SS > 短編-けいおん!メンバー > > 家出少女

「SS/短編-けいおん!メンバー/紬/家出少女」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

SS/短編-けいおん!メンバー/紬/家出少女」(2009/07/04 (土) 00:17:55) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

秋。 中秋の名月、とかっこよく言ってみてもいいが、よくは知らないから止めておく。 部活の帰り、みんなと別れて澪と別れて一人でぼんやり帰ってるともう月が昇っていた。 気付けば、空は殆ど漆黒に染まり、月の周りだけが白く輝いていた。 詳しくは分からないが、今日は満月に見えた。 9時頃からは、私の部屋の窓から満月がくっきりと見えるようになった。 興奮した私は狼女にはならなかったが、カーテンを開けてしまった。 「お、ウサギ」 影が、よくある餅ついたウサギに見えた。 周りの星が月を更に視覚的に輝かせてる気がする。 マグカップに入った紅茶を飲んで温まりながら、ずっと見ていた。 〔いーしやぁ〜きいもっ、おいもーおいもぉ〜〕 焼き芋の屋台の声が聞こえて来た。 「焼き芋、か」 道路を挟んだ家の更に向こう側から光が見える。多分あそこからだ。 たまには食べたいな。行こう。そう思って、私は財布を持って外に出た。 流石に家と家の狭い私有地の間を抜ける事は許され難い。 少し迂回する形になるが、ちょっと小走りで遠回りする。 ちゃらりーらら、と昔ながらのチャルメラ的な音は、移動してなかった。誰かが買ってるんだろう。 角を曲がって音の方向を見ると、いかにもなオッチャンが私に背を向けて焼き芋を売っていた。 「おっちゃーん、私にも焼き芋……はれ?」 自然と視界に入った、焼き芋の買い手を見て私は驚愕した。 「あ、りっちゃん♪」 「む、ムギ!?」 白いダッフルコートを着て、黒のマフラーを首に巻いたムギがいた。 「な、なんで…」 「お、嬢ちゃんの知り合いかい?」 オッチャンは焼き芋の入った紙袋をムギに渡しながら彼女に言う。 「ええ、私の友達よ」 「へぇ、そうかい。っと、こっちの嬢ちゃんも焼き芋だな?」 毎度、と笑顔でムギに言ってから、こっちを向いて来る。 「あ、うん。1つちょーだい」 私は財布から小銭を出す。 「はいよ、んじゃサービスで2個にしとくよ」 「え、いいの?」 「いいのいいの、可愛い子にはサービスしてやるよー」 「実は私もなの。可愛いですって、恥ずかしいわ」 ムギがほんのりと赤くなってる。嬉しかったのか。 屋台の端の空いてるスペースに小銭を置く。 オッチャンは私に紙袋を渡す。 「はい、毎度ありー♪」 オッチャンは笑顔で私達の元を去っていった。 「で、ムギ。何でこんなトコにいるのさ」 部活が終わって、ムギは唯と梓と一緒に帰ったハズだ。 ムギはそんな私を他所に、無邪気な子供のような好奇心満載の顔を露にしている。 かさかさ、と紙袋から焼き芋を一個取り出す。点々と黒く焦げた紫色の皮が出て来た。 「これって皮剥くの?」 ムギが焼き芋に向けた笑顔をこっちに向けて来て問う。 私は思わず、その笑顔に惚れそうになった。私が男なら惚れてたな。若しくは狼なら。 「剥いてもいいし、剥かなくても大丈夫だよ」 「そうなんだ。じゃあそのまま食べちゃおう♪」 ふーふー、と可愛らしく息を吹いて、ぱくっと食べる。 「はふはふ…美味しー♪」 私も、それに魅了されたか質問する前に焼き芋を食べたくなってしまった。 慎重に齧り付くと、黄金色の身が姿を現した。 「はふはふ…んで、何でムギはここにいるの?」 私は言い終わってから、もう1回口を開ける。 