SS > 短編-俺律 > 太陽のKiss


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夏がやってきた。

「今度みんなで海に行こうよ!」

突然の出来事だった。
クラスでも仲の良い女の子グループからの誘い。
普段の僕なら、夏は家の中で暇を持て余しているほどの出不精なのだが、
周りの男友達も一緒について行くというので、それほど抵抗感は無かった。

だが、そんな僕にも一つ気がかりな事があった。

"田井中律"だ。

彼女との出会いは小学5年生になった時の春。
この街に移り住み、右も左も解らず友達も出来なかった僕に
初めて声をかけてきた女の子だった。屈託のない無邪気な笑顔を見せながら・・・

快活で明るい性格が取り柄の彼女だが、
時折見せる男の子のような行動に僕はしばしば振り回されていた。

鳩尾−みぞおち−への右ストレート
挨拶代わりと言わんばかりの羽交い絞め
時には急所に膝蹴りをもらってしまった事も・・・

しかしそんな彼女も、僕以外の男子にそこまでのスキンシップを取る事は無い様子だった。

人見知りで、どちらかと言えばコミュニケーションが上手ではない僕にとってみれば
ちょっとした快感・・・いや、面白みの無かった人生を彩るスパイスである事に他ならなかった。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
当日の朝。
"家が近所だから"という理由で僕は田井中と一緒に最寄り駅まで向かう事になった。

「今日は思いっきり楽しもうな!」
彼女はいつもと変わらぬ笑顔で僕に話しかけてくれた。

駅の改札口近くでは、今日1日を共にするメンバーが顔を揃えていた。

「2人とも遅いよ〜。あれ?そういえば・・・今日も2人一緒だね?」
到着が一番遅かった僕ら2人を見て平沢が茶化す。

「言われてみればそうだなぁ・・・お、お前達、もしかして・・・?」
満更でもない表情で秋山さんがこちらを見て苦笑する。

「うふふっ」
私たちは解っていますよ・・・と言わんばかりの微笑みを返す琴吹さん。

僕は顔から火が出そうなくらい恥ずかしかった。逃げ出したいと思った・・・


電車を数時間ほど乗り継いだ後、海水浴場に到着した。
山間の田舎町で生まれ育った僕にとって、一面に広がる青々とした景色はまるで別世界のようだった。

「いやっほ〜い!遊ぶぞ〜!」
田井中は開口一番、待ってましたとばかりに着替え始め海へと走っていった。
彼女に続くかのように、他の女の子達3人も子供のようにはしゃぎ回った。

初めて見る彼女の水着姿だったが、今までの田井中律とは違う別人のような輝きを放つ姿に、
僕は次第に目を奪われていった。シンデレラが白馬の王子様に恋をするかの如く・・・
どんどん彼女の魅力に引き込まれていった。

「ふう・・・疲れたなぁ」
秋山さんが僕の隣に腰をおろした。秋山さんは田井中とは幼少期からの幼馴染で付き合いは長い。

「今日は誘ってくれてありがとうね」
僕は秋山さんに言った。

「ううん、言いだしっぺは律だよ」
彼女はそう返した。

「律ったら"高校最後の夏だ!"とか張り切っちゃって、今まで遊んでた男の子達も誘おうって言ってさ。
ほら、高校卒業しちゃったらこんな風にして遊べる機会だって無くなっちゃうだろ?」
そう言うと秋山さんは優しく微笑み、田井中たちがいる方向へ戻っていった。

何故だか、物悲しい気持ちになった。
これが田井中の優しい心配りに対してのものなのか。
こうして皆と過ごせる日々が少なくなっているからなのか。
それとも・・・また別の感情から湧きあがってくる"何か"なのだろうか。

ただ、僕の心は締め付けられていくばかりだった。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
帰り道。他の皆とは別れ、僕は朝と同様に田井中と共に帰路につく事にした。
しかし遊び疲れたせいなのか、田井中は帰りの車中からずっと眠ってばかりいた。
そんな彼女を僕はおんぶしながら家路を歩く事になった。空に浮かぶ夕日が綺麗だった。

