笹の葉嬉遊曲その4


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その四
あいつとは違う中学になってしまったので会ってないが、素敵な恋人がいるらしいと風の噂を耳にした。ちきしょー!私を迎えにくるとかいう台詞は嘘だったのかよー!なんて一人わざとらしくフケながら部室のドアを開ける。
「お、早いな澪。もう来てたのか。」
視界に入った澪に声をかける。今日は7月8日、澪の背後には昨日でお役ごめんの笹が立てかけられている。澪は書き物をしていた手を止めて鞄の中に突っ込んだ。
「まーな。」
「…?どーしたんだよ、なんかメランコリーじゃんか。」
「そういう律だって、昨日はドラムも走ってなかったし元気なかったぞ。毒キノコでも拾い喰いしたか?」
「唯じゃないんだから何でもかんでも食わないわ!…いやさ、七夕は…ちょっと思い出があってな…。」
あの日を澪も思い出しているのだろうか…。しかし私の思い出に続きがあることを澪は知らないはずである。と言うか澪にあんならしくない格好の悪い続きを知られるくらいなら、あたしゃもう道頓堀川に沈められたカーネルサンダースと同じ年数だけ川に潜っていても構わないね。何よりも澪の悲しむ顔は見たくない。万が一そんなことになったら十字架を背負って処刑台を目指す聖職者の如く、私は死を選ぶ自信がある。

「…律」

透き通るような澪の声に、丘を登る聖職者の群から抜け出した私は彼女の方を向いた。むむ、あの表情は恥ずかしいことを言う前の表情だ。しかし、いつもなら明後日の方向を見ている澪がじっと私を見つめている。

「どした?」
なるたけ優しく問いかける。


電話が繋がりワンコール、ツーコール…好きな人が電話に出るまでの時間のように感じられた間






「いつも、ありがとな。」

たった一言でも、どんなに待たされても、どうして大切な人の言葉を聞くだけで、こんな気持ちになれるのだろう。

「…こちらこそ…ありがとう澪…!」

私は笑顔で澪に答えた。



「あれ?皆さんどうしたんですか?入らないんですか?」
「しーっあずにゃん!今澪ちゃんとりっちゃんがいい感じなの!」
「うふふ、本当に仲良しなのねぇ…うふふふ…」
「なーにやってるの!さ!今日こそ放課後ティータイムよーー!」
元気なさわちゃんの声が轟く。私と澪が入口に視線を移すと、そこには何故か部員全員が揃っていた。
「ちょっ!さわちゃん先生空気読みなよ〜〜…」
唯の残念そうな言葉から鑑みるに、どうやら私と澪の会話を盗み聞きしていたとみた。ムギもどこか恍惚とした表情であらあら…☆なんて言ってやがるし、まったく悪趣味な奴らめ。まあ、私もよくやるが。
「うし!それじゃーみんな揃ったし…」
私は一呼吸置いて
「お茶にするか!」
いつもの台詞を口にした。
「律先輩…1日しか持たないやる気…まあ、昨日の先輩は何か変でしたし…」
「まあまあ梓、昨日なかった分、今日はお茶の時間も取ろうよ。」
澪の提案をそうですよね!なんて素直に受け取っている梓、だからどうして澪には素直なんだ。小一時間ほど問いつめてやりたい気分になったが
「でっでも、やっぱり律先輩は…その、元気な姿が似合ってますよ…」
なんて言われたからどうでもよくなった。

梓をどつきつつ澪を横目で盗み見ると、私たちのやり取りをムギと一緒になって微笑んでいる。


さっきの“一言”もあってか、その姿がとても愛おしく思えた。




梓の頭をうりうりとしている律はすっかり元通りで安心だ。ちなみにあの時のことは、私の心にしまいこんでいる。別に律に言っても構わないのだが、こいつの性格上あのような場面を見られていたと知るや否や、きっとどこかの川に飛び込む勢いで逃げ出すであろう。
「それじゃ、お茶の準備ね!今日はティラミス持ってきたの!」
「ほお〜。ティラミスだよりっちゃん!」
「うっはーーー!すっげーうまそう!!」
「一日待った甲斐があったわ〜。私ミルクティーね〜!」
ムギの持ってきた特製ティラミスに三者三様の反応。いつもの放課後が今日も始まる。
「あれ?澪先輩の短冊が一つないです。」
私の短冊が1つないことに目ざとく梓が気付いた。続く形で唯が
「ほんとだー」
なんて言いながら、あたりをきょろきょろ見回っている。どこかに落ちてないか探してくれているのだろうか。
「まあ、私とネタかぶってたから消えてくれてありがたいけどねっ!」
と、酷いことを律に言われたが全く怒る気にはならない。
「律先輩の似合わないお願いがなくなればよかったのに…」
なんて梓に冗談言われちゃってるしな。

また梓にちょっかいを出している律を眺めながら、私は鞄の中に仕舞った短冊に手を当てた。その短冊は、


“みんな”


の部分に斜線が引かれ、こう改められている。



“律とずっと仲良くできますように”



いつか、律に面と向かって言える日が来るまで、この短冊は私だけの秘密にしておこう。


織姫様、彦星様…今度のお願いは、きっと叶いますよね・・・?




fin


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