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 桃ちゃんはシャワーを浴びたり、着替えやメイクで準備があるからと先にここへ向かっていなさいと指定してきた。
その場所はここから歩いて数分のみなとみらいだった。
何でも舞美を好きなら男としてエスコートできるかが見たいのだそうな。
私を舞美だと思ってしっかりやらないとダメだからね、とも言っていたから本番のつもりで頑張らないとだ。
今は桃ちゃんとのことに集中しなくてはと考えると、余計に舞美ちゃんの顔が思い浮かんでしまう。
桃ちゃんの言っていたことは本当なんだろうか?
舞美ちゃんが僕を好きだって言っていたことが事実なら、嬉しすぎて飛び跳ねてしまいたいくらいだ。
でも、相手が桃ちゃんだからどこまで信じていいか、そこが考えものではあるんだ。
みなとみらいまではあっという間で、こんな考え事をして歩いていてもすぐに着いてしまった。
あとは桃ちゃんがすぐに来てくれればいいだけだ。

「お待たせ~ちょいとスタッフさんが送っていくからとか言ってくれるの断るのに時間かかっちゃって」

 あれから、もう一時間近く待たされたあげくにようやく桃ちゃんが現れた。
桃ちゃんは私服に着替えると、何だか高校生に見えないからどうも”お姉さん”と言われるとしっくりこない。
衣装のままの方がよっぽどよかったくらいだ。

「遅いぞ。散々待ったんだぞ。いくら女の子が着替えとかに時間かかるからって遅いじゃん」
「ごめんごめん。でも、これくらいで怒るとはまだまだお子様だね」

 遅れてきたくせに、人を子供扱いして笑うなんて失礼な”お姉さん”だ。

「あ、すねた。レディがデートに遅れたら、そこは心配するくらいじゃないと。はい、減点」
「な、何が減点なんだよ。そっちこそレディだなんて大人ぶってるけど、似合わないから」
「笑うなぁ~あんたは舞美相手でもそんな言い方するんですか?」
「す、するもんか。舞美ちゃんは桃ちゃんみたく意地悪しないから。ちゃんとデートするから」

 何だか、とっても子供同士の喧嘩じみてきた。
いくらお互いにキッズに入ってから六年が経とうとも、心は小五と小二のままなんだなぁとつくづく思った。
タイムスリップした錯覚まであるし、こりゃもう舞美ちゃんを想定してのデートなんかなりっこない。
僕らは結局ふざけあったまま、桃ちゃんが食べてみたいっていう高級そうなレストランに入った。

「ねぇ、こんな高そうなお店入って平気? 僕、お金ないよ」
「そんな心配はいいの。お姉さんを信用しなさい。これくらい、お姉さんがちゃんと払ってあげるから」

 桃ちゃんは何度も横浜には来ているのに、プライベートで遊びに来たことはないから憧れていたらしい。
だからだろう、桃ちゃんは落ち着かずにきょろきょろ周りを眺めては、感動の声を洩らす。
いいねぇ、すごい、お洒落、この単語しか知らないみたいにずっと話している。
これらの言葉が出るたびに桃ちゃんと同じものを見るけど、僕の場合はとても落ち着かない気分になるだけだ。
一品目の料理が運ばれてきて、テーブルに並んでいるのに食べる気が起きない。

「千聖、お腹すいてるでしょ? 遠慮はいいから食べなって。たまにはこういうのも食べてみるもんだよ」

 僕が食いしん坊だからって遠慮してしまうのに対し、桃ちゃんはおいしそうに頬張っている。
一口一口を噛み締めながら、料理のおいしさに酔いしれてしまっている桃ちゃんは、やっぱり子供だ。
足をばたばたとさせて行儀が悪いったらありゃしない。

「もう、人が食べてるの見てないで食べな。あんたが食べないならいただいちゃうよ」
「はいはい、これは僕の分だからあげません。桃ちゃんは次がくるまで我慢できないなら、お皿食べちゃえば?」
「よぉし、じゃあ食べてみちゃおうかな。あ~ん、って食べるか。お皿はさすがに食べられません」

 桃ちゃんのノリツッコミも健在で、二人とも変わってるようで変わらないことにまた喜びを感じてしまった。
これではどんなにいいところにでかけても、僕らにかかっちゃ高級料理も台無しになってしまうのかな。

「ここ、綺麗な夜景が見られて最高でしょ。私ね、こういうところでいつか彼氏とデートしたかったの」
「へぇ~叶うといいね。桃ちゃん可愛いからすぐにみつかるよ」
「ありがとう。当分は仕事があるから無理かもね。今日のデートは言うならば、その穴埋めってところかな」

 夜景をみながら、桃ちゃんはどこか遠く眺めつつ独り言みたくつぶやく。
その横顔は普段はみられない大人っぽい一面を強烈にみせてきて、こうしてみると意外と大人かなと思ってしまう。
桃ちゃんに彼氏か、それは考えたくもない話だ。
もうとっくにふっ切ったはずの淡い恋心がふつふつと湧き上がってくる。
あの頃は伝えきれなかった言葉を今なら伝えられそう、そういう雰囲気があるのが原因かもしれない。

「舞美だって、きっとこういうところ連れてきたら一発だよ。あの子は意外とロマンチストだからね。王子様とか憧れてるよ」
「うん、乙女だよね。舞美ちゃん、ピンク好きだし。色んなところでそういうのわかる」
「まぁね。うっかり口滑らせちゃったけどね、舞美はあんたに真剣だよ。これはチャンスだと思うから、頑張りな」

「舞美だって、きっとこういうところ連れてきたら一発だよ。あの子は意外とロマンチストだからね。王子様とか憧れてるよ」
「うん、乙女だよね。舞美ちゃん、ピンク好きだし。色んなところでそういうのわかる」
「まぁね。うっかり口滑らせちゃったけどね、舞美はあんたに真剣だよ。これはチャンスだと思うから、頑張りな」

 舞美ちゃんが僕を好きだっていうのは、どうやら本当らしい。
なのに素直に喜べない僕がいて、一方ではこの場で飛び上がって喜びを表したい僕もいる。

「何、浮かない顔しちゃってさ。舞美はあんたを好きで、あんたも好きなんでしょ。違う?」
「そりゃまぁ」
「違うのぉ? はっきりしないねぇ。ま、私も複雑な想いではあるんだけどね」

 ここで僕を正面から捉えて、桃ちゃんんは瞬きもしないでじっとみつめてくる。

「入った頃はあんたは私を好きそうだったし、しょっちゅう一緒にいたから今でも好きだって思ってたからさ」
「・・・ど、どうしてそれを?」
「女の勘かな。っていうか、当たってたんだ。はは、ったくこのませたガキんちょは」

 桃ちゃんがにっこり笑って、僕の頭をくしゃくしゃにかき回してくる。
可愛がっていた弟が遠くにいってしまって寂しいのを、こうやって愛情を伝えてきているみたいだった。

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