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※[[太陽のKiss>SS/短編-俺律/太陽のKiss]]の続編です。 晩夏。暑かった季節にも終わりが近づき、 木々や山々が秋の装いを見せ始めていたそんな折。 僕は田井中と夏祭りに行く約束を取り付けた。 秋山さんや男友達も帰省先から戻っておらず、 平沢や琴吹さんに至っては国内の避暑地に滞在中という。 半ば済し崩し的に事が運んでしまったとは言え、 必然的に僕は田井中と2人きりで時間を過ごす事になった。 時の悪戯か。 海に行ったあの日から、何かが変わり始めているような気がした・・・ −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 『悪い。今日は長いこと渋滞に巻き込まれて、そちらに戻るのは難しいんだ。 だから今夜はお前たちを2人にしてしまうけど・・・楽しんできてくれ!』 僕は秋山さんから受け取ったメールを何度も読み返していた。 何の変哲も無い返信にも疑心暗鬼に駆られてしまうほど、 僕の気持ちは不安定なままだった。 「おっす!待たせたな!」 そうこうしている間に田井中が現れた。 黄色の地に向日葵の刺繍を施した浴衣が可愛らしかった。 「おっ、浴衣か〜!風情があって良いじゃないか」 「母さんが着ていけって言うんだよお・・・動きづらいし、やっぱ着替えて・・・」 「ははは!そんな必要ないって。いつもよりずっと色っぽいぞ〜」 「う、う、うるさいっ!ほっとけ!くぅ・・・、なんてこった・・・」 そんな他愛の無いやり取りをしているうちに 僕の心の中のモヤモヤも何処かへ吹き飛んでいってしまった。 やはり、彼女と一緒にいると楽しい。この気持ちだけはずっと変わらなかった。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 実は数年前にも一度だけ、田井中とこの夏祭りに行った事があった。 まだこの街の様子もわかっていない僕の手を引くように。 そして、僕も彼女に手を引かれるように・・・ その日は目一杯遊びまわった。 ただ、そんな夏祭りも土地の分譲や開発で今年を持って最後になるという。 その事実を誰よりも悲しんだのが田井中だった。 彼女にとってこの場所は、幼少期から今までのかけがえの無い思い出がたくさん詰まった場所だった。 「見てみろよ、あの木の枝。昔、澪があそこに登って落っこちそうになった事があるんだ」 「えっ、本当かよ?大丈夫だったのか、秋山さん・・・」 「うん。ほら、枝がグニャって曲がってるだろ?あいつ、落ちないように凄い力でしがみ付いててさ・・・」 「(秋山さんって・・・)ああ、本当だ。大変な事があったんだなぁ」 思い出話にも花が咲く。 ちょっとした静寂の後、再び田井中が口を開く。 「そういや澪のやつ、今日来れなかったんだって・・・?」 秋山さんが不在である事に田井中は酷く落ち込んでいたようだった。 「私ってさ、澪みたいに勉強も出来ないしさ・・・ほら、キッチリした性格でもないし・・・ それにあいつは美人だし。でも、私のこと凄く想ってくれてて、いつものように馬鹿やって・・・ 嬉しいんだ・・・ぐすっ・・・ぐすん・・・えへへっ・・・」 田井中の頬を一粒の涙が伝った。初めて見る彼女の涙だった。 健気で明るく、いつも無邪気な笑顔を見せていた彼女の涙を受け入れる余裕が、僕には無かった。 「つ、使えよ・・・」 それでも僕はポケットに手をやりハンカチを手渡そうとした。 田井中は無言でハンカチを受け取ると、涙で溢れた顔を拭った。 「ふう〜・・・」 そう一息つくと彼女はすくっと立ち上がった。 「よしっ!祭りもそろそろ終わるし、今日は最後まで遊びまくるぞ〜!」 「うえっ・・・立ち直るの早いな〜。何だったんだ、今のは・・・」 「うっさい!目にゴミが入っただけだよん!ほら、早く行くぞっ!」 「おっ、おい、ちょっと待てってば!おい!もう・・・」 あの日と同じように僕は彼女に手を引かれ、クタクタになるまで遊び呆けた。 「う、うぐぐ・・・だあ〜!だから私は型抜きは嫌なんだあ〜!くっそ〜!」 山々を吹き抜ける風が心地よく、とても優しかった。 そして、一抹の寂しさを覚えた最後の夏だった。 夢のような、ときめきに満ちた日々が終わりを告げようとしていた。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− >出展 >【けいおん!】田井中律はハーモニカ可愛い67【ドラム】 このSSの感想をどうぞ #comment_num2(below,log=コメント/君がいた夏)
