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「ねえ、律」 「ん?」 「聡くんって最近どうしてるの? 今日はいないみたいだけど」  ここは私の部屋で、今は曲について話し合ってたところだ。なのに、澪は唐突にそんなことを言ってきた。 「突然だな。別にフツーだよ。昨日から三日間部活の遠征でいないけどさ」 「そっか、いないんだ」  その言葉に澪のトーンが違うことを、私は見逃さなかった。 「……聡に何か用があったのか?」 「え、いや、別になんでもないよ。ただ、元気にしてるかなーと。律んち来るようになって、仲良くしてたしさ気になっただけさ!」  ……なんだよソレ。明らかに解りやすい反応しながら答えられたら気になるだろ……。っていうか気分悪い。 「部活で遠征かー。私たちもその内してみたいよなー。そうだ、応援のメールでもしてあげよう。律アドレス教えてくれないか?」 「……なんだよソレ」 「えっ?」  誤魔化すように言葉を続けていた澪をムッとしながら聞いていたけど、『聡のアドレス』の一言で私の我慢が限界を超えてしまった。 「なんなんだよ! 澪も聡も二人して会いたいとかメールしたいとか!! ……もういい!」  そう言って、私は布団に包まった。大声あげてから自分でも気づいた。二人がそういう想いであるなら応援してあげるべきだって。でも、聡は弟で澪は親友だ。この二人がもしも付き合い始めるなんて事になったら、私はどうなってしまうんだ……。澪から『お義姉さん』なんて呼ばれるのは考えられないし、虫唾が走る。 「ちょ、ちょっと律! 何を急に言ってるんだよ! 聡くんもってどういうことなんだ!? それにこの曲の歌詞どうするんだよ。まだ途中じゃないか」  後ろから澪の声がしたので、私は布団を深く被った。顔を会し辛いし、今日はもう帰ってもらいたかった。  顔が真っ赤だ。そういえば、前にも同じような事をしたんだっけ……。あの時も私は一人でイライラして、澪にぶつかって……。 「おい、律どうしたんだよ急に!」 「うるさいうるさい! アドレス知りたいなら私の携帯から転送すればいいだろ!!」 「律……」  あぁ、私ホント何してるんだろ……。上擦った声で喋ったらどんな顔してるかバレたもどうぜんだ。  それから数分間、静寂が部屋を包み込んでいた。――が、澪がそれを壊した。しかも、笑って。 「――あはははは! そうだよ。そうなんだよな。聡くんと律は姉弟だけど、私だって親友なんだ。一緒にいる時間は私だって負けてない!」  な、なんだ? 何がどうなってるんだろう。澪の笑い方を聞いているとお腹の底から笑っているのか? 姉弟とか親友とか、一緒にいる時間とか一体何の話? 「あははは! はぁ〜笑った笑った。こんなに大笑いしたの久しぶりな気がする。……律、いい加減出てこいよ。別に怒ってないし、さっきの話はもう解決したんだから」  かい、けつ? ホント訳がわからない。あまりにもわからないので、顔を出して怪訝な顔を向けてみた。 「やっと出てきたか。律さっきはごめんな。もう、聡くんのことはいいんだ。私だって律が好きなのはわかるから」 「なっ!?」  い、い、今澪のヤツなんていった!? なんなんだよ一体。恥ずかしがりやのくせに、なんでこういう事はサラリと言うんだよ。真っ赤だった顔が、もっと熱くなってるのがわかる。でもこれは布団を被ってるせいかもしれない。そんな風に考えていたらコッチが恥ずかしくなってきた。 「なんなんだよバカー!」 「いたっ! なんで急に叩くんだよ!!」 「澪が悪いんだぞ! 訳解らないこと言って……どうしてくれるんだよ!」 「はぁ? 別に私は何も――痛いって! このぉ!」  気づいたら叩きあいになっていたが、私たちはなんだかスッキリしていた。笑っていた。 「ふぅ……。なんかスッキリしたな」 「あはは、そうだな。……ああっ!」 「ど、どうした?」 「歌詞が浮かんできた! 律、紙とペン早くっ!」  