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 ビルの入口にいた青年に案内され、オフィスに利用している部屋に通された。
ホストの青年が言うには長話をする場所ではないし、オフィスの方が自分のことがわかってもらえるということだった。
胡散臭い彼の笑顔に騙されるまいと思いつつ、千聖君のことが気になってやむを得ずついてきたわけである。
よほど古いビルだったらしく、エレベーターがない為、いちいち階段を上らなくてはならないのにはさすがに参った。
おばさんと呼ばれる年になるまで運動はほとんどしていなかったせいか、登り切った後は全身に疲労が溜まった。
これが全くの骨折り損のくたびれ儲けというわけでもなく、ビルの中にはこの会社以外にテナントがないとわかった。
つまりは千聖君が確実にこのオフィス内にいる。
敷地内にいるのだとしても、私は彼が出張ホストをしているとは未だに信じられない。

「当店に所属する男の子たちは、新人の子に至るまで行き届いたサービスが出来る子たちしか揃えておりません」

 名刺を差し出してきた青年は、自信に充ち溢れた笑顔でテーブルの上に男の子が映った写真を端から一枚ずつ並べていく。
並べられていく写真を確認するたび、私の胸は緊張とは違った高鳴りが激しくなる。
青年が並べる写真に写った子は、どの子もアイドル顔負けの美男子ばかりで一目ぼれしてしまいそうになる。
口に出しては言わずとも、自信を持って紹介できる理由が写真を見ただけでもわかりそうなものだ。

「お客様はどういった子がお好みなんでしょうか? 当店は指名料は頂きませんから、ご自由にお選び頂けます」

 彼は手を休めずに、一枚一枚をテーブルに並べていく。
私は私で並べられいく写真をじっと眺めていることしか出来ていない。
それでも、青年が一枚一枚並べていくたびに、この中に千聖君はいませんようにと心の中で祈ることは忘れない。
無駄な抵抗にさえなっていないことは理解していても、理解したくない気持ちが少なからずある。
人は見かけによらないとは言うが、私には女の子の家にあがっただけで緊張していた彼に出来る仕事とは思えない。
千聖君はとっさに演技が出来る子には見えなかったので、あれが本当の彼なんだと信じたい。
向かい側のソファーに座る青年と同じ人種だとは思いたくなかった。

「焦らずにじっくり決めて頂いて構いませんよ。こういったお店自体初めてでしょうから、ゆっくりお選び下さい」

 彼の手持ちの写真がどんどん減っていき、テーブルの上に並べるにも限界が近付いてきていた。
あと何枚あるかはわからないが、このままならここに彼が入ってきたこと自体が幻で済むかもしれない。
そうであってほしい。

「これで当店の男の子たちは全員です」と、青年が言い終えて写真を並べきった時、私は全身から緊張が一気に解けた。
「よかった」
「でしょう。当店の男の子たちのレベルは他店よりも高いと自負がありますので、気に入って頂けたなら幸いです」

 私が千聖君がいないと安心して漏れた言葉も、彼にはお店への褒め言葉に聞こえたらしい。

「この場で当店をご利用頂けなかったからといって無理やりお引き留めなどは致しませんので、ご心配ならないで下さい」
「はい」
「お客様が男の子と遊びたいと思われたときにふと思いだして頂けるだけでいいですから」

 結局、この日に私は男の子の中から遊ぶ相手を選びだすことは出来なかった。
もともと千聖君の行方を追ってきたので、そんなつもりは毛頭なかったのだから当然である。
この後の人生を考えれば、もう二度と出来ることではないのだから、やはり惜しいことをしたという思いも湧かないはずがない。
名刺を眺めながら、つまらない感傷に浸っているなと我ながら思う。
早くこんな名刺は捨てて、千聖君がここに来ていたことも綺麗さっぱり忘れよう。
そう固く誓ったにもかかわらず、私は『FOREVER LOVE』の名刺を捨てることが出来ないまま家に帰ったのだった。

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