笹の葉嬉遊曲その2


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その二
と、言うわけで、いつもは喫茶店と化しているここに、小学校の教室のような風景が広がっている。ムギによれば織姫と彦星宛ての短冊を二種類作れば抜かりはないはずだとのことなので、各々が二種類の短冊を作成した。
まるまるした字でデカデカと
“ギー太とシンクロしたいです”
“おかしたくさん”
と書いた唯。
「唯ちゃんらしいわね♪」
とムギの笑顔を見れば、2個目の願いは明日すぐに叶いそうだ。
「ムギちゃんのお願いもムギちゃんらしいね!」
唯の視線の先には達筆な筆跡で
“普通になりたい”
“家内安全”
なんて書かれた短冊が吊されている。他にも
“彼氏を…”
“恋愛が…”
と、イントロ以降を三点リーダで伏せてしまわないと危険な気がする教師らしからぬことを書いた人もいれば
“身長が伸びますように”
“猫さんともっと意思疎通がしたい”
なんてきっかりした字で書いてる後輩まで、それぞれの地がよく表れている短冊が笹にくくりつけられることとなった。
「梓ー、猫はともかく身長はもう無理だろー?」
「そっそんなことないです!まだ絶対きっといつか伸びるです!」
「背の高い梓なんてキャラ違うぜー?」
「むー!そんなこと言ったら先輩の願い事こそキャラクター崩壊ですっ!」
などとムキになった梓が指差した先には、はじめから書くことを決めていたかのようにサラサラっと書かれた短冊が垂れ下がっている。その内の一枚には
“武道館ライブ!!”
とある。しかし、梓が指摘したキャラ崩壊は、こちらの短冊だ。

“みんな仲良くできますように”

「なんでだよー。良いこと書いてるだろ私ー?それに澪も同じこと書いてるしー」
彼女の指差す先には、全く同じ文言の
“みんな仲良くできますように”

“人見知りが治りますように”
の短冊が風にそよいでいた。
「澪ちゃんはいいけど、それ、りっちゃんのキャラじゃないよ。」
唯の常套句を聞くより早く、短冊を書いた田井中律は腰に手を当てえっへん!と胸を張り
「私も考えているのだよ。部活のみんなはもちろん、世界中のみんなが仲良くなれば恒久的な平和だってだなー」
なんていつも通りのキャラで話している。りっちゃんのくせにーだ、こんなろーだの、2人のやり取りが聞こえてきた。

みんな仲良くできますように…か。偶然とはいえ私と同じことを書くなんて、本当に律らしい。

まるで昨日のことのように覚えている7月7日…。私は懐かしい記憶を巡らせた・・・。



小学生の時、ふとしたことがきっかけで律と仲良くなった私であったが内気で自分の言いたいことも言えない子どもだったため、いつも男子たちにはからかわれていた。別に陰湿ないじめにあっていたとかではないし、私自身はある程度受け入れていた。でも律はそんな私をいつも守ってくれていたのだ。ううん、守ってくれたのは律だけじゃなかったっけ…。

図工で作った粘土細工が変だなんだといつものように私はからかわれていた。案の定すぐに律が駆けつけたのだが、どうやら男子達はその日不機嫌だったらしくいつもなら睨み合いで終わるのに殴り合いになってしまった。
「いったー!何するんだよー!このー!」
「田井中は関係ないんだからくるなよー!」
運動神経が良い律とは言え多勢に無勢。殴られて反撃するも男子達には敵わない。

そんな時、騒ぎを聞きつけ“彼”がやってきた。

「お前たちー!女の子に手出す男は最低なんだぞー!そんなことする奴は、俺が許さないぞーー!」

彼はクラスの中心人物と言うべき存在である。気さくで明るく男女共に友人の多い彼は、私とは正反対の存在であった。
そんな彼は、とりわけ気弱だった私を律と一緒にいつも助けてくれていた。
「田井中、あっきー、大丈夫かよ?」
彼の活躍により男子たちは退散。感謝の言葉を彼にかけたいのに、恥ずかしくて私はただ頷くことしか出来なかった。
「大丈夫!お前のおかげだよ!」
私の代わりに律が感謝を告げる。
「おっおう。田井中ー!いくら強くても女の子が殴り合いしたら駄目だぞー!」
「わかってるよー!でもさーぶたれたからやり返しちゃった!えへへー」
この2人が優しくしてくれるから、私はいつも楽だったのかもしれない…。

私は、知らない内に彼をよく見るようになっていた。彼が好きだったというか、彼に憧れていたというか…、とにかく彼と仲良くしたかった。それが友達としてか異性としてかは子ども心の私にはわからなかった…。けれど、律以外の、ましてや男子に声をかけるなんて当時の私にできるはずもなく、彼の男らしい口調とそんな彼と仲良くしている律がいつも眩しく見えた。
今考えれば私の性格や口調は彼の影響を受けているのかもしれない。いつも見つめているだけで何も言えない私なりの精一杯…。でも、それでよかったし、毎日が楽しかった。そんなある日…。






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