ゆっくりと味わってるムギは、こっちを向いた。 「えーと… 家出、しちゃった♪」 がぶっ。 「――――あ、あっづー!!」 一気に焼き芋を口に入れてしまった。 「わわ、りっちゃん大丈夫!?」 私は口を手で押さえて身悶えしながら、もう片方の手でムギに大丈夫アピールする。 暫くして落ち着いた。 「い、家出!?」 「う、うん…」 「また何で」 「ちょっと……そんな気分に」 「どうやってここまで?」 「歩いて来たわ。月が綺麗だったし」 見た所、手ぶらだ。 「どのくらい歩いたのさ」 「そうねぇ…」 そう言って、ムギは腕時計を見る。 「1時間くらいは歩いてるわ」 「……どっか行くの?」 「ううん、なんとなぁくずっと歩いてたの」 開いた口が塞がらない、ってのはこの事か。 ムギが家出。しかも手ぶらで、目的無し。 私も家出した事くらいはあるけどさ…。 「行くアテ、ないの?」 はふっ、と返事した。 「私の家で良ければ、来る?」 ごくん。 「え、だって迷惑でしょ?」 「大丈夫大丈夫。んじゃ、行こ行こっ!」 ムギが遠慮がちなのは重々承知してるので、ムギの手を取って私は家に帰った。 とりあえず、父さんは家にいないので母さんに言って泊める事を了承して貰った。 家出の事も、ちゃんと話すようにした。 すると母さんは「ちゃんと親には言ったの?」と論点がズレたような質問をした。 「ええ、手紙は置いておきました」とムギは答え、「オッケー」と母さんはあっさりしていた。 ああ、私みたいなのがいるからだな。と母さんの寛容さの原因の私は嘆いた。 置手紙してるならいっか。と思い、私はずっともやもやしてた詮索心を取り払った。 「それじゃ、紬ちゃん、だったわね。律の事よろしく」 いや、それは娘に失礼じゃないか?ココは田井中家の私有物に分類されるでしょうに。 「あ、いや、こちらこそ宜しくお願いします」 と、深々と頭を下げるムギ。 焼き芋を皿に盛り、紅茶の入ったマグカップ2つと一緒にお盆に乗せて、部屋に入った。 その際に「お嬢様みたいな気品がある子ね」と母さんが私に小さく呟いたが、何も言わなかった。 「わぁーココがりっちゃんの部屋なのね。あ、ぬいぐるみかわいー♪」 入るや否や、ムギは私の部屋の中を歩き回って、感動しているみたいだった。 私はお盆をテーブルに置いて、温くなった焼き芋を齧った。 横を向けば、窓から月が見えた。 「やっぱり月が綺麗ねぇ、りっちゃんのこの部屋は特等席じゃない」 「ムギの部屋って、やっぱ広いの?」 「ええ、広いわよ。広過ぎて、ヤになっちゃうくらい」 満足したのか、真正面から窓が見える位置に座り、私同様焼き芋を食べる。 「ホントに泊まっていいのかしら」 「いいのいいの。母さんも許したしな」 「それじゃ…お言葉に甘えて」 お願いします、とムギが言うので、私も、こちらこそ、と言ってしまった。 焼き芋美味しいね、とか談笑してると、母さんが扉を開けた。 「お風呂、先に紬ちゃん入る?」 「あ、いえ。りっちゃん先に入って」 「いいのよ、律は」 って、おい。母さんよ。 激しく突っ込みたかったが、私はこほん、と咳をして、 「んじゃ2人で入ろっか」 と言った。女子高生2人で家風呂ってのも何か照れ臭かったけど。 「んじゃ、2人で入りなさい。バスタオル置いておくから」 私は2つのマグカップの上に蓋を置きつつ、ムギは焼き芋を飲み込んでから言った。 『はーい』 私はタンスから2人分の寝巻を取り出して、ムギと一緒に階下の風呂場に向かった。 「気持ちよかったー♪」 最初のたじろぎは、どこか遠くに行ったのかと思うほど、ムギは私の家を堪能している。 私は断られるよりそっちの方が楽で嬉しいから、とてもウェルカムなんだけど。 部屋に戻り、私は率先してムギの綺麗な髪にドライヤーを当てながら櫛で梳いていく。 