律「やっぱ軽音部は最高だぜ!」 第3章

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//以下スペースにSSをコピペ //――――以下SS―――― 「――澪!!」 澪(――・・・!!この声――!!) 澪「律!!」 悲鳴にも似た声で、澪は叫ぶ。その視線の先に、肩で息をする律がいた。 律は男達に囲まれた、服装の乱れている澪を見て、歯を軋ませた。 律「澪・・・。お前等!澪から離れろ!!」 先生B「・・・・・・」 男A「何だ、お前?お前も遊んで欲しいのかよ?あぁ!?」 男B「はは!笑わせんな!この娘と比べたらガキじゃねぇか!!」 男C「特に胸とかなww」 男A「まぁ、顔は悪くないし、別に遊んでやっても良いんだぜ?w」 下品な笑い声を上げる男達を睨み、律は傍にあった鉄パイプを握って構えた。 一瞬にして静まる廃工場。 律「澪から、離れろ」 そう言った彼女の声は、鉄パイプを握る手と同様に震えていた。 そのころ、唯は。 唯「憂~、お腹すいた~」 憂「はいはい。もうすぐ晩御飯出来るから。今日はね、カレーだよ♪」 唯「やった~!憂の作るカレーおいしいから大好き!」 机にもたれかかって、テレビのチャンネルを変える。 ちょうど映ったニュース番組で、不審者に襲われた被害者の報道が行われていた。 唯「・・・・・・」 何気なく、窓の外を見る。 唯「澪ちゃん、大丈夫かな・・・」 唯(りっちゃんが付いてるから、大丈夫だよね) 律『・・・へ?あ、あぁ。そうだな』 律『そんときは私が澪を守る!』 唯「・・・・・・」 唯(りっちゃん、あんまり態度には見せなかったけど、凄く澪ちゃんのこと心配してたな・・・) 唯(友達思いだもんね、りっちゃん。それに、澪ちゃんは幼なじみの親友だし) 唯(・・・でも、そのせいで無茶しなきゃいいんだけど) 急に不安になってきた唯は、チャンネルを別の物に変えた。 憂「――あっ!!」 唯「ぎゃっ!!」ビクッ 憂「えっ?」 唯「び、びっくりした・・・。おどかさないでよ憂~」 憂「こっちがびっくりしたよ・・・。――お姉ちゃん、お願いがあるんだけど」 唯「何?」 憂「カレールー切らしちゃってた☆買ってきてくれる?」 唯「任せなさい!」 びしっと敬礼一つ。唯は憂からお金をもらって玄関に走る。 唯「憂~」 憂「ん?」 唯「・・・おつりでアイス買ってきてもいい?」 憂「・・・;」 一方、紬は。 紬(だいぶ暗くなってきてわね・・・) 唯と同じように、窓から外を見る紬。 紬(でも、りっちゃんがいるから、澪ちゃん大丈夫よね) ふいに、紬の頭に少し前の部活での会話が蘇ってきた。 律『澪はホント、昔っから恐がりでさ~』 澪『なっ何を!』 律『小学校の時なんか、放れた飼い犬に追い回されて、泣き叫んでたんだぜw』 唯『わぁ、澪ちゃんかわいい~』 澪『そ、そんな昔の話!』 律『今でも怖いんじゃないか~?ん?』 澪『律!!』ゴッ 律『あだっ!!』 紬『ウフフ。でも、その後はどうなったの?』 澪『・・・お、追いつかれそうになったとき、律が来てくれて・・・』 紬『まぁ。じゃあ、りっちゃんが追い払ってくれたの?』 律『ホント、目を離すとすーぐ厄介事に巻き込まれてるんだもん。その後もさー・・・』 澪『り~つ~・・・』ギロリ 律『わーかったわーかった。これ以上殴られると、唯より悪い成績とっちまう』 唯『あはは~wwそうだね~』 律『つっこめよオイ;』 紬(澪ちゃんにとって、りっちゃんは親友であり、素敵なヒーローでもあるのね・・・) ふいにドアがノックされる音が聞こえ、紬は視線を部屋の中に戻した。 紬「はい」 紬父「入るぞ」 紬「お父様。珍しいわね、私の部屋に来るなんて」 紬父「母さんから澪ちゃんの話を聞いてな。大丈夫なのか?」 紬「今日、先生とそのことについて話してたわ。あの様子だと、学校で対策を練ってもらえそう」 紬父「そうか。困ったときはいつでも言うんだぞ。通学路に警備員を数メートルおきに配置して、万全の警戒をしこう」 真剣な面持ちの父に、紬は苦笑を浮かべて礼を言った。 紬(そっちの方が怖い・・・) 静かな工場内に、澪が泣きじゃくる声だけが響く。 律はずり落ちてきそうになったカチューシャを、乱暴に戻した。 先生A「田井中・・・何故ここに・・・」 律「――・・・!?A、先生・・・?」 見覚えのある顔に、律は激しく戸惑った。何故、何で彼がここにいる? 先生B「さて、私達の顔を見てしまったからには、お前もただで帰れると思うなよ。反省文じゃすまないぞ」 律「嘘・・・。な、何で先生達がこんな所に――」 先生B「わざわざお前がここに来ないようにするために、嘘の原稿まで書かせたっていうのに・・・」 嘘の原稿。その言葉を聞いて、律はハッとした。 律「じゃああの部活動紹介の原稿は・・・澪と私をバラバラにするための嘘だったんだな・・・!」 