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 ぐしゃぐしゃになるまでかき回す私に抵抗しようと身をよじらせる千聖。
やめてよ、と笑い声をあげる千聖はいつまでたっても思い出の中の男の子と変わらない。
変わったとすれば、好きな相手が私から舞美に変わったことくらいか。

「桃ちゃん、くぁわいぃ~」

 キッズに入りたての頃、千聖が私によく言っていた言葉だ。
覚えた言葉だけを話す九官鳥みたいにこれだけを言い続けた。
今ではほとんど同じくらいの位置にある顔も、当時は少しだけ大きかった私が見下ろすのが当たり前だった。
声をかけられるたび、私が目線をあわせに顔を下ろすと、何が面白いのかにこっと笑っていた。
そして、また

「桃ちゃん、くぁわいぃ~」と言いだすのだ。

 子供が使う好きは、恋愛感情ぬきの人間的に好きだと思っていたから、本気だと知ったときは意外な気がした。
千聖はこの頃から舞ちゃんにも好きだと言っていたし、しょっちゅう一緒にいたから本命はあっちだと思っていた。
私にはしていないのに、舞ちゃんには平気で肩を抱いてキスまでしていたことまである。
それを踏まえると、当然ながら舞ちゃんが本命だと思うのも無理からぬ話ではある。

「あれは女の子だって意識したら出来ないことだよ。舞ちゃんは友達だと思ってたから、出来たことなんだ」

 とは、どうしてあそこまで出来るのか、という問いに対する答えである。
舞ちゃんには出来て私には出来ない、納得できはしなかったけれど、

「桃ちゃんだと意識しちゃってさ。だって、キッズの中だと一番可愛いからさ。照れちゃうんだよ」

 なんて言葉をさらっと言われたおかげで、うまく丸めこまれたところはあった。
普通ならこんなキザったらしいセリフでも照れるものなのに、千聖は割とこういうのは簡単に言えてしまっていた。
千聖は着飾った言葉を考えて言うような子のは知っていたから、本心から言ってくれていると喜べた。
私が先にデビューするまでは千聖から「可愛い」と言われるのは、私だけの特権だった。
弟に可愛いと言われて喜ぶか、なんて言われても嬉しかったのだから仕方ない。
これもいつしか聞かれなくなり、代わりに聞かれるようになったのは

「舞美ちゃん、くぁわいぃ~」だった。

 いつの間にか、年に何度かあるハロコンで会うと毎回聞いていたセリフを期待していたことに気付かされた。
寂しいなぁ~コンサートでデビューする相方探しにでかけたこともあった。
それから、楽屋に遊びにいくと必ずメンバーにしかけた悪戯の仕掛けを明かしてくれたこともあった。
その標的が舞美だったのは仕掛けやすいからではなく、好きだったからなんて早いうちに気づくべきだったね。

「桃ちゃん、デザートいらないの? さっきからぼぉ~としてさ」
「ん? 食べますよ、食べます」
「桃子が桃のデザート食べるって共食いじゃん。縁起が悪いから、こっち食べなよ。ほら、交換」
「だぁめ。あんたの食べかけじゃない。交換しません」

 千聖が私のデザートのお皿を掴み、自分のほうへ引き寄せる。
私が考え事に集中していた間に自分は半分は食べているくせに、これで交換はちょっと図々しい。
こういうのは千聖らしくて微笑ましく感じる面である。

「桃ちゃ~ん、かわいいよぉ。だから、交換しようって」
「可愛いって言って誤魔化そうたってそうはいきません。ダメなものはダメですぅ」

 可愛いと言えば交換すると思うなんて、何てあざとい考えなんだろうな。

「桃ちゃん、食べたいよぉ。桃のデザート」
「だぁめ。あげません。あんたは食べかけを食べてなさい。じゃないと、桃が食べちゃうぞ」

 一枚の皿をとりあう小競り合いをしばらく演じた後、二人で半分ずつにすることで納得した。
これくらいですぐにムキになるあたり、まだまだ私も子供ではあるなと反省してしまう。
それも秋が近付いた涼しげな夜風が吹き飛ばしてくれた。

「舞美がライブ来ていたから今日は帰り心配していたけど、雨は平気みたいだね」
「うん、星が綺麗だよ。横浜でも星空がみえるんだね」

 千聖がため息をこぼしながらも、しげしげと星空に見入っている。
つられて私も見上げてみると、ロマンチックな夜景が空一面に広がっていた。
思わず、私までもため息をこぼしてしまう。

「綺麗。こんな夜景が綺麗な場所だとは思わなかった。ネオンであんまり見られないと思ってたからさ」
「やっぱり自然の光が一番だね」
「ねぇ、ちょっと歩こうか。こんなに綺麗な夜景があるんだから、歩かないともったいないじゃん。行くよ」
「桃ちゃん、駅とは反対方向じゃん。ちょっとちょっとぉ~」

 気持ちの整理がつかないのに帰りたくはなかった私は、夜道を一人走り出していた。
本心から応援してあげられなかったから・・・

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