「やっぱムギの髪って綺麗だよな」 「そんな事ないわよ。長髪だと澪ちゃんの髪の方が綺麗だし、短くしてもりっちゃんや唯ちゃんの方が綺麗よ」 と言ってるが、梳きながら触ってると、澪に引けを取ってるとは思わない。 手の平で髪を触ると、ふわふわしてて気持ちいい。 「へっくしゅんっ」 思わず、くしゃみをしてしまった。そういや私の髪乾かしてないや。 「あら、ごめんねりっちゃん」 ムギはこっちを向き、ドライヤーを私の手から取る。 「じゃあ今度は私の番♪」 私はムギに背を向け、理容店の店員より柔らかい手つきで髪を撫でられる感覚を堪能した。 「あふぅ…」 トランプをしたり、部屋にある服やアクセサリーの雑誌を一緒に読んで喋ってたら、ムギが欠伸をした。 「およ、ああゴメンな。そろそろ寝るか」 時計を見ると、とっくに1時を回っている。 「あ、ごめんなさい…もうこんな時間なのね。りっちゃんは大丈夫?」 寝ぼけ眼で眼を擦りながらムギは聞いた。 「私はいけなくはないけど…いや、寝ようか」 今日――寝るまで日付は変わらないとすると今日だ――が金曜日だから別に夜更かしは構わなかった。 「じゃ、ムギはベッドで寝なよ」 風呂入ってる間に母さんが枕と毛布を一組部屋に置いててくれてるので、絨毯の上では寝れない事はない。 「え、いいわよ。ほら、りっちゃんの家でりっちゃんの部屋なんだしね」 ムギはお客様なんだから寝なよ、と言うと、ムギは私を引っ張ってベッドに連れて行った。 「私は、ネコくらいに思っててくれたらいいから。おやすみ♪」 私は申し訳なく思いながら、ちゃっちゃと毛布に包まるムギを見て、リモコンで電気を消した。 私は眠れず、月に照らされたムギの姿をぼんやりと見ていた。 「くちゅん」 手で押さえたみたいだけど、ムギがくしゃみをした。 やっぱ、寒いんじゃないか。 …………………。 「…うー、さぶ…こんな時ネコが布団にいたら温かいんだけどなー」 ワザとらしく言ってやった。 ムギがゆっくりと動いて、私の方を見る。 電気を点けると、眩しさにやられ、私もムギも一瞬目をぎゅっと閉じる。 「ムギも寒いんだろ?ほら、一緒に寝ようよ」 今度は私がベッドにムギを引っ張った。 「あ、で、でもっ」 「大丈夫大丈夫。2人なら入れるから。ささっ」 私はムギを引っ張り、ベッドに寝かせた。 私の体温で、布団の中は外気よりかは温かいハズだ。 「あ、そ、それじゃ…」 「おう、おやすみ♪」 背中合わせで一つの布団の中に入る。 電気を消して、暫くした時だった。 「あのね、りっちゃん」 「んー?」 目を開けると、白い壁があった。当然か。 「家出した理由、聞きたい?」 「………聞いてあげるよ」 聞いて欲しそうだったから。気にならないと言えば嘘になるけど。 「今日帰ったらね、玄関でいつものように斉藤――執事さんなんだけど、が迎えてくれたのよ。  それで"お帰りなさいませ、紬お嬢様"って言うの。でも、何故か声が空元気だったの。  "どうしたの?"って聞くとね、"今日でお別れかも知れません"って言うの」 ムギの背中が震えるのが背中を通して分かる。 私はただ、その震えを感じるだけだった。 「詳しく聞くと、契約が終わるらしいのよ。ちょうど、15年らしいわ。  私は知らなかったから、ビックリしたわ。何度も嘘だと思って聞いても、斉藤は真摯な瞳で"本当です"って…  今日、お父さんは家にいたからソレを訴えたわ。"斉藤を辞めさせないで!"って。  けど、"契約は契約で、紬も成長したからいいだろう"…って……」 15年。3歳の頃からずっといる事を考えると、もはや家族同然だろう。 私は人差し指で壁をゆっくり撫でる。 「それも何度も言ったわ。"契約延長すればいいじゃない"とも。  