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 僕らホストは必ず自分にお金を落としてくれる太客をみつける必要がある。
太客がいないと、まずこの世界では生きていくことすら危うくなる。
毎回自分を指名してくれるお客がいるということは、最低でも飢え死にしなくても済むのだから、皆が指名を取ろうと必死である。
太客がみつかろうと、それはまだスタートラインに立ったに過ぎない。
一人前に認められるには、さらに指名を取るか、大金を落としてくれる極太客をみつけなくてはならない。
まずこの店では入店して間もない者を金を生む卵として『エッグ』と呼び、売上に貢献しお店側から正式に認められれば『キッズ』に昇格させる。
キッズに昇格すれば自分に入る給料も増える為、エッグのメンバーは一日でも早くキッズになろうと激しい競争を繰り広げている。
自分も先輩たちのようになって、いい時計や洋服、車にバイクと高価なものを手に入れたいのだ。
欲求こそが自分を磨かせる材料になり、仕事により一層力が入る。

僕は未だにエッグの身であるので、あまり豪華なものが買えずに指を咥えてみている日々が続いている。
自分で言うのもおこがましいが、僕はお店の売上にかなり貢献していると自負しており、キッズに昇格してもいいと思う。
だが、オーナー曰く「接客態度に問題あり」な為にキッズへの昇格を許されていない。
どうしてなんだ、同時期に入った千聖は既にキッズなのに・・・僕とあいつ、何がそんなに違うっていうんだ。
何で僕がハブられなきゃならないんだ、と惨めさと悔しさを噛み締めながら、太客の許へと向かった。

 僕が待ち合わせ場所につくと、彼女は既に到着して今か今かと待ちわびていた。
不安げな顔で左手首につけた腕時計を何度も見直し、この時間で間違っていないかと確認しているようだ。
彼女を遠目から観察しながら、もう少しだけ待たせておいて待ちくたびれてがっかりした顔をみせた時、顔を出そうと決めた。
それも正面から堂々といかず、後ろからぎゅっと抱きしめ、「待たせてごめん。寒かったよね。温めてあげるよ」と囁くのだ。
初めは待たされていた彼女は怒っているかもしれないが、しばらく抱きしめていれば許してくれるだろう。
あの娘はこういうシチュエーションがたまらなく好きなのだから、いい演出になってデートを盛り上げてくれる。
再び彼女の様子を窺い、もういいだろうと判断した僕は、演出通りに後ろからぎゅっと抱きしめた。

「きゃっ・・・」

 後ろから急に抱きしめられたものだから、驚きのあまりに小さな悲鳴を漏らす。
彼女のことはよくわかっているから、後ろからでも今頃はどんな顔をしているか頭の中で想像できる。
くりっとした丸くて大きな瞳をさらに大きくさせて驚いているだろう。
ずっと驚かせっぱなしではあまりに気の毒だ、甘い声で優しく囁いてあげなくては。

「待たせてごめん。寒かっただろう?」
「か、栞菜・・・」
「本当はね、約束の時間には間に合っていたんだ。でも、すぐには声をかけられなかったんだ」
「ど、どうして? 間に合っていたのなら、すぐに声をかけてくれればよかったのに」

 彼女の疑問は当然だろう。
僕も立場が逆であれば、同じ言葉を口にしていたに違いないが、彼女は恋には駆け引きも重要だと考え、こうした行動に移れただろうか。
デートは待ち合わせ場所に時間通りに行き、予定を無難にこなすだけでは務まらない。
こうした想定外も必要になる。
僕がわざとデートに遅刻したように。

「だって、愛理の待っている間の顔があんまりにも可愛かったからさ」
「栞菜のいじわるぅ。嘘だとしても、そんなこと言われたら怒れないじゃない。もう相変わらずズルイんだから」
「ははっ、そうむくれるなって。可愛い顔が台無しだぞ」
「台無しにしたのはあなたでしょう。栞菜の馬鹿。℃スケベ。変態」

 デート前からなかなか好調な出だしで、掴みはよかったと確信した。
これなら彼女を極太客にして、キッズへの道が切り開けそうだ、そんな期待が胸に充ち溢れていた。

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