先生B「それだけじゃないぞ」 先生Bはポケットから取り出した物を律に見せつける。 律「・・・!私の、携帯!」 先生B「残念。浸水してもう動かない」 先生Bは律の携帯を地面に投げ捨てた。破壊音を立てて大地を転がる携帯を、男の一人が蹴り飛ばした。 男A「先生、何なんすかコイツ」 先生B「その女の昔っからの親友だよ。コイツは厄介だから気付かれずにいたかったんだがな・・・」 澪「律・・・ぐすっ・・・」 呼吸の荒い律を見て、先生Aは自分の顎を撫でながら口を開いた。 先生A「それにしても、よくここに気付いたなぁ・・・」 会話することで男達の手が止まっている。律はそのうちに何とか解決策を練ろうと、時間稼ぎに努めた。 律「・・・昨日、澪が帰ってから他の軽音部のみんなで、登下校路付近の怪しい場所をチェックして回ったんだよ」 澪「・・・!!」 そんなことは知らなかった澪は、驚いて顔を上げた。 律「その場所を探してたら、澪の声が聞こえてきたんだ・・・」 先生B「なるほど。素敵な思いやりだな。反吐が出る」 先生Bは、吐き捨てるように言うと、足を踏み出す。 律「――動くな!澪に・・・近づくな!!」 律(くっそ~・・・!!) 時間稼ぎは無理だ。 鉄パイプを握りしめて工場の中へと入っていく律。 先生Bは挑発めいた笑みを浮かべると、澪の顔に手をやり、自分の方を向かせた。 先生B「親友の前で犯るってのも、楽しそうだな。ん?」 澪「っ・・・」 澪の顔が恐怖に歪む。律の中で、何かが弾けた。 律「・・・ぅおおおりゃああああ!!」 律はがむしゃらになって、鉄パイプを振り回しながら駆けだした。 ドラムの経験上、腕力には自信がある。鉄パイプは相当な勢いで振るわれていた。 男C「ちょ、アブね!」 予想以上の抵抗に、男達は慌てて距離をとる。 律は即座に澪に駆け寄った。 澪「律ぅ!」 律「澪、ほら!今のうちに逃げなきゃ!」 澪「っ律を置いてなんていけない!」 男B「逃がしてたまるか!」 そうこうしているうちに、男の一人が突進してきた。 突き出された腕を、律は思い切り殴る。 バシッ 男B「いっつぁあああ!!」 飛び上がりそうな勢いで、男Bは他の男達の元へ戻っていく。 男達は気に喰わなさそうに顔を歪めているが、その顔から余裕の笑みが消えることはない。 それもそうだ。一人ずつを相手にするならまだマシだが、相手は大人の男が五人。こっちは女一人。しかも、澪を守りながらだ。 律は額を伝う冷や汗を拭うことも忘れて策を練った。 律(勢いで突入したはいいけど・・・どうにかして逃げないと・・・) 律は素早く辺りを見回した。他に武器になる物は―― 古びた土台に高く積み上げられた何かの箱や、それに立て掛けられた鉄筋など、律が振り回すには無理がある物しかない。 律(うぅ・・・どうすりゃいいんだよ・・・!) 必死に考える律。だが、男達は思考時間を与えてくれない。 男A「おいおい、何やってくれんだ」 男C「へへ・・・でもよ、そっちがその気なら、お前をぶちのめしてから楽しんでやるよ!」 二人の男が同時に迫る。 律は慌てて澪の前に立って叫んだ。 律「澪、下がってて!」 澪「で、でも・・・」 律「早く!!」 向かってくる男達を睨んだまま律が怒鳴る。聞いたこと無いような、緊迫した声だった。 澪は慌てて這うようにして後ろに下がる。 その様子をちらりと瞳で追うと、律は男達を迎え撃った。 男C「うらぁ!!」 律「うおっとぉ!」 男の拳を何とか避けると同時に、鉄パイプを思いっきり振りかぶる。 律「お返しだこのやろ!!」 男C「げっ!?」 バットを振るかのように、律は鉄パイプをスイングする。それは男の足に乾いた音を立てて直撃した。 男C「いっつつつつ!!」 先生A「・・・意外とやりますね、アイツ」 先生B「・・・ふん」 怯む男Cにもう一撃加えようとしたところに、男Aが襲いかかった。 律は鉄パイプの軌道を男Aに向かって変える。 男A「うおっ!!」 慌てて足を止める男A。鉄パイプが腕を掠める。 男A「ちっ・・・このあまぁ!!」 律「うるせぇ!変態野郎!!」 律は鉄パイプを再びがむしゃらに振り回す。 男Aは近づくことが出来ず、後ずさった。が、 ガッ 男A「って!!」 足下が疎かだった男Aは、かかとが何かにぶつかって、尻餅をついた。 彼が蹴躓いたのは、澪のベースだった。 男A「――んだよこれ、邪魔なんだよ!!」 律「――・・・っ!」 立ち上がった男Aが足を振り上げる。律はそれを見て、反射的に駆けだした。 澪「り――」 ドガッ 律「う、あ・・・!」 澪「律ぅ!!」 男の蹴りが律の腹部を直撃し、澪が悲痛な声を上げた。 鉄パイプが手を離れ、カラン、と地面を転がった。 男A「なんだ、こいつ?ギターの代わりに蹴られに来たぞ」 ベースの上に覆い被さるようにして動かない律を見て、先生Aが笑みを浮かべた。 先生A「そうか・・・お友達の大事な大事なベースだからなぁ。