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 正直に言って、千聖に拒否されるとは夢にも思わなかった。
エッチどころか女の子に疎いと思っていた千聖に、「りーちゃんにはまだ早いよ」と諭されるなんて嘘みたいだ。
狐につままれる、ならぬ、仔犬につままれるなんて聞いたことがない。
私がキスしようと唇を近づけた瞬間、人差し指を唇と唇の間に挟んで塞いできた。
思えば、ここから予定が全て狂っていった。
指をタイミングよく差し入れる手際といい、私が知っている千聖とは全然似ても似つかない。
クラスメイトの前だとただ明るいだけが取り柄だと思っていたのに、あの時は大人の男の色気とでも言うのかが漂っていた。
更には、既に女を何人も抱いた経験があるような余裕さえ感じられたのだ。
おかしい、何もかもがおかしい。
私は胸の内に悶々とするものを感じながら勉強をする気にもなれず、結局テスト勉強は出来なかった。

 私にはむしゃくしゃした時についやってしまう悪い癖がある。
ママには内緒で、ママの財布からお金を持ちだしては、遊びに使ってしまう。
いけない事だとわかっていても、私はこんな事を小学生の頃からもう何度も繰り返してきた。
悔いる気持ちが全くないわけではないのだが、やめることが出来ずに何年も罪を重ねてしまっている。
今日も、千聖に逃げられた腹いせ程度の軽い気持ちでママの財布を開いただけだった。
それだけに名刺がでてきたときには本当に驚いた。

 これがパパの会社の上司や同僚の名刺ではなく、出張ホストクラブ『FOREVER LOVE』と書かれているのだから驚く他ない。
『出張ホストクラブ』とはっきりと書かれた名刺を、まさかうちの母親が持っていることが信じられなかった。
パパに何も言えずに家事と仕事をこなすだけの日々を送るだけだと思っていたから、これは面白い発見だ。
家では妻と母親を演じ、外では女の顔を知らない男に見せているなんて、ママも捨てたものじゃない。
私はそっとお金を戻し、代わりに名刺を頂いていくことにした。
たとえ騒がれたとしても、ないと気付かれる前に戻せばいいだけの話なのだから、難しい話ではない。

 名刺を持ちだして自分の部屋に戻ると、『FOREVER LOVE』へと電話をすることにした。
持ち出した瞬間から、千聖がダメなら初体験の相手はイケメンにする気でいたのだから願ったり叶ったりだ。
番号を打つ手が震え、違う数字を押してしまい、何度もやり直した後、やっと『FOREVER LOVE』の番号を打ち終えた。
あとは通話ボタンを押すだけで、ホストが指定した場所に時間通りにやってくるというわけだ。
早く押してしまえばいいのに、一歩が踏み出せずに時間だけが経過していく。
どうしよう・・・こんな気持ちのまま会っても、たぶん良いことなんてあるはずがない。
うん、やめておこう。
次に会った時、千聖を誘惑してやればいいだけの話なのだ。
あんな奴、私なら落とせないことはないはずだ、そう言い聞かせれば済むことだった。
なのに、私の指は震えから思いがけず通話ボタンを押してしまっていた。

 しまった、まさかかけてしまうとは思わなかったから、動揺して次にどうすればいいのかがさっぱり考えられない。
手がじわっと汗ばんできて、喉が渇き、心臓の鼓動が早くなっていき、全身が内側から焼けるように熱い。
ママの財布から名刺を持ちだすのではなかった、と後悔が津波のように押し寄せてくる。
ほんの悪戯心だったのに、こんな事になるとはもう気分は最悪だ。
ここまで落ち込めばこれ以上落ちようがない、とまで思っていたのに、携帯から聞こえてきた声にさらに奈落の底まで落とされた。

「もしもし、こちらクラブ『FOREVER LOVE』です。もしもぉ~し、どうかしましたか?」

 携帯から聞こえてきた声は、2・3時間前まで一緒にいたはずの男の子の声に近かった。
毎日学校でも聞いている声だから、平常心を失っていたとしても聞き間違えるはずもない。
これは夢か幻でないかそう願いたい私は、意に反してストレートに聞いてはいけないことを聞いてしまっていた。

「ち・・・ち、ちさとぉ? ねぇ、あんた千聖でしょ?」
「え!? り、りーちゃん? あ、し、しまった・・・」

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