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それは、突然の質問だった。

−律先輩は…人を好きになったことって、ありますか?−


『恋する気持ち』



それは、7月ももう終わろうかというある日の午後のこと。
夏休みの宿題なんて、当然全くもって手につけていない私は、
暇な時間を有効に利用する為、スティックを鞄に詰め込んで学校へと向かった。
蛇足だが、宿題は8月の最終週に澪に泣きつくのが毎年のパターンだ。
駅前のガトーショコラ代くらいの出費、宿題の為なら厭わない。…っと、話がずれてるな。


音楽室へと足を運んでいる間中、ずっと聞こえてきていたギターの音で
そこに先客がいることは分かっていた。
流石、練習熱心な奴だな。せっかくだから、差し入れでも買って行ってやるか。
そう考えた私は、一度踵を返し、食堂の横にある自動販売機でジュースを二本買い、
音楽室へと向かった。


「よっ、梓。頑張ってるな。」
「律先輩…自主練ですか?珍しいですね。」
「おっと、いきなり手厳しいな…私は家にドラムセット置いてないし、
 夏休みの間はよく学校に叩きに来てるんだぜ?そういう梓こそ、別に家でも
 練習できるじゃん。なんでわざわざ学校へ…?」
「それは、…何となく、です。」
「そっか。ほら、ジュース買ってきてやったぞ。」

そう言って、私は梓が使ってるアンプの上に、さっき買って来たジュースを置いてやる。

「あ、ありがとうございます。」
「ちょっと休憩したらさ、2人しかいないけど、合わせてみようぜ。
 『私の恋はホッチキス』のイントロ、ドラムからギターが入ってくる所合わせてみたかったんだ。」
「いいですね、やってみましょうか。」

〜♪〜

「ん、まあこんな感じだな。」
「そうですね、大分いい感じだと思います。…先輩、一度通してみませんか?」
「ん?2人でか?別にいいけど、2人じゃフルでやっても面白くないんじゃないかな。ボーカルもいないし…」
「私、歌ってみたいです。」
「ほえ?」
「な、何ですかそのリアクションは。私が歌っちゃおかしいですか!?」
「い、いやそういうわけじゃないんだけど…。そうだな、いっちょやってみるか。」


そうして、私と梓は、ギターとドラムだけの演奏を始めた。

♪〜何でなんだろう 気になる夜 キミへのこの思い 便箋にね 書いてみるよ〜

梓の声は、唯のようなふわふわした感じでも、澪のような力強い感じでもなく、
何というか、芯が通っていて透き通った、綺麗な声だった。

〜♪〜

「じゃーん、っと…。やっぱりこの曲はムギ先輩のピアノがないときっちり終わった感じがしないですね。」
「うん、…っていうか梓、歌上手いんだな。知らなかったよ。」
「そ、そんな事ないですよ。唯先輩の歌声は可愛らしいし、澪先輩はカッコいいし…。私なんか…」

口ぶりはただの謙遜、って感じでもない。気付いてないだけなのかな。それにしても…。
私は演奏前から抱いていた疑問を、梓にぶつけてみる事にした。

「何で急に、歌ってみたい、なんて言ったんだ?」
「…何となく、です。」
「そっか。」

何となく、なんて理由じゃないことだけは理解できた。分かりやすいヤツだ。
まあ、無理に詮索する必要もないか。そう考えた私は、飲みかけのジュースを手に取った。

「律先輩?」
「ん、どした?」

「律先輩は…人を好きになったことって、ありますか?」



「がぇほっ!!」
ジュースが入ってはいけないところに入った。

「だ、大丈夫ですか、先輩!?」
「げほっ、げほっ、だ、大丈夫。…ふー。きゅ、急にどうしたんだ、梓。」
「…。」
「梓、…もしかして、好きな人が出来たのか?」
「ち、違います!ただ…。」


しばしの沈黙。梓の気持ちを考えて、からかいたくなる気持ちを必死に抑える。


「クラスの友達に、相談されたんです。好きな人が出来たって。その子の中学時代の友達の、
 高校に入ってからの友達で、そのつながりで紹介されたらしいんですけど…、
 私、今まで人を好きになったことがなくって、だから、聞いてあげても何も言ってあげられないし、
 むしろ、その人のどんなところが好きか、なんて嬉しそうに語ってるその子を見てるとうらやましくなっちゃって…」