壊されちゃ可哀想だよなぁ」 澪「――!!」 男A「はっは~ん、なるほど・・・ねぇっ!!」 ガスッ 律「っぐ!」 容赦ない蹴りが、律の体に痣を作る。水を得た魚のように、男Aは嬉しそうににやついた。 澪「はっ・・・はっ・・・」 咳き込む律を見て、澪は足が動かなかった。涙で目がにじみ、呼吸が荒くなる。 律は何度も襲い来る足を必死に耐えた。口内が切れ、血の味が口の中に広がる。 律「・・・けほっ」 男A「おいおい嬢ちゃん。制服が埃で汚れちゃってるぜ?」 律はただ黙って、乱れて垂れた前髪の間から男Aを睨み上げた。ベースは絶対に離さない。 男A「うっは、その目ぞくぞくするね」 律は脇に転がる鉄パイプに目をやった。他の男達はただにやにや笑って面白げに事の成り行きを見ている。 律「――っ!」 律は男Aの隙を突き、鉄パイプに手を伸ばそうとする。が、 男A「はい残念♪」 その右手を大きな足が勢いよく踏みつけた。 律「い、あああぁっ!!」 澪「嫌ああああぁ!!」 絞り出したような悲鳴が、律の口から飛び出す。そこに、澪の悲鳴が重なった。 男B「回収回収っと」 男Bが、傍にやって来て鉄パイプを手に取った。そのまま苦痛に歪む律の顔をのぞき込む。 男A「へっへ!楽しいなぁ・・・」 少しずつ、足にかける体重を増やしていく男A。律の手が、みしみしと軋む。 律「あ、う・・・」 律「っ・・・!」 歯を食いしばって、律は必死に悲鳴を飲み込む。情けない声は、あげたくない。 ――澪が余計に不安になってしまう。 その様子を見た先生Bが、邪悪な顔でほくそ笑んだ。 先生B「そうそう。そいつ、ドラムやってるんだよ・・・」 それを聞いて、男Aが歯を剥いて笑った。 男A「へ~・・・。じゃあ、俺たちの邪魔をしたお仕置きに・・・」 男Aは律を見下ろして彼女に囁いた。 男A「二度とできなくしてやるよ、ドラム」 男Aが全体重を足にかけようとした刹那。 男C「あっ!」 澪「いやあああああああああぁ!!!」 悲鳴をあげながら、澪が男Aに体ごとぶつかった。 誰も予期していなかった出来事に、男Aは完全に隙を突かれた。 男A「おわっ!!?」 足が律の手から離れる。 男B「お前は大人しくしてろっての!」 男Bが澪を勢いよく突き飛ばす。足がもつれ、澪は吹っ飛んで転がった。 澪「っ!」 男B「そんな出てこなくても、あとでたーっぷりかわいがってやるから――」 男A「うおおぉ!!」 バランスを崩していた男Aの足を、さらに律が蹴った。 男Aは男Bを巻き込んで地面に頭を打ち付けた。 男A「いってぇ!!」 男B「っなにやってんだ!ガキ相手に!!」 男C「お、おい!おまえら!!」 男Cの怒声に顔を上げた二人が見たのは、男Bが落とした鉄パイプを再び握る律だった。 男B「ひっ」 殴られると思い、目を瞑る男B。しかし、律は澪に向かうわけでも、男達に向かうわけでもなく、見当違いの方向に走っていた。 積み上げられた箱に駆け寄る律。 先生Bがいち早く彼女の目的に気付いた。 先生B「お、おい!あの女を止めろ!!」 律「――・・・ぃやあああああぁ!!」 鉄パイプを思い切り振りあげ、律は箱を支える土台の腐っている所を思い切り殴りつけた。 ベキッ その一撃で土台は壊れ、箱がぐらつく。 男A「やべぇ!!」 男B「ひやあああああぁ!!!」 男達が死にものぐるいで立ち上がり、走り出す。刹那。 箱は雪崩のように崩れ、よりかかっていた鉄筋が、耳障りな轟音を立てて倒れた。 地面にたまっていた埃が、凄い勢いで舞い上がり、全員の視界を奪う。 先生A「うえっほ!!げほっ!!」 先生B「ごほっ!!あの糞ガキ!!」 男C「み、見えねぇ!どこだ!?」 埃を吸わないように手を口に当て、澪は咳き込んだ。 澪(律・・・律、どこにいるの・・・!) まさかあの鉄筋の下敷きに・・・。嫌な予感が脳裏を掠める。その時。 ガシッ 澪「ひ――」 何者かに力強く腕を掴まれ、澪は喉の奥から悲鳴を上げそうになった。 その口を、その人の手が押さえる。 律「・・・澪、大丈夫?」 澪(・・・――~~り、) 澪「律ぅ!!」 澪は律に無我夢中でしがみついた。 はずみで全身に走った鈍痛を顔に出さず、律は澪の頭を軽く叩く。 律「・・・えへへ・・・言っただろ?澪は、私が守ったげるって・・・」 掠れて弱々しい声だが、とても頼もしく聞こえる律の言葉。 澪は目頭が熱くなるのを感じた。 澪「ぐすっふぇっ」 男A「糞があ!!どこ行ったぁ!!」 律「・・・話は後にしよ?早く、ここから・・・逃げないと」 澪は言葉にならない返事を返して首を振り、律に支えられて立ち上がる。 そして二人は、埃が収まりつつある廃工場から駆けだした。 そのころ。 唯(スーパーまであとちょっと・・・) 唯(そういえば澪ちゃん、今家誰もいないから、あのスーパーでよくお総菜買って帰るんだっけ) 唯(・・・澪ちゃん大丈夫かな?) 唯は携帯を取り出すと、澪の携帯に電話をかけた。 