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SS/短編-俺律/律とデート」(2009/07/04 (土) 00:45:02) の最新版変更点

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五月も半ばを過ぎたある日、突然俺の携帯が鳴った。 そこに表示されていた名前は、 俺「お」 田井中律。 俺はすぐに通話ボタンを押した。 俺「りつ〜〜久しぶりだね〜」 律「おーう!元気だったかー!?」 俺「まぁそれなりにね。そっちは?」 律「私はいつでも元気いっぱいだということを忘れたか、俺一等兵!!」 俺「あー、はいはい。そーでしたね、律大佐」 律「何だそのやる気ない返事はぁ!相変わらずつれないやつだなぁ!この低血圧!」 俺「ほっとけぃ!で、どうしたの?何か用事でも?」 律「あー、うんー。あのさー、明日ってひま?ひまだったらさー、どっか遊びに行かないか?久しぶりに!」 俺「明日?あーごめん、俺明日はレポートを仕上げなくちゃならなくt」 律「ひ・ま・だ・よ・な〜〜!?」 俺「いや、だから、暇じゃないtt」 律「おやぁ?俺くんは、つーまんないレポートと、大切な幼馴染であるところのこの律ちゃんと、どっちが大事なのかしら?」 俺「今回の場合、単位と密接に関わってくるレポートが大事であると言わせて頂きたく存じます」 律「なっ・・・!!い、いつからそんなに冷たく・・・もう、私の知ってる俺はいないのかよぉ!!うわーん!」 電話の向こうでよよよと泣き崩れる律。幼馴染の変わっていなさに、俺は思わず苦笑してしまう。そして、考える。 俺「うーん・・・まぁ、締め切りがあさってっていう訳でもないし、明日絶対やんなきゃいけないって訳でもないよな」 ひとりごとでブツブツと呟いただけのつもりだったが、向こう側にはしっかり届いていた。がばっと身を乗り出してくる空気が伝わる。 律「ならなら、遊ぼうぜ!よし!けってーい!!10時に駅前な!」 一瞬で時間と待ち合わせ場所を指定する。このハイペースに慣れきっている俺は、簡潔に返した。 俺「ふぅ・・・わかったよ。・・・寝坊すんなよ?」 律「ふふん、今まで私が寝坊したことがあるか!?」 俺「何度もね」 べーーっ、と言ってプツリと電話が切られる。やれやれ。一日分のエネルギーを消費したよ・・・ 俺「でも、悪い感じはしないな・・・って、Mなのか俺は・・・」 明日にそなえ、早めに寝ることにする。 俺「まぁ、そんな久しぶりって訳でもないよな、実際・・・」 俺と律は、家が近く、小さい頃から一緒に育った、兄弟みたいな仲である。中学までは一緒だったが、高校で別々になった。 律は女子高、俺は名も無き公立の高校。あの性格だし、澪ちゃんも一緒だというから、まぁうまくやってるだろう。 最後に会ったのは、入学式の日に律が制服を見せに来た時だから、まだあれから一カ月かそこらしかたってない事になる。 とはいえ、中学までは毎日のように顔を合わせた相手と急に会わなくなると、やっぱり多少は寂しい。 俺「あれだよな、やっぱり今一つ生活にハリがないよな、あいつがいないと・・・うん」 今度こそ完全にひとりごちて、寝る体制に入った。が、今いち眠れない。 俺「・・・。」 まどろんでいる内に、朝になってしまっていた。 駅前で待つこと40分。 律「いやー、ごめんごめん!!」 俺「遅いよ!!寝坊しないんじゃなかったんかい!!」 時は10時30分。俺なんか寝不足にも関わらずきちんと10分前行動な紳士であるにも関わらず、何なんだいこの子は。 律「ごめんなー。アラームがなんなくてさぁ・・・」 にひひ、と悪びれなく笑う。 俺は、やれやれとため息をついた。でも、どこか憎めないその笑顔に、俺は見とれてしまっていた。