笹の葉嬉遊曲その3


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その三
クラスで七夕の会をする事になった。大きな笹を囲み、みんなで将来の夢や希望を短冊に書き込んでいった。そんな中、私は自分の持てる勇気を振り絞ってずっと口に出来なかった願い事を七夕のこの日、笹の葉にかざった短冊から織姫様と彦星様にお願いした。

“仲良くできますように”

我ながら今までで一番ドキドキしてたんじゃないかと思う。作文の朗読はもちろん、音楽の授業で自分の書いた詩が匿名で発表されるだけも心臓が押し潰されそうになったくらいだ。主語こそ入ってはいないが、私がはじめて自分の気持ちを素直に表現した瞬間だった。あの時、私は人として少し成長したのかもしれない。しかし、そんなことを書いたもんだから、やっぱり私はまたいじられる対象となってしまった。
「秋山に好きな人がいるぞー」
「ホントだー!お前じゃないのー?」
「ヤダヨー!!全然秋山のこと好きじゃないしー」
当然私は半泣き。自爆気味とは言え、異性の話題でからかわれるのはさすがに辛かった。
「みんなやめろー!澪はそういう意味で書いたんじゃないもん!」
律が率先して私の前に立つ。先生もやめなさいと男子を諭しているけど言うことを聞かない。
「じゃー秋山はなんて意味で書いたんだよー」
「そっそれは…」
「言えないでやんのー!嘘ついたなー!田井中は嘘つきだー!!」
「うっうそじゃない…!」
「センセー!田井中さんが嘘ついていまーす!!」
「嘘つき田井中いーけないんだーいけないんだー」
うーそつき!うーそつき!
なんて大合唱まで始まってしまい、これにはさすがの律もちょっと泣きそうな顔をしていた。どうしよう、私のせいだ。そんなことをずっと考えていた私は、取り返しのつかないことをしたと自分を責め、もう言っちゃおうと…叫ぼうとした。

そしたら・・・

「それは“みんな仲良くできますように”って意味なんだよ!!」

凛とした、芯のある声が教室に響き渡った。先生を含めたクラス全員の視線がそいつに向いた。

彼だった。

「あっきーはいつもみんなと仲良くしたいって思っているのに、こうやってみんながいじめるから彦星様と織姫様にお願いしたんだよ!そうだよな!?」
私は叫ぼうと開いた口そのままに
「うっうん!」
と叫んだ。
「そっそうだよ!でも澪はおっちょこちょいだから“みんな”って書き忘れたんだよ!」
と言うなり、律と彼は私の短冊に〔みんな〕という単語を追加した。
「みんなどうしてあっきーをいじめるんだよ!あっきーはいい子にしてるのに!いい子にしてないと神様が許しても俺が許さないんだからな!!」

彼は泣いているようだった。私は、彼が私のために泣いてくれていると思った。

心の中で、何かが音を立てた。


あの後、いつも私をからかっていた男子たちが揃って謝りにきた。もともと悪い子達ではなかったので、きっとこれからは仲良くできるだろうと考え、私は嬉しい気持ちで一杯だった。
彼にお礼がしたい。きっと自分の気持ちを彼のように叫ぼうと思っていたに違いない。今までの自分を変えて、彼や律のように明るく毎日過ごしたい…そう決心していたんだと思う。しかし放課後の体育館裏で、私は彼の気持ちに気付いてしまった。私とは違う、はっきりとした気持ちに。

図工室掃除の帰り、律が体育館へ向かっている姿を捉えた。一緒に帰ろうと声をかけに行くと、そこには彼がいた。

「今日はありがとー!澪も喜んでたよー!」
律はいつものテンションである。一方
「おっおぉ、あっきーも友達たくさんできるといいな!その…り…田井中みたいにさ!」
いつもの勢いが彼にはなかった。
「そーいや話ってなにー?」

律の言葉を聞いた瞬間、私の体にざらついた感覚が走った。

「いや…う…」
彼はどう見ても挙動不審である。私はどうしたらいいかわからずその場に立ち尽くしていた。

「ねー?そ」
「俺っ!田井中が好きだ!!」

どう表現すればいいのだろう。彼のしぐさ、表情を見ればなんとなく解っていたのに、その言葉を聞いた瞬間、私は世界にぽつりと取り残されたように感じた。周りの存在が消え失せていた。今、私の五感は彼と律にしか働いていない。

私は彼と仲良くなりたい…そう思っていた…。私も彼が好きなんだ。
好きだけど、でも、彼が律に言った【好き】の意味とは違う。だって私の好きはまだ曖昧だ。その点、彼の【好き】は一つの意味しかない。彼を見れば見るほど、その意味がわかってしまい、私はどうしようもなく途方に暮れていた。

彼は、ずっと好きだった、私を助けるために自分を犠牲にしている律がほっとけなかった…そんなことを言っていたハズだ。律はと言うと、何も言わずにみるみる顔を赤く染め上げ、うつむいてしまっていた。

律の沈黙をどう受け取ったのか、

好きだー!

最短の告白文であろう三文字を叫び、彼は彼女を力いっぱい抱きしめた。

これ以上この場にいたら、私は間違いなく二人ともう友達でいられない。そう思い逃げ去ろうと踵を返したとき、

「だっ…ダメだよぉ」

律の、おそらく生涯二度と聞くことはないだろう弱々しい声が、私の耳に届いた。律は彼の手をふりほどきながらこう言った。

「私も…す………ううん、私がお前とだけ仲良くしたら、私、澪を守ってあげられないもん。そしたら澪が悲しむもん。だからダメなの。私はずーっと澪と一番仲良しでいるの!!」

私は、泣いていた。どうして律と彼が仲良くしたら私が悲しむのか…。律は何も言わないけどきっと全部わかっているのではないか。そんなときまで…律は私のことを一番に考えてくれていた。どこまでも、律らしかった。
「だからごめん!嬉しいけどお前ひとりと仲良くできない!」
いつもの四割増くらいの元気さで答えた律に何を感じたのかはわからないが、彼も
「そうだよな…ごめん田井中…。うし!明日からもあっきーを守ってやれよ!!」
といつもの調子に戻っていた。






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