お父さんは首を横に振るだけだった。私は絶望したわ。  そりゃあ赤の他人かも知れないけど、ずっといたんだもの」 「それで…家出か」 いつの間にか、ムギは鼻を啜っていた。 「…うん、部屋の窓から。…バカ、よね。私」 「……テストの成績を散々言われたから家出した」 「へ?」 ムギの背中の温もりがなくなった。ムギがこっちを向いたからだ。 「お気に入りのぼろぼろのぬいぐるみを母さんに捨てられて家出した。  お酒を飲んだ父さんと、テレビを見てて些細な討論から"出て行け"って言われたから出て行った」 私もムギの方を向いた。ムギの顔は月光が翳らせて見えない。 逆に言えば、私の顔は見えるって事だ。 「ほら、どっちがバカだと思う?」 思いっきり、歯を出して笑ってやる。 ムギは答えなかったが、笑ってくれたのは分かった。 「大事な人だもんな。そりゃあ辛いって」 私も澪がどっかに行っちゃったら泣くかもしれない。 唯も、梓も、和も。―ムギも。いくら笑顔で手を振られても、合理的な理由があっても。 ムギだって、お嬢様の前に女子高生だ。謹みを持っていようと、感情は抑え切れないだろう。 「ありがと。りっちゃん」 「何もしてないよ」 「ううん、決心した。明日、もっかい直談判するわ」 握り拳を小さく作る。 「でも、今日で切れるんじゃないの?」 「最悪、私が契約するわ」 と言うと、暫く黙って考え出した。 「契約、じゃなくて……そう、お泊りにしましょ。今みたいに」 布団の中で、ムギは私の手を取った。 「ホントに。ありがとう、りっちゃん」 「――どう致しまして」 それじゃ、寝よっか。とムギが言うので、私達はこのまま向かい合わせで寝た。 次の日。 10時に、ほぼ同じタイミングで目が覚めた私達。 ムギの服は案の定この気温じゃ乾いてないので、私の服を貸した。 …なんで、私の服なのにムギが着るとグレードアップするんだろうな。 ムギは私の家の電話を使って、家に電話を掛けた。 ケータイを置いて来たらしい。そういや、昨日も夜道で腕時計で時間を見てたな。 「車で迎えに来る、だって。お父さんの声、やつれてたみたい…」 ムギが申し訳なさそうに言う。 「ほら、今からそんな顔してどーすんの。向き合うならそんなの乗り越えなよ」 とだけ言った。 一緒に朝ご飯を食べて、私達は家の外で車を待った。 喋る事は決して無く、十数分待ってると、この辺りには似つかわしくない車が遠くに見えた。 ムギに言われずとも、それが迎えだとは分かった。 迎えが来たら呼ぶように言われてたので、母さんを呼ぶとすぐ出て来た。 車が、家の前で止まる。 サングラスを掛けた、すらっとしたスーツの男性が運転席から出て来た。 「―――斉藤っ!?」 ムギが声を発した。 斉藤、って昨日で…。 「ええ、そうです」 ムギは口を手で覆いながら、唖然としていた。 「で、でもどうして」 「紬お嬢様のお陰です。置手紙に"私――斉藤を辞めさせるなら帰らない"と一筆されたそうで。  旦那様がお部屋に入って、愕然としていらっしゃいました。私共総勢でお嬢様を探せ、と命令なさりました。  しかし、奥様がそれを制止なさって、私の契約を継続させて頂けるよう促して下さいました。  "紬はお友達のトコロに行ったのでしょう"と仰り、捜索も打ち止めする事に。  旦那様だけが気が気でいらっしゃらなかったご様子でしたが」 ムギは斉藤さんの言葉を飲み込み、潤んだ瞳を押さえ込んで喜んだ。 「……良かったぁ…」 「ホントだな」 その後、斉藤さんは私の母さんに直角に頭を下げた後、菓子折を手渡してムギを乗せて帰って行った。 「…執事…って……え?紬ちゃんてお嬢様?」 超がつく程の高級品らしい、菓子折を手にしながら、母さんは震えていた。 私はそんな母を他所に、家に戻った。 >出典 >【けいおん!】田井中律は前髪可愛い30【ドラム】