遅れて来るという事自体が可愛い。 あぁ、なんて愛しいんだろう。この笑顔を見るためなら、俺はいくらでも飯をおごれるよ、律ちゃ・・・ 俺「おい、人の後ろで変なナレーションを流すな」 律「変って言うなぁ!本心をほぼそのまま代弁してやっただけだろー!?」 俺「こんなん思うかっ!なーにが『遅れて来るという事自体が可愛い』だよ!!半年ROMってろ!!」 律「ちぇー」 口を3にしてスネる。それを見て俺はちょっと笑ってしまう。 俺「まー、憎めないっていうのは認めるよ」 とたんに律の顔が明るくなる。 律「じゃあじゃあ、ご飯もおごtt」 俺「調子にのるな」 律「うぅ・・・やっぱりちょっと冷たくなったよなー、おまえ・・・」 話が進まないので、本題を切り出す。 俺「で、どこ行く?」 律「あ、その前に」 俺「ん?」 律「どう?」 俺「え?」 律「私、どうだ?」 俺「ああ、変わってないよなー。高校入ったら少しは変わるかと思ったけど、安心したよ」 ははは、と笑いかける。 律「そうじゃなくてっ!!」 俺「ん?」 律の様子がちょっとおかしいので、俺は律の顔に視線をやる。 律「その・・・服とか・・・」 俺「ん?聞こえないよ。何だって?」 律「何でもねーよバカッ!!」 俺「痛ぁっ!!ちょっと律さんや、それはないんでないの!?」 律「うーるーさーい!ほらっ、行くぞ!!もうっ!日ー暮れちゃうぞー!」 ぐいぐいと押してくる。どうしたんだろう・・・そーいや、何か顔が赤いな。 俺「律?熱でもあるんじゃないか?顔赤いぞ」 律「!ね、ねーよ!!いーからさっさと・・・」 俺「ほら、顔こっち向けてみ」 そう言うと、俺は律の額に手をやる。うん・・・熱はないみたいだな。 律「・・・・っ」 俺「熱、ないけど、顔赤いまんまだね・・・大丈夫か?」 律「だ、大丈夫大丈夫!!ほら!今日暑いだろ!?そのせいだよ!もう行こうぜ!」 早口でまくしたてる。 俺「わ、分かったよ。んで、どこ行く?」 律「よーし、んじゃまず、ボウリングだー!!」 さて・・・ボウリング場な訳ですが。 律「よぉーっしゃぁ!!ストラーイク!!」 俺「お見事ッス」 ガッツポーズする律。すごいな・・・もう4つ目じゃん。 俺「よし次は俺だ!」 律「がんばれー!」 俺「うりゃあ!!」 ガコーン。倒れたピン、1本。 律「スペアいけスペアー!」 俺「よっしゃー!せぇぇい!!」 ゴウッッッ!!!ガターーーン!!!! 律「・・・」 俺「・・・」 どう見てもガーターです、本当にありがとうございました。 俺「律、ひとつ言わせてくれ」 律「何?」 俺「お前、俺がボウリング苦手なの知ってて連れてきたろ」 律「うん♪」 俺「この鬼!!鬼りつ!!」 俺はさめざめと泣いた。 俺「もういいよ、俺の負けです。昼飯は俺がおごりましょうぞ」 律「まーそーふくれるなってー。私が教えてやるからさー!」 俺「・・・はい」 律「ほら、まず、持ち方からして違うじゃん!なんで人差し指と中指なの!?中指と薬指だろ普通!!」 俺「え・・・そうなん?」 律「そうだよ!てか今までよくこれで投げれたな!!唯でもそんな投げ方しないぞ!」 唯って誰?って疑問はひとまず置いといて。 俺「律に呆れられた・・・」 律「おい・・・どーゆー意味だよ」 俺「ワールド・エンド」 律「ケンカ売ってんのかあぁぁ!!」 激高した律は、ぐいぐいと俺のほっぺを引っ張ってくる。 俺「いふぁいいふぁい!!で、このアフォは?」 律「誰がアホだーー!!」 俺「違う違う!このあとはどうすれば良いんですか!?」 律「あぁ、ほら、そこに立って」 言うと、いきなり後ろから抱きついて来た。 俺「ちょ、ちょっと、律!?」 律「ほら、投げるよ!」 左腕で俺に抱きつき、右手で俺の手首を持ち、俺は完全に律に操られる体制。 律「この、まま、一直線に、投げる!」 ゴウッ!!ガコーーン!!! 