律「やっぱ軽音部は最高だぜ!」 第3章

「――澪!!」

澪(――・・・!!この声――!!)
澪「律!!」

悲鳴にも似た声で、澪は叫ぶ。その視線の先に、肩で息をする律がいた。
律は男達に囲まれた、服装の乱れている澪を見て、歯を軋ませた。

律「澪・・・。お前等!澪から離れろ!!」
先生B「・・・・・・」
男A「何だ、お前?お前も遊んで欲しいのかよ?あぁ!?」
男B「はは!笑わせんな!この娘と比べたらガキじゃねぇか!!」
男C「特に胸とかなww」
男A「まぁ、顔は悪くないし、別に遊んでやっても良いんだぜ?w」

下品な笑い声を上げる男達を睨み、律は傍にあった鉄パイプを握って構えた。
一瞬にして静まる廃工場。

律「澪から、離れろ」

そう言った彼女の声は、鉄パイプを握る手と同様に震えていた。


そのころ、唯は。

唯「憂~、お腹すいた~」
憂「はいはい。もうすぐ晩御飯出来るから。今日はね、カレーだよ♪」
唯「やった~!憂の作るカレーおいしいから大好き!」

机にもたれかかって、テレビのチャンネルを変える。
ちょうど映ったニュース番組で、不審者に襲われた被害者の報道が行われていた。

唯「・・・・・・」

何気なく、窓の外を見る。

唯「澪ちゃん、大丈夫かな・・・」
唯(りっちゃんが付いてるから、大丈夫だよね)

律『・・・へ?あ、あぁ。そうだな』
律『そんときは私が澪を守る!』

唯「・・・・・・」


唯(りっちゃん、あんまり態度には見せなかったけど、凄く澪ちゃんのこと心配してたな・・・)
唯(友達思いだもんね、りっちゃん。それに、澪ちゃんは幼なじみの親友だし)
唯(・・・でも、そのせいで無茶しなきゃいいんだけど)

急に不安になってきた唯は、チャンネルを別の物に変えた。

憂「――あっ!!」
唯「ぎゃっ!!」ビクッ
憂「えっ?」
唯「び、びっくりした・・・。おどかさないでよ憂~」
憂「こっちがびっくりしたよ・・・。――お姉ちゃん、お願いがあるんだけど」
唯「何?」
憂「カレールー切らしちゃってた☆買ってきてくれる?」
唯「任せなさい!」

びしっと敬礼一つ。唯は憂からお金をもらって玄関に走る。

唯「憂~」
憂「ん?」
唯「・・・おつりでアイス買ってきてもいい?」
憂「・・・;」


一方、紬は。

紬(だいぶ暗くなってきてわね・・・)

唯と同じように、窓から外を見る紬。

紬(でも、りっちゃんがいるから、澪ちゃん大丈夫よね)

ふいに、紬の頭に少し前の部活での会話が蘇ってきた。


律『澪はホント、昔っから恐がりでさ~』
澪『なっ何を!』
律『小学校の時なんか、放れた飼い犬に追い回されて、泣き叫んでたんだぜw』
唯『わぁ、澪ちゃんかわいい~』
澪『そ、そんな昔の話!』
律『今でも怖いんじゃないか~?ん?』
澪『律!!』ゴッ
律『あだっ!!』
紬『ウフフ。でも、その後はどうなったの?』
澪『・・・お、追いつかれそうになったとき、律が来てくれて・・・』
紬『まぁ。じゃあ、りっちゃんが追い払ってくれたの?』
律『ホント、目を離すとすーぐ厄介事に巻き込まれてるんだもん。その後もさー・・・』
澪『り~つ~・・・』ギロリ
律『わーかったわーかった。これ以上殴られると、唯より悪い成績とっちまう』
唯『あはは~wwそうだね~』
律『つっこめよオイ;』


紬(澪ちゃんにとって、りっちゃんは親友であり、素敵なヒーローでもあるのね・・・)

ふいにドアがノックされる音が聞こえ、紬は視線を部屋の中に戻した。

紬「はい」
紬父「入るぞ」
紬「お父様。珍しいわね、私の部屋に来るなんて」
紬父「母さんから澪ちゃんの話を聞いてな。大丈夫なのか?」
紬「今日、先生とそのことについて話してたわ。あの様子だと、学校で対策を練ってもらえそう」
紬父「そうか。困ったときはいつでも言うんだぞ。通学路に警備員を数メートルおきに配置して、万全の警戒をしこう」

真剣な面持ちの父に、紬は苦笑を浮かべて礼を言った。

紬(そっちの方が怖い・・・)


静かな工場内に、澪が泣きじゃくる声だけが響く。
律はずり落ちてきそうになったカチューシャを、乱暴に戻した。

先生A「田井中・・・何故ここに・・・」
律「――・・・!?A、先生・・・?」

見覚えのある顔に、律は激しく戸惑った。何故、何で彼がここにいる?

