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《注意》 ・『[[俺と律 2>SS/短編-俺律/俺と律 続編]]』の続編です。読んでないと話わかんないぜ!ってほどじゃないけど、わかんないトコは読み飛ばしでオールオッケーだと思います。でも読んでくれたら・・・きっと、りっちゃんが恥ずかしがります。 ・『俺』はりっちゃん(&澪)と幼稚園?小学生?くらいからの友達でした。いわゆるマブダチ。幼なじみです。で、りっちゃんとは二ヶ月前くらいから付き合ってます。ありがちすぎる設定です。 「えーっと・・・・うん、498円かな」 「俺は・・・・502円っと。おっしゃ俺の勝ちだな。ラーメンでも奢ってくれ!」 「まかしとけ!ベビースターラーメンなら幾らでも奢ってやるからな〜。ただし、チキン味限定でなっ」 「いや、同じチキン味のラーメンなら、せめてチキンラーメンにしてくれ・・・」 俺が2階から決死の特攻で律の家に侵入してから、はや一週間。 気がつけば、律と付き合って二ヶ月が経とうとしていました。いや、早いね〜。 そんなわけで今日は、そのお祝いとして二人で何か食べに行こう! ‥‥という算段だったんですが。 「うーむ、チキンラーメンなら腹いっぱいになるまで食えるだろうけどなぁ〜・・・」 「合わせてちょうど千円か・・・まるで俺たちの息のピッタリ具合を証明したような金額になったなぁ」 「そうだな〜。でも嬉しくねぇ!」 見ての通り。 お互いにこの『記念日』自体は覚えていたものの、『ただ覚えていただけだった』というオチで。 二人揃って、祝うための軍資金のことを忘れていたみたいだった。まぁ俺たちらしいといえば、らしいけど。 しかし問題は、一人500円の食費で、一体どこに何を食べに行くか? ということであって。 ただどこに行くにしても、その場所に何時間でも滞在できるような場所が最重要の条件となる。これ以上どっか行けるような持ち合わせはお互いにないことは既に判明済みだからだ。 出来れば一箇所いい場所を見つけて、そこで延々と駄弁っているのが理想だろう。 ‥‥となると、やっぱり高校生的にはメシを諦めてフリータイムのカラオケに行くか。 それとも100円のドリンクバーつきで、残りの400円で軽く一食が食える脅威のファミレス・サイゼリアにでも行くか。 マクドナルド?電車で二駅乗り継いで行くところをチャリンコで行けと?? まぁ律なら言えばやりそうだが、俺がしんどいのでパス。帰り道へリバースしてるところへ食ったものと胃液までリバースはしたくない。 以前なら189円(税込み)で一杯のラーメンが食える、という全国展開の自暴自棄に走ったようなラーメン屋が近くにあったのだが、最近になってついに力尽きてしまったようだ。残念。 「うーむむ・・・よーし!じゃあ私はありがた〜くこの千円ピッタリの焼肉定食でも食ってくるかぁ!じゃあな!」 目の前にあった小銭共がジャリジャリと奪い去られる。 あぁ、彼氏がこんなに苦悩しているにもかかわらず、当の本人は全く知る余地なしのようで。 この傍若無人なマイガールフレンド・田井中律はこんなことを平気でのたまうのであった。 俺は悲しいぞ、律! ‥‥だが、それなら俺も容赦しない。 相手がそのつもりなら、こちらとてそれなりの精神的ダメージを与えてやらねばなるまい。 「そっか〜、じゃあ俺は律の家に行って、お前が冷蔵庫のスミに隠してるへそくり的スイーツでも食ってくるわ。じゃあな!」 「・・・おい、ちょっと待て。お前・・・いつからそのこと知ってた?」 「あのな。もう何年お前と付き合ってると思ってんだ?」 いや、カップルとして付き合い始めたのは二ヶ月前ですけど。 いつ使おうかと楽しみにとっておいたジョーカー的なネタだったが、まぁいい。 切り札は、ここぞという時にしっかりと使うことによって、初めて『切り札』と呼ぶのだよ! 「もしかして‥‥たまにあそこから私のスイーツが消えてたのって‥‥」 「あぁ〜、まぁな。『ぷよぷよ』に負けた腹いせとか色々入ってる感じで、たびたび俺の腹の中に入ってったっけ。そう、あれはまだ‥‥」 「この口かぁ!私の『ところてん・マンゴー&パッションフルーツ風味』を食べよったのはこの口かぁあ!!」 「うるふぇー!!親から買い物ふぉ頼まれふぁふりしふぇ余っふぁ親の金ふぇ冷蔵庫にフゥイーフ貯めこんでるやふに言ふぁれたかねーよっ!!そらっ!甘あまフゥイーフを貯めこんでるのは、このわきぶぁらかぁ!ふぉらぁっ!!!」 「ぎゃっ!は、腹をつまむなぁあー!セクハラー!!!」 そう言って律は俺の口を引っ張り、俺は律のわき腹をつねっている。 なんて不毛な争いだろう。 ってゆーか、ところてんにマンゴー&パッションフルーツって、どうなん? いや、意外と美味かったけどな。思わずほっぺが・・・・いでででで!ほっぺがちぎれそうだ! * 「‥‥お、お邪魔します」 「なんだよー、急に改まって。お前にとっちゃー勝手知ったる他人の家ってヤツだろ〜??」 「まぁ‥‥何て言うか、その‥‥正直、一ヶ月前まではそうだったけどな。近頃、ここに来るたびにヘンなことばっかし起こってる気が・・・」 「何だよ、ヘンなことって?」 いやいやいやいや。 律のあっけらかんとした表情に、俺は一瞬、フラッと倒れそうになる。 例えば・・・・そう。ひょんなことから一緒に寝ることになったりとか? 律のアホーな勘違いから、彼氏と彼女という関係だけではなく、澪も含めた幼なじみ三人の人間関係の危機を迎えたりとか?? 彼氏になって、約一年ぶりに律の家にお邪魔した、まではよかったんだけどなぁ・・・でもそこから立て続けにこんなことばっかり起こっていたら、プチトラウマにもなるっちゅーの。 あぁ‥‥今でも目をつぶれば、律の家のドアを必死にノックしている自分が蘇る。同時にその時の心労も。うおああぁ・・・! 「・・・律さんに問題です。この一ヶ月で俺はこの家に二回来ています。さて、その時に起こったことを思い出してみましょう」 「お前が来た時に、起こった出来事・・・?うーん、と・・・・あ」 「ヘンなトコから、俺と澪が密かに付き合っててお前をつま弾きにしようとしてる・・・とか勘違いして、一週間も家に引きこもってらっしゃったのは、ドナタサマでしたっけ?」 「やぁ〜・・・はは!もー、そのことはいーじゃん!!ってゆーか私も忘れたいんだけ」 「その前ここに来た時は‥‥あぁ。確か誰かさんと、一緒の布団で寝たっけな。