俺「すげぇ・・・」 律「ストラーイク!!やったじゃんかぁー」 喜んだ律はそのまま顔を俺の背中に押しつけて来る。 俺「律、ありがとう。・・・そろそろ離して」 律「うーん」 なかなか離そうとしない。何これ、めっちゃ恥ずかしいんですけど。 俺「律!なんかまわりのお客さんちょっと見てきてる!とりあえず離そう!」 律「ちぇー」 やっと離してくれる。ふぅ・・・何かドキドキしてやがる。 相手は律だぞー、落ち着けー、落ち着けぇー・・・ 律「おいっ!」 俺「えっ?」 我に返る。 律「お前こそ、顔赤いけど・・・熱あるのか?」 俺「な、ないない!!よしゃ!昼飯食べに行くか?」 律「え?う、うん・・・」 早口になる俺にちょっとビビる律。 最終スコアは163対88。女の子にボロ負けした上に、何かよく分からないもやもやした感情を感じながら、俺はボウリング場を後にするのだった。 律「次はカラオケだーーっ!!」 俺「ご飯食べようよ」 律「んじゃここで!」 律が立ち止ったのはスイーツのお店。それ、デザートだよ、りっちゃん。ご飯食べようよ。 俺「お前の脳はスイーツですか」 律「そのとーーり!!ほら、入った入った!」 そして、律に運ばれてきたのはショートケーキ。俺に運ばれてきたのはモンブラン。 律「これ、今はやってるんだぜ?知ってた?」 俺「ショートケーキは年中はやってるでしょ」 わかってねーなー、と言いつつ律はショートケーキをフォークで刺し、 律「ほら、あーん」 俺「なっ・・・」 律「食べてみたら分かるって!はい!あーん!」 自然に突き出してくる。ま、照れる事もないよな、律だし・・・うん・・・。 俺「あ、おいしい」 律「だーろー?」 にっと笑う。なので、お礼に、 俺「はい、あーん」 律「え、わ、私はいいよ!!」 ちょっとうろたえる。さっきまでの元気はどこへやら、今度は顔を真っ赤にして手をふりまくる。忙しい奴だな。 俺「いいから、お礼だよ。ほれ」 律「・・・・おいしい」 俺「そりゃ良かった」 律「・・・」 律の顔が赤いままだ。俺は苦笑する。 律「なんだよ律、照れてるのか?俺相手に・・・」 律「なっ!!んなわけないだろー!!!だれがおまえなんかにーー!!」 俺「あははは、可愛いところあるじゃん」 律「うるせーっ!!バカ!!!」 俺「いたいいたい」 律「もう私先に出てるからな!!!お金払っとけよ!!」 俺「えーー・・・・」 ああ・・・ふざけ過ぎたか。俺自重・・・ 俺と律は、この時、反対側でにこやかに俺たちの様子をうかがっている影たちに全く気付く事はできなかった。 昼飯の後から、律の口数が極端に少なくなった。 俺「でさ、その今人気絶頂のアイドルの津ってのがさ」 律「・・・うん」 俺「これが凄くて、何でも裏で応援し隊だの嫁にし隊だの色々できてるらしいんだよ」 律「・・・うん」 俺「律?聞いてる?」 律「・・・うん」 俺「イエス、フォーリンラブ」 律「・・・うん」 いかん、これは重症だ。 俺「リーーつーー」 ほっぺをぐりぐりする。 律「ひゃあ!な、なんだよっ!!」 俺「今日、律ちょっとおかしくない?カラオケでもこぶし入ってなかったしさ。マジでどっか具合悪いんでないの?」 律「ち、違うっつーの!ほっとけよ、もう!!」 俺「ほっとけって言われても、律が俺といるのが楽しくないって事なら、俺は責任を感じざるを得ない訳なんですけども」 律「ち、違う!!それはほんとに違うぞ!!むしろ逆だよ!お前と一緒なのすごく楽しい!!」 俺「そうか?それなら何で・・・んっ」 そして、ピンと来た。 俺「分かった。律、好きな人でもできたんだろ?」 律「えっ!!?」 激しく動揺する律。どうやら図星だな。 俺「なんか心ここにあらずな感じだったもんなー。そっかー、だから俺呼んだのかー」 律「あ、あの、その・・・!」 さすが幼馴染の俺。律の心の中なんかお見通しだぜ。