秋。 中秋の名月、とかっこよく言ってみてもいいが、よくは知らないから止めておく。 部活の帰り、みんなと別れて澪と別れて一人でぼんやり帰ってるともう月が昇っていた。 気付けば、空は殆ど漆黒に染まり、月の周りだけが白く輝いていた。 詳しくは分からないが、今日は満月に見えた。 9時頃からは、私の部屋の窓から満月がくっきりと見えるようになった。 興奮した私は狼女にはならなかったが、カーテンを開けてしまった。 「お、ウサギ」 影が、よくある餅ついたウサギに見えた。 周りの星が月を更に視覚的に輝かせてる気がする。 マグカップに入った紅茶を飲んで温まりながら、ずっと見ていた。 〔いーしやぁ〜きいもっ、おいもーおいもぉ〜〕 焼き芋の屋台の声が聞こえて来た。 「焼き芋、か」 道路を挟んだ家の更に向こう側から光が見える。多分あそこからだ。 たまには食べたいな。行こう。そう思って、私は財布を持って外に出た。 流石に家と家の狭い私有地の間を抜ける事は許され難い。 少し迂回する形になるが、ちょっと小走りで遠回りする。 ちゃらりーらら、と昔ながらのチャルメラ的な音は、移動してなかった。誰かが買ってるんだろう。 角を曲がって音の方向を見ると、いかにもなオッチャンが私に背を向けて焼き芋を売っていた。 「おっちゃーん、私にも焼き芋……はれ?」 自然と視界に入った、焼き芋の買い手を見て私は驚愕した。 「あ、りっちゃん♪」 「む、ムギ!?」 白いダッフルコートを着て、黒のマフラーを首に巻いたムギがいた。 「な、なんで…」 「お、嬢ちゃんの知り合いかい?」 オッチャンは焼き芋の入った紙袋をムギに渡しながら彼女に言う。 「ええ、私の友達よ」 「へぇ、そうかい。っと、こっちの嬢ちゃんも焼き芋だな?」 毎度、と笑顔でムギに言ってから、こっちを向いて来る。 「あ、うん。1つちょーだい」 私は財布から小銭を出す。 「はいよ、んじゃサービスで2個にしとくよ」 「え、いいの?」 「いいのいいの、可愛い子にはサービスしてやるよー」 「実は私もなの。可愛いですって、恥ずかしいわ」 ムギがほんのりと赤くなってる。嬉しかったのか。 屋台の端の空いてるスペースに小銭を置く。 オッチャンは私に紙袋を渡す。 「はい、毎度ありー♪」 オッチャンは笑顔で私達の元を去っていった。 「で、ムギ。何でこんなトコにいるのさ」 部活が終わって、ムギは唯と梓と一緒に帰ったハズだ。 ムギはそんな私を他所に、無邪気な子供のような好奇心満載の顔を露にしている。 かさかさ、と紙袋から焼き芋を一個取り出す。点々と黒く焦げた紫色の皮が出て来た。 「これって皮剥くの?」 ムギが焼き芋に向けた笑顔をこっちに向けて来て問う。 私は思わず、その笑顔に惚れそうになった。私が男なら惚れてたな。若しくは狼なら。 「剥いてもいいし、剥かなくても大丈夫だよ」 「そうなんだ。じゃあそのまま食べちゃおう♪」 ふーふー、と可愛らしく息を吹いて、ぱくっと食べる。 「はふはふ…美味しー♪」 私も、それに魅了されたか質問する前に焼き芋を食べたくなってしまった。 慎重に齧り付くと、黄金色の身が姿を現した。 「はふはふ…んで、何でムギはここにいるの?」 私は言い終わってから、もう1回口を開ける。 ゆっくりと味わってるムギは、こっちを向いた。 「えーと… 家出、しちゃった♪」 がぶっ。 「――――あ、あっづー!!」 一気に焼き芋を口に入れてしまった。 「わわ、りっちゃん大丈夫!?」 私は口を手で押さえて身悶えしながら、もう片方の手でムギに大丈夫アピールする。 暫くして落ち着いた。 「い、家出!?」 「う、うん…」 「また何で」 「ちょっと……そんな気分に」 「どうやってここまで?」 