それでその誰かさんは、何故かベッドの隅っこでブルブル怯えてたりな。の割に、しばらくしてから大胆にも俺に『襲えよ』とか言ってきて。ったく、どんな誘い受」 「忘れろー!!!ってゆーか、忘れてくれぇ〜!!!つーか私も忘れてぇええー!!!」 「・・・分かったかよ、俺の苦悩が」 散々ヘッドバンクした挙句、苦しまぎれに後ろからいきなり抱きついてきやがった。 一瞬ビク!と跳ねる、俺の身体。 ‥‥よく考えたら、『これ』もトラウマだった。 まだお互い小さかった頃の話だが、いきなり後ろから抱きつかれたかと思ったら俺のシャツで手を拭いてたり、鼻拭いてたりしてやがったなぁ‥‥。 今となっては大丈夫だろう、けどさ。 しかし俺の身体はいまだにあの感覚を覚えてるみたいで、無意識に身体が拒否反応を示していた。 三つ子の魂百まで、とはよく言ったものだ。なんか違う気もするけど。 「分かったから早く、家に入ってくれぇ‥‥なんかもー、思い出すだけで私は恥ずかしくて死にそうだ〜‥‥」 「じゃあ早く入れてくれよ。玄関前で抱きつかれてちゃー入れるもんも入れないんだけど。重くて動けないし」 「‥‥‥‥そーだよ。私の愛は、メチャクチャ重いんだ、覚悟しろ〜って、あの時‥‥言ったじゃん?」 「‥‥‥」 コイツ・・・恥ずかしがってる割には、恥ずかしいことをサラリと言えるようになりやがって・・・! 重くて動けない、は体重的な意味で、皮肉のつもりで言ったのに・・・まさかこんな言葉で返されるとは思わず。 一週間前の出来事やら昔のトラウマやらで悶々としていた気持ちも、一気にすっとんでいってしまった。 っつーか、俺まで恥ずかしくなってきたっぽいんですけど・・・! 「いっ、いいから離せっ!!」 「イヤだっ!行っちゃヤだぁー!!ずっと一緒にいる〜!!」 「ちょっ、買ってきたケーキが潰れるっ!分かった!!いるから!!ずっと一緒にいるから!!とりあえず家に上がらせてくれっ俺が恥ずかしすぎて死んじま・・・あっ」 やばい、本音が出た。 「・・・へへっ。なんだお前、恥ずかしかったのか?私に抱きつかれて・・・ふふっ、えへへへへっ」 「う、嬉しそうに笑うなーっ!!キショいわっ!!!」 なんか、なぁ。 いや、可愛いっすよ。キショいとか言っといてなんですけど、ぶっちゃけ鼻血出そうなくらい可愛いっすよ。 むしろ最近こいつを『幼なじみ』ではなく『女』としか見れない自分に嫌気がさすくらいっすよ。 でも小さい頃からコイツを見てる俺としては、一つだけどうしても言いたいことがある。 こんなの・・・律じゃねぇー!!! * 「・・・なぁ律」 「ん〜?」 「暑くね?」 「あぁ、熱いな。アツアツだよな〜。えへへへ〜」 「・・・いいかげん、離れろよ」 目の前には美味そうなケーキとジュース。 結局お互い500円ずつの持ち金で、好きなケーキを1つずつ買い、余ったお金でジュースを買って、律の家でお祝いすることになった。 目の前には、美味そうなザッハトルテとコカコーラ。 しかしいまだに俺は、それらに手をつけられずにいた。 「じゃ、じゃあせめて手だけでも離してくれ・・・ホラ、コーラの炭酸だってどんどん抜けてくし、ケーキだって鮮度が命だろ?」 うぅ、苦しい。 苦しすぎる言い訳だ。 「や〜だよ〜。ずーっと一緒にいていい、って言ったもん」 「一緒にいる、っていうのは、ずっと抱きついてる、ってのとはまた別モンだと思うけど?」 「でも抱きついちゃダメ、とも言ってないじゃん。んふふ〜♪」 「はいはい、わかったから。とりあえず乾杯しようぜ」 一層嬉しそうに俺を腕ごと抱きしめてくる律を、半ばムリヤリ剥がしにかかる。 えー、ケチーとぶー垂れながら、しぶしぶ机の向かいに座ってくれた。やれやれ一安心。 ‥‥なハズなんだけど。 何だコレ。そんな律を見て、なんで俺が罪悪感を感じるんだ・・・? 「はい、それでは〜、何だかんだで付き合って二ヶ月記念ということで、かんぱーい!」 「おいっ!何だかんだって何だよ!略すなよ!」 「‥‥じゃあ律が言ってみろよ」 「分かったよ、ったく‥‥え〜、私たちが‥‥その、こっ、こここっ・・・恋人同士になってから‥‥えっと・・・」 「んだよ、コッココッコ言いやがって。お前はニワトリか!」 「えーぃこんな恥ずぃコト言わすなぁーーー!!」 「言いたがってたのはお前だろーがっ!」 「言わしたのはお前だーっ!ちくしょー!!!」 そうそう、こーゆーのって、いざ口に出そうとするとビミョーに恥ずかしいんだよな。 特に俺たちなんか、そこまで経験値があるわけじゃないし・・・慣れてないもんな。 恥ずかしさを共有できたことに満足すると、手元のザッハトルテを一口。 うん、うめー。梅食ってちょーうめー。って、梅ちゃうやんけ! 「・・・でもさ、珍しいよな」 「ん?何がだ?」 「いやさ、昔から澪はいっつも私のフォローしてくれるんだけど、お前はこう・・・影の支え役、っていうのかな。その時は気付かないけど、後になって気付く‥‥みたいなさ。さり気なーくフォローしてくれるようなヤツだと思うんだよな」 「おっ、やっと自分がフォローしてもらってるということに気がついたが。俺は嬉しいぞ、律!」 「おい、私だってお前のフォローくらいしてるんだぞ!例えば・・・」 身を乗り出してきた律だったけど、そこで一時停止。 視線を右ナナメ上へと向けて、思考をめぐらせる。はい、三秒〜、五秒〜、十秒〜。 「・・・なのに、そんなお前が今回みたいにデート費用のこと忘れてたなんて、珍しいなーって思ってさ!」 こいつ、話を無かったことにしよった!しかも何の違和感も無く!! 俺の十五秒間を返せ! 「そうか?」 「だってそうだろ?いつも二人でどっか出かける時には絶対に十分なお金を持ってきてたなーって。何をするにしても用意周到っていうかさ。何となくだけど、今思い出したんだよなぁ〜」 口に運ぼうとしたフルーツタルトから、四分の一にカットされたイチゴがぽとりと落ちるのが見えた。 こら、食べるか喋るかどっちかにしなさい。 「・・・そこに気付くか」 「気付くよ。だって、彼女だし」 そう言って律はニコッと笑うと、落ちたイチゴをフォークで刺して俺の口へと持っていく。あ、今のさり気なく可愛い。 いわゆる『あーん』ってやつだけど‥‥何の違和感もなく受け入れられるあたり、俺も少しはこいつとの『彼氏彼女』の関係に慣れてきたのかもしれない。 「・・・しゃーない」 「ん?」 