そして、優しく言ってやる。 俺「で、どんな奴なんだ?律が好きになったのは」 律「え・・・」 俺「まったく、相談したいならしたいって、初めからそー言えよ。さすがに言ってくれなきゃ分かんないぞ、俺も」 律「・・・」 律の顔がみるみる険しくなっていく。あれ?俺なんか変な事言った?いや、言ってn 俺「ぐおぅ!!」 そしてボディーに走る鈍い衝撃。 律「ほんっとバカだなお前は!!もうしらねー!!バーカバーカバーカ!」 俺「ガチで・・・痛いです・・・」 律「その痛み!私の心の痛みだと思え!もう帰る!じゃあな!」 俺「・・・・わけ・・・わからん・・・」 俺に背を向け、帰ろうとする律。 俺「あ、そうだ。律」 律「なんだよっ!!」 ふと、朝からずっと気になっていた事を言ってみる。 俺「今日の服、可愛いよな」 律「!」 律は、びっくりしたように俺を見つめると、めちゃくちゃな勢いで抱きついて来た。 俺「うおぁ!!」 律「こいつー!!最後の最後にー!!言ってくれるなー!うりうりー!」 俺「りっちゃん痛い痛いマジ痛いから」 とりあえず、今日の肉体的ダメージはハンパない。 律はすぐに俺を離し、言った。 「ありがとな!今日は楽しかったよ!また遊ぼうなー!!」 にこっと笑って、ぶんぶん手を振りながら走り去っていく律。またもやの律の機嫌の変化に、俺は笑うしかなかった。 俺「それにしても・・・」 体に残る、律のぬくもりと多少の痛み。それを全身で感じながら、俺は呟いた。 「好きな人って・・・まさか・・・な」 自分でも可笑しくなってしまうような想像をしながら、俺は帰路につくのだった。 次の日。 律は、軽音部の部室に入った。 唯「りっちゃーん!!昨日は寂しかったんだよー!?私たち3人だけで遊んだんだからー!」 律「あははーゴメンゴメン、用事があってさ〜」 唯「ほほ〜う、私たちの誘いをけってまでのご用事とはいったい・・・」 律「ハズせない用事だったんだよー、あっははは」 唯「ハズせない、用事かぁ〜」 律「な、何だよ唯・・・」 唯の不敵な笑顔に、律は嫌な予感を覚える。 むぎ「それで、あの男の人は誰なの?律ちゃん(にっこり)」 律「!?」 嫌な予感的中。 律「な、な、なんで!?」 澪「昨日・・・な、私たち、同じお店にいたんだ」 唯「ねー。で、声かけようとしたんだけど、なんか、邪魔しちゃいけないかなーって。ね、むぎちゃん?」 むぎ「はい♪もう、食べさせあいっこなんかしちゃtt」 律「わーわーーわーー!!!」 全部見られてたのか・・・あぁ・・・あぁ・・・ 律「澪!知ってるだろ、あいつは、ただの幼馴染で・・・」 澪「あ、ああ。でも、唯もむぎも、信じなくて・・・」 唯「はたから見たら、完全なるバカップルでしたよね〜、解説のむぎさん?」 むぎ「バをつけたら失礼よ♪」 さわちゃん「私より先に・・・ワタシヨリサキニ・・・」 澪「先生・・・どす黒いオーラを放つのはやめて下さい・・・」 楽しそうだな、こいつら・・・ 律「や、でも、本当に、あいつとはカップルでも何でもないんだ・・・」 唯「りっちゃん?」 律「あいつはさ、私の気持ちなんか、全然分かってないんだよ・・・」 澪「律・・・」 むぎ「・・・」 唯「・・・・・りっちゃん!」 律「え?」 唯「今のりっちゃん、すっごく可愛かったぁ!!うぁー、恋する乙女ってかんじだよねぇ、うんうん」 唯がすりすりしてくる。 律「あのなぁ、唯・・・」 唯「私、りっちゃんの事応援してるからね!頑張ってね〜りっちゃぁ〜ん」 澪たちは、やれやれといった様子。つい、笑ってしまう。 まぁ、しばらくは、こんな日常のままでいいかもな・・・そんなふうに思えた。 律「ほらー離れろー!よっしゃー、んなこといいから、音合わせようぜー!」 終わり 【けいおん!】田井中律は恋文可愛い33【ドラム】 http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara2/1246455132/ //コメントフォームつけたい場合は以下先頭の「//を消去」 //#comment_num2(below)