唯(もう帰ってるよね・・・) 『――・・・この携帯は、電波の届かないところにあるか、電源が入っていないため、通話することが出来ません・・・――』 唯「・・・!?」 唯(澪ちゃん・・・?) ドッと不安が押し寄せる。 唯は携帯をしまい、何も考えずに無我夢中になって駆けだした。 スーパーを通り過ぎ、澪がいつも登校する道のりを、見慣れた姿がないか必死に探し回る。 唯「そうだ、りっちゃん・・・!」 いくらか走ったところで、澪と一緒に帰っているはずの律を思い出し、唯は立ち止まって再び携帯を出した。 震える手で、律の携帯にダイヤルする。 唯(りっちゃん・・・!お願い、出てよ!!) 唯は携帯を耳にあて、必死に待った。だが・・・ 唯(・・・?何で!?) 留守番の声はおろか、呼び出し音さえ鳴らない。 唯は涙ぐみながら、何度も律の携帯に電話しつつ、また走り出した。 憂「・・・お姉ちゃん、まだかなぁ・・・」 何も知らない憂は、何度目になるかわからない鍋のアク取りをしながら、姉の帰りを待ち続けた。 地面を蹴るたび、振動が体を走って痛みを呼び起こす。 律はそれを顔に出さないように耐えつつ、澪の腕を引いて走った。 澪は律が守り抜いたベースを抱え込むように持ったまま、泣きじゃくる。 澪「律!律っ!!」 律「・・・だから、泣かないの・・・。大丈夫、だから」 澪「でも・・・でも、血が出てる!」 律「私が大丈夫って言ってるから大丈夫なんだよ。ほら、走る走る」 男達の怒号が徐々に近づいてくるのがわかる。 「・・・逃げても無駄だ・・・・」「・・・大通りに出たらバイクがある・・・」 男達の会話が微かに耳に入ってくる。 律と澪はわざと細い路地を通ったりして、大通りを目指した。 二人が一列になって通れるような細い路地を抜けると、そこは大通りだった。 誰かに助けを求めようと辺りを見渡すが、人影は見あたらない。しかし―― 律「やった!タクシーだ!!」 それよりも良い物を見つけた。すぐそばに、客を乗せていないタクシーが止まっていた。 律は急いでタクシーの戸を開けた。いきなりの出来事に、びくりとする運転手。 運転手「う、なんだ、お客さんか・・・」 律「澪、早く乗って!!」 澪「う、うん」 澪が乗るのを待って、律は後ろを振り返った。 足音が近い。奴らがすぐそこまで来ている。 これじゃあ、タクシーで逃げてもバイクで追いつかれるかも―― 律「・・・・・・」 律は澪の上にベースを置くと戸を閉めた。 澪「・・・!?り、律!!何で!!」 運転手「お嬢ちゃん、乗らないのか?」 窓を開けて訊ねてくる運転手の顔を見ず、律は手短に言った。 律「出して下さい。彼女は近くに下ろさないで」 運転手「で、でもお友達泣いて――」 律「巻き込まれたくないなら出して!!」 運転手の言葉を遮り、律は怒鳴った。運転手が、驚いて小さく悲鳴を上げる。 運転手「ひ、ひぃっ」 澪「嫌!律!!何で!?律っ!!」 澪の悲痛な叫びが後ろから聞こえてくる。律は少し振り返って、澪に小さく笑いかけた。 それは恐れを無理矢理押さえ込んだ、とても弱々しい笑顔だった。 澪「律ううううううぅ!!」 タクシーが発進する。同時に律は痛みをおして駆けた。自分たちを追って、細い路地から出てこようとしていた男達の正面に、手を広げて立ち塞がる。 男A「っどけ!邪魔だ!!」 律「嫌!!」 男Aが律を蹴飛ばそうとする。それよりも早く、律は男Aの体にしがみついた。 男B「何してんだ!早くバイクに乗らねぇと、逃げられちまうぞ!!」 男A「だけどこいつが!しかも狭いんだよこの道!!」 男C「B!お前どけ!!」 比較的痩せた体型の男Cが間から強引に抜け出そうとする。 律はその男の足に、蹴りを入れた。つんのめって転ける男C。 彼が顔を上げたときには、タクシーは夜の闇の中に溶けてしまっていた。 男A「この・・・糞ガキ!!」 男が眉間に皺を刻み、懐へ手を入れる。取り出されたのは、スタンガン。 顔を上げた律はそれを目にし、慌てて距離を置こうとする。 しかしその前に、彼女の体にその凶器が押しつけられた。 律「うああああああああっ!!」 一瞬閃光が走り、高圧の電流が律の体を走り抜ける。 あっという間に意識を狩られた律は、その場に膝から崩れ落ちた。 [[第4章>律「やっぱ軽音部は最高だぜ!」 第4章]] //――――SSここまで―――― //以下スペースにコピペしたSSの出展元記述 //――――以下出展元―――― 律「やっぱ軽音部は最高だぜ!」 http://takeshima.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1244894726/ //――――出展元ここまで―――― // //コメントフォームつけたい場合は以下先頭の「//を消去」 //#comment_num2(below)