「歩いて来たわ。月が綺麗だったし」 見た所、手ぶらだ。 「どのくらい歩いたのさ」 「そうねぇ…」 そう言って、ムギは腕時計を見る。 「1時間くらいは歩いてるわ」 「……どっか行くの?」 「ううん、なんとなぁくずっと歩いてたの」 開いた口が塞がらない、ってのはこの事か。 ムギが家出。しかも手ぶらで、目的無し。 私も家出した事くらいはあるけどさ…。 「行くアテ、ないの?」 はふっ、と返事した。 「私の家で良ければ、来る?」 ごくん。 「え、だって迷惑でしょ?」 「大丈夫大丈夫。んじゃ、行こ行こっ!」 ムギが遠慮がちなのは重々承知してるので、ムギの手を取って私は家に帰った。 とりあえず、父さんは家にいないので母さんに言って泊める事を了承して貰った。 家出の事も、ちゃんと話すようにした。 すると母さんは「ちゃんと親には言ったの?」と論点がズレたような質問をした。 「ええ、手紙は置いておきました」とムギは答え、「オッケー」と母さんはあっさりしていた。 ああ、私みたいなのがいるからだな。と母さんの寛容さの原因の私は嘆いた。 置手紙してるならいっか。と思い、私はずっともやもやしてた詮索心を取り払った。 「それじゃ、紬ちゃん、だったわね。律の事よろしく」 いや、それは娘に失礼じゃないか?ココは田井中家の私有物に分類されるでしょうに。 「あ、いや、こちらこそ宜しくお願いします」 と、深々と頭を下げるムギ。 焼き芋を皿に盛り、紅茶の入ったマグカップ2つと一緒にお盆に乗せて、部屋に入った。 その際に「お嬢様みたいな気品がある子ね」と母さんが私に小さく呟いたが、何も言わなかった。 「わぁーココがりっちゃんの部屋なのね。あ、ぬいぐるみかわいー♪」 入るや否や、ムギは私の部屋の中を歩き回って、感動しているみたいだった。 私はお盆をテーブルに置いて、温くなった焼き芋を齧った。 横を向けば、窓から月が見えた。 「やっぱり月が綺麗ねぇ、りっちゃんのこの部屋は特等席じゃない」 「ムギの部屋って、やっぱ広いの?」 「ええ、広いわよ。広過ぎて、ヤになっちゃうくらい」 満足したのか、真正面から窓が見える位置に座り、私同様焼き芋を食べる。 「ホントに泊まっていいのかしら」 「いいのいいの。母さんも許したしな」 「それじゃ…お言葉に甘えて」 お願いします、とムギが言うので、私も、こちらこそ、と言ってしまった。 焼き芋美味しいね、とか談笑してると、母さんが扉を開けた。 「お風呂、先に紬ちゃん入る?」 「あ、いえ。りっちゃん先に入って」 「いいのよ、律は」 って、おい。母さんよ。 激しく突っ込みたかったが、私はこほん、と咳をして、 「んじゃ2人で入ろっか」 と言った。女子高生2人で家風呂ってのも何か照れ臭かったけど。 「んじゃ、2人で入りなさい。バスタオル置いておくから」 私は2つのマグカップの上に蓋を置きつつ、ムギは焼き芋を飲み込んでから言った。 『はーい』 私はタンスから2人分の寝巻を取り出して、ムギと一緒に階下の風呂場に向かった。 「気持ちよかったー♪」 最初のたじろぎは、どこか遠くに行ったのかと思うほど、ムギは私の家を堪能している。 私は断られるよりそっちの方が楽で嬉しいから、とてもウェルカムなんだけど。 部屋に戻り、私は率先してムギの綺麗な髪にドライヤーを当てながら櫛で梳いていく。 「やっぱムギの髪って綺麗だよな」 「そんな事ないわよ。長髪だと澪ちゃんの髪の方が綺麗だし、短くしてもりっちゃんや唯ちゃんの方が綺麗よ」 と言ってるが、梳きながら触ってると、澪に引けを取ってるとは思わない。 手の平で髪を触ると、ふわふわしてて気持ちいい。 「へっくしゅんっ」 思わず、くしゃみをしてしまった。そういや私の髪乾かしてないや。 