五月も半ばを過ぎたある日、突然俺の携帯が鳴った。 そこに表示されていた名前は、 俺「お」 田井中律。 俺はすぐに通話ボタンを押した。 俺「りつ〜〜久しぶりだね〜」 律「おーう!元気だったかー!?」 俺「まぁそれなりにね。そっちは?」 律「私はいつでも元気いっぱいだということを忘れたか、俺一等兵!!」 俺「あー、はいはい。そーでしたね、律大佐」 律「何だそのやる気ない返事はぁ!相変わらずつれないやつだなぁ!この低血圧!」 俺「ほっとけぃ!で、どうしたの?何か用事でも?」 律「あー、うんー。あのさー、明日ってひま?ひまだったらさー、どっか遊びに行かないか?久しぶりに!」 俺「明日?あーごめん、俺明日はレポートを仕上げなくちゃならなくt」 律「ひ・ま・だ・よ・な〜〜!?」 俺「いや、だから、暇じゃないtt」 律「おやぁ?俺くんは、つーまんないレポートと、大切な幼馴染であるところのこの律ちゃんと、どっちが大事なのかしら?」 俺「今回の場合、単位と密接に関わってくるレポートが大事であると言わせて頂きたく存じます」 律「なっ・・・!!い、いつからそんなに冷たく・・・もう、私の知ってる俺はいないのかよぉ!!うわーん!」 電話の向こうでよよよと泣き崩れる律。幼馴染の変わっていなさに、俺は思わず苦笑してしまう。そして、考える。 俺「うーん・・・まぁ、締め切りがあさってっていう訳でもないし、明日絶対やんなきゃいけないって訳でもないよな」 ひとりごとでブツブツと呟いただけのつもりだったが、向こう側にはしっかり届いていた。がばっと身を乗り出してくる空気が伝わる。 律「ならなら、遊ぼうぜ!よし!けってーい!!10時に駅前な!」 一瞬で時間と待ち合わせ場所を指定する。このハイペースに慣れきっている俺は、簡潔に返した。 俺「ふぅ・・・わかったよ。・・・寝坊すんなよ?」 律「ふふん、今まで私が寝坊したことがあるか!?」 俺「何度もね」 べーーっ、と言ってプツリと電話が切られる。やれやれ。一日分のエネルギーを消費したよ・・・ 俺「でも、悪い感じはしないな・・・って、Mなのか俺は・・・」 明日にそなえ、早めに寝ることにする。 俺「まぁ、そんな久しぶりって訳でもないよな、実際・・・」 俺と律は、家が近く、小さい頃から一緒に育った、兄弟みたいな仲である。中学までは一緒だったが、高校で別々になった。 律は女子高、俺は名も無き公立の高校。あの性格だし、澪ちゃんも一緒だというから、まぁうまくやってるだろう。 最後に会ったのは、入学式の日に律が制服を見せに来た時だから、まだあれから一カ月かそこらしかたってない事になる。 とはいえ、中学までは毎日のように顔を合わせた相手と急に会わなくなると、やっぱり多少は寂しい。 俺「あれだよな、やっぱり今一つ生活にハリがないよな、あいつがいないと・・・うん」 今度こそ完全にひとりごちて、寝る体制に入った。が、今いち眠れない。 俺「・・・。」 まどろんでいる内に、朝になってしまっていた。 駅前で待つこと40分。 律「いやー、ごめんごめん!!」 俺「遅いよ!!寝坊しないんじゃなかったんかい!!」 時は10時30分。俺なんか寝不足にも関わらずきちんと10分前行動な紳士であるにも関わらず、何なんだいこの子は。 律「ごめんなー。アラームがなんなくてさぁ・・・」 にひひ、と悪びれなく笑う。 俺は、やれやれとため息をついた。でも、どこか憎めないその笑顔に、俺は見とれてしまっていた。遅れて来るという事自体が可愛い。 あぁ、なんて愛しいんだろう。