//以下スペースにSSをコピペ //――――以下SS―――― 「――澪!!」 澪(――・・・!!この声――!!) 澪「律!!」 悲鳴にも似た声で、澪は叫ぶ。その視線の先に、肩で息をする律がいた。 律は男達に囲まれた、服装の乱れている澪を見て、歯を軋ませた。 律「澪・・・。お前等!澪から離れろ!!」 先生B「・・・・・・」 男A「何だ、お前?お前も遊んで欲しいのかよ?あぁ!?」 男B「はは!笑わせんな!この娘と比べたらガキじゃねぇか!!」 男C「特に胸とかなww」 男A「まぁ、顔は悪くないし、別に遊んでやっても良いんだぜ?w」 下品な笑い声を上げる男達を睨み、律は傍にあった鉄パイプを握って構えた。 一瞬にして静まる廃工場。 律「澪から、離れろ」 そう言った彼女の声は、鉄パイプを握る手と同様に震えていた。 そのころ、唯は。 唯「憂~、お腹すいた~」 憂「はいはい。もうすぐ晩御飯出来るから。今日はね、カレーだよ♪」 唯「やった~!憂の作るカレーおいしいから大好き!」 机にもたれかかって、テレビのチャンネルを変える。 ちょうど映ったニュース番組で、不審者に襲われた被害者の報道が行われていた。 唯「・・・・・・」 何気なく、窓の外を見る。 唯「澪ちゃん、大丈夫かな・・・」 唯(りっちゃんが付いてるから、大丈夫だよね) 律『・・・へ?あ、あぁ。そうだな』 律『そんときは私が澪を守る!』 唯「・・・・・・」 唯(りっちゃん、あんまり態度には見せなかったけど、凄く澪ちゃんのこと心配してたな・・・) 唯(友達思いだもんね、りっちゃん。それに、澪ちゃんは幼なじみの親友だし) 唯(・・・でも、そのせいで無茶しなきゃいいんだけど) 急に不安になってきた唯は、チャンネルを別の物に変えた。 憂「――あっ!!」 唯「ぎゃっ!!」ビクッ 憂「えっ?」 唯「び、びっくりした・・・。おどかさないでよ憂~」 憂「こっちがびっくりしたよ・・・。――お姉ちゃん、お願いがあるんだけど」 唯「何?」 憂「カレールー切らしちゃってた☆買ってきてくれる?」 唯「任せなさい!」 びしっと敬礼一つ。唯は憂からお金をもらって玄関に走る。 唯「憂~」 憂「ん?」 唯「・・・おつりでアイス買ってきてもいい?」 憂「・・・;」 一方、紬は。 紬(だいぶ暗くなってきてわね・・・) 唯と同じように、窓から外を見る紬。 紬(でも、りっちゃんがいるから、澪ちゃん大丈夫よね) ふいに、紬の頭に少し前の部活での会話が蘇ってきた。 律『澪はホント、昔っから恐がりでさ~』 澪『なっ何を!』 律『小学校の時なんか、放れた飼い犬に追い回されて、泣き叫んでたんだぜw』 唯『わぁ、澪ちゃんかわいい~』 澪『そ、そんな昔の話!』 律『今でも怖いんじゃないか~?ん?』 澪『律!!』ゴッ 律『あだっ!!』 紬『ウフフ。でも、その後はどうなったの?』 澪『・・・お、追いつかれそうになったとき、律が来てくれて・・・』 紬『まぁ。じゃあ、りっちゃんが追い払ってくれたの?』 律『ホント、目を離すとすーぐ厄介事に巻き込まれてるんだもん。その後もさー・・・』 澪『り~つ~・・・』ギロリ 律『わーかったわーかった。これ以上殴られると、唯より悪い成績とっちまう』 唯『あはは~wwそうだね~』 律『つっこめよオイ;』 紬(澪ちゃんにとって、りっちゃんは親友であり、素敵なヒーローでもあるのね・・・) ふいにドアがノックされる音が聞こえ、紬は視線を部屋の中に戻した。 紬「はい」 紬父「入るぞ」 紬「お父様。珍しいわね、私の部屋に来るなんて」 紬父「母さんから澪ちゃんの話を聞いてな。大丈夫なのか?」 紬「今日、先生とそのことについて話してたわ。あの様子だと、学校で対策を練ってもらえそう」 紬父「そうか。困ったときはいつでも言うんだぞ。通学路に警備員を数メートルおきに配置して、万全の警戒をしこう」 真剣な面持ちの父に、紬は苦笑を浮かべて礼を言った。 紬(そっちの方が怖い・・・) 静かな工場内に、澪が泣きじゃくる声だけが響く。 律はずり落ちてきそうになったカチューシャを、乱暴に戻した。 先生A「田井中・・・何故ここに・・・」 律「――・・・!?A、先生・・・?」 見覚えのある顔に、律は激しく戸惑った。何故、何で彼がここにいる? 先生B「さて、私達の顔を見てしまったからには、お前もただで帰れると思うなよ。反省文じゃすまないぞ」 律「嘘・・・。な、何で先生達がこんな所に――」 先生B「わざわざお前がここに来ないようにするために、嘘の原稿まで書かせたっていうのに・・・」 嘘の原稿。その言葉を聞いて、律はハッとした。 律「じゃああの部活動紹介の原稿は・・・澪と私をバラバラにするための嘘だったんだな・・・!」 先生B「それだけじゃないぞ」 先生Bはポケットから取り出した物を律に見せつける。 律「・・・!私の、携帯!」 先生B「残念。浸水してもう動かない」 先生Bは律の携帯を地面に投げ捨てた。