先生B「さて、私達の顔を見てしまったからには、お前もただで帰れると思うなよ。反省文じゃすまないぞ」
律「嘘・・・。な、何で先生達がこんな所に――」
先生B「わざわざお前がここに来ないようにするために、嘘の原稿まで書かせたっていうのに・・・」

嘘の原稿。その言葉を聞いて、律はハッとした。


律「じゃああの部活動紹介の原稿は・・・澪と私をバラバラにするための嘘だったんだな・・・!」
先生B「それだけじゃないぞ」

先生Bはポケットから取り出した物を律に見せつける。

律「・・・!私の、携帯!」
先生B「残念。浸水してもう動かない」

先生Bは律の携帯を地面に投げ捨てた。破壊音を立てて大地を転がる携帯を、男の一人が蹴り飛ばした。

男A「先生、何なんすかコイツ」
先生B「その女の昔っからの親友だよ。コイツは厄介だから気付かれずにいたかったんだがな・・・」
澪「律・・・ぐすっ・・・」


呼吸の荒い律を見て、先生Aは自分の顎を撫でながら口を開いた。

先生A「それにしても、よくここに気付いたなぁ・・・」

会話することで男達の手が止まっている。律はそのうちに何とか解決策を練ろうと、時間稼ぎに努めた。

律「・・・昨日、澪が帰ってから他の軽音部のみんなで、登下校路付近の怪しい場所をチェックして回ったんだよ」
澪「・・・!!」

そんなことは知らなかった澪は、驚いて顔を上げた。

律「その場所を探してたら、澪の声が聞こえてきたんだ・・・」
先生B「なるほど。素敵な思いやりだな。反吐が出る」

先生Bは、吐き捨てるように言うと、足を踏み出す。

律「――動くな!澪に・・・近づくな!!」


律(くっそ~・・・!!)

時間稼ぎは無理だ。
鉄パイプを握りしめて工場の中へと入っていく律。
先生Bは挑発めいた笑みを浮かべると、澪の顔に手をやり、自分の方を向かせた。

先生B「親友の前で犯るってのも、楽しそうだな。ん?」
澪「っ・・・」

澪の顔が恐怖に歪む。律の中で、何かが弾けた。

律「・・・ぅおおおりゃああああ!!」

律はがむしゃらになって、鉄パイプを振り回しながら駆けだした。
ドラムの経験上、腕力には自信がある。鉄パイプは相当な勢いで振るわれていた。

男C「ちょ、アブね!」


予想以上の抵抗に、男達は慌てて距離をとる。
律は即座に澪に駆け寄った。

澪「律ぅ!」
律「澪、ほら!今のうちに逃げなきゃ!」
澪「っ律を置いてなんていけない!」
男B「逃がしてたまるか!」

そうこうしているうちに、男の一人が突進してきた。
突き出された腕を、律は思い切り殴る。
バシッ

男B「いっつぁあああ!!」


飛び上がりそうな勢いで、男Bは他の男達の元へ戻っていく。
男達は気に喰わなさそうに顔を歪めているが、その顔から余裕の笑みが消えることはない。
それもそうだ。一人ずつを相手にするならまだマシだが、相手は大人の男が五人。こっちは女一人。しかも、澪を守りながらだ。
律は額を伝う冷や汗を拭うことも忘れて策を練った。

律(勢いで突入したはいいけど・・・どうにかして逃げないと・・・)

律は素早く辺りを見回した。他に武器になる物は――
古びた土台に高く積み上げられた何かの箱や、それに立て掛けられた鉄筋など、律が振り回すには無理がある物しかない。

律(うぅ・・・どうすりゃいいんだよ・・・!)