この笑顔を見るためなら、俺はいくらでも飯をおごれるよ、律ちゃ・・・ 俺「おい、人の後ろで変なナレーションを流すな」 律「変って言うなぁ!本心をほぼそのまま代弁してやっただけだろー!?」 俺「こんなん思うかっ!なーにが『遅れて来るという事自体が可愛い』だよ!!半年ROMってろ!!」 律「ちぇー」 口を3にしてスネる。それを見て俺はちょっと笑ってしまう。 俺「まー、憎めないっていうのは認めるよ」 とたんに律の顔が明るくなる。 律「じゃあじゃあ、ご飯もおごtt」 俺「調子にのるな」 律「うぅ・・・やっぱりちょっと冷たくなったよなー、おまえ・・・」 話が進まないので、本題を切り出す。 俺「で、どこ行く?」 律「あ、その前に」 俺「ん?」 律「どう?」 俺「え?」 律「私、どうだ?」 俺「ああ、変わってないよなー。高校入ったら少しは変わるかと思ったけど、安心したよ」 ははは、と笑いかける。 律「そうじゃなくてっ!!」 俺「ん?」 律の様子がちょっとおかしいので、俺は律の顔に視線をやる。 律「その・・・服とか・・・」 俺「ん?聞こえないよ。何だって?」 律「何でもねーよバカッ!!」 俺「痛ぁっ!!ちょっと律さんや、それはないんでないの!?」 律「うーるーさーい!ほらっ、行くぞ!!もうっ!日ー暮れちゃうぞー!」 ぐいぐいと押してくる。どうしたんだろう・・・そーいや、何か顔が赤いな。 俺「律?熱でもあるんじゃないか?顔赤いぞ」 律「!ね、ねーよ!!いーからさっさと・・・」 俺「ほら、顔こっち向けてみ」 そう言うと、俺は律の額に手をやる。うん・・・熱はないみたいだな。 律「・・・・っ」 俺「熱、ないけど、顔赤いまんまだね・・・大丈夫か?」 律「だ、大丈夫大丈夫!!ほら!今日暑いだろ!?そのせいだよ!もう行こうぜ!」 早口でまくしたてる。 俺「わ、分かったよ。んで、どこ行く?」 律「よーし、んじゃまず、ボウリングだー!!」 さて・・・ボウリング場な訳ですが。 律「よぉーっしゃぁ!!ストラーイク!!」 俺「お見事ッス」 ガッツポーズする律。すごいな・・・もう4つ目じゃん。 俺「よし次は俺だ!」 律「がんばれー!」 俺「うりゃあ!!」 ガコーン。倒れたピン、1本。 律「スペアいけスペアー!」 俺「よっしゃー!せぇぇい!!」 ゴウッッッ!!!ガターーーン!!!! 律「・・・」 俺「・・・」 どう見てもガーターです、本当にありがとうございました。 俺「律、ひとつ言わせてくれ」 律「何?」 俺「お前、俺がボウリング苦手なの知ってて連れてきたろ」 律「うん♪」 俺「この鬼!!鬼りつ!!」 俺はさめざめと泣いた。 俺「もういいよ、俺の負けです。昼飯は俺がおごりましょうぞ」 律「まーそーふくれるなってー。私が教えてやるからさー!」 俺「・・・はい」 律「ほら、まず、持ち方からして違うじゃん!なんで人差し指と中指なの!?中指と薬指だろ普通!!」 俺「え・・・そうなん?」 律「そうだよ!てか今までよくこれで投げれたな!!唯でもそんな投げ方しないぞ!」 唯って誰?って疑問はひとまず置いといて。 俺「律に呆れられた・・・」 律「おい・・・どーゆー意味だよ」 俺「ワールド・エンド」 律「ケンカ売ってんのかあぁぁ!!」 激高した律は、ぐいぐいと俺のほっぺを引っ張ってくる。 俺「いふぁいいふぁい!!で、このアフォは?」 律「誰がアホだーー!!」 俺「違う違う!このあとはどうすれば良いんですか!?」 律「あぁ、ほら、そこに立って」 言うと、いきなり後ろから抱きついて来た。 俺「ちょ、ちょっと、律!?」 律「ほら、投げるよ!」 左腕で俺に抱きつき、右手で俺の手首を持ち、俺は完全に律に操られる体制。 律「この、まま、一直線に、投げる!」 ゴウッ!!ガコーーン!!! 俺「すげぇ・・・」 律「ストラーイク!!やったじゃんかぁー」 喜んだ律はそのまま顔を俺の背中に押しつけて来る。 