破壊音を立てて大地を転がる携帯を、男の一人が蹴り飛ばした。 男A「先生、何なんすかコイツ」 先生B「その女の昔っからの親友だよ。コイツは厄介だから気付かれずにいたかったんだがな・・・」 澪「律・・・ぐすっ・・・」 呼吸の荒い律を見て、先生Aは自分の顎を撫でながら口を開いた。 先生A「それにしても、よくここに気付いたなぁ・・・」 会話することで男達の手が止まっている。律はそのうちに何とか解決策を練ろうと、時間稼ぎに努めた。 律「・・・昨日、澪が帰ってから他の軽音部のみんなで、登下校路付近の怪しい場所をチェックして回ったんだよ」 澪「・・・!!」 そんなことは知らなかった澪は、驚いて顔を上げた。 律「その場所を探してたら、澪の声が聞こえてきたんだ・・・」 先生B「なるほど。素敵な思いやりだな。反吐が出る」 先生Bは、吐き捨てるように言うと、足を踏み出す。 律「――動くな!澪に・・・近づくな!!」 律(くっそ~・・・!!) 時間稼ぎは無理だ。 鉄パイプを握りしめて工場の中へと入っていく律。 先生Bは挑発めいた笑みを浮かべると、澪の顔に手をやり、自分の方を向かせた。 先生B「親友の前で犯るってのも、楽しそうだな。ん?」 澪「っ・・・」 澪の顔が恐怖に歪む。律の中で、何かが弾けた。 律「・・・ぅおおおりゃああああ!!」 律はがむしゃらになって、鉄パイプを振り回しながら駆けだした。 ドラムの経験上、腕力には自信がある。鉄パイプは相当な勢いで振るわれていた。 男C「ちょ、アブね!」 予想以上の抵抗に、男達は慌てて距離をとる。 律は即座に澪に駆け寄った。 澪「律ぅ!」 律「澪、ほら!今のうちに逃げなきゃ!」 澪「っ律を置いてなんていけない!」 男B「逃がしてたまるか!」 そうこうしているうちに、男の一人が突進してきた。 突き出された腕を、律は思い切り殴る。 バシッ 男B「いっつぁあああ!!」 飛び上がりそうな勢いで、男Bは他の男達の元へ戻っていく。 男達は気に喰わなさそうに顔を歪めているが、その顔から余裕の笑みが消えることはない。 それもそうだ。一人ずつを相手にするならまだマシだが、相手は大人の男が五人。こっちは女一人。しかも、澪を守りながらだ。 律は額を伝う冷や汗を拭うことも忘れて策を練った。 律(勢いで突入したはいいけど・・・どうにかして逃げないと・・・) 律は素早く辺りを見回した。他に武器になる物は―― 古びた土台に高く積み上げられた何かの箱や、それに立て掛けられた鉄筋など、律が振り回すには無理がある物しかない。 律(うぅ・・・どうすりゃいいんだよ・・・!) 必死に考える律。だが、男達は思考時間を与えてくれない。 男A「おいおい、何やってくれんだ」 男C「へへ・・・でもよ、そっちがその気なら、お前をぶちのめしてから楽しんでやるよ!」 二人の男が同時に迫る。 律は慌てて澪の前に立って叫んだ。 律「澪、下がってて!」 澪「で、でも・・・」 律「早く!!」 向かってくる男達を睨んだまま律が怒鳴る。聞いたこと無いような、緊迫した声だった。 澪は慌てて這うようにして後ろに下がる。 その様子をちらりと瞳で追うと、律は男達を迎え撃った。 男C「うらぁ!!」 律「うおっとぉ!」 男の拳を何とか避けると同時に、鉄パイプを思いっきり振りかぶる。 律「お返しだこのやろ!!」 男C「げっ!?」 バットを振るかのように、律は鉄パイプをスイングする。それは男の足に乾いた音を立てて直撃した。 男C「いっつつつつ!!」 先生A「・・・意外とやりますね、アイツ」 先生B「・・・ふん」 怯む男Cにもう一撃加えようとしたところに、男Aが襲いかかった。 律は鉄パイプの軌道を男Aに向かって変える。 男A「うおっ!!」 慌てて足を止める男A。鉄パイプが腕を掠める。 男A「ちっ・・・このあまぁ!!」 律「うるせぇ!変態野郎!!」 律は鉄パイプを再びがむしゃらに振り回す。 男Aは近づくことが出来ず、後ずさった。が、 ガッ 男A「って!!」 足下が疎かだった男Aは、かかとが何かにぶつかって、尻餅をついた。 彼が蹴躓いたのは、澪のベースだった。 男A「――んだよこれ、邪魔なんだよ!!」 律「――・・・っ!」 立ち上がった男Aが足を振り上げる。律はそれを見て、反射的に駆けだした。 澪「り――」 ドガッ 律「う、あ・・・!」 澪「律ぅ!!」 男の蹴りが律の腹部を直撃し、澪が悲痛な声を上げた。 鉄パイプが手を離れ、カラン、と地面を転がった。 男A「なんだ、こいつ?ギターの代わりに蹴られに来たぞ」 ベースの上に覆い被さるようにして動かない律を見て、先生Aが笑みを浮かべた。 先生A「そうか・・・お友達の大事な大事なベースだからなぁ。壊されちゃ可哀想だよなぁ」 澪「――!!」 男A「はっは~ん、なるほど・・・ねぇっ!!」 ガスッ 律「っぐ!」 容赦ない蹴りが、律の体に痣を作る。水を得た魚のように、男Aは嬉しそうににやついた。 