梓の声が、少しだけ涙声になってる、気がした。

「この歌って、澪先輩が詞を書いたんですよね?この曲を聴いていると、誰かを好きになるって
 こういうことなのかな、って思って、それで歌ってみたくなったんです。」

ふと、梓が用意していた譜面台を見ると、『私の恋はホッチキス』のコード譜が書かれたノートが
しっかり折り目がついた状態で開かれている。
梓が今日学校に来たのは、この曲を歌ってみたかったから、なんだろうか。

「澪先輩、どんなことを考えながら、この詞を書いたんでしょうか。澪先輩も、誰かを好きになったことが
 あるんでしょうか。やっぱり、高校生にもなって、人を好きになったことがないなんて、おかしいですかね…」

「私もないよ。」

梓の声をさえぎるように、少し大きな声で私は言った。

「それに、澪もないと思う。この曲は、恋をする女の子の気持ちを想像して書いた、って言ってたし、
 あいつが誰かに片思いしたら、私には絶対相談してくるはずだからさ。…たぶん。」
「澪先輩は、絶対律先輩に相談しますよ。」

自分の台詞に少し不安を覚えたが、梓が太鼓判を押してくれた。

「…だよな。で、話は戻るけど、私もまだ、本気で人を好きになったことってないんだよね。」
「律先輩も…ですか。」
「うん。…私の周りにもさ、誰かを好きになった、とか、彼氏が出来た、って言ってるヤツはいるよ。
 でも、それを聴いてる今の私は、それが全く別の世界の話のように聞こえるんだ。
 何だろう、例えば、UFOを見た!、とか、ツチノコを捕まえた!とか、そんな感じ。」

ちょっとおちゃらけた例えを出してみたけど、梓は黙って聞いている。

「私は、そいつらの『恋する気持ち』っていうのを、まだ半信半疑で聴いてる自分がいるって分かってる。
 それこそ、UFOを見た!って言ってるヤツを見るのと同じようにね。
 でも、その気持ちと一緒に、私もいつか見ることが出来るのかな、って思ったりもするんだ。
 だけど、今すぐに見たい、どうしても捕まえたい、とは、今は思わないんだよね。
 それは、今の軽音部の連中との付き合いや、学校生活が楽しくて、それを見なくても
 私の高校生活が充実してるから、なんじゃないかな、って、思うんだ。」

そこまで話して、ジュースを口に運び、梓に聞いてみた。

「梓は、今の生活、楽しい?」

少しの沈黙のあと、期待通りの答えが返ってきた。

「…楽しい、です。先輩方との練習は毎回上手くいくわけじゃないけど、ピッタリ会えば気持ちいいし、
 その前のお茶の時間だって、最近は悪くないな、って思ってきたし。」

「だったら、無理にUFOを見ようと躍起になる必要はないんじゃない?
 別に高校生のうちに恋をしなきゃいけない、なんて決まりがあるわけじゃないんだし。
 梓の人生なんだから、他のヤツらに合わせて考える必要なんかないんだよ。
 …なーんて、高2の分際で人生なんか語ったってしょうがないけどね。」


梓に笑顔が戻った。


「ふふっ、確かにそうですよね。」
「だろ、焦る必要なんてないんだよ。」
「ありがとうございます。で、一番肝心なところなんですけど…」

次の言葉が読めた。澪の言うとおり、私は超能力者なのかもしれない。

「「この話、内緒にしておいてくれますか?」」

決まった、見事なユニゾン。
梓の顔が、みるみるうちに真っ赤になっていくのを見て、私は口角が上がっていくのを
抑えられなかった。


「や、やっぱり律先輩に言うんじゃなかったー!」
「そ、そんなこと言うなよー。ちゃんと内緒にしといてやるって。」
「ほ、ホントですか…?」

「もちろん、梓の結婚式で、友人代表のスピーチをするときまではな。」

尻尾を踏まれた猫みたいに騒ぎながら追いかけてくる梓から逃げ回りながら、
真っ白のウエディングドレスを着て顔を真っ赤にしている梓を想像して、やっぱりニヤニヤが止まらなかった。




おしまいー。

出展
【けいおん!】田井中律は向日葵可愛い59【ドラム】

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  • これでグッスリ寝れそうだ -- (聡の後輩) 2011-01-30 02:19:45
  • はぁー律梓は落ち着くなぁー -- (名無しさん) 2010-12-08 22:20:32
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