必死に考える律。だが、男達は思考時間を与えてくれない。


男A「おいおい、何やってくれんだ」
男C「へへ・・・でもよ、そっちがその気なら、お前をぶちのめしてから楽しんでやるよ!」

二人の男が同時に迫る。
律は慌てて澪の前に立って叫んだ。

律「澪、下がってて!」
澪「で、でも・・・」
律「早く!!」

向かってくる男達を睨んだまま律が怒鳴る。聞いたこと無いような、緊迫した声だった。
澪は慌てて這うようにして後ろに下がる。
その様子をちらりと瞳で追うと、律は男達を迎え撃った。


男C「うらぁ!!」
律「うおっとぉ!」

男の拳を何とか避けると同時に、鉄パイプを思いっきり振りかぶる。

律「お返しだこのやろ!!」
男C「げっ!?」

バットを振るかのように、律は鉄パイプをスイングする。それは男の足に乾いた音を立てて直撃した。

男C「いっつつつつ!!」
先生A「・・・意外とやりますね、アイツ」
先生B「・・・ふん」

怯む男Cにもう一撃加えようとしたところに、男Aが襲いかかった。
律は鉄パイプの軌道を男Aに向かって変える。


男A「うおっ!!」

慌てて足を止める男A。鉄パイプが腕を掠める。

男A「ちっ・・・このあまぁ!!」
律「うるせぇ!変態野郎!!」

律は鉄パイプを再びがむしゃらに振り回す。
男Aは近づくことが出来ず、後ずさった。が、
ガッ

男A「って!!」

足下が疎かだった男Aは、かかとが何かにぶつかって、尻餅をついた。
彼が蹴躓いたのは、澪のベースだった。


男A「――んだよこれ、邪魔なんだよ!!」
律「――・・・っ!」

立ち上がった男Aが足を振り上げる。律はそれを見て、反射的に駆けだした。

澪「り――」
ドガッ
律「う、あ・・・!」
澪「律ぅ!!」

男の蹴りが律の腹部を直撃し、澪が悲痛な声を上げた。
鉄パイプが手を離れ、カラン、と地面を転がった。

男A「なんだ、こいつ?ギターの代わりに蹴られに来たぞ」

ベースの上に覆い被さるようにして動かない律を見て、先生Aが笑みを浮かべた。


先生A「そうか・・・お友達の大事な大事なベースだからなぁ。壊されちゃ可哀想だよなぁ」
澪「――!!」
男A「はっは~ん、なるほど・・・ねぇっ!!」
ガスッ
律「っぐ!」