そこに気付かれてしまったら、わざわざ弁解するのもめんどくさくなってしまった。 「もうちょっと後にしたかったんだけどな。ってゆーか食べてる最中だし」 俺の顔を見ながらフルーツタルトを口へと運ぶ律。 あぁ、今度はモモがフォークからこぼれそうになってるし。食べ物を食べる時は、ちゃんと手元を見ながらじゃないとこぼすって教わったでしょーが。 「何だよ、もったいぶるなよ〜」 へいへい、言われずとも出しますよ、姫。 俺は立ち上がると、持ってきたショルダーバッグの中から、二つ。 包装紙に包まれた、手のひらサイズの小さな箱を取り出した。 「さてこちらに大きな箱と小さな箱があります。貴方はどっちが‥‥って言ってもほとんど大差ないけどな。はい」 「・・・えっ。これって」 「うーん、いわゆる付き合って二ヶ月記念・今までありがとうございましたプレゼント?」 「おい!『ありがとうございました』って何だよ!まるでもう別れるみたいじゃねーかっ!!」 どこぞの昔話みたいなそぶりをしてから、結局両方とも渡してしまう。この欲張りさんめ! 右手にフォークを持ったまま、俺からのプレゼントを受け取る律。 両手に一つずつ。これで右手と左手がケンカすることはないだろう。これにて終幕。ハッピーエンド。めでたし、めでたし。 「・・・まぁ、開けてみれば?」 「う、うん!」 慌てて地面に箱を置こうとする律。って、右手のフォークに刺さってるタルトからモモが落ちる!しかも下はカーペット! 「・・・とっ!」 「・・・あ」 間一髪。 着地する前に、俺の右手がクッションになった。 第二章、ピーチ姫救出作戦の巻、任務完了、みたいな。 そう、モモだけに。うわさっぶ!山田くん、座布団全部もってって! 「・・・とりあえず、フォークを置こうな」 「あはは、あ、ありがと・・・」 さて、そのモモをどうするか。 こいつの両手はプレゼントで塞がってる。となると。 律の方もそれを察したみたいで、控えめに口を開けてくる。えーっと、誰かわさびとか持ってませんか? 「‥‥んん〜、さんきゅ」 「おう」 甘酸っぱいモモの味と、ほのかな甘みの生クリームのコラボを堪能したらしく、すっかりご満悦の顔だった。 しかしこれくらいで喜ばれては困る。それなりに値段は張るものを買ったし、何よりも選ぶのに凄く悩んだからなぁ。 全く、コイツと付き合うようになってからは、悩み事ばっかりだ。 * 「す、すっげ〜・・・キラキラしてる・・・」 「ホラ、お前っていつもカチューシャばっかりだろ?だからさ・・・たまにはこーゆーヘアピンつけた律とかも見てみたいな、って思って」 『アシオン SV ブラウン』。 確かそんな風に書かれていたと思う。ってゆーかヘアピンが四千円近くするって、まさにピンからキリまでござりまするなぁ。 今思うと、こいつにプレゼントやらっちゅーのを渡すのは初めてだった。内心かなり緊張したけど・・・どうやら喜んでもらえたみたいで。 ホッと胸をなでおろす。一つ喜んでもらえたなら、もう一つのプレゼントを開ける時の精神的負担もかなり小さい。 そんな俺の心境をよそに、律はというと一つ目を開封して続けざまにもう一つも開封する。 あぁもう、そんなに焦らなくてもプレゼントは逃げやしないのに。 「うおぉ、す、すっげ〜・・・」 「まぁ学校ではつけるの、無理かもしんないけど。ピアスだしな。そもそもつけたことないだろうし、もし耳に穴開けたくない、とかだったら別に無理してつけなくても・・・」 『ティファニー ティアドロップ ストレート』。 こないだからバイトを始めて、初めての給料でようやく買えた品だった。通販でかなり安くなっていた、というのもあるけど。 「いや、つける!ってゆーか今すぐつけたい!なぁなぁ、つけてもいいっ?!」 「おぅ。ピアッサーなら一緒に買ってあるから、何なら今開けてやろっか?」 「おぉ、さすがだな!用意周到っ♪」 説明書を読んでから消毒の用意をして、右と左の耳たぶに一つずつ。 穴を開ける感覚は・・・何て言えばいいだろう。ゴムに針を刺して通すみたいな、そんな感覚だった。 ちくりとは痛かったみたいだけどそれも一瞬だけの話で、嬉々として両耳にピアスをはめていく律。 両耳に銀の輝き。 そして─── 「ちょっとカチューシャはずすな」 「‥‥うん」 その髪には、黄金色をしたきらめきを。 何だろう。 気分はまるで、ちょっとしたウエディングだ。 指輪をはめるみたいな気持ちで、律の前髪を分けるとそこに適当にヘアピンをさしてやった。 ヤバい、少し手が震えてるのが分かる。 何とかつけ終えると、少し離れて律の顔を見てみる。うん、ピアスもヘアピンもよく映えてるな。 「ありがと。へへ・・・」 最近よく見せてくれるようになった、このはにかむような、嬉しそうに微笑む顔。 俺はこの律の顔が、大好きだった。 「・・・でもさ、こうやって買ってきてもらってアレなんだけど・・・なんか二つともすごく大人っぽい感じするじゃん?なんかさ、私みたいな子供っぽいヤツがつけても変なだけじゃないかな〜、なんて・・・」 「まぁ、だから買ってきた・・・っていうのもあるんだけどな!」 ひでー!!否定しろよな〜!とわめく律だが、不思議といつもの子供っぽさが見えない。 つける品によってこんなに変わるものかと、自分でもビックリする。まぁ彼氏の思い込み、ってヤツかもしれないけど。 「えっとな、こないだ友達がさ、『女はつけるものによって全然違って見えるよな〜』とか言っててさ。  そう思ってふと考えてみると、律っていつもカチューシャじゃん。学校行く時もカチューシャ、デートする時もカチューシャ。トイレでもカチューシャ。風呂でもカチューシャ、寝る時もカチューシャ。カチューシャの国に帰れ!」 「風呂と寝る時くらいは外しとるわいっ!!」 やっぱりだ。 いつものやんちゃな律のツッコミ。なのに、どうもその覇気みたいなのが五分の一くらいに薄まってるように感じる。 これがいつもと違う、律・・・なのか? 「・・・だから、もっと律のオシャレの幅を広めるために、って」 「そっか・・・うお!誰だお前!!」 話を聞きながら、立ち上がって手鏡を見つけて覗き込む律。 そーだよなー。俺だってぶっちゃけ『誰だお前!』状態だ。もちろんいい意味で、だけどな。 「うーん・・・・」 しかし、一通り反応し終わってから考え込む。何なんだこの女は。 「んだよ」 「や、ねぇ・・・」 こっちを向いた時には、少し苦笑いで困った表情だった。 もしかして、俺のプレゼントに何か不具合が?