男の子なんじゃない?って言ったのかな」

 今すぐに二人の前に出て行って、冗談ですとはっきりと言ってあげたい。
だって、本当に冗談で言ったことだし、二人をここまで追い詰めるつもりで言ったわけじゃないからだ。
かといって、ここで出て行っても余計にこの場が混乱しそうで、出るタイミングなんてありゃしない。
はぁ、もう参ってしまった。

「ま~あさ。何してるの?」
「く、熊井ちゃん!?」

 手に汗握る展開に、私は壁と一体になって盗み聞きしていたところ、背後から突然熊井ちゃんの声が聞こえてきた。
かなり空気が読めないタイミングでだ。
それも熊井ちゃんだけはとっても明るい声なのも、空気が読めない以上に場違いだ。

「し、しぃ~。静かにして。ちょっと大変なの」
「何が?」

 いつもならこの不思議そうに首を傾げる仕草も可愛いって抱きしめたいところだけど、今はもう見るだけで嫌になっちゃう。
何でこんな時に限って、熊井ちゃんは私のところに来たりなんかするの。

「ね、今何か声がしなかった?」
「うん、声がした。もしかして・・・」
「とにかく、誰かいないかどうか見てこよう。さ、早く」

 しまった、熊井ちゃんの声が聞かれてしまった可能性がある。
右隣には場違いに明るい熊井ちゃん、左側からは桃と千聖に挟まれて、完全に逃げ場がない。
一体どうしよう・・・偶然聞いてしまっただけなのに、こんな状況に立たされてしまったことを、まず驚かずにはいられなかった。

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