「あら、ごめんねりっちゃん」 ムギはこっちを向き、ドライヤーを私の手から取る。 「じゃあ今度は私の番♪」 私はムギに背を向け、理容店の店員より柔らかい手つきで髪を撫でられる感覚を堪能した。 「あふぅ…」 トランプをしたり、部屋にある服やアクセサリーの雑誌を一緒に読んで喋ってたら、ムギが欠伸をした。 「およ、ああゴメンな。そろそろ寝るか」 時計を見ると、とっくに1時を回っている。 「あ、ごめんなさい…もうこんな時間なのね。りっちゃんは大丈夫?」 寝ぼけ眼で眼を擦りながらムギは聞いた。 「私はいけなくはないけど…いや、寝ようか」 今日――寝るまで日付は変わらないとすると今日だ――が金曜日だから別に夜更かしは構わなかった。 「じゃ、ムギはベッドで寝なよ」 風呂入ってる間に母さんが枕と毛布を一組部屋に置いててくれてるので、絨毯の上では寝れない事はない。 「え、いいわよ。ほら、りっちゃんの家でりっちゃんの部屋なんだしね」 ムギはお客様なんだから寝なよ、と言うと、ムギは私を引っ張ってベッドに連れて行った。 「私は、ネコくらいに思っててくれたらいいから。おやすみ♪」 私は申し訳なく思いながら、ちゃっちゃと毛布に包まるムギを見て、リモコンで電気を消した。 私は眠れず、月に照らされたムギの姿をぼんやりと見ていた。 「くちゅん」 手で押さえたみたいだけど、ムギがくしゃみをした。 やっぱ、寒いんじゃないか。 …………………。 「…うー、さぶ…こんな時ネコが布団にいたら温かいんだけどなー」 ワザとらしく言ってやった。 ムギがゆっくりと動いて、私の方を見る。 電気を点けると、眩しさにやられ、私もムギも一瞬目をぎゅっと閉じる。 「ムギも寒いんだろ?ほら、一緒に寝ようよ」 今度は私がベッドにムギを引っ張った。 「あ、で、でもっ」 「大丈夫大丈夫。2人なら入れるから。ささっ」 私はムギを引っ張り、ベッドに寝かせた。 私の体温で、布団の中は外気よりかは温かいハズだ。 「あ、そ、それじゃ…」 「おう、おやすみ♪」 背中合わせで一つの布団の中に入る。 電気を消して、暫くした時だった。 「あのね、りっちゃん」 「んー?」 目を開けると、白い壁があった。当然か。 「家出した理由、聞きたい?」 「………聞いてあげるよ」 聞いて欲しそうだったから。気にならないと言えば嘘になるけど。 「今日帰ったらね、玄関でいつものように斉藤――執事さんなんだけど、が迎えてくれたのよ。  それで"お帰りなさいませ、紬お嬢様"って言うの。でも、何故か声が空元気だったの。  "どうしたの?"って聞くとね、"今日でお別れかも知れません"って言うの」 ムギの背中が震えるのが背中を通して分かる。 私はただ、その震えを感じるだけだった。 「詳しく聞くと、契約が終わるらしいのよ。ちょうど、15年らしいわ。  私は知らなかったから、ビックリしたわ。何度も嘘だと思って聞いても、斉藤は真摯な瞳で"本当です"って…  今日、お父さんは家にいたからソレを訴えたわ。"斉藤を辞めさせないで!"って。  けど、"契約は契約で、紬も成長したからいいだろう"…って……」 15年。3歳の頃からずっといる事を考えると、もはや家族同然だろう。 私は人差し指で壁をゆっくり撫でる。 「それも何度も言ったわ。"契約延長すればいいじゃない"とも。  お父さんは首を横に振るだけだった。私は絶望したわ。  そりゃあ赤の他人かも知れないけど、ずっといたんだもの」 「それで…家出か」 いつの間にか、ムギは鼻を啜っていた。 「…うん、部屋の窓から。…バカ、よね。私」 「……テストの成績を散々言われたから家出した」 「へ?」 ムギの背中の温もりがなくなった。ムギがこっちを向いたからだ。 