俺「律、ありがとう。・・・そろそろ離して」 律「うーん」 なかなか離そうとしない。何これ、めっちゃ恥ずかしいんですけど。 俺「律!なんかまわりのお客さんちょっと見てきてる!とりあえず離そう!」 律「ちぇー」 やっと離してくれる。ふぅ・・・何かドキドキしてやがる。 相手は律だぞー、落ち着けー、落ち着けぇー・・・ 律「おいっ!」 俺「えっ?」 我に返る。 律「お前こそ、顔赤いけど・・・熱あるのか?」 俺「な、ないない!!よしゃ!昼飯食べに行くか?」 律「え?う、うん・・・」 早口になる俺にちょっとビビる律。 最終スコアは163対88。女の子にボロ負けした上に、何かよく分からないもやもやした感情を感じながら、俺はボウリング場を後にするのだった。 律「次はカラオケだーーっ!!」 俺「ご飯食べようよ」 律「んじゃここで!」 律が立ち止ったのはスイーツのお店。それ、デザートだよ、りっちゃん。ご飯食べようよ。 俺「お前の脳はスイーツですか」 律「そのとーーり!!ほら、入った入った!」 そして、律に運ばれてきたのはショートケーキ。俺に運ばれてきたのはモンブラン。 律「これ、今はやってるんだぜ?知ってた?」 俺「ショートケーキは年中はやってるでしょ」 わかってねーなー、と言いつつ律はショートケーキをフォークで刺し、 律「ほら、あーん」 俺「なっ・・・」 律「食べてみたら分かるって!はい!あーん!」 自然に突き出してくる。ま、照れる事もないよな、律だし・・・うん・・・。 俺「あ、おいしい」 律「だーろー?」 にっと笑う。なので、お礼に、 俺「はい、あーん」 律「え、わ、私はいいよ!!」 ちょっとうろたえる。さっきまでの元気はどこへやら、今度は顔を真っ赤にして手をふりまくる。忙しい奴だな。 俺「いいから、お礼だよ。ほれ」 律「・・・・おいしい」 俺「そりゃ良かった」 律「・・・」 律の顔が赤いままだ。俺は苦笑する。 律「なんだよ律、照れてるのか?俺相手に・・・」 律「なっ!!んなわけないだろー!!!だれがおまえなんかにーー!!」 俺「あははは、可愛いところあるじゃん」 律「うるせーっ!!バカ!!!」 俺「いたいいたい」 律「もう私先に出てるからな!!!お金払っとけよ!!」 俺「えーー・・・・」 ああ・・・ふざけ過ぎたか。俺自重・・・ 俺と律は、この時、反対側でにこやかに俺たちの様子をうかがっている影たちに全く気付く事はできなかった。 昼飯の後から、律の口数が極端に少なくなった。 俺「でさ、その今人気絶頂のアイドルの津ってのがさ」 律「・・・うん」 俺「これが凄くて、何でも裏で応援し隊だの嫁にし隊だの色々できてるらしいんだよ」 律「・・・うん」 俺「律?聞いてる?」 律「・・・うん」 俺「イエス、フォーリンラブ」 律「・・・うん」 いかん、これは重症だ。 俺「リーーつーー」 ほっぺをぐりぐりする。 律「ひゃあ!な、なんだよっ!!」 俺「今日、律ちょっとおかしくない?カラオケでもこぶし入ってなかったしさ。マジでどっか具合悪いんでないの?」 律「ち、違うっつーの!ほっとけよ、もう!!」 俺「ほっとけって言われても、律が俺といるのが楽しくないって事なら、俺は責任を感じざるを得ない訳なんですけども」 律「ち、違う!!それはほんとに違うぞ!!むしろ逆だよ!お前と一緒なのすごく楽しい!!」 俺「そうか?それなら何で・・・んっ」 そして、ピンと来た。 俺「分かった。律、好きな人でもできたんだろ?」 律「えっ!!?」 激しく動揺する律。どうやら図星だな。 俺「なんか心ここにあらずな感じだったもんなー。そっかー、だから俺呼んだのかー」 律「あ、あの、その・・・!」 さすが幼馴染の俺。律の心の中なんかお見通しだぜ。そして、優しく言ってやる。 俺「で、どんな奴なんだ?