それとも、もしかして好みじゃなかった・・・とか? プレゼントを渡し終わってから落ち着いていた心臓が、再びけたたましく鼓動し始める。まさしくプレゼントを渡す時の彼氏の心境、ってやつだろう。 何だかんだでいっちょ前に彼氏やってんだなぁ、俺・・・。 「こーんなことされたらねぇ、私の立場がなくてさぁ・・・」 「は?どーゆう意味だよ??言っとくけど遠慮なんてしなくていいんだぞ〜」 「んにゃ、遠慮はしてない。もーメチャクチャ嬉しいです!ただ・・・」 おい、そんな棒読みで『メチャクチャ嬉しいです!』とか言うなよ。こっちはメチャクチャ悲しいじゃねーか。 心で涙する俺をよそにして、律はタンスの一番上の段を開けて、なにやらあさりはじめた。 しばらくしてからシンプルな包みを取り出すと、こんなことを言いやがった。 「ソッチからこーんなサプライズされると、私のサプライズが全然目立たなくなっちゃうなーってさ・・・はい!」 ‥‥。 ‥‥‥‥。 同時に渡される、小さな袋。 俺の思考回路が一瞬、フリーズする。それくらい、予想だにしない事態だった。 はい?何ですかコレは?あぁそっか、ゴミ袋ねゴミ・・・ 「じゃあ〜お前はゴミ袋で袋叩き、ってところだな!」 「スイマセン嘘です有り難く開けさせていただきます」 やっべ、口に出てた。 いやこうでも言わんとなんかね、ビックリしすぎて次の行動に移れそーになかったから。 包みの中に入っているのは、チョコレートでも入ってそうな箱だった。 それもそんじょそこらには売ってないような超高級チョコ。 ‥‥ところで、『超高級チョコ』って言いにくくないか?はい、これを早口言葉で十回言えるようになってくるように。 「・・・おぉ」 箱から姿を現したのは、黒い皮の財布だった。 思わず感嘆の声を上げるような、そんな財布。要はメチャクチャ高そうな財布だった。 「ん?えーっと・・・サルヴァトーレ・・・」 「わわっ!見るな見るなぁー!!!」 財布と一緒に入っていた、この財布の説明書のよーな、保証書のよーなモノ。 書いてあった草書体の英文を読み上げると同時に、律が手をのばしてきた。ふん、そんな直線的な動きでは私は捉えきれんよ! 「フェラ・・・」 俺はその説明書を律の前に持っていく。 「ここだけ、読み上げてみ?」 「ん?えーっと、フェラ・・・?」 「してくれないか」 「は?する・・・って、え?フェラ、ふぇ・・・!」 はーいここ見ものでーす。 あのりっちゃんが顔をトマト色にしてブルブル震えてまーす。いや、イチゴ色の方がファンシーな感じでいいか?俺きめぇ! 「アホかぁ──────っ!!!」 「あべしっ!」 彼女からビンタされてるのに・・・なんでだろう、気持ちい・・・・・・いやさすがにそれはないけど。 どーせ律のことだから殴られるだろうなーとは思ったんだけど、まさかビンタとは。ったく、女かお前は! 「てて、相変わらず乱暴っすねぇ・・・えっと、いやいや、でも・・・」 「・・・なんだよ」 ビンタで吹っ飛ばされたことによって、その説明書?と律は再び離ればなれ。 ゆっくり書いてある英文を読むことが出来た。 「でも・・・フェラガモ・・・って。おい!さすがに俺でも知ってるぞ!?」 「・・・そーだよ。フェラガモ。さすがに知ってたか・・・ちっ」 『Salvatore Ferragamo 66-3555 BLACK』。 律がプレゼントしてくれた財布の、品番らしきモノだった。ってゆーか『ちっ』ってなんだ『ちっ』て。 フェラガモ。確か、そーゆーのに全く興味のない俺でも知ってるほどの、有名なブランドの一つ・・・のハズだ。 で、値段ももちろんそれなりに張るはずで。 ‥‥あぁ、そりゃ財布の中身すっからかんにもなるわな。デート代なんて持ち合わせちゃーいねーわな。 「・・・アホかお前は!バイトも何もしてないヤツがこんなくそ高いプレゼント買ってどーすんだよっ」 「うるさいなー!お前だって何だよこのピアス!!この説明書に『ティファニー』って書いてあんぞっ!」 げ、バレた。 「おっ、俺はバイトしてるからいーんだよ!バイトしてない律がこんなん買ったら、デート代どころか昼メシもマトモに買えねーだろうがっ!」 「お前だってバイトしてるのになんだよあの財布の中身はっ!!てゆーかそもそも二ヶ月記念みたいなチュートハンパな記念日にこんな豪華なもん買ってくるなよなー!!」 「そりゃお前だろっ?!二ヶ月記念だぞ二ヶ月記念っ!!なのによりにもよってこんなっ!」 「お前こそ!!」 「お前だって!!」 ぜぇぜぇはぁはぁ。 突然の言い合いで、お互いに肺の中の酸素がカラッポになったみたいだ。 荒い息をしている彼氏と彼女。あぁ、律の食べかけのフルーツタルトが寂しそうにこちらを見ている。仲間にしますか? 「・・・へへっ」 額の汗をぬぐって、うんしょ、と背筋を伸ばしたのは律だった。 その表情は、とびっきりの笑顔。 「・・・やっぱ私たち、息ピッタリだよな!」 「・・・だな。所持金の合計金額が千円なんて、そんなの全然可愛くみえるよな」 最初にお互いの財布の中身をご開帳して、合わせて千円しか持っていなかった。 そんなことなんてもう霞んで消えてしまいそうなくらいの、この事態。 だってそうだろ? どこのカップルがこんな付き合って二ヶ月の記念日に、しかもお互い誘い合わせたわけでもないのにこんな豪勢なプレゼントを用意していてるんだ、と。 もう笑うしかなかった。 いつもとは違って無造作に下ろしてある、律の前髪。 両耳には銀色に光るピアスをつけて、おデコの左端にはキラキラと金色に光るヘアピン。 でもそれ以上にまばゆく輝いている、律の笑顔。 「律」 「ん〜?」 「さっき、何でこのプレゼントにしたかって聞かれて、『もっと律のオシャレの幅を広めるために』〜とか言ってたけど、アレ・・・実は半分嘘だったりして」 「んん?じゃー何なんだよ?」 小さい頃から色んなコイツを見てきてて、認めたくない気もするけど‥‥もう、認めざるをえない。 「もっともっと、色んな律を見てみたいと思ったから」 「あのな、私は着せ替え人形じゃねーぞっ」 そういいながらも、にへへと笑う『可愛い彼女』。 あぁ。 今日はこの世で最高の、付き合って二ヶ月の記念日だ。 了 [[『俺と律 4』へ>SS/短編-俺律/俺と律 4]] >出展 >【けいおん!】田井中律はシンバル可愛い44【ドラム】 このSSの感想をどうぞ #comment_num2(below,log=コメント/俺と律 3)