※[[『太陽のKiss』>SS/短編-俺律/太陽のKiss]]の続編です。 晩夏。暑かった季節にも終わりが近づき、 木々や山々が秋の装いを見せ始めていたそんな折。 僕は田井中と夏祭りに行く約束を取り付けた。 秋山さんや男友達も帰省先から戻っておらず、 平沢や琴吹さんに至っては国内の避暑地に滞在中という。 半ば済し崩し的に事が運んでしまったとは言え、 必然的に僕は田井中と2人きりで時間を過ごす事になった。 時の悪戯か。 海に行ったあの日から、何かが変わり始めているような気がした・・・ −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 『悪い。今日は長いこと渋滞に巻き込まれて、そちらに戻るのは難しいんだ。 だから今夜はお前たちを2人にしてしまうけど・・・楽しんできてくれ!』 僕は秋山さんから受け取ったメールを何度も読み返していた。 何の変哲も無い返信にも疑心暗鬼に駆られてしまうほど、 僕の気持ちは不安定なままだった。 「おっす!待たせたな!」 そうこうしている間に田井中が現れた。 黄色の地に向日葵の刺繍を施した浴衣が可愛らしかった。 「おっ、浴衣か〜!風情があって良いじゃないか」 「母さんが着ていけって言うんだよお・・・動きづらいし、やっぱ着替えて・・・」 「ははは!そんな必要ないって。いつもよりずっと色っぽいぞ〜」 「う、う、うるさいっ!ほっとけ!くぅ・・・、なんてこった・・・」 そんな他愛の無いやり取りをしているうちに 僕の心の中のモヤモヤも何処かへ吹き飛んでいってしまった。 やはり、彼女と一緒にいると楽しい。この気持ちだけはずっと変わらなかった。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 実は数年前にも一度だけ、田井中とこの夏祭りに行った事があった。 まだこの街の様子もわかっていない僕の手を引くように。 そして、僕も彼女に手を引かれるように・・・ その日は目一杯遊びまわった。 ただ、そんな夏祭りも土地の分譲や開発で今年を持って最後になるという。 その事実を誰よりも悲しんだのが田井中だった。 彼女にとってこの場所は、幼少期から今までのかけがえの無い思い出がたくさん詰まった場所だった。 「見てみろよ、あの木の枝。昔、澪があそこに登って落っこちそうになった事があるんだ」 「えっ、本当かよ?大丈夫だったのか、秋山さん・・・」 「うん。ほら、枝がグニャって曲がってるだろ?あいつ、落ちないように凄い力でしがみ付いててさ・・・」 「(秋山さんって・・・)ああ、本当だ。大変な事があったんだなぁ」 思い出話にも花が咲く。 ちょっとした静寂の後、再び田井中が口を開く。 「そういや澪のやつ、今日来れなかったんだって・・・?」 秋山さんが不在である事に田井中は酷く落ち込んでいたようだった。 「私ってさ、澪みたいに勉強も出来ないしさ・・・ほら、キッチリした性格でもないし・・・ それにあいつは美人だし。でも、私のこと凄く想ってくれてて、いつものように馬鹿やって・・・ 嬉しいんだ・・・ぐすっ・・・ぐすん・・・えへへっ・・・」 田井中の頬を一粒の涙が伝った。初めて見る彼女の涙だった。 健気で明るく、いつも無邪気な笑顔を見せていた彼女の涙を受け入れる余裕が、僕には無かった。 「つ、使えよ・・・」 それでも僕はポケットに手をやりハンカチを手渡そうとした。 田井中は無言でハンカチを受け取ると、涙で溢れた顔を拭った。 「ふう〜・・・」 そう一息つくと彼女はすくっと立ち上がった。 「よしっ!祭りもそろそろ終わるし、今日は最後まで遊びまくるぞ〜!」 「うえっ・・・立ち直るの早いな〜。何だったんだ、今のは・・・」 「うっさい!目にゴミが入っただけだよん!ほら、早く行くぞっ!」 「おっ、おい、ちょっと待てってば!おい!もう・・・」 あの日と同じように僕は彼女に手を引かれ、クタクタになるまで遊び呆けた。 「う、うぐぐ・・・だあ〜!だから私は型抜きは嫌なんだあ〜!くっそ〜!」 山々を吹き抜ける風が心地よく、とても優しかった。 そして、一抹の寂しさを覚えた最後の夏だった。 夢のような、ときめきに満ちた日々が終わりを告げようとしていた。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− >出展 >【けいおん!】田井中律はハーモニカ可愛い67【ドラム】 このSSの感想をどうぞ #comment_num2(below,log=コメント/君がいた夏)

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