澪「はっ・・・はっ・・・」 咳き込む律を見て、澪は足が動かなかった。涙で目がにじみ、呼吸が荒くなる。 律は何度も襲い来る足を必死に耐えた。口内が切れ、血の味が口の中に広がる。 律「・・・けほっ」 男A「おいおい嬢ちゃん。制服が埃で汚れちゃってるぜ?」 律はただ黙って、乱れて垂れた前髪の間から男Aを睨み上げた。ベースは絶対に離さない。 男A「うっは、その目ぞくぞくするね」 律は脇に転がる鉄パイプに目をやった。他の男達はただにやにや笑って面白げに事の成り行きを見ている。 律「――っ!」 律は男Aの隙を突き、鉄パイプに手を伸ばそうとする。が、 男A「はい残念♪」 その右手を大きな足が勢いよく踏みつけた。 律「い、あああぁっ!!」 澪「嫌ああああぁ!!」 絞り出したような悲鳴が、律の口から飛び出す。そこに、澪の悲鳴が重なった。 男B「回収回収っと」 男Bが、傍にやって来て鉄パイプを手に取った。そのまま苦痛に歪む律の顔をのぞき込む。 男A「へっへ!楽しいなぁ・・・」 少しずつ、足にかける体重を増やしていく男A。律の手が、みしみしと軋む。 律「あ、う・・・」 律「っ・・・!」 歯を食いしばって、律は必死に悲鳴を飲み込む。情けない声は、あげたくない。 ――澪が余計に不安になってしまう。 その様子を見た先生Bが、邪悪な顔でほくそ笑んだ。 先生B「そうそう。そいつ、ドラムやってるんだよ・・・」 それを聞いて、男Aが歯を剥いて笑った。 男A「へ~・・・。じゃあ、俺たちの邪魔をしたお仕置きに・・・」 男Aは律を見下ろして彼女に囁いた。 男A「二度とできなくしてやるよ、ドラム」 男Aが全体重を足にかけようとした刹那。 男C「あっ!」 澪「いやあああああああああぁ!!!」 悲鳴をあげながら、澪が男Aに体ごとぶつかった。 誰も予期していなかった出来事に、男Aは完全に隙を突かれた。 男A「おわっ!!?」 足が律の手から離れる。 男B「お前は大人しくしてろっての!」 男Bが澪を勢いよく突き飛ばす。足がもつれ、澪は吹っ飛んで転がった。 澪「っ!」 男B「そんな出てこなくても、あとでたーっぷりかわいがってやるから――」 男A「うおおぉ!!」 バランスを崩していた男Aの足を、さらに律が蹴った。 男Aは男Bを巻き込んで地面に頭を打ち付けた。 男A「いってぇ!!」 男B「っなにやってんだ!ガキ相手に!!」 男C「お、おい!おまえら!!」 男Cの怒声に顔を上げた二人が見たのは、男Bが落とした鉄パイプを再び握る律だった。 男B「ひっ」 殴られると思い、目を瞑る男B。しかし、律は澪に向かうわけでも、男達に向かうわけでもなく、見当違いの方向に走っていた。 積み上げられた箱に駆け寄る律。 先生Bがいち早く彼女の目的に気付いた。 先生B「お、おい!あの女を止めろ!!」 律「――・・・ぃやあああああぁ!!」 鉄パイプを思い切り振りあげ、律は箱を支える土台の腐っている所を思い切り殴りつけた。 ベキッ その一撃で土台は壊れ、箱がぐらつく。 男A「やべぇ!!」 男B「ひやあああああぁ!!!」 男達が死にものぐるいで立ち上がり、走り出す。刹那。 箱は雪崩のように崩れ、よりかかっていた鉄筋が、耳障りな轟音を立てて倒れた。 地面にたまっていた埃が、凄い勢いで舞い上がり、全員の視界を奪う。 先生A「うえっほ!!げほっ!!」 先生B「ごほっ!!あの糞ガキ!!」 男C「み、見えねぇ!どこだ!?」 埃を吸わないように手を口に当て、澪は咳き込んだ。 澪(律・・・律、どこにいるの・・・!) まさかあの鉄筋の下敷きに・・・。嫌な予感が脳裏を掠める。その時。 ガシッ 澪「ひ――」 何者かに力強く腕を掴まれ、澪は喉の奥から悲鳴を上げそうになった。 その口を、その人の手が押さえる。 律「・・・澪、大丈夫?」 澪(・・・――~~り、) 澪「律ぅ!!」 澪は律に無我夢中でしがみついた。 はずみで全身に走った鈍痛を顔に出さず、律は澪の頭を軽く叩く。 律「・・・えへへ・・・言っただろ?澪は、私が守ったげるって・・・」 掠れて弱々しい声だが、とても頼もしく聞こえる律の言葉。 澪は目頭が熱くなるのを感じた。 澪「ぐすっふぇっ」 男A「糞があ!!どこ行ったぁ!!」 律「・・・話は後にしよ?早く、ここから・・・逃げないと」 澪は言葉にならない返事を返して首を振り、律に支えられて立ち上がる。 そして二人は、埃が収まりつつある廃工場から駆けだした。 そのころ。 唯(スーパーまであとちょっと・・・) 唯(そういえば澪ちゃん、今家誰もいないから、あのスーパーでよくお総菜買って帰るんだっけ) 唯(・・・澪ちゃん大丈夫かな?) 唯は携帯を取り出すと、澪の携帯に電話をかけた。 唯(もう帰ってるよね・・・) 『――・・・この携帯は、電波の届かないところにあるか、電源が入っていないため、通話することが出来ません・・・――』 唯「・・・!?」 