(ゆっくりできる所・・・この辺に公園があったはずなんだけど・・・)
夢の中で幸せそうな顔を浮かべる彼女を起こさぬように、僕は一休みできそうな場所を探した。

小さな公園に辿り着いた。ここは一度、僕と田井中が夢を語り合った場所でもあった。
すると、彼女が大きな欠伸をしながら目を覚ました。

「ふわあぁ〜んん・・・あれれ、みんなは?」
「とっくに別れたよ。俺たちだけ別方向じゃないか」
「ええ!?ちょっと、な、なんで私を起こさないんだよお・・・」
「あのなあ・・・あんなにグースカ寝てる奴を叩き起こせるわけないだろ」

いつもの田井中がそこにはいた。昼間に見たあの時の美少女は一体なんだったのか。

「今日はありがとうな。俺たちのために・・・」
ぶっきら棒ながらも僕は呟くように彼女に礼を言った。

「えっ、ちょっ、どうしたんだよ。いきなり改まっちゃって・・・」
「秋山さんから色々聞いたよ。本当にみんなの事を考えながら頑張ってるんだってな」
「(うぐっ、澪のやつぅ・・・)ま、まあなっ!一応、これでも軽音部の部長だし・・・ハハッ!」

そんな彼女の照れ隠しが堪らなく愛おしかった。
すると僕は、昼間に秋山さんから聞かされたある噂話の事を思い出した。

「実際のところ、律とお前はどんな関係なんだ・・・?付き・・・合ってるとか・・・
ほ、ほら!唯もムギも・・・皆で噂してるぞ?お似合いのカップルがどうとか・・・」

その時は話の内容以上に、頬を赤らめていた秋山さんの方が気になって仕方が無かった。
しかし、僕自身田井中とは気の合う女友達という感覚でしかなく
今までそんな風に思われていた事など知る由もなかったのだったが・・・

いざ第三者の口から言われてしまうと、余計に意識せざるを得なくなってしまったのだ。

胸がキリキリと痛む。昼間と同じ感覚だ・・・

「な、なあ・・・?」
田井中が僕に目を向けた。
「今好きな女の子って、い、いるか・・・?」

僕は頭の中が真っ白になった。今にも胸が張り裂けそうだった。
辛い・・・苦しい・・・僕は黙り込んでしまった。

「お、おい!大丈夫か?顔色が悪い・・・」
「んああ、俺はクラスの女の子はみんな大好きさ!・・・ははは」

情けなかった。生まれて初めて自分の心の弱さを悔やんだ。
こんな僕にでも、彼女はいつも真剣に向き合ってくれたというのに。
自分の気持ちさえ素直に伝えることの出来ない、こんな臆病な僕に・・・

「なんだそりゃ・・・そっか、お前らしいなっ」
彼女は微笑みながら、そう言った。
安堵感と罪悪感が僕の心の中で錯綜していた。

「あ、そうそう・・・」
彼女はポケットの中からチケットを取り出した。

「今度の日曜日にライブハウスで演奏する事になったんだ。良かったら観に来てくれよ!」
「おう!行く!絶対に行くよ!楽しみにしてるぜ」
「へへっ、そう言われると頑張るしかないなぁ〜。明日からまた練習だ!」

あの時の、僕に初めて話しかけてくれた時と変わらぬ笑顔が、そこにはあった。

「そろそろ帰ろっか・・・」

いつもと変わらない、そんな有り触れた日常が何故だか愛おしく思えた。
彼女と2人だけで過ごす時間が、一日でも長く続けばいいのに。

夕やけ色に染まる空が僕たちを包み込んでいるようだった。


『君がいた夏』に続きます


出展
【けいおん!】田井中律は焼き餅可愛い60【ドラム】

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  • キャベツキャベツ -- (アクティブ) 2012-02-14 09:46:28
  • •キャベツキャベツ -- (名無しさん) 2011-11-25 00:20:34
  • ひきついでやる・・ -- (名無しさん) 2011-11-25 00:20:11
  • キャベツキャベツ -- (h) 2011-07-06 21:11:34
  • キャベツキャベツ -- (やみ) 2011-03-10 23:32:12
  • キャベツキャベツ -- (聡の後輩) 2010-12-29 23:36:58
  • キャベツキャベツ -- (名無しさん) 2010-09-11 09:17:04
  • キャベツキャベツ -- (名無しさん) 2010-08-17 17:08:26
  • キャベツキャベツ -- (名無しさん) 2010-07-13 01:22:50
  • キャベツ -- (名無しさん) 2010-07-13 01:22:19
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