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 私はママみたいな人生を歩みたくない。
いつからだろう、私がママを心の奥底で軽蔑しはじめたのは。
家に帰ると笑顔で出迎えてくれて、美味しいおやつまで用意してくれる最高のママ。
いつも私を一番に気にかけて優しい言葉をかけてくれた。
ママは小さい頃、私にとってかけがえのない存在で、将来はママになりたいって目指す目標でもあった。
でも、今はママは目標ではなく、反面教師的な存在になりつつある。

 パパに逆らえずに何でも言いなりになって、不満があってもそれを口にできない弱い人。
自分だけが大変そうな顔で家じゅうを仏頂面で歩きまわるパパは、私は大嫌い。
ママだって本当は昼にスーパーで働きながら、家事もおろそかにしないで頑張っている。
なのに、パパを前にすると何も言わずに黙々と家事をこなす。
私がママならパパ相手にはっきり嫌なことは嫌だって言ってしまえるのに、そう思ってしまう。
結婚した時は守ってくれた約束も、今ではすっかりおざなりになっている人だから、家族なんてどうでもいいに違いない。
そんな人と一緒になって死ぬまで歩み続けるのは馬鹿みたいだ。
私はママにはならないって決めたんだ。
だから、早く大人になってあなたとは違うって宣言するつもりで、千聖を家に連れてきた。

「おじゃまします」
「適当に座っていいよ。はい、これ座布団ね」

 誰とでもわけ隔てなく付き合えるタイプの千聖は、クラスでも人気者である。
顔の可愛さとスポーツが万能なこともあって、女の子からの人気も高い。
とくにサッカーが得意な千聖のドリブルの上手さに、背が低いと馬鹿にしていた女の子も一瞬で心変わりする。
それくらいに千聖のサッカーの上手さは折り紙つきなのだ。
ただし、それとは正反対に勉強はどの教科もテストで赤点連発する問題児でもある。
この間も数学と理科でひとケタの点数しかとれず、先生から呼び出しを受けていた。
そんな有様だから、私が勉強を今度教えてあげるから家に来る?と誘ったら、あっさりとついてきた。
ママには千聖が頼んだからって話してあるけど、実際は私から千聖を連れ込んだのだ。

「女の子の部屋に来るのは初めてだから、緊張しちゃうな」
「あんまり部屋を見るのはやめてね。これでも年頃の女の子の部屋なんですから」
「うん、気をつける。でもさ」

 でもさ、と言いかけて、千聖は鼻をひくつかせて、何やら私の部屋の匂いを嗅ぎだした。
犬が大好きだとは聞いたことがあるけど、女の子の部屋で犬の真似はどうかと思う。
今、自分がいるのが誰の部屋なのかわかっているのだろうか。
仮にも女の子の部屋で匂いを嗅いだら、本来は変態と思われて追い出されてもおかしくない。

「りーちゃんの部屋はいい匂いがするよ。えへへ、本当に女の子の部屋なんだね」
「あったり前でしょ。あんた、馬鹿じゃないの」
「ごめんごめん、ようやく実感が沸いてきた気がするよ」

 本当に緊張しているのかわからない締まりのない笑顔で、頭を掻く千聖。
一部の女子からは仔犬みたいで可愛い、と評判の笑顔も、今の私には少々不愉快に感じられた。
私は選択を間違ってしまったのだろうか。
大事な初めてをこの仔犬君にあげてしまってもいいのか、と迷いが生じ始めていた。

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