容赦ない蹴りが、律の体に痣を作る。水を得た魚のように、男Aは嬉しそうににやついた。

澪「はっ・・・はっ・・・」

咳き込む律を見て、澪は足が動かなかった。涙で目がにじみ、呼吸が荒くなる。
律は何度も襲い来る足を必死に耐えた。口内が切れ、血の味が口の中に広がる。

律「・・・けほっ」
男A「おいおい嬢ちゃん。制服が埃で汚れちゃってるぜ?」

律はただ黙って、乱れて垂れた前髪の間から男Aを睨み上げた。ベースは絶対に離さない。


男A「うっは、その目ぞくぞくするね」

律は脇に転がる鉄パイプに目をやった。他の男達はただにやにや笑って面白げに事の成り行きを見ている。

律「――っ!」

律は男Aの隙を突き、鉄パイプに手を伸ばそうとする。が、

男A「はい残念♪」

その右手を大きな足が勢いよく踏みつけた。

律「い、あああぁっ!!」
澪「嫌ああああぁ!!」

絞り出したような悲鳴が、律の口から飛び出す。そこに、澪の悲鳴が重なった。

男B「回収回収っと」

男Bが、傍にやって来て鉄パイプを手に取った。そのまま苦痛に歪む律の顔をのぞき込む。


男A「へっへ!楽しいなぁ・・・」

少しずつ、足にかける体重を増やしていく男A。律の手が、みしみしと軋む。

律「あ、う・・・」
律「っ・・・!」

歯を食いしばって、律は必死に悲鳴を飲み込む。情けない声は、あげたくない。
――澪が余計に不安になってしまう。

その様子を見た先生Bが、邪悪な顔でほくそ笑んだ。

先生B「そうそう。そいつ、ドラムやってるんだよ・・・」

それを聞いて、男Aが歯を剥いて笑った。

男A「へ~・・・。じゃあ、俺たちの邪魔をしたお仕置きに・・・」

男Aは律を見下ろして彼女に囁いた。

男A「二度とできなくしてやるよ、ドラム」


男Aが全体重を足にかけようとした刹那。

男C「あっ!」
澪「いやあああああああああぁ!!!」

悲鳴をあげながら、澪が男Aに体ごとぶつかった。
誰も予期していなかった出来事に、男Aは完全に隙を突かれた。

男A「おわっ!!?」

足が律の手から離れる。

男B「お前は大人しくしてろっての!」

男Bが澪を勢いよく突き飛ばす。足がもつれ、澪は吹っ飛んで転がった。

澪「っ!」
男B「そんな出てこなくても、あとでたーっぷりかわいがってやるから――」
男A「うおおぉ!!」

バランスを崩していた男Aの足を、さらに律が蹴った。
男Aは男Bを巻き込んで地面に頭を打ち付けた。


男A「いってぇ!!」
男B「っなにやってんだ!ガキ相手に!!」
男C「お、おい!おまえら!!」

男Cの怒声に顔を上げた二人が見たのは、男Bが落とした鉄パイプを再び握る律だった。

男B「ひっ」

殴られると思い、目を瞑る男B。しかし、律は澪に向かうわけでも、男達に向かうわけでもなく、見当違いの方向に走っていた。
積み上げられた箱に駆け寄る律。
先生Bがいち早く彼女の目的に気付いた。


先生B「お、おい!あの女を止めろ!!」
律「――・・・ぃやあああああぁ!!」

鉄パイプを思い切り振りあげ、律は箱を支える土台の腐っている所を思い切り殴りつけた。
ベキッ
その一撃で土台は壊れ、箱がぐらつく。

男A「やべぇ!!」
男B「ひやあああああぁ!!!」

男達が死にものぐるいで立ち上がり、走り出す。刹那。
箱は雪崩のように崩れ、よりかかっていた鉄筋が、耳障りな轟音を立てて倒れた。
地面にたまっていた埃が、凄い勢いで舞い上がり、全員の視界を奪う。


先生A「うえっほ!!げほっ!!」
先生B「ごほっ!!あの糞ガキ!!」
男C「み、見えねぇ!どこだ!?」

埃を吸わないように手を口に当て、澪は咳き込んだ。

澪(律・・・律、どこにいるの・・・!)

まさかあの鉄筋の下敷きに・・・。嫌な予感が脳裏を掠める。その時。
ガシッ

澪「ひ――」

何者かに力強く腕を掴まれ、澪は喉の奥から悲鳴を上げそうになった。
その口を、その人の手が押さえる。

律「・・・澪、大丈夫?」
澪(・・・――~~り、)
澪「律ぅ!!」


澪は律に無我夢中でしがみついた。
はずみで全身に走った鈍痛を顔に出さず、律は澪の頭を軽く叩く。

律「・・・えへへ・・・言っただろ?澪は、私が守ったげるって・・・」

掠れて弱々しい声だが、とても頼もしく聞こえる律の言葉。
澪は目頭が熱くなるのを感じた。

澪「ぐすっふぇっ」
男A「糞があ!!どこ行ったぁ!!」
律「・・・話は後にしよ?早く、ここから・・・逃げないと」

澪は言葉にならない返事を返して首を振り、律に支えられて立ち上がる。
そして二人は、埃が収まりつつある廃工場から駆けだした。


そのころ。

唯(スーパーまであとちょっと・・・)
唯(そういえば澪ちゃん、今家誰もいないから、あのスーパーでよくお総菜買って帰るんだっけ)
唯(・・・澪ちゃん大丈夫かな?)

唯は携帯を取り出すと、澪の携帯に電話をかけた。

唯(もう帰ってるよね・・・)

『――・・・この携帯は、電波の届かないところにあるか、電源が入っていないため、通話することが出来ません・・・――』

唯「・・・!?」
唯(澪ちゃん・・・?)

ドッと不安が押し寄せる。
唯は携帯をしまい、何も考えずに無我夢中になって駆けだした。
スーパーを通り過ぎ、澪がいつも登校する道のりを、見慣れた姿がないか必死に探し回る。


唯「そうだ、りっちゃん・・・!」

いくらか走ったところで、澪と一緒に帰っているはずの律を思い出し、唯は立ち止まって再び携帯を出した。
震える手で、律の携帯にダイヤルする。

唯(りっちゃん・・・!お願い、出てよ!!)

