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 インディーズ時代、今思い出してもあの頃がこのお仕事を始めた中で、最も辛い日々だったと思う。
先にデビューしたBerryz工房と比べると、私たちは正直いって待遇面ではあまりいいとはいえなかった。
キッズで活動を開始したのは一緒なのに、私たちはいつまでも予備軍のままバックダンサーをしていた。
それを考えると、今となってはあの頃に自分たちを応援してくれる人がいるのが信じられない。
だから、舞美ちゃんたちがステージに立つと、お客さんいなかったらどうしようか、と不安になっていたのも頷ける。
そう、彼女たちが小さくもれっきとしたコンサート会場で歌っている間、私たちに与えられたステージはデパートである。
デパートのステージですら、私たちには大きい会場に思えたこの時期に、℃-uteをまとめる人がいた。
今はもう芸能人をやめて、一般人に戻ってしまった彼女。

 いなくなった彼女こと村上愛は、℃-uteでは数少ないお姉さん的存在で、誰からも頼りにされていた。
しっかり者だったというのもあるんだろうけれど、千聖はめぐにはかなり懐いていた。
メンバーの心の変化をよく観察し、アドバイスをくれることが多く、年長者なのにえりかちゃんに舞美ちゃんも頼っていた。
頼りにされると、つい頑張ってトークも歌も踊りも一番になろうとしていた人。
彼女に憧れと尊敬の念を千聖は込めていて、つい抱きついていたりした。

「舞ちゃん、お疲れ様。今日は本当に楽しいステージになったね」
「うん、今日はよかった。お客さんのノリもよかったし、気分は最高かも」
「わかるわかる。今日のお客さんはいつもよりいっぱい回転してたしね。グルグルさ」

 千聖はその場で回転するお客さんのモノマネを始めた。
千聖はモノマネが大好きで、当時から藤本さんの真似はよくやっていて、この前のソロイベントでも唄っていた。
声から唄い方、どれもが藤本さん本人が唄ったのかと錯覚してしまった。
でも、ステージで唄うのは私が大好きな千聖なものだから、頭が混乱しておかしな感覚だった。
千聖の歌声はとても綺麗なのに、私は悲しくなるばかりだ。
だって、声変わりしたとき、千聖はもう藤本さんみたいにはもう歌えないんだから。

「こらこら、こんな人が通るところで回転してたら危ないぞ」

 廊下なこともあって、通りがかりの人がずっと行き交いしていたが、千聖を避けて歩いてくれていた。
そんな気遣いをされているとは気づかない私たちは、面白いと笑いあっていた。
そこへ、あのめぐの登場というわけである。
めぐは千聖の回転を止めると、腰に手をおいて鼻息荒く注意をしてきた。

「ご、ごめんよぉ~そんなこと考えてなかったよ。てへへへ」
「てへへじゃないよ。あんたって子は。今日のステージのことで褒めてあげようと思ったのに」

 めぐが褒めてあげるといった途端、反省の色をみせていた千聖が急に明るい顔に戻った。
あぁ~嫌な予感がしてきた。
私を蚊帳の外にして、千聖の奴はきっとめぐばっかりに気をとられてしまうだろう。

「めぐぅ~千聖ね、今日はうまく出来たよぉ~千聖、頑張ったよね?」
「うん、頑張った。偉いね、この前よりも歌がすごく上手くなってるしさ」
「ありがとぉ~めぐ大好き」

 予感的中。
めぐには私には見せたこともない甘えん坊な一面を覗かせる千聖。
めぐが千聖を男の子だと知っていたか今となっては不明だけど、ボーイッシュで可愛いと弟のように可愛がっていた。
めぐにあって私にないもの、包容力という母性的なものが千聖にあんな顔をさせるのか。
すぐに諦めるつもりはないにせよ、私にはかけている部分ではある。
それを小学生時代の私に求めるとなると、ちょっとどころではなく酷な気がする。

「舞美ちゃ~ん、遊ぼうよぉ~」
「どうしたの、舞ちゃんは。今日はやけに甘えん坊だね。何かあった?」
「ううん、そうじゃないけどさ。つまんないんだもん」
「しょうがないな~舞ちゃんは。何して遊ぶ?」

 千聖がめぐに甘えている間、私は自分のお姉ちゃんのもとへ行くことが多かった。
この頃は千聖が舞美ちゃんに恋しているなんて思わなかったから、私は血の繋がったお姉ちゃんみたいに甘えた。
ハローモーニングの撮影があった時、私は風船割りゲームの最中に怖くなって抱きだしたことがある。
耳元に風船が破裂する甲高い音が響き、つい泣き出してしまったのだ。
そこへ「大丈夫?」と声をかけてくれたのが、舞美ちゃんだったのである。
泣きじゃくる私の顔を下から覗き込み、優しく怪我はないかと親身になってくれた。
それがあって、デビューできずにキッズのままでいたことも影響して、私は舞美ちゃんを本当にお姉ちゃんだと思った。
”家族”と言ってもいいくらい、小さい時から苦楽をともにしてきた仲間なのだ。
お姉ちゃんでいてほしかったのに、舞美ちゃんは私から千聖を奪おうとしている恋敵になってしまった。

「舞美ちゃん、花火ずっとみていたいね」
「うん、こんなに綺麗な花火は初めてかも」

 もう花火が綺麗にも思えなくなってきた。
めぐに邪魔され、今度は舞美ちゃん、どうして私の前にはこんなに邪魔が入るの?
意地悪な運命だね、千聖。
私はこんなにもあなたを想っているのに、あなたは私のことをちっとも想ってくれていない。
もっとあなたを振り向かせるにはどうしたらいいの?
あなたから舞美ちゃんを引き離すには私じゃ無理なのかな・・・
私の切ない苦しみも、夜空に咲く花火みたいに美しく散ってしまえばいいのにね。
私はこんなに苦しくてもきっとあなたを忘れることは出来ないんだろうな。
ね、せめてあなたの手に私の手を添えるくらいは運命でも邪魔はしないよね。

「舞ちゃん、どうしたの? 手当たってるよ?」
「馬鹿、のせてるの。今だけはこうしてていいでしょ」
「うん。舞ちゃん、花火もうすぐ終わりだね。来年こそ浴衣姿みせてね」
「どうせ私にはお世辞のくせに」なんて意地っ張りな私はつい嫌味をいってしまう。
「違うよ。舞ちゃんには似合うと思ってるからだよ。ね」

 ズルイ、千聖が私のおいた手から自分の手をぬいて、上から被せてきた。
包み込むような力強さでギュッと握ってくれる。
しかも、来年はあなたに浴衣姿をみせなきゃって思わせるとびっきりの笑顔でだ。
やられた、こういう笑顔に私は弱くて、めぐのことも舞美ちゃんのことも許してしまえるのだ。
溜息をつきながら、私は強く握ってくれた手の温もりを感じつつ、来年のプランを今から考えていた。
来年こそはあなたと二人っきりで花火がみたいから。

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