《注意》 ・『[[俺と律 2>SS/短編-俺律/俺と律 続編]]』の続編です。読んでないと話わかんないぜ!ってほどじゃないけど、わかんないトコは読み飛ばしでオールオッケーだと思います。でも読んでくれたら・・・きっと、りっちゃんが恥ずかしがります。 ・『俺』はりっちゃん(&澪)と幼稚園?小学生?くらいからの友達でした。いわゆるマブダチ。幼なじみです。で、りっちゃんとは二ヶ月前くらいから付き合ってます。ありがちすぎる設定です。 「えーっと・・・・うん、498円かな」 「俺は・・・・502円っと。おっしゃ俺の勝ちだな。ラーメンでも奢ってくれ!」 「まかしとけ!ベビースターラーメンなら幾らでも奢ってやるからな〜。ただし、チキン味限定でなっ」 「いや、同じチキン味のラーメンなら、せめてチキンラーメンにしてくれ・・・」 俺が2階から決死の特攻で律の家に侵入してから、はや一週間。 気がつけば、律と付き合って二ヶ月が経とうとしていました。いや、早いね〜。 そんなわけで今日は、そのお祝いとして二人で何か食べに行こう! ‥‥という算段だったんですが。 「うーむ、チキンラーメンなら腹いっぱいになるまで食えるだろうけどなぁ〜・・・」 「合わせてちょうど千円か・・・まるで俺たちの息のピッタリ具合を証明したような金額になったなぁ」 「そうだな〜。でも嬉しくねぇ!」 見ての通り。 お互いにこの『記念日』自体は覚えていたものの、『ただ覚えていただけだった』というオチで。 二人揃って、祝うための軍資金のことを忘れていたみたいだった。まぁ俺たちらしいといえば、らしいけど。 しかし問題は、一人500円の食費で、一体どこに何を食べに行くか? ということであって。 ただどこに行くにしても、その場所に何時間でも滞在できるような場所が最重要の条件となる。これ以上どっか行けるような持ち合わせはお互いにないことは既に判明済みだからだ。 出来れば一箇所いい場所を見つけて、そこで延々と駄弁っているのが理想だろう。 ‥‥となると、やっぱり高校生的にはメシを諦めてフリータイムのカラオケに行くか。 それとも100円のドリンクバーつきで、残りの400円で軽く一食が食える脅威のファミレス・サイゼリアにでも行くか。 マクドナルド?電車で二駅乗り継いで行くところをチャリンコで行けと?? まぁ律なら言えばやりそうだが、俺がしんどいのでパス。帰り道へリバースしてるところへ食ったものと胃液までリバースはしたくない。 以前なら189円(税込み)で一杯のラーメンが食える、という全国展開の自暴自棄に走ったようなラーメン屋が近くにあったのだが、最近になってついに力尽きてしまったようだ。残念。 「うーむむ・・・よーし!じゃあ私はありがた〜くこの千円ピッタリの焼肉定食でも食ってくるかぁ!じゃあな!」 目の前にあった小銭共がジャリジャリと奪い去られる。 あぁ、彼氏がこんなに苦悩しているにもかかわらず、当の本人は全く知る余地なしのようで。 この傍若無人なマイガールフレンド・田井中律はこんなことを平気でのたまうのであった。 俺は悲しいぞ、律! ‥‥だが、それなら俺も容赦しない。 相手がそのつもりなら、こちらとてそれなりの精神的ダメージを与えてやらねばなるまい。 「そっか〜、じゃあ俺は律の家に行って、お前が冷蔵庫のスミに隠してるへそくり的スイーツでも食ってくるわ。じゃあな!」 「・・・おい、ちょっと待て。お前・・・いつからそのこと知ってた?」 「あのな。もう何年お前と付き合ってると思ってんだ?」 いや、カップルとして付き合い始めたのは二ヶ月前ですけど。 いつ使おうかと楽しみにとっておいたジョーカー的なネタだったが、まぁいい。 切り札は、ここぞという時にしっかりと使うことによって、初めて『切り札』と呼ぶのだよ! 「もしかして‥‥たまにあそこから私のスイーツが消えてたのって‥‥」 「あぁ〜、まぁな。『ぷよぷよ』に負けた腹いせとか色々入ってる感じで、たびたび俺の腹の中に入ってったっけ。そう、あれはまだ‥‥」 「この口かぁ!私の『ところてん・マンゴー&パッションフルーツ風味』を食べよったのはこの口かぁあ!!」 「うるふぇー!!親から買い物ふぉ頼まれふぁふりしふぇ余っふぁ親の金ふぇ冷蔵庫にフゥイーフ貯めこんでるやふに言ふぁれたかねーよっ!!そらっ!甘あまフゥイーフを貯めこんでるのは、このわきぶぁらかぁ!ふぉらぁっ!!!」 「ぎゃっ!は、腹をつまむなぁあー!セクハラー!!!」 そう言って律は俺の口を引っ張り、俺は律のわき腹をつねっている。 なんて不毛な争いだろう。 ってゆーか、ところてんにマンゴー&パッションフルーツって、どうなん? いや、意外と美味かったけどな。思わずほっぺが・・・・いでででで!ほっぺがちぎれそうだ! * 「‥‥お、お邪魔します」 「なんだよー、急に改まって。お前にとっちゃー勝手知ったる他人の家ってヤツだろ〜??」 「まぁ‥‥何て言うか、その‥‥正直、一ヶ月前まではそうだったけどな。近頃、ここに来るたびにヘンなことばっかし起こってる気が・・・」 「何だよ、ヘンなことって?」 いやいやいやいや。 律のあっけらかんとした表情に、俺は一瞬、フラッと倒れそうになる。 例えば・・・・そう。ひょんなことから一緒に寝ることになったりとか? 律のアホーな勘違いから、彼氏と彼女という関係だけではなく、澪も含めた幼なじみ三人の人間関係の危機を迎えたりとか?? 彼氏になって、約一年ぶりに律の家にお邪魔した、まではよかったんだけどなぁ・・・でもそこから立て続けにこんなことばっかり起こっていたら、プチトラウマにもなるっちゅーの。 あぁ‥‥今でも目をつぶれば、律の家のドアを必死にノックしている自分が蘇る。同時にその時の心労も。うおああぁ・・・! 「・・・律さんに問題です。この一ヶ月で俺はこの家に二回来ています。さて、その時に起こったことを思い出してみましょう」 「お前が来た時に、起こった出来事・・・?うーん、と・・・・あ」 「ヘンなトコから、俺と澪が密かに付き合っててお前をつま弾きにしようとしてる・・・とか勘違いして、一週間も家に引きこもってらっしゃったのは、ドナタサマでしたっけ?」 「やぁ〜・・・はは!もー、そのことはいーじゃん!!ってゆーか私も忘れたいんだけ」 「その前ここに来た時は‥‥あぁ。確か誰かさんと、一緒の布団で寝たっけな。それでその誰かさんは、何故かベッドの隅っこでブルブル怯えてたりな。