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 主婦の日常は思った以上に平凡で、事件も家の中でしか起こらない。
毎日がとってもバラ色にみえた結婚前のあの頃の自分が、今では何て幼稚だったのか、と馬鹿馬鹿しくて笑っちゃう。
商社マンの旦那は毎日仕事三昧で、「子供が出来たら毎週どこかに遊びに行こう」と夢を語ったくせに、毎週接待ゴルフに忙しい。
真面目さが取りえで、会社で一番誠意ある人だと思って結婚したはずだった。
付き合い始めはすごくマメで、どんなに忙しくても毎週ドライブに連れていってもくれていた。
鎌倉、湘南、伊豆、お台場、横浜、とデートスポットには欠かさず二人で出かけたものだ。
それが今では毎週車でおでかけをするのは、買い物に近場のスーパーへ行くぐらいになってしまった。
商社マンの妻って肩書きに誰よりも自分が魅せられていたのだ、と結婚してから気づいた。
近所のお母さんたちに「私は商社マンの妻です」、って自慢したかっただけの浅い結婚だったのだ、と今更になってそう気づいた。
気づいたときには、中学にあがる娘がいるいいおばさんになってしまったけれど、どこかで私は夢みていた。
退屈な日常とは違う、ドラマチックな事件が起きることを・・・

「ママ、ただいま~」

 娘の梨沙子の元気いい声が、玄関口から台所に立つ私にも聞こえてくる。
梨沙子は今年の春で中学二年に進級した、反抗期の真っ盛りのお年頃の女の子だ。
ただ学校に行くだけなのに、制服の着方一つをとってもファッション雑誌をチェックして、流行を取り入れている。
小さい頃はしょっちゅう「ママ、ママ」、と言っては泣きじゃくっていた子がもう中学生になる。
月日は早いものだ、と娘の成長とともにしっかりと刻まれていく皺をみて溜息をつく。

「おかえり。今日は早かったのね。部活はどうしたの?」
「あさってからテストをやるから、今日から部活は休みだって言われたじゃん」

 私がそれを覚えていなかったのがつくづく不満だったのか、梨沙子は頬を膨らませた。
中学生にはなったものの、まだまだ子供な面が多く残る子だ。
つい最近までお風呂も自分では入れなかったくらい、親を心配させる子だったから無理はない。
それにしても、誰に似たのかわが娘ながら随分と綺麗に育ってくれた。
梨沙子はこの年の娘にしては、親馬鹿だが、アイドルになれてもおかしくないレベルの美しさと輝きがある。

「あ、そうだ。ママ、実はね、今日は友達を連れてきているの」
「え?」

 意外な言葉を聞き、思わず聞き返してしまった。
この子は今何て言ったんだろう。

「だから、友達を連れてきたっていったの。あのね、その子は勉強が苦手でりぃに勉強を教わりたいんだって」
「そうなの。いいわよ。玄関で待たせているなら、家に上げてあげなさい。お茶出してあげるから」
「ふふっ、ママならそう言ってくれると思った。じゃあ、呼んでくる」

 梨沙子はにっこりとほほ笑み、玄関までバタバタと走って友達を呼びに行った。
あの子があんなに嬉しそうにしていることはみかけなかったから、母親のこちらまで嬉しくなってきた。
果たしてどんな子が現れるのか、と期待と不安の入り混じる中、お辞儀をして部屋に入ってきた子が目に入った。
ショートカットの可愛らしい女の子の友達が来た。
私は勝手にそう判断してしまったが、実際はよくみていない早とちりで、よくみてみれば、制服は男のものだ。
では、この子は男なのだろうか!?
私がよほど訝しげな表情でこの子を凝視していたことに気づいたのだろう。
梨沙子が、

「ママ、ジロジロ見過ぎだよ。全く、ママまで千聖のことを女の子だと思って。この子は岡井千聖って言って、れっきとした男の子だよ」

と、呆れたような口調でそう教えてくれた。
この子が男?
本当に私の見間違いでないのか。
不安に駆られる私に、今度は千聖君が静かに話し始めた。

「えぇと、はじめまして。梨沙子ちゃんの友達の岡井千聖です。よろしくどうぞ」
「千聖はクラスの子たちにあんまり女の子っぽいから、『岡井少女』ってあだ名で呼ばれてるの。でも、ちゃんとした男なんだからね」
「や、やめてよ。りーちゃんのママでその話はやめてってば。恥ずかしいじゃん」
「ここでちゃんと言わないとママにまで間違えられるよ。千聖は男ですって言わないとさ」

 声を聞いても、私にはまだこの千聖君が男の子だとは信じがたい。
しかし、梨沙子の真剣さからにじみ出る気迫に嘘はこもっていないように思う。
それに梨沙子が私をこんなことでからかったところで、何も意味はない。
やはり千聖君は本当の男の子なのだ。
それをはっきりと認識した私に、この時、千聖君に胸ときめくことがあるとは考えられなかった。

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