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 電話に出て梨沙子の声がした時、千聖の頭は一瞬にしてパニックに陥った。
何で梨沙子がここに電話をしてきたのか、その疑問が頭の中をぐるぐると渦巻く。
このお店の番号を知る手段は限られ、中学生の梨沙子が番号を知るのは不可能に近いはずである。
番号を知るには既に会員からの紹介してもらうか、オーナーから名刺を貰うかのどちらかしかない。
そのどちらの条件も梨沙子が満たせるとは考えられないので、千聖としてはお手上げだ。

「りーちゃんって今はっきり言ったよね、千聖」
「そ、そ、それは・・・」

 誤解だよ、とその先が続かない、続けられない、続けられるわけがないの三拍子が揃っては何も言えなくなる。
梨沙子が言う通り、自分は間違いなく岡井千聖なのである。
どう言い繕うとも、自分が岡井千聖であることは否定できない事実なのだ。
それを、ここで認めてしまうことは弱味を握られてしまうことも意味している。
では否定をすれば良いのかといえば、それもまたあまり意味のあることでもない。
何故ならば、梨沙子の口調は断定的といっていいまでに強く確信している節がある。
口べたな千聖ではどうあがいても梨沙子を考え直させるだけの力はなく、流れに身を任せる他なかった。

「今更何言っても無駄だから。千聖だってことはわかってるからさ。へぇ~驚いたな。あんたみたいな子がホストクラブでバイトとはね」
「あ、あのぉ~この事は誰にも内緒にするって約束してくれる?」
「ふふっ、わかってるって。誰にも話すわけなんてないじゃん。安心して」
「絶対だからね、お願いだよ」

 受話器から聞こえてくる梨沙子の冷たい笑い声には、弱い者いじめを楽しむかのような響きがある。
千聖の弱みを握れたことの喜びに浸り、ご満悦な様子の梨沙子が目に浮かぶ。

「大丈夫だって。私だって約束くらい守れるもん。ただし、条件があるんだけどね」
「条件?」
「簡単だよ。私を抱いてくれればそれでいいの。別にあんたじゃなくてもいいよ。あんたのお店のかっこいい男なら」
「で、でも・・・」
「あんたは断れないはずだよ。何でかはあんたがよぉくご存じだと思いますけど。まぁ詳しい話は明日学校でね」

 一方的に用件を話すと、梨沙子は電話を切ってしまった。
ツーツーと通話が切れたことを知らせる機械音も、今の千聖には耳に入ってもいなかった。
今はただ何も考えたくもなかった。

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