そう言ってガリガリと紙に書かれた歌詞は、いつもの澪の歌詞だけど何となく嬉しい感じがした。          ? 「うぃーっす! ――ありゃ? 先に行くって言ったのに誰もいないのか?」 「……せーの!」 『りっちゃん誕生日おめでとー!!』 「うおおおおおおっ!?」  澪との揉め合いから数日後、いつもの様に部室に入った私はクラッカーの洗礼を浴び尻餅をついた。自分でも誕生日の事なんてすっかり忘れていた。 「りっちゃん大げさすぎだよー」 「バカ! 本当にビックリしたんだぞー! はぁはぁ……息だってあがってるんだかんな!」 「いいから早く立てよ。主役が腰抜かしてたらカッコ悪いぞ」  近寄ってケラケラ笑う唯を遮り、澪は私に手を差し伸べた。……手をとって感じた。澪の手ってこんなに硬くなってたんだな。席に着くとお菓子やケーキのフルコースが用意されていた。唯があまりにもうずうずしてるのが面白かった。  皆から続々とプレゼントを渡される。スティックだったり、シャツだったり、ムギからスネア貰ったのはどうしたものかと戸惑いもした。おでこ用の肌クリームはさわちゃんにつき返したけれど。 「はい、律。おめでとう」 「サンキュー澪。さて、中身はなんだろなと……え!? これって!」  澪からのプレゼントに私は驚いた。だってこれって今度買おうと思っていたやつなのに……。 「ふふっ、言ったろ。律が好きなのは解るからって」 「そういう意味だったのかよ……。って、ムギ録画すんな! 本当油断ならねぇな」  惚けた顔でカメラを構えていたので慌てて取り押さえる。唯が『ゆがみねぇな』と訳のわからないことを言ってたのはスルーしておく。 「うふふ、ごめんなさい。でも、ホントりっちゃんと澪ちゃんって仲良しよね。友達以上〜みたいな。妬けてきちゃうわ」  押さえ込んでいる私にニコリと微笑むムギ。思わずドキリとしてしまったのはナゼだろう。 「な、何言ってるんだよムギ! 私と律は幼馴染なだけだって!」 「でも、大切な人でしょう? 勿論私だってそうよ。りっちゃんは私に新しい世界と、この部を教えてくれた大切な人だもの」 「はい私も! りっちゃんが呼び止めてくれなければ、地獄の世界で怯えてるところだったよ〜」 「そういえば、私もりっちゃんに脅されてなければ、ここには居なかったかもしれないわね」 「ムギ、唯、さわちゃん……」  ジーンとした。なんだよぅ。なんなんだよこの変な寸劇みたいな流れはー。思わず泣きそうになる気持ちを抑えつつ、期待を胸に私は首を横に向けた。 「私は……特には」 「梓ー、がっかりだぜ。よしなら今すぐ私色に染めてやるー!! ――あいたぁ!」 「ダメだよりっちゃん!! あずにゃんは私のだから!」 「なんで所有物になってるんですか唯先輩!?」  ルパンジャーンプをしたところ、唯に止められる前に澪からフリッカージャブを貰い、頭を抑える。つか、なんで澪さんそんなに怒ってるんですか? 痛いです。 「ほらほら、夫婦漫才は後にしてケーキ食べましょケーキ」  ひらひらとフォークを振って席に座りなおすさわちゃん。座る一瞬ではあるが、さわちゃんは強烈な目線を送ってきていた。アレは二重の意味で怒っている顔だ。『ケーキ食べたい』と『見せつけてるのは嫌味』の二つだろう。それを皆感じとったのか、そそくさと座りなおして、私の誕生日会ははじまった。  私は、今日の誕生日会を忘れない。私は、私なんだって皆わかってくれている。それが凄く嬉しかった。そして、澪のこのプレゼントも大切にしようと思う。 「澪、ありがとな」                                                END >出展 >【けいおん!】田井中律は獅子座可愛い74【ドラム】 このSSの感想をどうぞ #comment_num2(below,log=コメント/フリッカージャブ)

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