の割に、しばらくしてから大胆にも俺に『襲えよ』とか言ってきて。ったく、どんな誘い受」 「忘れろー!!!ってゆーか、忘れてくれぇ〜!!!つーか私も忘れてぇええー!!!」 「・・・分かったかよ、俺の苦悩が」 散々ヘッドバンクした挙句、苦しまぎれに後ろからいきなり抱きついてきやがった。 一瞬ビク!と跳ねる、俺の身体。 ‥‥よく考えたら、『これ』もトラウマだった。 まだお互い小さかった頃の話だが、いきなり後ろから抱きつかれたかと思ったら俺のシャツで手を拭いてたり、鼻拭いてたりしてやがったなぁ‥‥。 今となっては大丈夫だろう、けどさ。 しかし俺の身体はいまだにあの感覚を覚えてるみたいで、無意識に身体が拒否反応を示していた。 三つ子の魂百まで、とはよく言ったものだ。なんか違う気もするけど。 「分かったから早く、家に入ってくれぇ‥‥なんかもー、思い出すだけで私は恥ずかしくて死にそうだ〜‥‥」 「じゃあ早く入れてくれよ。玄関前で抱きつかれてちゃー入れるもんも入れないんだけど。重くて動けないし」 「‥‥‥‥そーだよ。私の愛は、メチャクチャ重いんだ、覚悟しろ〜って、あの時‥‥言ったじゃん?」 「‥‥‥」 コイツ・・・恥ずかしがってる割には、恥ずかしいことをサラリと言えるようになりやがって・・・! 重くて動けない、は体重的な意味で、皮肉のつもりで言ったのに・・・まさかこんな言葉で返されるとは思わず。 一週間前の出来事やら昔のトラウマやらで悶々としていた気持ちも、一気にすっとんでいってしまった。 っつーか、俺まで恥ずかしくなってきたっぽいんですけど・・・! 「いっ、いいから離せっ!!」 「イヤだっ!行っちゃヤだぁー!!ずっと一緒にいる〜!!」 「ちょっ、買ってきたケーキが潰れるっ!分かった!!いるから!!ずっと一緒にいるから!!とりあえず家に上がらせてくれっ俺が恥ずかしすぎて死んじま・・・あっ」 やばい、本音が出た。 「・・・へへっ。なんだお前、恥ずかしかったのか?私に抱きつかれて・・・ふふっ、えへへへへっ」 「う、嬉しそうに笑うなーっ!!キショいわっ!!!」 なんか、なぁ。 いや、可愛いっすよ。キショいとか言っといてなんですけど、ぶっちゃけ鼻血出そうなくらい可愛いっすよ。 むしろ最近こいつを『幼なじみ』ではなく『女』としか見れない自分に嫌気がさすくらいっすよ。 でも小さい頃からコイツを見てる俺としては、一つだけどうしても言いたいことがある。 こんなの・・・律じゃねぇー!!! * 「・・・なぁ律」 「ん〜?」 「暑くね?」 「あぁ、熱いな。アツアツだよな〜。えへへへ〜」 「・・・いいかげん、離れろよ」 目の前には美味そうなケーキとジュース。 結局お互い500円ずつの持ち金で、好きなケーキを1つずつ買い、余ったお金でジュースを買って、律の家でお祝いすることになった。 目の前には、美味そうなザッハトルテとコカコーラ。 しかしいまだに俺は、それらに手をつけられずにいた。 「じゃ、じゃあせめて手だけでも離してくれ・・・ホラ、コーラの炭酸だってどんどん抜けてくし、ケーキだって鮮度が命だろ?」 うぅ、苦しい。 苦しすぎる言い訳だ。 「や〜だよ〜。ずーっと一緒にいていい、って言ったもん」 「一緒にいる、っていうのは、ずっと抱きついてる、ってのとはまた別モンだと思うけど?」 「でも抱きついちゃダメ、とも言ってないじゃん。んふふ〜♪」 「はいはい、わかったから。とりあえず乾杯しようぜ」 一層嬉しそうに俺を腕ごと抱きしめてくる律を、半ばムリヤリ剥がしにかかる。 えー、ケチーとぶー垂れながら、しぶしぶ机の向かいに座ってくれた。やれやれ一安心。 ‥‥なハズなんだけど。 何だコレ。そんな律を見て、なんで俺が罪悪感を感じるんだ・・・? 「はい、それでは〜、何だかんだで付き合って二ヶ月記念ということで、かんぱーい!」 「おいっ!何だかんだって何だよ!略すなよ!」 「‥‥じゃあ律が言ってみろよ」 「分かったよ、ったく‥‥え〜、私たちが‥‥その、こっ、こここっ・・・恋人同士になってから‥‥えっと・・・」 「んだよ、コッココッコ言いやがって。お前はニワトリか!」 「えーぃこんな恥ずぃコト言わすなぁーーー!!」 「言いたがってたのはお前だろーがっ!」 「言わしたのはお前だーっ!ちくしょー!!!」 そうそう、こーゆーのって、いざ口に出そうとするとビミョーに恥ずかしいんだよな。 特に俺たちなんか、そこまで経験値があるわけじゃないし・・・慣れてないもんな。 恥ずかしさを共有できたことに満足すると、手元のザッハトルテを一口。 うん、うめー。梅食ってちょーうめー。って、梅ちゃうやんけ! 「・・・でもさ、珍しいよな」 「ん?何がだ?」 「いやさ、昔から澪はいっつも私のフォローしてくれるんだけど、お前はこう・・・影の支え役、っていうのかな。その時は気付かないけど、後になって気付く‥‥みたいなさ。さり気なーくフォローしてくれるようなヤツだと思うんだよな」 「おっ、やっと自分がフォローしてもらってるということに気がついたが。俺は嬉しいぞ、律!」 「おい、私だってお前のフォローくらいしてるんだぞ!例えば・・・」 身を乗り出してきた律だったけど、そこで一時停止。 視線を右ナナメ上へと向けて、思考をめぐらせる。はい、三秒〜、五秒〜、十秒〜。 「・・・なのに、そんなお前が今回みたいにデート費用のこと忘れてたなんて、珍しいなーって思ってさ!」 こいつ、話を無かったことにしよった!しかも何の違和感も無く!! 俺の十五秒間を返せ! 「そうか?」 「だってそうだろ?いつも二人でどっか出かける時には絶対に十分なお金を持ってきてたなーって。何をするにしても用意周到っていうかさ。何となくだけど、今思い出したんだよなぁ〜」 口に運ぼうとしたフルーツタルトから、四分の一にカットされたイチゴがぽとりと落ちるのが見えた。 こら、食べるか喋るかどっちかにしなさい。 「・・・そこに気付くか」 「気付くよ。だって、彼女だし」 そう言って律はニコッと笑うと、落ちたイチゴをフォークで刺して俺の口へと持っていく。あ、今のさり気なく可愛い。 いわゆる『あーん』ってやつだけど‥‥何の違和感もなく受け入れられるあたり、俺も少しはこいつとの『彼氏彼女』の関係に慣れてきたのかもしれない。 「・・・しゃーない」 「ん?」 そこに気付かれてしまったら、わざわざ弁解するのもめんどくさくなってしまった。 「もうちょっと後にしたかったんだけどな。