律が好きになったのは」 律「え・・・」 俺「まったく、相談したいならしたいって、初めからそー言えよ。さすがに言ってくれなきゃ分かんないぞ、俺も」 律「・・・」 律の顔がみるみる険しくなっていく。あれ?俺なんか変な事言った?いや、言ってn 俺「ぐおぅ!!」 そしてボディーに走る鈍い衝撃。 律「ほんっとバカだなお前は!!もうしらねー!!バーカバーカバーカ!」 俺「ガチで・・・痛いです・・・」 律「その痛み!私の心の痛みだと思え!もう帰る!じゃあな!」 俺「・・・・わけ・・・わからん・・・」 俺に背を向け、帰ろうとする律。 俺「あ、そうだ。律」 律「なんだよっ!!」 ふと、朝からずっと気になっていた事を言ってみる。 俺「今日の服、可愛いよな」 律「!」 律は、びっくりしたように俺を見つめると、めちゃくちゃな勢いで抱きついて来た。 俺「うおぁ!!」 律「こいつー!!最後の最後にー!!言ってくれるなー!うりうりー!」 俺「りっちゃん痛い痛いマジ痛いから」 とりあえず、今日の肉体的ダメージはハンパない。 律はすぐに俺を離し、言った。 「ありがとな!今日は楽しかったよ!また遊ぼうなー!!」 にこっと笑って、ぶんぶん手を振りながら走り去っていく律。またもやの律の機嫌の変化に、俺は笑うしかなかった。 俺「それにしても・・・」 体に残る、律のぬくもりと多少の痛み。それを全身で感じながら、俺は呟いた。 「好きな人って・・・まさか・・・な」 自分でも可笑しくなってしまうような想像をしながら、俺は帰路につくのだった。 次の日。 律は、軽音部の部室に入った。 唯「りっちゃーん!!昨日は寂しかったんだよー!?私たち3人だけで遊んだんだからー!」 律「あははーゴメンゴメン、用事があってさ〜」 唯「ほほ〜う、私たちの誘いをけってまでのご用事とはいったい・・・」 律「ハズせない用事だったんだよー、あっははは」 唯「ハズせない、用事かぁ〜」 律「な、何だよ唯・・・」 唯の不敵な笑顔に、律は嫌な予感を覚える。 むぎ「それで、あの男の人は誰なの?律ちゃん(にっこり)」 律「!?」 嫌な予感的中。 律「な、な、なんで!?」 澪「昨日・・・な、私たち、同じお店にいたんだ」 唯「ねー。で、声かけようとしたんだけど、なんか、邪魔しちゃいけないかなーって。ね、むぎちゃん?」 むぎ「はい♪もう、食べさせあいっこなんかしちゃtt」 律「わーわーーわーー!!!」 全部見られてたのか・・・あぁ・・・あぁ・・・ 律「澪!知ってるだろ、あいつは、ただの幼馴染で・・・」 澪「あ、ああ。でも、唯もむぎも、信じなくて・・・」 唯「はたから見たら、完全なるバカップルでしたよね〜、解説のむぎさん?」 むぎ「バをつけたら失礼よ♪」 さわちゃん「私より先に・・・ワタシヨリサキニ・・・」 澪「先生・・・どす黒いオーラを放つのはやめて下さい・・・」 楽しそうだな、こいつら・・・ 律「や、でも、本当に、あいつとはカップルでも何でもないんだ・・・」 唯「りっちゃん?」 律「あいつはさ、私の気持ちなんか、全然分かってないんだよ・・・」 澪「律・・・」 むぎ「・・・」 唯「・・・・・りっちゃん!」 律「え?」 唯「今のりっちゃん、すっごく可愛かったぁ!!うぁー、恋する乙女ってかんじだよねぇ、うんうん」 唯がすりすりしてくる。 律「あのなぁ、唯・・・」 唯「私、りっちゃんの事応援してるからね!頑張ってね〜りっちゃぁ〜ん」 澪たちは、やれやれといった様子。つい、笑ってしまう。 まぁ、しばらくは、こんな日常のままでいいかもな・・・そんなふうに思えた。 律「ほらー離れろー!よっしゃー、んなこといいから、音合わせようぜー!」 終わり >出典 >【けいおん!】田井中律は恋文可愛い33【ドラム】

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