唯(澪ちゃん・・・?) ドッと不安が押し寄せる。 唯は携帯をしまい、何も考えずに無我夢中になって駆けだした。 スーパーを通り過ぎ、澪がいつも登校する道のりを、見慣れた姿がないか必死に探し回る。 唯「そうだ、りっちゃん・・・!」 いくらか走ったところで、澪と一緒に帰っているはずの律を思い出し、唯は立ち止まって再び携帯を出した。 震える手で、律の携帯にダイヤルする。 唯(りっちゃん・・・!お願い、出てよ!!) 唯は携帯を耳にあて、必死に待った。だが・・・ 唯(・・・?何で!?) 留守番の声はおろか、呼び出し音さえ鳴らない。 唯は涙ぐみながら、何度も律の携帯に電話しつつ、また走り出した。 憂「・・・お姉ちゃん、まだかなぁ・・・」 何も知らない憂は、何度目になるかわからない鍋のアク取りをしながら、姉の帰りを待ち続けた。 地面を蹴るたび、振動が体を走って痛みを呼び起こす。 律はそれを顔に出さないように耐えつつ、澪の腕を引いて走った。 澪は律が守り抜いたベースを抱え込むように持ったまま、泣きじゃくる。 澪「律!律っ!!」 律「・・・だから、泣かないの・・・。大丈夫、だから」 澪「でも・・・でも、血が出てる!」 律「私が大丈夫って言ってるから大丈夫なんだよ。ほら、走る走る」 男達の怒号が徐々に近づいてくるのがわかる。 「・・・逃げても無駄だ・・・・」「・・・大通りに出たらバイクがある・・・」 男達の会話が微かに耳に入ってくる。 律と澪はわざと細い路地を通ったりして、大通りを目指した。 二人が一列になって通れるような細い路地を抜けると、そこは大通りだった。 誰かに助けを求めようと辺りを見渡すが、人影は見あたらない。しかし―― 律「やった!タクシーだ!!」 それよりも良い物を見つけた。すぐそばに、客を乗せていないタクシーが止まっていた。 律は急いでタクシーの戸を開けた。いきなりの出来事に、びくりとする運転手。 運転手「う、なんだ、お客さんか・・・」 律「澪、早く乗って!!」 澪「う、うん」 澪が乗るのを待って、律は後ろを振り返った。 足音が近い。奴らがすぐそこまで来ている。 これじゃあ、タクシーで逃げてもバイクで追いつかれるかも―― 律「・・・・・・」 律は澪の上にベースを置くと戸を閉めた。 澪「・・・!?り、律!!何で!!」 運転手「お嬢ちゃん、乗らないのか?」 窓を開けて訊ねてくる運転手の顔を見ず、律は手短に言った。 律「出して下さい。彼女は近くに下ろさないで」 運転手「で、でもお友達泣いて――」 律「巻き込まれたくないなら出して!!」 運転手の言葉を遮り、律は怒鳴った。運転手が、驚いて小さく悲鳴を上げる。 運転手「ひ、ひぃっ」 澪「嫌!律!!何で!?律っ!!」 澪の悲痛な叫びが後ろから聞こえてくる。律は少し振り返って、澪に小さく笑いかけた。 それは恐れを無理矢理押さえ込んだ、とても弱々しい笑顔だった。 #image(律「やっぱ軽音部は最高だぜ!」 第3章01.jpg,width=250,height=300,blank) 澪「律ううううううぅ!!」 タクシーが発進する。同時に律は痛みをおして駆けた。自分たちを追って、細い路地から出てこようとしていた男達の正面に、手を広げて立ち塞がる。 男A「っどけ!邪魔だ!!」 律「嫌!!」 男Aが律を蹴飛ばそうとする。それよりも早く、律は男Aの体にしがみついた。 男B「何してんだ!早くバイクに乗らねぇと、逃げられちまうぞ!!」 男A「だけどこいつが!しかも狭いんだよこの道!!」 男C「B!お前どけ!!」 比較的痩せた体型の男Cが間から強引に抜け出そうとする。 律はその男の足に、蹴りを入れた。つんのめって転ける男C。 彼が顔を上げたときには、タクシーは夜の闇の中に溶けてしまっていた。 男A「この・・・糞ガキ!!」 男が眉間に皺を刻み、懐へ手を入れる。取り出されたのは、スタンガン。 顔を上げた律はそれを目にし、慌てて距離を置こうとする。 しかしその前に、彼女の体にその凶器が押しつけられた。 律「うああああああああっ!!」 一瞬閃光が走り、高圧の電流が律の体を走り抜ける。 あっという間に意識を狩られた律は、その場に膝から崩れ落ちた。 [[第4章>律「やっぱ軽音部は最高だぜ!」 第4章]] //――――SSここまで―――― //以下スペースにコピペしたSSの出展元記述 //――――以下出展元―――― 律「やっぱ軽音部は最高だぜ!」 http://takeshima.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1244894726/ //――――出展元ここまで―――― // //コメントフォームつけたい場合は以下先頭の「//を消去」 //#comment_num2(below)

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