ってゆーか食べてる最中だし」 俺の顔を見ながらフルーツタルトを口へと運ぶ律。 あぁ、今度はモモがフォークからこぼれそうになってるし。食べ物を食べる時は、ちゃんと手元を見ながらじゃないとこぼすって教わったでしょーが。 「何だよ、もったいぶるなよ〜」 へいへい、言われずとも出しますよ、姫。 俺は立ち上がると、持ってきたショルダーバッグの中から、二つ。 包装紙に包まれた、手のひらサイズの小さな箱を取り出した。 「さてこちらに大きな箱と小さな箱があります。貴方はどっちが‥‥って言ってもほとんど大差ないけどな。はい」 「・・・えっ。これって」 「うーん、いわゆる付き合って二ヶ月記念・今までありがとうございましたプレゼント?」 「おい!『ありがとうございました』って何だよ!まるでもう別れるみたいじゃねーかっ!!」 どこぞの昔話みたいなそぶりをしてから、結局両方とも渡してしまう。この欲張りさんめ! 右手にフォークを持ったまま、俺からのプレゼントを受け取る律。 両手に一つずつ。これで右手と左手がケンカすることはないだろう。これにて終幕。ハッピーエンド。めでたし、めでたし。 「・・・まぁ、開けてみれば?」 「う、うん!」 慌てて地面に箱を置こうとする律。って、右手のフォークに刺さってるタルトからモモが落ちる!しかも下はカーペット! 「・・・とっ!」 「・・・あ」 間一髪。 着地する前に、俺の右手がクッションになった。 第二章、ピーチ姫救出作戦の巻、任務完了、みたいな。 そう、モモだけに。うわさっぶ!山田くん、座布団全部もってって! 「・・・とりあえず、フォークを置こうな」 「あはは、あ、ありがと・・・」 さて、そのモモをどうするか。 こいつの両手はプレゼントで塞がってる。となると。 律の方もそれを察したみたいで、控えめに口を開けてくる。えーっと、誰かわさびとか持ってませんか? 「‥‥んん〜、さんきゅ」 「おう」 甘酸っぱいモモの味と、ほのかな甘みの生クリームのコラボを堪能したらしく、すっかりご満悦の顔だった。 しかしこれくらいで喜ばれては困る。それなりに値段は張るものを買ったし、何よりも選ぶのに凄く悩んだからなぁ。 全く、コイツと付き合うようになってからは、悩み事ばっかりだ。 * 「す、すっげ〜・・・キラキラしてる・・・」 「ホラ、お前っていつもカチューシャばっかりだろ?だからさ・・・たまにはこーゆーヘアピンつけた律とかも見てみたいな、って思って」 『アシオン SV ブラウン』。 確かそんな風に書かれていたと思う。ってゆーかヘアピンが四千円近くするって、まさにピンからキリまでござりまするなぁ。 今思うと、こいつにプレゼントやらっちゅーのを渡すのは初めてだった。内心かなり緊張したけど・・・どうやら喜んでもらえたみたいで。 ホッと胸をなでおろす。一つ喜んでもらえたなら、もう一つのプレゼントを開ける時の精神的負担もかなり小さい。 そんな俺の心境をよそに、律はというと一つ目を開封して続けざまにもう一つも開封する。 あぁもう、そんなに焦らなくてもプレゼントは逃げやしないのに。 「うおぉ、す、すっげ〜・・・」 「まぁ学校ではつけるの、無理かもしんないけど。ピアスだしな。そもそもつけたことないだろうし、もし耳に穴開けたくない、とかだったら別に無理してつけなくても・・・」 『ティファニー ティアドロップ ストレート』。 こないだからバイトを始めて、初めての給料でようやく買えた品だった。通販でかなり安くなっていた、というのもあるけど。 「いや、つける!ってゆーか今すぐつけたい!なぁなぁ、つけてもいいっ?!」 「おぅ。ピアッサーなら一緒に買ってあるから、何なら今開けてやろっか?」 「おぉ、さすがだな!用意周到っ♪」 説明書を読んでから消毒の用意をして、右と左の耳たぶに一つずつ。 穴を開ける感覚は・・・何て言えばいいだろう。ゴムに針を刺して通すみたいな、そんな感覚だった。 ちくりとは痛かったみたいだけどそれも一瞬だけの話で、嬉々として両耳にピアスをはめていく律。 両耳に銀の輝き。 そして─── 「ちょっとカチューシャはずすな」 「‥‥うん」 その髪には、黄金色をしたきらめきを。 何だろう。 気分はまるで、ちょっとしたウエディングだ。 指輪をはめるみたいな気持ちで、律の前髪を分けるとそこに適当にヘアピンをさしてやった。 ヤバい、少し手が震えてるのが分かる。 何とかつけ終えると、少し離れて律の顔を見てみる。うん、ピアスもヘアピンもよく映えてるな。 「ありがと。へへ・・・」 最近よく見せてくれるようになった、このはにかむような、嬉しそうに微笑む顔。 俺はこの律の顔が、大好きだった。 「・・・でもさ、こうやって買ってきてもらってアレなんだけど・・・なんか二つともすごく大人っぽい感じするじゃん?なんかさ、私みたいな子供っぽいヤツがつけても変なだけじゃないかな〜、なんて・・・」 「まぁ、だから買ってきた・・・っていうのもあるんだけどな!」 ひでー!!否定しろよな〜!とわめく律だが、不思議といつもの子供っぽさが見えない。 つける品によってこんなに変わるものかと、自分でもビックリする。まぁ彼氏の思い込み、ってヤツかもしれないけど。 「えっとな、こないだ友達がさ、『女はつけるものによって全然違って見えるよな〜』とか言っててさ。  そう思ってふと考えてみると、律っていつもカチューシャじゃん。学校行く時もカチューシャ、デートする時もカチューシャ。トイレでもカチューシャ。風呂でもカチューシャ、寝る時もカチューシャ。カチューシャの国に帰れ!」 「風呂と寝る時くらいは外しとるわいっ!!」 やっぱりだ。 いつものやんちゃな律のツッコミ。なのに、どうもその覇気みたいなのが五分の一くらいに薄まってるように感じる。 これがいつもと違う、律・・・なのか? 「・・・だから、もっと律のオシャレの幅を広めるために、って」 「そっか・・・うお!誰だお前!!」 話を聞きながら、立ち上がって手鏡を見つけて覗き込む律。 そーだよなー。俺だってぶっちゃけ『誰だお前!』状態だ。もちろんいい意味で、だけどな。 「うーん・・・・」 しかし、一通り反応し終わってから考え込む。何なんだこの女は。 「んだよ」 「や、ねぇ・・・」 こっちを向いた時には、少し苦笑いで困った表情だった。 もしかして、俺のプレゼントに何か不具合が?それとも、もしかして好みじゃなかった・・・とか? プレゼントを渡し終わってから落ち着いていた心臓が、再びけたたましく鼓動し始める。