唯は携帯を耳にあて、必死に待った。だが・・・

唯(・・・?何で!?)

留守番の声はおろか、呼び出し音さえ鳴らない。
唯は涙ぐみながら、何度も律の携帯に電話しつつ、また走り出した。



憂「・・・お姉ちゃん、まだかなぁ・・・」

何も知らない憂は、何度目になるかわからない鍋のアク取りをしながら、姉の帰りを待ち続けた。


地面を蹴るたび、振動が体を走って痛みを呼び起こす。
律はそれを顔に出さないように耐えつつ、澪の腕を引いて走った。
澪は律が守り抜いたベースを抱え込むように持ったまま、泣きじゃくる。

澪「律!律っ!!」
律「・・・だから、泣かないの・・・。大丈夫、だから」
澪「でも・・・でも、血が出てる!」
律「私が大丈夫って言ってるから大丈夫なんだよ。ほら、走る走る」

男達の怒号が徐々に近づいてくるのがわかる。

「・・・逃げても無駄だ・・・・」「・・・大通りに出たらバイクがある・・・」

男達の会話が微かに耳に入ってくる。
律と澪はわざと細い路地を通ったりして、大通りを目指した。


二人が一列になって通れるような細い路地を抜けると、そこは大通りだった。
誰かに助けを求めようと辺りを見渡すが、人影は見あたらない。しかし――

律「やった!タクシーだ!!」

それよりも良い物を見つけた。すぐそばに、客を乗せていないタクシーが止まっていた。
律は急いでタクシーの戸を開けた。いきなりの出来事に、びくりとする運転手。

運転手「う、なんだ、お客さんか・・・」
律「澪、早く乗って!!」
澪「う、うん」

澪が乗るのを待って、律は後ろを振り返った。
足音が近い。奴らがすぐそこまで来ている。
これじゃあ、タクシーで逃げてもバイクで追いつかれるかも――

律「・・・・・・」


律は澪の上にベースを置くと戸を閉めた。

澪「・・・!?り、律!!何で!!」
運転手「お嬢ちゃん、乗らないのか?」

窓を開けて訊ねてくる運転手の顔を見ず、律は手短に言った。

律「出して下さい。彼女は近くに下ろさないで」
運転手「で、でもお友達泣いて――」
律「巻き込まれたくないなら出して!!」

運転手の言葉を遮り、律は怒鳴った。運転手が、驚いて小さく悲鳴を上げる。

運転手「ひ、ひぃっ」
澪「嫌!律!!何で!?律っ!!」


澪の悲痛な叫びが後ろから聞こえてくる。律は少し振り返って、澪に小さく笑いかけた。
それは恐れを無理矢理押さえ込んだ、とても弱々しい笑顔だった。


澪「律ううううううぅ!!」

タクシーが発進する。同時に律は痛みをおして駆けた。自分たちを追って、細い路地から出てこようとしていた男達の正面に、手を広げて立ち塞がる。

男A「っどけ!邪魔だ!!」
律「嫌!!」

男Aが律を蹴飛ばそうとする。それよりも早く、律は男Aの体にしがみついた。

男B「何してんだ!早くバイクに乗らねぇと、逃げられちまうぞ!!」
男A「だけどこいつが!しかも狭いんだよこの道!!」
男C「B!お前どけ!!」

比較的痩せた体型の男Cが間から強引に抜け出そうとする。
律はその男の足に、蹴りを入れた。つんのめって転ける男C。
彼が顔を上げたときには、タクシーは夜の闇の中に溶けてしまっていた。


男A「この・・・糞ガキ!!」

男が眉間に皺を刻み、懐へ手を入れる。取り出されたのは、スタンガン。
顔を上げた律はそれを目にし、慌てて距離を置こうとする。
しかしその前に、彼女の体にその凶器が押しつけられた。

律「うああああああああっ!!」

一瞬閃光が走り、高圧の電流が律の体を走り抜ける。
あっという間に意識を狩られた律は、その場に膝から崩れ落ちた。





律「やっぱ軽音部は最高だぜ!」
http://takeshima.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1244894726/

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最終更新:2009年08月18日 23:13
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