「お気に入りのぼろぼろのぬいぐるみを母さんに捨てられて家出した。  お酒を飲んだ父さんと、テレビを見てて些細な討論から"出て行け"って言われたから出て行った」 私もムギの方を向いた。ムギの顔は月光が翳らせて見えない。 逆に言えば、私の顔は見えるって事だ。 「ほら、どっちがバカだと思う?」 思いっきり、歯を出して笑ってやる。 ムギは答えなかったが、笑ってくれたのは分かった。 「大事な人だもんな。そりゃあ辛いって」 私も澪がどっかに行っちゃったら泣くかもしれない。 唯も、梓も、和も。―ムギも。いくら笑顔で手を振られても、合理的な理由があっても。 ムギだって、お嬢様の前に女子高生だ。謹みを持っていようと、感情は抑え切れないだろう。 「ありがと。りっちゃん」 「何もしてないよ」 「ううん、決心した。明日、もっかい直談判するわ」 握り拳を小さく作る。 「でも、今日で切れるんじゃないの?」 「最悪、私が契約するわ」 と言うと、暫く黙って考え出した。 「契約、じゃなくて……そう、お泊りにしましょ。今みたいに」 布団の中で、ムギは私の手を取った。 「ホントに。ありがとう、りっちゃん」 「――どう致しまして」 それじゃ、寝よっか。とムギが言うので、私達はこのまま向かい合わせで寝た。 次の日。 10時に、ほぼ同じタイミングで目が覚めた私達。 ムギの服は案の定この気温じゃ乾いてないので、私の服を貸した。 …なんで、私の服なのにムギが着るとグレードアップするんだろうな。 ムギは私の家の電話を使って、家に電話を掛けた。 ケータイを置いて来たらしい。そういや、昨日も夜道で腕時計で時間を見てたな。 「車で迎えに来る、だって。お父さんの声、やつれてたみたい…」 ムギが申し訳なさそうに言う。 「ほら、今からそんな顔してどーすんの。向き合うならそんなの乗り越えなよ」 とだけ言った。 一緒に朝ご飯を食べて、私達は家の外で車を待った。 喋る事は決して無く、十数分待ってると、この辺りには似つかわしくない車が遠くに見えた。 ムギに言われずとも、それが迎えだとは分かった。 迎えが来たら呼ぶように言われてたので、母さんを呼ぶとすぐ出て来た。 車が、家の前で止まる。 サングラスを掛けた、すらっとしたスーツの男性が運転席から出て来た。 「―――斉藤っ!?」 ムギが声を発した。 斉藤、って昨日で…。 「ええ、そうです」 ムギは口を手で覆いながら、唖然としていた。 「で、でもどうして」 「紬お嬢様のお陰です。置手紙に"私――斉藤を辞めさせるなら帰らない"と一筆されたそうで。  旦那様がお部屋に入って、愕然としていらっしゃいました。私共総勢でお嬢様を探せ、と命令なさりました。  しかし、奥様がそれを制止なさって、私の契約を継続させて頂けるよう促して下さいました。  "紬はお友達のトコロに行ったのでしょう"と仰り、捜索も打ち止めする事に。  旦那様だけが気が気でいらっしゃらなかったご様子でしたが」 ムギは斉藤さんの言葉を飲み込み、潤んだ瞳を押さえ込んで喜んだ。 「……良かったぁ…」 「ホントだな」 その後、斉藤さんは私の母さんに直角に頭を下げた後、菓子折を手渡してムギを乗せて帰って行った。 「…執事…って……え?紬ちゃんてお嬢様?」 超がつく程の高級品らしい、菓子折を手にしながら、母さんは震えていた。 私はそんな母を他所に、家に戻った。 >出典 >【けいおん!】田井中律は前髪可愛い30【ドラム】 #comment_num2(below,log=コメント/家出少女)

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示:
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。