まさしくプレゼントを渡す時の彼氏の心境、ってやつだろう。 何だかんだでいっちょ前に彼氏やってんだなぁ、俺・・・。 「こーんなことされたらねぇ、私の立場がなくてさぁ・・・」 「は?どーゆう意味だよ??言っとくけど遠慮なんてしなくていいんだぞ〜」 「んにゃ、遠慮はしてない。もーメチャクチャ嬉しいです!ただ・・・」 おい、そんな棒読みで『メチャクチャ嬉しいです!』とか言うなよ。こっちはメチャクチャ悲しいじゃねーか。 心で涙する俺をよそにして、律はタンスの一番上の段を開けて、なにやらあさりはじめた。 しばらくしてからシンプルな包みを取り出すと、こんなことを言いやがった。 「ソッチからこーんなサプライズされると、私のサプライズが全然目立たなくなっちゃうなーってさ・・・はい!」 ‥‥。 ‥‥‥‥。 同時に渡される、小さな袋。 俺の思考回路が一瞬、フリーズする。それくらい、予想だにしない事態だった。 はい?何ですかコレは?あぁそっか、ゴミ袋ねゴミ・・・ 「じゃあ〜お前はゴミ袋で袋叩き、ってところだな!」 「スイマセン嘘です有り難く開けさせていただきます」 やっべ、口に出てた。 いやこうでも言わんとなんかね、ビックリしすぎて次の行動に移れそーになかったから。 包みの中に入っているのは、チョコレートでも入ってそうな箱だった。 それもそんじょそこらには売ってないような超高級チョコ。 ‥‥ところで、『超高級チョコ』って言いにくくないか?はい、これを早口言葉で十回言えるようになってくるように。 「・・・おぉ」 箱から姿を現したのは、黒い皮の財布だった。 思わず感嘆の声を上げるような、そんな財布。要はメチャクチャ高そうな財布だった。 「ん?えーっと・・・サルヴァトーレ・・・」 「わわっ!見るな見るなぁー!!!」 財布と一緒に入っていた、この財布の説明書のよーな、保証書のよーなモノ。 書いてあった草書体の英文を読み上げると同時に、律が手をのばしてきた。ふん、そんな直線的な動きでは私は捉えきれんよ! 「フェラ・・・」 俺はその説明書を律の前に持っていく。 「ここだけ、読み上げてみ?」 「ん?えーっと、フェラ・・・?」 「してくれないか」 「は?する・・・って、え?フェラ、ふぇ・・・!」 はーいここ見ものでーす。 あのりっちゃんが顔をトマト色にしてブルブル震えてまーす。いや、イチゴ色の方がファンシーな感じでいいか?俺きめぇ! 「アホかぁ──────っ!!!」 「あべしっ!」 彼女からビンタされてるのに・・・なんでだろう、気持ちい・・・・・・いやさすがにそれはないけど。 どーせ律のことだから殴られるだろうなーとは思ったんだけど、まさかビンタとは。ったく、女かお前は! 「てて、相変わらず乱暴っすねぇ・・・えっと、いやいや、でも・・・」 「・・・なんだよ」 ビンタで吹っ飛ばされたことによって、その説明書?と律は再び離ればなれ。 ゆっくり書いてある英文を読むことが出来た。 「でも・・・フェラガモ・・・って。おい!さすがに俺でも知ってるぞ!?」 「・・・そーだよ。フェラガモ。さすがに知ってたか・・・ちっ」 『Salvatore Ferragamo 66-3555 BLACK』。 律がプレゼントしてくれた財布の、品番らしきモノだった。ってゆーか『ちっ』ってなんだ『ちっ』て。 フェラガモ。確か、そーゆーのに全く興味のない俺でも知ってるほどの、有名なブランドの一つ・・・のハズだ。 で、値段ももちろんそれなりに張るはずで。 ‥‥あぁ、そりゃ財布の中身すっからかんにもなるわな。デート代なんて持ち合わせちゃーいねーわな。 「・・・アホかお前は!バイトも何もしてないヤツがこんなくそ高いプレゼント買ってどーすんだよっ」 「うるさいなー!お前だって何だよこのピアス!!この説明書に『ティファニー』って書いてあんぞっ!」 げ、バレた。 「おっ、俺はバイトしてるからいーんだよ!バイトしてない律がこんなん買ったら、デート代どころか昼メシもマトモに買えねーだろうがっ!」 「お前だってバイトしてるのになんだよあの財布の中身はっ!!てゆーかそもそも二ヶ月記念みたいなチュートハンパな記念日にこんな豪華なもん買ってくるなよなー!!」 「そりゃお前だろっ?!二ヶ月記念だぞ二ヶ月記念っ!!なのによりにもよってこんなっ!」 「お前こそ!!」 「お前だって!!」 ぜぇぜぇはぁはぁ。 突然の言い合いで、お互いに肺の中の酸素がカラッポになったみたいだ。 荒い息をしている彼氏と彼女。あぁ、律の食べかけのフルーツタルトが寂しそうにこちらを見ている。仲間にしますか? 「・・・へへっ」 額の汗をぬぐって、うんしょ、と背筋を伸ばしたのは律だった。 その表情は、とびっきりの笑顔。 「・・・やっぱ私たち、息ピッタリだよな!」 「・・・だな。所持金の合計金額が千円なんて、そんなの全然可愛くみえるよな」 最初にお互いの財布の中身をご開帳して、合わせて千円しか持っていなかった。 そんなことなんてもう霞んで消えてしまいそうなくらいの、この事態。 だってそうだろ? どこのカップルがこんな付き合って二ヶ月の記念日に、しかもお互い誘い合わせたわけでもないのにこんな豪勢なプレゼントを用意していてるんだ、と。 もう笑うしかなかった。 いつもとは違って無造作に下ろしてある、律の前髪。 両耳には銀色に光るピアスをつけて、おデコの左端にはキラキラと金色に光るヘアピン。 でもそれ以上にまばゆく輝いている、律の笑顔。 「律」 「ん〜?」 「さっき、何でこのプレゼントにしたかって聞かれて、『もっと律のオシャレの幅を広めるために』〜とか言ってたけど、アレ・・・実は半分嘘だったりして」 「んん?じゃー何なんだよ?」 小さい頃から色んなコイツを見てきてて、認めたくない気もするけど‥‥もう、認めざるをえない。 「もっともっと、色んな律を見てみたいと思ったから」 「あのな、私は着せ替え人形じゃねーぞっ」 そういいながらも、にへへと笑う『可愛い彼女』。 あぁ。 今日はこの世で最高の、付き合って二ヶ月の記念日だ。 了 [[『俺と律 4』へ>SS/短編-俺律/俺と律4]] >出展 >【けいおん!】田井中律はシンバル可愛い44【ドラム】 このSSの感想をどうぞ #comment_num2(below,log=コメント/俺と律 3)

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